Coolier - 新生・東方創想話

「交代日記」 パチュリー・ノーレッジ

2009/07/15 06:44:15
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 ※この作品は、同作者の『「交代日記」』シリーズのアリス→魔理沙の続きとなります。
  未読でも平気な様にしておりますが、気が向きましたらそちらもお読みください。









全てのきっかけは、小悪魔が持ってきた、珍しい日記帳だった。


「パチュリー様ー。これって何の本ですかー?」

図書館で本を読んでいた私に、小悪魔が持ってきたのは一冊の本。
というよりノート、といった方が相応しい装いの本。

「あちらの机の上にあったんですけど」

あっちと言えば、昼間に魔理沙が居た所だ。
あのネズミめ。毎度毎度、勝手に居座って本を持っていくんだからたまったもんじゃない。

となると、この本は魔理沙の忘れ物? ここの図書館では見慣れない本だから、きっとそうだ。
……ちょうどいい、たまには魔理沙から本の一冊でも奪ってやらないと気が済まない。

「その本はここに置いときなさい。貴方は仕事に戻っていいわよ」

はーい、と間延びした返事をしてぱたぱたと走り去る小悪魔。
まったく、もう少し悪魔らしくはできないのかしら。

「どれどれ、何を置いていったのかしらね」

ぱらぱら、とページを捲ってみる。
あら、これは日記……かしら? ……人形。

「ってこれアリスのじゃない!」

なんで魔理沙がアリスの日記を? まさか、そんなプライベートな物まで盗んでいるのかしら。
じゃぁこれはアリスに返すべきかしら。



…………。

「……ちょっとくらい良いわよね」

好奇心に負けて思わずぱらぱらとページを読み進める。なんだろう、所々に返事みたいなのが書いてある。
これは交換日記かしら。誰と? 魔理沙にしては字が違うし。

あら、書き手が代わった? これは魔理沙の字よね。

良く判らないわね……あれ、何かしらこの紙は。
えっと、手紙?


『 この日記帳は二冊で一冊の不思議な日記帳

  貴方が一冊を持ち、私が一冊を持つ

  貴方が書けば私の方にも同じことが
  私が書けば貴方の方にも同じことが

  貴方が書いた生活に、私が感想を返す
  貴方が書いた悩みに、私が答えを返す

  思わず微笑んでしまうような楽しいことでも
  早く忘れてしまいたい悲しい過去のお話でも
  有り触れたつまらない日常の些細なことでも

  貴方の事を少しでも知りたいから
  日記に文字が浮かぶ時を楽しみに待っています

     ~ いつまでも貴方を大切に想う 母より ~ 』



母より? アリスと魔理沙の母親?
まさかあの二人……なわけないわよね。いくらなんでも似てないし。


もう一冊にも同じ文字が浮かぶ日記帳なんて、興味深いわ。

ふむ……これは、複製と転送の魔術を応用かしら。
転送先は……えっ、幻想郷じゃない? あの二人、一体誰と交換日記をしてたのよ。

どうも日記の内容からすると、二人とももう日記を書く気はないだけど。

どういうこと? もしかしてわざとここに置いていった?
アリスに魔理沙と続いて、私にも続きを書けってことかしら。


……面白そうね。どうせ二人とも書く気は無いみたいだから、いいわよね。



『動かない大図書館』と呼ばれる私の力を見せてあげようじゃない。








なんて過信していた時期が私にもあったわ……。


『 8月6日  天気:図書館の壁

  午前、図書館で本を読んで過ごした。
  正午、白黒のネズミが進入してきたが、無視してやった。
  午後、図書館で本を読んで過ごした。
  夜中、小悪魔がこの日記帳を持ってきた。
  これを書いたら、本を読んで寝よう。 』


………。

ど、どうかしら? 『動かない大図書館』と呼ばれる私の行動力は。

仕方ないでしょう。本当のことなんだから。
それに、私は読むのが専門であって書くのは得意じゃないのよ!


それにしても、この返事は……。

『  もう少しがんばりましょう。  』

赤ペンで書かれた文字と、ただのマル。
ちなみに、アリスの書いた部分には花マルがついている。

……悔しい。本に関することで負けるなんて。
こうなったらもっと面白い話を書いて……。

とは思ったものの、私の生活なんていつもこんな感じ。

今日の予定はっと、図書館で本を読んで過ごす、お終い。
ダメよね、これじゃ昨日と同じ日記ができるだけだわ。

一体、何を書けばいいのかしら。いっそ異変でも起こしてみる?
まさかね。あっさり巫女に叩かれて終わりだわ。



私はふと、日記に挟まっていた手紙を読んでみる。
生活の話でも、悩みの相談でも……、か。

「悩みか……」


悩みなら、ある。

この日記の相手は誰なんだろう? 恐らくは私の知らない人。
もし……見知らぬ私が悩みを相談したら、答えてくれるだろうか?

もしかしたら、ちょうどいいのかも。
どうせ何を書いても、恐らく顔も知らない相手だ。

試してみる、価値はある。



ねぇ、この日記を読んでいる見知らぬ貴方。私の悩みに、答えてくれる?




◇ ◆ ◇




『 8月7日  天気:図書館の壁 』



まずは簡単に、私の住んでいる紅魔館についてから説明するべきかしら。
紅魔館とは、里から離れた、湖の畔に建っている、文字通り紅い壁をした館。

ここでは数多くの者が生活している。だがほとんどの者達は、あくまで雇われた形として。
私を除けば、純粋に紅魔館に住んでいるのはスカーレットの名を持つ吸血鬼のみとなる。


紅魔館の主人でもあるお嬢様、レミリア・スカーレット。
その幼い外見から想像もつかないほどに長い時を生きる吸血鬼。
正確なことまでは判らないが、『運命を操る程度の能力』を持っている。
私をこの紅魔館の地下図書館へ招いた張本人であり、私の唯一とも言える親友。

そして、この吸血鬼のお嬢様『たち』が、私の悩み……。

今も根付く悩みの種となるのは遠い昔、私がまだ紅魔館に居なかったときの話。
これから書くのは、一度だけレミィから聞いた話に基づいているから、正確とは言えないかもしれない。



レミィはもう500年以上前に、この紅魔館に生まれ、育った。
生まれながらにして、類まれなる実力と運命を見る程度の能力を持った吸血鬼。

だが、吸血鬼とはいえ所詮は子供、レミィはまだ遊び盛りと言える歳。
その頃の紅魔館には子供と言えるような存在がおらず、幼いレミィは一人で過ごすことが多かった。


レミィが五歳になるころ、レミィに一人の妹が生まれる。それがフランドール・スカーレット。
一人ぼっちだったレミィは、妹ができることを喜んだ。純粋に遊び相手ができることが嬉しかったのだろう。

だが、そんな些細な期待は意外な形で裏切られてしまう……。
妹様は生まれて直ぐに、その時の当主に地下へ幽閉されてしまったのだ。

子供であるレミィに理由は聞かされず、ただ会わせられないと言うだけ。
まだ幼いレミィには当主に逆らうことはできない。ただ、泣き寝入りをするだけだった。

そのまま……妹に対する期待だけを秘めたまま時は無情にも流れていく。
姉はその想いを、妹はその身を閉じ込められたまま、歪んだ姉妹が始めて出会う時へと。


時が過ぎて、前の当主が死んでレミリア・スカーレットは紅魔館の当主になる。
レミィはまだ幼かったが、既に類まれなる実力とカリスマを兼ね備えていたために、当主になることに反論はなかったらしい。

そして、幼い当主が一番初めに行った仕事。それは妹様を地下から開放すること。

やっと妹に会える、という期待だけを胸にレミィは地下へと降りていった。
そして、妹様が幽閉されている部屋へ入ったレミィが見たのは……。


 薄暗く、何も無い簡素な部屋

 紅魔館の外壁よりも紅く染まった床

 そんな床よりも紅く光る、一対の眼


その眼の持ち主は、部屋の隅で蹲っているだけで何の反応も見せなかった。
子供らしく、感動の出会いを期待していたレミィは戸惑ってしまう。

だが、他に誰も居ない以上、その者が自分の妹であることは間違いない。
レミィは勇気を振り絞って話しかけた。


「初めまして、フラン。私は貴方のお姉様、レミリア・スカーレットよ」

その言葉に僅かに反応し、無機質な紅い眼がレミィに向けられる。

「……お姉様?」
「そうよ。貴方を閉じ込めていた人はもう居ないわ、これからは自由よ」


レミィの想像では、ここで終わりだった。妹は喜び、姉との感動の出会いを果たすはずだった。
けれど妹様は首をかしげるだけで、喜ぶそぶりも見せない。

「……じゆう? ナニそれ。よく、わかんない……」

ずっと閉じ込められていたのだから仕方ない、レミィはまだ気楽に考えていた。

「貴方はもう、何も我慢する必要はないの。好きにして良いってことよ」

「良く、判らないけど……。好きなことをしていいの?
 ……じゃぁ、お姉様。一緒に遊びましょうよ」

一緒に遊びたい、それはレミィも同じだった。
妹が生まれたときから、ずっと望んでいたこと。

「そうね、フラン。これからはたくさん遊びましょう。だから早く……」

――早ク あソびましょウよ オ姉様




レミィはここまで話をすると黙ってしまい、後のことは話そうとしなかった。

「私は、逃げ出したの……」

ただ、寂しそうにそう呟くだけだった。


私の推測では、戦闘となったのだろう。気が触れているとも情緒不安定とも言われている妹様。
破壊の力を持つ彼女にとっては、取り押さえようとする周りの者達との戦闘すら遊びみたいなもの。

今みたいにスペルカードルールも理性も無い純粋な闘い。

ずっと人と触れ合わず、手加減が効かない妹様と、その気すらないレミィでは勝負になるはずがない。
ましてや、妹様には「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」という洒落にならない力がある。


その時にレミィはもう、恐怖を覚えてしまった。そこから先は、同じことの繰り返し。
手に負えない妹様を地下へ閉じ込めて、それで終わり。

そのまま、500年近く経った今もその状況は変わっていない。
少なくとも、私がここへ来てから、二人が一緒にいる姿を見たことはなかった。


何度かレミィに妹様についての話をしてみたけど、すぐに話を逸らされてしまう。
妹様を見かけることはあっても、会話することはほとんど無かった。


ただ、絶対に言い切れることは、レミィが妹様を嫌いになったわけじゃない。
妹様の話をする時のレミィはとても寂しくて辛そうだから。

私は、そんなレミィを見ているのが嫌だった。こんな二人をなんとかしたい。
紅魔館という居場所をくれた親友に報いてあげたい。


ねぇ、この日記を読んでいる見知らぬ貴方。私はどうすればいいだろうか。
ずっと図書館に引きこもって、本から得た知識ばかりの私に何ができる。


――答えて、くれる?






微かな期待と、大きな不安を胸に、私は日記帳を閉じた。




◇ ◆ ◇







『 8月8日  天気:図書館の壁 』


その日、私は朝遅くに目を覚ました。
慣れない文章を書いていたら寝るのが遅くなってしまったようだ。

もう返事は来ているのだろうか?
私は期待と不安を胸に、日記帳を開いた。



『こんにちは、でいいかしら? 始めまして、図書館の住人さん。

 あなたの悩みについては読ませていただきました。
 お悩み相談第一号だからはりきって答えちゃいます。

 と言いたいところだけど。残念ながら私にはあなたの周りの事が全然わからないわ。
 そんな私に、気軽に答えは出せない。


 でも、それじゃせっかく相談してくれたのに悪いから。一つだけ私からのアドバイス。

 1人で悩まないこと。

 友達の悩みを解消しようと悩んでいる、そんなあなたと同じように考える友達もいるはずよ。
 一人で思いつめていないで、もっと近くの人に相談してごらんなさい。


 ねぇ、運命を操る程度の能力ってどういうものかしらね。
 今あなたがしていることも運命を変えることじゃないのかな? 』



…………。


返事はあった、でも答えは無し。まぁ見知らぬ人に期待するのが間違いか。

運命を変える? この人は何を言っているの。
そんな大それたことじゃない、私はただ……レミィの為に何かがしたい……。


それにしても友達、か。私のこんな相談に乗ってくれそうな友達なんてね。

真っ先に浮かぶのは親友のレミィ……もちろんダメ。
それができないから悩んでいるんじゃないか。

次は紅魔館のメイド長の咲夜。どちらかというとレミィ中心だからダメそうね。
門番長の美鈴……ダメね。

そもそも紅魔館の中の者達に相談するのが無理な話なのかしら。
当主はレミィであり、スカーレット姉妹ではない。妹様のことを悪い噂でしか知らない者も大半だろう。

となると紅魔館の外……。でも私はほとんど外へ出ないし。
私の知っているのは、この図書館に来る者達くらいだ。

一番に浮かぶのは、あの白黒ネズミ。もちろん相談相手としては却下だ。
博麗の巫女。たまに小説なんかを借りに来るが、異変でもない限り協力はしてくれないだろうな。

となると残るは――






「――と、言うわけなのよ」
「……え、何が?」

今私の目の前に座っているのは七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。
何が七色なのかイマイチ良く判らないが、とにかく私の数少ない友人……の魔法使いだ。

「私の話を聞いてなかったの? 全く、それでも魔法使いかしら」
「いや、その前に貴方なにも話してなかったじゃない?」

本から目を離してこちらを睨んでくるアリス。
そういえばまだ話してなかったわね。

ダメよ、アリス。魔法使いたる者、心の一つや二つ読めないようでは。

「無理言わないでよ。さとりじゃないのだから」

あら、読まれた?

「……さっきから口に出ているわよ」
「それはうかつだったわ。で、どうなのかしら?」
「だから、まだ何も話してないじゃない」

ダメよ、アリス。魔法使いたる者、心の――

「それはもういいわよ! 話があるなら話す、無いなら静かにしてくれる?」
「せっかちね。いいわ、そこまで言うなら話してあげるわよ」
「なんでそんなに偉そうなのよ……」

はぁ、と溜息をつきながら頭を抱えるアリス。

「大丈夫かしら? 鉄分でも足りてないんじゃなくて?」
「どちらかと言うとカルシウムかしらね。で、話す気はあるの?」

「実は……、かくかくしかじか……まるまるウマウマ……って訳なのよ」
「なるほどね、まさか門番の美鈴がそんな破廉恥なことをするとは驚きだわ」

よし、大体伝わった。

「それで、どうすればいいかとアリスに相談してるのよ」
「……相談に乗って欲しければ、一からちゃんと話しなさい」

仕方ない、正直に話すとしよう……。覚悟を決めなさい、私。


「実はね――






…………。

このことを誰かに話すのは初めてだ。一体、どうなるのだろう……。
アリスは何も言わずに静かに聴いていた。

アリス自身はレミィとはたいした付き合いも無いはず。せいぜい挨拶くらいだろう。
妹様とは……会ったこともないと思う。


「……で?」

アリスが私の方を向いて問いかけてきた。

「で、って言うと?」
「そんな話を私にしてどうするって言うのよ」
「いや、だから相談に乗ってもらおうと思って……」

「なんで私に? 私は図書館にはよく来るけど、紅魔館の内部のことなんて何も知らないわよ」
「それは判っているわ、でも他に相談できる人が……」

ダメだったのだろうか。日記の返事と同様に、何も答えは――

「貴方は、どうしたいの?」
「……え? それは、レミィと妹様が、仲良くなれればいいんじゃない」

それを聞くとアリスは溜息をついた。そして、また問いかけてくる。


「貴方は、どうすればいいと思う?」
「だから、レミィと……」
「そうじゃなくて。どうすれば、よ。仲良くするためには?」

それが判らないから苦労してるんじゃない。

「仲良くさせたければ、一緒に遊ばせれば?」
「そんなの……無理よ」
「何故?」
「さっき話した通りよ、レミィはまだ妹様を避けているし。妹様は情緒不安定な所が……」

二人を会わせたところで、下手をすれば昔の繰り返しだ。

「それならレミリアを説得すればいいじゃない? その妹さんを嫌いなわけじゃないのでしょう」
「無理よ……、私だって何度も話をしてみたわよ。けど、まだ早い、の一点張りよ」

「その子だってもう500年近く生きているのでしょう。もう大丈夫じゃない?」
「ダメよ……。ずっと地下に幽閉されて、普通に育っていた訳じゃないのよ」

そう、あんな地下室に一人で閉じ込められていれば仕方がない。
地下室へ行くのは、せいぜい食事を運ぶ妖精メイド達だけ。それすらも、まともに帰らないことがある。

「育てる人もいなかったってわけ? 友達の一人くらいはいるのでしょう?」
「いるわけないじゃない。悪い噂だけが一人歩きして、誰も近づこうとすらしないわ」


不意にアリスが語気を強くして、問いかけてくる。

「――貴方が、なれば? そこまで言えるなら、貴方がその子の友達になりなさいよ。
 長く生きていてもまだ子供なのでしょう。それなら貴方が色々教えてあげればいいじゃない」

私が、友達に? それはそうだ、私だってそれは考えたこともある。
でも……

「……だって、怖いじゃない」

そうだ、私も周りの奴等と同じ。結局は妹様の力が怖いのだ。

「私は妖精たちとは違うのよ? 一度死んでしまえばそれまで」

真っ直ぐに私を見るアリスから、思わず視線を逸らしてしまう。
アリスは何も答えてはくれない。恐らく、呆れているのだろう。


「――最低ね」

アリスが呟く。なんで……。

「あれは駄目、これは無理、それは怖い。それで私に縋り付いて来たって訳?」

「仕方ないじゃない! レミィですら恐怖を覚えるほどなのよ? 私なんかに――」
「残念だわ、私はパチュリーのことを買い被っていたみたい」
「そうよ、私なんてこんなもの。だからこそ、貴方に相談してるんじゃない!」

「お生憎様ね。私はそんなお人よしじゃないわよ」
「……え」

不意にアリスは立ち上がり、背を向ける。

「待ってよ! 少しくらい――」
「黙りなさい。それ以上みっともない姿を見せないで」

そう冷たく言い放つと、そのまま扉に向かって行ってしまう。

「アリス! 待って!」

待って――


  バタン

アリスは振り返ることも無く、出ていった。




………。

――馬鹿みたい。なんて、みっともない。


「――パチュリー、様」
「あら、小悪魔。居たのね」
「はい、申し訳ありません」

「なんで、謝るのよ」
「いえ……。あの、パチュリー様――」
「悪いけど、一人にしてくれない?」

「……はい」

小悪魔は、寂しそうに顔を伏せると、何も言わずに行ってしまった。

「本当、みっともない」

アリスの言うとおりだ、私は自分では何もしようとせずに人に頼るだけ。

……ごめんね、レミィ。
私には、運命を変える力なんて無いみたい。


「こんなことなら、話すんじゃなかった……」

思わず机に突っ伏してしまう。


ふふ、泣くのなんて、いつ以来かしらね――









………。

……う……ん…。


「――あれ、ここは」

あぁ、そっか。図書館でそのまま寝てしまったのか。
体が痛い、なんだか眼のまわりも痛い気がする。

「やっと、お目覚めみたいね」
「え? ……アリ…ス?」
「寝ぼけているの? 友達の顔も判らないほどに」

なんで? さっき出て行ったはずじゃ。

「ほら、早く目を覚ましなさい。せっかくプレゼントを持ってきてあげたのに」
「でも貴方はさっき……」
「不甲斐ない友達にお灸を据えただけよ」

そんな……、そのせいで私がどんな思いをしたか。

「けどお生憎様、困っている友達を見捨てるほど私は薄情じゃないのよ」
「アリス……」

ずるい。

「ほらほら、みっともない顔しないの。はい、これ」


 トン トン

とアリスが取り出したのは、二体の人形。
片方は女の子らしく髪が長く、もう片方は男の子っぽく髪の短い人形。

「何よ、これ」
「知らないの? お人形よ」

そんなこと見れば判る。まさか妹様とお人形遊びでも、とは言わないわよね。

「これで妹さんとおままごとでもしなさい」

言ったし。

「ふざけないでよ! まさか本気でそんなこと――」
「はいはい、冗談よ。いい子だから落ち着きなさい」

くっ、この私を子供扱いだなんて……。貴方よりはずっと年上なのよ。

「ほら、せっかくいい物を持ってきたのだから、感謝しなさいよ」
「何よ、ただの人形じゃない」

どうみても人形よね……。
アリスの頭に乗ってる上海人形みたいに動いてもいないし。

「ま、話すより試したほうが早いわ。こっちの髪の長い方の人形に魔力を通してみなさい」
「人形に魔力を?」

まさか私でも操れる人形とかじゃないわよね……。

軽い魔力でいいのかしら。取りあえずやってみるとしよう。
人形の頭に手を乗せ、水を流すようなイメージで魔力を……


「きゃっ」

くい、と体が引っ張られるような感覚。思わず目を閉じてしまう。

なに、今の。え!?


気づけば、目の前には紫色の服を着たもやし娘……もとい、美少女。
何これ!? 何で私の姿が見えるの?

「成功したみたいね。気分はどう?」

アリスが私を見下ろしながら話しかけてくる。
なんでアリスがあんなに大きいのよ……。

「ど…う、じゃ……無い…わよ。何……なの……よこれ…は」
「もう喋れるの? さすがパチュリーね」

おかしい。なんだか上手く喋れない。

「貴方の視界と声は今、もう一体の人形に同調しているわ。自分の姿が見えるでしょう?」

なるほど、確かに人形に手を乗せたままの私が見える。

「……ええ、確か…にそう…みたい…ね……」
「あら、落ち着いてるのね。もっと慌てる姿を見たかったのに」

この性悪魔女が。きっと次は私をお人形扱いしてくるだろう。
どうすれば戻れるのかしら。魔力を遮断すれば――

「あ、元に戻ったわ」
「残念、せっかく抱きしめてあげようと思ったのに」

……何を考えているのよ。

「魔力を通すだけでも難しいと思ったのに、さすがね」
「何言ってるのよ、これくらい余裕よ」

内心の動揺を悟られない様に、冷静に答える。

「あら、私くらいになると、この人形を動かす事だってできるのよ?」

ふん、貴方はいつも人形と話ばっかりしているから気が合うのよ。

「……声に出ているわよ」
「あら、失礼。で、この人形が何なのよ?」
「判らないかしら? 妹さんが怖いって言う貴方の為に身代わりを用意してあげたのよ」

身代わり? あぁ、なるほど。

「これなら直接対面しなくても話ができるってことかしら」
「頭の回転だけは早いわね。その通りよ」

だけ、は余計だ。

「でも、こんなので良いの? それなら直接会ってあげたほうが……」
「貴方が怖いって言ったんじゃない。それに、こっちのほうがいいのよ。
 妹さんは、永く一人で居すぎた、いっそ人形相手の方が話し易いと思うの」

「どういうことかしら」
「話を聞いた限りでは妹さんは、精神的には成長していない。
 今レミリアと会わせても、昔の二の舞だわ。だから――」

アリスは人形を指差しながら続ける。

「この子を使って、教えてあげるのよ。母親が子供にするように、友達同士が教えあうように」
「………」


母親が子供にするように……。
確かにそう、妹様に接する相手なんて誰もいなかった。

そっか、まずはそこからか。そうよね、今更あせる必要なんてない。
ゆっくりでも進むべきなのかも知れない。

アリスなら里の人形劇で、子供の相手にも慣れている。きっと大丈夫だろう。


「問題はどうやって妹さんに人形を渡すかよね……」
「それなら平気、妹様はたまに本を借りに図書館へ来るから。その時に渡せばいい」

「え、来るの? 地下室から一歩も出ないんじゃないの?」
「そんなこと無いわよ、と言っても最近はだけど」

「……呆れたわね。その時に話でもなんでもすればいいじゃない」
「そんな簡単に言わないでよ。妹様は直ぐに帰ってしまうわ、挨拶があればマシなほう。
 それに、ここに来るのは、気分が落ち着いている時だけよ」

「ふ~ん、まぁいいわ。ちなみに妹さんはどんな本を借りていくの?」
「童話とか、絵本とかが多いわね……。魔道書とか学術書は、たまにしか借りないわね」
「本当に子供と同じってわけね。そういう物語を話してあげるのもいいわね」

早速、話すことを考えているみたいだ。
いつもは憎らしい人形遣いが、今日は頼もしく見える。

……有難う、アリス。



「それじゃ、さっそく練習しましょうか」

……?

「せめて会話だけでも流暢にできないと、話にならないわ」

何を言っているのだろう?
アリスなら人形を動かすのもお手の物でしょう。

「いつも本を借りているお礼って事で、人形はただでプレゼントするわ」

プレゼント? あぁ、妹様にってこと?

「どうせなら話し方も変えましょうよ。ふふふ、パチュリーが演技だなんて楽しみだわ」

……え?

「あら、どうしたのパチュリー」

……もしかして

「呆けてないで、やる気を出しなさいよ」

「私が、……やるの?」
「当たり前じゃない。頑張ってね、お人形さん」


「――ええぇぇっっ!?」

私のその叫びは、紅魔館中に響き渡り。居眠りをしていた門番は飛び起きたという。

そして私は、大いに咳き込んだ。





◇ ◆ ◇ 





『 8月11日  天気:図書館の壁 』


ついにその日が、妹様に人形を渡す時が訪れた。

人形を渡されてから三日間、アリスは私にスパルタ教育を施した。
その間の日記を書かないことを見逃して欲しい。思い出したくもない。
決して、人形の私にすりすりしたり、着せ替えをしたりなんてしていない。

アリスは、それじゃ頑張ってね、と気軽に言って帰ってしまった。
あぁ、なんて薄情な友達なんだろう。


結局、人形を動かせるようにはならなかった。
それでもなんとか、違和感無く喋れるほどには上達したが……。
なんでこんな人形を同時に何体も動かせるのか、不思議なほどだ。


……アリスは帰り際に、気になることを言っていた。

「ねぇ、運命を操る程度の能力ってどういうものかしらね。
 貴方がしていることも運命を変えることじゃないのかな?」

日記帳に書かれていたのと同じ言葉。まさかアリスが日記の返事を?
でも、そうは見えなかったけど。一体なんで……。




夕食も終わり、館が眠り始める遅い時間。妹様は図書館にやってきた。
さすがに吸血鬼だけあって、主な活動時間は夜のようだ。

「おはよう、パチュリー」
「今晩は、妹様」

珍しい、妹様から声をかけてくるなんて。これは幸先が良い。

姉とは全然違うその姿。ううん、背格好は似ている、けれど姉と違い髪は金髪。
何よりも特徴的なのはその翼。空を飛ぶためとは思えない、宝石のような翼。


妹様は挨拶だけすると、前に借りていた本を置いて本棚の方へ行ってしまった。
戻ってきた時が勝負だ……。今日渡せなければ次がいつになるか判らない。

って、もう戻ってきた。待って、まだ心の準備が……。

「これ、借りてくわね」

手に持っているのは三冊の本、割と適当に選んだ感じね。
妹様にはちょっと難しい本も混じっている。

私の返事を聞かずに妹様は図書館から出て行こうとする。

――よし、いくわよ。

「ちょっと待ちなさい」
「……なに?」

私はアリスから貰った人形の片方を机の上にトン、と置いた。

「これを持っていきなさい」
「……なに、これ?」
「知らないの? 人形よ」
「そんなの見ればわかるよ」

首をかしげて、むっとした反応を見せる。まぁ当然の反応よね。

「貴方に、プレゼントよ」
「……え?」

反射的に私の方を見上げてくる妹様。
まずはここがポイント。人形を受け取ってもらえなければ話にならない。

「…………」

おかしい、反応が無い。気に入らなかったのかしら。

「わたしに、プレゼント……」
「そうよ、どうかしたの?」

妹様は、私と人形を交互に見比べている。

「ねぇ、パチュリー……」
「なにかしら?」
「パチュリーは、わたしが怖くないの?」

妹様は不安そうな顔で聞いてくる。
どう答えればいい? まさか怖いと言う訳にはいかない。

「そんなこと、ないわよ」

――嘘を、ついた。本当は妹様の力が怖い。
けど、今の妹様は見た目どおり小さな子供で。

「……ありがとう、パチュリー」

その寂しそうな笑顔に、私の心がちくりと痛む。




そんな私の胸のうちを知らずに、妹様は人形を抱いて出て行った。

「さて、と……」

――さぁ、これからが本番だ。






くい、と体が引っ張られるような感覚。
それと同時に、私の意識は妹様の持つ人形に乗り移る。

 コツ コツ

誰も居ない静かな廊下に、妹様の歩く音だけが響く。
真っ直ぐに地下の自室へ向かっているみたい。


 キイィィィ バタン

誰にも会わないまま一人、部屋に入る。

部屋には、何も無い。簡素なベッドが一つだけ、窓も時計も箪笥も本棚も机すら無い。
……理由は簡単、妹様が壊してしまうから。

こんな所で過ごしてきたのだろうか、こんな何も無い部屋で500年近くの時を一人で。
誰にも会わないまま、誰とも話さないまま。なんて寂しくて、孤独な生活……。

――大丈夫、今夜からは一人じゃないから。


部屋に入った後、人形の私はベッドの上の枕の横に置かれた。
妹様は私を置く前に一度、人形をぎゅっと抱きしめた。

残念ながら人形には感覚は無いため、温もりは伝わってこない。
けど、恐らく……。胸はレミィの負けね。

妹様はベッドに寝転んで仰向けになり、借りてきた本を読んでいる。


 パタン

「はぁ……」

不意に妹様が本を放り出して溜息をつく。
それはそうだ、適当に選んだあの本は歴史を描いた難しい本。読むのは辛いだろう。

これはチャンスだ……。覚悟を決めろ、私。


「――おいおい、大事な本を投げ出さないでくれよ」
「え、誰!?」

がばっと起き上がり辺りを見渡す妹様。
そりゃ誰も居ない部屋で声が聞こえたら、驚くわよね。

「どっちを見てるんだい。こっちだよ、こっち」
「え……、あなた、人形?」

「そりゃそうだよ、キミにはボクが人形以外の何に見えるんだい?」
「いや、人形にしか見えないけど……」

アリスが考えた、人形の私が話す言葉遣い。
ひねくれた少年のような話し方。童話に出てきて、主人公を外へ連れ出す妖精のようなイメージ。

妹様を外の世界へ導こうという想いを込めて。


「そう見えるならボクは人形なんだろうさ」
「なんで……、なんであなたは話せるの? 人形なのに」

「ボクは特別製なのさ、魔法の森の人形遣いのね」
「魔法の森? あなたはそこからきたの?」
「そうさ、行ったことあるかい? 魔法の森に」

聞いてからしまった、と思う。答えは判りきっている、妹様は一度も外へ出たことが無い。

「……ないわ。森どころか、この館の外にすら」

案の定、寂しそうに答える妹様。話題を変えよう。

「ところでキミは誰だい? よければ名前を教えてくれよ」
「フランよ、フランドール・スカーレット」
「スカーレット? じゃあキミが有名なこの館の主人か」

私のその言葉に妹様は表情を曇らせる。
まずいまずい、役になりきる余りにダメな質問をしてしまった。

「違うわ、有名なのはわたしのお姉様。わたしはずっと地下にいるんだもの」
「ふーん。まぁいいや、ボクはキミに貰われたんだから、キミがボクのご主人様だ」
「……ご主人様?」

その言葉に妹様は笑い声をあげる。

「あはは。じゃぁ、あなたはわたしの家来ってわけね」
「そういうことになるのかな。じゃぁ、今後ともよろしく、我が麗しの姫君」

体が動かせたら大仰にお辞儀をしてみせるところなんだが……。
段々と話すのに慣れてきた。まずい、ちょっと楽しくなってきたわ。

「あなた、名前は?」
「ボクに名前は無いんだ」
「そうなんだ……、名前が無いなんて変わってるのね。それじゃ、あなたは今から家来一号よ」

いや、一号はないでしょう。ネーミングセンスの悪さは姉ゆずりかしら。

「ねぇ、あなた。せっかくだから遊びましょうよ」
「本は読まないのかい? せっかく借りてきたのに」
「もう飽きちゃった。なんだかむずかしいんだもの」

ま、ここで本当に本を読み始められても困るけどね。

「遊ぶのはいいけど、何をして遊ぶんだい?」
「弾幕ごっこ!!」

はい、予想通り。

「それはなかなか面白そうだね。けど生憎と、ボクは動けないんだ」
「えー。なんでよー? じゃぁ何ならできるの?」

「うーん。喋ることくらいかなぁ」
「えー、つまんないー」

いいのよ、喋るのが目的なんだから。

「じゃあさ、あなたのこと聞かせてよ。館の外から来たんでしょ」
「ボクは作られてから直ぐここに来たからなぁ。たいした話はできないけどいいかい?」
「――うん!」

「まずは、ボクが生まれた森は――




…………。

それから私と妹様は、外のことを色々と話した。
ずっと夢見ていたのだろう。ほんの些細なことでも興味を持って聞いてくる。

「そろそろ、時間だ」
「――え?」

アリスと話して決めたこと、一日に話す時間を限ること。

「今日はもう、お別れの時間だ」
「お別れ? 何を言っているの?」

その理由は二つ。

「ボクは寝ぼすけなんでね、長い時間は起きていられないんだ」

一つは、人形を操るという慣れない作業による、激しい魔力の消耗。

「ダメ! もっと話をしてよ」
「ごめんね。また明日、話をしよう」

もう一つは、妹様に我慢することを覚えさせること。決して、甘やかしてはいけない。

「何よ、主人の言うことが――」
「フラン!」

語気を強くして叱るように呼びかける。

「また明日、必ず来るからさ」

妹様はなんとも言えない目で私を見てる。


――お願い、言う事を聞いて。

「……うん、わかった。絶対だよ」

「うん、有難う」




「じゃぁ、今日のところはお休み。フラン」
「……おやすみなさい」

寂しそうな目を向ける妹様を見ながら、私は人形に流していた魔力をカットする。





……疲れた。意識が元の体に戻った途端に、ぐったりとしてしまう。

これだけ魔力を消費して、私にできることは喋ることだけ。
何体もの人形を操っているアリスは、さすが人形遣いと言うべきか。


会話は、上手くいったのだろうか。
私が見た限りでは楽しそうにしていたけど……。

初めて妹様とあんなに話をした。普通の子供とするような、普通の会話。
これで、正しいのだろうか? 人形なんか使わなくても、良かったのではないか。


……ダメ、疲れた。慣れない作業に慣れない会話。

今日はもう寝よう、明日も頑張らなきゃ――




◇ ◆ ◇




『 8月12日  天気:図書館の壁 』


今日は妹様は、図書館に姿を見せなかった。
元々、本を借りるときにしか来ていなかったのだから仕方ないか。

――さぁ、今夜も人形を演じるとしよう。




人形の乗り移った私が見た景色は、一面の天井。
仰向け? この景色だけでは何も見えない。

妹様はどこに、この部屋に居るのだろうか。取りあえず声を出してみるとしよう。

「おーい、妹さ……フランー」
「起きた!!」

「きゃっ!」

急に目まぐるしくまわる景色、と同時に妹様が正面に見える。
なるほど、私は妹様に抱かれてベッドに仰向けになっていたのか。

「こんばんは、フラン。あんまり乱暴に扱わないでくれよ」
「やっと起きたー。遅いよー、もう」

どうやら妹様は待ちくたびれてたみたいだ。

「ほら、まずは挨拶だよ。こんばんは、フラン」
「えっ……、こんばんは」
「良く出来ました」
「むー、家来のくせにー」

膨れて見せる妹様。そういえば家来だったわね。

「ごめんね、待たせちゃったみたいだね」
「ほんとだよー、この寝ぼすけ」
「昨日は久しぶりに色々話したから疲れちゃったんだよ」
「あはは、わたしもー」

どうやら楽しんでくれていたようだ。今日はどんな話をしようかしら。

「今日は何をして遊ぶの?」
「何を、と言われても。喋ることしかできないけどね」

「もう、私の家来のくせにへっぽこなんだからー。じゃぁまた外の話を聞かせてくれる?」
「またボクかい? 今日はキミのことを聞かせてくれよ」
「え……わたしの、はなし?」

思いもよらぬ答えに戸惑いを見せる妹様。

「わたしの、話なんてないよ。ずっと、ここにいるんだから……」
「大丈夫、ボクだって似たようなものさ。魔法の森とこの部屋くらいしか知らない」
「でも……」

やっぱりダメかな。仕方ないわね。

「ねぇ、フラン。キミはなんで外へ出ないんだい?」
「え、それはお姉様が許してくれないから……」

「ふーん、意地悪なお姉さんなんだね」
「違う! お姉様は意地悪なんかじゃない!」

意外にも不快を露に反論してみせる妹様。

「悪いのはわたし、わたしが悪い子だから……」

驚いた、妹様は自覚している。なぜ、外に出れないのかを。
でもダメね、諦めてしまっては。これからはそんな自虐は許さない。

「そっか、フランは悪い子なんだ」
「うん……わたしは――」

「じゃぁ、いい子にならないとね。そうすれば外に出してもらえるよ」
「――え?」

「そうだろ? 悪い子だから出してもらえないなら、いい子になればいいんだ」
「そんな、ムリだよ……」

無理なんかじゃない。私が、変えてみせる

「大丈夫さ、ボクが手伝ってあげるよ。いい子になってお姉さんに会いに行こうよ」
「お姉様に……」

「キミだってお姉さんに良い所を見せたいだろう? 一緒に頑張ろうよ」
「できるかな、わたしに?」
「大丈夫、できるさ」

絶対に、してみせる。


「……じゃぁ、がんばる。いい子になって、お姉様に謝らなきゃ」


――頑張ろう、一緒に









……ふぅ。体が、だるい。

元の体に戻った途端に一気に疲れが来る。これはなかなかきつい仕事ね。


「えへへへ~」

びくっ!!

「ちょっ、小悪魔! 貴方見ていたの!?」
「え~、なんのことですか~? 私はなんにも見ていませんよ?」

何よそのニヤニヤ顔。絶対見ていたわね! は、恥ずかしい……。
人形の向こうでの会話は聞こえていないと思うけど、もしかしてこっちでも喋っていたのかしら?

「大丈夫、できるさ。ですってー、もう格好良すぎですよパチュリー様」
「―――!」

ふふふ、消してやるわ。貴方の記憶。

「でも、パチュリー様」

急に真面目な顔になる小悪魔、どうしたのかしら。

「とても、お疲れのようです。無理はしないでくださいね」
「……ええ」

やっぱり判るのだろうか。気をつけないとね。

「私は、パチュリー様のこと、応援していますから」
「有難う、小悪魔」

大丈夫、妹様は頑張ると言ってくれた。


――だから、私だって





◇ ◆ ◇ 





『 8月13日  天気:図書館の壁 』




体が……だるい。なんだか、眠っても疲れがとりきれてない。

――さぁ、今日も頑張ろう。






「~~♪」

妹様は、鼻歌を歌いながら本を読んでいる。なんだか今日は機嫌が良さそうね。
それにしても、歌なんてどこで覚えたのかしら?

「あれ?」

急に鼻歌を止めて、こっちを見る妹様。

「もしかして、起きた?」
「……よく判ったね。こんばんは、フラン」
「こんばんわ。なんとなくそんな気がしたのよ」

微かな魔力の流れを感知したとか?
あのレミィの妹だもの、それくらいできて当然ってことかしら。

「ねぇねぇ、今日はどんな話をするー?」
「あれ、本はいいのかい。読んでいる途中だったんだろ?」
「いいのよ、せっかくあなたが起きているんだからお話しましょうよ」

そこまで言ってもらえるなんて、人形冥利に尽きるわね。

「じゃぁ今日はどんな話をしようか。キミの話もボクの話もしちゃったし」
「ほんとだね……。もしかして、もう話すことなんてない?」
「まさか、話すことなんてのは、なくならない物なのさ」

まだ三日目。もう終わりになんて、してやらない。

「そうなの? 話がなくならないなんて、すごいのね」
「今頃気づいたのかい? キミの家来なんだから当たり前じゃないか」
「あはは、それもそうだね。じゃぁ、そんな家来一号は何を話してくれるの?」

「そうだね……。キミは本を読むのは好きかい?」
「うーん、おもしろいのなら好き。でもつまらないのは嫌い」

判り易い答え。でもきっと、それが全て。

「じゃぁ、なにか物語を聞かせてあげよう。ボクを作ってくれた人が人形劇にやっていた話さ」
「……人形劇?」
「あれ、知らないのかい?」
「ううん、知ってる。でもわたし、劇って見たことないから」
「それは残念……。じゃぁ、外に出れたら一緒に見に行こうよ」
「……うん!」

その時は、レミィも一緒に……。
私もアリスの人形劇は見たことないけど、きっと楽しいはずだ。

「残念ながら、ボクに劇はできないけど、いいかい?」
「うん! もちろん」

「それじゃ、始めようか。 ――遠い遠い昔……」


アリスから教えてもらったのは、どこにでもあるような昔話。
正義の味方が悪い魔王を倒し、人々を救う。

ただ、登場人物が少し変わっている。
戦いを嫌う説教好きな勇者と、お気楽な傭兵。

傭兵に倒された、悪いはずの魔物ですら、勇者は助け、改心させていく。
時には味方の傭兵に対してさえ、説教をする。

妹様のためなのか、教養たっぷりというか説教くさいというか……。



「……めでたしめでたし」

ふぅ、他人に話を聞かせるのってなかなか大変ね。感情の込め方が難しいわ。

「ほら、フラン。こういうのが終わったときには拍手をするものだよ」
「……え、あ。そうね」

 パチパチパチ

控えめな拍手をする妹様。拍手を要求するなんて欲張りかしら。
妹様は、途中はなかなか楽しんでいたみたいだけど。

「どうだい。面白かったかい?」
「うん、とってもおもしろかった、けど……」
「けど、なんだい?」
「なんで、この勇者はみんなを助けたの? 悪いヤツなんだから、壊せばいいのに」


なるほど、そういうこと。

『壊す』

それは妹様にとっては、当たり前のこと。生まれた時から手の中にあった能力。
でも違う。貴方の言うそれは、『壊す』ことじゃなくて『殺す』こと。

「ダメだよ、フラン。人は……そんなに簡単に壊しちゃダメなんだ」
「なんで? わたしは気に食わない妖精メイドなんか、いつも壊してるわよ」

「でも、人は。壊したら死んでしまうんだ」
「死んでしまう? でも直ぐに復活するじゃない」

「……しないよ。それは妖精だけの話だ。人は、死んでしまったらそこで終わりなんだよ」
「終わり? じゃぁその後、その人はどうなるの?」

「その後なんてないんだ、どこにも居なくなってしまうんだ」
「……どこにも? よく、わかんないよ」

そうよね、いきなり理解しろって言っても無理よね……。


「今は判らなくても、いつか判るようになる。だから今は、そんな簡単に壊すとか言わないでくれ」
「ふーん、わかったわ。でも、妖精ならいいのね」

「ダメよ!!」

思わず私は叫ぶ。

「どうしてよ? 妖精ならどうせ元に戻るじゃない」
「違うんだ、それは違うんだよ。ダメだよ、フラン……」

これじゃダメ。どうすれば、どう言えば判ってくれる?

「復活しても、それはもう別の存在なんだ。元には戻らないんだよ。
「…………」

「お願いだから、判ってくれよ……」
「……わかったわ」

え?

「ううん、よくわからないけど……。わかったから、そんな悲しい声を出さないでよ」

どういうこと、フラン。

「わたしが妖精を壊したら、あなたが悲しむんでしょ? じゃぁ、やめる」
「フラン……」

「ね、だからそんな悲しい声出さないで。もっと楽しい話をしましょうよ」
「うん、有難う。フラン」


私の言いたいことは、伝わってはいないのだろう。
でも、今はそれでも構わない。いつか、きっと判ってもらえるから……。






◇ ◆ ◇ 





『 8月14日  天気:図書館の壁 』



妹様との会話を始めてから、今日で四日目。
私は今、妹様に聞かせる物語を探して本を読み漁っている。

私が今までに読んできた本なんて、魔道書や学術書が大半。子供に聞かせられるような話ではない。
今も童話集や小説なんかを山積みにして読んでいるが、どれを読んでいいのかさっぱり。
まずいわね、眠たくなってきた……。

「パチュリー様。少しお休みになられた方が」

小悪魔が心配そうにしている。
有り難いことに、この子は私のやっていること協力的だ。

「私も探しておきますから」
「大丈夫よ、夜まであんまり時間も無いのだから」

とは言ったものの……。子供向けの話って、なんでこんなに眠くなってくるの――







 ゆさゆさ ゆさゆさ

「……パチュリー様。パチュリー様~」

……だれよ、気持ちよく寝てるのに。

「もうそろそろ行かないと、フランドール様が……」
「うそ! 寝過ごした!?」

「まだ大丈夫ですよ。と言っても、のんびりはできないと思いますが」
「そう、良かった。有難う、起こしてくれて」
「いえいえ~。眠気覚ましに、ハーブの効いた紅茶でも持ってきますね」

助かった、危うく遅刻するところだった。

「どうぞ、パチュリー様」
「って、早いわね。ついに貴方も時を止められるようになったのかしら?」
「まさか~。そろそろ起こそうと思って用意しておいたんですよ」
「そうなの……、助かるわ」

ふぅ、紅茶からのハーブの香りが心地よい。
寝ぼけている私の頭をクリアにし、目を覚まさせ……

「しまった、本!!」

まだ、これといった物は見つかっていない。もう時間が無い。

「大丈夫です、用意しておきました。私のお気に入りの小説なんですよ」
「そこまでしてくれたの、何から何までごめんなさい」
「パチュリー様は一人で気負いすぎなんですよ。少しは頼ってくれないと」

えへん、と胸を張る小悪魔。ふふ、頼って欲しければもっと貫禄を持ちなさいよね。

「じゃぁ、今日はこの本を読ませてもらうわ。変な本じゃないわよね」
「もちろんですよ~、私のイチ押しです」

だから不安なのよ……。







「こんばんわ!!」
「きゃっ!」

意識を移した途端に妹様のドアップの顔。
びっくりしたわ、心臓に悪いからやめてよね。

「驚かせないでくれよ、まったく」
「ほら、まずは挨拶でしょ? こんばんわ」
「おっと、こんばんわ」

落ち着かなきゃ。ふふふ、妹様に注意されるなんて。

「挨拶がちゃんとできるなんて、大分いい子になったじゃないか」
「そうかな。もう外に行ける?」
「残念、まだまだだね。キミもお嬢様なんだから、もっとお嬢様らしくしないと」
「お姉様みたく? こんなに月も紅いから本気で殺すわよ、とか言えばいいのかな」
「よりによって、そんな台詞をマネしないでくれよ」

レミィったら、なんで悪い影響ばかり与えているのよ。




「ねぇねぇ、今日はどんな話をしてくれるの?」
「あぁ、今日はだね――」


私は視界だけを図書館に戻し本を読みあげる。
声と耳は向こうにあるのに、眼と体はこっちだなんて酔いそうだわ。
えっと、どれどれ……

『私は都内の学校へ通う、元気な女子高生。
 私は今、大変な悩みを抱えているの。そう、私は恋に恋するお年頃』


って小悪魔!! 何よこれ!

外の小説? 恋愛小説なんて早くないかしら。
妹様の反応が気になるけど、視界を図書館に戻しているからいまいち判らないわ。

どうしよう、続けるしかないかな……。


『「よーし、今日は転校生を紹介するぞー」なんて先生の声。
 あ、アイツは今朝の失礼な男!! 』

なるほど、外の世界ではこんなふうに恋が始まるの、なかなか興味深い。
小悪魔ったらこういうのが好きなのね。なんてけしからん悪魔、今度こういった本は没収しないと。




『「オレ、お前のことが……」
 そうして、星空の下で二人はキスを交わしたのだった 』

あぁ、やっと結ばれた……、なんて素敵な二人なのかしら。
思わず涙が出ちゃったわ。

(ちょっと、パチュリー様。フランドール様は平気ですか?)

何よ小悪魔、今良い所なんだから……え!?



「フラン!!」
「え? あ、どうしたの?」

慌てて視界を人形に戻すと、妹様はあんまり面白くなさそうな顔をしていた。

「ごめん、フラン。面白くなかったかい?」
「んー、そんなことないけど。よく判らなかったわ」
「ははは、キミにはまだ早かったかな?」
「またそうやって子ども扱いするー」

次はもうちょっと子供向けの話を探さないとね。
小悪魔のチョイスは外れかしら。私としては良かったけど……。

「ねー、キスってなんでするの?」

……え、キス? なんで?
まぁ、この子ったら。さっきの今で、もうマセてきたのかしら。

「えっとだね、その、相手のことが好きだからかな。その気持ちを伝えるのさ」
「ふーん、好きだからか……。ねぇ、あなたはキスしたことある?」

ノーコメント。

「ボクは人形だからね。自分からは動けないし」
「じゃぁ、したことないんだー」

う、そんなにはっきりと言わなくても……。

「お、おっと。いつの間にかこんな時間だ。今日はもう寝ないと」
「もうそんな時間? つまんないのー」
「明日また来るよ。お休み、フラン」


……フラン? なんで返事しないの――

 ちゅっ

不意に迫った妹様の顔。え、もしかして今……。


「えへへー、お休み」


……奪われた?






意識を図書館の体に戻しても、思わず呆然としてしまう……。

違う! 今のは違うわ。
に、人形だからノーカウントよ。

「あの、パチュリー様? 大丈夫ですか。顔色が……」

まさか、真っ赤? ちょっと、冷静になれ私――

「――顔色が、真っ青です」
「……え?」

思わず顔に手をあてようとする。けど、手が動かない……。
なんで? あれ、まだ魔力が流れている? カットしきれてなかったのかしら。

「……っっ」
「大丈夫ですか!?」


意識を全て私に戻した途端に、襲い掛かる疲労感。

体が重い……。私の腕は、こんなに重かっただろうか。
人形の腕は、あんなに細くて軽そうなのに。

「パチュリー様、今日はもうお休みください」
「……そうね、そうするわ」


そう言った後も、私はしばらく、椅子から立ち上がれなかった……。







◇ ◆ ◇ 





『 8月15日  天気:図書館の壁 』


この日、私が妹様と会話をすることは無かった。

正確に言えば、私は目覚めなかった。


私が眼を開けると、映るのは見慣れた自室の天井。
今、何時ごろだろう。なんだか頭がボーっとして冴えない。

「パチュリー様! 起きられたんですか!?」

そんなに慌てて、どうしたの小悪魔? そもそも、ここは私の部屋よ。

「今、何時ごろかしら?」
「……朝の3時ごろです」

朝の? まだ一時間くらいしか寝てないじゃない。どうりで体がだるいはずだ。

「ただし、17日の朝です。パチュリー様は丸一日寝ておられました」
「何を言ってるのよ、そんなわけ……」
「本当なんです、パチュリー様はずっと起きなくて」

それじゃぁ、妹様は……

「なんで起こさなかったのよ! 私が何をやっているのか知っているのでしょう!」

思わぬ事態に私は叫び、怒鳴りつける。小悪魔は思わず身を縮こまらせる。
怯えて見せたって許さない、私は遊びでやってるんじゃないんだ。

「判っています、パチュリー様がしていることが、どんなに大事なことか……」
「じゃぁなんで! 起こしてくれればいいじゃない!」

なんてことをしてくれた、なんて使えないヤツ。


なんて……なんで、泣いてるのよ。

「……なんで!」
「私だって、起こそうとしたんですよ! でもパチュリー様はとても、辛そうにうなされてて」

涙を隠そうともせずに、喘ぐように続ける。

「フランドール様が、待っているのは知ってます、でもパチュリー様は起きないし。
 代わりに人形を動かそうとしたんです、けど何度やっても、全然動いてくれなくて。
 でもパチュリー様に無理をさせたくなくて……。ぐすっ  私、どうしていいかわからなくて……」


ついに声をあげて泣き始めてしまう。
なんて、みっともない姿だろう……。この私は。

起きられなかったのは、自分のせいなのに。
それを人のせいにして。ごめんなさい、小悪魔。

私は小悪魔の体を、優しく抱き寄せる。

――ごめんなさい





ひとしきり泣いた後、小悪魔は私の体から離れた。

「……落ち着いた?」
「ぐすっ。申し訳ありません、みっともないところを」

いいわよ、みっともないのは私の方だから。ま、鼻水たらした今の貴方には敵わないけど。

「それにしても……私、どうしたのかしら」
「あ、どうやら過労らしいです」
「……過労?」

「はい、実は……。パチュリー様が全く起きられないので、アリスさんに来てもらったんです」
「そうだったの、わざわざ呼んで来てくれたのね」
「アリスさんが言うには慣れない魔力の使い方で、体が極度に疲労しただけだって」

情けない、そんな理由で倒れるなんて。

「その……、呆れておられました。小説を丸々一冊読むような時間、魔力を流し続けるだなんて」

あー、なるほど。確かに小説に夢中になって時間を忘れていた。

「自業自得ってわけね。妹様に、なんてお詫びすればいいかしら」
「そうですね……、怒っていなければいいんですけど」

あー、もう。不安になるようなこと言わないでよ。

「でも、今日はもうだめですよ……。夜までお休みになってください」
「判ったわよ。無理して、また倒れたら世話無いものね」


貴方の、そんな顔。何度も見たくないもの。





◇ ◆ ◇ 





『 8月17日  天気:図書館の壁 』



……大丈夫、大丈夫。

声に出して呟いてみる。

「大丈夫」

私は、さっきからずっとこんなことを繰り返している。

「また明日来るよ」
妹様との別れ際に私が言った言葉。

でも私は、その言葉を裏切った。妹様は怒っているだろう。
素直に謝って許してくれるだろうか……。

「……パチュリー様」
「何よ小悪魔、そんな顔して。大丈夫よ、行って来るわ」

よし、行くぞ。





「……フラン?」

部屋はいつもよりも薄暗く、静か。妹様は……どこ?

居た、隅っこでうずくまる小さな体と、紅く光る一対の眼。
まだ私が来たのに気づいてないみたいだ。

「フラン!」

私が叫ぶと、妹様が反応を見せる。

「……やっと、きたの?」

妹様は立ち上がって、私がいる方へ近づいてくる。
私がいるベッドの……なによこれ。


「……遅いよー、待ちくたびれちゃった……」

ベッドの上に、ナニかが散らかっている。

「昨日は、なんで、起きてくれなかったの」

何か、じゃない。ダレかが……散らばっている。

「わたし、ずっと待ってたんだよ……」


もしかして……ううん、きっとそうだろう。妹様は――

「これは、なんだい?」
「これ? あぁ、どうでもいいじゃない。そんなことより昨日は――」
「どうでもよくなんかないよ! 大事なことだ」

なんだか今日の妹様は違う、血を見たせい?
ダメだ、気圧されてはいけない。

「大事なこと……こっちだって大事なことよ、わたしずっと待ってたのに。
 それとも、なぁに? あなたにとっては、どうでもいいことなの?」

あぁ……、ダメだ。それだってとても大事だ。

「ごめん。昨日は、とても疲れちゃって起きられなかったんだ。仕方が無かったんだ」
「ほんとに? もう、わたしと話したくなくなったんじゃない?」
「違う、それはないよ。ボクはもっと、フランと話がしたい」

「……そっか、じゃゆるしてあげる」
「有難う、ごめんね」

良かった、意外にも妹様はあっさりと許してくれた。
でも、ここで終わってはいけない、はっきりと言わなければ。


「フラン。どうして、妖精を殺したんだい。言ったじゃないか、ボクが悲しむから、もう殺さないって」
「そいつ、生意気だったのよ。ですがお嬢様、っていつも口答えしてくるの」

いつも? もしかしてこの妖精は殺されるのが始めてじゃないとか?
妖精は消滅しても復活すると言うが、その時の記憶はあるのだろうか。
いや、あったら二度と妹様の前には来ないわよね……。

「キミにとっては些細なことでも、死んだ相手はそこで終わりだって言ったじゃないか」
「でも妖精は復活するじゃない、大丈夫よ」

「違うよ、その妖精はもう元の妖精じゃない。たぶん、消滅する前の記憶も無い」

それはきっと、死んでしまうのと同じ。

「ねぇ、フラン。妖精だって、ボクやキミと同じように、笑って、怒って、夢を見て、生きているんだ。
 ボクがキミと話をしたいと願うように、キミが外に出たいと想う様に、この妖精だって夢を持っていたはずだ。
 でも、壊してしまったんだよ。もうこの妖精は、その夢を叶えることも、見ることすらできないんだ」


……返事は、無い。

でも全く伝わってない訳じゃないはず……。フランの表情には、悩む様な色が伺える。
なんとなく判る気がする、けどピンと来ないといった感じ。仕方ないのだろうか、こればっかりは。


「ねぇ、フラン。約束をしよう」
「……約束?」
「そう、約束だ」

約束、なんて軽い物じゃない。これは誓い。

「ボクはどうやら、毎日起きるのは無理かもしれない。けれど絶対に、また来るって約束する。
 それと、来なくても不安にならないで。ボクはフランのことがずっと好きだから」

「……」

「キミも、約束してくれ。たとえ妖精でも、気軽に殺さないって。
 嫌いな相手で、戦わなければいけない時でも、相手のこと考えてあげてくれ」

「…………」



「どうだい、フラン。約束できるかい?」

「……それじゃ、一緒じゃない、昨日まで言ってたことと」
「違うよ、これは約束なんだ。それもボクとキミの、友達同士の大事な約束」
「友達、同士……」

そう、友達。今のフランと私の関係は、友達。


「破ったら、どうなるの?」

罰を与える? ううん、罰なんかでは生ぬるい。

「……どうにもならないよ」
「え?」

「別に、どうもしないよ。キミが約束を破ってもね」
「それじゃ、意味ないじゃない」

「そう、かもね。でもさ、ボクは守って欲しいから約束するんだ。
 もしキミが約束を破れば、キミはボクを裏切る事になる」
「わたしが、あなたを裏切る……」

「ボクはキミの期待を裏切りたくない、だから約束するんだ。必ずまた来るって」
「……」

「どうだい? フラン」
「……わたしも、あなたを悲しませたくない。約束、するわ」

真っ直ぐに、人形の私の眼を見て告げるフラン。
必ず、という意思の篭った強い眼差し。これなら、きっと大丈夫。

「有難う、フラン」
「ううん、こっちこそ。ありがとう」



「今日は、もう休もう。誰か呼んで、ベッドを片付けてもらいなよ」
「……うん、そうする」

時間で言えば、今日はまだ着たばっかり。
けど、フランには少し、静かに一人で考えて欲しい。

「フラン。また、来るよ」
「うん……待ってる、から」


いつ、とは言えない。嘘になってしまうかもしれないから。
けれど必ず、また会いに来る。





◇ ◆ ◇ 





『 8月18日  天気:図書館の壁 』



その日、珍しくレミリアが図書館へ来た。


「おはよう、パチェ」
「今晩は、レミィ」

「小悪魔、紅茶でも入れて頂戴。珍しいわね、レミィがここに来るなんて」

そう、レミィはいつもなら私を呼ぶ。よりにもよって夜に。
話し相手が欲しかった、とか紅茶を飲む相手が欲しかった、などと理由をつけて。

「貴方……倒れたのですって?」
「あら、知ってたの。心配しなくてもいいわよ、ただの寝不足よ」
「え……寝不足?」
「ちょっと本を読むのに夢中になっちゃってね」

嘘ではない、けど本当のことでもない。

「……はぁ、馬鹿みたい。何をやっているのかしら」
「それは本に夢中になった私のことかしら? それとも親友を心配してくれた貴方?」
「まったく、どっちもよ、どっちも」

呆れたようにそう言って、紅茶に口をつけるレミィ。

「ごめんなさい、レミィ。でも、大丈夫よ。だから、もう少し待ってて」
「なによ、やけに素直じゃない。それに、待つって何よ? 寝不足で頭がボケているのじゃない?」

しまった、口が滑った。

「え、そんなこと言ったかしら? 気のせいじゃない?」
「……貴方、何か隠していない?」

さすがレミィ、鋭い。

私を睨む様に見てくるレミィ。まずい、プレッシャーに気圧されそうだ。
ダメだ、まだ話せない。こんなところで……カリス負けしてたまるものか。


「あ、レミリア様! 突然ですけど、なにか良い本を紹介してくれませんか!」
「えっ、何よ突然?」

小悪魔ナイス!

「いや~、最近推理小説に興味を持ち始めましてね。
 レミリア様はそういうのがお好きって聞いて、何かないかと」
「あら、貴方よく知っているわね。それなら色々あるわよ」
「できれば簡単なのがいいですね~。子供でも読めるような」

小悪魔グッジョブ!!
妹様に聞かせる本も見つけようって訳ね。さすが悪魔、貴方もワルよねぇ。

「子供向け? ま、易しいのなら……」

そのまま小悪魔との会話に夢中になって、さっきの疑問は忘れてしまったようだ。
ごめんね、レミィ。今はまだ話せないけど、いつか必ず……。



残念ながら、推理小説はフランには不評だった。
なんで?なんで?って感じに疑問が先にきて、推理どころじゃない。

それでも、あなたのお姉さんは好きなのにって言ったら、頑張って聞いてた。
ふふ、レミィ。いつか、貴方がこうやってお話を聞かせてあげるようになるのかしら?




◇ ◆ ◇ 




『 8月19日  天気:図書館の壁 』



その日、珍しくもなく魔理沙が図書館へ来た。


「おーっす、元気に本を読んでるかー」
「騒がしいと思ったら……、性懲りもなく来たわね」

それに、元気に本を読むってなによ。


「あー……、もうダメだー」

そう言うなり椅子に座って机にぐたーっとする魔理沙。

「どうしたの? 疲れてるみたいじゃない」
「今日は大変だったぜー。門番、メイドに続いてフランまで出てきてよー」

「え、フランまで来たの!?」
「おう。どうした? そんなに驚いて」

「ううん、なんでもないわ。で、どうだったのよ?」
「もちろん私が勝ったさ! ここまで来てるのが何よりの証拠だぜ」

そう……。フラン、大丈夫かしら。

「あいつ、なんか変わったよなー」
「え、フランが? どう変わったって言うのよ」

「んー、上手くいえないけどさ。よく笑うんだ。初めて会った時も笑ってたけど、もっと狂ったようにというか……。
 今はなんか楽しそうなんだ。自分で言うのもなんだけどさ、私と同じように弾幕ごっこを楽しんでいるんだ」

そういえば、魔理沙はフラン相手でも怖がらずに向かっていく。
フランが外の世界に興味を持ち始めたのも、魔理沙が乗り込んで来た紅霧異変以降だ。

「貴方もたまには、役にたつじゃない」
「はぁ? 何言ってんだ。よく判らないけど、私はいつも皆の役にたってるぜ」

どの口で言うんだか……。

「それにしてもさ。変わったって言えば、パチュリーもそうだよな」
「私が? 私は何も変わらないわよ」

「変わったさ。前はそんな風に周りに興味を持ってなかった。
 それに、フラン、なんて呼んじゃってさ。前は妹様って固い呼び方だったのに」

そう言われて見れば、人形の喋り方が移ったかしら?
それに、もしかしたら本当に、私も変わったのかもしれない。

前の私なら、魔理沙のことも気にせず、本を読んでいたでしょうね……。





「あれ、パチュリー様? 今日は行かないんですか?」
「行ったわよ。けれどフランは寝ていたわ」

「まさか……、また喧嘩したんですか?」
「またって何よ。違うわ、きっと魔理沙と弾幕ごっこしたから疲れてるのよ」

「またあの人は……。美鈴さんに言って、本気で止めてもらいましょうか?」
「いいわよ、そんなことをしなくても。魔理沙はあれでいいのよ」

「……? なら、いいのですが……」


まったく、フランのあんな可愛い寝顔を見せられちゃ、文句も言えないじゃない。
今日だけは魔理沙に感謝しなきゃかしら。





◇ ◆ ◇ 




『 8月22日  天気:図書館の壁 』



「はい、パチュリー様。紅茶でもどうぞ」
「有難う、こあ……あら、咲夜じゃない。珍しいわね」

紅茶を差し出してきたのは、紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。

「里の方で、美味しそうなケーキを見つけましてね。パチュリー様にも差し入れをと思いまして」

あら、美味しそうなケーキね。さすが完全で瀟洒なメイド、気が利くわね。

「……やっぱり貴方の紅茶は美味しいわね。今度、小悪魔にも教えてあげてよ」
「ええ、いつでもいいですよ」

紅茶一つとっても隙が無い、さすが完璧。あ、そうだ。

「ねぇ、咲夜。貴方は、オススメの本とかないかしら?」
「オススメの本ですか……。そうですねぇ」

うーん、と顔に手をあてて首をかしげるメイド長。
こんな動作の一つとっても完璧。絶対に確信犯よね。

「それでは、紅魔館の家計簿なんていかがでしょう? きっと――」
「遠慮しておくわ。それを読んだら新しい本も買えなくなりそうだわ」

きっと紅魔館の壁よりも赤いのでしょうね……。
苦労をかけるわね、咲夜。


「残念です。では、どんなのがお望みでしょうか? せめてジャンルとかを教えて頂けないと」
「それもそうね。どちらかというと子供向けの童話かしらね」

「子供、ですか? もしかして――」
「言っとくけど、私の子供じゃないわよ」
「そうですか、残念です」

……なんで残念なのよ。

「ちょうど私、一冊絵本を持っているのですが。それはいかがでしょう?」
「絵本を持っているの? 貴方そんな趣味があったの?」
「いえ、私が読むわけでは……」

「まぁいいわ。どういう内容なのかしら?」
「見てみた方が早いかもしれませんね。持ってきますので少々お待ちくだ――お待たせしました」

一瞬で咲夜の手に現れる絵本。また時を止めたわね。
そんなに能力ばっかり使っていると早死にするわよ。

こちらです、と言って本を渡してくる咲夜。

「前に里で見つけて、買ってきたのですよ」
「へぇ、どういうお話なのかしら?」

本には、『泣いた赤鬼』と書いてある。
鬼の目にも涙ってことかしら?

「読む前に内容を聞くのは無粋かと思いますが……。大雑把に言えば、二匹の鬼の話です。
 人々に嫌われている鬼たち。でもこの鬼は人間が好きで、仲良くなりたいと願っているのです」
「心優しい鬼の話、ねぇ。変わっているわね」

絵本に出てくる鬼といえば、普通は退治されるべき悪役のはずだ。

「似ていると、思いませんか?」
「何が?」

「二匹の、鬼ですよ。人々に忌み嫌われて、それでも心優しい鬼」
「……咲夜」

恐らく、咲夜が言うのは、二人の鬼のことだろう。紅魔館に住む二人の鬼。


「それにしても、なんで貴方がこんな本を。まさかレミィにでも読んであげる気?」
「まぁ、そんなところですよ」

そういって微笑む咲夜。まさか本当にレミィに?

「本当にお嬢様のために買ってきたのですよ? ただし、もう一人のお嬢様ですけどね」

もう一人の……じゃぁ、フランのため?

「結局、渡すこともできずに、ずっと持ったままなのですけどね。
 だからその本、パチュリー様に差し上げますよ」
「なんでよ、それならこれは受け取れないわ。私が貰っても意味ないじゃない」
「意味なら、ありますよ」

え? なんで……。

「パチュリー様に渡すからこそ、意味があるのですよ」

「ちょっと咲夜、貴方もしかして気づいて……?」
「何のことでしょうか? あら、紅茶が冷えてしまいましたね」

変えてきます、といって咲夜は行ってしまう。
いつもの様に時を止めずに、ゆっくりと、歩いて。


咲夜……そっか。貴方もレミィのためならなんでもするメイドだものね。
私と同じ事を考えていても不思議じゃないわよね。

貴方の気持ち、必ずフランに届けるわ。






「ねー、今日はどんな話をしてくれるのー?」

フランが人形の私をゆさゆさと左右に振る。
やめて、バランスの取れないこの体だと酔いそう……。

「今日は鬼の話をしようか。フランは鬼って知ってるかい?」
「鬼? 吸血鬼とは違うの?」

「そうだね……。似てないこともないけど、鬼には翼がないかな。
 吸血鬼に比べて、空を飛べない代わりに、大地を揺るがす力を持つのさ」
「へー、じゃぁ強いんだね」

「今からするのはそんな鬼達の話さ……」



話に出てくるのは、心優しい赤鬼と青鬼。

赤鬼は、人間達を仲良くなりたくて色々と頑張って、でもやっぱりダメで。
そんな赤鬼を訪ねてきた、友達の青鬼は一つの提案をします。

――ボクが村を襲うから、キミが人間を助けに来ればいい。

その計画は成功し、村人たちは赤鬼と仲良くするようになります。
けれど、その日から青鬼は訪ねてこなくなりました。

ある日、赤鬼が青鬼を訪ねると、そこには誰も居らず手紙があるだけです。

――悪い鬼と仲良くしていたら、キミも仲間だと思われてしまう。
  だからボクは旅に出るよ、さようなら。 どこまでも君の友達、青鬼。

赤鬼はそれを何度も、何度も読んで。しくしくと、なみだを流して泣きました。



話に出てきたのは二人の鬼。心優しくて、でも不器用な二人。
咲夜が、この本を選んだ理由が判る気がする。

「どうだった、フラン」
「うん……」

元気が無いわね。

「どうしたんだい? 面白くなかったかい?」
「うん……」
「そっか、ボクは面白かったけどなぁ」

フランには合わなかったのかしら。

「これってさ、結局。もう二人は会わないんだよね」
「うん、たぶんそうなんだろうね」

「……いやだな」
「フラン?」
「わたしは、人間に嫌われてたってかまわない。お姉様と、一緒がいい」

そっか、フランも二人の鬼を自分に重ねたのね……。

「そうだね。ボクもそうだよ」
「え?」

「たとえ他の皆に嫌われても、ボクはフランと居たいよ。それと、キミのお姉さんもね」
「……うん!」

一転して満面の笑みを浮かべるフラン。


「じゃぁ、今日はもうお休み」
「うん、お休みなさい」


「いい夢を、フラン」


――きっと、その夢は叶うから





◇ ◆ ◇ 




『 8月25日  天気:図書館の壁 』



早いもので、フランとのやり取りを始めてから今日でもう2週間が過ぎた。


「はい、パチュリー様。今日も頑張ってください」
「有難う、小悪魔」

横からすっと紅茶が差し出される。
なんでも最近、咲夜に教えてもらったらしく、紅茶の腕がずいぶんとあがっている。

「貴方の紅茶も大分、美味しくなったわね」
「有難うございます。私にできるのはこれくらいですから」

えへへ、とはにかんで見せる小悪魔。
そんなことないわ、貴方には色々と助けられている。

「それにしても、まだダメなんですかねー。そろそろフランドール様も大丈夫じゃないですか?」
「そうねぇ……。私もそんな気がするわ」

「せっかく、雲ひとつ無い晴れた日だったのに」
「そういえば最近、外に出てないわね」

「ダメですよー、パチュリー様もたまには図書館から出ないと。
 ほら、今日は満月ですよ。さっき見てきましたけど、綺麗な『紅い』月でしたよ」
「……紅い、月?」


前に聞いたフランの言葉が頭をよぎる。
『お姉様みたく? こんなに月も紅いから本気で殺すわよ、とか言えばいいのかな』

そういえばレミィは満月が近くなると、落ち着かなくなる。言ってしまえば狂暴な面が姿を現す。
それでもレミィなら自制をきかして、なんともない風を装っているが。

紅い月、それも満月。

……フランは、大丈夫なんだろうか? 嫌な予感がする。


「小悪魔、今日はもういくわ。後はお願いね」
「え? どうしたんですか、突然――」


返事を聞かずに、私は人形に意識を移す……





「フラン!」
「え!? どうしたの? 今日は早いのね」

あれ……普通?

「わたしもまだ起きたばっかりなのよ」
「あ、ごめんごめん。なんだか急に目が覚めちゃってね」
「いいわ、まだ食事の時まで、時間があるから。それまでお話しましょうよ!」

そう言ってニィッと笑うフラン。
……気のせい? なんだか上機嫌だ。

「嬉しそうだね、何かいいことでもあったのかい?」
「んー、別に何もないよ。ただ、何だか今日は気分がいいのよ」

やっぱり紅い月の影響? ううん、考えすぎよね。


「ねぇ、また外の話を聞かせてよ!」
「またかい? キミは外の話が好きだね」
「えぇ、とっても。わたしも早く外にでたいなぁ」

喋るのもなんだか楽しそうね……。

「ねぇ、フラン。外に出れるようになったら、何をしたい?」
「そうね……、思いっきり飛んでみたいわ」

そう言ってフランは両手と翼を広げて、飛ぶ真似をする。

「狭い壁にも、低い天井にも気を使わないで、思いっきり飛び回るのよ。私はどこまでも飛んでいくの。
 誰にも止められず、追いつかれず、邪魔されないの。きっとステキな気分よ」

まるで歌う様に、フランは続ける。

「霧の湖に魔法の森……。幻想郷中を飛び回ったら、ここへ戻ってくるの」

そっと私に向かって手を伸ばして。

「そして、こう言うのよ。お姉様、踊りましょうよ。こんなにも月も紅いのだから……」

フランは一人でくるくると回り、タンとステップを踏んで踊りだす。


絶対に、おかしい……なんでこんなに機嫌が良いの?
こんなフランの姿は始めてみる。

なんで、こんなに楽しそうなのに、こんなに怖いのかしら。


踊りつかれたのか、フランはふわりと降りてくる。

「わたし、きっとまだまだダメよね……」
「どうしたんだい、急に?」

「だって、結局お姉様は、まだ一度も来てくれない。わたしがまだ悪い子だから、来てくれないのよね」
「そんなこと無いよ、フラン。キミはもう大丈夫だよ」

そう、大丈夫よ。前とは違う、今ならもう大丈夫なはず。

「お姉様に、会いたいなぁ……。でも勝手に出て行ったら怒られちゃうよね」

いつの間にか、普段通りのフランの調子に戻っている。
さっきのは気のせいだったのかしら……。


 コン コン

ドアをノックする音が聞こえる。
誰かしら? 私がいる時に誰か来るなんて初めだ。


「フランドール様。お食事をお持ちしました」

入ってきたのは、小柄な妖精。
黙々とテーブルを持ってきて、食事を並べていく。
そっか、今日はいつもよりも早くきたから時間が被ったのか。

「ちょっと先に食事を済ますわね」
「……え?」

驚いた表情で振り返る妖精。

「あぁ、あなたに話しかけたわけじゃないわ」
「ぁ……はい」

腑に落ちないという表情で作業に戻る妖精。

なんでそんなに怯えているんだろう。
貴方にはフランがそんなに怖く見えるの?


「ねぇ、貴方」

びくっとしてこっちを振り返る。
何よ、そんなに驚いて。失礼な妖精ね。

「貴方は、なんでそんなに怯えているの? 何がそんなに怖いのよ」
「ひっ……」

妖精の動きが止まった、一体どうしたというのだ。


「いやぁぁぁぁぁ!!!!」

不意に叫び出した妖精が、手に持った水差しを投げつけてくる。

 ガシャン


きゃっ! 水浸しじゃない。


「ちょっと!! なにやってるのよ!」

フランが立ち上がり妖精を睨み付ける。

「ひっ……。だって、人形が……!」


しまった、私は人形だったのだ。
フラン以外の相手だから、つい普通に話しかけてしまった。


「私の大事な友達に、なんてことしてくれるのよ!!」
「フラン! いいの!」
「ひぃっ……!」

怒鳴りつけるフランに、叫びだす人形。
妖精はますます怯えるばかり。

「あなた、いつもの……! あれだけ壊されても、まだ懲りないのかしら?」
「フラン! 辞めなさい!」


聞こえていない? 完全に理性を失っている。
ダメだ、ここでフランが手を出しては、また元に戻ってしまう。

「フラン! やめてくれ! フラン!!」
「いいわ、また壊してあげる……」

ダメだ、嫌な予感があたってしまう。

フランは薄く笑いながら、左のツメを伸ばす。
止めなければ……!

「ねぇ、フラン! お願いだから、やめて!」

叫ぶ、でもフランには届かない。

なんでよ、なんでこの体は動かないのよ。
なんで私には叫ぶことしかできないの。

アリスは人形を動かせると言っていた。
なんで私にはできないの? 見ていることしかできないの!?

フランが手を振り上げる。ダメだ、あれを振り下ろさせちゃいけない。

お願い、動いてよ!
私の魔力を全て奪ってもいい、だから――


「壊れなさいっ!!」
「ダメだっっ!」

フランの左手が振り下ろされる刹那――私の体は飛んでいた



最後に、見たのは

眼前に迫る爪と


フランの驚いた顔――







◇ ◆ ◇ 






『 8月26日  天気:図書館の壁 』



眼を開けると、映るのは見慣れた自室の天井。
私は……一体?


「パチュリー様! 起きられたんですか!?」

そんなに慌てて、どうしたの小悪魔? そもそも、ここは私の部屋よ。

「どうしたのよ、そんなにみっともない顔して……。なんだか最近、泣いてばっかりじゃない」
「パチュリー様~~」

ほらほら、可愛い顔が台無しじゃない。
全く、何をそんなに――


「フラン!?」

思い出した、私は……

「小悪魔、フランは! どうなったの?」
「……判りません。パチュリー様は急に倒れられて、それからまた、丸一日寝ておられました」

「なんて、こと……」


きっと人形は破壊されてしまったのだろう。妖精は、どうなったのだろう?
壊れた人形と、残された妖精。きっとフランは……ううん、そんなこと……。


「なんでよ!」

思わず拳を叩きつける。

「パチュリー……様?」

「あんなに頑張ったじゃない。なんでよ、フラン!」

ねぇ、フラン。なんで――

「貴方は……頑張ったじゃない……」



 ぎゅっ

不意に目の前が真っ暗になる。
……小悪魔?

「泣いても、いいですよ」

何を言ってるのよ。

「私の胸じゃ、頼りないかもしれません。けど、それでも。
 辛い時くらいは、頼ってください」

小さな手で、髪を撫でられる感触。

「私は、向こうで何があったのかは知りません。けど、フランドール様は、きっと大丈夫です。
 パチュリー様があんなに頑張っていたんですから。ね、信じましょうよ」

なんて、優しい声。

「きっと、大丈夫ですから」


フラン……。
そうよね、一緒に頑張ったものね。

――貴方は、きっと大丈夫よね。


「お疲れでしょう。もう少し、お休みください」

何よ、小悪魔の癖に生意気ね。



でも、いいわ。許してあげる。

だって、こんなにも暖かいのだから……






◇ ◆ ◇ 





『 8月27日  天気:図書館の壁 』



私の目の前にあるのは、一体の人形。


その人形の頭に手を乗せ、魔力を流し込む……。
けれど、流し込んだ魔力は、行き場を失い霧散するだけ。
何度も何度も、試してみたけど、全く上手くいかない。

私の視界も、声も、体も……私のもの。どこにも行きはしない。

「次こそはっ――!」
「パチュリー様! もうおやめください」
「邪魔しないでよ!」

「ダメです、もうずっと魔力を流しているじゃないですか。それ以上は危険です」
「くっ」

「他の方法を考えましょう。人形を使う以外の方法を」
「そうね……」

「今日はもうお休みください、その体ではまた倒れてしまいます」
「……ごめんなさい、小悪魔。情けない姿を見せてばっかり」


「そんなことないです。私にとって、パチュリー様は、最高の主人ですよ」







◇ ◆ ◇ 





『 8月28日  天気:図書館の壁 』



結局、今日も一日、無駄に過ぎてしまった……。

人形は反応を見せず、代案も浮かばない。
どうしよう、どうすればいい。

「やっぱり、直接行くしか無いわね」
「でも、危険じゃないですか。まだ落ち着いてなかったら……」
「でもこれ以上、ほうっておく訳には――」


 バタン

その時、扉の閉まる音が聞こえた。


誰よ? こんな時間に……。


「……パチュリー」
「え、フラン!?」

入ってきたのは、フランだった。でも、様子がおかしい。
見るからにやつれていて、元気が無い。

「どうしたのよ、フラン!」

我ながら、どうしたもないだろう。
一昨日の出来事を考えれば、簡単に想像がつく。


「ごめんなさい、パチュリー。せっかく貰ったお人形、壊しちゃった……」

そう言って差し出された手に乗っていたのは、私が入っていた人形。
その胸には痛々しい爪痕が残り、首と片腕が切り離されている。


「ねぇ、パチュリー。この子を、直してよ……」

フランの顔には、涙の痕が残っていた。今も抑えきれないように涙が溢れ出している。
泣きながら人形を抱きしめるフランの姿は、背中の宝石の様に壊れやすそうで、小さくて……。


「小悪魔、お願い」
「はい、アリスさんですね」

一瞬で私の意図を理解した小悪魔は、全速力で飛んでいった。


「なんでこの子は喋らないの? なんで元の姿に戻らないの?
 喋ってよ。いつもみたい私を叱ってよ」
「フラン……」

「ねぇ、パチュリー。この子は……死んじゃったの?」
「それは……」
「わたしが悪い子だから? 私が壊しちゃったから?」

なんて答えればいい?
なんて言えばフランは泣き止んでくれる?

「壊すつもりなんてなかった。ちょっとツメを振りかざして脅かそうとしただけだったの。
 でも、この子にツメが当たって……」

なんて、こと。脅かそうとしただけ?
私が、余計なことをしなければ……。

「これからはちゃんといい子にするから、妖精でも壊したりしないから。だから起きてよ、ねぇ」


命の尊さを覚えて欲しい、それは私が望んだこと。
でも、こんなはずじゃなかった。私は、フランのこんな姿を見たいわけじゃなかった。

「フラン……」

名前を呼ぶ、けれど後が続かない。なんて言っていいか判らない。
フランはこんなに泣いているのに……。なんで私はまた、何もできないの?

そんなはずは無い、私にだってできることは――




 ぎゅっ

「……え? パチュリー」

私は、フランの体を抱きしめる。私が小悪魔に、小悪魔が私にそうしたように。
……なんて小さな体だろう。

「ごめんなさいね、フラン。私が人形なんか渡さなければ良かったのよ」
「そんなことないよ! 嬉しかった。この子を貰って、わたしは嬉しかったよ」
「……有難う、フラン」


「ねぇ、パチュリー……」
「なぁに? フラン」


「この子は死んじゃったんだよね」
「そう……ね」

「この子はもう喋らないんだよね」
「……ええ」

「この子は、わたしが、殺したんだよね」
「…………」

「わたし、悪い子だよね。約束、やぶっちゃった……」
「……そんなことないわ」


――悪いのは、私なんだから。




 バタン

再び、扉の閉まる音が聞こえた。小悪魔?


「あら、お邪魔だったかしら?」

抱き合う私たちを見て、軽口を言う人形遣い。
馬鹿、貴方の冗談に付き合っている余裕はないのよ。


アリスに気づいたフランが私の体から離れる。

「あなたが、森の人形遣い? この子のお母さん?」
「あら、人にものを尋ねる時はまず自分が名乗るものよ」
「ちょっとアリス……」

何よ、とでも言いたげなアリス。
今はそんな時じゃないのよ!

「まぁいいわ、どうやら貴方がフランね。悪魔の妹の」


――悪魔の妹

そう呼ばれたフランは、俯いてしまっている。
確かにそういう噂は流れているだろう。けどなんで……。

それでも、フランは必死にアリスに話しかける。

「この子を直して! あなたがこの子を作ったんでしょ?」
「あら、この人形……、確かにね。この子は私が作って、パチュリーにあげた物よ」
「じゃぁ、お願い! この子を直して」
「………」

……アリス、どうしたのよ。なんで答えないの?


「貴方が、壊したの?」

冷たい声で、フランに問いかける。


「う……うん」
「嫌よ」
「……え?」

アリス、なんで。

「気に入らないから壊す、壊れたから直す。そんな簡単に言わないでよ」
 この子は、返してもらうわ。人形を大切にしない子には、あげられないわ」

「そんな……。ごめんなさい、もう壊さないから。大事にするから、連れて行かないで」


泣きながら、必死に謝り続けるフラン。
もうやめてよ、これ以上フランを傷つけないで。

「ねぇ、アリス。私からもお願いする。直してあげて」
「パチュリーまで……、どうしたのよ」


「壊したくて壊したわけじゃないのよ。ただ、ちょっとした事故で……」

――私のせいで。


「そう……仕方ないわね。判ったわよ」
「本当!? ありがとう!!」

「勘違いしないで、誰も私がやるとは言ってないわ。
 フラン、貴方が壊したのだから、貴方が直しなさい」
「え……、無理だよ! そんなの」

「やらないならいいわよ、私はこの子を連れて帰るだけ」
「そんな……」


なんでそんなことを言い出すの? 無理に決まってるじゃない。
フランに、何かを直すだなんて……そんなこと、無理に……

……本当に?


「そんなに難しいことじゃないわ、ちゃんと教えてあげるわよ?」
「やだ……できないよ。わたしには、壊すことしか……」

本当にできないのだろうか? 確かに、フランの能力は破壊に特化している。
でも今のフランになら、できるのではないか。


「無理だよ……。ねぇ、直してよ」

今も、必死で怯えて、拒否し続けるフラン。


 『そんなの、無理よ』

脳裏に蘇る言葉。これは、レミィの? それとも私?

頭から無理だと決め込んで、やろうともしない。
一歩踏み出せば、難しいことではないのに。踏み出そうともしない。

今のフランも同じ。後一歩で、変われるはず。
お願い、フラン。気づいて……!




「無理だよ……できないよ。ねぇ――」


  『――できるよ』


「……え?」


  『フラン、キミにならできるよ』


「どこ!? どこにいるの?」


きょろきょろと当たりを見渡すフラン。
そして、アリスの持つ人形の顔に目を向ける。

「どうしたのよ、急に。できないって言うなら私は帰るわよ」
「やだ……待って」


  『ボクもいるから、一緒に頑張ろうよ』


「……うん。わかった」


「やるのかしら?」
「うん、頑張る。お願い、わたしが直すから、教えて」

「ふふふ、いいわよ。じゃ、早速やりましょうか」

そう言って、そこで初めて、アリスは笑みを見せた。
フランも、もう泣いていない。その目には、必死の決意が見て取れる。



――頑張って、フラン







そこから、フランは何時間も辛抱強く作業をしていた。
何も知らない、ゼロからのスタート。今も必死に、練習用の布を繕っている。

残念ながら私に手伝えることは無い。横で見守っているだけ。
あ、小悪魔は気づいたら戻ってきてたわ。


「ねぇ、パチュリー」

アリスがこっちにだけ聞こえるように話しかけてくる。

「あの子、初めて会うけど、前に聞いたのと全然違うわ。どう見ても普通の子供じゃない」
「……そうね、全然違う。ううん、変わったのよ。あの子も、私も」
「貴方も? ふふふ、そうね」

何がおかしいのよ。


「一応、パチュリーには言っておくけど。あの人形、もう元には戻らないから。
「どういうこと? フランには直せないって言うの?」

「ううん、違うわ。中の回路の方よ。前みたいに話せるようにはならないわ」
「……そう。仕方ないわよね」

「ま、今の貴方を見た限りでは問題なさそうよね」
「ええ、当たり前じゃない」

「ふふふ、自信たっぷりね。この前とは凄い違いだわ」

そう、もう人形を使わなくても大丈夫。これからは直接、フランと向き合おう。
フランには悪いけど、人形のことについては、いつか正直に話そう。



「それにしてもアリス、憎い演出だったじゃない」
「演出? 何の話よ」

「さっきの人形の声よ。フランにやる気を出させるための」
「声? 何を言っているの。あの子は、自分でやるって言ってくれたのよ」

「うそ、じゃ、あの声は?」
「知らないわよ。疲れて寝ぼけているのじゃなくて?」


そんな。じゃぁ、あれは一体……







◇ ◆ ◇ ◆ ◇






あの後も、フランは頑張って作業を続けていた。
人形を直せるようになるのも、直ぐだろう。

破壊だけを秘めていたフランの手が、必死に直すことを覚えようとしている。
生まれてから495年以上たった今、あの子は変わろうとしている……。



ねぇ、この日記を読んでいる見知らぬ貴方。
貴方が言ってくれた言葉、今なら判る。

『1人で悩まないこと』

結局私は、小悪魔やアリスや、他の皆に助けられてばっかりだった。
今考えると、一人で悩んでいたあの時が馬鹿みたいだ。


私は運命を変えることができたのだろうか?

正確には、まだ途中だろうけど……。
きっと、まだまだ変われるわよね。


ううん、きっとじゃない。


――絶対に、変えてみせる。
 
 
 
 
 
 お疲れ様、図書館の住人さん。
 
 貴方は、きっとまだまだ変われるわ。
 だって、こんなにもステキな人たちに囲まれているのだから。
 
 
 でも……、たまには図書館の外に出ましょうね。 
人形の月
[email protected]
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コメント



0.5840簡易評価
4.90K-999削除
いーーーい話しじゃねぇか……。
オチはなんとなく解ってたのにそれでも感動してしまいました。
途中日記とは関係ありませんが、まー日記から始まる心の交流、と言うことで。
5.100名前が無い程度の能力削除
待ってました、今回も良いね!そして次は誰の所にこの日記が行くのか楽しみにしてます。
11.100名前が無い程度の能力削除
感動しました。素晴らしかったです。
20.100たぁ削除
毎回楽しみにしているよ今回も良かった
21.100名前が無い程度の能力削除
確かに、結局外には行かなかったなパチュリーさん
23.100奇声を発する程度の能力削除
涙が止まらーん!!!!!!

百点しか付けられないのが残念です。一万点ぐらい付けたいです!!!
25.100名前が無い程度の能力削除
最後にフランに語りかけた人形の言葉は二人が聞いた幻聴だったのか、それとも神の奇跡だったのか。

いい話なんだけど日記の天気に図書館の壁って書いてるのが面白すぎる。
29.100煉獄削除
人形を介して喋るパチュリーとフランの心の成長が話が進むたびに感じられて良かったです。
疲れていてもフランと会話しようとするパチュリーの懸命さやフランが人形を壊してしまった
ことに対する罪悪感、咲夜さんや小悪魔の支えやアリスの手助けなどとても面白いお話でした。

脱字の報告です。
>というよりノートいった方が相応しい装いの一冊。
『ノートといった方が』ではないでしょうか。
32.100名前が無い程度の能力削除
いい話だった。
このまま他の人のとこに日記がいくのもいいけど、1話だけで移動するのはちょっとせわしないというか、ぶっちゃけパチュリーの日記がもっと読みたーーーい
38.無評価人形の月削除
今更ですが、始めまして「人形の月」です。
最後まで出ないつもりが、不覚にも脱字報告がきてしまったので出てきちゃいました。

今までの作品も、これからの作品も含めて、全てのコメントと評価、欠かさずチェックしています。
皆様の評価に答えられるように、次も書いていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。

>煉獄さま
脱字の報告、有難うございます。 どうやらパチェの深層意識が「Noと言って」しまったみたいです(泣
40.100名前が無い程度の能力削除
ボリューム、内容ともに非常にテンポがよく、
充実していたので話に引き込まれてしまった…

GJ!
45.100名前が無い程度の能力削除
いいとこで終わるのね
すごく良かったです
57.100名前が無い程度の能力削除
次回は誰やら。楽しみに待ってます!!
58.100名前が無い程度の能力削除
これから、どうなっていくか気になりますが、
同時に他の人に日記がわたることも期待していたりwww
67.100名前が無い程度の能力削除
何で毎度毎度こんなに面白いのか理解できない

あんた凄いよ
69.100名前が無い程度の能力削除
これまでの作品より更に格段に面白くなりましたね!
70.100名前が無い程度の能力削除
感動した!!
ところでこの日記に返信してくれる人は誰なんだろうか。パチュも想像通りアリスなのかな?謎が残るのがまた憎い演出だね。
72.100名前が無い程度の能力削除
フランがレミリア達と一緒に外に出られる日もそこまで遠くはないかもしれませんね.
コメにレスするのはマナー違反ですが一応,
>>70
これはシリーズものですから最初から読まれることをおすすめします.謎でも何でもないことがわかっていただけるかと.
74.100名前が無い程度の能力削除
文句無し。
78.100七人目の名無し削除
日記の持ち主が代わり、それによって新しいドラマが生まれる。
おもしろい手法だと思います。
どうせなら、魔界側の日記も持ち主変更したりすると面白いんじゃないでしょうか?
だって、咲夜さんと夢子さんの交換日記とか見たいじゃないですか!!
80.100名前が無い程度の能力削除
……おっと、アイカメラから絶縁オイルが
なんていいアットホームストーリーなんだ
82.100名前が無い程度の能力削除
きっとこのフランはとってもいい娘に育つね!
パチュリーが書く日記の続きも気になりますが、おそらくもう、
パチェとフランの間に関しては、日記の手助けは必要無いでしょう。
次は誰が拾うのか、実に楽しみです。
91.100名前が無い程度の能力削除
おおう!! こんなに良いものがあったとは!
93.100名前が無い程度の能力削除
感動した!
101.100名前が無い程度の能力削除
感動した!

でも「胸はレミィの負けね」で不覚にもワロタ

小ネタも忘れない作者のセンスに嫉妬
102.100名前が無い程度の能力削除
クズがっ
もう、涙がっ
畜生っ、俺の体液返せよ!
106.100斗無削除
このフランいいなぁ…
久し振りに、カッコいいパチュリーを見た気がします。

おなたのお話のセンスに脱帽です。
114.100名前が無い程度の能力削除
作者の才能にぱるぱるぱるぱる
133.100読む程度削除
パチュリーの愛がフランを救う
そんな話でした
涙腺崩壊
134.100名前が無い程度の能力削除
涙が止まらない
137.100名前が無い程度の能力削除
泣いた
139.100名前が無い程度の能力削除
パチュリー、フランの努力に泣いた。
何気に小悪魔もいい仕事してるわ
147.100名前が無い程度の能力削除
孤独なフランをなんとかしようとする時、人や物が壊れると取り返しがつかないと
教えなければならない。その途中に物を壊してしまって打ちのめされるフラン。
という王道展開なのだけど、フランとパチュリーの人形を通した交流が凄く上手く描写されていて、
パチュリーの努力に感情している分すごく感動できました。
いいわー。作者さんすごい!
151.100名前が無い程度の能力削除
感動した!
。・゚・(ノД`)・゚・。
154.100名前が無い程度の能力削除
全俺が泣いた