Coolier - 新生・東方創想話

真夜中のお祭り~星熊勇儀の鬼退治・拾壱~

2009/07/11 03:41:12
最終更新
サイズ
23.18KB
ページ数
1
閲覧数
929
評価数
11/60
POINT
3440
Rate
11.36

分類タグ

*ご注意*
このお話は
作品集63「星熊勇儀の鬼退治」
作品集64「エンゲージ~続・星熊勇儀の鬼退治~」
作品集65「おにごっこ~星熊勇儀の鬼退治・参~」
作品集65「温泉に行こう!~星熊勇儀の鬼退治・肆~」
作品集67「そらのしたで~星熊勇儀の鬼退治・伍~」
作品集72「貴方が妬ましい~星熊勇儀の鬼退治・陸~」
作品集73「葡萄酒と香辛料~星熊勇儀の鬼退治・漆~」
作品集75「黒猫一匹~星熊勇儀の鬼退治・捌~」
作品集77「嫉妬の橋姫~星熊勇儀の鬼退治・玖~」
作品集78「水橋パルスィの鬼退治~星熊勇儀の鬼退治・拾~」
の流れを引き継いでおります。































「上着、ほんとに貸さないでいいのかい?」

 蛇神の声には心配の色が濃い。

 さもありなん、雪が降ってる中で半袖の勇儀の姿は見ていられるものではない。

「大丈夫さ。落とした上着見つけるまでの辛抱だしね」

 凛然と応える――と言えたらよかったのに。

 きりっとした顔の真ん中に鼻水が垂れてれば説得力は皆無だ。

「勇儀……」

 これ以上立ち話に興じていては風邪を引く。

 裾を引くと、意を察してくれたのか話を切り上げてくれた。

「ん……さて、そろそろいくよ。世話になったね八坂」

「繰り返しになるけど世話ってほどじゃない。また遊びにきな」

 知り合って僅か数時間だというのに二人はすっかり打ち解けていた。

 馬が合うというのか……なんとなく似ているところがありそうだからかしら。

 二人とも背が高いし、強そうだし……

 ……私も礼を言わねば。彼女には本当に世話になってしまったのだから。

「いろいろ、ありがとう。八坂――様?」

「神奈子でいいよ。別に私を信仰する気ないだろ?」

「それは、まぁ……」

 今日初めて会ったんだし、いきなり信仰とか言われても。

 彼女にかけた迷惑を考えればなんかしらの対価が必要だとは思うけれど。

 悩んでいると、それでいいと彼女は朗らかに笑った。

「なら対等だ。神奈子でいい」

 ――本当に、懐の広い神様だ。

 いろいろ、敵わないと心底思う。

「じゃあ……神奈子、ありがとう」

「ん。あんたも遊びにきなよ。麓の番人に話通しとくからさ」

 頭を撫でられる。

 ……子供扱いはやめて欲しい。

「星熊も別に神奈子で構わんぞ?」

 つい、と勇儀に視線が向かう。

 しかし当の勇儀は肩を竦めるに留まった。

「いやまぁ、酒を酌み交わした奴は友達だってのが身上だがね」

 こいつこそ名前で呼びそうだったのに、珍しいこともあるものね?

「あんたとはあまり慣れ合いたくないかな」

 それこそ意外な言葉。神奈子も面くらっている。

 あんなに仲良さそうだったのに……

 だが、彼女の顔に浮かぶのは牙を剥き出しにした鬼の笑み。

「あんたとちゃんと戦ってみたいってのも本音でね」

 それを受けて、神奈子も凶暴な笑みを返す。

「――ふん、そんなに鬼退治されたいか」

「出来るものなら」

 二人は拳を打ち合わせる。

「今度は」

「楽しく喧嘩しよう」

 短い言葉で結ばれる約束。

 互いの笑みは深く、その約束を楽しみにしていることは明白だった。

 勇儀はともかく神奈子まで……争いを好むようには見えなかったのだけれど。

 でも、あの威厳といい攻撃的な感じのする御柱といい……

 もしかして、名のある軍神だったりして?

「そうだ、ついでと言っちゃなんだが訊ねていいかね」

「構わんよ」

「温泉宿を探してるんだが、知らないかい?」

 ああ……そういえば山にはそれを探しに来たんだっけ。

「温泉宿? そんなもんがあったのかい?」

 しかし、予想通りに期待は裏切られる。

 やはり神奈子も知らなかったか……幻想郷中を探し回らなきゃ見つけられない秘湯なのかしら。

 でも秘湯じゃ宿もなさそうなものだけれど。

「噂ぐらいは聞いたことないかね」

「いや、私も幻想郷に来て日が浅くてね」

 視線を外してまで考え込むが、思い当たるものすら無いようだった。

「少なくとも山にはないね。噂を聞いたこともない」

「そうか……どうしたもんかなぁ」

 頭を掻く勇儀。神奈子が悪いわけじゃないけど、困る。

 私たちの心当たりはもうないのだ。それこそ幻想郷中を探し回るしか手がなくなってしまった。

 本当に、どうしたものだろう。

「温泉……」

「ん?」

 呟きに目を向ければ、神奈子が悪い顔をしていた。

「温泉、温泉か……うん、いいかもねぇ……甲斐の武田もやってたっていうし……」

 なんか……神様というより悪代官とか、そういう表情。

 背が高く切れ長の目をしている神奈子がそんな顔をしているから尚更怖い。

「おーい。戻ってきておくれ」

「あぁ悪い悪い。ついね」

 声をかけたら意外とすぐに普通の顔に戻ってくれた。

「温泉ってのは信仰集めに役立つからさ」

「……そうなのかい? 信仰と温泉ってのはどうにも繋がらないんだが」

「そうでもないさ。『霊験あらたかな神の秘湯』とでも銘打てばコロリとね?」

「それは……詐欺じゃないの?」

 さすがに口を挿む。しかし神奈子は笑って否定する。

「そういうもんだと信じてくれれば奇跡も起こせる。信仰やら神様ってのは存外単純なもんなのさ」

 神様が言うんだからそうなのだろうけれど……本人がそんなこと言っていいものなのかしら。

「んー。宿場を作るってのもいいかもねぇ。宿を作れば参拝客も来やすくなる」

 目的地が今ここで出来てしまいそうな勢いだ。

「また遊びに来るのが楽しみになるね」

「期待しておいでよ。私は行動に移すのが早いのが売りでね」

「んじゃ失礼するよ。またな八坂」

「ああ、また――」

 急に神奈子は辺りを見回し始めた。

 途端苦々しい顔になる。

「あー……星熊、帰り路は気を付けておくれよ」

「言われんでも、というか私は鬼だぞ? なにをそんなに」

「いやね。諏訪子、ここに来た時居た変な帽子被った子がまだ帰ってこないのが気になってね」

 あの石燈籠に座ってた子?

 確かに目が合った時に不穏な感じはしたけれど……

「あの娘っ子が?」

「あれはああ見えても神でね。悪い子じゃないんだが……少々我儘と云うか、なんというか」

 そうして神奈子と別れる。

 しかし、どうにもすっきりとしない別れとなってしまった。
















 石段を下りる。

 勇儀とは、少し距離を置いて歩く。

 雪で彼女の姿が見えづらいけれど、近づけない。

 私は臆病なままで、彼女に触れることが怖くて……

 覚悟を決めたからと、すぐに変われるほど私は強くなかった。

 吐く息が白い。

 山の上ということもあって体の芯まで冷えてしまいそうだった。

 ふと気づけば、勇儀は立ち止まって私を待っていた。

「……ごめんなさい、歩くの遅かったかしら」

 元々活動的でない上に足の長さがまるで違うのだからしょうがないけれど……

 多分、私の気分の重さが尚更に足を遅くしているのだろう。

「いやいや」

 しかし勇儀はさらりと流す。

「手、繋ごう」

 今日、ずっと握られていた熱さを思い出す。

 私を捕まえて離さなかった熱さを思い出す。

「――別に、もう逃げないわ」

「違うよ」

 彼女の顔に浮かぶのは晴れやかな笑顔。

「はぐれないように、ね」

 手が差し出される。

「それとも、まだ私に触れるのが怖いかい?」

「私、は……」

 躊躇う。一歩が踏み出せない。怖くて、しょうがない。

 戦うと決めた。覚悟を、決めた。

 だけど……

 手を握られる。

「いきなり強くならなくてもいい」

 でも、私の手は震えていて、彼女が、怖くて。

「ゆっくり慣れていけばいいさ」

 強く手を握られた。

 勇儀の笑顔が、間近にある。

「大丈夫だよ、私は狂わない。約束したからね」

 握られる力は痛いくらいに強くて、優しさなんて感じられない。

 ただ熱くて、痛くて――勇儀の想いが籠っていて。

「……うん」

 手を握られた、繋いだまま歩きだす。

 あの時みたいに手を引かれて、だけど今度は私の意思で歩いて。

 震えは、いつの間にか消えていた。





 何の変哲もない獣道。

 私には見分けがつかないけれど彼女にはつくらしい。

 ここらへんで上着を脱いだと言って暗い森を探し始めた。

 ……目印になりそうな木もないのによくわかるわね。

 探し始めて四半刻、流石の鬼の目でも苦戦しているらしく美鈴の上着は見つからない。

 私も手伝った方がいいのかな……大して役に立つとも思えないけれど。

「ねぇ」

「お、あったあった」

 声をかけようとした矢先に見つかった。

「雪に埋まる前でよかったよ」

「よかったわね」

 何故か、なんとなく気まずい。応じる声が硬くなってしまう。

「ああ。大して汚れてもいないしほんとよかった。借り物だしねぇ」

 なのに返ってくるのは屈託のない笑顔。

 何故か直視できず、上着を羽織る彼女を横目で見ていた。

「さて、用件は済んだし帰ろうか」

 帰る、か。私はまだしっくりこないその言葉。

 紅魔館は勇儀にとってもう我が家同然なのだろう。

 それでも――今日は色々あった。全身くまなく疲れきっている。

 紅魔館の、借り物のベッドが恋しい。

 まだ帰るとは言えない。戻るとしか表現できない。

 だけど……美鈴の笑顔や、レミリアの不遜な微笑みを見たいと、思う。

「ん……まっすぐ、紅魔館に?」

「そうだな……入口の大蝦蟇に挨拶してから帰ろう」

 勇儀の友達らしき、彼? 彼女? か。

「そうね、態々忠告してもらったし」

「う」

 責める気はなかったのだけれど、責める形になってしまったらしい。

「たはは、耳が痛い」

「あ、いえ私はぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!?」

 え、なに体が浮いていや抱えられてる!?

「あっはっは! 貰っていくよっ!」

「なぁーっ!?」

「パルスィーっ!?」

 なによなにがどうなってるの!?

 足と肩を掴まれてっていうか持たれて……お姫様だっこ?

 勇儀にもされたことないのに! ってそんなこと考えてる場合じゃないわ!

「な、だ、誰よっ!?」

「詮索は後回しさねお姫さん」

 聞き覚えのある声。えっと、確か神奈子の神社の石燈籠に居た。

 一気に加速される。顔に当たる風さえ痛くて、雪なんてもう凶器の域。

 思考が置いてけぼりをくったのか考えがまとまらない。

 私は今、なにをされているんだっけ。

「待てやごるあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「まずは追いかけてくる鬼から逃げる鬼ごっこさぁっ!」

「なんでよおおぉぉぉぉっ!?」

 森に私の悲鳴が響き渡った……














 そして。

「……ぅ、うぇ……っぷ……」

 ばっちり酔った。

「なんだい最近の妖怪は軟弱だねぇ」

 無茶言うな。

 お姫様だっこなんていう不安定な体勢で抱えられて四半刻近く走り回られたら酔いもするわ。

 暗かったからよく見えなかったけど落下に上昇、物凄い加速と急停止の繰り返しでずたぼろよ。

「まーこんだけ逃げればあの鬼も捲けたかね」

 ……っは!

「わ、私になんの用……!?」

 気持ち悪さに忘れかけていたけど攫われたんだっ…………うっぷ。

「大丈夫かい? 背中さすってあげるよ」

 やめ、ちょ余計吐き気が。うぇっぷ。

「いっそ吐いた方が楽になるよ?」

 出来るか……! 私にだって恥とか意地とかそういうもんがあるのよ……!

 乙女の意地にかけても知らない奴の前で吐けるか……っ!

「…………っんんっ」

 よし、飲み込めた。吐き気飲み込めた!

「ふうぅぅぅぅ……」

 大きく息を吐く……いや、出す。吐くとか考えるだけで吐き気がぶり返しそう。

「お、えらいえらい。んじゃ自己紹介しよう」

 ……マイペースな奴ね。

「私は洩矢諏訪子。あんたは?」

「知らないのに攫ったの」

「うん」

 少しは悪びれろ。

 って、すわ、こ? ……神奈子が言っていた……神様?

 少女の容姿。あの時見た顔。妙な帽子。間違いない。

 間違い、ないんだけど……

「…………」

 あの帽子、目玉みたいな玉が二つ付いてて……見られてるみたいでなんか嫌。

「あんたの名前は?」

「え、あ、あの。えっと」

 視線がどうしても彼女の顔じゃなく帽子に向かう……

「……水橋。水橋パルスィ」

「へぇ不思議な響きだね。可愛らしい名だ」

 可愛いって、私と大して身長変わらないのに言われても。

 というか体格どころか顔立ちまで私と年齢差感じさせない。

 妖怪や神様に外見なんて意味を成さないけれど流石にこれじゃあ。

「顔も私好みだ」

 ぐい、と諏訪子の顔が私のそれに近づく。

「ちょ、なに」

「ふっふ――懐かしい臭いがするねぇ」

 言葉通りに臭いを嗅がれている。

「人に忌まれ縋られ疎まれ求められ。清と邪が混じり混じった信仰の臭い」

 首を舐めるように彼女の顔が動いていく。

「キレイでキタナイ人間の傍に居続けたモノの臭い」

 金色の眼が、私の眼を射ぬく。

「私と同類の臭い」

 ――動けない。

 神奈子とは違う、昏く重い沼の底のような神威。

 身動きどころか、呼吸さえも奪われる。

 私から遠過ぎて神奈子と同格としか言い表せない絶大な力。

 外見と、違い過ぎる。

 例えるならレミリア。外見を裏切る圧倒的な力の持ち主。

 畏れられる、存在。

「おや? ――へぇ? 私の力、感じられるんだ?」

 間近で諏訪子の笑みが深まる。口の端が吊り上がる。

 切り裂かれたように赤い口が開いていく。

「水橋、水。存外に私ら相性がいいのかもねぇ、パルスィ」

 こわい。

 怖い、怖い……!

 神奈子や、レミリアが気さくで忘れていた。

 本来、私なんかが近づける相手じゃないんだ……!

「半分妖怪で、半分神か。しかも「祟る」神……くくく」

 か――神、って。

「詳しくはわからんが、守り神の類だろう?」

 確かに、橋姫はそういう側面を持っている。

 橋を渡る者を守るけれど、害を成すこともある妖怪。

 だけどそれが何の関係があるのよ。

 所詮は妖怪。神様じゃ、ないのに。

「ますます気に入ったよ」

 すっと顔が離れていく。

 ――呼吸が戻る。

 本当に、息をするのも忘れるほどに圧倒された。

 尚更、わからなくなる。

 これほどの神様が私如きに何の用があると云うのか。

「はいこれに着替えて」

 ぽんと風呂敷包みが渡される。

 ……うん?

「着替えろ?」

 確かに彼女はそう言った。……着替え?

「着替え、え? なんで?」

 まったくもって意味がわからない。欠片も理解できない。

 いきなり攫っておいて着替えろって。

 流石に胡散臭いものを見る眼を向ける。

「厭かい? なんなら弾幕ごっこで」

 途端噴き出す凶悪な神力。

「わかった! わかったわよ!」

 一瞬で総毛だった。寒気とか鳥肌とか通り越して。

 ……逆らえない。逆らったらどうなるか簡単に想像できてしまうのが怖い。

「って、ここで着替えるの……?」

 深い森の中。誰かの目はないかもしれないけれどこんなところで服を脱ぐ度胸は無い。

「女同士なんだから気にしないでよ」

「いや女同士以前に」

「どうせ誰も来やしないって。私の気配に気付かない馬鹿な獣はこの辺にゃいないよ」

 そうは言っても……

「しょうがないなぁ……じゃあ上だけでいいよ」

 せっかく一式漁ってきたのにー。なんて文句言われても。

 まぁ、これ以上譲歩は引き出せそうにないし、この辺で手を打っておこう。

 というわけで着替えたのだが……

「……なにこれ?」

 袖がない。

 いやあるにはあるけど二の腕で吊るような変なの。

 私の服と構造は似ているが何か違う。

 以前見た巫女のと似てるようなそうでないような。

「おうおう似合うねぇ。早苗が小学生の頃のだけどぴったりだ」

 彼女の服じゃなくサナエとかいう誰かの服らしい。

 勝手に着せていいものなのかしら。

 にしてもショウガクセイってなに?

「私の見立ては間違ってなかったね。そのマフラーはちょっと野暮ったいけど」

 ほっときなさい。これは外せないのよ。

 この服の襟じゃ隠せないし。

「……それで? こんな服着せてなんのつもりよ」

「ほほう。萎れてると思っていたが元気だね」

 人の悪そうな顔。

「活きがいいのは大好きだよ」

「答えになってないわ」

 だが、私だってやられっぱなしじゃない。

 いざとなれば――呪うわ。

「その強気な眼、いいね。元気な方が好みだ」

 しかし私の殺気はあっさりと受け流される。

「なに勧誘さ」

 にやにやと笑ったまま近づいてくる。

 私に危険など、欠片も感じていない。

「勧誘……?」

 よほど己の力に自信があるのか……私を軽く見ているの

「――っ!」

 一瞬で間合いを詰められた。

 また、私の顔に触れんばかりに近づかれている。

 金色の瞳は妖艶に歪められ――

「そうそう――あなたをね」

 蛇に、食われかける錯覚。

 否、事実私はもうこいつの迫力に呑まれている……っ。

「私の」

「お、神様だ」

「ぬぁ」

 空気が弛緩した。

 諏訪子自身が間の抜けた声を出したおかげでなんとか呼吸を取り戻せる。

 声のする方を向くと、帽子を被った少女がこちらを見ていた。

 暗くてわからなかったが川が流れていたようでそこから顔を出している。

「今いいところなんだから邪魔すんな河童!」

「こりゃ失敬。見物は?」

「駄目」

「っちぇ」

 ……本当に間の抜けたやりとり。

 一瞬前までの緊張した空気はどこへやら。

 諏訪子がこちらを向いてさっきと同じ顔をする。

 しかしもう先程のような迫力は感じられなかった。

「ほら、続き」

「いや続きって言われても」

 いっそ哀れだ。付き合ってあげたくなるほどに。

「えーと……何のつもりよ。だっけ」

「そうそう。そんな感じ。って河童! いつまで見てる!」

「っち」

 まだ居たの。

「さて続きだ。あなたをね」

「ほんじゃ失れわたしを踏み台にしたぁぁぁぁぁぁっ!?」

「チェストォォォォォォォッ!!!」

「私のほぐっふぐえええええぇぇぇぇぇっ!?」

 なにが起こった。

 いつの間にか私の目の前に居るのが勇儀に代わってるんだけど。

「無事かパルスィっ!?」

 体中をべたべた触られて怪我がないのか確認される。

「え、あ、うん。まぁ」

「歯切れが悪いぞなにかされたんじゃないだろうねっ!?」

 いや歯切れも悪くなるわよ唐突過ぎて。

 ……ああ、河童がうつ伏せで流れていく。

「ってなにを着せられて……」

「さ、ぁ……説明される前にふっ飛ばされちゃったもんで……」

 がさりと藪の音。

「ぐ、げふっ。ま、マジ蹴りくれたね……!?」

 諏訪子だった。鬼の蹴りをくらってすぐ戻ってくるとはタフにも程がある。

「貴様ぁ! 私のパルスィを攫うたぁいい度胸だブッ潰す!」

「じゃかあしぃっ! いいとこだったのに邪魔しおって!」

「いいとことはどういう意味だブッ潰す!!」

「ははん! パルスィはもう私が貰ったもんね!!」

「戯言ほざくなブッ潰すっ!!!」

 落ちつきなさい勇儀。語尾がおかしくなってる。

「――む? あなた……へぇ。神社じゃパルスィしか見てなかったから気付かなかったよ」

 諏訪子が笑う。

「これまた珍しく懐かしいのが出てきたね」

「それはこっちの台詞だ。古臭い土着の神」

「それこそあなたに言われたくないわ。太古の鬼」

 笑みが深まる。

「末裔でも眷属でもなく純粋種に会えるなんて思わなかったわ。

そこらをうろうろしてる小鬼にゃ避けられてたしね」

「古代の神なんて厄介なのと関わろうとする鬼なんていやしないさ」

 古代の――神? 諏訪子のこと……?

 そんじょそこらの神様じゃないとは思っていたけど、そんな得体の知れない神様だったなんて。

 勇儀が思い切り殺気を放ってるあたり並じゃ――いや。

 私が攫われたんだからこうなってるんであって、諏訪子自身はあんまり関係ないか……

 沸点低くなったわね勇儀……

「それで? なんでパルスィを攫った」

 結局聞けなかった動機。

 そうだ、結局彼女はなんで私を……?

 諏訪子はふんぞり返って余裕の笑みを浮かべてる。

 いや、おなかに下駄の蹴り跡がついてるわよ。

「私の巫女にしようと思ってね!」

 はい?

「は、ぁ?」

 みこ。巫女? 巫女ですって? 私を?

「だってずるいじゃないか神奈子ばっかり。私だって専属の巫女が欲しいのさ」

「いや知らないわよ」

 そんなぶーぶー言われても。

 だって神奈子は祭神だし。あなたがどんな立場か知らないけど。

「パルスィは妖怪だぞ。巫女になんぞ」

「幻想郷じゃ常識に囚われちゃいけないんだろう? 面白いじゃないか妖怪の巫女」

 勇儀の指摘をあっさりとかわす。

 面白いとか言われても困るわよ。

「いや、半神半魔の巫女かな?」

 諏訪子は喉を鳴らして笑いだす。

「くっく、昔早苗が書いてた戯作みたいだ」

「面白そうな戯作だ。是非読ませてもらいたいね」

 意外にも、勇儀が乗る。

「駄目駄目。勝手に読ましたら泣かれちゃう」

「残念。結末を書き変えようと思ったんだがね」

「あれは完結してなかったけど――どう変える気?」

 問われ、勇儀はお返しと言わんばかりに笑う。

「無念にも神様は巫女を得られませんでした、ってな」

 応じる諏訪子も――凶暴な笑みを返す。

「――面白い」

 二人とも構える。互いに退くことなぞ微塵も考えてない笑みを交わしている。

 ……喧嘩っ早いわね。

「自己紹介しとこうか? 舌戦も互いの名前を知らなけりゃ過ぎる風だ」

「――星熊勇儀。鬼さ」

「素直だね、いいことだ――洩矢諏訪子、古い神さ!」

 名乗るが早いか襲いかかる。それを勇儀は寸ででかわすが――

 ……! 触れてもいないのに地面が抉れたっ!?

「随分面白いのと居るじゃないか鬼! 年季の違いこそあれ私の同類と共に在るとはな!」

「ふざけんなパルスィは私のものだーっ!!」

「会話になってないわよ勇儀っ!?」

 思わず突っ込んでしまった。

 冷静になったかと思ってたのに茹だったままなのね……

「調子に乗るなよ千年だか二千年程度しか生きてない小娘がっ!!」

「パルスィは渡さんぞ古いのぉぉぉぉっ!!」

 あぁ、うん。お互いに会話する気ないのね。

 もう好きにしたらいい。

 てくてく歩いて大きな木の下に腰を下ろす。

 うわー。勇儀相手に殴り合いしてるわー。

 よくまぁあの短いリーチで……え!?

「勇儀っ!?」

 明らかに諏訪子の拳は届いてないのに勇儀の体が弾かれてる。

 弾幕かと思ったが違う、諏訪子はなにも飛ばしていない。

 それに弾幕だったら勇儀も対処できる筈……

「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラァッ!!」

「ぐっ、そのふぐっ! ていどっほぐっ! 効くかっご!?」

 勇儀はなにも見えてない。一方的に殴られてる。

 最初の地面を抉った一撃と同じなのか……一体……うん? 

 なにか……黒い影みたいなのが諏訪子の腕から……蛇?

 あれは――私の操る怪物の同類だ。呪いの塊に近い何か。

「勇儀! そいつなんか見えない鞭みたいなの使ってるわ!」

「なにっ!?」

 勇儀は私の声に反応して諏訪子の腕に目を向けた。

 助言したけど、見えないんじゃどうしようもな

「鞭の軌道ならこうだなぁっ!?」

「ぱぎゅんっ!?」

 諏訪子の矮躯が吹っ飛ぶ。

 あははは。今更だけど鬼の身体能力ってどうなってんのよ。

 しかし諏訪子も然るもの、すぐに起き上がる。

「げふっ……ふ、あれが見えたかい……どうやら随分と私と相性がいいらしい」

 ぶちぃっ

 ああ、また血管の切れる音。

 ……本当に沸点低くなったなぁ勇儀……

「パルスィー! 今後何が見えようと絶対言うなーっ!」

「なっ! 卑怯だよ勇儀っ!」

「恋路に卑怯もなにもあるかぁっ!!」

「ならばくらえいっ! ミシャグジ乱舞ぁぁぁぁぁっ!!!」

「ぐへぅっ!? はひゅっ! き、効くかぁぁぁぁぁっ!!」

 また殴り合いを始める。今度は互角だった。

「……はぁ」

 どっちかが力尽きるまで終わらないわねこれ。

 どうしたものかしら。

「あー……やっぱりやってたか」

「神奈子?」

 声に振り返れば呆れ顔の神奈子が立っていた。

「どうしたの?」

「諏訪子の神力を感じてね。よもやと思って来てみれば……」

 大きく溜息を吐いた。

「悪いねぇ。帰るところだったのに邪魔して」

「うん……」

 謝られるけど――不思議と、それほど悪い気はしていなかった。

 確かに強引だったしハチャメチャだったけれど……

「――ふむ。多少は元気が出たかいパルスィ?」

「え」

 元気なんて、出るわけない。

 結局私は己の罪を何も償えていないのだし、それに。

「新参者の私が云うのもなんだけどね」

 神奈子の視線の先には、殴り合ってる勇儀と諏訪子。

「幻想郷には湿った顔は合わないんじゃないかね」

 ――紅魔館を思い出す。黒白の魔法使いを思い出す。

 皆、晴々と……馬鹿騒ぎをしていた。

 美鈴は、レミリアも色々あると言っていた。でも二人は笑っていて……

 あれは――虚勢なんかじゃない、心からの笑顔だった。

「……でも、私は」

「忘れろとは言わんよ。罪をあっさり忘れるなんてのは馬鹿のやることだ」

 その通りだ。だから、私は――

「それでも笑ってる方がいいさ」

 声に、顔を上げようとする。

 しかし頭に手を置かれてしまって上げられない。

「まったく。私もまだまだだなぁ。諏訪子の方がよくわかっていたよ」

 乱暴に頭を撫でられる。

「っちょ……」

「笑っていない奴が居たら笑わせればよかったんだね」

 神奈子の笑みは、私に向いていた。

 ……だから、子供扱いしないでよ。

「ちゅうもぉーくっ!!」

 神奈子の掛け声にざわめきが起こる――って、え?

 見回せば、いつの間にか数え切れないほどの妖怪が集まっていた。

 まぁ……こんな大騒ぎをしていれば当然か。

 しかし、妖怪たちは不安げにしている。それも――当然。

 得体の知れない神様と、畏怖の対象でしかない鬼の四天王が戦っているのだ。

 古い妖怪だろうと新米妖怪だろうと、不安がる他ない。

 彼らを巻き込むのは本意ではない。どうにかして二人を止めないと……

「さぁて――賭けでもするか皆の衆っ!!」

 その妖怪たちに神奈子は声を張り上げる。

 不安げにしていた妖怪たちはその大声に何事かと振り返った。

「守矢神社のもう一人の神! 洩矢諏訪子と戦うのは古にこの地を去った山の四天王星熊勇儀だ!

神と鬼の大喧嘩っ! 千年生きようが二目と拝めるとは限らない大決戦だよっ!

この殴り合いどっちが勝つか! さぁさぁ張った張ったっ!」

 歓声が巻き起こる。

 得体の知れない戦いをお祭り騒ぎにしてしまった。

 ……恐れ入る。場の空気を一変させてしまったのだ。

 神奈子は胴元になるつもりらしく賭けを受け付けている。

「体格で見るなんて馬鹿正直だね! 今諏訪子に賭ければ二倍だよ!」

 ――木の下に戻って座りなおす。

 勇儀と諏訪子はまわりの騒ぎに気付いているのかいないのか、楽しそうに殴り合っていた。

 ふぅ、と吐息を一つ。

「まったく――落ち込んでる暇もないわ」

「楽しいだろ?」

 顔だけこちらに向けた神奈子が笑っている。

「それで、おまえはどっちに賭ける?」

 問われるまでもない。

 私はほんの少しのお金を掲げて答える。

「もちろん」



 湧き上がる歓声



「――勇儀に」









 真夜中のお祭りは、まだまだ終わりそうになかった
君には泣いてる顔なんて似合わない(要約)

というわけで真冬のお祭りでした

二十四度目まして猫井です

ちなみに諏訪子様はミシャグジ様を両手に持ってぶん殴ってるだけです
猫井はかま
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2370簡易評価
9.90煉獄削除
勇儀の切れる音とか発言が良いですね。
ドタバタもしてましたけど、二人のバトルなど賑やかさも感じました。
パルスィの語りとツッコミ、にとり?が脱力させてくれたりとか面白かったです。
13.100名前が無い程度の能力削除
今回はまたドタバタな明るめのお話でしたね。
このシリーズでは勇パルはもちろん、俺の好きな神奈子様もカリスマ度高いので二重においしいです。
16.90名前が無い程度の能力削除
この諏訪子様いいわー。
明るい話の中のぞくっとする一瞬が好きです。
17.100名前が無い程度の能力削除
楽しみにしておりました、そしてお疲れ様です。
徐々に増してくる世界のというか物語の厚みに期待せずにはいられない、珍しく余裕のない姐さんや諏訪子のキャラクターなど見所も多かった。

>「おうおう似合うねぇ。早苗が小学生の頃のだけどぴったりだ」
OK、いろんな意味で把握しました。2828がとまりませんぞw
18.100名前が無い程度の能力削除
勇儀姐さんと互角に殴り合う諏訪子すげぇと思ったのに後書きでミシャグジ様振り回している諏訪子を想像して一気に和んだw
このシリーズはやはり楽しいですね
23.90名前が無い程度の能力削除
橋姫様ちっちぇー
早苗さんの黒歴史にwktk
25.無評価23削除
ドラドラドラドラドラ!w
勇パル続きまーだー?
26.100名前が無い程度の能力削除
ミシャグジ様de乱舞
これに尽きる。
31.100名前が無い程度の能力削除
諏訪子様のケロケロ感の中に見える祟り神のジワリとした怖さが好きな私は大満足

殴られる道具にされているミシャグジ様。
36.100名前が無い程度の能力削除
まて、早苗さんが小学生のころの巫女服が似合うってことは。
パルスィはロリっ子なのか?!!
39.100名前が無い程度の能力削除
身長差カップルだったのかー!?
52.100名前が無い程度の能力削除
「少々我儘と云うか、なんというか」・・・お前が言うなとしか言いようが無いw