Coolier - 新生・東方創想話

甘えたいひと

2009/07/05 01:48:03
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 魔理沙が風邪を引いたらしい。

 不定期刊行の『文々。新聞』を配達しに来た射命丸からそれを聞いたのは、今から一時間ほど前のことになる。



 一時間前。

「どうもご苦労様」
「いえいえ。それでは今後ともご贔屓に」
 
 新聞を受け取り、労いの言葉を掛ける私。
 清く正しい笑顔で、それに答える射命丸。
 彼女は黒い翼をばささと広げ、いざ空に羽ばたかんとしたところで――。
 あやや、と声を漏らすと、再び私の方に向き直った。

「すいません、アリスさんに伝言を言付かっていたのに、伝えるのを忘れていました」
「伝言? 誰から?」
「魔理沙さんです」
「魔理沙?」
「はい。実は今、魔理沙さん風邪を引いていまして」
「風邪!? 魔理沙が!?」
「はい……って、ちょ、ちょっと落ち着いてくださいアリスさん」
「あ、ごめん」
 
 私は思わず前のめりになっていたようで、射命丸がちょっと引いていた。

「……で?」
「あ、はい。つい先ほど、魔理沙さんの家にも『文々。新聞』を届けに行ったのです。しかし返事がなかったので、留守なのかと思ったのです。ところが、去り際、何やら呻き声のようなものが家の中から聞えてきまして」
「呻き声!? 魔理沙の!?」
「はい……あ、あのとりあえず先を喋らせてください」
「あ、ごめん」

 私は更に前のめりになっていたようで、射命丸は大分引いていた。

「……オホン。で?」
「はい。気になったので中を覗いてみると、高熱にうなされている魔理沙さんがいまして」
「そそ、それで!?」
「か、顔近いです。それでですね、とりあえず応急処置として薬を飲ませたりおでこに冷やしたタオルを置いたりしました」
「偉いわ文! よくやった! で、それから?」
「なんか急にフランクになりましたね。それから、とりあえず魔理沙さんの熱もある程度下がったので帰ろうとしたら、魔理沙さんからアリスさんへの伝言を頼まれたのです」

 そして、その伝言というのが。

『私が風邪を引いて熱にうなされていたと、アリスにそう伝えてくれ』

 ……だそうで。
 
 なるほど確かに、それは魔理沙が言いそうなことだった。
 魔理沙の性格上、私に対して、「看病しに来てほしい」なんてまず言わない。いや、言えない。
 だから、自分の客観的な状況だけを伝えてもらう。
 そうすれば、その後私が何をしようが、それは私の意思によるものであって、魔理沙の懇請によるものではない。
 だからどうしたと言われればそれまでだが、たぶんきっと、魔理沙にとっては大事なことなのだろう。
 主に沽券とか、プライド的な意味において。

 だから私は、『私の意思』で、魔理沙の看病に行くことにした。

 私は人形達を総動員してお粥を作ると、冷めないように土鍋ごと風呂敷に包み込み、出しうる限りのスピードで魔法の森上を飛んだ。
 ……流石に、幻想郷最速とまではいかないが。 
  

  
 ――そして、現在。

 かくして私は、魔理沙の家に到着した。
 私は形だけのノックを二回ほどすると、返事も聞かずにドアノブを回した。
 案の定というべきか、ドアは実にあっさりと開いた。
 やれやれ。
 無用心だから施錠だけはしっかりしておきなさいと、いつも言って聞かせているのに。
 まあ今日に限っては、手間が省けてよかったのだが。

 私は遠慮も躊躇もなく、ずかずかと家の中へ足を踏み入れる。
 窓の少ないこの家は、まだ昼過ぎだというのに薄暗かった。

「魔理沙ー。生きてるー?」

 声を掛けながら、ずんずん進む。
 足の踏み場もないくらい、とまでは流石にいかないものの、相変わらずこの家はあちこちに物が散乱している。
 魔術研究に用いているのであろう書籍が大半だが、その他にも、ガラクタのような廃材のような、用途不明の物も多く見受けられる。
 やれやれ、また今度掃除しに来てあげなくちゃと、ついつい思ってしまう私は、ちょっぴり過保護気味なのかもしれない。

 そうして私は、一階の廊下の突き当たりにあるドアの前に到着した。

「魔理沙。入るわよ」

 短く声を掛け、ドアを開く。
 この部屋が、魔理沙の寝室である。
 もっとも、この部屋も――他に比べれば幾分かマシではあるものの――お世辞にも片付いているとはいえない。
 床には、色々な本やらノートやらが散らばっている。

 しかし、ここで注目に値するのは、窓際に置かれた大きなベッドである。
 そう。
 散かり放題のこの家の中で、このベッドの上だけは、余計な物が一つもなく、いつ来ても綺麗に片付けられているのだ。

 私はゆっくりとベッドに近付く。
 真っ白なシーツが掛けられた、大きなベッド。
 お星様模様の厚手の毛布が、丸々としたかたまりとなって、その上にちょこんと乗っかっている。
 おそらくはこの中に、この家の主の小さな身体がくるまれているのだろう。
 
「まったく、蒸れちゃうわよ? そんなにすっぽりくるまっちゃって」
「…………」

 声を掛けてみたものの反応がないので、私は軽く溜め息を吐きながら視線を少し動かしてみる。 
 ベッドの端の方には、可愛らしいフリルのついた真っ白な枕――これまた随分大きい――が置かれていた。
 普段これに顔を埋めて幸せそうに眠っているのであろう魔理沙の寝顔を想像し、思わず笑みが零れる。

 更にその傍には、六体ほどのぬいぐるみ達が和気藹々と並んでいる。 
 その内訳は、左から、くま、くま、ねこ、くま、いぬ、くま、となっており、くま率が高いのは魔理沙の趣向に因るものである。
 なぜ私がそんなことを知っているのかというと、これらのぬいぐるみは全て、私が魔理沙の依頼を受けて作製し、贈呈したからに他ならない。
 ちなみに私が贈呈したくまは確かもう一体いたはずであるが、ここにその姿が見えないとなると、おそらく今は、この毛布のかたまりの中で、持ち主の胸に抱かれているのであろう。

 兎にも角にも、物という物が其処彼処に散在しているこの家で、唯一このベッドの上のみが、綺麗に片付けられており、かつやたらと乙女なムードを醸し出しているという按配である。
 ちなみに私は、このベッド及びその上部空間のことを、心密かに『乙女ゾーン』と名付けている。
 もちろん魔理沙には内緒である。

 さて今私は、この『乙女ゾーン』の中心に位置する、星柄毛布のかたまりを、真下に見下ろす位置にまで移動してきたわけである。
 しかしこのかたまりは、ここまで私が接近し、かつ声を掛けたのにもかかわらず、未だ何の反応も示していない。
 なんとなく悔しいので、いっそ勢いよく毛布をはぎ取ってやろうかとも思ったが、そういや相手は病人だったという事実を思い出し、なんとか堪える。
 後々にまで禍根を残さぬよう、私は再び、かつさっきよりも優しげに、声を掛けることにした。 

「……魔理沙、大丈夫?」

 すると、一瞬の間を置いた後、かたまりがもぞもぞと動き始めた。
 やがて、厚手の毛布がもそりと持ち上がり、パジャマ姿の魔理沙がその姿を現した。

「魔理沙」
「…………」

 魔理沙のパジャマは、薄いピンク色の生地の上に白っぽい花が所狭しと咲いている、これまた魔理沙が好みそうな乙女柄のものであった。
 ちなみに魔理沙の腕の中では、案の定、七体目のくまが抱かれていた。

「…………」

 一言も発することなく、まだ毛布を頭からかぶったままの状態で、じっと私を見る魔理沙。
 その瞳にじんわりと、涙が浮かんでいるように見えた。

「魔理沙、ひょっとして泣い――――」
「…………」
 
 私の言葉を遮るように、無言のまま、魔理沙が私に抱きついてきた。
 魔理沙はベッドに座ったままの状態なので、ちょうど、魔理沙の顔が私のお腹あたりに押し付けられている格好だ。

「ま、まり」
「どうして、もっと早く来てくれなかったんだよ」

 魔理沙の声は震えていた。

「……この三日間、私は一人でずっと苦しんでたのに」
「……魔理沙……」 
 
 ぐいぐいと、魔理沙は私のお腹に顔を押し当ててくる。

「……さびしかったよぅ……アリス……」

 絞り出すような魔理沙の声に、私は強烈な罪悪感を覚えた。
 
「……ごめんね、魔理沙」

 そう言って謝りながら、私は、魔理沙の頭を覆っている毛布を少しだけ後ろにずらした。
 露になった小さな頭に手を乗せて、そっと撫でる。
 いつもはさらさらの髪も、流石に今は汗がこびりついているのだろう、普段よりもごわごわしている。

「……ちゃんと来てくれたから……許す」

 魔理沙は小さく呟くと、一層力を込めて――といっても、普段よりは遥かに弱い力だが――私の腰を抱きしめた。 
 おへそのあたりに、魔理沙の鼻が強く押し付けられて、ひどくくすぐったい。

「…………」
「…………」

 その状態のまま、過ごすこと暫し。
 やがて魔理沙は、私のお腹からゆっくりと顔を離すと、無垢な瞳で私を見上げた。

「……アリス」
「ん?」
「おなかすいた」

 もうすっかり、いつもの魔理沙であった。
 溜め息を一つ吐き、私は返答する。

「……熱はもういいの?」
「さっき、文が薬飲ませてくれたから、今は大分下がってる。そしたら、お腹が空いてきた。もう三日も、キノコのスープしか飲んでない。もう三日も」

 やたらと強調される『三日』という言葉に魔理沙からの非難を感じつつも、私はそれに気付かない振りをして、傍らの机に置いていた風呂敷包みを持ち上げる。
 
「はいこれ。そんなことだろうと思って、お粥を作ってきたわ」
「……じゃあ、早く食べさせて」
「……はいはい」

 まるで子どものように言う魔理沙に、私は思わず苦笑した。
 まあ実際、まだ子どもなんだけど。

 ……しかしなんというか、魔理沙の甘えたがりはいつものことなのだが、今日は特に拍車が掛かっているような気がする。
 喋り方も、なんだか普段より幼い感じになっているし。

 まあでも、今日ばかりは、病者の特権ということで大目に見てやるとしよう。
 三日も、寂しい思いをさせてしまったようだし。
 なんだかんだで、魔理沙には甘い私である。


 風呂敷の包みを解き、姿を現した土鍋の蓋をパカッと開ける。
 たちまち、白い湯気がもあもあと立ち上った。
 これなら、温め直す必要もないだろう。

 一緒に持ってきたレンゲでお粥を掬い、これまた一緒に持ってきたお椀の中にそれを移す。
 常に物が散らかっている魔理沙の家では食器一つ探すのも至難の業であるという、私の経験則にもとづく配慮だ。
 私は半分くらいの量のお粥をお椀に移すと、それにレンゲを添えて、魔理沙の方に差し出した。

「はい。魔理沙」
「…………」

 ところが魔理沙は、なぜかそれを受け取ろうとしない。

「魔理沙?」
「…………」

 魔理沙は、眉根を寄せて私を睨んでいる。
 え? 私、何かまずいことした?
 困惑の私をよそに、魔理沙は静かに口を開いた。

「……アリスよ」
「な、何?」
「私は風邪を引いているんだ」
「うん、それはわかってるけど」
「高熱でうなされているんだ」
「いや、でもさっき大分下がったって」
「自分でお椀を持つことも困難な状態なんだ」
「いや、でもさっきめっちゃ抱きついてきてたじゃないの」
「だから、アリスよ」
「……何?」

 魔理沙の真剣な眼差しが私を射抜く。

「ふーふーあーんで食べさせてくれ」

 私は全身で脱力した。

「……はいはい」

 大真面目な顔でこんなことが言える魔理沙は、やはり常人とはかけ離れた感覚を持っているのかもしれない。


「ふー、ふー」

 かくして私は今、魔理沙のベッドの端に腰掛けて、レンゲに乗ったお粥に息を吹きかけている最中だ。
 何やってんだろう、この七色の人形遣いは。
 
「はい。あーん」
「あーん」

 満面の笑みを浮かべながら、口を大きく開く魔理沙。
 その口の中にそっとレンゲを入れてやると、はぐっ、と、魔理沙は勢いよくそれにかぶりついた。
 仮にも病人とは思えない元気さである。

 ……ていうかこれ明らかに、私が食べさせてやる必要性ないよね。

 私が冷静に自分の行為の意義を問い直していると、途端、魔理沙の顔色が一変した。

「う!? あ、あひゅい! あひゅいよ! ありす!」
「えぇ!? ちゃんと冷ましたのに!?」
 
 私は慌てて、持って来た水筒を魔理沙に差し出す。
 中に入れてあるのは普通に冷たいお茶なので、よくあるコントのような事態にはならない。
 
「んぐっ。んぐっ」
 
 ごっきゅごっきゅと喉を鳴らしてお茶を飲む魔理沙。
 そんなに熱かったのか……。

「ぷはあ。あー、びっくりした」
「こっちこそびっくりよ。ちゃんと冷ましてあげたのに」
「私は猫舌なんだぜ」
「ああ、そういやそうだったわね」

 つくづくお子様ねえと思うものの、また機嫌を損ねられると面倒なので口には出さない。

「でも、味は美味かったぜ。流石はアリスのお粥だ、安定感がある」
「……そりゃあ、どうも」
「さ、次次。今度はさっきの倍、冷ましてくれ」
「……はいはい」

 これこそまさに、喉元過ぎれば何とやら、だ。
 またニッコニッコと嬉しそうにしながら次のひとくちに備える魔理沙を前に、私はふーふーふーふーとさっきの倍の仕事量に従事する。
 まるで、雛鳥に餌付けする親鳥のような心境だ。
 
「はい。あーん」
「あーん」
 
 はぐっ、と、さっきと同じ要領でレンゲにかぶりつく魔理沙。
 しかし今度は、さっきのように顔色が変化することはなく、ニコニコ笑顔を保ったまま、もぐもぐとお粥を噛み締めている。
 
「今度は大丈夫みたいね」
「うん。ちょうどいいぜ。はふはふ」
「そう、よかったわ」
「ささ、次次」
「はいはい。そう急かさないで」

 ……てなことを何度か繰り返しているうちに、いつしか土鍋のお粥は空になっていた。

「ご馳走さまでした」
「お粗末さまでした」

 互いに向き合い、礼を言う。
 親しき仲にも礼儀ありだ。

「あー、美味かった。生き返ったぜ」
「それはよかったわ」

 魔理沙は笑顔を浮かべ、満足げにお腹をさすっている。
 食べさせている間は様々な疑念と葛藤していた私だったが、まあこうして魔理沙の満足そうな顔が見れたのだから、結果オーライだ。
 私は一つの物事に固執しないタイプである。

「さて、と」

 ベッドに腰掛けたまま、窓の外を見る。
 まだ日は高いが、魔理沙の体調を考えるとあまり長居をすべきではないだろう。

「じゃあ、私はそろそろ……」
「えっ?」

 一瞬にして、魔理沙の笑顔が消えた。

「いや、お暇しようかなと」
「…………」

 魔理沙はまたしても、眉根を寄せて私を睨み始めた。
 私の背中をたらりと嫌な汗が伝う。
 
「いや、だってほら、魔理沙はもう少し寝てないといけないでしょ?」
「…………」
「今は熱も引いているみたいだし、お粥も食べたし、後は安静にしておけば明日の朝には治ってると思うんだけど」
「…………」
「えーっと……」
「…………」

 魔理沙は暫しの間、無言で私を射抜いていたが、やがて静かに口を開いた。
 
「……アリスよ」
「何?」
「……知ってるか?」
「な……何を?」

 ごくりと息を呑む私。
 魔理沙は真剣な表情で告げた。

「魔理沙は、寂しいと死んじゃうんだぜ」

 再び、私は全身で脱力した。
 額に手をやりつつ、溜め息混じりに返答する。

「……それは、ウサギのことでしょう」
「馬鹿を言うな。あんなのんきな顔して人参かじってるようなやつらが、寂しいくらいで死んだりするもんか」
「それは……」

 そうかもしれない、と、思わず納得しかけてしまった。
 というのも、あの腹黒い方のウサギの顔が私の脳裏をよぎったからだ。
 だがすぐに、もう一羽の、涙目が似合う方のウサギの顔を思い浮かべ、あながち間違ってもいないのではないかとも思ったが、そもそも今はそんなことに思考を費やしている場合ではないと思い出した。

「……分かったわ。じゃあ魔理沙が寝付くまで、ここにいてあげるから。それでいいでしょ?」
「…………」

 返ってきたのは、またも私を襲う沈黙の視線。
 まだ不満だと仰りやがりますか? この姫は。

「……アリス」
「なに?」
「……朝まで、一緒にいてくれないの?」

 ……こういうときだけ、そういう口調になるのは反則的だと思うのですが。
 やれやれと、私はもう何度目か分からない溜め息を吐く。

「……分かったわよ。じゃあ、朝までいてあげるから」
「ホント!?」
 
 途端に、キラキラと輝き出す魔理沙の瞳。
 本当に分かりやすい子だ。

「……ええ。その代わり、しっかり寝て、ちゃんと治すのよ」
「もっちろん! 流石アリス、話の分かる女だぜ!」
 
 さっきまでのじめっとした雰囲気はどこへやら、魔理沙は実に溌剌とした笑顔を浮かべている。
 そして魔理沙は、ばさっと全身を毛布でくるむと、顔だけをミノムシのように出した状態になり、そのままベッドに横になった。
 
「えへへへ」
 
 何がそんなに嬉しいのやら、一人できゃっきゃと笑いながら、ベッドの上でくねくね動いている魔理沙。
 ミノムシというよりは、まるでシャクトリムシみたいだ。
 
「まったくもう。そんなにはしゃいでたら、治るものも治らなくなるわよ」
「分かってるぜ」

 そう言うと、魔理沙は毛布を身体から離し、ばさっと広げた。
 そして、毛布とベッドの隙間にいそいそと入り、頭をぼふっと枕の上に置いた。
 うむ、素直でよろしい。

 ……っと、いつまでもこうして私がベッドに座ってたら、邪魔になるわね。
 そう思って腰を上げたところ、

「あっ」

 魔理沙が小さく声を漏らした。

「ん? どうしたの?」
「あ、いや……その……なんでもない、ぜ」
「?」

 さっきまでのハイテンションが嘘のように、急に大人しくなる魔理沙。
 毛布の端をずずずっと引き上げ、目から上だけを覗かせる。

「どうかしたの?」
「あ、いや、うん……」
「いいから、言って御覧なさいな」
「うん……」

 魔理沙はもじもじとしながら、呟くように言った。

「アリスに、一緒に寝て……ほしいんだぜ」
 
 魔理沙はそう言うと、更に毛布をずずずと引き上げ、顔全体をすっぽりと隠してしまった。
 
「……やれやれ」

 苦笑混じりの溜め息を吐き、私は上げかけていた腰を下ろすと、そのままベッドに寝転がった。
 そして毛布の端をめくり、その中に入る。

 暗闇の中で、目をパチクリさせているお姫様を発見した。

「お邪魔します」
「い、いらっしゃいだぜ」
「自分から誘っておいて、何緊張してるの」
「べ、別にしてないぜ」

 魔理沙の声は上ずっていた。
 まったく、何をそんなに動揺しているんだか。
 私がくっくっと笑うと、魔理沙は少しむっとした表情になった。
 
 ……もう、すぐご機嫌斜めになるんだから。

「……魔理沙」
「ん?」
「おいで」
 
 毛布の中で、私は両手を広げた。
 魔理沙は一瞬、驚いたような顔を作ったが。

「…………」

 何も言わず、もそもそと動くと、私の腕の中に収まった。
 ちょうど、私の顎が魔理沙の頭に乗る形になった。

「魔理沙、あったかいわ」
「……風邪、だからな」
「ああ、そういえばそうだったわね」
「……こんなにくっついて、うつっても知らないからな」
「あら。じゃあやっぱり離れましょうか」
「えっ……」
「冗談よ、ふふ」
「……決めた。絶対にうつしてやる。ごほ、ごほ」
「あらあら。じゃあ今度は、私が魔理沙に看病してもらわないとね」
「……ふん。望むところだ。茸入りお粥をお見舞いしてやるぜ」
「ふふっ、それは楽しみだわ」
 
 毛布の中で交わされる、言葉と言葉のキャッチボール。
 飽きることも、尽きることもなく、私と魔理沙はボールを投げあう。
 
 ……しかし、最初はリズムよく続いていたそれも、時間が経つにつれ、徐々に返球速度は落ちていく。

「……ふああ」
「魔理沙、眠いの?」
「……うん」
「じゃあ、もう寝なさい」
「……うん」
「おやすみ、魔理沙」
「おやすみ……アリス」

 そう呟いた直後、魔理沙は私の腕の中で、気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
 もう限界だったのだろう。

「……ふああ」

 そしてどうやら、私の瞼も、重力との戦いに白旗を上げる準備ができたようだ。  

「……おやすみなさい、魔理沙」

 魔理沙の温もりを感じながら、私はゆっくりと、まどろみの中に落ちていった。





ということで、前作に引き続き、マリアリなお話でした。
魔理沙のお子様度が三~四割増しになっているような気もしますが、それはきっと風邪を引いていたせいです。
そういうことにしておいてください。

それでは、最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
まりまりさ
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コメント



0.3670簡易評価
4.100奇声を発する程度の能力削除
たまんねぇ!!!!
夜中なのにニヤニヤが止まらない!!!!
どうしてくれる!!!
6.100歓声を上げる程度の能力削除
なんかしてやられた感じです。
もうニヤニヤします。
見習いたい感じですねー
8.100名前が無い程度の能力削除
乙女すぎるぞ魔理沙www
9.100名前が無い程度の能力削除
うん、まあ、なんだ。
このバカップルめwww
14.100名前が無い程度の能力削除
グゥレィトゥ!
文句だぜッ!
25.100名前が無い程度の能力削除
あなたのマリアリは読んでて気持ちが良い。
もっとやれ!やってください!!
27.100名前が無い程度の能力削除
読んでて悶えた
35.100名前が無い程度の能力削除
PCの前でニヤニヤしながら悶えてる俺キメェwww
甘え魔理沙とお姉さんアリスの組合せってのは破壊力絶大だよな
37.100名前が無い程度の能力削除
最初から最後までニヤニヤが止まらなかった。
ここまでノンストップ甘々作品も久しぶりなんだぜ。
38.100名前が無い程度の能力削除
ああいいものだ。
頬が緩みっぱなしになるぜ。
43.100名前が無い程度の能力削除
ままー このSSあますぎー
45.100名前が無い程度の能力削除
砂糖が吹き出る甘さですな。おお、甘い甘い。
48.100名前が無い程度の能力削除
ああ、久々に砂糖吐いた。
甘すぎでしょう。。
50.100謳魚削除
この魔理沙さんにすら萌えないですと…………っ!

どうなっているんだ自分っ!

でも好きです。
53.100名前が無い程度の能力削除
この甘えっ子め!
かわい過ぎるわw
56.100名前が無い程度の能力削除
甘すぎるんよー
ニヤニヤが止まらんのよー
どうしてくれんのよー
59.100名前が無い程度の能力削除
2828がとまらない!
なんて甘え上手な魔理沙(*´д`)
61.100名前が無い程度の能力削除
やばい、頬が緩みっぱなしだ
苦いコーヒーでも淹れてくるわw
64.100名前が無い程度の能力削除
風邪をひいた魔理沙のお子様度は3~4割アップっ……!!
つまり、アリスのお姉さん度もそれだけアップするってことだったんだよ!!
65.100名前が無い程度の能力削除
うぉぉー
甘いぜ!!
70.無評価名前が無い程度の能力削除
甘い……シンプルに甘い……。こういうのを求めていた。
ぜひ次回作を…
72.100名前が無い程度の能力削除
あまーい!!
74.100名前が無い程度の能力削除
あま~~~いwww
80.100名前が無い程度の能力削除
ぐへあっ! 甘すぎだw
88.100駆け出し文士削除
うーんあまい。
甘いマリアリは……この世の極楽……ですなぁ
いつかこんな作品が書きたいものです
92.100名前が無い程度の能力削除
もうだめかも知れんね、この二人。
101.100非現実世界に棲む者削除
甘える魔理沙が凄く可愛い!
アリス特製のお粥も食べてみたい。
ああもう、甘過ぎて砂糖流出が止まらないぜ。
マリアリフィーバー!