Coolier - 新生・東方創想話

知るための努力

2009/07/04 17:51:34
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「捜しましたよ、射命丸様」

 木の上に寝そべっている私に、下から声を掛ける椛。

「あーあー見つかっちゃったか。せっかく椛対策の隠れ場所だったのに」
「苦労しましたよ」

 千里眼から隠れるために、この緑で一杯になっている木の中へと隠れていた。
しかし、バレてしまったから、もう今後椛には通用しないだろう。
 未だに降りて来る気配が無い私に、椛は大きく溜め息を吐く。

「射命丸様、仕事なのですから……」
「私には新聞があるから」
「新聞作るのは個人、しかし仕事は天狗社会全体に影響を及ぼします。さぁ、早く」
「侵入者撃退とかなら楽だけど、資料や報告書を纏めるのなんて面倒」
「それが社会というものです」

 ちらりと目線を下に向けると、椛のまっすぐな瞳が見えた。真面目で融通のきかない、それでいて純粋。そんな椛が、私はちょっと苦手だった。
 気楽で自由に生きたい。そんな私とは対照的な性格が椛だ。
 規律を守り、己の役目を果たすために日々修行を怠らない。ゆえに椛の体には生傷が絶えない。私からすれば、何必死に頑張ってるんだか、といった感じだ。

「大体さ、私がサボれば椛も自由なわけですよ?」
「私は大天狗様より直々に命じられたことを全うするだけです」

 うっとうしい。
 片手で捩じ伏せることは可能だが、大天狗の命令で椛は来ているため、迂闊な真似は出来ない。
 生活がだらしなかったり、仕事も書類関係はすっぽかす。そんなことをしていた私に、大天狗が椛を世話係に命じたのだ。
 私は最初抗議した。しかし、大天狗は私が椛のようなタイプを苦手としているからこそ、送り込んだと言った。もちろん、大天狗の命令を私が覆すことが出来るわけもなく、今に至る。

「さぁ、降りて来て下さい。射命丸様」
「やだ」
「……ふざけないで下さい」
「悔しかったら私を落としてごらんなさい」
「分かりました」

 私はまだ短い間だが、椛の性格を大体掴んでいた。
 真面目すぎ、意外に短気。

「私に傷一つ付けられたら、仕事をしてあげます。だけど、出来なかったなら今日はフリーで」
「良いでしょう」

 そして、必ず約束を守る。決して嘘はつかない。
 それだけ分かっていれば、十分だ。
 椛は毎日修行を欠かさない。自由気ままに生きている私とは、大違い。

「参ります。約束、忘れないで下さいよ」
「かかって来なさい。実力の差を教えてあげる」

 椛は頭上の私目掛けて、弾幕を放つ。数は中々、勢いも及第点。
 だけど、遅い。

「数が多くても、勢いがあっても、当たらなければ意味は無いわよ」

 私は木の上から動かない。落としてみろ、と言ったのだから動く気は無い。
 迫り来る弾幕を、風で逸す。強烈なまでに激しい突風が、椛の弾幕を地に伏せる。私に迫っていた全ての弾幕は、風で押し戻され、地に居る椛へと牙を向く。

「はっ!」
「ほぉ……」

 しかし、椛は怯えることなく、自慢の剣技で捌く。捌き切れないものは、横へステップし、紙一重でかわす。
 前回は、ここらへんで潰れたのに。うん、やっぱり成長してるのね。

「あやや?」

 身軽なステップで、いつの間にか椛が徐々に迫って来ている。なるほど、接近戦に持ち込む気か。私は椛と接近戦をしたことが無い。私の弱点と考えたのか。そして、私の考えでは椛は接近戦を得意とする。

「覚悟!」
「まだまだ浅いわね」

 風を操る。突風を起こして、椛の動きを鈍くする。
 椛は必死に堪えて、吹き飛ばされてはいない。だが、先程までの身軽なステップは無くなった。

「突っ込むだけなら、それこそ野良犬でも出来ますよ」
「っ!」

 ちょっと挑発をしてみる。さてさて、短気な椛はどう反応するかな。

「なら……野良犬はこんなこと出来ませんよ!」
「あやっ!?」

 椛が、盾を手裏剣のように投げてきた。
 私は勢い良く迫るそれを、慌てて顔を横に逸して避ける。
 おお、これは予想外な行動だ。うん、ひやひやしたけど面白い。

「隙有り!」

 あ、今の一瞬で風を操るのを止めてしまっていた。
 眼前に、白い、いや銀色かな。綺麗な銀髪が現れた。剣を持つ腕を、大きく振りかぶっている。
 風を操る余裕は無い。

「残念でした」
「え?」

 悪戯っぽく笑って、椛の腹部を蹴る。
 椛には残念だけど、私の方が断然速い。そして、椛は私が接近戦を苦手と予想してきたが、私は接近戦も得意。いや、長距離戦よりも断然得意かも。
 私の蹴りは予想外だったらしく、椛は吹っ飛んで地に落ちたまま動かない。かなり効いたようだ。

「椛、実力差のある相手に攻撃をする際、大きく振りかぶるのは禁物よ。せっかくの隙に強烈な一撃を与えたいのは分かるけど、その分あなたの隙が大きくなる。本当に強い者は、そんなチャンスを逃さない」
「……はい」
「でも、今回は前回より成長してたわね。もし、最後の一撃を大きく振りかぶって無かったら、一撃食らってたかもしれません」
「そんなこと、ありません」

 寝転がっていたままの椛が、起き上がる。
 せっかくの綺麗な髪か、土に汚れてしまっていた。まぁ、私がやったんだけど。

「射命丸様は、一度もスペルカードを使っていません。本気の弾幕も。それに、その場所から動きませんでした。どう足掻いても、私の負けでした」
「う~ん、それでも良くやった方だと思いますよ。詰めは甘いし、まだ未熟な部分が目立ちますが、椛はこれからもっと強くなるでしょう」
「同情は要りません」

 ありゃ、不貞腐れたかな。いや、悔しかったのかな。
 椛の表情は、この高さからだと分からない。

「同情じゃあないわよ。私が今まで嘘を吐いたことありますか?」
「はい。覚えている限りでも二十回以上は」

 あー、信頼感は限り無く零のようで。自業自得だけどね。
 でも、今回のは本心なんだけどね。

「それでは、失礼します」
「あやややや? 何処へ行くのです?」
「約束ですから、今日はもう自由にして下さって結構です」
「椛はどうするの?」
「……」

 むむむ、上司の質問に答えないとは、生意気な。なんて、ね。多分この子の性格からして、修行するでしょうね。悔しくて、たまらないだろう。
 大きな傷は無いとはいえ、服も心もボロボロだろうに。

「椛、今日一日休みなさい」
「嫌です」
「上司命令よ」
「私は射命丸様の直属部下ではありませんから」
「むぅ……頑固者ですねぇ」
「ええ、よく言われます」
「しっかり休まないと、次は今より弱くなってるかもね」

 あ、椛のふさふさな耳がぴくって反応した。
 面白いなぁ。

「ちゃんと休まなきゃ、強くなれるものもなりませんよ」
「……分かりました。それでは」

 一礼をして、椛は去って行った。

 さて、自由になれたは良いが、正直特にすることは無いのよね。
 仕方無い、新聞のネタを探しますか。

「と、思ったけど……昨日見回ったばっかりなのよね」

 大体は昨日回ってしまった。紅魔館や博麗神社なども。特に目新しいものは、無かった。

「新しい場所……そうだ!」




◇◇◇





「というわけで、椛の家を取材しに来ました」
「帰って下さると嬉しいです」
「嫌です」
「大体、休めと言ったのは射命丸様では無いですか」
「ふむ、確かにそうですね」

 椛が疲れた表情で、私を嫌そうに見ている。
 う~ん、そうだ。

「なら、今日は私が椛の世話をしてあげます」
「は?」
「いつもは私が世話されてますから」
「いえ、結構です」
「椛も世話される気持ちがどんなものか、味わうと良いですよ」

 ちょっと強引に、椛の家へと入る。
 随分と簡素だ。
 木製の箪笥に卓袱台。部屋の隅には布団が綺麗に畳んだある。それ以外には、特に何も無い。少女っぽい可愛らしい人形一つ、有りもしない。まぁ、椛が人形で遊ぶようには見えないけど。

「何も無いですよ」

 部屋に入った私を、溜め息吐きながら椛が追って来る。

「ですね。新聞に『犬走椛、実はお人形遊びが趣味だった』とか書きたかったのですが」
「人形なんて、私には似合いません」
「案外似合うかもしれませんよ? 今度アリスさんに頼んでおきましょうか?」
「アリスさん、って誰ですか?」
「人形を扱う魔法使い。そっか、椛は知らなかったのですね」

 アリスさんは結構有名だと思うのだが、知らないのか。もしかしたら椛は、妖怪の山組織内しか知らないのでは無いだろうか。

「椛って、世間に疎いんですか?」
「というか、興味ありません」

 世間に興味が無いなんて、とことん私と真逆だ。

「私たち、真逆ですよね」
「そうですね。私は射命丸様が理解出来ませんし」
「う~ん……取材ターイム!」
「は?」

 突然大声を上げる私に、きょとんとしている椛。
 椛のこんな表情見るのは、初めてだ。

「椛、趣味は?」
「え、将棋です」
「休日は何してますか?」
「修行を」
「好きなタイプは?」
「そうですね……って何ですかいきなり!」

 むぅ……勢いに任せて結構取材出来そうだったのに。
 せめて好きなタイプを知れば、面白かったのに。

「何って、知るための努力です」
「は?」
「椛は私が理解出来ない、と言いました。私も椛が理解出来ません。というか正直、椛苦手です」
「まぁ、好かれてるなんて思ってませんが」
「ですが! それは互いをまだ知らないからです! ならば、知るための努力が必要でしょう。よく知らないのに、相手を嫌うなんて愚かな行動です!」
「は、はぁ……?」

 そう、相手をよく知らないのに嫌いだなんて言ってはいけない。なんて、今思ったんだけどね。
 椛は私の勢いに負けて、少したじろいでいる。

「私が知ってる椛のことと言えば、頑固者、短気、純粋、真面目とかしか知らないですし」
「結構知ってるじゃないですか」
「さぁ、椛も遠慮無く私に質問して良いですよ!」
「興味ありません」
「ぬぁっ!?」

 キッパリと一刀両断された気分。
 思わず変な声を上げてしまった。そんなに私に興味が無いか。いや、好かれて無いのは分かってたけど。

「いや、正しくは興味がありませんでした」
「はい?」
「でも、今では、射命丸様がどうしてあんなに強いのか、何故私を完全に拒絶しないで、私を知ろうとするのか、いろいろと気になります。射命丸様という存在を、知ってみたいと思ってます」

 うわ、何か聞き方によっては恥ずかしい台詞だ。
 それなのに、椛はいつも以上にまっすぐな瞳で言うものだから、私は余計に恥ずかしい。

「射命丸様、えと……その」
「どうしました?」

 まっすぐな瞳が、今度は揺れている。何か言いづらいことでも、あるのだろうか。椛がこんなにも落ち着きが無いのは、珍しく思えた。
 椛が唾を飲み込む音が、聞こえた。

「しゃ、射命丸様!」
「は、はい!?」

 突然の大声に、私はびくっとする。

「あの……ご趣味は?」
「……は?」
「で、ですからご趣味は?」
「えと、それ訊くためだけに、あんな緊張してたの?」

 あまりにも予想外で、思わず取材モードが解けてしまった。
 椛は顔を赤くして、

「わ、悪いですか!? こういう、他人と触れ合うこと慣れて無いんですよ! しかも、改めて何かを訊くなんて恥ずかしいじゃないですか!」

 と言った。
 あー、確かに椛は今まで他人に興味持って無かったみたいだし、慣れて無いのかも。けど、ここまで可愛らしい反応をするとは思わなかった。
 思わず笑いが込み上げてくる。

「あー笑わないで下さいよ!」
「ご、ごめん……くっ、だって予想外過ぎて」
「かなり勇気出したんですから……」
「そうね、私の趣味は新聞作り。ネタは自慢の速さで幻想郷を飛び回り、集める。他に質問は?」
「ぅ~……今日はもう良いです」
「あやややや、そうですか」

 再び取材モードに切り替える。
 さて、そういえば今日一日椛を世話すると言った。

「椛、何か食べたい物ありますか?」
「え、あの……私がやりますよ」
「世話すると言いましたから」
「私、射命丸様が料理するところを見たことが無いのですが」
「安心して下さい。数年振りですが、必ず美味しい料理を作ってみせます! えーと、隠し味にすり下ろした賢者の石を少々……パチュリーさんからお裾分けして貰っておいて良かった」
「何作る気ですか!」
「私オリジナルのゆでたまごです」
「ゆでたまご!? もうやめて下さい……私が料理します」
「冗談ですよ。あややややジョークです」

 椛は冗談が通じないなぁ。さて、久し振りの料理だ。本気でやろう。多分、腕は落ちて無いとは思う。
 出来上がった頃には、この溜め息ばかり吐いている椛を、笑顔に変えてやるくらいの料理が出来上がっているだろう。

「物凄い不安です」
「腕は落ちて無いですよ」
「本当ですか、それ?」
「大丈夫ですよ。私が椛に嘘吐いたことありますか?」
「はい、覚えてる限りでも二十回以上」
「……ですよね」

 本日二回目の同じようなやりとりをする。
 こうなったら、意地でも美味しい料理を食べさせてやる。

 そんなことを考えながら、私が塩の入った入れ物だと思って掴んだ物は、醤油瓶だった。
どうもです。喉飴です。19度目です。
椛と文の微妙な関係、少しでも楽しんで下さると嬉しいです。
個人的には、文は器用で、簡単に料理が出来そうだと思います。ただ、冒険心で何か隠し味を入れて失敗しそうなイメージです。
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
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コメント



0.1670簡易評価
3.70修行削除
さぁ早く続きを書く作業に戻るんだ!この後がこんなに気になる話はそうそうない!
7.90名前が無い程度の能力削除
もみじもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ
10.80名前が無い程度の能力削除
なかなか、難しい関係ですねw
でも、きっと二人ならいつの日にか
仲良くおしゃべりしている気がしますwww
11.90名前が無い程度の能力削除
まほらが黒歴史に近いなんて書かれてたから、続きを見れないと思ってたw
25.100奇声を発する程度の能力削除
>塩の入った入れ物だと思って掴んだ物は、醤油瓶だった。
よくあるよねwww
27.90歓声を上げる程度の能力削除
なんか続きが気になりますね。

文と椛がじゃれ合うのが見てみたいです
30.100名前が無い程度の能力削除
期待
32.80名前が無い程度の能力削除
珍しくこの喉飴は甘くないですね
いつもは糖分過大なのに
でもこんな酸っぱい味もいいですね
33.100名前が無い程度の能力削除
塩分=涙分
流石に無茶振りか。
36.100名前が無い程度の能力削除
面白すぎる!
続き読みてぇ~。
37.90名前が無い程度の能力削除
続きが気になります!
さあ作業に戻るんd
40.50名前が無い程度の能力削除
作品自体は百点。
でも物足りないんで半減で。