Coolier - 新生・東方創想話

愛と平和のカネシ醤油

2009/07/03 04:23:42
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「うう……なんで私がこんな目に……」

 何故、私は幽々子様の代わりにこんな事をしているのだろう。
 そもそも、私の仕事は庭師であって、幽々子様の奴隷でも家政婦でもメイドでもないのだ。

(私が庭師だって事、幽々子様は忘れてらっしゃるんでは……)

 実際の所、家事・掃除・洗濯その他の雑用の全てを私がやっていた。
 まぁそれはもう慣れたので問題はないのだが、少しだけ愚痴を言うとすれば、人に使いを頼む時は説明くらいしてほしい。

 私――魂魄妖夢は今、炎天下の中、列に並んでいる。
 暑い。暑すぎて半霊がとろけるチーズ状態だ。
 列の先にあるのは、今話題沸騰中の人気料理店である。それにしても、これだけの人数が並んでると、どこから沸いてきたのかちょっと不思議になってくる。

「負けないからな!」

 その横で、魔法使い霧雨魔理沙が汗をだらだらと垂らしながら威嚇する咆哮をあげている。
 その内容から察するに、どうやら彼女は私と勝負事をする気らしい。

(料理屋で何を勝負する気なんだろう……)

 幽々子様からは何も説明を受けていないので、端から訳がわからなかった。


 最近、外の世界からやってきた新しい料理 ――ジロウ。
 このジロウという料理は、ラーメンというものの一種だという。
 私は、珍しい事に食べすぎでおなかを壊し動けなくなった幽々子様の代わりに
 魔理沙に会いに来ただけなので、他の情報は一切ないのだ。
 ジロウというのがどういう食べ物かも正直よくわからないし、ラーメンというモノだってそうだ。
 響きがどっかの宗教のお祈りの言葉に似てるな、とちょっと思ったくらいで、要するに何も知らない。
 あまり気は進まないが、とりあえず魔理沙に聞いてみることにしよう(なんか勝負する気みたいだし)。

「あの」

「ん? 何だー」

 暑さのせいか、ちょっとだるそうに答える魔理沙。

「そもそも、勝つだの負けるだのって……幽々子様とどんな約束をしてたんですか? ていうかそもそもジロウって何」

「え、おまえ、幽々子の代わりに来たんじゃないのか?」

「一応、そうなんですけどね。幽々子様から何も教えてもらってなくて……」

 魔理沙はちょっと難しそうな顔をして、
 ちょっとしてから、はっとしたように言う。

「……待てよ。これはもしかして勝利のチャンス!」

 そんな事をのたまう魔理沙。
(いや、そっちこそ待って下さいよ)
 そんな事をちょっと思うが、突っ込む気もまるで起きない。魔理沙はそんな私を意に介さず続ける。

「勝負は勿論、おごりを賭けたロットバトルだ」

「ロットバトル? って、何ですか」

「同ロットで早く食ったほうが勝ち。まぁすぐにわかるぜ」

「はぁ」

 なんだ、早食いバトルか。
 早食いバトルであれば、普段早く食べないと幽々子様の餌食になってしまうような食生活を送っているので、少しは自信がある。

「ルールは簡単、大豚ヤサイトリプルニンニク増し増し他全部増し。
 カウンターにおかれた瞬間が、戦いの始まりだ。ちなみにツバメ返しは禁止だぜ」

 なんだかよくわからない事を言っているが、文字通りサッパリだ。
 おおぶたヤサイとりぷるにんにくマシマシほかぜんぶまし……?
 野菜とかニンニクとか知っている単語もあったので、メニューか何かなのだろうか。

「ジロウを知らないなら、……それも見たほうが早いかもな」

 この間、終始ツウなオーラを漂わせながらの魔理沙。

(結局、理解できる情報は何にも得られなかったわけだけど……)

「次の方ーッ 大か小かお願いしますッ」

「小少なめで」

「小少なめですねーッ」

「ハイ次の方ーッ 大か小か……」

 列がはけ、私たちが前に進むにつれてそんな声が聞こえてくる。
 大? 小? いったい何の大きさの話をしているのだろう。
「ジロウ」の大きさを聞いているとすればそもそも、なんで中のサイズはないのだろうか。

「大か小かって……あれ何ですか?」

 無駄だと思いつつも、とりあえず聞いてみる。

「ん、私らはもちろん大だぜ?」

「いや、それ答えになってな……」

「ハイ次の方ッ! 大か小かッ」

 私の声は、「ジロウ」の声にさえぎられてしまった。

「大だぜ」

 即答。
 それはちょっとフライングすぎるんじゃないか、と思う程である。
 他の人の反応のはやさもちょっと凄いが、魔理沙はそれ以上であった。

「大ですねーッ!」

「それじゃもう一人ッ! お願いしますー大か小かッ」

 次の人……って、あれ、誰も答えない。

「え、えっと……?」

 ……もしかして自分? ようやくその発想に至ると同時。

「ほら妖夢、おまえだ」

 そんな事を言われる。ちょっと恥ずかしい。

「あ、ああ、はい。じゃあだ……」
「こいつも大でお願いするぜ」

「ハイ、大ですねーッ」

 言い切る前に、魔理沙がかわりに答えてしまった。


 それから約5分。私と魔理沙はようやく店内に入った。
 魔理沙は私のお金をひったくって、金の帯が入ったグレーの食券を2枚買ってくる。うち一枚と釣銭を、私に渡してきた。
 入るまで注意してみていなかったが、店内は以外と狭い。

 席はカウンター席のみで、他にある物といえば、食券の自販機、冷水気(その上におぼん、そしてコップが逆さにつまれているので、おそらく自分でつげという事なのだろう)くらいだ。

 とりあえずコップをとり、水をくんでその場で飲み干す。直射日光を浴びていた体には嬉しかった。
 再び水をくんで、空いた席につく。
 見ると、魔理沙も隣の席で水をゴクゴクしていた。

(あれ……そういえば)

 半霊って冷たかったような。
 とりあえず、半霊を抱いてみる。思ったとおり、ひんやりして気持ちがいい。
 もふもふ。

(なんで並んでいる時に気がつかなかったんだろう……)

 と思ったのだが、後の祭りだった。


 そんな事をやっていると、私たちの直前に席についた客に、ジロウが出される。

「小の方ー、ニンニク入れますかーッ?」

「ヤサイ増し増しニンニクで」

「ヤサイ増ァし増しニンニクですねッ」

 会話が成立していないようにしか思えないのだが、どうやらこれはトッピングを聞いているようだ。
 といっても、返しの言葉は呪文にしか聞こえないわけなんだけど。
 さっき魔理沙が言っていた、野菜とりぷるなんたら、っていうのもこれなのだろうか?
 それにしても、ジロウって量が多いんだな。そういえば、当店のラーメンは量が多いですって、入り口に張り紙があった気もする。
 さて、次は魔理沙の番のようだ。

「続いて大(だい)豚入りの方、ニンニク入れますかーッ?」

「ヤサイトリプルニンニク増し増し他全部増しで」

「ヤサイトリプルニンニク増ァし増し他全部増しですねッ」

 どさっ。
 もやし。もうもやししか見えない。よく見ると脇にニンニクも山盛りなのだが、そんなのがどうでも良くなるほどの圧倒的もやし。丼から溢れそうな程のもやし。
 ていうか既にちょっとこぼれている。
 そう、例えるならそれは核爆弾。そんなジロウが魔理沙の前に置かれた。
 丼を下ろすと同時にスープが決壊するのだが、誰も目もくれない。
 魔理沙は平然とカウンターの上のふきんをとり、こぼれたスープを拭き取った。

(な、なにこれ……)

 次第に恐怖が芽生えてくる。のだが。 そんな事を考える間もなく、

「大豚入りの方、ニンニク入れますかーッ?」

 私の番がきてしまう。
 ええっと! なんて言えばいいんだろうか。

「え、えと、トッピングは……」
「あ、こいつも私と同じなんだぜ!」

「ハイ、ではヤサイトリプルニンニク増し増し他全部増しですねッ」

 ちょ。
 勘弁してほしい。

「え、いや、あの……」

 しかし、キャンセルするにもそういう空気ではない、っていうかもうもやし乗せちゃってるし……!

「……うそでしょ」

 私の目の前にも、核爆弾が投下される。
 どさっ。
 圧倒的ボリューム。
 この瞬間私は、ここが料理屋ではなく、戦場である事を知った。

「戦わなければ、生き残れないぜ」

 スカートのポケットから割り箸を取り出す魔理沙。
 そしてそれを顔の前で割って叫ぶ。

「さぁ、勝負だ!」

 こうして、戦いは幕を開けた。









「おえ……」

 吐き気がする。

(おかしい、ジロウおかしい……)

 暑いので水を飲みたかったが、そんな余裕はなかった。胃的な意味で。
 列を掻きわけて店を出ると、先に食べ終えた魔理沙が待っていた。魔理沙は満足そうな顔だ。

「なんで……魔理沙は、平気なんですか……」

 吐き気がする以前に、そもそも食道までジロウがつまっているので、単純に口の中に溢れてきそうだ。
 声を出すだけで苦しい。
 おまけに汗も酷いのだが、ハンカチを取り出して額をぬぐう、なんて動作をしたら余裕でリバースしそうだ。

「おう、遅かったじゃないか。遅いのはロット乱しになる。関心しないぜ?」

「遅かったんじゃなくて……貴方が、早すぎるだけです……。 ロット乱しって何ですか……?」

 魔理沙は私より5分以上も早く食べ終わっていた。

「並んでる人に大か小か聞いてただろ?
 あれはな、あらかじめ決まった個数、先行調理しておくためなんだぜ。これをロットという。
 でも、食べるのが遅いとその個数分席が空かない。麺を廃棄する事になってしまうんだぜ。それがロット乱しだ」

 つまりそういう事らしいのだが、

「……うぷっ」

 理解している余裕はなかった。

「じゃ、そういう訳で今回はおまえの奢りだぜ。
 初心者とはいえ、幽々子の代わりだっていうからちょっとは出来ると思ってたんだがな……」


 私はようやく分かった。
 ロットバトルとは、相手との戦いである前に、ジロウとの戦いである。

 ジロウとの戦い。
 それは早食いとか大食いとか、そういう類の物ではなく、もっと神聖な物だったのだ。


 私は魔理沙と戦う以前に、ジロウに負けたのだ……。




 でも、

(二度と行きたくないわ……)







 それから三日後――



 私は物足りなかった。何を食べても物足りなくなってしまったのだ。
 といっても、お腹がいっぱいにならないという訳ではない。

 今日のお昼ご飯も決して少なかったわけじゃなく、むしろ、これまでより多く作ったし、お腹はいっぱいに
 なった。それに、幽々子様も満足なさっていた。


 しかし、そうじゃないのだ。
 あの日以来、何か物足りない。
 
 そう……

 私がほしいのは、戦いである。
 食との戦い。それを抜きにして、満足できるだろうか?

 いや、できない。

 もともと、食とは戦いであったはずだ。
 その真理にたどり着いてしまったのである。

「大豚ダブルの方、ニンニク入れますかッ?」

 私を満たしてくれるのは、ジロウだけだった。

「ヤサイトリプルニンニク増し増し他全部増しで」

 それは、隣に座る魔理沙も同じなのだろう。

「ヤサイトリプルニンニク増ァし増し他全部増しですねッ!」

 私周りの決闘者(ロッティスト)達を見回した。皆、それぞれの戦いがある。
 カウンターに置かれるジロウ。今ではこの瞬間がたまらない。
 

 箸立てに刺さる数多くの箸のうち、数本だけある割り箸を抜き取り、それを割って、言う。


「いただきます!」

 そして、今日もロットバトルが始まった―――

 
 ジロウを倒すには、まず麺から先に攻略したほうがいい。
 ヤサイに苦戦している間に麺がスープを吸ってしまうからだ。
 これは、私がジロウに負けた原因の一つでもある。

 しかし、今の私はその手は食わない。

「必殺、『天地返し』ッ!」

 箸を丼の両側にぶっさす、そしてそれをいっきにひっくり返す。
 すると、ヤサイがスープの奥底へ沈み、隠された麺が姿を現した。
 ヤサイが少しこぼれたが気にしない。

 初めの五分が勝負だ。
 ヤサイが沈んだ分丼から溢れそうになった麺を、てっぺんからすすっていく。
 少しでも気を抜いたらその瞬間に敗北が待っている。

 気を抜かずに、いっきにたたみ掛けた。

 よし、食べ終わった。そう思いながらどんぶりを見るが、まだかなりの量ある。
 流石ジロウ、そう簡単には倒れない。


 麺を八割がた食べつくすが、流石に少しつらくなってくる。
 まだ残りの麺二割、そしてヤサイ、8枚の豚がある。これらを攻略しなければ勝利はない。

 そろそろ麺にも飽きてきた。そう思い、豚を攻略し始める。
 満腹を感じつつある胃に、分厚い豚を詰めこんで行った。

 ジロウに、魔理沙に、そして他のロッティスト達に、負けるわけにはいかないのだ。

 ついに豚を攻略し終えると、残るはヤサイのみである。
 スープの底で見えなくなっているヤサイを発掘しつつ、口の中に次々と放り込む。
 もはやランナーズハイ。さっきまであんなに苦しかったのに、今はもうなんでもどんと来い。


 トリプルなヤサイをシングルアンドハーフほど食べ終える。逆に吐き気が襲ってきた。
 胃の限界量を越えたのだ。

 と、その時だ。魔理沙が立ち上がり、カウンターの上に丼を置き、

「ごちそうさまだぜ」



 \(^O^)/






 ジロウにはなんとか勝てても、魔理沙にはどうしても勝てません幽々子様。






-----------------------------------
補足

ジロウ:
ラーメン二郎。ウサテイで有名な「細切れチャーシュー増し増し」は、これの派生である「ラーメン大」が元ネタである。
大か小かを聞かれて中と答えてしまったり、ニンニク入れますか? に「はい」「いいえ」で答えてしまうと素人なのが一発でバレてしまうという恐ろしいラーメン屋。

Googleで「らー」って入れると候補「ラーメン」の次に出てくるのでたぶん日本一有名。

(初心者にオススメのトッピングはヤサイニンニクからめだよ!)


ツバメ返し:
言わずとしれたロット技のひとつ。
貧弱な文化部系の人間が運動部系の人間に挑む為に開発された技である。
大量に盛られたヤサイをカウンターの下に投げ捨てる荒業であり、使用後は店外に並んでいるロッティストに冷たい視線で見られるというデメリットがあるものの、大量のヤサイを胃袋を使わずに消費できるという画期的な技であったため、現在では最も有名なロット技のひとつとなっている。

よいこはまねしないでね!
二郎のラーメンは二度といわず三度食べてみてください。
きっとおいしさが分かりますわよ。

---8:45
初回でもう二度と行きたくないと思う所まで含めて二郎だと思うんです。
好みが分かれるのは確かですが、一度食べて、数日してちょっと恋しくなったら確実にロッティスツ
みる
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コメント



0.640簡易評価
4.80高田馬場ユーザー削除
あのスケートリンクのような滑りも再現してほしかった。
でも最初行ったときの戸惑いを思い出して懐かしかったです。
なかなか千円札を使いきれないんですよね
5.無評価名前が無い程度の能力削除
人によって評価が対極真っ二つに分かれそうな物を宣伝されても…
内容には直接関係ないのでフリーレスで。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
むしろこういう店は二度と言わず一度たりとも行きたくない。
あと水を出さないカレー屋とかも。
10.80名前が無い程度の能力削除
二郎が幻想入りしたら間違い無く舌が寂しくなる…



でもみょんと魔理沙と一緒に二郎行けるならばそれでもいいかw
11.無評価名前が無い程度の能力削除
ジロウなんて初めて聞いた…
そんなものがあるのか…
12.無評価名前が無い程度の能力削除
讃岐うどん食ってろ
15.10名前が無い程度の能力削除
これのどこが東方? キャラ誰でもいいよね?
16.10名前が無い程度の能力削除
自分の店のシステムは知ってて当然と言わんばかりの店員の態度、傲慢ちきな通ぶった常連、
文章読んだだけなのにこんな店さっさと潰れろと思いました。
19.80名前が無い程度の能力削除
かなり行ってみたくなりました!!
が、椀子蕎麦30杯でダウンする自分が食いきれるかが疑問。
20.10名前が無い程度の能力削除
自称ジロリアン(笑)のイヤな部分を箇条書きにしたような文章ですね
21.70名前が無い程度の能力削除
すげえクロスだな!
作者さんの心意気に拍手。
25.50名前が無い程度の能力削除
これ評価分かれるだろうなぁ…
ていうかコピペにキャラ入れるだけでほぼこの文章になるよね…
27.無評価EXE削除
いいと思う
29.10名前が無い程度の能力削除
ネットの二郎ネタそのままだなあ
こんな客ばっか増えて店側もいい迷惑だろうに
30.60名前が無い程度の能力削除
評価は分かれるかもしれませんが、私はこの作品を読んで、初めて二郎にいきました。
ずっと足踏みしてたのに、こういうのがキッカケになるっていうのも楽しいですよね。
31.無評価名前が無い程度の能力削除
二郎は時折行きますけど(主に神保町)まあ誇張ですよねえ、こういうのは。
実際は別に無言でもくもくと食べるだけで。

まあ面白さはわかりますが、コピペ改変のレベルとも思うのでフリーレスで。