Coolier - 新生・東方創想話

二人の想い出

2009/07/02 01:54:58
最終更新
サイズ
18.43KB
ページ数
1
閲覧数
1331
評価数
6/19
POINT
910
Rate
9.35

分類タグ

暦の上では春というのに季節はずれの雪が世界を一面の銀世界に染め上げる。
そんな真っ白な景色の中、私は彼女と出会った。
時代遅れな魔女の装束を身にまとった、癖のあるが美しい金髪の少女。
少し幼さが残っていたを覚えている。
少女の名は霧雨魔理沙。
後にかけがえのない友人となる少女だった。

※      ※      ※

アリス・マーガトロイドは魔法使いである。
魔法使いとは自分の魔法の研究のために捨虫の術を使い長い生を得ることが多い。
彼女もそんな魔法使いと同じように、長い生を得て魔法の研究に取り組んでいた。
研究内容は完全自立人形の完成。
彼女は魔法の森に自宅を建て、そこに引きこもって研究に没頭していた。
初めのうちは人形の研究も有意義に進み充実した毎日を送っていた彼女だが、しだいに研究の雲行きが怪しくなりはじめた。
どうしても人形に意思を与えることができない。
どうしても人形に指示をださずに満足できる行動がとらせられない。
解決の糸口さえ見えず、彼女は苦悩と不安、そして研究を進められない自分に自信を失いつつ暗々とした日々を過ごしていた。

そんな日々を暮らしている彼女だが、ある日を境に彼女の生活に大きな変化をもたらす。
それは季節はずれの雪が世界を覆っていた日。
彼女にとって、決して忘れることのできない日。

※      ※      ※

その日は朝から雪が降っており、春だというのに真冬の寒さだった。
この頃にはアリスは全く成果の出せない研究に嫌気が差し、既にある人形の調整と紅茶で一日を潰すという生活を送っていた。

――私、魔法使いに向いてないのかな

そんな考えが日々頭の中をよぎる。
初めは見て見ぬ振りをすることもできたが、今となってはその考えはアリスの頭の中を支配していた。
流れに乗ればそんな憂鬱も忘れてしまうだろう。
そんな風に研究を続けてみるが、すぐに集中力が切れてしまう。
気分転換に何かしようにも、今まで魔法一筋で生きてきた彼女には他に趣味とよべるものも無かった。

――そもそも何で魔法使いになろうと思ったんだっけ…

ふとそんなことを考える。
アリスはもともと人間であったが、捨虫の術を使って魔法使いになった。
捨虫の術を使う事には覚悟が必要だ。
確かに自分は魔法使いになる時に、誰もが認めるような自立人形を作ると決意したことは覚えている。
ただそれ以前の…魔法使いになろうと思うきっかけがアリスにはどうしても思い出せなかった。

――まあ今更そんなことを考えても仕方ないわね

解決しそうにない思考はスパッとやめてしまうのが一番だと言わんばかりに割り切る。
今日も紅茶を飲みながら何度読んだかわからない本のページを捲って一日を終わらせようと思ったアリスは、暖炉の薪を取りに外に出るとあることに気が付いた。
魔力の放出を感じたのだ。
それも強い、あたかも爆発のような魔力の放出。

――私以外にこの近くに魔法使いが?それにしてもこんなに大きい魔力…私にも扱えそうにないのに

基本的に魔法使いというのはお互いに関心を示さない。
自身の魔法の研究が最優先事項であるため、他のことに関心を抱く余裕がないのだ。
しかしアリスはこの魔法の源に向かって、自分でも気付かぬうちに飛び立っていた。
飛び立ってからアリスはふと疑問に思う。

――なんで私はこんなにワクワクしているんだろう

それはあの大きな魔力に対する関心か。
それとも暗々とした日々を打破する何かへの期待か。
ハッキリと答えを出すことは出来なかったが、まるで運命の女神に操られているかのようにアリスは飛んでいた。

※      ※      ※

魔法の源を追ってたどり着いた場所には、二人の少女がいた。
一人は二股の尻尾に猫の耳を持った少女。
八雲一家の橙だったと覚えている。
幻想郷に来たばかりの頃、八雲紫と会った際に顔をあわせたことがあった。
確か主人は紫の式神の藍だと言っていたか。
今は近くに居ないようなので彼女一人なのだろう。
もう一人は橙に相対して弾幕を避けていた。
いかにもな服を着た魔法使いの少女。
橙の放つ弾幕をスピードで振りきり、カウンターにマジックミサイルを放つ。

――彼女がさっきの魔法の源?それにしては子供っぽいわね。もっと老獪なのを予想していたけれど

まだ子供であるあの少女があそこまでの魔法を扱えるとは到底思えない。
しかし状況を見る限り、彼女が魔法の源で間違いないのだろう。
アリスは物陰に隠れ気配を殺しつつ、決闘を見守ることにした。

橙が少女のマジックミサイルを喰らい、スペルを発動する。
橙のスペルは攻撃面ではあまり強いとは言ず少女は余裕を持って回避しているが、直線型の少女のマジックミサイルでは凄まじい速さで動き回る橙を捕捉できずに苦労しているようだった。
もたもたしている内にどんどん弾幕が濃くなっていく。
逃げ場を完全に封鎖され万事休すかと思われたその時、アリスの視界いっぱいに虹色の光の閃光がなだれ込んだ。
その後を追うように凄まじい音と魔力の波がアリスの体を包み込む。
慌てたアリスはとりあえずその場を離脱し、少し距離を置いてから二人の少女がいた方へ目を向ける。
そこには何かを構えている少女と、ボロボロになって座り込む橙がいた。

――な…、何が起こったの?今の魔法はあの少女が放ったの?どうやって?

慌てて整理がつかない頭を数々の疑問が浮かんでいる。
そんなアリスを置いていくように、決闘の終わった少女は凄まじいスピードで飛んでいった。
それを見たアリスは反射的に後を追う。
あの少女は誰なのか?
あの少女にいったいどうしてあんなに大きな魔力を扱えるのか?
その疑問がアリスを動かしていた。

※      ※      ※

少女の後を追い、私は彼女に決闘を申し込んだ。
何故決闘を申し込んだのかはわからない。
単なる気まぐれか。
それとも同じ魔法使いである少女が放った魔法で、私の闘争心に火がついたのか。
今となってはどうでもいいことだ。
結果は私の負け。
彼女の名前は霧雨魔理沙。
私と同じ魔法使いだが、まだ捨虫の術は行っておらず見た目的に十代後半だろう。
そんな彼女に私は負けた。
だが不思議と悔しさは覚えなかった。
別に本気を出していなかったからとかそういうわけじゃない。
私と対峙した時の、彼女の目。
まるで一切の疑問も不安もないような、澄み切った目。
その目を見たときに私は確信した。

――この少女には勝てない

あの目がずっと記憶から離れない。
布団に入って本を読んでいても彼女のことばかり考えている。

――また会いたい。会って…知りたい。何でそんなに強いのか。何でそんな目をしているのか

いつしか私はそんなことばかり考えるようになっていた。
町に買出しに行っても、つい彼女を探してしまう。
しかし、なかなか彼女と再会することはできなかった。
そんな日々を送る中、彼女との再会はあっけなく実現した。
博麗神社での宴会を切っ掛けに。
今までの私ならその霊夢の誘いも断っていただろう。
だが今回は何故か行ってみる気になった。
たぶん気まぐれ、ほんの暇つぶしのつもりで。
いや、嘘だ。
私はたぶん希望を持っていたんだろう。
その宴会でなら彼女に会えるかもしれないという、僅かな希望。
その藁にも縋るような気持ちで行ったんだろう。
宴会の会場で真っ先に彼女を探したのがまさにだ。
そんな私の視線は、彼女を…霧雨魔理沙を見つけた。

※      ※      ※

「久しぶりね」

体を冷ますために魔理沙が縁側に出たのを追いかけ、アリスが声をかける。
驚いて後ろを振り返った魔理沙は、アリスの姿を見て不敵な笑みを浮かべた。

「ああ、いつかの弱っちい虹色魔法使いか。私に何か用か?」

急に飛んできた嫌味にアリスは顔をしかめる。

「私の名前はアリスよ。別に、少し話してみたいと思っただけ」
「そうかい」
「お酒も持ってきたんだけど。いかがかしら」

手に持っていた酒を持ち上げる。
それを見ていた魔理沙は体を横にずらしてアリスの座るスペースを作った。
ゆっくりと魔理沙の隣に腰を降ろす。
二人ぶんの酒を注いでいると、不意に隣から魔理沙の呟きが聞こえた。

「月が綺麗だな」

声につられるように空を見上げると三日月が夜空にひっそりと輝いていた。

――きれい

今までゆっくりと月を見たことが無かったアリスは、その美しさに目を奪われ見入ってしまう。
ふと隣でクスリと笑う声が聞こえたので目を向けると、魔理沙が笑顔をアリスに向けていた。

「なんで笑ってるのよ」
「いや、月を見てるアリスの目が子供っぽくてついな」
「そ、そんなことないわよ」
「そうかい」

二の句を継げないアリスが不貞腐れたように黙ると、魔理沙は笑いながら言葉を続ける。

「アリスが宴会に出てくるなんて珍しいこともあるもんだな。初めてじゃないか」
「気まぐれよ、気まぐれ」
「そうかい」
「貴方は宴会には毎回参加してるの?」
「あぁ、宴会の企画は私がたてるんだ。当たり前だろう」
「ふーん、そうだったんだ」
「そうだったんだぜ」

そう言うと魔理沙が一気に杯を空にして立ち上がる。

「さて、主催者の一人である私がいつまでも会場から離れるわけにはいかないからな、戻るとするぜ。折角来たんだ、アリスも戻るだろ?」
「そうね…、私はもう少しここにいることにするわ」
「そうかい。じゃあ先に戻ってるぜ」

くるりと振り返ると会場に戻っていく。
見送りながらアリスはその後姿に声をかけた。

「あの…、もし良かったら今度私の家でゆっくり話さない。聞きたいこともあるし歓迎するわ」

それを聞いた魔理沙はゆっくり振り返りいいぜ、と一言言って会場に戻っていく。
後姿を見送るアリスの顔は、淡い月光に照らされ微笑んでいた。

※      ※      ※

家の中を何体もの人形が忙しなく飛んでいる。
ソファーの上には座って目を閉じるアリス。
今日は魔理沙が家に来る約束の日ということで、家を片付けているのだ。
窓の外を見ると、これまた何体もの人形が箒を持って家の周りを掃いている。
これだけの数を同時に操るとなると、アリスでもかなりの集中力を必要とする。
そんな状態なので、アリスはドアがノックされるまで彼女の来訪に気付かなかった。

「アリスー、来たぞー。早く開けないとドア壊しちまうぞー」

物騒な言葉に急かされてアリスはドアを開ける。

「おっ、やっと開いたな」

ドアの前にはにこやかに笑いながら八卦炉を構える魔理沙が立っていた。
魔理沙の予想外の体勢に慌ててアリスは声をあげる。

「ちょっ、ちょっと。本当に壊す気だったんじゃないでしょうね」
「冗談だぜ。そんなことする訳ないだろ」
「でも心なしか貴方の八卦炉が赤く光ってる気がするわ」
「気のせいだぜ」
「心なしか八卦炉からすごい魔力を感じるわ」
「気のせいだぜ。そんな事より中に入っていいのか?」
「え、えぇ。どうぞ」

そう言うと釈然としない様子ながらもアリスは魔理沙を中に招く。
そのまま魔理沙をリビングのソファまで案内した。

「どうぞ、座っていいわよ。少し部屋の整理を続けるからちょっと待っててくれるかしら」
「お構いなく」

魔理沙はソファーに深く腰掛けふぅー、っと息を吐く。
その後は周りをキョロキョロと見回し、整理中の人形や本棚などを見ておぉー、とかふーん、などと呟いている。
そんな魔理沙の様子を横目に見つつ、アリスは人形に二人ぶんのお茶が入ったティーカップを運ばせる。
あらかたの作業が終わったのか、しばらくすると人形は行儀良くお辞儀をすると棚の中に戻っていった。
アリスは机の上のティーカップを一つ持ち、魔理沙に渡す。

「やっぱりすげーな。人形ってのは戦闘だけじゃなくて家事もできるのか」
「えぇ、自分が座っていられるぶん戦闘よりも楽よ」
「これも全部一つずつ動かしてるんだろ?」
「昔はずっと練習してたのよ。これぐらい出来て当然よ」

いやいやいやと苦笑いしながら、魔理沙はティーカップに口をつける。
洋風な家にアリスの印象もありてっきり紅茶が出てくるかと思っていたが、中には緑茶が入っていた。
そんなことを考えていると、表情に出ていたのかアリスから先に声をかけてきた。

「貴方は緑茶好きと聞いてたから…、でも私の家には紅茶用のティーカップしかないからそれで我慢してね」
「別に気にしないぜ。おいしいしな」
「良かった…、それならいんだけど」

アリスもティーカップに口をつける。
今まで緑茶なんて飲む機会が無かったが、これは結構おいしいかもしれない。
今度から緑茶も常備しようかなどと考えていると、魔理沙から声がかかる。

「それにしてもすごい量の人形だな。全部自分で作ったのか?」
「ここにあるのは大体そうね。他にも拾った人形や身元不明の人形も倉庫の方にしまってあるわ」
「なんでそんなに人形を集めてるんだ?」
「人形が好きなのよ。この子達が動いているのを見ると楽しいというか…なんだか嬉しいのよ」
「さすが人形遣いだな」

そう言うと魔理沙はゆっくりと部屋を見回した。
そんな魔理沙の視線が一体の人形をとらえる。
その人形は他の人形とは明らかに違う…、まだ未完成の様子だが他の人形には無いような細工がしてあるようだ。
背中にアリスの疑問のこもった視線を感じながら、その人形に引かれるように手に取った。
近づいてみて初めてわかったが、この人形には他とは違う魔力を感じる。
しかしその人形は埃を被っており、アリスの人形に対する思いからは想像できないような管理状況だった。

「なあアリス…これは何だ?他の人形とは違うみたいだけど…」

そんな疑問を投げかけながらアリスのほうを振り向くと、アリスは俯いたまま立ち尽くしている。
髪に隠れた顔は表情が読み取れず、魔理沙は言葉を失ったままアリスを見つめる。
しばらく俯いていたアリスだが、やがて意を決したように顔をあげた。
その目は力強く魔理沙をとらえ、魔理沙は驚いて身構える。
そんな魔理沙にアリスはこう切り出した。

「話したいことがあるの。少しいいかしら」

※      ※      ※

アリスは今まで自分が完全自立人形の研究をしていたこと。
その研究が行き詰ってしまったこと。
研究を進められない自分の思い。
そして…魔理沙の目について。
アリスが話している間、魔理沙は黙って聞き役に徹する。
アリスの話が終る頃には、まだ南の空高くにいたはずの太陽は西の彼方へ沈んでいた。
徐に外を見た魔理沙は、ゆっくりと言葉を繋いだ。

「なあアリス、月が綺麗だな」

アリスもつられて月を見る。
夜空の上には綺麗な満月が浮かんでいた。

「私はここから近くの里の古道具屋の娘として生まれたんだ」

突然の言葉にアリスはポカンとした顔をする。
そんなアリスの様子を気にせず魔理沙は言葉を続けた。

「その古道具屋では代々マジックアイテムを商品にしていたこともあって子供に魔法を教えるのがしきたりだったらしい」
「それじゃあ魔理沙も?」
「あぁ、幼い頃から父親に魔法を仕込まれた。道具屋にある魔導書で魔法理論から覚えさせられたさ。だけど私からすればいい迷惑だった。だって遊びたい盛りに部屋に閉じこもって勉強させられるんだぜ。おかげで私は魔法が大嫌いになった。そんな家庭だったからか私は親と折り合いが悪くてな、良く家を抜け出しては外に遊びに行っていた。そんなある日、私は師匠と出会った」
「師匠ってお父さんじゃなかったの?」
「んー、何と言うか…その人は別格だ。私の人生観を丸っきり変えた人だ。その日いつものように家を抜け出した私は博麗神社の裏の山に一人で遊びに行った。そしたら森の中で迷ってな、私は一匹の妖怪に襲われたんだ。今思えばとても弱っちい奴だったんだが、当時の私はまだ魔法が上手く使えなかったからな。食べられそうになった私を…ある人が救ってくれた――」

魔理沙は一度ゆっくりと息を吸い、一呼吸置いてから続きを紡ぐ。

「――その人が…、師匠…、魅魔様だ」

とても大切なもののように優しくゆっくりとその名を言った魔理沙は、少し唇が震えていた。

「師匠は私を助けるために魔法を使った…その時の魔法がとても綺麗だった。衝撃的だったよ。今まで机の上でしか学んでいなかった魔法がこんなにも美しいものだったなんてってな。それから私は師匠のもとで修行するようになった。いつか師匠のような強くて綺麗な魔法が使えるようになりたいって努力した。だけどそれがいけなかった」
「え?」
「ある日私は父親に呼び出された。何かと思って行ってみれば…師匠についてだった。その時私は初めて知ったよ。師匠は…悪霊だった。父親は私のその事を告げてもう師匠とは会うなと言った。私は…猛反発したよ。師匠に会えなくなるのだけは嫌だった。その頃には生活の殆どを師匠との魔法の修行にあてていたからな。おかげで私は家を勘当されたよ。仕方なしに私は師匠の下に行ってしばらく弟子として暮らしていた。だけどそんな日々も長くは続かなかった――」

そう言う魔理沙の顔は普段では見られないほど沈んでいて…アリスはその魔理沙の様子に内心少し驚いていた。

「――ある日突然師匠は私の前から姿を消した。焦った私は魔法の森から色んな場所を探し回った。妖怪の山にも行ったし迷いの竹林の方にも行った。だけど私は師匠を見つけることは出来なかった。それ以来私はどうしても魔法の研究を続けることが出来なくなってしまった。師匠は私を見捨てたんだ、そう思うようになってしまったんだ。だから私は悩みに悩んで親友に相談したんだ。何で私は魔法の研究が出来なくなってしまったんだって。そしたら親友はそんな私にこう言ったよ」

そう言うと、魔理沙がこっちを向いてニコッと笑いながら告げるように言った。

「魅魔は…貴方の目に惚れこんで弟子にしたと言っていたわ。魔法に目を輝かせる貴方の目にね。貴方はどうして魔法使いになろうと思ったの?魔法の研究をしていた貴方はもっといい目をしていたわよ。魅魔は今でも私達のそばにいるわ。弟子のそんな姿を見て魅魔が喜ぶと思う?もう一度、よく考えてみなさい。自分は今まで何で魔法の研究をしてきたのか。そして、これからどうしたいのか。ってね」

その言葉を聞いた瞬間、アリスは自らの胸の中にあった暗くてドロドロとしたものが流れ出していくように感じた。

――そうか…そうだったんだ…。

そう頭の中で呟く。

「私はその言葉に気付かされたよ。それ以来私は魔法の研究を進めることができてる。たとえ行き詰っても…それは師匠に認めて貰う為の、そして私の夢を実現させるためだって。だから決して挫けないって」

ゆっくりと一呼吸置いて、これで話は終わりだとお茶を口にした。
頭を垂れて考えている様子のアリスを、優しく見守りながら。
しばらくそのままでいたアリスだったが、やがてゆっくりと顔を上げて魔理沙に告げる。

「魔理沙…私ね、わかったよ。何で人形が好きなのか。私ね、子供の頃に人形劇を見たんだ。別に魔法を使っていたわけでは無いんだけど、子供だった私には魔法のような時間だった。自覚はなかったんだけど、私はその時から人形が好きになったんだと思う。その後家族といろいろあって忘れてたけど…だけど私は人形が好きだったからこそ人形遣いになろうと思ったんだ――」

顔を上げたアリスの目にはうっすらと雫が付いており、その口は微笑んでいた。

「魔理沙、やっとわかったよ」

そう言うと、アリスは自分の腕に顔をうずめた。
その様子を見た魔理沙は、どこかくすぐったいように笑いながらゆっくりと窓の外を見上げた。

※      ※      ※

アリス、アリスという名を呼ぶ声に意識を引っ張られながら、私はゆっくりと目を開ける。
目を開くと私の顔を覗き込む魔理沙の顔が視界いっぱいに広がっていた。

「キャッ」

ビックリして咄嗟に声をあげると、魔理沙は意地悪く笑っていだした。

「なんだ、共同研究中に居眠りしていると思ったらかわいい声をあげるじゃないか」

その言葉に記憶が呼び戻される。
そうだ、私は確か魔理沙に共同研究、半分は魔理沙の面倒をみるようなものだが、を持ちかけられて、今日は魔理沙の家に泊まりこみで来ていたんだった。
いつの間にかソファーに座って眠ってしまったんだろう。
そんなことを考えていた私に魔理沙が声をかけてきた。

「どうしたんだボッーっとして。まあ無理もないか。結構寝ていたからな。ったく、自分の担当が終わったからって酷いぜ」

そう言うとぶつぶつ何かを言い始めた。
そんな魔理沙を無視して机の上に置いてあった紅茶に口をつける。
…冷めてるじゃない。

「あたりまえだろう」

どうやら思っていたことが口に出たらしい。

「そういえばお前、何の夢を見ていたんだ?途中でうなされるわ私の名前を呟くわでビックリしたぞ」

そうか…夢だったんだ。

「え…えぇ、何でもないわ」

とりあえずそう繕うと、魔理沙は案外さっぱりと割り切ったらしい。

「そっか。それじゃあ私は研究にもどるからな。準備が出来たらお前も来いよ」

と言ってドアの向こうに去っていった。

――そうか…夢だったんだ…

あの日以来私は研究に行き詰って気分を落とすことも無くなった。
未だに完全自立人形の完成の目途はたっていないが、それでも毎日研究を続けることができている。
また、あの日以来私の生活環境も一変した。
よく魔理沙が家を訪れるようになったし、共に外出して交友関係も広がった。
それに今では里で人形劇をやるという、趣味のようなものもできた。
人形劇は里でなかなか好評らしく、また来週も公演する約束を取り付けてある。
あの日以来、私の生活には色が生まれた。

――こう思うと…魔理沙には感謝しても仕切れないわね

それに魔理沙とも交流が深くなり、今ではお互いかけがえのない存在となっている。

「おーい。アリスー。早く来いよー」

ドアの向こうから魔理沙が私を呼ぶ。
私はゆっくりと立ち上がり、研究室のドアを開けた。
私が入ってきたことを知り、魔理沙は早速声をかけてくる。

「やっと来たか。その机の上の薬品を調合してくれないか」

私はわかったわ、と返事をし、作業に戻るために机に近づいた。
その時ふと窓の外を見る。
その空にはあの日と同じような丸い満月が輝いていた。
私はふと魔理沙に声をかけた。

「月が綺麗よ」

その言葉を聞くと、魔理沙がゆっくりと近づいてきて窓の外を見た。

「本当だ。綺麗な満月だな」

そう言うと、まるで子供のように目を輝かせながら見ている。
そんな魔理沙にアリスは聞こえないくらいの声で呟いた。

「ありがとう、魔理沙」
投稿三作品目。
二作目から二ヶ月も過ぎていることに自分でビックリしました。
ホントにちゃんと完成してるかガクブル。
一応読み直してみたので大丈夫でしょうw

今回はマリアリを書こうとしたんですが…、如何でしょうか。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
稚拙な文章ですが、楽しんで頂けたら幸いです。

オリ解釈についてですが、私は必要ないとして注意書きを入れなかったのですが、必要な場合は言っていただければ最初に入れようと思います。

では、またお会いすることがあれば~。
ちゃろ
http://yoyonikkiyo.blog.shinobi.jp/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.500簡易評価
1.50名前が無い程度の能力削除
全体的(特にアリス)にオリ設定が非常に多いですね。
二次創作ですからそれ自体は特に何も思わなかったのですが、旧作設定を存在させているのにも関わらず二人の初めて会ったのが妖という事になっていたり、魅魔のことをアリスが知らなかったりという辺りで非常に混乱しました。
少しその辺の整合性をきちんとしていればもっと良くなったかと思います。
これからも頑張って下さい。
3.70名前が出せ無い程度の人形削除
全体的に優しい雰囲気のある文章と、随所の綺麗な表現が、読んでいて心地よかったです。
オリ解釈は気にならなかったけど、ちょっと説明不足な感はあったかも。
後、アリスと魔理沙は他の皆よりも一番に出会ってて欲しかったって言う個人的な希望が(笑

人形の調整と紅茶で一日を潰すって部分で、掃除とお茶で一日を潰す霊夢が浮かんだ(泣
7.80名前が無い程度の能力削除
個人的にオリ設定が少し気になるかな。
内容は淡々としながら優しい雰囲気で、二人の語ってる情景が浮かび良かったです。
8.70名前が無い程度の能力削除
癒される文体はすごく良かったんですが、心情の変化があっさり書かれすぎている気がしました。
9.70名無しな程度の能力削除
セリフまわしとかきになるんだZE
11.70名前が無い程度の能力削除
旧作のアリスと同一人物だと言うのは事実ですが、旧作とWinの間では設定が一掃されているそうなので魅魔の事を知らなくても不思議では無いと思います。
ただし捨食の魔法を使ったのは阿求の主観を元に作成された求聞史記に書いてあった内容なのでなんとも言えませんが・・・

物語の雰囲気は好きです。
13.無評価名前が無い程度の能力削除
あぁ、魅魔の存在がこの作品世界に「在る」ということは作者様が一掃された筈の設定を採用しているということになるので、
にもかかわらずアリスが知らない、初めての出会いが妖、というズレに若干混乱しただけなんです。
きっと旧作の全てではなく一部のみを採用したということなのだとは思いますが。