Coolier - 新生・東方創想話

いつもの一日

2004/11/12 01:54:27
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飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。空を飛ぶ。
歩いても、走っても、立ち止まることも同じ事。
だから私は飛んでゆく。
だけど私は飛んでゆく。
空飛ぶ私は下を見る。
私は地をゆく私を見、いつものように、わらってる。


だから、こんな一日。



「かくまってくれー!」
相も変わらず庭を掃いていた博麗霊夢の耳に、空からの声が突き刺さる。
そして箒も突き刺さる。
舞い散る落ち葉。
霊夢はこめかみに親指を当てた。
「・・・魔理沙、あんたいい加減に学習しなさいよね」
掃除するほうの身になってよ、と堪えるような声音で来訪者、霧雨魔理沙に言う。
「そんなことはどうでもいいんだ!何ならあとでわたしが掃除してやってもいい!だからかくまってくれ!」
珍しく殊勝なことを言う彼女に、霊夢は目を丸くした。
「それならまあいいけど・・・どうしたのよ」
「・・・とんでもないモノを見てしまった・・・」
魔理沙の様子が一転して神妙なものになる。
「とんでもないもの?」
呟き彼女は顎に手をあて、考え込んだ。
・・・あの魔理沙をして、逃げだすようなシロモノ・・・
「パチュリーのお色気シーンでも目撃したの?」
「惜しいけど違う」
違うのか。まあそんな場面に出くわしたら、行くところまで行ってしまう危険性が高い。いやよく解りませんが、などとかまとと振ってみたり。
ていうか、惜しいのか。
「半獣娘を知ってるか」
「慧音がどうかしたの」
「なんか当たり前のように名前が出てくるのな」
「だって結構ここに来るわよ」
「うそっ」
しまった、逃げ込む先を間違えたか。
「・・・まあいいや。とりあえず茶でも飲ませてくれ」
とばしてきたから喉が渇いた、という彼女に霊夢は、
「それは無理なんじゃないかな」
と、空を指さした。
上白沢慧音。
「おわぁぁぁぁ?!」
白黒の魔女が悲鳴をあげる。
無理もない。
満月でもないのに角と尾を生やし、髪を緑に染め上げ、息を切らせて睨め付ける彼女の姿は、控えめに言って恐ろしかった。
極めつけに、何故か彼女はやたらと巨大な長剣を携えている。
「お久しぶり、慧音」
そんな彼女に、霊夢は暢気に挨拶し、
「ああ、先日は世話になった」
半獣化を解除しつつ、返事を返す。
「・・・なんかあったのか」
割と追いつめられているのだが、二人の接点は気になるらしい。
じりじりと後退しつつもそう問いかける。
「この間、子供達連れて遠足にきたのよ」
「里の外で、ここ以上に安全な場所はないからな。さて、霊夢」
律儀に答えてから、慧音は改めて魔理沙を睨みつつ、
「そこの白黒を引き渡して貰いたいのだが」
「良いわよ」
「おいー?!」
あっさりと自分を売る霊夢に、彼女は思わず突っ込みをいれる。
「あっさり言うなよ!事情くらい聞こうとしろよ!」
「だってあんたが逃げてて、追う方に非があったことなんてないじゃない」
魔理沙の抗議はざっくり切り捨てられた。
「うむ、何と素晴らしき信頼関係。善哉」
「善哉じゃねぇー!」
感慨深げにうんうんと頷く慧音にも叫び声を上げる。
「で、引き渡した魔理沙をどうするの?」
「斬る」
なんとも端的に返答する彼女に、
「それは・・・やめて欲しいかなぁ」
霊夢は少し困ったような顔をした。
おお、と駄目出しをする巫女に、魔理沙は感激の視線を送る。
なんだかんだ言っても、結局は庇ってくれるんだなぁ、という魔理沙の感想は、
「境内が汚れるじゃない」
「問題はそれかよ!」
無慈悲な言葉に粉砕された。
「ていうかあんたも!人間を守るんじゃないのかよ?!」
「魔女は人間にカテゴライズされていないから」
「差別だ!」
「巫女は?」
「巫女は人間だ」
「差別だー!!」
「・・・安心しろ、霧雨魔理沙」
ふっ、と突然優しげに微笑む。
「メイド長も人間外認定しているから」
「何の慰めにもなってない!」
ていうかわたしはあれと同ランクなのか。
「それに、もし万が一お前が人間だとしても心配ない。この剣は人間に優しい剣だから」
「嘘吐け!熊でも殺せそうな獲物じゃないかそれ!」
「どの辺が人間に優しいのよ」
霊夢の質問に、慧音は少し自慢げに剣の腹を見せた。なにやら花を象った彫刻が施されている。
「この印から、フローラルの香りが漂うんだ」
「あらアロマテラピー、癒される」
「癒されるかー!匂い嗅ぐ前に冥界行きだ!」
魔理沙の抗議に、空の少女はしてやったりとたたみかける。
「それこそ人外の証明」
「魔女裁判か!」
「そもそもあなた、剣なんて使えるの?」
霊夢のもっともな意見に、慧音はふと考え込み、
「いや。それにこれも、調度品として骨董品屋で買った物だしな」
「あー、やっぱり。それどこかで見たことあると思ったら、霖之助さんのとこのだったのね。処分に困ってたみたいで、持ってってくれてって言われたわよ」
喉に刺さった小骨が取れたかのように、晴れやかに言う彼女。
「む。あの店主、霊夢にはただででやろうとし、私からは金を取ったのか。差別だな」
「あんたが言うなー!ていうか扱えないなら持ってくるなよ!」
「そうだな」
魔理沙の言葉に彼女はあっさり頷くと、その手から突然に剣が消える。
『剣を持ってきた』という歴史を喰ったらしい。便利なものだ。
「さて話はそれたが魔理沙よ、大人しく縄につけ。今なら命だけは助けてやる」
「さっきまで殺る気満々だったくせによくも言えたもんだ。どっちにしたって大人しく捕まってやるもんか!」
箒に飛び乗り離脱しようとする彼女。
それを置いて、慧音はその脇の紅白に声をかける。
「霊夢」
「ん?」
「玉露一缶」
「二重結界!」
「わー?!」
捕り物劇は、寸劇に。

「で、結局何があったの?」
結界でぐるぐる巻きにされた魔理沙を小脇に抱える慧音に、霊夢は問いかける。
「・・・まあ実際・・・」
裏切り者ー、薄情者ーと声をあげる白黒を見やり、
「相手がこいつでなければ、こんなややこしい事態にはならなかったのだがな・・・」
ため息混じりに彼女は言う。
座敷に座り茶をひとすすりし、言葉を続ける。
「私は里の人間に医者の真似事をしているのだが・・・」
真似事と言っても、慧音は幻想郷きっての知識人である。生きている長さも半端でないため、下手な医者よりも余程信頼できる。
「普段は定期的に里に降りて診察するんだが、たまに私の居所まで赴いてくる者もあってな」
今日もそうだった、と彼女は言う。
慧音の見立てでは単なる風邪だったのだが、患者は齢十に満たない少女。親も心配だったのだろう。いてもたってもいられず、彼女の所まで来たらしい。
「それでもともかく診察することにして、彼女の着物前をはだけさせたところで・・・」
じっとりとしめった視線を畳に転がる蓑虫に向ける。
「魔理沙が来たのね」
気の毒そうに霊夢が頷く。
引きつったような笑顔で、戸の向こうに消えていく彼女が想像できた。
「うむ。それで捨て置くわけにもいかんと判断して、患者の『風邪をひいた』という歴史を喰って風邪を無かったことにして、『二人は里に着いた』という歴史を創って二人を送り、こいつを追いかけ今に至るというわけだ」
「半獣化して登場したと思ったら、そういう裏話があったのかよ」
うめくように魔理沙が言った。
「余計な労力を使わせんでもらいたい。満月でもないのに半獣化すると、ひどく消耗するんだ」
「まあでも妥当な判断だったと思うわ。下手したらとんでもない噂が流れるところだったわよ、きっと」
「ああ、考えるだに恐ろしい」
きっと、『里の守護者は性倒錯』とかそんな内容だろう。
チルノの無邪気な誇張とは違い、魔理沙のは作為な誇張が混じるので始末が悪い。
「ていうか誤解は解けたんだから、この結界はもういらないだろ」
解いてくれよ、と言う彼女に慧音はふと考え込み、
「・・・いや、このまま解放すると、腹いせにやっぱり吹聴しそうな気がするので、お前の今日見た歴史を頂いておこう」
「横暴だー!」
「うるさいな」
ぎゃいぎゃいと抗議の声をあげる魔理沙に、歴史喰いは眉をひそめた。
「黙らせる御札があるけど」
「それはいい、是非使ってくれ」
「こらー!」
魔理沙の声をよそに、霊夢はいくつか御札を取り出す。
「これは絶対に口が開かなくなる御札なんだけど」
「ほう」
「鼻に貼らないといけないのよね」
「死ぬわー!」
不評のようだ。彼女は次の御札を取り上げた。
「これは声が出ないほど笑う、こそばゆさを発生させる御札なんだけど」
「心底嫌だー!」
「脇腹に貼らないといけないのよね」
「それは面倒だな」
二枚目も不発のようだ。
「ならもう最後の手段しかないわね」
「三つ目でラストかよ!」
「とても丈夫な御札なんだけど」
「つまり、猿轡か。それでいいだろう」
「いいことあるかー!」
霊夢からその御札を受け取りつつ、慧音は人権侵害だー、身体の自由ーと騒ぐ魔理沙に馬乗りになる。
「さあお姉さんに委ねてごらん・・・痛いのは最初だけだから・・・」
「キャラ違ぇー!」
必死に身をよじり、上の少女を振り落とす。
「何の真似だそれは!」
「たまに見せる意外な茶目っ気で魅力度アップと」
「誰が言ったんだそんなこと!」
「里の皆が」
「遊ばれてるんだあんたは!」
「ははは、何を馬鹿な」
やれやれとでも言うように首を振るう。
「上げた魅力度を使う予定はあるの?」
「・・・・・・」
霊夢のピントのずれた発言に、慧音はしばし沈黙した。
「無いな」
ややあってそう呟くと、いやに清々しい表情で霊夢の手を握る。
「ありがとう霊夢、無駄な労力を払わずに済んだ。お前のおかげだ」
「慧音の、ためだもの・・・」
そんな慧音に、妙に潤んだ瞳を向ける彼女。
「霊夢・・・」
「慧音・・・」
「意外な茶目っ気はもういいー!」
ごろごろと転がりながら、文字通り突っ込みをいれる魔理沙。
「なんなんだそのノリは!」
「いや・・・」
「特に意味はないんだけど」
ねぇ、と顔を見合わせる二人。
「まあいい、とりあえず話を戻すか」
言って慧音は、改めて猿轡を手に取る。
「さあお姉さんに委ねてごらん・・・痛いのは最初だけだから・・・」
「ループしてるー!」
「歴史は繰り返す」
「そんな格言言う場面じゃないだろ?!いいから早く猿轡噛ませろよ!」
「では遠慮なく」
魔理沙が我に返る暇もなく、慧音はあっさりと彼女の口を塞いだ。
はめられた、と言わんばかりにむがむが言う白黒蓑虫。
「口を塞いでも、なかなかにうるさいな」
むう、と唸って腕を組む。
なにやら抗議しているようだ。まあ、こんな扱いを受ければ文句の一つも言いたくなるだろうが・・・
「魔理沙」
突然霊夢が真摯な表情で言う。
「『こんな扱いは中国の役目だろ』とか言ってるんでしょうけど・・・甘いわよ」
彼女の言葉に、魔理沙はもごもご言うのをやめると、器用に小首を傾げてみせた。
「・・・彼女、最近フランドールに懐かれてるんですって」
白黒蓑虫が凍り付く。
「日に一度はパチュリーの所へ担ぎ込まれるって話よ」
沈鬱にため息をついてみせる。だがそれは一瞬のことで、
「だからこれくらい我慢しなさい」
あっさりと肩をすくめる。
再びあがる抗議の呻き。
それとこれとは話が別だ、とでも言っているのだろう。
またも二人は顔を見合わせる。霊夢は軽く頷き、
「とう」
軽い掛け声とともに、重い一撃を魔理沙の鳩尾に叩き込む。
気絶。
「やっと静かになったわね」
「うむ、協力感謝する」
慧音の言葉に、彼女はひらひらと手を振ってみせた。
「実は歴史を食べるところを、見てみたかっただけだし」
「なるほどな」
隠すほどのことでも無し、と慧音は頷く。
気絶した魔理沙の頬に彼女は手をかけ。
めくった。
本の頁のように、魔理沙の歴史がめくられる。
彼女が起きていたら「パクリだー!」と言っていたであろうことうけあいな光景だった。咲夜のあれがアレだけに今更だし、そもそも魔理沙はパクリ云々言えた義理でもない。
「さっきはそんなことしてなかったみたいだけど」
「演出を望んでいるようだったのでな」
ぱらぱらと流し読みしつつ、慧音は答えた。
「あった」
魔理沙の今日の歴史に該当する部分を、びりびりと破り取り、頁を閉じる。
「それを食べるわけ?味とかあるの?」
破り取られたそれをしげしげと見つめながら、そう問いかける。
「無論ある」
言って慧音は、紙片としか思えないそれを、ひょいと口の中にほおりこみ。
盛大に顔をしかめた。
「くどい上に苦酸っぱい・・・」
微妙な表現である。だが、聞いただけでまずそうだとは理解できた。
何か口直しになりそうなものはないかと、辺りを見回すが、生憎茶菓子はきれていた。
「紅魔館にでも行く?丁度お茶の時間だし」
「そうだな・・・私は一見だが、それを不躾などと言っていられないほど口内がまずいことになっている」
「じゃあ行きましょうか、すぐだし」
二人は立ち上がり座敷を出る。
「さっき中国って言う名前が出たでしょ?彼女、紅魔館の門番でね・・・」
「ほう・・・」
「・・・」
「・・」
他愛もない会話をしながら、二人は神社から消えていく。
魔理沙を残して。



紅魔館から私が戻ると、魔理沙は涙でネズミの絵を描くのをやめた。
ご機嫌とりに、夕食を振る舞うことにする。
腹の虫は収まったのか、帰るときはいつもの彼女に戻っていた。
はたと、掃除をさせるのを忘れていたことに気付く。
まあいいか。どうせ明日もするのだし。
ため息を一つつくと、私は日誌を取り出した。
気まぐれに、前の記録を見てみる。
ばからしくなって苦笑した。
「人間、ね」
何となく、彼女の言葉を思い返す。
「私ってほんとに、人間なのかしらね」
本当にどうでもいいことを、本当にどうでもよさそうに呟いたものだと思う。
多分、彼女にとってもどうでもいいことだったんだろう。
「なんで、こんな時にいないのよ」
不在の真紅に悪態をつく。今日はこちらから出向いたのだから、当然だけど。
今なら、噛まれてあげてもいいのに。
肩をすくめ、日誌を埋める。
書き込まれたのは、いつもの一文。
空を見上げる。
視線が合った。
いつものように、嗤っている。
特に感慨もなく鼻を鳴らすと、私は寝ころび瞳を閉じた。



今日も一日、何もなし。

自分の中の二大巨頭が一人、霊夢のお話です。
前々作「手を伸ばせば」の流れが若干入っていますが、お読みになっていなくとも問題ない話になっています。
お気に召していただければ幸いです。
SHOCK.S
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コメント



0.5600簡易評価
10.60七死削除
魔理沙をいじってる作品ってだけで凄いレア度を秘めています。
涙でねずみ書いてる魔理沙なんて、見た事ねーですよ
11.60名前が無い程度の能力削除
三人のテンポのよい掛け合い漫才が、最高にGood!
最後のちょっとおセンチな霊夢も、新鮮で萌えますねー。
19.50shinsokku削除
善かなとはこちらの台詞ですな。
台詞がトントントンと心地良く滑り込む軽妙さ、味を感じました。
面白いと漢字で固めるよりも、おもろいと表現したくなる味です。
慧音が生真面目すぎずウィットに富んだ台詞を発しているのにも、
新鮮さと共に、幻想郷の住人らしい気色を感じて楽しく思いますね。
うむ、そうだ。楽しい。これです。楽しい。実に。
23.50名無しっぽい人削除
読みやすい、面白い良作だと思いました。

しかし今更ながら、慧音の歴史を食べる&創る能力は
何でもありになりますね。SSで扱うにしても使い方が難しそうです。
40.60裏鍵削除
ヘヴンスゲートに爆笑w
しかしこういう霊夢は私の中の霊夢としっかり合っていて、最後の「今日も一日、何もなし。」にぐっと来ました。
言葉ではうまく説明できませんが、これが霊夢ですね。
46.50Barragejunky削除
人を食った雰囲気な二人に翻弄される魔理沙、笑わせてもらいました。
普段はかき回す方なのに、終始かき回される役に徹する彼女なんてそうそうお目にかかれるもんじゃありません。中々に貴重で面白い体験でした。

>>紅魔館から私が戻ると、魔理沙は涙でネズミの絵を描くのをやめた。
この一文にノックアウト。
もちろん寝っ転がされた状態で、足の指で描いてるんですよね?
最後にはちらりと霊夢の素顔を見せて締めるところもいい感じの幕引きでした。
77.80P(大文字)削除
GJ
111.80名前が無い程度の能力削除
雪舟w
魔理沙器用だなぁ~
112.70名前が無い程度の能力削除
Nice Heavens door.