Coolier - 新生・東方創想話

冬のおかあさん

2009/06/21 00:56:12
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1 氷の妖精



「よぉーしできた!」

全面を氷で覆われた部屋の中で、チルノは歓喜の声を上げた。
ここは切り立った崖の中腹に空いた穴の中。
複雑に曲がりくねった中を探検していたチルノが見つけた、八畳くらいの小部屋である。
こんな場所がいままで見つからなかったのは、入り口がわかりにくい上に、草が茂っていたからだろう。
チルノが見つけたのも、偶然に近いものだった。
しかし、これを見つけたチルノは、とてもいいことを思いついたのだ。

「ここがあたいのひみつ基地ね!」

人の子供に限らず、妖精の中でもひみつ基地ごっこというのは人気のある遊びだ。
誰が一番かっこいい基地を作るか、本格的な物を作るか、場所はどうか。
基地を評価する基準がたくさんあって、おのおのに工夫を凝らすことができるのがその秘密かもしれない。
ほかの妖精たちがキャッキャと仲良く遊んでいるのを遠くから見たチルノも、
それを真似しようと思ったのだった。

チルノの冷気を操る程度の能力で岩盤を冷やし、湖の水をもってきてそれを凍らす、そんな地道な作業をするのは
飽きっぽいチルノには難しいことだった。
途中で冬眠している蛙を掘り出して凍らせたり、石を転がしたりひっくりかえしたり、道草を食いながらやっていたので完成するのにはだいぶ時間がかかった。

「あと必要なものは……なんだろう?」

遠くから見ていただけなので、必要なものがよくわからない。
なにか、とても楽しそうだったのだが、いったい何がそんなに楽しかったんだろう?
うんうんうなりながらチルノは氷の上をごろごろした。
全面を氷で覆われた部屋はチルノにとって居心地がよかった。


凍った氷の上をチルノの羽がすべるとしゃりしゃり音がする。
それが楽しくて、ずっとしゃりしゃりしているうちに、チルノは自分が何を考えていたか忘れてしまった。
そう大したことではないだろうと結論づけ、とりあえずいつものねぐらに帰ることにした。
ひみつというからにはほかのやつに知られてはならないのだろう。
それぐらいはわかっていたので厳重にふたをしてチルノは飛び立っていった。





数日後、チルノはひみつ基地のことをすっかり忘れていた。結局ひみつ基地ごっこは何が面白いのかわからなかったのだ。
今日の遊びは探検ごっこである。
草を掻き分け、石をひっくり返す。アリの巣を見つけたらつついて壊し、だんごむしを見つけたら玉にして放り投げる。
やることがないときは、チルノはいつもそうしていた。これなら仲間はずれにされることもないし、やることも尽きない。
そうして遊んでるうちに、強い冷気の漂っている穴を見つけた。そういえば、何日か前にこんなところを探検したような。
そんなことをおぼろげに思い出して、ちょっと中に入ってみることにした。
残念ながら、厳重にふたをしたことは思い出せなかったので、入り口のそばに転がされたふたには気づかなかった。





入ってみると、ひみつ基地は様変わりしていた。
椅子やテーブル、ちょっとした家具などが運び込まれて居心地のいい空間になっていたのだ。
不思議に思いながら眺めていると、奥のベッドで誰かが寝ている。
青と白の服を着た薄い紫っぽい銀髪の女だ。
チルノは不機嫌になった。自分の基地を勝手に使っているやつが居たからだ。
と、そこで思いだす。
自分の基地にふほーしんにゅーしたものは追い出していいのだ。この間近づいていったらそうされたから間違いない。
にしし、と悪戯っぽい顔をして、女の顔を覗き込む。
あどけない顔で寝ているやつは、赤い唇に白い顔をしていた。
見かけたことのない顔である。少し考えたあと、指先に氷片を生み出して頬をなぞってみることにした。

「うふふ」

なぜか嬉しそうな顔をしてにやにやしだした。気持ち悪い。
ほかのやつにやったら大抵びっくりして逃げ出すのに。
くやしくなって、服の中に氷を突っ込んでみる。
こうすると、逃げる速度が段違いに速くなるのだ。

「ぃやん」

やっぱり変な声をあげるだけだった。
悪戯するぐらいでは起きないようなので、蹴っ飛ばして叫んだ。
「お!き!ろ!」































2 冬の忘れ物




蹴り起こされて目を覚ますと、目の前に妖精が居た。

寝起きのしょぼしょぼする目で見ると何か怒っているようだ。

「あなたはだーれ?」
「むっきー!あんたみたいなふほーしんにゅーのやつに名乗る名前はないわ!」
「あらごあいさつ。せっかく気持ちいい場所を見つけて寝ていたのに」

そろそろ春になるので、今回の夏眠場所を物色していたところ、妙に強い冷気の残滓を見つけた。
それをたどっていくとまだ氷の残っている洞窟がみつかったのだ。
あんまりいい立地条件だから、その日のうちに家具や荷物を移して私の部屋にしようと思ったのだが。

「ここはあたいのひみつ基地なの!ふほーしんにゅーのやつは出て行かなきゃいけないの!」
「ここあなたが作ったの?へー、たいしたもんねえ」

誉められた妖精はまんざらでもないようで胸を張っている。
実際こんな時期に氷が大量に残っているのは珍しい。
壁全面が氷に覆われているから、この妖精は氷に関する能力でももっているのだろう。

「さいきょーなあたいをほめたから教えてあげる。 
 あたいはチルノ。氷の妖精よ!」
「私はレティ・ホワイトロック。冬の忘れ物よ」
「冬が忘れたの?じゃああんたはおいてけぼり?」
「そうね。ある意味ではそうかも」

冬という季節でなければまったく無力な自分はいつも季節においてけぼりをくわされる。
悔しいから不貞寝してやることでそれに対抗しているのだ。

「ねえお願い。次に冬がくるまでこの場所を貸してくれないかしら。
 これから春がやってきて、私の居場所がなくなるの。
 ここなら涼しくて快適だから、冬がくるまで待っていられるわ」
「でもここはひみつ基地だから、ふほーしんにゅーしたものは出ていかなきゃなんないし」
「ひみつ基地だからだめなの?じゃあ私ここの仲間になれないかしら」
「なかま?なかまだったらふほーしんにゅーでもいいの?」
「そうよ、仲間だったら不法進入じゃなくて、いっしょに遊べるんじゃないかしら」

いっしょに遊ぶと聞いて、チルノは顔を輝かせた。

「じゃあなかま!レティはなかまにする!」






それからチルノは自分の能力について教えてくれた。
氷に関する能力だとは思っていたが、冷気を操る程度の能力なんて直球なものだとは思っていなかった。
普通妖精は些細で用途の限定された能力しか持たないものなのだが。

「だから蛙を凍らせるのは得意なんだよ!」

そう笑って手をばたばたさせる。さっきからやたらとテンションが高い。
そういえば、ひみつ基地ならばほかのメンバーは居ないのだろうか。

「チルノ、ここの基地はほかにメンバーは居ないの?」
「めんばー?ここはあたいしかいないよ」
「でも、普通ひみつ基地っていったら何人かで集まって作るものなんじゃないの?」
「ほかのやつは弱いから、集まって作るんじゃない?あたいさいきょうだからひとりでへいきなの」

そう、胸を張るチルノだが、私はその裏の意味にも気づいた。
チルノはいっしょに基地をつくる友達が居ないのだ。

詳しく話を聞いてみると、原因はチルノの能力にあるらしい。
妖精には強力すぎると思った能力は、他の普通の妖精に敬遠されているそうだ。
かといって妖怪も妖精なんかにはかまわないらしく、いつもひとりで遊んでいるらしい。

「じゃあチルノ、私と遊ぶのもつまらないかしら?」
「レティは冬の妖怪なんでしょ?冬は私にちかいからへいき!」
「そう?じゃあいっしょに遊びましょ」

そういうとチルノはにぱっと笑って私を奥に案内してくれた。
この洞窟の奥はチルノ自慢の宝物があるらしい。
私は手を引かれながら、チルノの横顔を見て思った。




まったく、冷気を操る程度の能力の割には太陽みたいな笑顔をするんだから。











その日はチルノといろんな事をして遊んだ。
チルノは凍らせた蛙を解凍するのを見せてくれた。まさか氷付けにしても生きているとは思わず、
生き返ってげこげこ鳴いたときにはびっくりしてしまった。
私はチルノの作ってくれた氷を使って絵を書くことを教えてあげた。
氷を削るだけでなく、中に草を入れて緑色をつけたり、石を使って白い色をつけたり。
一生懸命になって氷を削っているチルノを見ながらわたしは言った。

「私の名前、ホワイトロックは白い石のことなのよ
 きっと山にかかる雪を見てこの名前がついたのね」
「チルノは?チルノってどんな意味?」
「多分”冷気”って意味だと思うわ。
 外の世界の言葉にそんなのがあった気がするわね」
「へー、レティはいろんなことしってるね。
 何でそんなにいっぱいしってるの?」
「そうね、結構長く生きてるし、本も結構読むしね」

実は妖怪の中でもインテリ層だと自負しているのだ。
冬の始まる前や、冬の終わりごろ、季節の変わり目なんかは本をだらだら読むことが多い。

「じゃあレティは字が読めるの?」
「そうよ。チルノは読める?」
「知らない。字ってなんだかわけわかんないから。
 あんなみみずがうにょうにょしてるの楽しいの?」
「そうね、勉強しないとそう見えるわよね
 いいわ。今度教えてあげる」

そうしているうちにチルノの絵は出来上がり、それもチルノの宝物の中に加えられた。





夕方になると、チルノはいつものねぐらに案内してくれた。
湖に近い一番高い木の上。ここでチルノは寝ているらしい。
家具やベットはないのかと聞くと、そんなものはなくても平気らしい。
さいきょうだから、と胸を張っていわれても、それをそのまま受け止めるのは危険だ、と私は考えた。
どうもチルノは妖精に仲間はずれにされているだけではなく、村八分に近い状態にあるようだ。
いくら妖精でも、ねぐらに何も持たないものはそうは居ない。

「ねえチルノ、今日はいっしょにひみつ基地で寝ないかしら?」
「レティといっしょに寝るの?それおとまりっこってやつ?」
「そうね、そんなところかしら」

いやったー!とチルノは喜びを爆発させた。
手や足をばたばたさせて喜びを表現する。それだけでは足りないらしく、ぐるぐる飛び回った。

「あたい、おとまりっこって初めて!」
「そう、じゃあいっぱい楽しんで頂戴」

そういって、チルノをこのさびしい場所から連れ出した。









ひみつ基地に帰って夕食を食べてから、チルノに字を教えることにした。
氷の板に鉄筆で引っかいて字を書く。チルノが居るから字を消すのも簡単だ。
妖精全般にいえることだが、彼女達はあまり記憶力がよろしくない。
チルノもそんなところは例外ではないらしく、鉄筆を鼻と口の間にはさんでうーうーうなっていた。

「ねえレティ、これやっぱり楽しくないと思う」
「そうかしら。たとえばこの”わ”って文字、よくみてて」

そういってチルノの前にゆっくり”わ”の字を書いていく。
最後の払いに入る前で鉄筆を止めた。

「さて、これからが重要よ。この字はとっても悪戯好きなの」
「あたいも悪戯好きだよ!」
「じゃあこの字はきっとチルノみたいなのね。
 このまま素直に払ってしまえば”わ”になるし」

止めていた鉄筆をぐるっと動かす。

「こんな風にぐるっとしたら”ね”っていう、ほかの字になっちゃうのよ」
「えー、じゃあ書いてる途中でどっちにしたらいいか迷っちゃうじゃん」
「そうね、だからきっと違う音にして、区別をつけているんじゃないかしら」

ふーんと、気のない返事をして、チルノは”ね”と”わ”を交互に書き始めた。
それを見ながら、私は自分に少し驚いていた。
いくらこの場所を借りているからといって、普通、妖怪ならばこんな親切にものを教えることはないだろう。
大体この場所だって借りるなんて体裁を整えているのがおかしい。妖怪ならば力づくで奪い取ってしまえばいいのだ。
力の強いほうだとは言ってもチルノは所詮妖精。今のわたしが本気を出せば、苦もなく追い出せるだろう。
しかし、なぜかそうする気にならないのも事実だった。

「レティ!この”ち”って字と”さ”って字もよく似てるよ!」
「そうね、よく似ているわね」


太陽の笑みを向けるチルノを見ながら、やっぱりこれが原因かしら、と納得させられる私だった。
















そんな風にチルノとの暮らしが始まって以来、私の生活はまったく変わってしまった。

朝は元気なチルノに起こされてご飯を食べ、チルノの遊びに付き合う。
チルノは一人遊びが長かったせいか、二人で遊ぶと楽しさが二倍にも三倍にもなることに驚いているようだった。
何を見つけてもレティ!レティ!と呼んでくるチルノの可愛さに目を細めることもたびたびだ。

昼ご飯を食べて、ゆっくりしたあとはチルノに本を読み聞かせる。
チルノは私のひざの上がお気に入りのようで、私の蔵書から絵本を引っ張り出しては乗っかってくるのだ。
知っている字を見つけると大喜びではしゃぐし、知らない文字ばかりだとうとうとしている。
私もチルノの冷気が心地よくて、読み聞かせているうちに眠くなってしまうことが多い。
もっともだいたいチルノが先に寝てしまうので、ベッドに運んであげて、私も一緒にお昼寝してしまう。

晩御飯を食べたあとはチルノが字の勉強をしている。
最初の教え方がまずかったせいか、チルノは似た文字を区別するのに四苦八苦している。
読むぶんには問題ないのだが、文字を書くのが苦手のようだ。
その横についてチルノの文を添削しながら、私は本を読む。
最近では興味の赴くままに本を選んでいると、いつのまにか育児書の類に行き着いていて苦笑してしまう。
いつのまにかお母さんらしくなってしまったものだ。

夜はチルノといっしょに寝る。
チルノの体はやわっこくてひやっこくて、私にとって最高の抱き枕だ。
チルノ曰く、私の体はやわやわでひやひやでふかふからしい。
それから寝付くまで、二人で枕を並べながら今日あったことを話すのだ。



「レティレティ、なかまってレティみたいにみんなこんなにやさしいの?」
「そうね、私はなかまって言うより、お母さんって感じなんじゃないかしら」
「お母さんってなに?」
「お母さんって言うのは、子供を愛して、慈しんで、養育する者よ」
「よくわかんないよ、レティ」
「簡単に言うと、私はチルノが大好きってことよ」
「あたいもレティ大好き!
 レティがいると何でもすごく面白いよ!
 あたいさいきょうだけど、前はもっとつまんなかった気がする」

一瞬さびしそうな顔をしたので、私はチルノを抱き寄せた。
胸に押し付けられたチルノふがふが言うが、頭をなでてやるとおとなしくなった。
私はチルノを胸に包んだまま言った。

「チルノが今楽しいならそれでいいのよ。
 私はチルノの本当のお母さんにはなれないけど、その真似事はできるわ。
 だからおやすみなさい、チルノ。私がずっとそばに居るわ」

そういってチルノを寝かしつけるのだが、最近では不安も感じるようになった。
私は、自分の言葉をいつまで守れるのだろうか。
























春はもうすぐそこまで来ていた。


























3 大妖精




なんだかレティがおかしい。

チルノがそれに気づいたのは、外に雪がなくなって、蛙が土から這い出てくるころだった。
レティはもともとふんわりした動作をしていたが、最近はふんわりというより、ゆっくりといったほうがいい動き方をするようになった。
外に出るとそれがもっとひどくなるから、外で遊ぶより、家の中で遊ぶことが多い。
家の中ではだいぶましだが、チルノより早く寝ることが多くなったし、朝起きるのも遅くなったようだ。
かと思いきや、チルノが昼寝から目を覚ますと居ないことも多い。

不安になってレティに聞いても、
「疲れてるのかしらね」
といって笑うばかりである。

今日などは、どうしてもレティがベッドから起き上がれなくて、チルノは久しぶりに一人遊びをしていた。
本当はレティのそばにいたかったのだが、レティはチルノに外で遊ぶように促したのだ。








一人で蛙を掘り返していると、久しぶりにほかの妖精から声をかけられた。

「チルノちゃん、こんにちは」
「こんにちは」

突然のあいさつにも返事を返すことができた。
レティから、挨拶をされたら挨拶を返すように、といわれていたのを思い出したのだ。

「私は大妖精。みんなは大ちゃんってよぶわ」
「あたいチルノ。氷の妖精よ」

反射的に名乗ったが、どうしてこの妖精は私の名を知っているのだろう。

「どうしてあたいの名前をしってる?」
「ふふふ、どうしてだと思う?」

うーんと頭にて両手を当てて考える。
すぐにぴんときてこぶしを突き上げた。

「あたいのさいきょうも有名になったもんね!」
「残念はずれ。
 正解は私がレティさんのお友達だからよ。」
「レティの友達!?」
「そう、レティさんのお友達。だから私はチルノちゃんが、いい子よーって知ってるんだよ。
 レティさんがチルノちゃんのこと、いっぱい誉めてたから」
「レティがチルノほめてるの?
 あたいったらやっぱりさいきょうね!」

大妖精はくすくすと笑った。

「ねえ、チルノちゃん。今日は私と一緒に遊ばない?」
「いいの?」

チルノは少し腰がひけてしまう。
妖精たちに遊びに入れてと言ったのはもうずいぶん昔のことだ。
こっぴどくことわられてからは、あまり近づかないようにしていた。

「レティさんが大好きなチルノちゃんがどんな子か、私もいっぱい知りたいから。
 さいしょは、チルノちゃんの得意なこと教えて?」
「じゃあ、あっちで教えてあげる!」


そういって大妖精とチルノは連れ立って飛んでいった。
































物陰からそれを見ていたレティはそっと吐息を漏らした。
もう大丈夫、チルノはやっていける。













一週間後、レティはとうとう一日中ベッドから離れられなくなった。
それまでは大妖精が遊びに来たり、ベッドのそばに氷付けの花を飾ったり、
部屋の中でなら行動できていたが、とうとう起き上がれなくなったのだ。

そうなってからのチルノは一生懸命努力した。
レティに任せていた料理も大妖精に手伝ってもらって作れるようになったし、
レティの頭を冷やすため氷タオルも用意した。
そばを離れたくないから、レティが起き上がれなくなってからはずっと基地にこもっている。

「こんにちは」

大妖精も毎日お見舞いに来てくれる。
彼女が居なければ、チルノは看病などできなかっただろう。
大妖精もチルノほどではないにしろ、強い妖精で、チルノの面倒をよく見てくれるのだ。


「チルノ」
レティに呼ばれたのでベッド脇に寄る。
レティのふかふかだった体は少しやせたようだった。

「大ちゃんも来てくれる?」
何も言わずに大妖精も近くに寄った。沈痛な顔をしている。

「今日は大事な話があります。
 チルノは私が冬の妖怪だって知ってるわね?
 私は冬の忘れ物。忘れ去られた妖怪は、力が弱くなってしまうの。
 だから、私はこれから眠りにつかなくてはならないわ。」
「レティが寝るのなんていつものことじゃん。
 最近はずっと寝てるし。」

実際チルノの見る限り、レティの睡眠時間はどんどん増えているのだ。
しかしレティはかぶりをふってこういった。

「次に眠ると、もう起きるのは冬が始まるころになってしまうわ」
「どういうこと?」
「チルノといっしょにいられないってことよ」




































4 冬の娘






いっしょにいられない。
あたいにはなんのことだかわからない。


「私が居ない間のことは、そこの大ちゃんに頼んだわ。
 彼女はとてもしっかりした子よ。
 よろしく頼むわね、だいちゃん」
「はい。任せてください」


レティと大ちゃんがなにかいってるけど、あたいにはなにがなんだかわからない。
大ちゃんの悲しそうな顔を見て、やっとそれがレティが居なくなることだってわかった。


「やだ」
「チルノちゃん」
「やだやだやだ!何でレティそういうこというの!
 ずっとそばにいてくれるっていったじゃん!」

目から勝手に水があふれてくる。
途中で氷になって床でかちかちいった。

「レティがいないと楽しくないもん。
 レティが寝るならあたいもいっしょに寝る!
 レティが冬まで寝るならあたいも冬まで寝てる!」
「チルノ」

レティが悲しそうな顔をしていった。

「そんなことはできないわ。
 私はチルノに幸せになって欲しいから。
 私の寝顔だけを見てさびしそうにしているチルノに、私は耐えられないわ」
「いいもん。レティがそばに居てくれるならそれでいいもん!」
「チルノちゃん」

大ちゃんが袖を引っ張るけど、あたいはそれを振り払ってレティに抱きついた。
レティの胸でわんわん泣く。泣きすぎてとけちゃいそうになるくらい泣いた。
ほんとはあたいもわかってる。レティは冬の妖怪だから、寝ないといけない。
でも、レティが居ない生活なんて考えられない。
本を読み聞かせてくれる声も、字を教えてくれる手も、レティのふかふかな冷やっこい胸もなかったらあたいはどうなってしまうんだろう。




すんすん鼻を鳴らしていると、レティがあたいの頭をなでながらこういった。
「チルノ、もうあえなくなるわけじゃないわ。
 次の冬までだけのことよ。
 それまでのことをチルノが教えてくれなかったら、次に目がさめたとき、私は浦島太郎になっちゃうわ」

レティの読んでくれた本にでてくるおじいさんだ。
箱を開けて何も知らないままおじいさんになっちゃったやつだ。
レティがそうなったら少しかなしい。

「あたいバカだから、レティがいない時のことなんて覚えきれない」
「あら、チルノはさいきょうじゃなかったの?」
「あたい、レティが居てくれるならさいきょうじゃなくていいもん」

レティの胸でぐずぐずしながら言った。

「じゃあチルノ、手紙を書いてくれないかしら」
「手紙?」
「そう、手紙。チルノが私を思いながら、そのときあったことを書いてくれればいいわ。
 さいきょうのチルノが、私の居ない季節でどうすごしているか。
 手紙が溜まったら、この部屋を空けて私に出してちょうだい。
 次の冬がきたときにいっしょに読みましょう?」




「……わかった」
本当はすごくいやだったけど、わかったことにした。
だって、レティの体がふわふわじゃなくなってたから。
きっと今も苦しいのに、あたいのためにがんばってくれてるんだ。

「じゃあ約束ね」
「ゆびきりげんまん」
小指を差し出す。こうやって約束したことは絶対守らなきゃいけないんだってレティいったから。

ゆーびきーりげんまん うーそついたらはーりせんぼんのーますっ ゆーびきったっ

そういって指を離すとレティがあたいをきつく抱きしめた。
薄くて固くなったレティの胸で、レティが震えながらこう言うのが聞こえた。











さようならチルノ、私の大事な冬の娘



















あたいがはじめてみた、レティの涙だった。














5 後日談

「たのもー!」
「お邪魔します」

チルノと大妖精が寺子屋にやってきた。
夏ごろから寺子屋に字を教わるために通うようになったのだ。

慧音は妖怪には珍しく感心なことだと思っていたが、それには理由があるそうだ。
何でも手紙を書くために、新しい字を教えて欲しいらしい。

「私はまだあんまり書けないから、チルノちゃん頼りなんですけどね」

大妖精が恥ずかしそうに笑う。
そのチルノはぐりぐりクレヨンで絵を書いている。
それも同封するのだろう。

「できた!」

チルノが手を上げて喜ぶ。
いそいそと封筒に入れるのを見て、慧音は前から疑問に思っていたことを訪ねた。

「その手紙は誰に出すんだい?」

チルノが大妖精と顔を見合わせた後、二人でにっこり笑ってこういった。



「冬のおかあさんだよ!」




それはまさしく、太陽のような笑顔だった。
「あたいはげんきだよ。
 だいちゃんも、げんき。
 あたい、さいきょうだから、れてぃがかえってくるまでげんきでいるね。
                                       さるの」
アステルパーム
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コメント



0.2330簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
物語的には王道でさんざん描かれたような内容の話。
しかしそれでも面白い。
8.100名前が無い程度の能力削除
これぞレティチルですな
13.100名前が無い程度の能力削除
負けた。
レティチルがこんな素晴らしいものだったとは……。
15.90名前が無い程度の能力削除
チルノがいかにも子供らしく、
レティがそれに引き摺られるように急速にお母さん化していき、
そのレティの半端無い愛情を一身に受けて健やかに成長するチルノ。
とても微笑ましくも心地よい一編でした。あいがとうございます。
17.100名前が無い程度の能力削除
いいねえレティチルは
37.100名前が無い程度の能力削除
ぐわわわ、古典的なレティチルノをここまで泣かせる作品にできる猛者がまだいるとは……。
血の繋がらない二人の親愛と、チルノ自身の精神が育っていく様がとても心地よかったです。
大妖精の登場で新しい局面への移行が上手く表現されていて、流れるようにオチまで誘われてゆきました。
41.100名前が無い程度の能力削除
いいなーいいなーとおもって最後のあとがきで笑ってしまった。
お約束すぎるネタなのに、使い古されたネタなのに。
42.100名前が無い程度の能力削除
はぁー。いいですね。いいレティチル。
そしてさるのw