Coolier - 新生・東方創想話

今日は厄日

2009/06/18 22:35:07
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「雨ねぇ……」
「そうね……」

「うっとうしいわねぇ」
「そうね……」

「早く止まないかしら……」
「そうね……」

「もうすぐ止むよね」
「そうね……」

「止まない雨なんてないもんね」
「そうね……」

「……はぁ」
「そうね……」

「静葉姉さ……ん?」
「そうね……」

「おーい……?」
「そうね……」

「……私って何て可愛い神様なのかしら!」
「それはないわね……」

「……」
「そうね……」

 麗らかな春も過ぎ去り、ここ、妖怪の山にも陰鬱な雨の季節がやってきた。
山は里の方よりも雨の量が多く更に湿気も倍以上あるので、何をしなくても全身汗だくになってしまうほど、きわめて不快指数は高かった。
そしてそれは当然、秋姉妹たちにも影響を及ぼしていた。

「今日も今日とて雨なのよー。明日もきっと雨なのよー。明後日もーその後もずーっとずーっと雨なのよー」
「でも止まない雨などありゃしない。そのうちきっと晴れるわよー」
「きっとそうよねーお姉様」
「間違いないわー。芋子」
「だーかーらー芋子って言うなっ!」

思わず声を荒げる穣子。

「んもう、穣子ったら暑いんだからそんな大声出さないで欲しいわ」
「お姉さんのせいでしょ! 大体、この蒸し暑さを紛らわせるために歌おうって言ったの姉さんだったよね……?」
「そんな昔のこと忘れたわ。私は過去は振り返らない主義なのよ」
「ほんの少し前のことくらい振り返ってよ!」
「嫌よ。私のポリシーに反するわ」
「何がポリシーよ。本当はめんどくさいだけでしょ」
「芋子ったらわかってないわね」
「だから芋子って言うな! 大体今、芋の季節じゃないし……」
「そうね、今は新生姜が美味しい季節だわ」
「食べないわよ。そんなの」
「あら、だめよ。旬の食材を食べることで、その季節を乗り切ることが出来るのよ?」
「そうなのかー」
「似てないわよ」
「べ、別に真似なんかしてないもん!」

そう言って思わず赤面する穣子。そんな彼女の様子を静葉はニヤニヤとしながら見ている。

「ところで姉さん。旬の食材ってたとえば?」
「そうね、睦月は門松。如月は豆。弥生は雛人形ってとこかしら」
「あー……ということは卯月は桜の木、皐月はこいのぼりあたりってこと?」
「その通り、流石、穣子だわ」
「えっへん……ってんなわけあるかっ! どこの誰が門松なんか食べるのよ!」
「大丈夫よ。穣子ならきっと出来るわ。お姉ちゃんが太鼓判押してあげる」
「そんな太鼓判いらないわよ! しかもなんで弥生に雛人形食べなくちゃいけないの」
「食物繊維は体にいいのよ」
「食物繊維ならサツマイモで十分! 大体、雛人形を食べる意味が分からないわ」
「決まってるじゃない。厄除けのためよ。厄なんか食べてしまえっていう願いを込めて頭から齧り付くの。ちなみに食べてる間は一言も話しちゃだめよ」
「それ、どこの恵方巻きよ!? だから食べないってば! 第一厄除けなんてすぐ近くに本職がいるでしょ。彼女に任せておけばいいのよ」

言うまでもなく鍵山雛のことだ。彼女は秋姉妹のあばら家と割と近い所に住んでいる。

「あら、そう言えば彼女は元気なのかしら」
「ん、そういえば最近見てないね。最後に会ったのいつだっけ?」
「そうね、忘れたわ。いい機会だから、ちょっと様子を見てきましょうか」

 二人は隠れ家のあばら家を出ると、谷底の川のほとりにある雛の住むお堂へと向かった。
外は雨が降っていたが、二人は別に雨に濡れること自体は嫌いじゃないので別に平気だった。

「ねぇ、姉さん。居る思う? 彼女」
「多分居るわよ。雨の日にわざわざ進んで出かけるなんて、物好きもいいところだわ。それこそ河童かカエルくらいよ」

自信満々に答える静葉。思わず穣子がつぶやく。

「あのー……姉さん。一応、今の私たちもそういうことになるよね……」
「……穣子。細かいことを気にしたら人生の敗北者よ」
「敗北者って言うかむしろ負け犬?」
「それじゃ余計悪化してるわよ」

などと言ってるうちに目的地のお堂へと二人はたどり着いた。雛の住むお堂は二人の住むあばら家と同じくらい朽ち果てていた。
更に周りの厄が皆ここに集められているせいか、どことなく雰囲気が重いのは気のせいか。いや気のせいではない。
茹だるような湿気とは違う別の何かが渦巻いているのを確かに感じ取ることが出来た。二人は思わず躊躇する。

「ねえ、静葉姉さん……やっぱ入るのよそうか?」
「ええ、そうね。もう帰りましょう」

と、二人があっさり帰ろうとしたそのときだ。

ごとん!

お堂の中から何か物音が聞こえた。どうやら中に誰かいるようだ。

「穣子。やっぱせっかく来たのだから、このまま帰るのはもったいないわ。中に入ってみるわよ」
「うう、嫌の予感しかしないけどなぁ……」

二人はそっとお堂の扉を開け中へと入る。中は真っ暗だった。しかも、もの凄く篭った臭いが蔓延している。二人は思わず手で口を覆う。

「うわっ……すごい臭い……何よこれ……!」
「これはひどいわね。穣子、灯りは持ってる?」
「そんなの持ってないわよ」
「もう、穣子ったら用意が悪いわね……」
「普通持ってる方がおかしいわよ!」
「仕方ないわね。穣子、そこら辺の壁の板を適当にはがして」
「壁?」
「そ。壁。一思いにやっちゃいなさい」

穣子は言われるままに壁の板をばりばりと剥がす。するとようやく日の光が差し込んできた。

「ねぇ。明るくなったのはいいけど……こんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫よ。私たちは神様だもの」
「それはそうだけど……うーん……」

穣子は腑に落ちない様子で眉間にしわを寄せながら辺りを見回す。すると奥で何かがうごめいたのが見えた。

「姉さん! 奥に何かいるみたいよ!?」
「よし、火を放つのよ」
「火なんか持ってないわよ! ……って、あ!」

穣子は奥で誰かが倒れているのを発見して、すぐさま近寄る。

「この緑色の髪は……お姉さん大変! 厄神よ! 雛が倒れてるわ!」
「よし、火を放つのよ!」
「だから何でそうなるのよ!?」

穣子は姉を放っといて、雛を呼び起こす。呼びかけると彼女はゆっくりと目を開ける。そして開口一番。

「たすけて! しろいわにがせめて来るわ!!」

叫んだかと思うと、いきなり穣子に抱きついてきた。

「ふぇ? ちょ、ちょっとーっ!?」

穣子は雛に押し倒されるように床にひっくり返ってしまう。

「あらあら、二人とも真昼間からお盛んねぇ」
「ちょっと、姉さん! 見てないで助けてよ!」
「それは出来ないわ。二人の仲を邪魔する者は馬にけられて地獄に落ちてしまうもの」
「そういう問題じゃないってば!」

そのとき、どこからともなく、くすくすという笑い声が聞こえてきた。

「何!? 誰よ! どこにいるのよ!」
「ここよ」

穣子たちの目の前に現れたのは小さな人形だった。

「何よ。あんたは!」
「私はメディスン。見ての通り自分の意思を持つ人形よ」
「人形? なんで人形がこんなとこにいるのよ」
「そこの神様に連れてこられたの。どうやら私の毒にやられちゃったみたいだけど」
「毒?」
「そうよ。私は毒の力で動くことが出来るの。ここは猛毒の黴がたくさん生えてるから居心地いいわ」

そう言うとメディスンと名乗った人形はふわふわと宙を舞い始める。

「なるほど。この悪臭の正体は黴だったのね。穣子、除菌液まきなさい」
「持ってないわよ!」
「それじゃ粉石けんでもいいわ」
「だからないってば!」
「仕方ないわね。やっぱり燃やすしかないわ」

そう言って静葉は懐から火打石のようなものを取り出す。

「ちょっと静葉姉さん! なんでそんなの持ってるのよ!?」
「備えあれば憂いなしって言うでしょ。こんなこともあろうかと河童の奴から仕入れておいたのよ」
「……何に使うつもりだったのよそれ……」

思わず突っ込みを入れずにはいられない穣子。

「ちょっと! 何よ。ここを燃やす気? そんなことするんなら、あなた達も私の毒でおかしくなっちゃいなさい!」

そう言ってメディスンは毒の霧を辺りに撒き散らす。しかし静葉はそれをさらっと受け流した。

「甘いわね。毒なんかで神様を倒せると思ったの? 毒ごときにやられる神様なんて神様じゃないわ!」

穣子は、姉の言葉を聞いて思わず、床に突っ伏して倒れている雛の方を見遣る。

「さあ、覚悟しなさい。毒人形さん」
「ちょっと待ってよ。元はと言えば私を連れてきたのはこの人よ!?」

慌てた様子でメディスンは倒れている雛を指差す。

「よし、じゃあ、ついでに彼女も懲らしめましょう」
「……え? 姉さんそれは違うんじゃ……」
「いい? 穣子。私たちに今起こったアクシデントは総てこの厄神せいよ」

雛はきっと、勝手に来たあなた達に言われる筋合いなんかないわ。と、思ったことだろう。

「というわけで悪戯が過ぎたわね。覚悟なさい!」

静葉は不敵な笑みを浮かべてメディスンを見つめる。

「ふんっ……やれるものならやってみなさいよ!」

一方、メディスンは、腰に手を当てて二人をにらみつけている。まさに一触即発の様相。
そんな場の空気を察した穣子は、雛を背負って、いち早く外へと逃げ出す。
すると、外の新鮮な空気を吸った雛が目を覚ました。

「ん……」
「あ、大丈夫?」
「……穣子?一体何が……」
「大丈夫よ。何か色々あったみたいけど、たぶん姉さんが上手くまとめて……」

その時、地響きのような爆音と共に黒煙が舞い上がる。

「何!? 何!?」

思わず二人が振り返ると、あろう事かお堂が木っ端微塵に吹き飛んでいた。

「わ、私の……家が……ぁ」

それを見た雛は再び昏倒してしまう。

「ちょっと!! 雛しっかりして!?」

雛もだが、それ以上に姉も心配だった穣子は一瞬だけ迷った挙句、雛を置いて姉の方へと向かった。

「姉さーん!? 生きてるー!?」

穣子が呼びかけると、黒煙の中から静葉がゆっくりと姿を現す。しかもあれだけの爆発にもかかわらずほとんど無傷で。

「……ふう、やってしまったわね」
「一体何があったの?」
「私が持ってたの火打ち石じゃなくて火薬だったのよ。ダイナマイトてやつ」
「ええぇ!?」
「それで火をつけたらこの有様よ」
「で、アイツはどうなったの?」
「爆風で吹っ飛んでったわ。ま、いい薬になったんじゃないかしら。毒は使いようによっては薬にもなるって言うし……」
「んー……ていうか、あれだけの爆発でよく無事だったわね」
「あら、穣子ったら何を言ってるの。そんなの当たり前じゃない」
「え?」
「だって私は神様よ」

姉の言葉を聞いた穣子は思わず噴き出す。

「あはは……そっか。そうだよね!」
「さ、そろそろ帰りましょうか。まったく……帰ったら服洗濯しなきゃいけないわね」

そう言いながら静葉は服のほこりを払う。

「じゃあ、今日は私が洗濯してあげるわ!」
「あら珍しい。明日はきっと雨ね」
「明後日も雨よ」
「じゃあ、その後もずーっとずーっと雨ね」
「でも、止まない雨はない。……でしょ?」
「ええ、そうね」

雨はいつの間にか止み、辺りにはすがすがしい雨上がりの匂いが漂っている。
二人はその中をはしゃぎながら帰っていく。





その頃、一人残された雛は倒れたままで思わず呻いた。

「……今日は厄日だわ」
「ところで姉さん。私何か忘れてる気がするんだけど……」
「そう? きっと気のせいよ」
バームクーヘン
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コメント



0.480簡易評価
8.70名前が無い程度の能力削除
神様だから毒が効かないって…雛は?
9.70名前が無い程度の能力削除
なぜ雛様が厄日にwww