Coolier - 新生・東方創想話

今昔幻想夜話 第二夜

2009/06/05 07:12:25
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※この作品は作品集74「今昔幻想夜話 第一夜」と若干のつながりがあります。
 前の作品を読まれていなくても大丈夫なように作っているつもりですが、まだの方はこの機会にあわせて読んでいただけると私が喜びます。





 夜は人にあらざるものたちの時間。
 妖怪の山で天狗たちによる宴席が行われ、太陽の畑ではプリズムリバー楽団のライブが頻繁に催される。

 その喧騒に身をゆだねる気がないとばかりに、夜空をふわりふわりと舞う妖怪がひとり。自慢の日傘に風を受けながら天空をゆるりと進む。
 彼女、風見幽香は別ににぎやかな場所が嫌いなわけではない。ただ、いつもそういう場所にいるつもりもない、というだけなのだ。
「あら」
 ふと何かに気づいたように妖怪の山の方角を向くと、月光をさえぎって飛んでくる少女がひとり。
「あややや、お久しぶりですってほどでもないですが、こんばんは」
「ごきげんよう、騒々しい天狗さん」
 おや歓迎されてないのかな、と思いながらその天狗・射命丸文は幽香の傍らへと静止する。
 その頭に、幽香は問答無用でげんこつを落としていた。
「あいたぁ!?」
「あのねぇ、無名の丘で決闘でもない弾幕勝負をやらかすなと言っておいたはずよね」
「あ、アレはですねぇ。アポはちゃんと永遠亭まで行って待ち伏せて取ったんですよ。そしたらメディスンさんがどうせなら無名の丘でやりたいって!」
 そういう理由かと合点しながら文は弁解に努める。どうやら彼女は自分が行っている弾幕に関する取材についてご立腹のようだ。
「でもどうせ『本気を出せる環境で自分の力をアピールした方が、同志も集まりやすいかもしれない』とか吹き込んだんでしょう?」
「ええ、それは勿論…ってやめてください、暴力はいけません、暴力は!」
 もう一発、と拳を振り上げた幽香に両腕を突き出して文は制止する。
「まったく…目的のためなら約束なんてどうでも良いのかしら」
「そんなことはないですよ。時と場合によります、何せ私は…」
「清く正しい射命丸だから?」
「はい」
 厚顔無恥な射命丸の間違いじゃないかしら、と呟きながら幽香は止めていた歩みを再び始める。
「あ、この方向っていうことは冥界に行かれるんですよね。お供しますよ」
「お供って元から行くつもりだったんでしょう」
「まぁそうですけど、そう言った方が角が立たないじゃないですか」
「いちいち体裁を気にして、天狗というのも難儀なものね」
 そういう割には幽香の言葉に拒絶の色はない。ふたりは冥界を目指し、天空を進んでいった。


 冥界にある白玉楼は、冥界の管理を任された西行寺家の邸宅である。広大な庭園を持つ敷地の一部は開放されており、転生を待つ幽霊たちの憩いの場になっている。
 その奥、巨大な妖怪桜を眺める軒先に、館の主・西行寺幽々子は腰掛けて茶をすすっていた。
「幽々子様、お客人をお連れしました…」
「はぁい、きたわよ」
「どうもお邪魔します」
 庭師の妖夢に連れられてきたのは幽香と文。満面の笑みをした幽香に比べ、文は笑みがひきつっており、妖夢にいたっては弾幕で吹き飛ばされたように服装が乱れている。
「あらあら、その様子だとまた幽香に可愛がられたのね」
「はい、面目ありません」
 いつものことなのだろう、妖夢は半ば諦めた様子でもある。
「もっと鍛えなさい。どこぞの魔法使いに泥棒に入られたりしたら大変でしょう?」
「どこぞの魔法使いは出会い頭に決闘宣言なんてして、問答無用で攻撃なんか仕掛けてきません…」
 それはそうだ、とやり取りを眺めていた文は苦笑する。風見幽香は傍若無人なのだ。あるいは、深い考えがある場合もあるのかもしれないが、周囲から見ればそれは唐突な思いつきの行動にしか見えないことが多い。
 そういえば、ここにはもうひとりそんな存在がいたなと視線を移すと、彼女の考えを読んでいるかのように、館の主は扇子ごしにこちらを見つめていた。

「どうぞ」
 数分後、服装を整えた妖夢が差し出したお茶を手に取り、幽々子と共に軒先に並ぶ幽香と文。
「遠くには西行妖、月光の下の澄んだ空気、騒々しい妖怪たちがいない空間…落ち着きますねぇ」
「そうね。夏も随分と深まってきたし、こういうときは冥界の夜風が一番だわ」
「そう言ってくれると、冥界の管理者冥利につきるわー」
「でも貴方は殆どなにもしてないんでしょ」
「まぁね」
 扇子で小さく扇ぎながら、幽々子は笑う。
本当に何もしてないのか、それとも実際は違うのか。そもそもあの説教臭い閻魔が何もしないような人材に冥界を任せるのか。いくつかの疑問が浮かんだが、文にとってはあまり興味をひく内容ではなかった。
「それにね、なにもしなくて良いってことは平和な証だわ」
「平和ねぇ。最近は平和すぎてボケがきてる妖怪が多すぎて困るわ」
「でも貴方はちょっと暴れすぎじゃないでしょうか」
「そんなことないわよ。日課をこなしてるだけで、必要以上にやってはいないわ」
「日課、ですか。妖怪とは本来そういうものなんですか?」
 会話のさなかに幽々子と文の間に腰掛けた妖夢が、文の方を見つめる。これは困った、と文は思ったがここでごまかすと余計なことを言い出しそうな妖怪が隣にいるので、口を開く。
「どうなんでしょう。天狗はあまりそういうことをしないんですけどね。大結界が出来る前とかは結構活発でしたよ」
「妖怪が人間を襲うことが常態化していた時代があったんですか」
「長い間そうだったんですよ。平和な時代の方が比較すれば短いわけですが…まぁそれをしなくなったせいで妖怪の大半が弱体化しちゃって、新参者たちが大きな顔をするようになったのは誤算でしたね」
「しかもそれは妖怪の山ですら、現在進行形でのさばっているわよね。何より最近の異変で衆目を集めるのは、新参者や永遠の中で隠れていたものたちが大半」
 痛いところをいう方だ。自分が一番触れたくないところだというのに。と内心ぼやきながら文は続ける。
「人を襲い、恐怖を与えることで力を得るのが妖怪のあり方なのでしょう。かつて鬼が山に君臨していた時代、彼らは定期的に人をさらうことでそれを一種の儀式のように仕立て上げていました」
「人を襲うのが、妖怪ということですか」
「はい。鬼が幻想郷を去ってから数百年、そして大結界の束縛が広がってからも百余年、妖怪たちは平和な日々の中で力を喪失しました。今は弾幕勝負などの擬似的な決闘によって力を取り戻し、妖怪の力はこの幻想郷に飽和していますが、それは妖怪が多大なリスクを冒すことなく人間を襲撃できるようになったから、だともいえるかもしれません」
「でもそれによって妖怪たちは安易に存在事由を得すぎてしまったのよ」
 再び口を挟んできた幽香を見、文はどうぞと彼女を促す。自分が言うべき不愉快なことは言い終えた、後はこの妖怪らしいのに妖怪らしくない相手に任せておくべきだろう。
「驚異的な身体能力とずば抜けた異能。さらには妖術や魔法を使いこなし、人間を軽く優越した知性で恐怖を与えるのが真の妖怪よ。ちょっと襲って困らせた、程度では妖精たちと大差ないわ」
「でもだからって人間だけじゃなくて妖精や妖怪すらも片っ端から襲って力を誇示する妖怪、っていうのも妖怪らしくないんじゃない?」
「四季映姫(あいつ)みたいなこと言うのね。私からすればそれが妖怪らしい、ということなんだけど」
 そうかしら、と幽々子は首をかしげる。それは既に妖怪という枠の外にあるものではないか。そう文も思ったが、口には出さない。
「恐怖されるということは妖怪の大きな糧だわ。人間や妖精、妖怪は勿論のこと、たとえ相手が神霊や亡霊であったとしてもね」
「つまり死者も生者も関係なく、ですか」
「そう、貴方の剣だってその双方を斬るために対を成しているわけでしょう」
「そうですけど、私は別に恐怖を与えたいわけじゃ…」
 そう?と返して幽香は妖夢の瞳を見据える。赤く深い闇のような色をした彼女の視線に見据えられると、自分の後ろ暗い部分を見透かされているようで、思わず妖夢は腰を引いた。
「ねぇ、本当にそう思っているのかしら。貴方が守りたいものは何?守るために必要なものは何?」
「私が守るべきは幽々子様で、お嬢様をお守りするためには力が必要で…」
 間に挟んだ文を押しのけて幽香は妖夢へと迫っていく。口の端を小さく吊り上げたその表情はまさに妖怪というべきものだった。
「そうよね。力があれば周りに恐怖を与えることも容易だわ。恐怖を与えることができれば無駄な争いを未然に防ぐことも出来る」
「でも必要以上の力は周りを刺激してしまいます。それは新たな争いの火種にもなりかねません」
「それは力が中途半端な場合の話よ。もし自分の持っている力が絶対的なものだったら、そうは行くかしら」
「そ、それは…それは…」
 視線をそらして困ったようにうつむく妖夢。彼女の内にある言葉は、幽香を否定し得るほどは強くない。
 その困惑の色がたまらず。幽香はさらに身を乗り出したが
「と…あら。ここまでね」
 ふたりの間をさえぎるように、幽々子が扇子を翻した。
「ダメよぉ幽香。妖夢をからかうときは私を通してくれないと」
「ごめんなさいね、つい面白かったものだから」
「か、からかったんですか!?」
「半分はね」
 さっきまでの空気はどこへとやら。邪悪な色を瞳から消して幽香は微笑む。その幽香の代わり映えよりも、絶妙なタイミングで水を差した幽々子の手腕こそ讃えられるべきだろうとやり取りを眺めていた文は思う。
「お二人は仲が良いんですね。普段そんなにお話しているイメージがありませんが」
「ほら冥界と顕界の往来がこんなに簡単な時分って最近くらいじゃない。だからそう感じるのよ」
「昔から良くこちらにはきていたのよ。冥界でしか見れない花も多いしね」
 そういう視線の先には西行妖。幾多の死を吸った妖怪桜も彼女にとってはいつくしむべき花のひとつなのだろう。
「あら、私は花のついで?」
「そうかもしれないわよー。違うかもしれないけれど」
「まぁ意地悪ね」
 言って、ふたりはコロコロと笑う。そしてひとしきり笑うと立ち上がり
「さぁじゃあ行きましょうか」
「あや?どちらに行くんですか」
「決まってるじゃない。西行妖の下へよ」

 西行妖。
はるか昔、歌聖と慕われた幽々子の父親がこの桜の下で息を引き取った。その後春にこの桜が満開となると、人々がそこに引き寄せられるように死んでいく。死者の血を吸って育った桜は妖怪としての力を得るようになり、今も生きたままこの冥界に封印されている。
「いやぁいつ来ても凄い眺めですよね」
 パシャリパシャリとカメラをまわしながら、文は素直な感想を漏らす。
 死の気配に包まれた空気はまるで夜霧のたちこめた森林のように冷たくはりつめ、生きるものにプレッシャーを与え続けている。
 その源である妖怪桜は封印の中で静かに眠っており、周囲では無数の反魂蝶が羽を休めて青白い光を放っていた。
「でしょう、私のお気に入りよ。そして私が幽々子と初めて出会った場所でもあるの」
 今もそのときのことを覚えている。幽香と幽々子にとって、その出会いは大きな意味を持つものだったから。
「懐かしいわねぇ。アレは私が閻魔さまに冥界を任されてから少し経ったときだったわ」
 そしてふたりは語り出す。この桜の下で出会った日のことを。



 冥界の白玉楼。私がこの地にやってきてから今日でちょうど1ヶ月らしい。
 らしいというのは今朝妖忌がそう言っていたからで、私はそういうことに頓着していなかった。
 右も左も分からない冥界暮らしは、色々と世話を焼いてくれる隙間の妖怪さんとの出会いや、時々見に来ては指摘とお説教をしていく閻魔さまのお陰で、慌しいけれど充実した日々となっている。
 だから今日みたいに閻魔さまもあの妖怪さんも来ない日があると、急に手持ち無沙汰になってしまう。
 妖忌は庭の玉砂利を手入れするとかでいないし、他の幽霊さんたちも忙しそうにしているから、こういうときはあの場所に行くことにしよう。
 私はお気に入りの扇子を手にすると、館の奥へと進んでいった。


 冥界を訪れるのは久しぶりだった。
花が色々とあるのは良いのだけど、厄介な閻魔の領域だったし、どっかのスキマみたいに境界をいじってほいほい行くわけにもいかないから。
けれども今日は行く必要があった。
それは花に宿った霊たちが語る言葉を聴いたから。
曰くお姫様がやってきた、曰く大きな館ができていた、曰く…いつの間にか巨大な妖怪桜が冥界の奥に鎮まっていた。
どれも私の興味を惹くものであったけど、特に最後の話題は気になった。それは思い当たる節があったから。
西行妖、あの妖怪桜が封印されたと聞いていたけど、その場所として冥界が選ばれたのではないか。魂を食らう妖怪桜だということだったから、確かに冥界であれば食らう魂もなく、安全に封印できるだろう。
だから私は夢幻の間を伝って冥界へと割り込み、こうして桜並木を進んでいる。


「あら、こんなところにお客さんだなんて。貴方は閻魔さまか死神さん?それとも紫のお友達?」
 桜並木を抜けた先、目指すべき西行妖にたどり着いた幽香を迎えたのは、そんな声だった。
「閻魔も八雲紫も知っているけど、そういった関係じゃありません。私は風見幽香、ただの花好きの妖怪です」
 このような場所にいる相手だ、油断はならぬと思いながら幽香は返答する。と同時に相手の居場所も探った。
 するとちょうど影になっている桜の洞(うろ)から物腰の柔らかそうな女性が現れ、こちらへと歩んでくる。
「あら幽香さんっていうのね。はじめまして、私は西行寺幽々子と申します。最近閻魔さまにこちらの管理を任されたものですわ」
 うやうやしく頭を垂れる幽々子の姿を見、幽香は相手を値踏みする。この女が幽霊たちの言っていた亡霊の姫君に違いないだろう。鬼のような力強さは感じないが、独得の気質を感じる相手だ、と。
「ご丁寧にどうも。幽々子さんで、いいかしら」
「ええ、こちらも幽香さんって呼ばせてもらったし」
 少なくとも表面上は和やかに、ふたりは笑みを浮かべて歩き出した。
「花好きの妖怪さんって言ってましたけど、わざわざそのためだけに冥界に?」
「そう。そうしたら西行妖なんて凄いものに出会えて、興奮しているところなんです」
 偽りのない笑顔で微笑む幽香を観察しながら幽々子は思う。普通ここにたどり着くまでに妖忌や他の幽霊たちが気づくはずだ。だが眼前の妖怪は何も妨害なくここにたどり着いている。気配を隠すのがそこまで得意だったのか、あるいは別の理由があるのか。
「そうだったのね。じゃあどうぞ、ゆっくりと観賞していってください」
 勿論、とうなずいて日傘をさした妖怪は西行妖の周囲をゆっくりと散策していく。その姿は無防備で、とても力がある存在のようには見えない。
(少し、試してみようかしら)
 そんな悪戯心が幽々子の内に起こったのは、半刻ほど経過した後のこと。相も変わらず妖怪桜を眺め、ときに語りかけている幽香の姿を眺めているのに飽きかけていた頃だった。
 彼女の指先が妖しく動くとそれまで西行妖の周囲でまどろむだけだった反魂蝶たちが羽を広げ、そしてゆっくりと幽香の周囲を舞いはじめる。
「あらこれは?」
「それは反魂蝶。気をつけてね、それに触れると生きているものはみんな死んじゃうの」
「まぁ恐い。まだ死にたくないわ」
 そういって大げさなリアクションを取る幽香。言う言葉とは裏腹な恐れを知らぬような態度が、幽々子のさらなる行動を引き出す。
「それはそうよね。でも、反魂蝶たちがそれを許してくれるかしら」
 へぇ、と視線を細めた幽香は内心驚嘆していた。反魂蝶の話は聴いたことがある。死へを誘う幽冥の蝶で、これに魂を吸われてはいかなるものも抵抗できないと。
 目の前の女が反魂蝶を操っているのは間違いない。その量たるや幽香の視界全てを埋め尽くして余りあり、漂う死の香りが生きている自分すらも染めてしまいそうだった。
(これは…とんでもない妖力の持ち主ね)
 なるほど、あの閻魔が冥界の管理を任せるだけはある。花見のついでに面白い相手に出会えたものだ。そう幽香は心の中で呟いた。
「ねぇ幽香さん。花の蜜は蝶のためだけにあるわけじゃないけれど、蝶は蜜を欲するものよね」
「そうね。だから花は蜜をその身に宿した。一方で毒や茨を宿した花が蝶たちを利用するために蜜を得たのよ」
「花が蝶のためにあるんじゃなくて、蝶が花のためにあるってことかしら」
「私はそう思うわ。だって私は花の味方だもの」
 こちらの意図を察しながら不遜に微笑む幽香に、幽々子は思わずその真意を測りかねた。これはただのはったりか、それとも…
(それを含めて確かめるのが良いわね)
 と彼女は合点すると、能の一節を舞うかのようにゆっくりと指先をかざし
「まぁどちらでも構わないのよ。ただ、今蝶たちが蜜を欲しがっているということは変わらないわ」
 彼女の指先がなまめかしく弧を描き、そして反魂蝶たちに指示が与えられる。目の前の妖怪にギリギリまで接近せよ。ただし絶対に食らってはならぬ、と。
「これは、凄いわね…」
 その光景は圧巻だった。まるで花吹雪のようなゆらめきと美しさを以って、無数の反魂蝶が自分に向かってくる。満たされた死の予感は最早恐怖よりも美しさから来る感動に塗り替えられ、思わず囚われてしまいそうなほど。
(けれど、ここで見とれていたら、負けなのよね)
 恐らく幽々子は自分を殺すつもりはないだろう。だが何もせぬままにいたらその程度だと、彼女に思われてしまう。ならば、と幽香は右手を口元の前で広げると、何も無い空間に向かって息を吹きかけた。
 瞬間、幽香を中心に花の弾幕が広がり。反魂蝶と重なってゆく。
鳳仙花、山茶花、女郎花といった花々を模した弾幕は、幽香を包み込もうとした反魂蝶の渦とは逆に、幽香を核として広がっていった。それらはまるではじめからそうなることが予定されていたかのように蝶たちと相殺しあい、花弁の散る色彩と、青白い鱗粉がまじりあってゆく。
「あら綺麗…」
 自分の趣向を台無しにされるどころか巧く合わされたこと。それに対する関心より先に、眼前の美しさに目が奪われる。
 そして花の弾幕と反魂蝶の合が収まる頃、先ほどと何も変わらぬ風で幽香は幽々子へと歩み寄ってきた。その視線はどうだ、といわんばかりの自信に満ちている。
「花が蜜で蝶を誘うのはね、傷つけて欲しくない場所があるからの。だからわざわざ、そうするのよ」
「かもしれないわね。でも蝶はそれを知っていて、利用されてあげてるだけかもしれないわ」
 先ほどの趣向は引き分け。さて次は…と言外に含んでふたりは語る。
「ねぇ花好きの妖怪さん」
「なぁに幽霊のお姫様」
「まだ一匹蝶が残っているのよ。どうしたものかしら」
「あら奇遇ね、花も一輪残っているわ」
 言いながら二人は指を絡めて行く。まるで蝶が花の周りを舞うかのように。まるで花が風に揺られて、蝶を誘うかのように。
「ねぇお花さん」
「なぁに蝶々さん」
「私に少し蜜を分けてくださいな」
「良いわよ、少しとは言わずたっぷりと」
 そう言って微笑むと、ふたりの影が重なった。



「はー、そんなことがあったんですね。それからおふたりは時々会ってたと。で、どう思いますか、今の話を聞いて」
 そこまで静かに聞いていた文が、終わった途端に傍らの妖夢に話を振った。
「う…コメントに困ります」
「いやいやそう言わずにー、別に記事にするってわけじゃないんですから」
「そういう問題じゃありませんっ」
 視線をそらして後ろを向いた妖夢の前に文が回りこむが、また反対を向かれてしまう。さらに回り込むと、また反対に…と無駄な反復運動が目の前で広げられている。

「まったく、なんでこんな話しちゃったのかしら」
「花のせいじゃなくって?花って人を饒舌にする力があると思うの」
 そんなふたりを眺めながら、幽香と幽々子は語り合う。共に長い歳月を過ごしてきたが、今はその中でも最も刺激的な時代のひとつだろう。なれば、こうして昔のことを語らって明日へとつなげるのも悪くない。
「そうそう、この前アイツに『長く生き過ぎ』って言われたの」
「閻魔さまに?」
「そ。でも残念、まだまだ死ぬ気はないのよね」
「あら、白玉楼の客間はいつでも空けておくのに」
 ただしその客間に厄介になれるのは、死後霊魂となって転生を待つ間だけだろうが。
「良いわよそんなことしなくて、どうせ私は地獄行きだからね」
「それも妖怪としての甲斐性、かしら」
「当然」
 そう言って見せた幽香の笑みは、あの日と同じように強気で挑発的なものだった。
どうもごきげんよう。そしてお久しぶりです。
なんだか気がついたら結構間があいてしまいました。
今回はもう少し違う話を書く予定だったのですが、ゆうゆ、あるいは幽々香を猛プッシュすべしとの指令が脳内で発令されまして、急遽このような体裁となりました。

感想、気がついた点などありましたらコメントでいただけるとありがたいです。
何進@OIL
http://girimekhalaparty.web.fc2.com/
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コメント



0.1040簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
幽香、幽々子の古参な大物らしさと凄みが良いですねー。
文章も読みやすくキャラ立てもきっちりしてて申し分無しです。
次回作も期待して待ってます。
4.100煉獄削除
二人の出会いや会話などに美しさがあって良いですね……。
文章もススっと読めましたし、妖怪の現在と過去の状態の違いなどの会話も面白かったですよ。
9.100Jupiter削除
滅多に見ない組み合わせですが違和感無く楽しめました。
文句なしの100点で。
24.無評価何進@OIL削除
>1さん江
貫禄が出せていれば、そこは成功だと思います
読んでくださってありがとうございました

煉獄さん江
幻想郷古参同士の出会いというのは、色々と妄想をかきたてられるものだと思うんですよ
その辺りを妄想できるのは二次創作の楽しみかなと

Jupiterさん江
仲良さそうかつ、非常に会話があいそうなふたりなんですけどね
評点、ありがとうございました
26.90夜、床に入る程度の能力削除
ん、この二人のカップリング!?と最初は思ったのですが。読み終えてみればもうすっかりゆうゆ派の末端に。
ご本人も仰ってる通り二次故の自由さなのでしょうが、加えるなら文章力の成せる技だと想います。
創作の余地があるスペースとは言え、説得力があるからこそ、受け入れられると思うのです。
第一夜を読ませて頂いた時の感想はさらに色濃く、やはり幽香様と今回はゆゆ様の描写が素晴らしいです。主人公ポジ(だと思っている)文が個人的には空気に感じる程度に。
第三夜、楽しみにしています。
29.無評価何進@OIL削除
夜、床に入る程度の能力さん江
ありがとうございますー
文ちゃんはメッセンジャーと言いますか、なんと言いますか
第三者的な立場にいてくれる人がいると良いなと思っているんです
楽しんでいただければ幸いですー