Coolier - 新生・東方創想話

日常を満喫する程度の能力

2009/05/05 13:23:51
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たとえばそれは、ある巫女と魔法使いの話。


春のやわらかな日差し、健やかな匂いが降り注ぐ縁側。
だらしなく投げ出された腕は白く年頃の少女に相応しいみずみずしさを保っていた。
黒白の、彼女いわく魔女の『正装』である格好は熱を吸収してどうも熱いのだろう。
時折うなっては、金色のふわふわとした髪をひき連れ寝返りを打つのであった。

人様の家の縁側にてすやすやと眠りを貪るこの少女ー霧雨魔理沙が友人のもとを訪れたのは丁度昼過ぎの事だった。


風をきって進む流星。ただし、時刻は深夜ではない。
少し白んだ青とやわらかそうな雲の間をすいすいと抜けていく。
口元に浮かんだ悪戯そうな笑みは、地上からでも覗き見れそうな気がした。
星屑を撒き散らしながら速度を上げるとあっという間に赤い鳥居が現れる。
また、こちらを見上げた黒髪の少女も。
さて、後は簡単。いつもと同じように優雅な軌跡を描き境内に着地すればいいだけのこと。
ただし、皆さんはご存知であろう。
非日常は、予想の範囲を超えるから非日常なのである。
この場合、彼女が予想し得なかったのは春の誘惑に負けた自分の意識であった。


どがしゃん。


「ーと、いう訳だよ霊夢くん」
「何がーと、いう訳なのよ。詳しくご説明いただきたいわ。私の玉露代と茶菓子代と神社の修理費を添えて」
「茶と茶菓子はお前が勝手にひっくり返したんだろ。
それに何が玉露だ。見栄を張るもんじゃないぜ、出涸らしのくせに」
「まだ四回目よ!…じゃなくて、見栄を張ってるのはあんたの方でしょ。
『春の誘惑』?ただの居眠り運転じゃない」

そう、結果的にいえばそういうことだ。
青い空を飛行していた麗しい流星は、酔っ払いのような危うげな軌跡を描き、
ある意味優雅なアクロバティックをきめながら博麗神社に突っ込んだのだった。
せめてもの救いは、半壊した部分が普段使わない部屋だったという事であろうか。
ぶつくさと当然の文句をいいながら黒髪の少女ー博麗霊夢は救急箱の蓋を閉めた。

「ほら魔理沙、終わったわよ。お代は後でいいわ」
「おお、さすが霊夢。お代は出世払いで」
「何に出世するのよ、何に」

はぁ、と霊夢はため息をついた。
ー全く、こうしてそそっかしいから目が離せないのよ。

どうせまた徹夜でもしたのだろう、と思う。
衝撃に煽られて吹っ飛んだお茶と茶菓子の後片付けをし、救急箱をしまいに中に戻る。
縁側で呆けている後姿、視界に入った腕に巻かれた包帯と膝の絆創膏に霊夢は再びため息をもらした。

**

「んー、」
「……」

霊夢は堪えた。それはそれは熱い自分の中に煮え滾る感情を。
眼前では少女があたたかな木の板に体を投げ出して眠っている。
もともと顔はいいし、その金糸も手伝ってか一枚の絵画のようだ。
霊夢とて鬼ではない。
盆の上の二つの湯のみをゆっくりと床に置く。
その艶めいた黒髪を日差しの中でふわ、と揺らしあどけない、しかし極上の笑顔を見せた。

そして、

「人の神社壊して手当てまでさせといて自分は何のうのうと
寝てやがんだああああ!!」

余談だが、魔法の森に住む普通の魔法使いはこんなレポートを書き残したらしい。
『博麗の巫女による頭を狙った盆の円盤投げの殺傷能力について』


魔理沙は飛び起きた。まさに文字通り。
わけがわからないが、ただただ。

「霊夢、頭が痛い」
「あら失礼。ちょっと手がすべったのよ」

盆はまだからからと回っていた。
魔理沙は少し涙目になっていた目をこすると、脇に置いてあった帽子を引っ掴み顔の上に乗せた。そうしてまた横になる。

「眠いぜ眠いぜ、眠くて寝るぜ。というわけで霊夢、おやすみ」

意味わかんないわよ、と霊夢の言葉は届いたのか。
すぐに健やかな寝息が聞こえてきて霊夢はあきれ返った。

「ったく、もういいわ。無駄な時間過ごした」

何のために貴重な緑茶を二人分入れたと思っているのか。
ただこういう性格だと知ってはいるし、それを承知でこうも長い間“友人”をやっているのだ。考えるだけ無駄である。
煎餅でもとってこよう、と立ち上がろうとしたその時。

「…ちょっと、魔理沙」

スカートの裾がしっかりとつかまれている。
不安がる赤子のように指の力が衰えることはない。
霊夢は今日半日、いや何時間かで一体何回のため息をついただろうと考えた。
そうしてこの自分勝手な友人の隣にばふ、と寝転がる。
甘い花の匂いがする。日差しが髪の上を流れていった。
なるほど、『春の誘惑』。霊夢は静かに目を閉じた。
起きたら、夕飯の準備でも手伝わせようと思いつつ。

紋白蝶が不規則に踊る。
神社の縁側では、二人の少女が気持ちよさそうに眠っていた。
その間には烏天狗がやってくるかもしれないし、幼い吸血鬼がやってくるかもしれないし、はたまた何処かで異変が動き出しているのかもしれない。
ただし、皆さんはご存知であろう。
非日常は、彼女らにとって楽しみ尽くすべき日常だということを。
初めて投稿させてもらいました。コトリという者です。
東方ものを書く自体が初めてのことなので、まだまだわからない事だらけで。
あんまりたくさん出すとぼろが出そうなので(…)一番好きな組み合わせで。
お暇つぶしにでもなれたら幸いです。
気が向いたらまた書くかもしれません。それでは!
コトリ
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コメント



0.740簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
いい意味で眠くなりました
4.100名前が無い程度の能力削除
マブダチの何気ない日常、素敵でした
ちょっくら昼寝してきますね
8.80煉獄削除
わかります…この時季、暖かくなってきたら眠くなりますよねぇ。
昼寝って夜に寝るのとは違った感じがあって良い。
彼女たちの昼寝というのがとてものんびりしていて面白かったです。

ちょっと気になった部分があったので報告
>「ーと、いう訳だよ霊夢くん」 何がーと、いう訳なのよ。 ー全く、
という部分ですが、『ー』よりは『─(罫線)』のほうが良いと思います。
17.70名前が無い程度の能力削除
まりさの隣でごろごろしたいです。