Coolier - 新生・東方創想話

黒猫一匹~星熊勇儀の鬼退治・捌~

2009/05/01 17:27:42
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このお話は
作品集63「星熊勇儀の鬼退治」
作品集64「エンゲージ~続・星熊勇儀の鬼退治~」
作品集65「おにごっこ~星熊勇儀の鬼退治・参~」
作品集65「温泉に行こう!~星熊勇儀の鬼退治・肆~」
作品集67「そらのしたで~星熊勇儀の鬼退治・伍~」
作品集72「貴方が妬ましい~星熊勇儀の鬼退治・陸~」
作品集73「葡萄酒と香辛料~星熊勇儀の鬼退治・漆~」
の流れを引き継いでおります。

































 夕方の紅魔館。

 起きてきたレミリアに勇儀が問い掛け――渋い顔をされていた。

「温泉宿、ねぇ……咲夜」

「残念ながら存じません」

 使用人――レミリアにメイド長の十六夜咲夜……と紹介を受けた――は無表情に答える。

 うむ、と頷くレミリア。

「やっぱり聞いたこともないわね。本当にそんなものが存在するの?」

「人に聞いただけだから確証ってのには弱いがね、鬼が言ってたんだから嘘じゃないよ」

 ほう? と訊き返す。

 鬼……確か四天王の一人、萃香とかいう鬼だったか。

 栗清ますだとか色々勇儀に吹き込んでるようだが。

「おまえ、最近出てくるまでずっと地底に居たんだろう? 何故地上の温泉なんか知っている」

「ああ、それはね」

 ごそごそと勇儀はなにかを取り出した。

「こいつで地上に居た鬼と話したのさ」

 ……玉?

「陰陽玉……?」

「それは?」

 ボロボロの玉に全員の視線が集まった。

 紅白の、レミリアの言うとおり陰陽の柄。

 朝食……と云うには憚られる時間だが、食事に来ていた美鈴も覗きこんでいる。

「以前巫女が地底に殴り込みに来た時のもんだ。弾幕勝負中になんかすごい攻撃されてな。

 あとで下見たらこれが落ちてた」

「ほほう。あいつにボムを使わせるなんて大したものね」

 ああ、あれが噂に聞くボムかと頷く勇儀。

 そういえば私も使われたわね、弾幕跳ね返されたり擦り抜けられたりした攻撃。

「で、拾っていじってたら萃香の声が聞こえてきてな。まさかと思って話しかけたら話せたんだ」

 へぇ……巫女やら魔法使いやらが独り言言ってると思ってたけど、これで会話してたのね。

「今は壊れたのかうんともすんとも言わなくなっちまったけどね」

 言って乱暴にレミリアに投げ渡した。

 ……普段からそういう風に扱ってたから壊れたんじゃないかしら。

「まぁそんな感じに萃香と話してたら温泉宿の話が出てさ」

 曰く――酒は美味いわ温泉はいい湯加減だわ最高の温泉宿だね!

 と言ったらしい。

 何か引っかかる気がするけど、確かに温泉宿の存在を示唆している。

「うーむ。よくわからんが鬼が言ったなら嘘じゃないな」

 勇儀の台詞を反芻するようにレミリアは頷いた。そのまま渡された陰陽玉をいじり始める。

「でも、どうしたらいいのかしらね」

 地上の妖怪に聞いてもわからないのでは八方塞だ。

 これからも闇雲に温泉宿を探し続けるのか……

 ――縦穴の守護があるからそんなに離れるわけにはいかないんだけれど。

「うーん……適当に人妖捕まえて訊いて回るしかないね」

 結局は行き当たりばったりで行くしかない。

 しかし、これから宿も見つからないのでは困る。この季節に野宿は厳しい。

 地上に出てからの二晩、魔法使いの家や紅魔館に泊めてもらえたから助かってるが……

 ……これからどうしたらいいのかしら、ほんと。

「なんなら見つかるまでうちを拠点にしたら?」

 声の主を見る。

「レミリア?」

「ここを出ても当てがないんでしょう? 野垂れ死にされても夢見が悪いしね」

 浮かべられる尊大な笑み。

 それが今は頼もしくてしょうがない。

「引っ張っていく方に計画性とか期待できないでしょうし」

「ええその通りよレミリア! ありがとう!」

「うわぁ。そこまではっきり言わんでも」

 遭難した前科忘れたのかこいつ。冷たい目を向けると何故か土下座していた。

 相変わらず踵振り下ろしたい後頭部ね勇儀。そろそろ我慢できそうにないわ。

「でもいいの? 何日泊まらせてもらうことになるかわからないんだけど……」

 ――数日で出ていくつもりではあるのだが。

「居候が一人二人増えて困るようなウサギ小屋じゃないのよ」

 変わらぬ尊大な笑み。

 その表情はいつまで居てもいいと語っている。

 でも、私の能力が……

「――それじゃお言葉に甘えて温泉宿が見つかるまで厄介になろうかね。

 宿が見つかるまでは絶対に出て行かないよ」

「勇儀……っ」

 私の力を知っているのに、何故そんなことを……っ

 思わず睨んでしまう。しかし、勇儀は私の視線を飄々と受け止めた。

「なぁに、なにかあったら私が働けばいいだけの話さ。そうだろ?」

 ――含みを持たせた勇儀の言葉。

 真意はわからない。

 でも、他人と深く関わろうとしない私をどうにかしようとしているのなら、それは……

 ……大きなお世話だと思うけれど、そう告げることはできない。

「ふむ……」

 ことりとテーブルの上に陰陽玉が置かれた。

 レミリアの視線を感じる。

 なんとなく――以前に感じたような気がする種類の視線。

「パルスィは無駄に遠慮しそうだしね。ここは厚かましい鬼の決を採りましょう」

「悪いねぇ。寝床どころか飯と酒まで」

 トップ同士が決めてしまった。私が口を挟む余地は無いと見るべきだろう。

 ……うん。私が……気をつければ……いいんだし。

「誰も酒を出すとは言ってないけどまぁいいわ。あなたはオマケだし」

ビキィッ

 ん? なんの音?

「パルスィに手を出したらお仕置きじゃ済まんぞ吸血鬼」

「面白い。試してみようか四天王」

 何時の間に一触即発な雰囲気に!?

 さっきまで和気藹々とした夕方の朝食だったじゃない!?

 というか勇儀……はぁ。

「私より嫉妬深くなってどうするのよ。どうせ誰も私を狙ったりしないって」

 おでこに血管浮き上がらすほど怒らなくてもいいでしょうに。

「おまえは自分の可愛らしさをわかってないんだ! 魔法使いもこいつも信用ならん!

 いつ何時口説き出すかと思うと私はへきゅぅっ!?」

 ……我ながら突きに磨きが掛かってきたわね。突き指しないで打てるようになったわ。

「あの……パルスィさん? なんか危なそうな痙攣してますけど大丈夫なんですか勇儀さん」

「いつものことだから平気よ。ちょっと急所に叩き込んだだけだし」

「急所ってのは攻撃しちゃいけないから急所って云うんですけど」

 くどいわ美鈴。平気よたぶん。

「…………」

 まぁ、その。ちょっとだけ、痛めつけられることに快感を見出したらどうしようとか思ってはいるけど。

 大丈夫、よね?

 よし大丈夫だと思い込もう。

 思い込んでればもしもの時も現実逃避しやすいわ。

 ほら起き上がった。大丈夫よ大丈夫。意味を履き違えてなんかいないわ。うん。

「あいたた……だんだん狙いも正確になってきたな……」

「ところで」

 肋骨の隙間をさすっている勇儀にレミリアの声がかかる。

 ……よもやまだケンカしたいなんて言い出さないでしょうね?

「働くとか言ってたけど、まさか本気じゃないでしょうね」

「?」

 ? ……私と勇儀の顔に同時に疑問符が浮かぶ。

「そりゃ本気だが……なんか都合が悪いのかい?」

 正直働かれて困るなんていうのは想像も出来なかった。

 なんでレミリアはこんなことを言い出すのだろう?

「都合も何もね」

 レミリアの顔が困ったように歪む。

「客人に仕事をさせるなんて無作法な真似できないわ」

 貴族としての矜持、というやつだろうか。

 客として受け入れた以上十分にもてなさなきゃならないとか?

「私がやりたいんだよ。体を動かさんと鈍るしな」

「鈍る……ねぇ」

 勇儀が食い下がっても折れる気配は見せない。

 でも、対価を支払うべき客としてではなく賓客として私たちを受け入れているのなら……

 ……それが矜持だとすれば、折れられないのも納得がいく。

 そしてそれは勇儀も理解できることの筈だが……

「遠慮されてもこっちが困るんだよね」

 それこそ困ったと言うように頭をがしがしと掻いた。

「私らもう友達だろ? 客だなんだと他人行儀じゃないか」

 ――勇儀らしい。

 昨日の敵は今日の友を地で行く性格には、慣れない者は面食らうだろう。

 見ればレミリアも予想に違わず目を丸くしてた。

 が、流石はレミリア・スカーレット。

 すぐに不敵な笑みに切り替える。

「友達ときたか」

 シニカルともとれる笑み。

 子供の顔には似合わない筈のそれが似合って見えるあたりが夜の王たる所以か。

「それじゃあ遠慮は無粋ね。存分に働いてもらいましょう」

「そうこなくっちゃな」

「――と言いたいところだけど、うちのメイドは優秀でね。そんなに仕事余ってないのよ」

 背後でメイドさんが何か言いたげにしてるのはなんだろう。

 レミリアは考え込む――がすぐに口を開いた。

「門番をしつつ美鈴と組手でもすれば?」

 体も鈍らないでしょ、と言い切る前に悲鳴が割り込む。

「私が先に死にますよお嬢様!!」

 美鈴は半泣きだった。

 まぁ実際に殺されかかってるんだからしょうがないと思える。

 勇儀を殺しかけてる事実を忘れれば。

 ……本当に強いんだか弱いんだかわからない人よね……

「だって他に仕事なんてないじゃない。図書館の掃除でもやらせる?」

「失礼ながら、図書館が壊滅すると思われます」

 メイドさんの言う通りだろう。勇儀が掃除してるのなんて見たことない。

「ひどい言われようだなぁ。その通りだけど」

 やっぱりね。

 でも否定して欲しかったわ。

「あーえー。じゃあ門の修理手伝ってくれますか?」

 美鈴の一言に全員の視線が集まった。

「……あぁ」

「そういえば」

「更地にしたままだったね」






















 勇儀は門の修理に向かい、私も仕事をすることになった。

 レミリアに無理矢理押しつけられた形だが……不思議と悪い気はしない。

 私の方は順調だが、さて門の修理はどうなっているのやら。

 鬼の建築嘗めるなよと吠えていたからさぞ頑丈な門を作るのだろうが……

「和風に作って作り直したりして……っと」

 鍋を火から外す。危うく焦げ付くところだった。

 ……改めて考えると何心配しても杞憂で終わりそうにないのってすごいなぁ。

 などと考え事をしながらちゃっちゃと盛りつける。

「むぅ。洋風の食器だとイマイチね」

 色合いが悪いというかなんというか。私が白磁を見慣れてないせいかもしれないけど。

 うーん……緑物で整えるか。料理は見た目も大事だし。

 そう、私は今料理をしている。

 勇儀が働くのなら、ということで私に与えられた仕事は料理番だった。

 洋食は作れないからと断ろうとしたのだが、レミリアの鶴の一声で押し切られてしまった。

 曰く、和食の気分なのよ。だそうだ。

 まぁ……和食でいいなら助かるけれど。

 さて、こんなものね。

 お嬢様の口に合えばよいのだけど。




「ふむ。納豆によく合うわ」

 ……似合わない。

 壊滅的に箸も納豆も似合わない……

 喜んでもらえたのは嬉しいけど、それよりこの組み合わせの奇異さに目が行ってしまう。

 西洋の貴族然としたレミリアが「納豆も欲しいわね」と言い出した時は耳を疑った。

 ……私自身が納豆が苦手というのは関係無い筈だ。

「この煮付けが特に美味しいわね。咲夜、習ってみたら?」

「人に教える柄じゃないわよ」

 思わず口を挟んでしまう。

 昨日の宴に出された料理の味からして私がこのメイドに敵うとは思えないし。

 しかし、レミリアは笑みを深くする。

「それじゃあうちの和食専門料理人として雇っちゃおうかしら?」

 冗談がお好きなようで。

「今は休暇中だけど私は私の仕事があるから無理よ」

「本当に媚びないわね。手懐けるのに苦労しそうだわ」

 ……なんでそこでさらに笑みを深めるのよ?

「手懐けるって……人を犬猫みたいに」

「猫。ふむ? そうね猫ね」

 またまた深められる笑み。レミリアじゃなければ下品と言い切れる域だ。

 それが私に向けられているのだから、苛つくのはしょうがない。

「意味がわからないんだけど?」

 問えば、待ってましたと言わんばかりにレミリアは口を開く。

「それはね」

「あー働いた働いた」

「おなか空きました~」

 たった二人なのにどやどやと、という表現が似合う登場だ。

「ん、ずるいぞレミリア! パルスィの手料理を独り占めとは!」

「はらぺこです~」

「……騒々しいのが……」

 笑顔から一転、レミリアは眉間を指で押さえていた。

「……二人の分作ってくるわね?」

「そうしてやって」

 何故か声は投げやりだった。




 まぁ、時間的にはいいかもしれないけどさ。

 普通なら夕食の時間帯だし。

 でも感覚的にお昼にビールってどうなのよ。

「働いた後のこの一杯! 生きてるって感じですよね~」

「酒も美味くなるが飯も美味くなるな!」

 完全に打ち上げモードだわ。

 この二人が揃えばいつでもどこでも宴会ね。

「門の修理終わったの?」

「いやまだまだ。瓦礫取り除いて地面の穴埋め戻して基礎作ったとこだよ」

「意外ね? 一日で終わらすと思ってたわ」

「明日には出来るけどね。石畳も抉れてたからさぁ」

 ……戦いの激しさを物語るわね。

「美鈴の震脚? だっけ? で思い切り割れてんのもあったしな」

「お恥ずかしいー」

 多分だけど恥ずかしがる所が間違ってる。

 その後門扉の型がどうの鋳鉄がどうのと専門的な話になる。

 いつの間にか図面まで持ち出してきて、私はもとよりレミリアも話に入れなかった。

「疎外感?」

「そんなんじゃないわよ」

 お茶を啜りながらレミリアの茶化しを受け流す。

「ますます猫ね」

 またそれ……

「いやに拘るわね」

「ん。ああ、忘れてた」

 突然勇儀がこちらに顔を向ける。

「材料探しに倉庫漁ってたら面白いのが出てきてね」

「面白いもの?」

 レミリアを見る。

「なんでしょうね。うちの倉庫も色々入ってるし。呪われた剣とか呪われた鎧とか呪われた鏡とか」

 呪われてないのは入ってないのか。

 勇儀が見つけてきたのも呪われてないでしょうね。

 これ以上呪われるのなんて御免よ私。

 しかし、勇儀は脈絡のないことを口走る。

「前々から思っていたんだが、パルスィは動物に例えるなら猫だな」

 ……唐突になんだろう。

「そ、そう?」

「うむ。小さいし柔らかいし可愛いしなかなか懐いてくれないし」

 とりあえず喉に突きを叩き込む。

 仰け反りながら倒れる勇儀を見下しなら舌打ちした。

 恥ずかしいこと言うなつってんでしょうが。

「あら、言われちゃった」

「は?」

 声に振り返れば――またあの笑みを浮かべる少女。

「例えるなら、派手さに欠けるけど目を惹く黒猫かしら?」

 かわいいじゃない、と強引に締められる。

 返答に困って、目線を誰かに向けようとするけれど――

 勇儀は痙攣していて美鈴は幸せそうにご飯を食べていた。

「照れなくてもいいじゃない」

「照れてるっていうか、どう反応すればいいのか」

「褒めてるのよ?」

 素直に受け入れていいものか悩むわ。

「そこでこれだ!」

 ぐっ!? 復活早いわね!?

 って、なに持ってるの……?

「倉庫で見つけた付け耳! 形から見るに猫! しかも黒猫仕様だ!」

 ……そんなお宝みたいに高らかに掲げられても……

 なんでこんなのがあるのよ紅魔館。

「なんか見覚えがあるわね?」

「お嬢様。あれは一昨年の、

 『猫耳限定!にゃんだふるナイトパーティ!~(主に首が)ポロリといくよ!~』

 の時に使用したものですわ」

 なにやってるの紅魔館。パーティの趣旨どころか情景も想像できないわ。

 あと真顔でそれ言わないでメイド。腹筋にきそう。

「というわけでこれをつけて『にゃあ』と言ってみないか」

「はったおすわよ勇儀」

 永久凍土の目を向ける。

「つけてくださいお願いします」

「土下座してもダメよ」

 後頭部に踵を振り下ろす。

 鈍い音がして勇儀の角が床を突き破ったけど全力で見逃す。

「まぁまぁこれくらいいいじゃない」

「ちょ、レミリアっ!」

「おまけで尻尾も」

「美鈴!? 二人がかりとは卑怯な!!」

 くっ! 力ではこの二人に敵わない!

 弾幕で振り払いたいけど運悪くここは食堂、なんか高そうなものがそこかしこにある!

 おのれ罠か!? 賠償費を盾に取るとは!

「や、やめぇぇぇぇっ!」

「よいではないかよいではないかー」

「む、そのフレーズ貰うわ美鈴!」

 などとすったもんだの末――

「く……屈辱……っ」

 装着されてしまった……

 付け耳は兎も角なによこの尻尾! 帯にがっちり結ばれちゃって取れないわよ!?

 ええいにやにやするな紅コンビ!

「ここは髪を下ろして耳を隠しましょう」

「うわ、髪紐返してよ!」

「地の耳見えない方が可愛いじゃないですか~」

 くそすばしっこい! 捕まえられない!

「うむ。跳ねまわる様は完璧に猫ね」

 満足したような顔するなレミリア!

がりんっ

 う、この角が床を削ったような音は……

「…………」

 起きたか勇儀……!

 身構える。勇儀ならいきなり座ったままの姿勢で飛びかかってきても不思議ではない。

 の、だが。

「…………」

 な、なんのリアクションもないのが怖い……そんな焦点の定まらない目で見ないでよ……

「…………」

「な、なによ……そんなに似合わない……?」

ボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタ

「うわぁ!? 勇儀血が出てる! 血がすごい勢いで!」

「落ち着いて勇儀さん! 正気に戻って!」

 鼻血が角が開けた穴にどんどん落ちてるー!

 あ、階下から悲鳴が。

 メイドの誰かが血を浴びたか。

「なんて冷静に現実逃避してる場合じゃない! 素数を数えなさい勇儀っ!」

「パルスィさんが近づいたら逆効果ですって!」

「鼻血じゃなければ飲んでみたかったわ鬼の血」

「呑気なこと言ってないでよ! それともそれ現実逃避!?」

 まさに阿鼻叫喚。

 ついさっきまで平穏な食事タイムだったなんて誰が信じられよう。

 突然、ぽんと肩を叩かれる。

「……あなたの猫度は88点」

 振り返ると寝間着のような洋服を着た少女が去っていく所だった。

「……誰?」

「うちの初代居候」

 ……濃いのが揃ってるわね紅魔館。

 あとメイド、なんで悔しそうな顔してるの。



 結局美鈴渾身の手刀で勇儀の意識を断つことで事なきを得た。

 その際食堂の床が抜けたのは些細なこととして忘れよう……
























 そうして深夜、宛がわれた部屋。

「もう鼻血出さないでよ」

「いやもう打ち止めだよ……」

 目を覚ました勇儀にお茶を渡す。

 ――付け耳はもう取っている。尻尾は取りたくても取れないからそのままだけど。

 あ、美鈴に髪紐返してもらわないと……

「あー……熊の肝でも獲ってこようかなぁ」

「とりあえずほうれん草のおひたし作っておいたわ」

「お、気が利くね。冷やも一杯欲しいところだけど」

「調子に乗らないの」

 たはは、と苦笑される。

 ……少しは自分の体労わってよ。

 お酒なんか飲んだらまた血が止まらなくなるじゃない。

 手拭いを桶に戻し、立ち上がる。

「お湯貰ってくるわ。顔拭った方がいいでしょう?」

「っと、ちょっと待った」

「ふぎゃっ!?」

 帯が引っ張られ、尻尾か!? 付け尻尾掴まれたの!?

「なによ!」

 危うく転ぶとこじゃない!

「ごめんごめん。掴みやすかったもんで……」

 掴みやすいで掴まれたらたまったもんじゃないわよ。

 尻尾がある動物に同情するわ。

「いやしかし、本当に猫っぽいなぁ」

「蒸し返す気?」

 睨むような目になるのはしょうがないことだろう。

 だのに、勇儀は笑ったまま私の視線を受け止めた。

「…………」

 彼女の意図が測れない。

 思いつきであれこれ騒ぎを起こす奴だけど……今回のは突拍子が無さ過ぎる。

 逆に何か裏があるような気がするのだが――それがわからない。

「なんだい?」

 ……きっと、問えば答えてくれる。

 なのに何故問わないのかといえば、私が……怖がっているからだ。

 何を言われるのかわからない。

 また反応も出来なくなったらどうしよう。

 そんな風に逃げ腰でいるから……勇儀はなにも言ってくれない。

 なにかを伝えようとしている勇儀の言葉がわからない。

「――ねぇ」

 やめよう。

「うん?」

 逃げるのは――もうやめよう。

「なんで、あんなことをしたの?」

 真正面から勇儀を見据える。

 今だけ。今だけでも勇気を振り絞れと己に言い聞かせる。

 それだけで、勇儀はちゃんと伝えてくれた。

「んー。まぁ、なんつぅかな。パルスィが甘えてくれる切っ掛けが欲しかったんだ」

 甘える……切っ掛け?

「ほら、おまえさ、直接言っても素直に甘えてくれないだろう?」

 それは、まぁ……

 甘えるのなんて慣れてないし、その前にプライドが邪魔をする。

 独りよがりな自尊心かもしれないけど、ずっとそうやってきたんだし。

「頼られてない、とまでは言わんけど……正直寂しいとも思ってさ」

「それで、付け耳?」

「猫になれとは言わんけどね。猫の真似すれば多少は甘え易いかなぁとか」

 遠まわしなのに、安直ね。

「パルスィはなんか、猫に通ずるところがあると思って。まぁ、私なりに無い頭捻って考えてみたんだ」

 騒ぎのときも言ってた。

 なかなか懐かないって。

「それでも……難しいわ。私、ずっと一人で生きてきたんだもの」

 正直に呟く。

 勇儀を落胆させてしまうかもしれないけれど――嘘は吐きたくないから。

「……ん」

 髪に、触れられる。

 彼女は――苦笑していた。

「これじゃあ私が甘えてるよな」

 ごめんと、小さく囁かれる。

 違うと、思う。

 私にはわからないけど、あなたみたいに強い人は……頼られたいんだと、思う。

 それが当然で――私のように距離を置く相手に慣れてなくて。

 私と同じで……慣れてないから、怖くて。

 つまり、どちらかが折れない限り平行線。

「――勇儀」

 彼女の手を取る。

 どれだけ言い訳を重ねようとも、私が逃げていた事実は変わらない。

 逃げ続けている現実は変わらない。

 でも、今なら。

 なけなしの勇気を振り絞った今なら。

 近寄れるかも、しれない。

「そんなに甘えて欲しいなら、少しだけ」

「え?」





「……にゃあ」
星熊勇儀、死亡確認!

十八度目まして猫井です

猫気質な子が大好きです

パルスィに「にゃあ」と言わせたかった

言わせたかったのです
猫井はかま
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コメント



0.2510簡易評価
1.90薬漬削除
最後のパルシィの一言で萌え死にました。
2.100煉獄削除
猫耳と尻尾を付けたパルスィが凄く良い…!
そして鼻血をドバドバと出す勇儀と血を浴びたであろう妖精メイドの悲鳴に
声を出して笑いました。
甘いというかほのぼのしてて良いですよねぇ。
パルスィの一言もきっと顔を真っ赤にして言ったのだと想像すると
可愛くて可愛くて溜まりませんね。
面白かったですよ。
8.100名前が無い程度の能力削除
地味に呪われたシリーズの箇所が好きですw
言い回しうまいですよねー。
なんだかんだで勇儀は幸せものだなぁ。
13.100名前が無い程度の能力削除
死んだ、これ死んじゃうよ!
お互いの気持ちが素敵です。
20.100名前が無い程度の能力削除
俺の心のド真ん中にヒットしたぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!

貴方の書く勇パルは最高だ!!!!!
22.100名前が無い程度の能力削除
鬼の四天王の一角が亡くなってしまわれた・・・。
仕方ない。フリーになったパルスィは私が貰っていきますね。
25.100名前が無い程度の能力削除
鼻血が口か(ry
33.100名前が無い程度の能力削除
パパパパパルパル。。。ごちです
34.100名前が無い程度の能力削除
パルパルしいです。
37.100名前が無い程度の能力削除
最後の一言に打ち抜かれた
46.100名前が無い程度の能力削除
ああもうこいつら結婚しろよwwwwwwww
50.100名前が無い程度の能力削除
にやにやにゃーwww