Coolier - 新生・東方創想話

新聞記者ってアレですかね、やっぱ忙しいもんなんでしょうねぇ。

2009/04/24 22:08:24
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「ううん、ネタが無くて困る」
 空を飛びながらぼやいた。
 私こと清く正しい射命丸、射命丸文は、天狗で新聞記者である。
 天狗といっても、イメージとして一般に浸透した、何ともエロい鼻を持つ種類では無い。あれは鼻高天狗(通称エロ天)で、私は鴉天狗だ。素早いのが自慢である。
 その素早さを活かし、鴉天狗は新聞記者をする。ネタ集めにはフットワークが大事なのだ。特に私は鴉天狗随一の速さを誇る。幻想郷一といっても過言ではない。――まあ、隙間という便利な移動手段を除けばね。アレは反則だろう。
 問題は、まあ、
「ネター……」
 見つからない。
 基本的に、幻想郷は面白い事が転がっている。しかし、新聞に載せられるような事となると……。うぅむ。
 私が書いている「文々。新聞」は、天狗新聞購読者数ランキングで下から三、四番くらいに位置づいており――まあ、定期購読者しかカウントしないからなんだけども。文々。新聞は不定期発行だし――万年そんなんだから、いい加減知り合いからの視線が痛くなってきた。
 そういうわけで、こう、ドカーンと面白いネタを手に入れて、購読者をドカーンと増やしたいのだ。そうすれば痛い視線を送って来た連中全員を鼻であざ笑うことができるのに。
 でも、そういうときに限って、普通のネタさえ見当たらなかったり。やっぱり椛に千里(わりとアバウト)眼を使わせた方が楽だったかしらん?



「おや」



 眼下に、八雲の藍さん(動物虐待の被害者だ。鴉として同情する)がいた。走っている。何をそんなに急いでいるのやら。
 話を聞いてみよう、急降下。ぴゅるぴゅー。
「どうかしたのですか?」
 わずかばかり汗をかいた藍さんは、急にやってきた私をみて驚いた風だったが、すぐに笑顔になり、
「イヤァ、自分、藍ですから。runしてます」
 サムズアップ。いやあ、太陽のようだ。そうして、胸の谷間から取り出した三枚の油揚げを一口で頬張りむしゃむしゃ、走っていってしまった。ポケットから油揚げが落ちたと思って拾ったら、油揚げ柄のハンカチだった。何このフェイント。
 あややや、ネタが無いなあ。










 翌日、「奇行! 八雲の式、アブラゲを齧りながら幻想郷一人駅伝!」という記事を載せた同僚の新聞がバカ売れした。
 落し物のアブラゲ柄ハンカチをマヨヒガに届けたら、藍さんはセクシーなボンテージ姿の彼女の主人にお仕置きされていた。動物虐待はいかん崎。今度虐待反対キャンペーンを組もうと思う。
 ハンカチを渡すと、泣いて感謝された。そんなに好きか、アブラゲ。
 ついでに、動物虐待はいけませんよと彼女の主人に言ったら、無言で鞭を構えてきたので音速で逃げた。
 いやー、よかった。幻想郷最速で。










 所変わって、紅魔館。
 ここに来たのは、「メイド長式三分クッキング」という連載の原稿を受け取るためだ。
 「手軽に完全で瀟洒なおいしい料理を!」というコピーで、好評だ。ただ、料理途中で時間をいじる事がしばしばなので、普通にやるとどう考えても三分では済まないところがネックか。
 相変わらずでっかい屋敷だった。私のボロ屋に半分ほど分けてほしい。
 門番さんは眠っていたので、とりあえずほっといて中に入る。
「お邪魔しますよー」
 だだっ広いエントランスで、調度品などは全て紅に染められている。ここまで徹底していると感心するが、目に優しくない。どうせなら緑色とかにしない? 芝生とかも緑で染めて。……不謹慎な気がした。理由は知らないがやめておこう。
 そのエントランスのど真ん中では、吸血鬼姉妹がヒステリックな口げんかをしているようだった。こりゃあいい、ネタにならないかなぁ?
「フラン、落ち着きなさい! その銀ナイフを捨てて!」
「煩い! 何よ、本当の姉でも無いのに!」
「……え?」
「知らなかったの? お姉さまはね、養子なのよ。いや――拾われてきた、といった方がいいのかしらね? くくっ」
「そんな、嘘よ!」
 わあい、複雑な家庭事情。
 二人は姉妹水入らずのひと時を過ごしているようなので、二人を迂回してメイド長の私室へ向かう。うぅん、私ったら空気読める子。
「十六夜さーん。原稿を受け取りにあがりましたー」
「ああ、いらっしゃい。こんな感じでいいかしら?」
 十六夜咲夜は私に気づくと、原稿をくれた。ざっと目を通す。特にこれと言って修正すべきところも無い、瀟洒なできばえだった。
「いやあ、仕事が速くて助かってるんですよ。時間操作ってうらやましい」
 今回のレシピは「三日間煮込んだカレー」だった。ルーを投入したら、カレー自体の時間を加速させるのがコツなんだとか。
「いいえ、こちらこそ有難いわ、懐に」
 あややや、原稿料は紅魔館の資金ではなく、メイド長の懐に行くらしい。ううん、やるな、こやつ。
 メイド長に原稿料を渡すと、お土産に「ぼうくんはばねろ」なる菓子をくれた。甘味は大好きだ。後で頂くとしよう。
 ……しかし、ここにもネタがないなぁ。あやや困った。










 翌日、「複雑! 紅魔館の家庭事情 実は姉は捨て子だった!?」という記事を載せた同僚の新聞がバカ売れした。
 「ぼうくんはばねろ」なる菓子は甘味では無かったが、大変美味だったのでメイド長にお礼を言った。
 妙なものを見る目つきで見られた。私、何かやらかした?











 さらに数日。
 地上との交流ができたとはいえ、未だに良く知られていない地底。――まあ、普通の人には行きようが無いし、行きたいと思う奇特な人、いないし。
 そんな地底を地上の人々に良く知ってもらうため、私は地霊殿の古明地さとりん……げふんげふん、もとい、さとりさんにインタビューを申し込んだ。
 次点は四天王の一人。インタビューが終わっても帰してくれそうに無いし。
「ああ、こんにちは。お土産までもって来てくれたのですか。ありがとうございます」
 土産の「きゅうりまんじゅう」を手渡す。にとりがお歳暮とかでくれるんだけど、不味いから手をつけていなかったのだ。かといって捨てるのもアレだし。
 で、申し込んだら快諾されて、今現在、地霊殿の応接間だ。大量のペットボトルが飾られている。
「これらは?」
「私のペット達です」
「なるほど」
 インタビューはつつがなく進んだ。まあ、そこそこの記事が書けるだろう(そういう考えも読まれちゃってるんだろうけどね……)。
 ……未だ知名度の低い地底なら、面白いネタもあろうかと思ったのだけれど……。まあ、そうそう上手くは行かない、と。










 翌日、「ボケた!? 地霊殿の主、ペットとペットボトルを間違える」という記事を載せた同僚の新聞がバカ売れした。
 溜まっているいらなくなったペットボトルを地霊殿に寄付したら、さとりさんは痛く感激し、お礼に「地霊殿まんじゅう」をくれた。ありがたやありがたや。
 ウチに帰って開けてみると、火車と地獄鴉with八咫烏、そしてペットボトルを模した饅頭が五個づつ入っていた。私と椛とにとりで食べた。おりんちゃん食べちゃったよハァハァ。
 ついでに「ぼうくんはばねろ」も一緒に食べた。二人とも永遠亭のお世話になった。なんで?










 白玉楼。幻想郷で最も大きいといえるこの屋敷に、私は居る。
 というのも、西行寺の亡霊さんから頼まれたのだ。桜が満開だから取材に来てくれないかと。
 桜を宣伝すれば人妖が集まり、宴会が起こる。宴会となれば庭師のお咎め無しに酒が呑めるという、風が吹けば桶屋が儲かる的なことだそうだが――ううむ。
 咎められはするだろう……。
 しかし、こちらはネタにヒィヒィ言っている身、アレコレえり好み出来るわけでもなし、取材をすることにした。……私も、宴会は好きだし。それに宴会となれば、ネタになるような事も起こるんじゃないだろうか。
「と、まあ、そう言うわけですので。取材させていただいて構いませんか?」
「はあ、それでしたらご自由に見ていってください。たくさんの人に見て貰った方が、庭師の腕も振るい甲斐がありますから」
 良い子だ……という評価。幻想郷には珍しい、「常識的」で「良心的」な子。幻想郷風に言い換えると「周りの行動に振り回されがち」で「奔放な誰かの行動に頭を悩ませる」子。ちょっと損。
 良かった、「周りを振り回して」「奔放に行動して頭を悩まさせる」サイドの人間で。
「妖夢、妖夢~」
 彼女の主の声が、屋敷の中から聞こえてきた。
「すみません、少し行ってきますね。写真はご自由にどうぞ、桜のなら」
 そういって彼女は私に一礼し、屋敷に消えていった。
 桜の写真を撮っている間、二人の会話が聞こえてきた。静かな冥界だからだろう。
「妖夢、大事な話があるわ、座りなさい」
 しばしの沈黙。
「話、というのは」
 今のは妖夢の声だ。
「妖忌の事よ」
 妖忌。たしか、先代の庭師で、今はどこかに幽居中、だったか? 詳しい事情はよく知らない。
 ちなみに、これは聞き耳を立ててるのではなく、勝手に耳に入ってくるだけだ。決して盗み聞きしてるわけじゃあない!
「……見つかったのですか?」
「半分そう。半分違う」
 しばしの沈黙。
「実はね、妖夢」
 ごくり、と。庭師が唾を飲み込む音が聞こえた気がした。緊張。
「――私が妖忌だったのだよ」
 びりびりと、何かを剥がす音。
「なっ、マスク!?」
「強くなったな、妖夢よ……!」
「いやあ、一日ごとに本物と妖忌で交代してたのに気付かないのだもの。幽々子ショックだわ~」
 その頃私は、桜の写真も良いのが撮れたことだし、白玉楼を後にしていた。
 ううん、それにしても、良いネタが見つからないなぁ。いやまぁ、桜の記事は書けるけども。










 翌日、「驚愕! 冥界のお嬢様の正体は先代の庭師だった!」という記事を載せた同僚の新聞がバカ売れした。
 私の記事は良い出来だったようで、冥界にはたくさんの人がやってきたらしい。幽々子さんと先代の庭師がわざわざお礼を言いに来た。
 現庭師が来ていなかったようなのでそれとなく訊いたら、ぐれてしまったそうだ。あれだけ真面目な子がねぇ。不思議なことが世の中にはあるものだ。











 ……ああ、それにしても。











 良いネタ、どっかにないかなぁ。
いや、




アンタのそれは才能の問題だろうと。








パソコンの母盤がお逝きになられたせいで、しばらくネットから切り離されておりました。
しかし、充電期間を経たからなのか、私らしい作品になった気が致します。
批評、感想、誤字等御座いましたらドンドコお願いします。
喚く狂人
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コメント



0.2080簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
主人と師匠にたばかられていた妖夢がかわいそうかもw

ちなみに鳥は辛いのは全然平気らしいです
うちのインコも鬼辛い生唐辛子をバリバリ食べます
7.100GUNモドキ削除
ボウクンハバネロが辛い?・・・・・・おかしいですねぇ。
家のラー油に比べたらあの程度じゃ辛いなんて言っていられませんよ?
10.100奇声を発する程度の能力削除
もはやここまでくると凄すぎる才能wwww
ネタを見過ごす程度の能力?
11.100謳魚削除
そんな文ちゃんが大好きです。
己はむしろこの文ちゃんが公式で良いとさえ思えて来ますが、そいつぁ土台無理難題。
そして喚さんパーペキ復活おめでとうございます。
13.100名前が無い程度の能力削除
>おりんちゃん食べちゃったよハァハァ

おまwww
16.90名前が無い程度の能力削除
ネタの散りばめ方の密度が濃いw
さりげなくレミイの件は相当深刻な気がするんですが……
18.100名前が無い程度の能力削除
もうちょっとネタを選ぶ目を持てw
そら妖夢もグレるわ
20.80名前が無い程度の能力削除
『紙面裏』思い出した。
21.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、じゃねぇwwww
23.100名前が無い程度の能力削除
なんというある意味空気の読める娘w
文の同僚のその後が気になりますな
30.100名前が無い程度の能力削除
もうどこからツッコんでよいのやらwwww
とりあえず油揚げどっから出してんだよ、とw
32.100名前が無い程度の能力削除
うん・・・ドジっ娘なのか?
最早職務怠慢な気もしてきたぞww
33.100名前が無い程度の能力削除
射命丸才能なさ過ぎww
45.100名前が無い程度の能力削除
なにかが おかしい
46.100名前が無い程度の能力削除
本当に大切なものはすぐそばにあるんですね。
本人だけが気付かないんですよね…