Coolier - 新生・東方創想話

新・秘封倶楽部! 桜に願いを 中

2009/04/14 18:06:29
最終更新
サイズ
24.12KB
ページ数
1
閲覧数
1071
評価数
9/40
POINT
2390
Rate
11.78

分類タグ


*この話は第8話に当たります。1話~3話(作品集72にあります)、4~7話(作品集73にあります)を読んでいないと理解しにくい内容です。
*舞台はここではない現代日本です。弾幕はありません。少しファンタジーっぽい要素が出てきます。でも、剣も魔法もありません。
*秘封倶楽部の2人にはあまり出番の無いお話です。
*それでも構わない、尚且つ、時間を潰す覚悟と余裕のあるお方がいれば、読んでくださると幸いです。















「お邪魔しま~す」
「な、何ですかここ?!」
「……」
「あ、霊夢さん!いらっしゃい♪と、そちらの方は?」
「あ~、ちょっとしたお客さんよ」

 不思議な感覚と共に、星空の中に浮かぶ不思議な空間に到着した。突然の事態の変化に、妖夢は目を白黒させている。そんな彼女は置いておいて、いつものように笑顔で迎えてくれる司書と軽い挨拶を。次いで妖夢の事を彼女に説明しようとしたが、それより先に後続がやってきた。

「よっと」
「邪魔するわね。あら?」
「パチュリー、もう来てたのね」
「……(コクッ)」

 新たな来客3人にも、ただ頷くのみで、先ほどから黙々と本を読み続ける少女。隣のクラスのパチュリー・ノーレッジだ。何時来ても彼女はここにいる。余程この場所が気に入っているのだろう。確かに、本好きに取っては天国に違いないだろうし。

「また読書三昧か?このままだと、来年ごろには紫もやしの出来上がりだな」
「……失礼な」

 魔理沙の軽口に、ようやくパチュリーがこちらに顔を向けた。相変わらず眠そうで、不健康そうな顔をしている。続いて、アリスがいつの間にやら増設されたベッドの方を見やりながら、呆れたようにパチュリーに声をかける。

「二段ベッドまで用意しちゃって。さっき咲夜と話したけれど、あなた館に帰ってこない日が多いらしいじゃないの?」
「たまには帰っているわ」
「まぁ、気持ちはわかる気もするけどね……ここにいると帰る時間ももったいなく感じるし」
「でしょう?」

 そう言うと、彼女はまた視線を本へと落とした。まぁいいか。興味があれば向こうから勝手に覗き込みに来るでしょうし。本好き同士が会話を交わしているうちに、妖夢も司書に自己紹介済ませたみたいだし。まずは用件を片付けちゃいましょう。とりあえず、妖夢の背負っていた箱をテーブルに移して、っと。

「どっこいしょ」
「霊夢……」

 さとりが首を振りながら、ポンッと肩に手を乗せてきた。

「それはいただけないわよ?」
「しょ、しょうがないでしょ?つい出ちゃうんだもの」

 玄爺ちゃんにくっついて手伝いしてるうちに感染っちゃったんだもの。箱を広げて中身を取り出すと、こぁが興味深そうに覗き込んできた。

「これはまた随分と古いですね~。何が書いてあるんです?」
「それが判らないからここに来たんだけどさ」

 紫に聞いた桜の話をかいつまんで彼女に伝えたところ、随分と興味を持ってくれたようだった。

「こぁ、こういうの読めない?」
「ん~、ちょっち待ってください」

 そう言うと一冊を手に取り、何か呟きながらゆっくりとページをめくり始める。そのうち、椅子に座り込んで、何処からインクを調達するのか謎なペンを片手に、メモを取り始めた。どうやら、ここに来て正解だったようだ。妖夢の方を見ると、感心したようにその様子を眺めていた。

「それじゃ、少し時間がかかりそうだから、少しお話しましょうか」
「え?あ、はい」
「妖夢は、なんでまた紫に呼び出されたわけ?」
「いえ、呼び出されたと言うよりも、幽々子お嬢様に『これを持って、紫の所に行ってきなさい』と言われまして」
「そう言えば、庭師さんなんだっけ?」
「……元々は剣術指南役だったんですが、今じゃ殆ど家政婦ですね」

 そう言って妖夢は苦笑いを浮かべた。そんな彼女を見て、さとりが優しげな笑みを浮かべる。

「でも、楽しいんでしょう?」
「ふぇっ?どどど、どうして」
「だって、口元が幸せそうなんだもの」
「うぅっ……」

 どうやら図星だったらしい。妖夢は顔を真っ赤にして俯いてしまった。この子、小柄で可愛いなぁ。ギュ~っとしたくなってくる。しないけど。それから雑談に興じること数十分。思いの外早く司書から声をかけられた。

「あの~?」
「どしたの?」
「これ、他にもありませんか?」
「他、ですか?」
「はい。文治年間ころの日記だと思うんですけど、すっぽり抜け落ちてるんですよ」
「文治年間、ですか?」

 司書の問いかけに、妖夢が不思議そうな顔をした。って言うか文治年間って何?そんな私たちを見て、彼女が説明してくれた。

「え~とですねぇ。西暦で言うと1185年から1190年です。壇ノ浦で平家が滅んでから、奥州藤原氏が滅ぶまでの間ですね。そのころの日記があればそちらを見せていただきたいんです。あ、それとこれらはもういいです」

 そう言うと、2冊だけを手元に残して他の冊子を、2段に分けて妖夢に差し出した。結構あるけど、もう読んだのかしら?さとりも疑問に思ったのか彼女にそれを尋ねた。いつの間にやら他の3人もこちらに来ている。

「もう読んじゃったの?」
「はい。速読できるので。でですねぇ、ざっと目を通したんですけど、こっちの方、元暦年間以前は桜の記述があったので、それが確認できたから結構です。で、逆にこっちなんですけど、」

 今度は別の方の段を指差した。

「建久年間以降には桜の記述が無いんです。だから必要ありません」
「ん?どういう意味だ?」

 魔理沙が彼女の言に首を傾げた。安心なさい。私もサッパリ理解してないから。だが、今の説明でさとりやパチュリーは理解できたようだ。なるほど、と頷いている。じゃ、説明してもらおうかしら。

「どういうこと?」
「つまり、それまでは当たり前だった桜の話が、ある時期を境に記述が消えちゃったってこと」
「だから、その『境の時期』の日記を読みたい、とこぁは言ってるのよ」
「あぁ、そういうこと」
「となると、次の行動は決まりだな」

 なるほどね。記述の境目の時期に何かがあったって考えたんだろう。で、その時期の記録だけがここには無い。そう来れば、魔理沙の言う通り次の行動は限られてくる。

「じゃ、西行寺先生の家にお邪魔するとしますか」
「そうなるわね」
「気をつけて行ってらっしゃいな」
「あれ?パチュリーは残るのか?」
「えぇ。こっちはこっちで興味深そうなことがあるみたいだしね。でしょ、こぁ?」

 私たちが立ち上がったところ、パチュリーは椅子に腰掛けたまま司書の持っている2冊の方に目を向けた。そう言えば、なんで2冊だけ持ってんのかしら?

「そっちに何か書いてあるのかしら?」
「はい。少し気になることが書いてあるので、しっかり目を通そうかと思いまして」
「らしいから、私はこっちを手伝うことにするわ」
「そっ、じゃあよろしくね」
「よろしくされてあげるわ」
「よし、妖夢、先生の家まで案内頼むぜ」
「それはいいですけど。でも、少し遠いですよ?」
「あら、もうこんな時間なのね?」

 さとりに言われて時計を見ると、いつの間にか5時を回っていた。外は日が落ち始めている頃だろう。まぁ、しょうがないか。

「じゃあ、今日は解散して明後日にしない?土日だし、じっくり家捜しできるでしょ」
「だな。それじゃ、幽々子先生に『土日に邪魔するぜ!』って伝えておいてくれないか?」
「わかりました。それで、」

 そう言いながら妖夢が不安げな顔で、あたりをキョロキョロと見渡す。

「ここ、どうすれば出られるんですか?」

 ん?そこにあるドアが見えないのかしら?って、あれ?……そこで笑いをこらえてる小悪魔、いつの間にドアを隠したのよ?










「お~、やっと着きましたか!お待ちしてましたよ~!とりあえず、記念に1枚」
カシャ

 土曜日、朝から私たちは妖夢に連れられて西行寺先生の家へとやってきた。パチュリーはこぁと一緒に何か調べ物をするそうだ。学園から電車で1時間ほど。先生は車で来ているが、妖夢は部活の朝練があるため、一人早起きして電車通学しているらしい。手が思ったよりがっしりしてたのは部活の所為か。毎朝5時起きとか、私には無理だ。今日だって、私たちを迎えに来るのに随分と早起きしたらしい。ま、それはこの際どうでもいい。それより、門の前にカメラ片手に待ち構える、この無駄に脚の綺麗なミニスカ女だ。

「で、なんであんたがここに居るのよ?」
「あややや、随分な言い方ですねぇ。別に、担任の先生のお宅に生徒が遊びに行っても良いじゃないですか」
「朝の9時からかよ?」
「そんなことより、」

 魔理沙の質問は無視して、ずいっ、とこちらに身を乗り出してきた。

「私を仲間外れだなんて酷いじゃないですか!一緒に吸血鬼事件を解決した仲なのに」
「別に仲間外れにしたわけじゃないわよ」
「そうだぜ。ただ、」
「思い出しもしなかっただけだもの」
「ひどっ!そんな人たちだったんですか?!」

 いや待て、私と魔理沙はまだそこまで言ってない。言っちゃったのはさとりだ。そう言ってやりたいところだが、なぜか視線が彼女の方を向いてくれなかった。つい視線を逸らしたまま口を開いてしまう。

「そ、そんなわけないじゃない。私たち友達でしょ、ぶ、文?」
「今、『ぶん』って呼ぼうとしませんでしたか?」

 呼びそうでした。けど、ジト目でこっち見んな。そんなやり取りをしていると、妖夢が私の袖をちょんちょん、っと引っ張った。

「あの、お知り合いですか?」
「私にも紹介してくれるとありがたいんだけど」

 そう言や、この2人は初対面か。まぁ、名前くらいは聞いたことあるとは思うけど。

「どうも初めまして!東方学園高等部1-Cの、清く正しく美しい新聞記者、射命丸文でっす!」
キラッ☆彡
「ど、どうも」
「……初めまして」

 なんでウィンクしながら『グワシッ』やってんのコイツ?おかげで2人は、文に対する正しい認識が出来たようだが。そんなアリスを見てさとりが声をかけた。

「アリス、魔理沙が自己紹介したときと同じ顔してるわよ?」
「え゛」
「あん?どんな顔だ?」
「何でもないわよ!」

 あの顔か。自分の不運を呪ってる顔。気持ちは良くわかる。でも、もう手遅れなのよアリス。後悔先に立たずとはよく言ったもんだわ。

「とりあえず、皆さん中へどうぞ」

 アリスと同じような、引き攣った笑顔の妖夢が、門を開けてくれた。





「妖夢~、お腹空いたわ~」

 門をくぐり、小道を歩き、立派な玄関を抜けると、脱力の罠が待っていた。よそ様のお宅にお邪魔して、開口一番そんな事言われるとは思わなかったわ。

「幽々子様っ!」
「あら~?そう言えば、お客さんが来るって言ってたわね~。いらっしゃ~い」
「「「「「お邪魔します」」」」」

 お辞儀をする先生に、私たちもお辞儀をする。その際に、上目遣いでちらっと。そして、自分のも確認……ここまで隔たりがあると悔しくも何ともない。何ともないんだから。

「妖夢、お茶とお菓子の用意を」
「しますけど、幽々子様の分はありませんよ。先ほどのでお昼まで我慢してください」
「う~、意地悪~。お魚とデザートじゃ足りないのにぃ」

 朝からデザートまで食べるのかこの先生は。そう思っていると、妖夢がピシリと固まった。

「デザート、ですか?」
「どうしたの?」
「まさか!」

 そう言うと靴を脱ぎ捨て奥の方へと一目散に駆けていく。そして、

「ない!隠しておいたのに!幽々子様ぁっ!!」

 バンッ!と、襖を開ける音がしたかと思うと奥の方から猛スピードで駆け戻ってきた。そんな妖夢を幽々子先生がたしなめた。

「妖夢、廊下を走っちゃダメでしょう?」
「誤魔化さないでください!桜餅と蓬餅、どうしたんですかっ!?」
「デザートなら食べたわよ?」
「あれが、朝食のデザートなわけないでしょう!」

 そう言って妖夢は幽々子先生に詰め寄った。状況が飲み込めてきたわ。食べられちゃったのね、私たちのお菓子。

「わざわざ戸棚の奥に隠しておいたのに!」
「美味しそうな匂いがしたからつい」
「3つも離れた部屋の戸棚からですかっ!?」

 それは人間の技じゃないでしょ。妖夢は色々と言っているが、どう見ても幽々子先生は反省していない。むしろ、怒ってる妖夢を見て可愛がってる風だ。このままじゃ埒が明かないし、魔理沙やさとりと3人で妖夢を宥めにかかった。

「あ~、妖夢?」
「私たちのことなら気にしないで良いから」
「そうそう、それよりさっさとお目当ての物を探そうぜ?」
「う~」

 まだ何か言いたそうだったが、渋々と言った感じで引き下がった。そして私たちに頭を下げる。

「本っ当に、申し訳ありません!皆さんに召し上がってもらおうと昨日から用意していたんですが」
「美味しかったわよ~」

 暢気に感想を述べる先生を妖夢がキッと睨む。一度は言葉を発しかけた口を噛み締め、靴を履いた。

「それじゃ、蔵の方までご案内します。こちらへどうぞ」

 道中、妖夢は何度も私たちに謝罪しながら、肩を怒らせて歩いていた。と言っても、だいぶ落ち着いたようではあるけど。さっきまでは真っ赤だった頬っぺたが、元の肌色に戻っていた。玄関を出て歩くこと数分、建物の裏に当たる位置、とでも言うのだろうか?それはそれは見事な蔵が鎮座していた。早速文が写真に収めている。置いといて中に入った。入り口を開け放し、先に入った妖夢が奥の窓を開けたので、中は思っているよりは明るかった。少々独特な匂いがするが、歴史の香り、と言う奴だろう。表の写真を撮り終えたのか、文も中に入ってきた。

「では、中のほうへご案内します」

 妖夢に連れられて言った所には、ぽっかりと空間の空いた棚があった。どうやら、ここが例の日記の置いてあった場所らしい。

「混同しないように、この間のは部屋の方に一時保管してます」
「この棚だけでも結構あるなぁ」
「ホント、思ったよりも中は広いし」
「これは、手分けした方が良さそうね。6人いることだし、2人1組で探しましょ」

 ま、それが妥当でしょうね。妖夢とさとりがこの棚を、アリスと魔理沙が1階の他の部分を、私と文が2階を探すことになった。棚のすぐ横にあるのだが、結構急な階段だ。梯子と言った方がいいかもしれない。とりあえず、足をかけて慎重に登り始める。
カシャッ
 カシャッ?不審に思い振り返ると、カメラを構えて笑顔を浮かべているバカが一人。

「ピンクのフリル付きですか。可愛いお尻で、ぎゃぼわっ!」

 爽やかな盗撮女に天空×字拳をかまし、カメラを引っ手繰って画像を消去した。この写真をどうするつもりだったんだこいつは。頭を抑えながら立ち上がった文に、巫女の必須アイテムをちらつかせながら命令を下すことにした。

「あんたが先に上りなさい」
「わかりまふぃた」

 まだ少しふらふらするのか、呂律が回っていない。これはこれで先に登らせるのが不安だな。足を滑らせて、落ちて来やしないかとドキドキしながら、スパッツを眺めていた。サービス精神の無い女だ。

「2階も結構広いわね」
「ホントですねぇ。ところで霊夢さん」
「何よ?」
「今回は、一体何をするんですか?私、何も聞いてないんですけど」

 そう言って照れ笑いを浮かべる文に、思わずずっこけそうになった……そういや、何も説明してなかったわね。それから数分、私は文に桜の話をすることになった。



「へぇ、それはいい写真が撮れそうですね」
「咲けば、ね。咲くかどうかも判らない桜のために、華の女子高生が土曜の朝から何やってんだか」

 そう言いながら舞い散る埃と格闘する。それにしても、どうでもいいものばかりだ。と、すぐ下の方からさとりの声が聞こえてきた。

「『自由帳、こんぱくようむ』何々、あらら」
「わ~っ!返して、返してくださいっ!」
「ふふっ、ごめんなさいね。つい目に入っちゃって。別に気にする事無いわ、きっと誰もが一度は通る道よ。『レジェンドナイト』」
「いやぁぁぁぁっ!」

 やめてあげなさいよ、小さい頃のトラウマを呼び起こすのは。最近思うんだけど、案外いじめっ子気質な所があるわよね、さとりって。妹さんとはどんな接し方してるのかしら?ちゃっかり、文が妖夢の泣き顔を納めていた。幽々子先生が喜びそうだ。その後も探し続けること2時間あまり。途中、魔理沙と妖夢の

「念願のアイ○ソードを2本も手に入れたぞ!」
「ぶん殴ってでも奪い返します!」

 といった会話や、何に驚いたのか、アリスが可愛い悲鳴を上げたりもしていたが、何の発見も無く棚の前に集まった。

「見つかりませんねぇ」
「だなぁ」
「疲れた~」

 皆一様に疲れた顔をしている。私も疲れたが、それ以上に

「お腹空いた。もう無理。死ぬ」
「霊夢には切実な問題よね」

 さとりが微苦笑を浮かべている。空腹は人間皆に共通する切実な問題よ?ん?何か一人足りないような……おかっぱが居ないのか。何処いったんだろう?

「あれ?妖夢は?」
「彼女は1時間くらい前にお昼ご飯作りに行ったわよ。カレーって言ってたわ」
「ホントに!?やった♪」
「お~、ありがたいですね。もうお腹ペコペコなんですよ。こう見えても結構食べる方ですし」
「そうなの?」

 アリスが文に尋ねた。そう言えば、一緒に食べたこと無いから知らないな。体細いから、咲夜みたいにあんまり食べないのかと思ったけど。

「はい、記者は体力勝負ですし、毎日食べてるあのSOSパン、ホントに大きいんですよ。ねぇ、魔理沙さん?って、見たこと無いですよね、ぷぷっ」
「そこで待ってろ。さっき見つけた日本刀で叩き斬ってやるから」
「魔理沙、確実を期すなら斬るより刺した方が良いのよ」
「さとりさん!?そこは止める所じゃないんですか!?」
「ごめんね?私、ツッコミを引退したの」

 そーなのかー。魔理沙が念願のアイスソードとやらを取りに行こうとした丁度そのとき、割烹着姿の妖夢が戻ってきた。

「あ、丁度良かったみたいですね。お昼の用意が出来ましたよ!」





「私、疲れてるんですかね?」
「なんでだ?」
「いや、私が入れそうな鍋が見えるんですけど」
「奇遇ね?私もそれからカレーの香りを感じるわ」
「あなた、結構食べるんでしょう?」
「そうだぜ。SOSパンを毎日食べてる胃袋を披露してくれよ」
「いやいやいやいやいや!」

 わざわざ庭の真ん中に、鍋やテーブルが運び出してあった。なんか、キャンプみたいで楽しいわね、こういうの。そんな私の後ろの方で4人が何かを話している。が、さほど耳に入ってこない。今の私の視線はカレーに釘付けだからだ。鍋の傍らには既に幽々子先生が待機していた。今にも涎を垂らしそうである。と言うか、垂れてる垂れてる!そんな私たちに妖夢がはにかみながら話しかけてきた。

「今日はお客さんいっぱいですし、少し足りないかなとも思ったんですが」
「そうよ~、もうちょっと作ってくれても良かったと思うわよ~?」
「そうね、私も結構食べる方だし……」

 ご飯は15合炊いてくれたらしい。よ~し、霊夢さんいっぱい食べちゃうぞ♪

「「「いっただきま~す♪」」」
「「「「……いただきます」」」」
「美味しい!これはスプーンが進むわ♪」
「良かったぁ。どんどん食べてください!」

 『美味しい』の一言に、妖夢が顔を綻ばせた。それにしても美味しい。2杯目を食べながら他の連中に目をやると、

「食べないの?」
「いや、ちょっと、な」
「胸焼けが、ね」
「も、もしかして、お口に合いませんでしたか?」

 あまり食べていない他の4人を見て、笑顔から一転、今にも泣き出しそうな表情になった。それはそうだ。皆に美味しく食べてもらおうと、張り切って、一生懸命作ったのだろう。それをあの4人と来たら、まだ半分も食べていない。意外と失礼な奴らだな。とりあえず、3杯目をよそってから注意することにした。

「ちょっと、折角作ってくれたんだから、もっと美味しそうに食べなさいよ」
「味は充分美味しいんだけどね」
「見てるだけで胸焼けが」

 そう言って、文が幽々子先生の方を見る。丁度7杯目を食べ終えた所のようだ。まぁ、あれを眺めてたら胸焼けするだろうけどさ。

「先生を見なきゃいいでしょうよ」
「先生だけじゃないから苦労するんですよ!こっち来ないでください!」
「なんでよ?!」
「この短時間で3杯目に手を出してるからでしょ」
「妖夢だって同じペースじゃない」
「だから胸焼け起こすんでしょうが……」

 そう言いながら4人とも私達からも目を逸らした。そんな4人に妖夢が意外そうな顔をした。

「私、そんなペース速いですか?」
「少なくとも、私たちは女の子として標準的なペースで食べてるつもりだけれど?」
「で、でも、私も幽々子様の半分以下のペースでしか」
「普通は、5分の1くらいだと思いますよ?」
「分量だって、いくらカレーでも1人1合は食べない気がするけど?」
「そ、そんな馬鹿な!?」

 妖夢は思わず皿を落としそうになっていた。相当衝撃を受けているようだ。私も初めてこいつらと食べた時は量の少なさに驚いた物だ。きっと彼女は、大食いなお嬢様と暮らしているうちに普通の感覚と言うのがわからなくなってしまったのだろう。運動部で激しい運動をしていればカロリーも消費できるだろうし、他人と比べて食べ過ぎてるなどとは、露ほどにも思っていなかったに違いない。年頃の女の子としては、かなりショッキングな事実だろう。とは言え、呆然としつつもお替りしてるあたり、染み付いてるなぁ。そう思いながら、4杯目を食べ始めた。
 結局、私と妖夢が5合程。他の4人が4合分くらいで、文が結構食べてたような気がする。で、残りは全て、

「ご馳走様~。おやつが楽しみだわ~♪」

 先生の胃袋に消えた。あれだけ食べて、もうおやつの話か。きっとあの胃袋は宇宙だ。襖の奥へと消えていく先生を見て、私はそんな感想を抱いた。妖夢とさとりが食事の後片付けをしてくれるって言うし、その間に、この後どうするかを話し合うことにしましょうか。

「どうする?もう1回、蔵を探してみる?」
「ん~、でも、一通り探しましたよね?」
「と、思うけど。この後もう1回探したからって見つかるかしら?」
「だよねぇ……となると、蔵には無いのかなぁ?」

 今日までに、妖夢だって多少は蔵の中を捜索したはずだし、さっきだって、手分けしてかなり丹念に調べた。となると、蔵には無いんじゃないかと思えてくる。かと言って、蔵以外に探す所があるのかしら?

「なぁ、桜の実物を見に行ってみないか?」
「へ?」
「いやさ、蔵以外にはどうせあてもないだろうし、気分転換と食後の運動も兼ねてさ」
「それも良いかもしれませんね。現場確認は大事ですし」
「反対する理由も無いし、いいんじゃないかしら?」

 アリスが私に確認を求めてきた。ふむ……ここで悩んでいてもしょうがないし、それで行こうかしら?

「じゃあ、そうしよっか」
「O.K!んじゃ、私は取ってくる物があるから、後片付けの手伝いは頼むぜ!」
「ちょ、ちょっと?!」

 了解するや否や、魔理沙はピューッと蔵のほうへと走って行ってしまった。何を取りにいく気だろ?まぁ、いっか。さとりや妖夢を手伝うことにしよう。





 皆で食器の後片付けを終え、魔理沙とも合流した私たちは先生の家から歩くこと十数分。小高い丘の麓まで来ていた。紫から聞いた話だと、ここらへんが丁度『境目』らしい。初めての場所だし、集中集中……、って、誰だ邪魔するのは?!

「何?」
「ご、ごめんなさい!でもその、私、何をすればいいのか……」
「霊夢、後輩ビビらせないの。この子、この間の図書館が初めてなんでしょう?」
「傍から見てて判るような物じゃないですしね」

 そりゃそうだ。そう言えば、この子に説明してなかったんだっけ?かと言って、どうやって話せばいいのかしら?何とかなるかな?

「えっと、『境界』云々ってのは、わかる?」
「はい、この間幽々子様に教えていただいたので、なんとなくは」
「なら早いわね。その境目を通るのにね、初めのうちは意識の集中が必要っぽいのよ」
「集中、ですか?」
「そう、何って言うのかなぁ……そこには無い物を、『何かがあるよ~』って自分に言い聞かせるって言うか」
「プラシーボ効果、ってわけではないけど、信じ込むと、『あら不思議!』って感じね」
「なるほど」
「理屈は良くわかんないんだけどね。それがコツなのよ。だから、皆こう集中してるわけ。まぁ、誰か一人通り抜けられれば、そいつが皆を引っ張りこめるみたいだし、2回目以降はイメージしやすいから簡単に通り抜けられるようになるのよ」
「そういうものなんですか……」
「えぇ、だから今回はそこで見てるといいと思うわ」
「わかりました」

 それにしても、本当にどういう理屈なのかしら?って、いかん!そんなこと考え出したら深みに嵌るじゃないの。余計なこと考えないで集中しないと。目を閉じて、吸って、吐いて……

「くしゅんっ!」

 あれ?何か急に肌寒くなってない?身震いしながら目を開くと、先ほどまでは何も無かった丘の上に、桜の大樹が寂しげに枝を伸ばしていた。

「お、入れたみたいだな」
「これは、想像してた以上に見事ですねぇ」
カシャ、カシャッ
「桜って、こんなに大きくなるものなのね!」
「これは、驚くわね。それにしても、」
「「「「「寒っ」」」」」
「たしかに、ちょっとひんやりしてますね」

 妖夢は平然としているけれど、それ以外は、私も含めて鳥肌が立っていた。春も終わりに近づき、夏日に近い気温だからと言うことで、割と皆薄着をしている。さっきまではそれで充分だったと言うのに、境界の向こう側に入った瞬間気温がガクッと下がった。下は長めのスカートでも、上は薄手の七分丈。上着持って来れば良かった。そんな中、さとりがボソッと呟いた言葉に、妖夢が反応した。

「なんか、春先に戻ったみたいね?」
「春先……!」
「どした?」
「ちょっと、確認します!」

 魔理沙に尋ねられたことに、殆ど答えにならない答えを返し、桜の下へと走っていった。上り坂だってのに、随分速いわね。剣道で鍛えられると、足まで速くなるのかしら?瞬発力はつきそうだけど。こっから見ていても仕方ないし、身体を温める意味も込めて、小走りで私たちも桜の方へと向かった。先に走っていた妖夢は、真剣な眼差しで桜を観察し、今度は木登りを始めた。そう言えば、庭師のお孫さんなんだっけ?

「あ~、どうせならショートパンツじゃなくてスカートを穿いてくれていれば……いや、これはこれで人気が」
「没収」
「あやっ?!」

 さっきと言い、あんたは何を考えてんのよ。妖夢に負けず劣らずの真剣な表情で、しょーもない事を呟いている文から、カメラを奪っておいた。と、何か合点がいく事があったのか、妖夢がひらりと桜から飛び降りてきた。

「咲かない理由がわかったと思います」
「ホントに?」
「はい。お爺様もきっと気付いていたんじゃないかと思うんですけれど、春になっていないんです」
「春になってない?」
「えっと、桜も植物ですから、蕾をつけるには気温が大きく関係してるんですよ。で、この気温だと、そこまでにならないんです」

 なるほど。確かに、桜の花が咲く頃って言うのはもうちょっと暖かいだろう。毎度不思議な空間だとは思っていたけど、今回のは

「季節が止まってる、ってわけか」
「そういうことなんだと思います」

 私の呟きに妖夢が頷いた。ん~、表面的な咲かない理由はわかったけど……でも、この肌寒さの理由はそれだけなのだろうか?自分でも良く判らない感覚が、私に伝わって来ているような気がする。一体何なのかしら?それに、この肌寒さの理由が何であれ、

「じゃあどうすればいいの?って、話よねぇ」
「そうね……私たちの干渉でここだけ春にしたりとかって、出来るのかしら?」
「それって、春にならないのには、何かしらの『解決可能な原因』がある場合の話よね?」
「そうなるわね」

 さとりの疑問に、アリスが更に前提条件をくっつけた。確かに、ここが『図書館』のように、季節や法則から完全に切り離された空間なら、手の打ち様なんかない。逆に、『紅魔館』のように私たちの世界と隣り合っていれば、もしかしたら干渉……ゲームでよくあるイベントみたいなものをこなせば状況は変わるのかもしれない。かもしれないけど、

「仮にそうだとしても、結局その原因がわからないことには」
「やりようが無いわよね」
「結局、抜けた部分を探す以外には無いわけだ。ふふっ、コイツを用意してきた甲斐があったぜ!」

 皆がジト目で妙に張り切っている魔理沙の方を、いや、厳密に言えば魔理沙が持っているものを見る。先ほど、片づけをサボタージュしてまで取りにいった物。それはスコップ。そして、糸のついた5円玉。察しは付くけど一応聞いておこう。

「それで何をするつもり?」
「ダウジングして掘るんだ」
「本気で言ってるの?」
「何にも手がかりが無いんだぜ?何もしないよりいいじゃないか」

 そう言うと、5円玉をぶら下げて、あたりをうろうろし始めた。そんな彼女を皆が呆れた顔で見ていた。

「それで手がかりが見つかれば、考古学者は皆廃業ですよ……」
「はっはっは、廃業させてやろうじゃないか。お、何か反応したな!」

 反応したらしい。今度はスコップでその場所を掘り始めた。もういいや。見届けてやろう。そう思ってからわずか30秒ほどしか経っていない時だった。

「何が出るかな?何が出るかな?」
「死体だけは掘らないでよ?」
「と言うか、無駄なことしてないで蔵に、」

 ガキッ!

「「「「「「……え?」」」」」」

 おいおい。
 m(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)mm(_ _)m
 そろそろ、後書きの序文に書くことがなくなってきました。Rです。後書きについて、発想の転換をすることにしました。面白いネタをやれないわけじゃない。反逆して、あえて正統派の後書きを書いているんだ、と。

 え~、8話です。苦労しました。何も考えずに書き始めた話なので、展開が……途中で女神(きっと娘の出番を望む神綺様)の囁きがなければやばかったです。
 前回同様、中編は大して進展がないです。後編へのつなぎ兼皆の日常風景の描写がメインなので、内容に関する後書きはあまりありません。

 今回はキャラの設定について少し。2次創作なので当たり前なのですが、原作に沿っていなければなりません。でも、舞台が現代日本である以上、ある程度は変更しないといけません。
 文(若干ナルシシスト気味だけど)や、咲夜さんあたりはそのまんまなのですが、アリスは結構面倒で。現代社会で完全自立人形となると、完璧な人工知能を持つロボットじゃないですか?じゃあ、機械工学とコンピューターに強いアリスが受け入れられるか、と言えば、大体の人はNoじゃないかと。ア○ムとかドラ○もんを作るアリス……それじゃにとりと被るじゃん。だからと言って、フィギュアやネンドロイドにのめりこむオッタキーなアリスが受け入れられるのか?って話ですけど。
 逆にさとりは楽な方です。と言うのも、まだ2次創作としてキャラが立っていないと言うか、ドMみたいにクセのある描き方はされていないので、割と自由に書けるからです。
 それと、主人公霊夢ですが、大食いなのは、各地で貧乏扱いされているからです。お茶っ葉食べて暮らしてたり、3日に一食だったり。せめて自分のところくらいはお腹いっぱい食べさせてあげたいな、と。かなりどうでもいい理由ですね。

 さて、完結の9話は、10話が完成次第なので、また執筆に戻りますノシ

 例によって例の如く、誤字脱字があると思いますので、教えていただければ幸いです。
Ren(R改め)
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1500簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
お~、新作キタ!
アリスを現代の女の子にするとなると、どんなキャラにするか難しいですよね。

今回も霊夢たちのかけ合いを楽しませてもらいました。早く続きが読みたい…!
2.90煉獄削除
まあ何故か霊夢は『賽銭がない=貧乏』という設定が
付いて回ってますからねぇ……。
でも凄い食欲ですね。

皆の日常風景ということでしたけど、賑やかで良いですね。
それと玄爺ちゃんって……どんな姿してるんだろ?
個人的に頭は剥げてるけど目と口元が眉毛や髭で隠れてるような
感じを想像しましたが……。

今回で何かを掘り当てた霊夢たちは次回では
どんなことになるのでしょうか。
桜も咲くのか咲かないのか楽しみです。
私もこの作品や氏を応援してますので頑張ってくださいね。
7.100想月削除
霊夢さん…大変なんですね。
今回の新作も楽しませていただけました!
妖夢さんのキャラが良いですね。それにしても、結構妖夢さんも食べるんですね…。
次回作と氏の作品に、これからも期待しています。頑張って下さい!
12.100名前が無い程度の能力削除
おっと上下じゃなかった。
今のところ出てないキャラも含めて後編以降も楽しみです。
21.100名前が無い程度の能力削除
お、続きがきてた。
話が膨らみ、解決へと繋がる。3本立ての醍醐味、中篇ですねぇ

キャラ設定は舞台設定に合う程度にいじられてて非常に違和感なく入り込めましたよ~。
いよいよ解決編の後編、そしてさらなる次章も楽しみです。頑張ってください!
29.100名前が無い程度の能力削除
文のおかげで舞台が幻想郷(ドロワーズ)ではないことを再認識出来ました。
ありがとう射命丸!このエロガラス!!
31.100名前が無い程度の能力削除
なんだか霊夢から百合の匂(ry

ピンクのフリルにスパッツにショートパンツ…だと…
32.無評価R削除
>1さん
 あまりに、現代的過ぎる女子高生書くわけにもいかないですしね。ってか、書きたくないですし。
 掛け合いに関しては、こう、勝手に喋ってくれるというか、何かそんな感じです。

>煉獄さん
 いつもありがとうございます。食べすぎですよね。エンゲル係数どうなってるのかと。西行寺家ほどではないですけれど。
 玄爺、どんななんでしょう?自分でイメージしてみたらなぜか「ふぉっふぉっふぉ」と笑う和尚さんが出てきたという……神社だっつーのに。
 きっと、このレスを読むころには後編で桜が(ry

>想月さん
 そのくせ、小柄だという不思議。次回作も頑張っていきたいです。

>12さん
 自分の文章力ではどうしても、一作品で出せるキャラってのは限りが出てきてしまいますので……え~、後編『以降』もよろしくお願いしますm(_ _)m

>21さん
 そのせいで作りにくいという。でも、書くの楽しいんですよね。
 違和感を感じないようなら、書き手としては何よりです。続きも頑張ります!

>29さん
 ピンクのフリル付きドロワかもw
 射命丸に現像頼んでたのに、消されてしまったのです。残念。

>31さん
 いえいえ、彼女はきっとノーマルですよ?
 さとりや魔理沙は・・・です・・・
36.100フクロウ削除
楽しませて頂きました。
相変わらずキャラ同士の掛け合いが楽しかったです!

確かに、設定を残しつつ、変えるのって大変ですよね。
頑張って下さい!
41.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。