Coolier - 新生・東方創想話

銀の糸-The sun and the moon-

2009/04/06 18:26:07
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※本作品は処女作である、作品集52「妖怪、紅美鈴~ボーダーオブライフ」の完結編となります。



















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○月×日 晴れ 紅美鈴

あれからもう、一年が経とうとしているのを日記を付けていて気づく。
供養を欠かした事はなかったが、今でもあの選択が正しかったのだろうかと悩むことはある。
子供の成長は早い。きっと生きていれば、見間違うぐらいに彼女も成長していただろうに。
自分の命を捨て置いて、例えば上白沢慧音だとかに頼むだとか……。
しかし私は生きるために、あの娘の命を奪う選択をした。

この日魔理沙は襲来せず。

お日様がぽかぽかしていて、うとうとしてしまい、咲夜さんに叱られた。
おやつ抜き。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ふぁーあ……眠いなぁ」

目をごしごし擦っても、眠気はいっこうに退いていってくれなかった。これも全部、最近になって急に暖かくなり始めた太陽の仕業に違いない。
こういう日は、湖のほとりで寝そべって昼寝ができたら気持ちいいだろうなぁ。
太陽の光を一身に浴びつつ、ごろごろ転がって、萌えはじめた草花の匂いに包まれるとか。できるのならば、これ以上の幸せはないだろう。
しかし門番である以上は、その責務を果たさなければならないわけでして。私はその魅力的なプランを放棄せざるをえなかった。

「体でも動かすかなぁ」

突っ立っているままじゃ、体が固まって死んでしまう。
こういうときこそ魔理沙がやってきてくれたらいいのに、最近はめっきり、来る頻度が減っていた。
その理由は単純明快。門を突破するのに骨が折れるからだ。

以前私が半端物だったときは、魔理沙に弾幕ゴッコで到底適わなかった。
あの娘の弾幕技術は並の妖怪じゃ太刀打ちできない、仕方ないと慰められはするものの、門番の仕事が果たせないと憂鬱な気持ちにさせられたものだ。
人間としては嫌いではなかったけれど、できる限り、来て欲しくないとも思っていたのも事実である。
けれど今の私は、魔理沙と弾幕ゴッコをしても、それなりの戦果を挙げることができるようにはなった。
急に強くなった私に咲夜さんは首を傾げていたけれど、私はいまだに、その理由を話すことができずにいる。

生きるために、人間を食べなくてはいけなかった。

きっと咲夜さんならば、「お嬢様だって血を飲むし、そういった料理も作っているじゃないの」ときょとんとするだろう。
どうして私が、話を切り出せずにいたのかを不思議がると思う。

それは私が妖怪で、咲夜さんが私を妖怪として見ているから。
けれど、私は妖怪? 本当にそうなのだろうか?

妖怪の倫理観、人間の死生観。その狭間の中にあってなお、私は生きている。
生きているからには、どこかで折り合いをつけていかなければいけないのだということはわかっているつもりだけども。
きちんとした折り合いをつけるためには、まだまだ時間が必要なのだろうと一人門前、ため息を吐いてみる。

「まぁいいや、基本の型から流していこーっと」

頭を振ってから、一つ一つ、自分の中で確かめるように流れを作っていく。
というのも、自分のルーツを思い出してから、武術は身に付いたものを確かめるというよりも、取り出すという感覚に近くなっていたのだった。

遠い昔、武術を磨く人間を、遠目から見ていた妖怪としての記憶。自分を磨き、武術を研ぎ澄ませていった人間としての記憶。
この二つの体験の奇妙な交差は、私の中で微妙な違和感を生んでいるのだった。だというのに、体のほうが知る以前よりもずっと滑らかに動いていく。
違和感があるのに、以前よりも上手くできるというのも釈然としないのだが、いずれは慣れるだろう。多分。

小一時間ほど体も動かし、寝起きのだるさも大分マシになった。

「精が出るわね、門番の仕事もいつもこれぐらい気合を入れてくれてたらいいんだけど?」

後ろから不意にかかる声。私に気配を感じさせずに現れるだなんて、幻想郷広しと言えども……。数えてみたらいっぱいいたけれど。
親しげに、それでいてどこか棘のある話し方をする女性なんて、一人しかいない。

「いやぁ、そんなこと言われても紅魔館に喧嘩を売ってくるのなんて魔理沙ぐらいしかいませんよ」
「まぁ、ね。でも迎撃なんてさして重要なことではなくって、門番が立っていることが大事なのよ。
 そうじゃないと、紅魔館の威厳が出ないでしょう? やっぱり悪魔の屋敷なんだから、凶悪な門番が……」
「そんなに凶悪じゃありませんよぉ。酷いです咲夜さん」
「門に置くのなら、犬のほうがよっぽど可愛いじゃない。犬に比べれば美鈴は凶悪な顔をしてるわ?」
「えー、犬だったら咲夜さんのほうが犬っぽいじゃないですか。悪魔の犬とか、吸血鬼の僕だとか」
「フランドールの犬、っていい響きよね? どう? 門番から妹様専用の玩具に転職してみる?」
「いやですよぉ、私まだ死にたくないですもん」
「だったらきちんと門番することね。それじゃあ、お昼になったらちゃんと休憩とって、食事摂るのよ?」
「赤ん坊じゃないんですから、おなかが空いたら食べますよー。咲夜さんったらボケたんですか?」
「さあ、平和ボケじゃないかしら? ここって結構、のんびりとしているじゃない」
「違いありませんねー」

咲夜さんも、ここ一年で随分と性格が丸くなった。
以前は淡々と物事を進めるのを美徳としていたのか、仕事中声をかけてくれるなんてことはなかった。
それどころか、叱ることすらも必要がないと考えていたのか、辛く当たられたことも一度や二度ではない。

しかし外敵に神経を張る必要がないと判ったからか、以前閻魔に何かを言われたからか。細やかな気遣いが増えていった。
それで初めて知ったのだけど、本当は咲夜さんはとても優しい人で、あくまで冷徹でいたのは、不器用だったからということ。
人間の身で紅魔館でメイド長を張るには、並大抵の精神力では務まらなかったのだ。

初めて差し入れを持ってきてくれた日のことを、私はいまでもからかいのネタにしている。
炎天下の中で門番をしているとき、遠くから放り投げられた冷たい麦茶。
面と向かって渡すには恥ずかしかったと述懐する咲夜さんは、近年稀に見る面白さだった。

そういえば、里に買出しに出向くときも笑顔が増えたとお豆腐屋さんも言っていた。
思わず奥さんがいるのにデートに誘ったらバレて、夫婦喧嘩になったとも言っていた。浮気はいけない。
咲夜さんをそのネタでからかったら「そんなこと、多すぎていちいち覚えてない」って返された。
モテるのよふふん、と馬鹿にされたような気がしたから、マッサージを頼まれたとき思いっきり痛くしてやった。自慢するのが悪い。
その後思いっきりに反撃されたけど、ね。

「聞いてよ美鈴、さっきまた妖精メイドが壷を割ったのよ。あの子達ったら、私の目がないとやりたい放題だわ」
「絶対、いないほうが仕事はかどりますよね?」
「でもいないんじゃ、屋敷としての体裁が保てないでしょう? 言ったでしょ、何よりもそれが大事なんだって」
「わかってますよ」
「そ、わかっているならそれでいいの。完全で瀟洒に仕事をこなすメイドがいないと、お屋敷として成り立たないんだから」

笑った咲夜さんは、冷たい表情をしているときよりも少女らしくって可愛らしい。
こんな風に笑って居られる日々が、いつまでもいつまでも続けばいい。
そのためならば私は、どんな巨悪にだって立ち向かってみせる。
そんな巨悪、幻想郷にはいないんだけども。せいぜい歩く大迷惑、八雲紫ぐらいだ。

「さ、そろそろ仕事に戻るわぁ。さっさと終わらせて、仮眠を取らなくっちゃ」
「無理しないでくださいよ。人間の体って脆いんですから」
「だから壊れる前に、美鈴に労ってもらうの。うちのご主人様はわがままだから、こっちの都合なんて考えないのよ」
「まったくです。こういう日はピクニックにでも行きたいです」
「それはだめ。私たちがピクニックにでかけたとしても、美鈴は門番としてお留守番よ」
「うー。やっぱり門番辞めたいかも。妹様の玩具も絶対嫌ですけどね!」
「転職しちゃう? でも、美鈴がいないと寂しくなるわぁ……」
「咲夜さん、それ私が絶対辞めないってわかって言ってますよね?」
「もちろん。美鈴はきっと、いつまでも門の前で門番してるでしょ? それ以外の姿なんて、想像できないわ」
「まぁ、それ以外に能もないですしね」

ぷいっと顔をそむけて、抗議の意を示してみせる。

「はいはい、じゃあまた夜にでもね」
「明日かもしれませんよ」
「魔理沙がきたら、すぐに会うかも?」
「かもしれませんね」

それじゃあ、とだけ言って、咲夜さんはトランプのカード一枚残してその場から消えてしまった。
なぜいつもトランプを残していくのかと以前聞いたことがあるのだが、そっちのほうが奇術師らしいでしょ? という素っ頓狂な返事だった。
ちなみに今日のカードは、ハートのジャック。凛々しい表情で、剣を構えていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○月□日 晴れ 紅美鈴
来客あり。
霧の湖でよくふらふらしているチルノが、ミスティアやルーミアを連れ立ってやってきた。
一緒に世間話をして、それなりに楽しい時間を過ごす。咲夜さんが途中差し入れを持ってきてくれた。
チーズとハム、そしてレタスを挟んだサンドイッチは中々に好評。
ミスティアが料理を習いたいと呟いていたから、今度咲夜さんに提案してみよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「やいやい門番! 今日は絶対あんたをけっちょんけっちょんにしてやるんだから!」
「ねぇチルノ、今日はそういう目的できたんじゃないでしょ」
「ねー。チルノはすぐカッカするんだから」

ポリポリと頬を掻く私。セットで現れることは結構珍しい。
この子らに限らず、妖怪や妖精は自由気ままなもので、周りと協調してどこかへ行く、なんてことはあまりない。
何しに来たのかと彼女らに訊ねると、「暇だった」とだけ返事が返ってきた。そうだろうなぁ。
とりあえずはチルノと組み手をしたり、ミスティアの歌に感心してみたり、ルーミアが蟻を目で追いかけるのを眺めたりで時間を潰す。

知り合ってからは、暇が取れれば私のほうから積極的に屋台へ出向いている。咲夜さんと行くこともある。
ミスティアやルーミアはもちろん、色んなところから妖怪や、時には人間も紛れ込んできて、交友関係は驚くほど広がった。

自己紹介のとき、紅魔館の、と切り出すだけでなんだか居心地悪そうにする妖怪もいれば、興味深げに根掘り葉掘り聞きだそうとする妖怪も居た。
その一つ一つが私にとっては新鮮で、狭い交友範囲しか持たなかった私の世界も広がっていった。
鬱屈していた私を受け入れてくれた屋台。口に出すことはなかったけれど、屋台には第二の家のような安心感があるのだった。



「ピクニックに行こうよ!」
「あー……ごめんっ、ちょっとそれは無理かなぁ」

ミスティアの提案を、私はやんわりと断った。
そんなぁと不満を顔に出されても、急に仕事を抜けることはできないんだからしょうがない。

「いいよーここで、私、眠いし」
「ルーミアもー?」

ルーミアはわざとらしく、大きくあくびをしてみせた。
元々夜行性というのもあるのだろう、そういえば来た当初からこんな調子だったかもしれない。
でも、屋台で会うときも大抵間延びした話し方をするから、起きてるときはずっと眠いのか?

「あたい、ここで美鈴と組み手する!」
「チルノもかー。じゃあ計画はおじゃんだね」
「また今度、仕事を休めたら一緒に行こう?」
「おりゃー!」

突っ込んできたチルノ。
力の方向を少しだけずらしてやるだけで足をもつれさせて転がっていった。なむなむ。

「くっそー!」
「猪突猛進の癖を、ちょっとぐらい直しなさいってば」

苦笑する私、けれど妖精だからと片付けるには、チルノの才は惜しいものがあった。
並の妖怪ぐらいの身体能力を持っているし、弾幕の技術もそれ相応。
頭のほうも、見た目通りの幼さだけども、この負けん気があればいつかは伸びるかもしれない。

「ひぇっ!」
「せいっ」

鼻をすすりながら向かってきたのを、軽く足を払って倒してから正拳の寸止め。
チルノは一瞬だけ茫然とした表情をしてから、すぐに起き上がって胸を張った。

「ま、今日はこれぐらいにしといてやるから!」

私は知っている。組み手を挑んできた次の日は、チルノは地面に絵を描いて自分なりに研究をしていることを。
こちらが使っている拳法も見よう見まねでやろうとしているし、そこに私は、遠い日の自分を重ねてしまう。

「仲がよろしいことで」
「咲夜さん、別にサボってないですよ?」
「あら、また叱りにきたと思った? 酷いわね、そんなに怒りんぼだって思われただなんて」
「いやそんな風には、思ってませんけど……」
「聞いてミスティア、ルーミア、チルノ。美鈴が私の事を虐めるの。血も涙もない冷血メイドだーって」
「だーかーらー、違いますってばぁ。咲夜さんが優しいのはちゃんと知ってますよぉ」

そこの三人、そうなのかーって頷くなってば。
それを見て咲夜さんはニヤニヤ笑ってるし、ああもう!

「それで咲夜さん、用事はなんですか?」
「用事がなくっちゃここに来ちゃだめなのかしら? って言いたいところだけど、お昼ご飯の差し入れよ。サンドイッチ」
「おいしそーだー」

ルーミアはなぜか、地面でごろごろ転がっていた。よっぽど眠いのか、目は完全に開いていない。

「ささ、座って食べましょ? うちの庭で食べてもいいんだけど」
「ここで湖を眺めて食べましょうよ、咲夜さんも一緒にどうです?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、仕事が忙しくって」

そういって頬に手を当てる咲夜さん。やっぱり、一人で屋敷を切り盛りするのは大変なのだろう。

「パチュリー様は勝手に本を買ってくるし、魔理沙はテロ活動をするし……。
 お嬢様はお嬢様で、毎日のように宴会を開きたがるから肩がこっちゃって。
 一番大人しいのが、あの妹様だなんて前じゃ考えられなかったわ」
「はは……」

幻想郷に来てから徐々に、紅魔館の住人の性格が柔らかくなっていった。
咲夜さんは当然のこと、レミリアお嬢様も気を張る必要がなくなったのかわがまま三昧を言うようになった。
パチュリー様もロクでもない実験に興じるようになったし、フランドールお嬢様も屋敷の中をうろつくようになった。
それも全部、幻想郷が外敵に神経を張る必要もない、緩やかな暮らしができる場所だという証拠なのだけど。

「それじゃあ私は仕事に戻るわ。なんだかんだで、メイドの仕事は気に入ってるからね」
「はい、がんばってください」
「じゃあね」

今日の咲夜さんは、時を止めずに屋敷のほうへと歩いていった。
その後ろ姿が少し傾いている。どこかを痛めているのかもしれない、今夜はマッサージかな?
そう思いながら見送っていると、服の裾を引っ張られた。

「ねー美鈴ー、もう食べていい?」
「なんだか、おなか空いちゃった……」
「なのかー」

チルノは指を咥えて、ミスティアは申し訳なさそうな顔をして、ルーミアは寝そべりながら。
サンドイッチのバスケットがいつ開かれるのかを待っていた。

「……っもう」

バスケットを開けると、ハムやレタス、卵など、食べていて飽きないよう工夫の凝らされたサンドイッチが詰まっていた。
咲夜さんは一体どんな顔をして、これらを作っていたんだろう? 仕事を増やされたとぼやきながら作っていたのか。
そうならば後で労ってあげなくてはいけない。けど、そういう気回しをすると咲夜さんは機嫌を悪くするのだ。
曰く「私は当然のことをやっているだけで、特別褒められようとやっているわけじゃない」らしい。
難しい年頃だと思う。

「ところでさー美鈴。最近屋台に来るお客さんが口を揃えて言うことがあるんだ」
「ん?」
「最近、草木も眠る丑三つ時に、白い服を着た女の人が歩いているんだって。それで、こっちの姿を見つけると、手を前にして追いかけてくるんだとか」
「あたい、歯がすっごい尖がってるって聞いたよ! それで目が夜なのにこーんなに紅いんだって!」
「おーん? 私はそんなことしてないけどなぁー」
「ルーミア、あんたのことじゃないって。その女の人はもっと背が高くって、髪の毛をここらへんまで下ろしてるんだって」

ここらへんまで! とミスティアは胸元まで手を下ろした。私よりも少し短いぐらいだろうか。

「怖いよねー。美鈴も夜門番をするとかだったら気をつけてね」
「あたいだったらけっちょんけっちょんにやっつけるけどね!」
「これおいしいね」

三者三様のことを喋るから、一体どの言葉に返事をしていいのかわからなくなってしまった私は、それらの言葉に苦笑いを返した。
ひとつ、サンドイッチを口に運ぶ。
多くは望まない。こんな何気ない日々がいつまでも続いていけばいい。
ほんの小さな幸せがあるだけで、私はそれだけで生きていける。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○月△日 曇り 紅美鈴

珍しい来客。
慧音さんと妹紅さんの二人がやってくる。
明日、里へ出向くことになるため、お嬢様に休みを貰う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

割と暖かい日々が続いていたと思っていたら、太陽は厚い雲に阻まれて姿を隠してしまっていた。
この季節は三寒四温というが、季節がボケているんじゃないのか。

少し肌寒かったけれど、鍛錬しているうちに体は暖まってくれた。

「雨が降ったら……いやだなぁ」

雲の様子を見る限り、急に降り出すということはなさそう、けれど油断はできそうにはなかった。
雨になるとお嬢様たちは機嫌が悪くなるし、何より傘を差すのがめんどくさい。まだ雪のほうが幾分マシである。
でも、こういう天気のときは魔理沙が襲撃をかけてくるということもないから、そういった意味では楽ではあるのだけど。

「うー、さむさむ。暖かいお茶が飲みたいなぁ」

できれば暖かい布団に潜り込みそのまま眠りたい。こういう気分が乗らない日は怠惰に過ごしたいものなのだけど。

「お?」

到底叶わぬであろう願望を心の奥に押し込めた頃、見慣れた顔がこちらへと歩いてくるのが見えた。
どちらもアッシュブロンドの長い髪を揺らしている。見間違えるはずもない、上白沢慧音と藤原妹紅の二人だった。
彼女らとは、一年前の一件から交友を持ち、時折お互いに訪れあってお茶をしていた。紅魔館に客賓として招かれたこともある。
しかし冬は雪も積もる。仕事も増えると中々会う機会が持てなかったため、今日は久方ぶりの再会である。

こちらから手を振ると、二人も手を振って答えてくれる。
一体何の用事だろうか、世間話をしにきたのならばもっと天気のいい日を選べば良いし。



「やぁやぁ久しぶりだな」
「ひっさしぶりー」
「どうも、ご無沙汰してます」

土産だと、ふきのとうやらを押し付けてくる慧音さんと、ポケットに手を突っ込んだままニコニコ笑っている妹紅さん。
相変わらずの様子の二人で安心した。というよりも、見ないうちに以前よりも仲良くなったようにも見える。

「冬の間はなかなかこっちに出向くことができなくてー……。それはそっちも同じだろうがな」
「立て込むことも、あったしねぇ? 慧音」
「でもまぁ、これからは暖かくなりますし、私からもそちらへ出向かせてもらいますよ」

妹紅さんの言葉に、バツを悪そうにする慧音さん。やっぱりこの二人の間には何かしらあったのだろうけど、それを聞くのはまた今度にしようと思った。

「とまぁ、あまり長居をすることもできなくってな。実は今日は、頼みがあってここまできたんだ」
「頼み、ですか?」

はて、紅魔館の門番に対して人里の守護者が何を頼むと言うのだろうか?
妖怪退治であれば博麗の巫女に頼めばいいだろうし、そもそもこの二人であれば大抵の妖怪は尻尾を巻いて逃げるはず。

「ああ、お前さんには酷く辛い話になるかもしれないが、いいか?」
「? ええ、まぁ」
「人生ってのは、うまくいかないもんだよねぇ……」

妹紅さんは、何か悟ったような目で遠くを見つめている。

「実はな、亡霊が彷徨っていると、な? 話がきたんだ」
「亡霊、ですか。それなら先日、ミスティアやチルノが話してました」
「そうか、ならば話は早い。その亡霊は、お前が命を奪った子の母親だ」

母親だ、という言葉を聞いた瞬間、足元が大きく揺らいだような気がした。
一日だって、彼女らのことを忘れたことなんてない。けれどズルズルと、先延ばしにしていたとも言い切れない。

「いいか? 続けても」
「平気です、続けてください」
「なんだか顔色が悪いぞ……。無理はないと思うが」

志半ばで命を失った者が、どのような末路を辿るのか。

親より先に命を失った子は、賽の河原で、延々と石を積み上げなければならない。
誰からも送られなかった者は、川を渡るための路銀を持つことができず、死神によって三途の川へと落とされる。
三途の川を渡りきり、来世を待ち望むということができる者はそれだけで恵まれているのだ。

きっと私が死んだならば、三途の川を渡りきることはできないだろう。私はそれだけの業を背負っている。
生きるためとはいえ、幼い命を摘んでしまった。
妖怪なのだからそれは当然の生き方なのだと割り切れるほどにも、私は強くはない。
自らの罪の意識と、閻魔の裁く罪の感覚に差があるのならばあるいは……。いや、他人に逃げ道を求めて何になるのだろうか。

私は所詮、半端者なのだ。傲慢に生きることも、慎ましく生きることもできやしない。
境目で寄る瀬を求め、行ったりきたりを繰り返しているだけの愚か者だ。

「私は、彼女らを見捨てたようなものだからな。人里に住めなくなった人間がどのような末路を辿るかなんて、わかりきったことだった。
 だがな、その全てを助けられるほど、里は綺麗な場所でもない。私は、そこまで強くはないんだ。
 こんなこと、言い訳に過ぎないがな。一度でも断絶されてしまった者を、救いだすことはできなかったんだ」
「ええ……」

里に住む人間の目は、中と外とで大きく区別がなされている。
結界外から来た人間は割と受け入れられやすいけれど、妖怪と繋がりが強いものや、外へ出て行ったものへの風当たりは至極冷たい。
例を挙げるならば、咲夜さんが里で住むという選択をすることはこれからもないだろう。
慧音さんは吐き出すように言葉を続ける。

「一年前、母子がそれぞれ、妖怪の糧になった。母は野良の妖怪、そして娘は、お前さんの」
「……ええ」

言い辛いのだろう、慧音さんはふぅと大きくため息を吐いた。

「娘を探して彷徨っているんだ。それだけ無念だったんだろうな、幼い娘を残して逝ったのが。
 きっと娘に会えば、無事だったのならばそれで成仏してくれるんだろうが、そうはいかないだろう……。
 私の口から彼女に話すことができればいいんだが、私は彼女らを見捨てた身だ。いまさら白々しすぎて、顔を合わせることはできやしない」
「慧音、何度も言ってるだろ? 慧音は里を守るために精一杯やってるって、自分を責めなくたっていいじゃないか」

妹紅さんが、慧音さんの肩をぽん、ぽんと叩いた。
半獣と蓬莱人、彼女らが一体どのような人生を歩んできたのか、その茨の道程を推し量ることは、私にはできそうにはない。

「すまないな、ちょっと取り乱した。できるならばお前さんの口から直接、娘の顛末を語ってやってほしい。
 歴史を覗き見しただけの私が、関われるような問題ではないんだ、なぁ、頼めるか? 彼女の魂を、どうか救ってやってくれないか」
「ええ、私が解決しなくちゃいけないことですよね」

自分の言葉が自分の胸へと深く突き刺さる。
目を逸らし続けていたところで、何が変わるというのだろうか? たかが逃げ道が絶たれただけじゃないか。向き合えよ、卑怯者。
これは罪を糾弾する言葉か、鼓舞の言葉か。己の心の内から湧き上がる感情だというのに、それすら私には、掴めない。

「すまんな、また近いうちに里に来てくれ、今日はもう帰らなくてはならなくってな」
「そんじゃあな、また近いうちに遊びに来るよ。その時はまたもてなしてくれ」
「ええ、また」

彼女らの背中が小さくなっていく。私はそれを、ぼんやりと見つめていた。
近いうち、私の中で一つの決着がつくのだろうという予感はあるけれど、それが如何なる結果を生むのか。
不安で胸が、押し潰されそうだ。

「……ん?」

気のせい、か。門の裏に、誰かが立っていたような気がするのだけど。

「それはそうとして、お嬢様が起きたら休みの申請をしなくっちゃ、善は急げって言うし、明日にでも」

いつまでもずるずる引き延ばしていたところで事態が好転するようなことでもない。
むしろ、できる限り早く決着をつけることが、最善なのだろう。そう、最善なのだ。



雨が、降ってきた。



「明日でしょ? 行ってきたらいいじゃないの」
「はい、ありがとうございます」

お嬢様が朝食を終えてから(夜だけども)お伺いを立てると、ほんの一言で片付けられた。

「ウチの門番として、立派に務めを果たしてきなさい」
「はい」
「ああそうそう、美鈴」
「はい?」

ペコリと頭を下げ、踵を返したところで呼び止められる。

「貴女はこのまま、ウチの門番を続けるのかしら?」
「ええ、きっと私が死ぬまでは、ずっと」
「ふーん、そう。悪魔との契約は絶対よ? 終身雇用の誓約書でも今度書かせようかしら」
「それにサインをしたら、いよいよ離れられなくなりますね、それじゃあ失礼します」

再度頭を下げて、薄ぼんやりとした灯りしかない紅魔館の廊下へと出る。足元が不安だ。

「ふぅ……」

正直なところ、明日が何もない日であればどんなに幸せだったろうと、私は歩きながら思う。
いずれは向き合わなければならない、それはわかっていたことなのだけど、それがずっとこなければいいとも思っていたのだ。

私の覚悟っていうのは、結局この程度のものだったんだなぁ。

時間が経つにつれて、明日が近づくにつれて、私の中の不安は膨らんできていた。
私はどんな顔をして、子の命を奪ったことを伝えればいいのだろうか?
どんなに取り繕ったとしても、妖怪として人間を糧にしたことには変わりない。
直接彼女の命を奪った妖怪と私、その間にはどれだけの差があるのだろうか?

「何浮かない顔してるのよ、美鈴」
「……咲夜さん」
「飲も? 付き合ってよ」
「まぁ、いいですけど……」

咲夜さんの手には、紅魔館の地下で寝かされているビンテージのワイン。
お嬢様の食事のときや、催し事のときに振舞わされるものだった。

「どうせまた、一人で抱え込もうとしてるんでしょ。私ってそんなに信頼、ない?」
「いえ、そんなことはないですよ、ただ……」
「言い訳はいらないの。浮かないときにはお酒が一番、でしょ?」
「でも咲夜さん、お仕事は」
「今日は休み、たまにはそうしてもらわなくっちゃ、体がもたないもの」
「はぁ……」
「さ、行きましょ」

そういって私の手を引く咲夜さん、その手から伝わってくる、人間の体温。

「私の部屋で、いいわよね?」
「ええ、構わないです」

二人で手を繋いで歩く紅魔館の廊下は、薄暗い中にもはっきりと道が見えていた。



咲夜さんの部屋には、必要な物以外は何一つとして置かれてはいない。
年頃の女の子らしい私物なんて一切なくて、ナイフの手入れ道具と、羽ペンと小さな日記帳だけが机の上に。
彼女の私物には模様は何一つあしらわれてはいなくて、彼女がどのような人生を歩んできたかを感じさせた。
完全で瀟洒だとは言うけれど、それは誰にも隙を見せれずに生きてきた副産物ともいえる。
そう思うのは同情にしか過ぎないとわかっているし、咲夜さんはそれを求めてはいない。
けれど、私はこの部屋の内装をあるがまま受け入れることができないでいた。

「クッションとか敷いて、適当にそこに座っちゃって?」

ワインを机に置きつつ、咲夜さんはベッドへと腰掛けた。
グラスの姿は机の上に見受けることができない。

「あの、グラスは?」
「ラッパ飲み?」
「下品ですよ、それは」
「んーじゃあ美鈴持ってきてよー、私疲れちゃったもん」

そう言って咲夜さんはベッドへ寝転んでしまった。なんだか今日は、いつもと雰囲気が違うような気がする。
お酒を飲もうと誘ってきたこともそうだし、自発的に休暇を取るだなんてこと、今までではじめてのことかもしれない。
気になる。

「咲夜さん」
「わっ、何?」
「別に、なんでもないんですけどね」

気が付くと私は、咲夜さんの隣に腰掛けていた。
自分のことばかりに気がいっていたけれど、咲夜さんだって何か、悩みを抱えているのかもしれない。
そうでもなきゃ、お酒を飲もうって誘うだなんて……。
じっと表情を見ていると、咲夜さんは「何? じろじろ見て」と目を逸らしてしまった。
がんばりすぎる咲夜さんにブレーキをかけられるのは私だけだから、細かい変化を見逃さないようにしなければ。

「別に、深い意図なんてないわよ。お嬢様が一人で月光浴に出かけるって言うから」
「そうなんですか」
「そ、私がいると思いっきり飛ばせないからって。満月だからはしゃいでるのかもしれないけどね。
 ……もしかしたら、気をつかわせちゃったのかしら? なんだか今日は渋い顔してたし」
「あー……。たしかにそういうところ、あるかもしれませんね」

レミリアお嬢様は、わがまま放題し放題の暴虐妖怪、と取られがちなところがあるけれど(実際その通りではあるし)
それだけでは、他人を惹き付けることなんてできやしない。
レミリアお嬢様の行動の根底には、「今を全力で楽しむ」という一貫した理念が存在している。
月に行こうなどという荒唐無稽なことに全力を尽くすのもその表れだ。
力を持ち、齢を重ねた妖怪たちは何かを悟り、世を儚み消えてゆくものもいる。

その中で、夜の王である吸血鬼は、人間以上に人生を楽しもうとしているのだ。

そんな自由奔放さが、気難しい天才魔法使いをも客人として招き入れることに繋がったのだろうか。
私や咲夜さんのように、行き場のなかった者を手元に招き入れたのも、そういった遊び心の一つか。
数奇な運命を辿らせることで楽しんでいるのかもしれないけれど、それでも私たちは、レミリアお嬢様に感謝していた。
でなければ私は、きっと何も成すことはできずに果てていただろうし、咲夜さんも……。
少なくとも、今隣で笑っているだなんてことは、なかったはずだから。

紆余曲折を経て、私たちは今、ささやかな幸せを享受している。
それを与えてくれたのは、疑うことなくレミリアお嬢様のおかげなのだ。

「ねぇ美鈴」
「はい、なんですか?」

咲夜さんがとろんとした目をしていた。
こんなに弱弱しい表情をしている咲夜さんなんて、はじめて見た。
今夜は、はじめて尽くしだなぁ。

「例えばの話よ。私が人間を辞めて、ずっとこの紅魔館に居たいって言ったらどうする?」

例えば――咲夜さんは人間なのだから、その寿命はせいぜい五十年と少しぐらいだろう。
私やお嬢様方の過ごしてきた時間を鑑みるならば、それは遠くはない未来とも言えた。
咲夜さんが居なくなったときのことを、考えなかったことがないといえば嘘になる。
はじめてこの館に咲夜さんが来たときは、お嬢様の気まぐれもついにここまできたかと呆れたものだったし。
まさか人間が、私の中でこんなに大きな存在になるだなんて、その時は思ってもみなかった。

でも、よく考えると私は、つくづく人間に惹かれる性質なのかもしれない。

妖怪としての部分、もう私の中からは消え去ってしまった、本能と愛情が絡みついた場所。
喰らうだけの対象だったはずの人間を、心の底から愛してしまっていた哀れな心。
心に隙間風が吹いていくような心地がした。声無き声に耳を澄ましたときには、もう既に、腐って切り落とすしかなかっただなんて。

「私は、咲夜さんとずっと一緒に居られたらとっても幸せなことだと、思いますよ?」
「そっか」

咲夜さんが笑う。少女らしい屈託のない笑みで、凛々しさや冷徹さなんて欠片も存在していない。

「でも私は、人間として死ぬことを選ぶんだと思うなぁ。お嬢様や妹様や、パチュリー様や美鈴。
 ほかにも妖怪だったら、人間なんかよりもずっと長生きをするじゃない? 退屈はしないと思うんだけど……。
 でもやっぱり私は、人間として生まれたからには、人間として死にたいなって思うの」
「それは、どうしてです? 一緒に居られるのなら、そっちのほうがずっといいって思いますけど」
「さあ、どうしてかしら? 命短し恋せよ乙女、ってわけじゃないけど、私にはどうしても、長生きをする自分が思い描けないの。
 両親が居て、愛情を貰って学校に行って、普通に恋をして結婚をして。そういう普通の人生は選べなかったけど……。
 それでも今は、紅魔館のメイドとして働くのことが楽しいわ。こんなに数奇な人生を歩めるだなんて、素敵なことだもの。
 でも、私はそれで充分なの。人間としてどう楽しく生きるかだけで頭がいっぱいなのに、これ以上長くだなんて、ね?」
「そうですか……」
「変な話しちゃったね、飲も?」

次の瞬間にはテーブルにクロスが敷かれ、グラスも置かれていた。
そして涼しい顔で笑う、咲夜さん。

「咲夜さん。私はその、時間を止めて欲しくないんです。一緒に居られる時間が、短くなりますから」

そう言ったら、咲夜さんはきょとんとした顔をしてから、これ以上はないってぐらい楽しげに笑った。

「ごめんね、つい便利だからって時間を止めちゃうけど、もったいないわよね」
「ですよ。そんなことで一緒に居る時間が縮められたら、絶対許さないですよ?」
「わかったからそんな怖い顔しないでよ。飲みましょ? 今夜は色々、話したい気分なのよ。……色々聞きたい気分でも、あるし?」
「付き合いますよ。一体どこまでのことを求められているかはわかりませんけど」

なんて白々しい言葉だろう。
人の命を奪っておきながら、親しい人には長く居て欲しいというエゴは、果たして許されることなのだろうか?
その答えを、目の前でグラスを揺らしている咲夜さんへと求めるのは……。

「なぁに?」
「いえ、何も」
「言いたいことがあるのなら、はっきり言いなさいっ」
「わわっ」

抱きつかれたせいで、持っていたグラスを取り落としそうになる。
零してしまったら、今夜咲夜さんの寝る場所がなくなってしまうだけに必死だった。
咲夜さんはそんな私が面白いのか、にやけた上目遣いをしてきた。

「ねぇめーりん。ちょっと腰が痛いのよー、歳かしら?」
「あとで診てあげますから! お願いなんでそこから退いてくれませんかっ」
「んー、どうしようかしら?」

悪戯を思いついた子供のような笑顔を浮かべながら、咲夜さんは手からグラスを奪っていった。
それをどうするかと思ったら、何をするわけでもなく机に置いてしまった。
蝋燭と、差し込む月光だけの薄暗い室内で、赤紫色の液体の入ったグラスが二人居並んでいる。

「たとえば、本当にたとえばの話よ」
「はい」
「私が紅魔館を辞めて、結婚をして人間として生きていくって決めたとしたら、美鈴は応援してくれる?」
「ええ、もちろんです」
「美鈴は、ずーっと門番をしていくつもりなんでしょ?」
「そのつもりです。それ以外の生き方を私は知りませんし、一生かかっても返しきれない恩が、お嬢様にはありますから」
「そんなもの投げ捨てて、どこかで好き勝手生きてみたいって思ったりは?」
「うーん……。そんな自分が私には、想像できません」

にへら、と笑顔を作っては見るけども、私の心の中は複雑な色が渦巻いていた。

人間を守りたかった女と、人間に恋焦がれた妖怪、そして、人間としての生を諦めた少女。
彼らの想いを捨て置いて、自分勝手に生きることを私自身が許すことはできない。
紅魔館の門番を続けることは、彼らへの私なりの償いなのか。それを償いと考えることすら、私自身のエゴだろう。
かといって私には、それ以外の道を選ぶすべは、ない。
生き続け、死ぬまでその答えを探し続けるのが、私に課せられた生きる意味なのだから。

「嘘ばっかりつく口は、私は嫌いよ? 美鈴は門番の仕事が大好きだから、続けていくつもりなんでしょ?
 私がメイドの仕事がこれ以上ないくらい好きになっちゃったみたいに、まともな人間の生き方を捨てても惜しくないって思えるぐらいにね」
「そうかも、しれませんね」
「きっとそうなのよ。難しいことばっかり考えてる顔って美鈴には似合わないわよ?
 能天気に昼寝をしたり子供と遊んだり鳥に餌をやってたり、あなたのいいところってそういうところじゃないの。
 私、美鈴のそういう優しいところに、憧れてたんだから」
「咲夜さん?」
「酔ってないわよ? だって本当のことだもの。でも最近の美鈴はてんでダメね。
 気がつくと難しそうな顔をしてるし、仕事はしっかりするようになったけど眠れてるの?」
「……」

何も言い返すことができなかった。
以前は隙さえあれば門に寄りかかってシエスタをしていたのだけど、ここ一年はそれをした記憶がない。
それどころか、夜だって実際のところ、眠れていないのだ。
目を瞑れば、あの雨の日が蘇る。

手の中で消えていく体温。

強くなった雨に打たれながら掘った、一人分の墓穴。

これでまだ生きられるんだという、心の底から湧き上がる喜びの感情。

そこまでして生にしがみつきたかったか、私は。
舌を噛み切って、喉を切り裂いて、胸を突き刺して。
そうすれば今、苦しむことなんてなかったんじゃないだろうか。
こんなに辛い想いをするのなら、醜い自分を知ることになるのなら、私は消えてしまえばよかったのに!

「だから美鈴はおばかさんなのよ。自分一人で抱え込んで、傷ついて。私が何も知らないとでも思ったの?
 それとも、迷惑をかけまいとしてたのかしら? たぶん、そうなんでしょうね。美鈴って本当に、ばかなんだから。
 私たちは、紅魔館は誰も欠けずいてやっと紅魔館じゃないの。お嬢様だって、きっと同じ気持ちのはずよ。
 今夜は泣いていいから、もう自分を責め続けなくていいのよ。私たちは生きている限り、前を見なくちゃいけないんですもの」

咲夜さんの指が、そっと私の頬に触れる。そこに私の涙が伝っていくことがわかっていても、私は嗚咽と涙を止めることはできなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○月△日 雨 紅美鈴

改めて聞くと、レミリアお嬢様が咲夜さんに話したそうだ。
いい加減しゃきっとしなさい、と怒っていたのよ、と聞くと、なんだか申し訳ないような気がしてならない。
しかも聞くところによると、宴会に出向いた先でも愚痴っていたそうだ。なんということだ。

出かける前にパチュリー様とフランドールお嬢様と会う、二人連れ立って勉強をするとのことだった。
紅魔館も変わってゆく、私も、いつまでも同じ場所に踏み留まっていていいのだろうか? いやそんなわけがない。
咲夜さんから聞いた夢の話は、また別に記すこととする。不可思議な内容だった。

今日あったことも同様に、また落ち着いてから書くこととする。
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昨晩は簡単な日記をつけただけでそのまま眠ってしまった。
散々泣いたうえ、気持ちが落ち着くまで咲夜さんに背中を撫でてもらっていた。なんというか、情けない。
けれど、憑き物が落ちたように心は晴れやかだった……今日は外は雨だけども。

「さてと、まずは慧音さんのところかな」

雨だから明日だなんて延ばし延ばしにしていたら、いつのまにか決心が鈍っているだなんていうことにもなりかねない。
よし、と握り拳を作ってから部屋を出ると、向こうから珍しい二人組みが歩いてきた。
パチュリー様とフランドールお嬢様だ。パチュリー様は図書館にお引きこもりになられているし、フランドールお嬢様も地下室で篭っている。
こんな朝早くから連れ立って館の中を歩いているだなんて、今日はもしかすると槍が降るのかもしれない。グングニルとか。

「あら美鈴。こんな早くから出かけるの? しかも雨よ?」
「めーりんだ。おはよー!」
「おはようございます。パチュリー様、フランドール様。珍しい組み合わせですね」

そう言うと、パチュリー様はムッとした表情で。

「美鈴、もうちょっと言葉は選びなさい。私だって図書館から出るし、妹様だって同様なのよ」
「パチュリーが引きこもって出てこないから、お勉強教えてっていってるのにぜんぜん進まないの」
「あらら」

どうやら自分で墓穴を掘ってしまったようだ。

「……こほん。とまぁ私が妹様にね、お勉強を教えてるわけなの。
 幻想郷には弾幕ゴッコっていう便利な戦闘方法もあるし、それに則れば妹様も馴染めるでしょ?」
「でしょうね」

レミリアお嬢様がフランドールお嬢様を危険視していた理由は、その能力と、心の幼さ故の暴走だった。

外の世界、数百年前のことだが、その頃は妖怪たちの覇権争いも熾烈だった。
有力な妖怪は配下を募り、領土の取り合いに興じていた。単に暇だったのかもしれない。
そんな血風が吹き荒れる時代。
数多の妖怪、人間の下を渡り歩いた末に紅魔館へとたどり着くことができた。

妖怪同士の争いであっても、その中身は人間たちの争いと何ら変わらず、外交もなされていた。
紅魔館の主人を引き継いだときのレミリアお嬢様はまだ幼く、辛酸を舐めたことは一度や二度ではない。
そんな微妙な綱渡りをしているときに、フランドールお嬢様を前に出すわけにはいかなかった。

そして近年は人間の台頭のほうがよっぽど恐ろしい存在なっていた。
私たちも幻想入りする直前は、街から離れて住んでいる、変わり者の田舎貴族を演じていたものだ。
そうやって人の目を眩ませているのに、迂闊にフランドールお嬢様を外に出せば、ふとした拍子で吸血鬼の本性が出てしまうかもしれない。
そうなれば一巻の終わりである。
お嬢様も愛する妹を幽閉し続けるのは辛かったに違いなかったろうが、紅魔館を存続させるためには致し方のないことだったのだと聞いている。

実際のところ、レミリアお嬢様がフランドールお嬢様を幽閉することを決めたのは私が来るよりもずっと前のこと。
二人の間に何があったのかは、数百年仕えた今でも聞いていなかったし、聞き出すこともない。
ちなみに人間の力が強まってきた頃に、パチュリー様が紅魔館へと招かれることとなった。

姉としての愛や、主ゆえの苦悩がずっとレミリアお嬢様を苦しめていたに違いない。
幻想郷に来てから突拍子のないことをし始めたのも、縛り付けられていた鎖から解放されたからだろうか。
そしてその鎖は、フランドールお嬢様からも解け始めている。

「幻想郷なら八雲紫や博麗霊夢。そうじゃなくたって、化け物みたいな連中がごろごろしてるしね。
 妹様が外をほっつき歩いてても誰かが止める、大事故にはならないでしょ。ただ常識だけはきちんと学んでもらわないとね」

早口で言い切り、むふぅと満足気な表情を浮かべるパチュリー様。もしかすると、先生役を任せられたのが嬉しかったのかもしれない。
パチュリー様は表情をめったに変えない。だから冷たい人だと思われがちだけども、付き合いが長くなれば、細かい変化に気づくようになれる。
すると彼女が、実は声の調子や表情で雄弁に語る人なんだということに気づけるのだ。でも指摘すると怒る。

「ねぇ聞いてよ美鈴。お姉さまが、紅魔館の主の妹して恥ずかしくないようにーって言うんだよー。
 それには不満はないんだけど、お姉さまの妹ってことが少し恥ずかしいなぁ」
「あはは……」

フランドールお嬢様が頬を膨らませる。何気に黒い発言だったような気がしたけれど、深くは考えない。
だってフランドールお嬢様は純真無垢な笑みを浮かべながらパチュリー様の裾を引っ張っている。きっと私の耳がおかしかったのだ。
……いやこの場合、純真無垢な笑みを浮かべながら黒い言葉を吐くことについて言及すべきなのだろうか?

しかし今日の私には、大事な使命があるのだ。いつまでもモタモタしていられないのだった。

「それでは私はこのへんで、里まで行かないといけないので」
「雨なのに大変ね。本もしけっちゃうから雨なんて降らなきゃいいのに」
「雨、私も嫌いだなぁ……。だってお外に行ったら歩けなくなるんでしょ? 雨なんて降らなきゃいいのに!」
「また天気のよいときにでも、一緒にピクニックに行きましょう? 私の友人も一緒に紹介しますよ」
「本当!? わぁいめーりん大好き!!」
「……ふん、私は本読んでるほうが楽しいわ」

パチュリー様が不満げにしてるのが、私の悪戯心を刺激する。
フランドールお嬢様を抱き上げ肩車にしつつ、口を尖らせているパチュリー様にもっとも痛いであろう一言を繰り出す。

「魔理沙やアリスと一緒にどこかに行けばいいじゃないですか。同じ魔法使いなんですから」
「……あの娘たちと? あの娘たちだって大概出不精じゃないの」
「だからー、そこでパチュリー様が誘えばいいんですよ」
「いいんだよー」

肩の上からフランドールお嬢様が煽る。よく教育されている。
するとパチュリー様は、ぷいっと顔を背けてしまった。

「別に、無理してどこかに行くことに魅力なんて感じないもの」
「あらそうですか。じゃあフランドール様、今度私の友人を紹介しますね。ちょっと今日は野暮用がありますので」
「うんっ!」

フランドールお嬢様を床に降ろしてさしあげてから、ぺこりと一礼をする。二人はまた後で、とどこかへと歩いて行った。
勉強するための部屋を、レミリアお嬢様があてがったのだろう。また機会があれば、覗きに言ってもよいかもしれない。

「よしっ!」

顔を両手ではたいて、気合を入れなおす。これから私が向かうのは紛うこと無き戦場であり、お遊びで行く場所では決してないのだ。
迷いは、とうに断ち切った。いつまでも悔恨の念ばかり持ち続けていることが、死者への手向けになるのだろうか?
きっと、そうではない。どのような決断にせよ、生きている者が、生かされた者が前に進むことが、最良の選択肢なのだろうし。



慧音さんの家へと向かう足取りは、自分が思っている以上に軽かった。腹はきっと括れているはずだ。
実際に対峙したときにこのように平静を保てるかはそのときにならなくてはわからない、けれど。
口だけでなく、今なら心から向き合えるはず。せめて後悔だけは残さぬように。
雨の勢いは思ったよりも弱かった、傘を打つ音も、ぽつんぽつんとリズミカルで小気味良い。

戸口の前に立ち、呼吸を整えてからノックをする。しとしとと雨が降っているのも、今では気にならない。
少し待っていると扉が開いた。中からは見るからに寝不足の慧音さんが出てきた。

「ああ、お前さんか……。ちょっと待っててくれ、少し片付けるから」

よろよろと歩く慧音さん。なんだか、朝から押しかけたのがものすごく失礼に思えてきた。

しかし、しばらく(四半刻ほどだろうか?)待っても慧音さんは一向に出てくる気配がない。
はてこれはどうしたことかと、軒下で雨宿りをしていた私は、失礼を承知で勝手に上がらせてもらうことにした。
以前お邪魔したとき、お茶を出してもらった部屋、その襖をそっと開けると。そこには、資料の山の中で倒れている慧音さんが居た。

「ちょ、だ、大丈夫ですか?!」

資料を避けつつ抱き起こすと、なんのことはない。
慧音さんは心底気持ちよさそうに、熟睡していたのだった。



「すまん、本当にすまん!」
「いやその、私がこんな朝から押しかけたのがそもそもの原因ですしね」
「昨日は徹夜でな、満月の夜は歴史の編纂をしなければならないから……」
「ああ……。それはそれは申し訳ないことをしました、自分の都合ばかり考えていたもので……」
「いやいや、こちらから来るようにと言っていたのに眠りこけてしまうだなんて考えられないことだ。
 見苦しい姿を見せてしまった、申し訳ない」

さっきからこのようなやり取りが延々と繰り返されている。お願いだから、誰か止めてくれないかなぁと窓辺に目線を向けると。
……いやね、いつから見てたのかなぁ? 妹紅さん? ニヤけて見てないで、このループを止めて欲しいんだけど?
ほら、慧音さんはまだ気づかないで何度も頭を下げてるし、私もこの空気じゃ言い出せないから入ってきて?
私の視線には気づいてるでしょ? ウインクしなくていいんだよ?

結局妹紅さんは、たっぷり鑑賞してからようやく入ってきた。これ以上なく白々しく。



「で、だ。早速行くか?」
「あだだだだ、やめてよ慧音悪かったって」
「ええ、慧音さんにはご迷惑をおかけしますが、できるなら早く決着をつけたいと思っているので」
「そうだな、きっと彼女も、おまえさんが来るのを待っているはずだ」
「美鈴も見てないで助けてくれよ。慧音のぐりぐりって結構痛いんだよ」
「不安もありましたけど、今なら向き合えると思います。いいえ、向き合わなきゃいけないんです」
「たーすーけーてー」

慧音さんは妹紅さんを抱きかかえて、こめかみの辺りを拳でグリグリと責め立てている。
「ぐぎゃー」さっきから五月蝿いので、足で軽く小突いてやった。すると妹紅さんは、不満を頬を膨らますことで表現しはじめた。

「じゃあ私が責任を持って案内しよう。事の顛末を見守るのも、里の守護者としての役目だ」
「おっおっおぅ」

慧音さんが、膨らんだ頬をぷにぷに突っついてる。そのたびに奇声をあげる妹紅さん。シリアスな雰囲気が台無しだ。
でも……重苦しい空気のままでいるよりも、私としてはこのほうがずっと気が楽だ。
そういう気遣いを、もしかしたらしてくれたのかな? そう思って妹紅さんを見ると、ニカッと白い歯を見せて笑った。
よく、わからないや。



慧音さんの先導に、私と妹紅さんがついて歩く。目的地は、あの小さな家なのだろう。
歩いていく風景は、一年前に辿った覚えのある道筋だった。

「だから慧音はさー、気持ちの切り替えが下手なんだってば。いつもがんばろうとするから朝みたいに寝こけるんだってば」
「妹紅は意地悪だな、私が気にしてることもそうやって臆面なく言う……」
「わわっ、それが別に悪いって言うんじゃなくってさ、もうちょっと頭柔らかく生きてみてもいいんじゃないかって」
「なーんてな、この性格は生まれつきだ。それにこんな自分が気に入ってるから、変える気はないよ」
「ちぇっ、心配して損したよ。卑怯だろそういう言い方って、言い過ぎたかなって思ったじゃないか」
「妹紅はそうやってすぐ憎まれ口を叩く癖を直したらどうだ? 人にとやかく言う前に、な」
「むぅ……」

思うところがあったのか、妹紅さんは頭を掻いて何かをボヤきはじめた。
やっぱりこの二人はいいコンビだと思う。通じ合っているというか、お互いの長所短所をよく知っていて、お互いを許しあってる。
私と咲夜さんも、こんな風になれたらいいなと、しばらく夫婦漫才を聞いていた。この場合、どっちが夫なのだろう。どうでもいいか。

道の傍らには、もうつい二週間ほど前まで積もっていた雪の姿を見ることはできなくなっていた。雨もいつのまにか止んでいる。
露を浴びて瑞々しい草花が萌ゆり、新たな生命の息吹を感じさせる。とかいう詩的な感想を描けるほど、私はロマンチストではない。
今日がピクニックで来ているのならば、バスケットの中におむすびやサンドイッチを詰め込んでいるのなら……。

目的地が近づくにつれ、私の中で何かが首をもたげるような気がする。
覚悟は決めたはず、腹は括ったはずなのに何をいまさら。

「なんだ美鈴、緊張してるのか? なぁに、相手は亡霊だろ。それよりも恐ろしいのをいつも相手してるじゃないか」
「恐ろしいもの?」
「そりゃ、生きてる人間に決まってるだろ」

妹紅さんは一度遠くを見てから、こちらへと向きなおって笑った。
いつもの笑顔とは含まれているニュアンスが違うようだけども、その中身を私には窺い知ることはできなかった。

「もうじきだぞ、心の準備をしっかりな」

慧音さんはこちらに振り向くこともなく、歩を緩めずに言い歩いていく。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○月$日 雨 紅美鈴
今日は酷く感傷的で、長い日記になるだろうと思う。
一日置いてみたけれど、気持ちの整理はうまくつかない。

私が小屋の戸を開くと、青白い顔をした(亡霊だからだろうか)母親が、虚ろな目をして正座していた。
失礼ながら私は、この状態でマトモに会話できるのだろうか、と思ってしまったのだ。
「こんにちは」と声をかけると、女性はこちらを見て微笑んだ。どうやら私のことは覚えていてくれたようだった。
「以前はお世話になりました」私の言葉は一体どこまで伝わっているのか、まずは手探りでの会話だった。
その言葉に、軽く首肯をして答えてくれた彼女。後になってわかったことだが、彼女の思考能力は生前とそう劣るものではなかった。
しばらくの無言の後、「私って、死んでいるのね」と彼女が呟く。
確かめるような言葉に、私は返す言葉を上手く紡げず、頷くことで肯定の意を返した。
それに対して優しく微笑みを返してくれる。正直に白状するならば、私はここで踵を返し、逃げ出したかった。

彼女をみすみす死なせてしまったのは、妖怪を退治しなかった私のてぬかりだったし、彼女の愛する娘を手にかけたのはこの私なのだ。
いわば私が、不幸な母子の命を奪った張本人にほかならない。そうだというのに、私は白々しくも成仏するように、と説得にきている。
なんて傲慢なのだろうか。しかし私は退けなかった。その場から、一歩も退くわけにはいかなかったのだ。
傲慢であろうとも、醜くかろうとも、私は今、生きている。何人もの命、想いを背負ってだ。
ここで逃げ出すことは全ての命への冒涜であるし、奪った命から目を背けてしまえば、私はなぜ生きているのかがわからなくなる。
これが単なるエゴイストの考え方だとしても、だ。

私は何も言えずにその場に佇んでいた。その無言の時間は、私には永遠にも感じられた。
しかしあとで慧音さんたちに聞いたところによると、全てが終わるのに四半刻もかからなかったそうだ。
時間の流れというのは不思議なもので、私たちがずっと見詰め合っているときは、明らかに時間の流れが緩やかになっていた。

「あなたの娘は、私がこの手にかけました」この言葉を出すまで、何度口ごもったかわからない。
言葉を上手く紡げたという自信もない。目を合わせて言えたかといえば、それすらも曖昧だった。
ただ彼女はずっと、私のことを見ていたように思う。何も言わず。


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仕事を休んでもいい、そうお嬢様には言われたけれど、私は今日は門の前に立った。
いつまでも感傷的な気持ちに浸ってはいられないし、何よりも普通の生活に戻ることが、一番の薬だろうと思ったからだった。
今日の仕事は珍しくというわけでもないが、ぼけーっとしているだけで終わってしまった。
風呂にも入った。髪も乾かした。あとはもう、日記を書いて寝るだけである。
それが今日は、何よりも重大な仕事である。見たこと、話したこと、受け取ったことを抜けのないように思い返しつつ、筆を走らせていく。
形に残さなくてはいけない、決して忘れてはいけないのだ。この命は、私だけのものではないということを。

「ふぅ……」

一息つくと、なんだか喉が渇いてしまった。水でも飲みに行こうかしら、と考えていると、なにやらカツカツと規則正しく歩く音がする。
このような歩き方をするのは紅魔館でも一人しかいまい、けれど時計を見ても、今の時間はお嬢様のお世話をしているはずの時間帯だ。

「美鈴、ちょっといいかしら?」
「はい? どうぞ」
「失礼するわ」

扉を開けて入ってきたのは紛れもなく咲夜さんだった。
フランドールお嬢様のように、分身ができるのならば別だけど。

「今なんか失礼なこと考えたでしょ」
「いえ、そんなことはないですよ?」

うそだぁ、と咲夜さんが私のわき腹を突っついてくる。何しに来たんだろう、この人。

「ところで美鈴。急に外の空気が吸いたくなったりしない?」
「いえあんまり。日記書いてたんで」
「ふーん……。じゃあ出ましょう」
「話聞いてます?」
「いいから、部屋の中に居たら黴が生えちゃうわよ」
「昼間は外にいるんですけどねぇ」

こうなったら何を言っても無駄だと、私は観念して咲夜さんの手に引かれるまま、紅魔館を出た。
一体どこに連れて行くつもりなんだろうこの人は、思いつきかな?
雨は昼前に完全に止んでしまったけれど、十六夜に照らされている草花は水滴をつけている。
十六夜といえば咲夜さん、ひょっとしたらそういうネタ振りをされているのかもしれない。

引っ張られているうちに、いつのまにやら霧の湖までやってきていた。
咲夜さんは引っ張っていた手を離して、水辺にしゃがみこんで湖を眺めている。
私もいつまでも立っていても仕方がないと、隣に腰掛けることにするけれど、草が濡れててちょっと……。

しかし、月明かりが照らしているというのに、妖怪たちの気配を感じ取ることはできない。
昨晩が満月だったからはしゃぎすぎたんだろうか? 静謐な空気が湖には流れている。

霧の湖は、どういう原理か夜は霧が晴れている。湖面に大きく、十六夜の月が揺らめいていた。
そういえばこの国の人間たちは、満月よりもむしろ十六夜の月のように不完全な物を好むらしい。
その名を冠しているのに、咲夜さんの二つ名は完全で瀟洒、である。ああどう考えても抜けているから、ちょうどいいのか。

しばし石を投げ込んだり、何気ない話題に華を咲かせたり。
夜の散歩は楽しいものだけど、連れ出したからには何か目的があるのだろう。
咲夜さんの青い瞳が、仄かに紅い色を帯びつつあった。

「ねえ美鈴」
「はい?」
「人間を食べるって、どういう気持ち?」

咲夜さんのこの質問は普段と何ら調子が変わらなくって、まるで今日の晩御飯のメニューは?
とでも言っているような軽さだった。けれども私は、どう答えるべきかと、しばし口篭ることになる。
昼間のことが、瞼の裏に鮮明に蘇り始める。娘の末路を知れてよかった、それだけで十分だと私を許してくれた、哀しい母の姿。
私の手を握り、貴女の手にかかったのであれば、きっと三途の川を渡りきれたという慰めの言葉。

そして、貴女の中であの娘は生きているのだという、消える間際最後の言葉。

自分が生きるために命を奪ったというのに、私はなぜ許されてしまったのだろうか。
いっそのこと罵ってくれたならば楽だったのに、恨みならば、背負い込むだけでよかったのに。
それならば、背負っていける覚悟を、私は持っていたのに。

それを看破された上で、私は許されてしまったのだろう。
償いのために生きることを許されず、生きていく上で答えを探させるために許された。

未練を捨ててこの世を去る前の、最後の一刺し。
私の心臓に刺さった棘は、自分で抜くことは出来ないだろう、決して。

「美鈴ったら泣き虫なんだから。いいじゃないの、もっと気楽に生きたって。
 妖怪なんでしょ、なんで貴女ってそんなに優しいのよ。どうして人間以上に人間臭いのよ。それで損ばっかりしてるんだから本当、報われないわ。
 ま、私しか見てないんだし泣けるときに泣いときなさい。私はずっと、貴女の味方なんだから」

目の前に霞がかかって、湖の風景なんて何一つ入ってこない。
ただ、不思議と冷めている自分が、嗚咽を漏らし泣いている自分を眺めていた。



呼吸が落ち着くまで、咲夜さんはずっと私の手を握ってくれていた。小さな手から伝わる体温だけが、弱っちい私の最後の支え。
私は必要とされている、心配されている。この世界に取捨選択があるのなら、私はすんでのところで残っても良いのか。
生にしがみついているだけの醜い妖怪だとしても、命を長らえても、許されるのだろうか?

「落ち着いた?」
「落ち着きました」
「そう」

咲夜さんは十六夜の月明かりの下で柔和な笑みを讃えて、私の髪を手櫛してくれた。

「長いわ、それに綺麗で羨ましい」
「この髪も、大切な人から貰ったものなんです。いえ、この体も、この命も、生きる理由もみんな、貰いものです」
「幸せなことじゃないの」
「そうかもしれないですね」

そう、これはきっと幸せなこと。
私が代わりに運ぶことになるということは、託すに足ると思われていたってことなんだろうから。

「本当、恵まれていますよ。紅魔館で大切な仲間にも出会えましたし、幻想郷でささやかに生きることも、許された。
 これ以上の幸せを望んだら、きっと罰が当たります。優しくされてばかりで、何一つ返せてないです」

胸に手を当て、自らの心臓の音を伝える。規則的に刻むこの音が、今ここで生きている証明だった。
そして、繋ぐ手から伝わる体温が、私が必要とされている証拠。
十六夜の月が、揺らめいて今にも落ちてきそうなぐらいに間近で輝いていた。

「ねぇ、踊らない? 美鈴」
「喜んで」

私たちは月明かりの下、互いに手を取って湖へと足を踏み出した。無論空を飛んでいるのだから、濡れるわけもなく。
進んできた道程を確かめるように、私たちは一歩ずつ、一歩ずつ水面を進んでいく。
湖面には映し出されたもう一つの十六夜の月が笑っている。子供みたいに無邪気な笑みを浮かべているに違いない。
でなければ、こんなに明るく輝くわけがない。十六夜はこんなにも楽しそうに笑うのだと、私は気づかずにいた。
人を狂わせる冷笑よりも、深奥に隠された蕩けた笑みが、真に人を狂わせるというのに。
私は、目の前に在る月に狂わされていた。軽やかなステップを踏みながら、水面を舞う危ういバランス。
その手にとり、溶け合ってしまうのではないかと思うぐらいに近づいて、彼女を立てる。
誰が見ているわけでもない。唯一見物者になれたはずの空月はいまだけ、ここに在る。この手を繋いでいる。

「月は、太陽の光を浴びて夜に輝くの。幽玄に、儚くね」

悪戯っぽく笑う咲夜さん。私の頬に、白く柔らかな手が触れる。

「吸血鬼が太陽を手元に置くだなんて、不思議な話だわ」
「太陽?」
「そう、太陽だわ。だってあなたは、お日様みたいにぽかぽか暖かいもの」

買い被りですよと頭を振ると、咲夜さんは吐息を感じるぐらいに近くまで、顔を近づけてきた。
いつになく、思い詰めたような顔をしている。月光を背にして、咲夜さんの表情が儚く消えてしまいそう。

「美鈴、お願いがあるの。貴女の心の中だけに留めておいて。ずっと先のこと、私がおばあちゃんになっても紅魔館に居て、お嬢様のお世話をしていたら……。
 貴女に私の人生の幕を下ろしてもらいたい。それで貴女の血と肉の中に、私の生きた証を遺してほしい。
 私がこの世界から居なくなっても、そうすればきっと紅魔館に居られるもの。貴女と一緒に歩むことになった人たちみたいに、私のこともいつか背負ってね?」

ごめんね美鈴、と咲夜さんはぺろっと舌を出す。
私は親友からの唐突な一言に一瞬呆気に取られた、けれど思うに、咲夜さんは以前から決めていたに違いない。

「咲夜さんが、それを望むなら」

大切な人の想いを背負って歩くのは、それは誇りにもなり、生きる業ともなるだろう。
白く細い手を取って、私たちはまたどこでもなく歩き始めた。
永い夜が、明けてしまうまで。













――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
△月□日 晴れ 紅美鈴

今日は紅魔館の皆と、チルノ、ルーミア、ミスティアを交えてピクニックに出向くことになった。
フランドールお嬢様は最初は萎縮してパチュリー様の後ろから出てこなかったけれど、次第に打ち解けて弾幕ゴッコをするようになっていた。
さすがに三対一にもなると苦戦はしていたようだったけど、あんなに楽しそうなフランドールお嬢様を見たのは私ははじめてだった。
レミリアお嬢様はそんな様子を見て、感慨深げに目を細めていた。きっとこれから長い時間をかけて、歪んだ姉妹の関係も解れていくのかな。
咲夜さんが健在なうちに、ぜひそうなって欲しいと思う。

お昼は咲夜さんの作った特製のお弁当。
みんなで舌鼓を打ったけれど、レミリアお嬢様がグリンピースを残して叱られていた。
パチュリー様は人参を除けていた。
こっそりフランドールお嬢様のグリンピースを食べたのは、この日記だけの内緒にしておく。
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×月×日 晴れ 紅美鈴

咲夜さん、慧音さん、妹紅さんとで中有の道での縁日屋台を廻る。
屋台を出す彼らの顔は生き生きとしていて、地獄の罪人であるということは信じられなかった。
もしかすると、生きていた頃よりも今のほうが、彼らにとっては幸せなのかもしれないと思いつつ、わたあめを齧る。
射的で的を散々外した咲夜さんがナイフを取り出して、それを押さえるのが大変だった。
でも、楽しかった。また機会があれば四人でどこかへ行けたらいいと思う。

帰りはミスティアの屋台で一杯ひっかける。
なぜか閻魔がいた。
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□月△日 曇り 紅美鈴

今日は咲夜さんと一緒に里へと買い物へ出向く。
生活必需品を買い足し、時間もあるからと二人で里を歩いた。
途中、カキ氷ののぼりが目に入り、私は金時、咲夜さんはブルーハワイ(よくわからない)を頼んだ。

頭がキーンとなっている咲夜さんの様子が面白かったから、帰り道何度もネタにしていたら叱られる。
でも、面白かったものは仕方ないと思う。
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■月×日 晴れ 紅美鈴

里で開かれた収穫祭へとでかける。和服姿の皆さんが新鮮。
祭られている豊穣の神も、この時ばかりは神徳を感じさせていていた。
どうも冬になると彼女は暗くなるんだとか。

レミリアお嬢様が永遠亭のお姫様との丁半博打に臨み、なんだか能力の飛び交ったものすごい戦いになっていた。
でも、途中乱入したルーミアに、二人ともすっからかんにされる。
無意識って、強いね。
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×月■日 雪 紅美鈴

雪が積もった。チルノと連れの妖精が遊びにきたので一緒にかまくらを作る。
なかなかに大きなものができたなぁと感慨深くしていると、レミリアお嬢様が日傘を差してやってきた。
どうやら混ざりたかったみたいだけど、雪に反射した日光で灰になってしまったので詳しいことはわからない。
パチュリー様がなんとか蘇生させたけれども、手の平に乗るぐらいに小さくなってしまった。
一週間程度はこのままらしい。
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○月×日 曇りのち雨 紅美鈴

フランドールお嬢様が、初めて一人で外出をした日。
もう心配はいらないと、お嬢様方はおっしゃられていたけども、急に天候が崩れてしまった。
散々探し回ったが見つからず途方に暮れていると、伊吹萃香が保護してくれていた。
雨が降ってきても感情を昂ぶらせずに居られたフランドールお嬢様のことを、皆が褒めていた。
もしかするとレミリアお嬢様は、雨が降ることを知っていながら外に出させたのかもしれない。
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「ふぅ……」

日記を書き終え、私はすっかり冷えてしまった紅茶を流し込む。
今日は静かな夜だった。三日月が照らす夜を、雪がしんしんと降りしきって、彩っている。

「綺麗だなぁ」

こんな夜は、ふらりと散歩にでかけたくなるのだけども、明日も仕事があるからそういうわけにもいかない。
門番の仕事は退屈なことのほうが多いけれど、立っていなければ館の体裁が保てないじゃない、ということらしい。
私はこの門番の仕事が好きだから、それに対して不満はないのだけど。

「寝よう」

日記帳を閉じて、いつもの場所へと戻しておく。そして明日も門番の仕事をして、夜になったら日記を書いて。
こんな何気ない生活が、いつまでもいつまでも、続いていけばいい。ほんのささやかな幸せが、永遠に続けばいい。
晴れの日も、雨の日も、雪の日も、五月蝿い来客が来たり、時には何もない日があっても。
そのひとつひとつ、何気ない日々こそが大切なものだと気づけたのならば。

ふっと蝋燭の火を吹き消し、月の光と、反射する雪の明かりを頼りにベッドに潜り込む。
落ち着かないと白く塗ってもらった天井。眺めて改めて誓う。
私が死ぬまで、この魂が滅ぶまで。決して忘れることはない。

遠い昔、人間を護ると誓い妖怪と対峙した、眩い命を持った人間が居たことを。
憧れ恋焦がれ、人間になることを夢み、最後はその身を人道に堕とした妖怪が居たことを。
不幸な母子が、私が命を繋ぐことで犠牲になったこと。そして、許されてしまったことの重みを。

目にかかる銀の髪をそっと払い、私は眠りにつくのだった。










.....Next history?
初めまして、と胸に不安を抱きながら送信ボタンを押してからはや一年。思い返せばあっという間に過ぎていきました。
そんな五十作品目と一周年という区切りのいいタイミングで、暖め続けてきた物を出せて今はほっとしてる次第。
後書きを考えるのは得意じゃないんで、この辺でさっさと切り上げようと思います。

銀の糸が、いつまでも紅魔の傍にありますように。それではまた別の作品で。


※誤字随時修正中
電気羊
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コメント



0.3710簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
コメントするのが不慣れなもので、良い言葉が浮かんできませんが、
とても良かったです、と言わせて下さい。
7.100名前が無い程度の能力削除
難しいですね、他種族って。
加えて同じヒトカタをとっていると、より考えさせられます。
美鈴は東方キャラの中でも人間より人間臭い。
空しいですね・・・


あと、ルーミアww
8.100名前が無い程度の能力削除
 目から汁が出ました。
 美鈴が母親に事実を告げるシーンを敢えて日記風に書くことで、妄想が掻き立てられて。
 さらにそれに続く咲夜との会話で、美鈴が未来に背負っていくだろうものの大きさに圧倒されて。
 ラストシーンの銀の髪を手で払った美鈴に、ただただ茫然としました。
 ああもう、何を書いてもダメだ。
 とにかく感動しました。
 良いお話を読ませて頂き、ありがとうございました。
10.100煉獄削除
母親に事実をいうことになった美鈴の心の動揺と
それらを支えてくれるお嬢様や咲夜さんなど、
彼女のことをこんなにも想っているということが素敵です。
日記として綴られていることや、会話の流れと語り部としての美鈴の言葉が
とても惹きつけられました。
ラストの美鈴の銀髪も彼女の死んでも共にありたいという願いを受け入れて
今も精一杯生きているんだな……と感じもしました。
素晴らしいお話でした。
そして、完結お疲れ様でした。

重複している部分があったので報告です。
>それどころか、夜だって実際のところ、眠れていないいないのだ。
『いない』が重複してしまっています。
16.100名前が無い程度の能力削除
好し、とても好し。
19.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい読後感。
この何も考えたくなくなる感じ、大好きです。
21.100名前が無い程度の能力削除
ここまですっきりと物語を創れるのは凄いと思います、唯々見事としか言えません
23.無評価名前が無い程度の能力削除
東方創想話で一番好きな話の続編が。
本当に良いです。これからもがんばってください。
24.100名前が無い程度の能力削除
評価忘れです
28.100名前が無い程度の能力削除
こんな何気ない生活が、いつまでもいつまでも、続いていけばいい

この言葉が胸にきます。
いつまでもこんな生活が続くわけないとわかっているのに、現実に気づいてしまうと少し怖い。

だからこそ毎日を大切に。

良い話を有難うございました。
34.100名前が無い程度の能力削除
日本に於いて、食事の前に手を合わせるのは、自分の糧となる生き物達への感謝(と責任感)の念を思い起こすためだと、小さいころ親に教わった覚えがあります。
日本のアニミズムと仏教の反自我思想の混じった思考文化なのでしょうが、生きてるってのは他者だった何者かと自分の境界を絶えず食べることによって開くことであると漠然と思っておりました。
電気羊さまの描く美鈴の生き様に、そんなことを思い出しました。

作品としては、処女作よりテーマを鮮明にされていて実に美しくまとまっていると感じました。
そして、最後の地の文の破壊力は東方SS史上に残るんじゃないかと思います。
36.100名前が無い程度の能力削除
無意識な人がすでにいるせいか
>無意識って、強いね。 が少しひっかかりました
37.100名前が無い程度の能力削除
電気羊さんの一つの集大成を見たように感じました。
一年お疲れ様です。そして意欲の続く限りこれからもよろしくお願いします。
39.100ネコ輔削除
簡素なタグが何かを思わせるに充分でした。今はただ声にならない想いが募っています。
デビュー作と同じく日記を使った構成に、作者様の思い入れが窺えました。違うかなぁ?
最後にただただ日記が流れるシーンで、さて、どれほどの歳月が流れたことでしょう。
我々人間には歩めない道の向こう側を見たような気がします。上手く言葉に出来ませんがこれだけは言えます。
とても面白かったです。
40.10011削除
いいね
なんというか、やっぱり羊さんの描く幻想郷はいいね
42.100名前が無い程度の能力削除
やはりあなたが好きだ
44.100名前が無い程度の能力削除
いろいろ書こうと思ったけど、一言
泣いた
45.100名前が無い程度の能力削除
なんだろう・・・確かに何かが込み上げてくるのに、
それが多すぎて、また強すぎて、
言葉にできないというか、あるいは言葉にする気にならないというか・・・
なので、ただ一言。

素晴らしいお話を、ありがとうございました。
48.100名前が無い程度の能力削除
この作品を読めて良かった。
咲夜さんはずっと紅魔館に居続けられるんですね。
よかった。
50.無評価名前が無い程度の能力削除
>こんな風に笑って居られる日々が、いつまでもいつまでも続けばいい。そのを守るためならば私は、どんな巨悪にでも立ち向かってみせる。

その日々を守るため、それを守るため、のどちらかの間違いでしょうか?
51.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい作品でした
ありがとうございます
これ以外に言葉が見当たらないです
58.100名前が無い程度の能力削除
あああああどうしよう目から汗が。。。
素晴らしい作品です、切ないけれど得るものがあって。
ありがとうございます・・
60.100名前が無い程度の能力削除
日々が綴られていく描写だけで涙しそうになりました。
良い世界ですね。
65.100名前が無い程度の能力削除
ラストあたりで鳥肌が……
70.100名前が無い程度の能力削除
もう何を書いても嘘らしくなってしまう…
ラストに出た銀の髪
「日記」に「彼女」が出てこなくなってからどれだけ時間が過ぎたのでしょう…
ただただ幸せに、とそんな陳腐な言葉しか出てきません…
71.100名前が無い程度の能力削除
ラスト泣けます
76.100名前が無い程度の能力削除
最高だ
77.100名前が無い程度の能力削除
最後で頭をぶん殴られた気分で、日記を何回も読み返しました
78.100名前が無い程度の能力削除
ただ一言……泣けたっ!!
80.100名前が無い程度の能力削除
非常に完成度が高いと思わされた。
素晴らしいラストでした。


一点だけ気になった個所が。
丁半博打に参戦したルーミアに対し、無意識って強いね、とはどういうことなのでしょうか?
101.100名前が無い程度の能力削除
今さらだけれども勢いでコメント。
すごくよかった。
最後の日記で妖怪や妖精しか出ないことから時間経ってる?と思った先の銀の髪の表現がすごくいいです。
日記の複線がいい切なさを演出してますね。
この美鈴は紅も背負った銀(イン) 美鈴だな。
104.100名前が無い程度の能力削除
素晴らし流れとラスト
105.100名前が無い程度の能力削除
過去から未来へ大きく時をまたぐ物語として、スッとどこか胸にくる幕のおろし方。
また、彼女の面影の表現が髪の色に絞られているのが印象的です。
読み終わった後とても良い意味でしばらく言葉を失いました。
ありがとうございました。