Coolier - 新生・東方創想話

新・秘封倶楽部! 番外編1 知識の森の見る夢は?

2009/04/05 21:01:26
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*この話は第6話に当たります。今回は読みきりです。
*1話~3話(作品集72にあります)及び4、5話(この作品集の下の方)を読でいるとより判りやすいです。
*舞台はここではない現代日本です。弾幕はありません。少しファンタジーっぽい要素が出てきます。
*秘封倶楽部の2人にはあまり出番の無いお話です。
*今回は、霊夢が出ませんので、視点が変わります
*それでも構わない、尚且つ、時間を潰す覚悟と余裕のあるお方がいれば、読んでくださると幸いです。
*ちなみに、『後書き』長めです。















 彼女は混乱していた。新しく出来た友人と入った喫茶店で、読んだ本の感想を言い合っていただけのはず。そこに突然現れた、友人の知人で、彼女のクラスメイト。彼女に連れられて学校の図書館に来たはずだった。今も彼女たちは図書館にいる。だがそこは、学校の図書館ではない。見渡す限り棚、棚、棚。まさに無限の迷路に迷い込んだようだった。

「そっか、これは夢ね?もう、私ったら。きっと、昨日寝る前に読んだファンタジー小説の夢を見てるのよ。お~い、現実世界の私~!目を覚ましなさ~い!」
「何やってるんだろうなあいつ」
「さぁ?常識人みたいだし、この現実を受け入れられないんでしょう」

 青空の下、何処までも広がる本棚のジャングルに叫ぶ少女を、哀れみの視線で見る少女が二人。直球少女・霧雨魔理沙と、先日の吸血鬼騒動の元となった紅魔館の住人、1-Bのパチュリー・ノーレッジである。魔理沙はまだ何か騒いでいる少女を見ているが、パチュリーは適当に本を見繕って、なぜか設置されていた椅子に座り込んでいた。

「可哀相だな」
「可哀相ね」
「五月蝿いわねっ!起きようとしてるんだから静かにしてっ!」
「それでいいなら目覚まし時計業界は壊滅だな」
「それに、あなたが一番五月蝿いわ。ここも図書室なんだから静になさいな」

 冷静な突っ込みに、「あ~、もう!」と綺麗な金髪を掻き毟る少女。妙に落ち着いている2人に不満げだ。

「なんでそんなに落ち着いてられるのよ?!」
「そりゃ、予想通りの展開だし、似たような状況の経験があるからな」
「はぁ?」
「状況は違うけど、原因は同じでしょうからね。とりあえず、落ち着きなさいアリス」

 彼女の名前はアリス・マーガトロイド。入学式の日に、偶然にも魔理沙の隣に腰掛けてしまった、人形集めが趣味の、不幸な読書好き留学生である。留学の経緯についてだが、簡単に言えば、日本の文化、文学に興味があったから。そのきっかけが青銅の聖戦士たちだというのは、瑣末な事だ。中学の時に学園に留学し、しばらく友人らしい友人も出来なかったのだが、高校に入り、読書と言う共通の趣味を持つ留学生・パチュリーと出会い、彼女と友好を暖めるようになった。彼女のパチュリーへの印象は、『何事にも動じない』と言うものだ。それにしたってこの状況でも動じないと言うのは信じられない。
 それに、信じられないと言えばもう一人の少女もそうだ。この2週間隣で過ごして『とにかく騒がしい少女』だと言う事が良くわかっていた。そんな彼女ですらこの状況で、自分とは違い落ち着き払っている。そのことが余計に彼女を混乱させていた。

「似たような状況って、何?」
「あ~、それはだなぁ……おい、パチュリーどうやって説明すりゃ良いんだ?」
「消極的に話の内容を理解してもらう方法、どこかに載ってないかしら」
「役に立たんやっちゃな。とりあえず、ここは不思議空間だ。それでいいか?」
「そう、よくある不思議空間の一つよ」
「それで納得しろって言うのあなたたち?」

 何でも不思議をつければいいというものではない。それで納得できるのは未来の海賊王だけだ。どう見ても納得していないアリスに、パチュリーがボソッと尋ねる。

「じゃあ、あなたならここをどんな空間だと説明するのかしら?」
「それは……」

 強引に図書室に誘われた。壁に魔理沙が突っ込んだ。ぶつかると思ったらすり抜けて、急に眩暈がした。眼が覚めたら無限に広がる大図書館にいた。ここはどんな空間と言えるだろうか?つまるところ、

「……不思議な場所」
「でしょう?目の前で起きた事実を、まずは事実として認識しないと始まらないわ」
「というわけで、今わかってることから整理してこうか。まず、どうやって来たかだけど」
「「あなたに拉致られて来た」」
「それじゃ、私が無理やり連れてきたみたいじゃないか」
「あれが無理やりじゃなければ、この世に強制収容所は存在しなかったわよ」

 30分ほど前の事を思い出す。文庫本片手にアリスと2人、カフェで話をしていた。そこに声をかけてきた人物がいた。

「よぉパチュリー!それにアリスもか。丁度良かった、図書館行くぞ!」
「急に来て何を勝手な、って、わわっ!」
「わ、私もっ?!」

 そうして手を引かれてきたのは図書館最奥部の壁の前。ニシシと笑った魔理沙が手を握ったまま壁に突っ込んだのだ。

「私にはコツって言うのは良くわからんが、パチュリーがいれば大丈夫だろ。そんじゃ、前進あるのみだぜ!」
「ちょっ?!」
「あなた、何を言って、むきゅ~~!」

 彼女が最後に見たのは、迫ってくる『死ねばいいのに』の文字だった。

「まぁ、いいじゃないか。結果的に未知の世界に来れたんだから」
「未知の世界って言うのはね、生還しないと既知の世界にはなってくれないのよ?」
「帰り方が判れば万事問題ないってことじゃないか」
「ちょっと待って。さっきから聞いてると、まるで帰り方が判らないと言ってるように聞こえるんだけど、私の気のせいよね?」

 2人の会話に、片手でこめかみを抑えながらアリスが割って入る。

「初めて来たのに帰り方なんかわかるわけないじゃないか」

 何言ってんだお前?と言わんばかりの言い方である。

「そんなところに私たちを連れてきたの?!」
「あぁ、帰り道を探すのが楽になりそうだからな」
「最早返す言葉もないし、状況の整理の方が大事だわ」

 パチュリーは既に達観している。彼女自身、魔理沙の行動を理不尽には思っているが、それを追求した所で現状は何も変わらないことがわかっているのだろう。本棚を物色しながら、言葉を続ける。

「ここがどんな場所かは良くわからないけれど、本読みにとって素晴らしい場所であるのは確かね。これを見て」

 そう言って本を数冊机の上に並べる。

「何、この新世界の神様?」
「太宰の『人間失格』新装版ね。こっちはこの間出たラノベの最終巻で、これはイザ×ディア本」
「貸して頂戴」

 アリスはそう言ってその中の1冊を手に取る。魔理沙はそんな彼女は見ないことにして、机に並べられた他の本を見る。

「比べるとこっちは古いな。どう見ても日本語なのに、全く読めないぜ。それに何語かもわからん本に、こっちの本は、紙なのかこれ?」
「羊皮紙、と言う奴でしょうね。これは多分『グーテンベルク聖書』。550年前の、世界初の活版印刷本だわ」
「な、本物なの?!」

 いつの間にかこちらの世界に戻ってきたアリスが驚嘆の声を上げた。

「さぁ?私に真贋の鑑定は出来ないわ。ただ、42行のラテン語の聖書と言えば『グーテンベルク聖書』しか思いつかないわね」
「それを思いつくお前が凄いと思うけどな」
「ただの雑学よ。ただ、これらからわかることがあるわ。この図書館には、」
「古今東西のあらゆる本がある、ってことね」

 そう、とパチュリーが頷く。

「最古の活版印刷に、日本語、外語、新刊、同人誌までとなると、棚がいくらあっても足りないだろうな。その結果がこれなワケか」

 そう言って、見渡す限り続く本棚のジャングルを見やる魔理沙。人の何倍もの高さを誇る本棚が、地平線の彼方まで続いているように見える。ただ、いくつかの通路があるようで、ところどころ切れ目のような物も見えた。

「死ぬまで退屈しないで済みそうだけれど」
「食料がないから1週間もあれば死ねそうだな」
「最初に死んだ人が食料ね」
「恐い事言うなお前……」
「本音を言えば、今すぐここであなたをぶん殴りたい所だけどね。私だって『ひかりごけ』みたいな真似は御免よ。そうならないためにも、さっさと出る方法を探しましょう。ここでじっとしていても何も変わらないでしょうし」
「だな。この状況でバラけるわけにもいかないし、皆で歩くしかないか」
「無計画な行動っていうのは好きじゃないけれど、計画が立てられる状況でもないし」

 魔理沙を一睨みした後、今後の方針について述べるアリス。他の2人も反対はしなかった。そうして、歩き始めること数分、あっさりと状況の変化は訪れた。

「ドア、だな」
「ドアね」
「『Paracelsus』……『パラケルススの間』と言った所かしら?ファンタジーね」
「ファンタジーなのか?というか、現状が既にファンタジーだと思うけどな」

 ドアの上についているプレートを読み上げ感想を述べたパチュリーに、魔理沙が不思議そうな顔で尋ねた。が、逆にアリスはそれを知らない魔理沙に驚いたようだ。信じられないようなものを見る顔で疑問符を連発する。

「有名な錬金術師よ?日本人なのに知らないの?ゲームとかアニメによく出るじゃない。ハガ○ン見てないの!?信じられない!」
「私には、お前の日本観の方が信じられないぜ」

 言外に『日本人じゃない』と言われた気がしたが、魔理沙からすればアリスのほうが余程おかしい。物静かで、文学を愛する少女だとばかり思っていたが、認識を改める必要が出てきたようだ。そんなことはどうでもいい、と言った感じで、メンドクサそうにパチュリーが2人に尋ねた。

「で、どうするの?」
「手がかりが無い以上、開けて見るしかないんじゃないのか?」
「魔理沙が開けなさいよ?何かあったら私は逃げるから」
「わかったよ」
「え?」

 ガチャ
 何の躊躇いもなくドアを開く魔理沙に、逆にアリスが驚いた。ドアの先に広がるのは、まるで宇宙空間のような部屋だった。あまり広くはない部屋で、奥には地上が描かれた画、星空だけの画、何も描かれていない画が立てかけてある。そして、それぞれの絵の下には何も書かれていないプレートが置かれていた。

「なんじゃこりゃ?」
「さぁ、パラケルススに関係ある何かじゃないの?」
「それが私たちに関係あるかどうかが問題よね。他には何も置いてないみたいだけど」

 そうして考え込む3人。だが、そこに予期せぬ第3者の声が響いてきた。

「汝、世界に対応する物を書け。さすれば新たな扉が開かれん」
「え、何この声?」

 キョロキョロとあたりを見渡しても、自分たち3人以外には誰もいない。

「何処から喋ってるのかしら?こっちの声も聞こえるかしらね?」
「試してみるか。おい、お前!」
「……」

 突然の声に驚いた物の、パチュリーの提案を受けて魔理沙が天井に向かって叫んだ。しかし、返事はない。だが、さらに叫んだところ、

「声が可愛すぎて喋り方があってないぜ!」
「ほっといてください!って、しまった!」

 今度は返事があった。可愛らしい、か○いみかのような声で。どうやら、姿は見えなくともやり取りは出来るようだ。魔理沙に続き、今度はパチュリーが声を上げる。

「あなた、ここの司書さんか何かかしら?ならここから出して欲しいんだけれど」
「汝、世界に対応」
「それはいいから」
「いや、良くないですよぅ!いきなりここに入ってきたくせに」
「それはこっちの人間災害が謝罪するから、私たちだけでも出して頂戴」
「おま、見捨てるのか?!」
「ダ~メ~で~す~。久々のお客さんだから私も遊びたいんですよぅ。だから、これはゲームなんです」
「げーむ?」
「そうです。これから私がいくつかクイズを出しますから、それを全部解けたらここから出してあげます♪」
「これが第1問ってわけ?」
「はい♪」

 パチュリーが2人の方を見る。心なしか、その目は興奮しているように見えた。

「やるわよ、2人とも」
「お、なんか燃えてないかお前?」
「折角ですもの。楽しむことにするわ。それよりもあなた!」
「なんでしょう?」
「私たちが出る前に、顔を見せなさい」
「へ?」
「あなたがどんな人か、興味があるわ」
「……」
「いいわね?それじゃ、まずは情報収集といきましょう」
「情報収集?」
「そう。パラケルススについて書いてある本を探すのよ。きっと答えがあるわ」
「探すったって、あの中からか?」

 そう言って魔理沙は部屋の外を指差す。外には先ほど同様、本棚のジャングルが広がっていた。だが、パチュリーは表情を変えずに言う。

「相手が何問かクイズを出すゲームと言っているのだもの。余程性格が歪んでない限り、何十時間も解けないのを見ていても面白くはないでしょう。きっとヒントは近くに置いてある筈よ」
「私がその変質者だったり、そもそも、あなた方と時間軸が違うような、何百年も生きるような存在だったリしたらどうするんです?私にとって、1年は瞬間かもしれませんよ?」
「そのときは素直に諦めるしかないわね。皆時計はあるわね?それじゃ、30分後にこの部屋の前に集まりましょう」

 声の言う事を意にも介さず、さっさとパチュリーは役割を決めて部屋から出て行ってしまった。魔理沙やアリスもそれに続いて部屋を出て行く。そして、部屋を出てからアリスが尋ねた。

「あなたのこと、司書さんって呼んでもいいかしら?」
「それは別に構いませんよぅ」

 返事が自分の上から返ってきたのを聞いて、アリスが神妙に頷いた。

「なるほど、部屋の中に隠れているわけじゃなさそうね?所謂神様視点、ってやつか」
「ぎくっ!」
「ふふっ、それじゃ私もパチュリーに負けないように頑張りますか」










 30分後。3人がそれぞれ本を手に戻ってきた。

「ほんとに、近くにあったな。これ、著書の現代語訳」
「私は関係ありそうな自然神秘思想本や、百科事典。パチュリーは?」
「ラテン語辞典」
「確かに、必要そうね」
「んじゃ、手分けして手がかりを探そうか」
「そうね」

 そうして皆で読書に励むこと数分、意外と早くアリスが手がかりを見つけた。読んでいたページが2人にも見えるように、テーブルの真ん中に広げる。

「これじゃない?マクロコスモスとミクロコスモス。それぞれが3つの世界で構成されてるらしいわ」
「『地上世界』、『星の世界』、それと、目に見ることの出来ない『霊界』。なるほど、さっきの画はこれっぽいな」
「それに対応する物はそれぞれ『身体』、『精気』、『魂』ね。あとは……」

 そうして部屋に戻り、辞書を片手にペンでさらさらと。最後の一文字を書き終えた所で、司書の声が聞こえてきた。

「正解でぇす。別に日本語で書いてくれても良かったんですけどね」
「そうなの?」
「はい。ぶっちゃけラテン語まだ読めないんで。寧ろそれ以前に、ここからじゃ文字が読めません」

 その一言で3人が器用にその場でずっこけた。

「じゃ、なんで正解だってわかるんだよ?」
「いや、さっきの会話で」
「なら、その場で正解にしてくれても良かったじゃないの」
「そこは美学の問題です。大体、百科辞典で答え見つけた瞬間に『正解で~す!』って言われて嬉しいですか?」
「「「……」」」

 しばしの間のあと、アリスが答える。

「まぁ、微妙よね」
「でしょう?ちゃんとすっきり書き終えてからの方が嬉しいでしょう?これは私なりのサービスです」
「なら、ここから出してくれるのが1番のサービスなのだけど」
「それはダメ」

 パチュリーのお願いは却下らしい。特に部屋の様子が変わったり、新たな扉が現れたりはしていない。どうやらもう少し楽しませないといけないようだ。仕方無しに魔理沙が尋ねる。

「まぁいいや。次はなんだ?」
「そうですね……何がいいだろ?」
「ぅおい!考えてないのかよ!?」
「はわわ、だって皆さん見るのに夢中で。ちょっと待ってください、今考えますから!」

 そう言うと、ウンウンと唸り始めた。そんな司書の様子を察して、パチュリーが溜息をつきながら問いかける。

「あなた、その調子で何問もクイズ出せるわけ?」
「だから、待ってくださいってば!えっと、え~っと~!ぱ、」
「「「ぱ?」」」
「パンはパンでも空飛ぶパンってな~んだっ?」

 司書は時が止まる魔法を使った!魔理沙たちは動けない!

(おい、これは素直に答えていいのか?)
(待ちなさい、何かの罠かもしれないわ)
「いや、どう考えても苦し紛れの一言でしょう」
「「ですよね~」」

 再び時間が動き出し、魔理沙とアリスは裏を勘繰って小声で話したが、パチュリーはそんな2人にツッコミを入れた。そのツッコミに2人もすぐに姿勢を戻し、そして3人一緒に、生暖かい笑顔で答えを告げた。

「「「フライパン」」」
「あ~っ!馬鹿にしてますね!?」
「いや、だってお前」
「それはクイズじゃなくて謎々でしょう?」
「こんなのに何問も付き合ってられないわ。いいから、顔を見せて頂戴」
「あわわ、まだ開けちゃ」

 そう言ってパチュリーが部屋の扉を開くと、そこには先ほどまでとは違う景色が広がっていた。

「これは……」
「綺麗……」
「凄いな……」

 思わず3人とも言葉を失ってしまう。先ほどまでの、青空の下何処まで広がる本棚のジャングルではない。端っこに樹が一本。その木陰に本棚が一つあり、小さな噴水が部屋の真ん中で心地よい水音を立てている。そのすぐ傍らにランプの載ったテーブルと椅子が数脚あるだけの10畳ほどの部屋。それがまるで星空のような空間の中に浮かんでいた。
 そして噴水の所で、腰まで伸びる赤茶色の髪をした小柄な少女が一人、あたふたと手をばたつかせていた。150cm程しかないパチュリーよりも、更に小柄な少女。その少女にアリスが声をかける。

「あなたが、司書さん?」
「え、あ、そのぅ」
「あなた、名前は?」

 どうやら彼女が先ほどの声の主のようだ。しどろもどろになる少女に、パチュリーが今度は名前を尋ねる。だが、帰ってきたのは意外な答えだった。

「あり、ません」
「無いって、名前が無いのか?」

 その返答に魔理沙を初め、皆も一様に驚いた。その言葉に、タダでさえ小柄な身体を、更にシュンと縮めてしまった。

「私は、気付いたらここにいましたから。多分人間じゃないんでしょうね。神様でも無さそうだし、悪魔にしてはみみっちいし……小悪魔って所でしょうか?どのみち、他人がいないから、名前は要らないんですよ」

 そう呟く彼女の顔はとても寂しげだった。が、2,3度顔を振って、気を取り直したのか笑顔を浮かべた。そんな彼女にまたパチュリーが尋ねる。

「ここは一体何処なの?」
「わからない、としか言えません。私は『無限図書館』って呼んでます。ここは、多分その司書室です」
「あなたは、ずっとここに?」
「はい。ここから出たことは無いです」
「出たこと無いって、それでどうやって暮らしてるんだ?」
「それはですね、」

 そういうと、小悪魔と名乗った少女は樹の側へと歩いていく。そして、樹の幹に触れると、不意に木が光を放った。

「きゃっ!」
「ななっ?!」
「わぁ♪」

 すぐに光は収まったが、いつの間にか少女の手には果物が握られていた。それを見てまたもや皆が目を丸くする。

「こういうことです。水もありますから、食事には困らないんです。それに、」

 今度は本棚の方へと歩き出す。しかし本棚には、背表紙に何も書いていない本が並んでいるだけ。そのうちの一冊に手をかけ、小悪魔が3人の方を見る。

「何か、ご希望の本はございますか?」
「へ?」
「何でもいいですよ?」
「じゃあ、今日発売の『ジャ○プ』」
「今月の『コ○プA』」
「『罪と×』」
「かしこまりました」

 そう言って、彼女が本棚から本を取ると、3人が頼んだ本が次々と出てきた。最早目を丸くするのも疲れてくる。3人がそれを受け取って、パラパラとめくると、紛れも無く本物だった。

「な、なんで?」
「さぁ?それはわかりません。でも、読みたい本を『無限図書館』から取り出せるんです。だから、ここから出たことが無いんです。わざわざ外の世界に行かなくても、ここにいれば、無限の時間を潰せますから。きっとこれからも、私はここで本を読んでるんでしょう」

 片手に本を握り締めた小悪魔が、今度は目を閉じてもう片方の手をドアへかざした。すると、ドア全体が柔らかな光を放った。

「これで、外に出れますよ」
「そうなの?」
「はい」

 そう言うと、小悪魔はテーブルの方へと歩いていく。

「そう」

 背を向ける小悪魔にそう返事をして、パチュリーはさっさとドアの方へと向かった。互いの顔を見合わせた後、魔理沙とアリスも踵を返す。いざ、ドアに手をかけようというときになって、パチュリーがピタリと足を止めた。

「そう言えば、こぁに聞きたいことがあったわ」
「こ、こぁ?もしかして、私のことですか?」

 パチュリーが振り向くと、彼女も振り向いて、目を丸くして突っ立っている。

「えぇ、『司書』って呼ぶのも他人行儀だし、クリスチャンが『悪魔』って呼ぶわけにもいかないでしょう?」
「確かにそうね。私も『今度』からそう呼ぶわ」
「私はクリスチャンじゃないけど、折角だからあだ名で呼ぶか」
「私に、あだ名?」

 人に呼ばれたことすらない自分にあだ名?呆然とする小悪魔に、パチュリーが先ほどしようとした質問をする。

「それで、この本は何時までに返せばいいのかしら?」
「え?」
「そういや、返却期限聞いてなかったな」
「今日明日には返すつもりだったけど、今度小説とか借りた時のために聞いておきたいわね」
「え?え?」
「普通あるでしょう?返却期限」

 目をぱちくりさせる彼女に、パチュリーたちが尋ねた。

「また、来て、くれるんですか?」

 信じられないようなものを見ている、といった様子の小悪魔に、パチュリーが眉をひそめる。

「来なきゃ返せないでしょう?それとも、借りっぱなしで返さないような女に見えるの?」

 魔理沙とアリスが笑顔を浮かべて、パチュリーに続けた。

「全くだぜ。それに、ここならレポート書くのも楽そうだ」
「静かで周りの景色も綺麗だし、水も食べ物もあるなら本読むのには最高の環境だしね」
「でも、ここ、ワケわかんないところだし、それに、私、人間じゃ」

 目を潤ませ、どもる小悪魔に、パチュリーが溜息をつきながら問いかける。

「あなた、本は好き?」
「へ?それは、好きですけど」

 突然の質問に、怪訝な顔を浮かべる小悪魔。だが、それを意に介さず、パチュリーは自分の言葉を続けた。

「『本が好きな人に悪い人はいない』。私の持論。人種や種族の差など、文字の中に広がる世界の広大さに比べれば些細な物だわ」
「同感だな。私も好きだし」
「胡散臭くなるから魔理沙は黙ってなさいよ」
「酷いぜアリス」

 憎まれ口を叩きながらも、2人は楽しそうに笑っている。そんな2人の様子を見て、パチュリーも柔和な笑みを浮かべた。

「本好きは本好き同士、それだけで会話が成り立つしね。同じ本好き同士、これからも仲良くしましょう?」
「う、あ……っ」

 数えようとしたことも無い、長い長い孤独な時間。本と同様、冷たく、ただ積み上げられていくだけの時間。暖かい声が、積み重ねられていくはずの時間を取り払っていく。うつむく彼女の足元には、ぽたぽたと雫が零れていた。その様子をみて、小さく笑みを浮かべ、パチュリーはドアの方へと向きなおった。他の2人も、同じように彼女に背を向ける。

「それじゃ、今日は帰るわね」

 小悪魔は、何度目を擦っても零れ続ける涙を、必死に拭って前を向き、声を絞り出した。

「貸し、出しは、ぐすっ、1週間、ですから!」
「了解だぜ」
「わかった」
「覚えておくわ」

 そう返事をし、3人は笑顔を浮かべて振り返る。

「またね」「またな」「また明日」
「はいっ!」

 こぁは、涙を拭うことは諦めて、もう一度振り返った3人に精一杯の笑顔を返す。握り締めた本から、今まで感じたことの無い暖かさが伝わってくるような感じがした。










 扉が淡い光を放ち、今日もお客さんが来る。

「あっ、みなさんいらっしゃい!」
「あ~、○×新聞の縮刷版って、ありますかね?」
「あと、教科書ある?重いから持って帰るの面倒でさ」
「それと、これの続きもお願い。面白いからすぐ読んじゃった」
「お姉さま、ここ、漫画も置いてるのかな?」
「それは彼女に聞きなさいな」
「慌てなくっても、ここには何でも揃ってますよ。なんて言ったってここは、」

 どんな本でも置いてある、ここじゃないどこか。皆が笑顔になれる、とても素敵な

「『夢幻図書館』ですから♪」










 毎日訪れる学生を、今日も素敵な笑顔で、可愛い司書さんが迎えてくれる。
 気付けば6作目になりました。シリーズを通して読んでくださっている皆様m(_ _)m初めての方、初めましてRと言います。少し間が空いたのは、7話に手間取ったからです。何せ、最初は短編の予定だったのでプロットとか何も無いのですよ。その所為で考える時間がかかってしまいました。

 作者側がそれを気にし始めたら終わりなのでしょうが、やっぱり点数とコメ数は気になります。読んでくれている人の数をダイレクトに示してくれるわけですから、高く、多くついてるほうが嬉しいわけです。3000点超えてるような人とか、評価数が50を超えてる人とか、やっぱり羨ましいわけです。下の方にある、デビュー作から4000点超えとか凄いと思います。どうすればそんな風に皆が読んでくれるんでしょう……面白いのを書け。コンマ1秒でFAでした。

 じゃ、作品の方の後書き、と見せかけてシリーズについて少し。この作品『まず隗より始めよ』とありますが、実は2番煎じです。自分が『学園モノ読みたいなぁ』と思うきっかけになった作品が作品集47にあります。暇人KZ様の『霊夢と胡蝶の夢』です。余程印象が強かったのか、吸血鬼事件の前編で、自分でも全く気付かないうちに、他人から見たら丸パクリに見えるような文章(魔理沙と文のパンネタ)を書いてしまっていました。指摘されてから読み直して首吊りたくなりました。後への伏線も兼ねたネタで書いたつもりだったのにorz次のシリーズが終わり次第修正しようと思っています。

 で、今度こそ後書きです。長いですね。ブログ持ってればそっちに書くんですけど。え~、前回存在感の薄かったパチュリーさんメインのお話です。そして、次の話から無理なくアリスが出てこれるようにアリスを少し出しました。そのためだけの話です。が、意外にちゃんと……自分で言うな、と。

 今回の話ですが、いくつかイメージした物があります。実際の図書館ステージは当然なんですが、けど、暗いじゃないですか。今回序盤のイメージはどちらかと言うと、『ネギ○』の図書館島をイメージしてます。そして、話としては文学はもちろんですが、『魔○偵ロキ』の図書館の話をモチーフにしている部分があります。
 逆に、司書室は暗くて寂しい、それでいて幻想的な感じ。イメージしたのは英○伝説Ⅵ『空○軌跡3rd』の隠者の庭園と、『クロノ○リガー』の時の最果てです。実際、終盤を書く時はBGMに『時の最果て』を聞いていました。いい曲ですよね、あれ。聞ける人は聞きながら読んでくださると、作者の書ききれなかったこぁの寂しさが判るかもしれません。実力不足でごめんなさい。ちなみに、タイトルもクロトリです。

 長くなりましたが、8話が書き終わり次第7話を投稿します。さて、どうやって桜を咲かせようか……

 誤字脱字等がございましたら、指摘をお願いしますm(_ _)m
Ren(R改め)
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コメント



0.1590簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
とても面白くて読みやすい、大好きですこのシリーズ

出来れば霊夢たちの卒業まで書いてもらいたいですw
4.90喉飴削除
図書館島が真っ先に思い浮かびましたwあとがき見て納得。
最初少し入り込みにくかったですが、全体通してやっぱり安定感がありますね。そしてオチが非常に綺麗。久方振りに良いオチを見れた気がします。
続きにも期待してますので、御自分のペースで、頑張っていって下さいね。
5.100想月削除
とてもユニークで幻想郷の彼女たちとは、また一味違った彼女たちも良いですね。
このまま、妖々夢・永夜抄・花映塚…のキャラが出てくるような続編も期待しています。
でもパチュリーが150cmだとするならこぁはもうちょっと身長高かったような…。
二次のものなので、あまり深くは探りませんが、パチュより小柄なのであればここぁでは?
勝手な思い込みかも知れませんので、スルーしていただいても構わないですよ。

先日の吸血鬼騒動の元となった紅魔館の住人、1-Bのパチュリー・ノーリッジ
パチュリー・ノーレッジでは?

あと、面白いですよね。ネギ○と魔○偵ロキ。クロノ○リガーは知らないんですが。
9.100名前が無い程度の能力削除
今回もおもしろかったです。気がつけばあなたのファンにw
これからも頑張ってくださいね!
15.100名前が無い程度の能力削除
作者とタイトル見てからクリック余裕でした。
毎回楽しく読ませていただいています。
21.100名前が無い程度の能力削除
後書きで点数を気にされてるようですが、ハッキリ言って点数の伸びる作品ではありません。
原作と違うという意味でのオリジナルな世界設定、連載形式ゆえ読み続けていないと把握出来ない内容、
かなりまっさらな状態に近い人物相関など点数の伸びない要素がふんだんに詰まっています。
ここから点数を伸ばしていくのはかなり厳しいと思います。

ですが登場人物の性格付けが非常に上手く、幻想郷という大舞台を使っていないのに違和感が無く、
また、独自性の強さが先へと文を進めていく楽しみを与えてくれます。


もう一度言います点数的には絶対に伸びません。ですがここまで読み続けた人たちは絶対に付いてきます。絶対に!!
23.100名前が無い程度の能力削除
匙加減が実にいいです。次回も楽しみにしています。
29.無評価R削除
>2さん
 ありがとうございます。卒業かぁ……ハードルが高いですなぁorz

>喉飴さん
 自分のペースで頑張ります。これからもよろしくお願いします。

>想月さん
 深く考えずに小柄にしてしまいましたが、そういや彼女の身長って……私は、妹っぽい小悪魔が好きなのですw
 AHAHA……修正しましたorz
 自分の年がバレてまう。いや、リメイクいっぱい出てるから大丈夫か。

>9さん、15さん
 そう言っていただけると、作者冥利に尽きますm(_ _)m

>21さん
 ですよねぇ。いや、自分でもわかってるんですけど、性というか(苦笑)

 固定ファンの方が付いていてくれれば、それが一番ですものね。

>23さん
 次回も頑張ります!
32.100名前が無い程度の能力削除
ハガレ○にパラケルススはでないぞアリス!!
33.無評価R削除
>32さん
 ところがどっこい、エルリック兄弟のお父さん、『ヴァン・ホーエンハイム』と言うのは、パラケルススの本名である『テオフラストゥス・フィリップス・アウレオールス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム』から取っているのです。アリスさん、マニアックですね。
38.100名前が無い程度の能力削除
このシリーズ好きだぜ(^_-)☆
これからもがんばってくれ!
150cmか・・・私も中2なのに151cmしかないぜorz
39.無評価R削除
>38さん
 ご心配なく。私が中2の時は143cmしかなかったですが、今は一応人並みになりましたから。
46.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。