Coolier - 新生・東方創想話

新・秘封倶楽部 吸血鬼騒動 終

2009/04/02 00:20:08
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*この話は第5話に当たります。1話~3話(作品集72にあります)、4話(この作品集の下の方)を読んでいないと理解しにくい内容です。
*舞台はここではない現代日本です。弾幕はありません。少しファンタジーっぽい要素が出てきます。でも、剣も魔法もありません。
*秘封倶楽部の2人にはあまり出番の無いお話です。
*今回、中盤から終盤がポーカーで埋まってます。説明パートがだるい方は飛ばしてください。
*それでも構わない、尚且つ、時間を潰す覚悟と余裕のあるお方がいれば、読んでくださると幸いです。














「広いわね~」
「なんか、家具も高そうだ」
「うわ~、うわ~♪」
「ちょっと、勝手に撮影しないでよ」

 案内された部屋はかなりの広さだった。調度品も高そうな物ばかり。ここまでくると、逆にいたたまれなくなってくる。そんなん気にせずべたべた触っている奴と、写真を撮りまくっている奴もいるけど。そんな2人に十六夜咲夜は心底嫌そうな顔を浮かべていた。真ん中には大きな円形のテーブルがある。それとは別にカウンターがあり、そこにはグラスと飲み物が並んでいた。好きに飲んで良いとのことだったので、私は勝手にウーロン茶をいれて飲んでいる。今は部屋には私たち以外には門番と十六夜咲夜しかいない。お嬢様とその友人はまだ来ていないし、今のうちに聞ける事を聞いておこう。

「あのさ、なんで私がここに居るのがわかったの?」
「文が、あなたらしき人が出て行くのを見たのよ」
「はい、それで『あれ?』って思いまして、部屋が近い魔理沙さんに会いに行きまして」
「で、霊夢に電話しても出ないし、部屋に行っても明かりもついてない」
「それで紫先生に連絡して、一緒に境界の所へ来たら、昨日とは別な景色の場所に居る、ってわけよ」
「と言うわけで、私には感謝してください」

 なるほど。確かに文が偶々目撃していなかったら、私はどうなっていたかわからない。感謝しておこう。ん?来たみたいね。

「待たせたわね」

 そう言って入ってきたのはレミリアと、黄色い髪をした少女だった。さっき言っていた妹さんだろうか?パチュリーと呼ばれていた紫髪の少女はいない。

「その子は?」
「妹のフランドール・スカーレットよ」
「フランだよ!よろしくね、お姉ちゃんたち」

 そう言いながら笑顔を浮かべる。レミリアよりも少し幼い感じが漂っているが、この娘も吸血鬼ということだ。見た目とは裏腹な力があってもおかしくは無い。とりあえず、「よろしく」とだけ言っておいた。全員で円形テーブルの周りに腰をかける。

「そう言えば、随分親切な口調になったわね?」
「ここまで来たら、一応は客人扱いしないと。貴族の責務ってやつよ」
「それはどうでもいいが、勝負ってのは何をするんだ?足はともかく腕は自信がないぜ」
「力勝負なんかしたら美鈴だけで全部片付いちゃうし、優雅さに欠けるわ。今回はこれ」

 そう言ってレミリアが見せたのは、模様の入った紙のケース。誰もが知っているトランプだ。

「トランプ?」
「えぇ、ポーカーで勝負しましょう。個人的にはオマハが良いんだけど、」
「「「?」」」

 オマハ?何それ?大統領か?さとりは意味がわかっているらしいが、私にはサッパリだ。

「まぁ、知らないでしょうから、シンプルにファイブカード・ドローでいいわ。手持ちのコインは10枚で、3回勝負にしましょう」
「言ってる意味、わかる?」
「うんにゃ、よくわからん」

 シンプルも何も、ポーカーって何種類もあるのか?魔理沙に尋ねてみたが彼女も詳しくないらしい。そんな私たちを見て溜息をつきながら、十六夜咲夜に説明を促す。

「咲夜、説明してあげて」





          ~~~~~~~~~~以下説明~~~~~~~~~~





「かしこまりました。ファイブカード・ドローって言うのは、普通のポーカーと思ってくれて構わないわ。最初にアンティ、参加費と思ってちょうだい。今回はコイン1個だけれど、それを全員に払ってもらうわ。その後に、全員に5枚ずつカードを配るから、プレイヤーは手札を確認。その後、私の左隣、お嬢様が賭けに参加するかどうかを判断します。そこからは時計回りにそれぞれが同額賭け(チェック)か、上乗せ(レイズ)するか、降りる(フォルド)か、各自で判断してちょうだい。それで、全てのアクティブプレイヤー(賭けに参加しているプレイヤー)がチェック、もしくはコールしたら、次の段階に進むわ。ここまではいい?」

 え~と、うん、大体わかった気はするけど……

「全員が1発目で降りたら?」
「魔理沙、最後の一人は降りる意味がないでしょ?」
「へ?あぁ、そうか」
「最初のベット(賭け)の時点で誰か一人しか残らなかったら、その時点で出ている掛け金は全部その1人の物になるわ。」

 なるほど。

「次に、私の左隣のアクティブプレイヤーから順に、不要なカードを交換してもらうわ。そうしたら、第2ベッティング・ラウンドとして、さっきのベットで最後にレイズしたプレイヤーから、先ほどと同じようにベットしてもらう。その後は、また時計回りに判断してもらうわ。それで最後にレイズしたプレイヤーから順に手札を公開。それで勝敗を判断するわ。役は、流石にわかるわよね?それと、自分の負けがわかった場合は手札を公開しないでも構わないわ。」
「それ、なんか意味あるの?」
「ポーカーは心理戦だからね。それも作戦のうち、ってことよ」


          ~~~~~~~~~~ここまで~~~~~~~~~~







 先ほどから聞いていると、さとりはそれなりにやったことがあるようだ。確かに得意そうだもんなぁ。私、ポーカーフェイスとか絶対出来ないよ?まぁ、ここまで来たらやるしかない。負けたって、そんな大したことには、

「私が勝ったら、あなたたちは全員、私とフランの血液パックだから。呼ばれたときにはすぐに血を差し出すのよ?」

 絶対嫌だ。気合入ってきたぞ。けど、話を聞いているとディーラーは十六夜咲夜がやるらしい。

「イカサマとか、しないでしょうね?」
「そんなことしないわよ。不安だったら、誰か一人見張りをつけなさいな。それだと、丁度3vs3になるし」
「そういう事なら私が抜けましょう」

 すくっと、文がカメラを持って立ち上がった。

「これなら撮影も出来ますし。私の運命は『秘封倶楽部』のお三方に任せますよ」

 そう言うと、私たちにウインクを一つ。記者根性を褒めるべきか、私たちを信じてくれることに感動するべきか。

「文」
「なんでしょう?」
「それはともかくとして、さっき撮ってた私たちの写真は消去しなさい」
「……気付いてたんですか」

 当たり前だ。これで、テーブルには6人。十六夜咲夜が全員を見回し、コインを配る。この10枚が、私たちの血液代わりか。まずは、アンティだっけ?1コインをポット(と言うらしい)に差し出す。全員がコインを出したところで、皆にカードを配り始める。6・4・9・K・J。見事にブタだ。ディーラーの隣から時計回りに皆を見渡すと、レミリアとさとりは表情の変化がわからない。門番と魔理沙は、小難しい顔をしている。妹さんはニコニコ顔だ。さっきからずっと笑顔だし、あれは判断材料にはならないかもしれない。と、レミリアがテーブルをトントンと叩いた。何やってんの?

「古明地さんは?」
「私もチェックで」

 どうやら、チェックの意味だったらしい。何かかっこいいな、アレ。門番もチェックのようだ。次は魔理沙だが、コインを1枚差し出した。

「ベットするぜ」
「私レイズする!」

 と、立て続けに妹さんが1枚プラス。賭けコインが3枚で私の番になった。さてどうしようか……と考えることしばし。私は手札を放り投げる

「降りるわ」

 3回勝負の1回目に、この手札で勝負するのは不安だ。最終的に3人のうちの誰かが勝てばいいのなら、無理はしないほうがいい気がする。その後、レミリア、さとり、門番の3人も降りてしまい、魔理沙と、フランの一騎打ちになった。

「コール」

 これで今度はカード交換。フランは2枚、魔理沙は1枚交換した。

「レイズするよ!」
「私もだ」

 おいおい、大丈夫なんでしょうねあんたら。なんと言うか、性格の出るゲームねこれ。突撃志向の強さが出ていると言うか。私もあっさり引き下がっちゃったけど、考えてみれば、何事にも消極的な性格、ってのが出たのかもしれない。場の状況は、膠着状態という奴だろうか?お互い、表情を変えずにジーっと相手を見ている。口を開いたのは妹さんの方だった。

「ホントにいいの、積み上げちゃって?」
「あぁ。何か問題があるのか?」
「私は別に無いよ。ただ、残り2戦もあるのに心配になっただけ」

 そう言ってのけた妹さんの顔は自信満々だった。余程手がいいのか、はったりか。『コール』を告げた妹さんに、魔理沙が手札を拡げる。8が3枚にKが2枚、フルハウスだ!その手を見て皆が目を丸くした。

「……ブラフじゃなかったのか」
「らしいと言うか、何と言うか」
「降りてよかった~」

 フルハウスは、上から数えた方が圧倒的に早い役だ。これなら勝ちはほぼ決まりだろう。妹さんも、カードで顔を覆ってしまっている。と思いきや、急に笑い声を上げ始めた。

「ふふっ、あはははははっ!凄い凄い!フルハウスなんて1/694の確率でしか出ないのに!あなた、凄く運が強いのね!」
「あぁ、よく言われるぜ」

 そう返す魔理沙の顔は余裕が見て取れた。妹さんも笑うのを止め、カードを胸元まで下ろす。その表情は……笑みを浮かべてる?

「でも、残念。さっき言ったでしょう?あんたがコンティニュー出来ないのさ!」
「なっ!?」

 そう言ってカードを魔理沙の前に放り投げる。3と、Aが1、2……4枚!?慌てて文の方を見るが、彼女は首を横に振った。イカサマじゃ、ない。

「フォー・オブ・ア・カインド、私の勝ちね!」
「流石妹様ですわ」

 驚愕の表情で固まる魔理沙を他所に、ディーラーの十六夜咲夜がコインを妹さんの元へと渡す。その数、14枚。これで彼女の持ちコインは19枚。逆に魔理沙は5枚で、3回戦まである事を考えるとかなりキツイ状況になってしまった。充分自覚しているのだろう、かなり険しい表情をしている。それ以外の4人は9枚ずつ。今後の展開次第かしら?








「それでは、第2ディールを始めます」

 咲夜の宣言と共に全員が1コインずつ差し出す。今度の手札はJが2枚に3・8・Q。最初からペアが出来ている分、恵まれているだろう。先ほど同様、レミリアからだ。

「ベット」

 今回は最初から上乗せしてきた。相変わらずの表情で、良い手なのかハッタリなのかわからない。続くさとり、門番は『コール』。先ほど負けた魔理沙は、

「降りる」

 そう言ってカードを投げ捨ててしまった。さっきの負けが効いているのか、表情が固い。続く妹さんも、あっさりと降りてしまった。ただ、こちらは余裕の漂う表情をしている。案外勝てる時だけ勝ちに行くタイプなのかもしれない。私は、この状況で下りることも無いだろう。

「コール」

 レミリアも現段階で吊り上げる気は無いらしい。カード交換へと移った。レミリアは、1枚も換えない?それとは対照的にさとりは全部取っ替えた。結構、剛毅なことするよね。門番は3枚。私も3枚換えてもらう。新たに来たのは3のペアとA。これなら3を残しておけば良かった。今更悔やんでもしょうがないけどさ。

「ベットするわよ」
「コール」
「え?ちょ、ちょっと待ってください」

 さっさとコインを上乗せするお嬢様と、即座に乗るさとり。何かお互いの顔色を窺っているようだ。それと比べると、この門番はわかりやすいなぁ。きっと、思ったような手は来なかったんだろう。降りるだろうなぁ。

「フォ、フォルドします」

 やっぱりね。私はどうしよう。2人とも表情読めないしなぁ。まぁ、もうちょっと頑張ってみよう。

「コール」
「レイズ」
「コール」

 って、速いっちゅうねん。今のところ賭けコインは4枚。私が2ペア。で、相手は最初から換えてない。となると、どういうことだ?1ペアなら3枚、2ペアなら1枚、3カードなら2枚だろうし、4カードでも1枚は換えるはず。換えないって事は、ストレートか、フラッシュか、フルハウスか……それ以上。もしくはブタ。いや、ブタだとしたらとんでもない度胸で、ハッタリをかましている事になる。あ゛~、わっかんない!ガシガシと髪の毛を掻き毟ってしまう。自分が頭悪いとは思わないけど、こういう心理戦とかには絶対に向いてない。全然読めない。

「コール」
「レイズ」
「……フォルド」

さとりは今度は降りてしまった。どうする?どうすんのこれ?今ならオダ○リジョーの気持ちが良くわかる。

「コール!」
「レ・イ・ズ」
「……降りるわ」

 ここでコールしたら、更にレイズしてくるだろう。そうなったら負けたときに洒落にならない。最悪、姉妹が次の賭けで1枚ずつ払って降りてしまえば、それだけで勝てなくなるかもしれない。私には、そこで更に張る勇気は無かった。そんな私に笑みを浮かべてレミリアが手札を晒す。

「あらそう?悪いわね」

 そう言って表にされた手は

「ブ、タ……」
「それ、ストレートフラッシュより強いらしいわよ?」
「れ、霊夢さんっ!?」

 やられたっ。会心の笑みを浮かべるレミリアを見て、さとりも唇を噛み締めている。マズいマズいマズい!これで、レミリアが22枚で、妹さんが18枚。門番が7枚、さとりは5枚、私と魔理沙が4枚。相手が1枚ずつで降りてしまったら、その時点で負けが確定してしまう。命運を私たちに託した文は、もう泣きそうな顔をしていた。そりゃそうだ。後遺症が無いとしても、毎日のように血を吸われれば、肌には永遠に残る傷跡が出来るだろう。年頃の女の子としては、それだけでも耐え難いものがある。左腕の血管のところに残る無数の刺し傷……どう見てもおクスリを嗜んでいる風にしか見えない。そんな女……想像しただけでも顔が青ざめていくのがわかった。そんな私に十六夜咲夜が声をかけてきた。

「どうする?まだやる?」

 『やる?』と、聞かれても。さとりも思いつめた表情をしている。そんな中、声をあげたのは魔理沙だった。

「当たり前だ。まだ3回戦は終わってないぜ?そっちのお嬢さんたちが勝負が恐いってんなら、仕方ないけどな」
「っ、安い挑発を。咲夜っ!」

 にやりと笑みを浮かべながらレミリアのほうを見やる魔理沙。レミリアも、挑発とわかっていてもカチンと来たらしい。咲夜にコインを1枚。それを見て、魔理沙もコインを差し出す。

「魔理沙……」
「なんだ?お前もオールインしてくれないと勝ち目はゼロなんだぜ?」
「確かに。勝負しなければ可能性は0のままよね」

 そう言ってさとりもコインを出す。魔理沙の言う通りだ。負けている側が勝つ事を諦めたら、絶対に勝てるわけが無い。特に意味があるわけでもないが、気合をこめてコインを差し出す。その様子を見て、妹さんと門番もコインを出した。それを確認して、十六夜咲夜が全員にカードを配る。A・5・8・10・4……

「ベット」
「レイズ」
「えっと、コールで」

 3人が手札を確認し、それぞれの判断を述べる。この時点で掛け金は3枚。続く魔理沙だが、さっきから手札を見ていない、というよりも、目を閉じたままだ。

「コールだ」
「見ないでいいの?」
「いい」

 流石に驚いたのか、妹さんが魔理沙に尋ねる。しかし、魔理沙の考えは変わらないようだった。そんな魔理沙を見てくすくすと笑い始めた。

「ホントに面白いね。私もコール♪」
「私も」
「私もコールだ」

 結局賭けコインは3枚のまま。後は、交換後、か。私はA1枚だけを換えることにした。手元に来たのは、6。だが何よりも驚いたのは魔理沙だ。結局手札を見もせずに、全部捨ててしまった。私たちの今後の人生がかかってるかもしれないというのに、大した度胸だわ。もう今更気にしても仕方ないことなんだろうけども。手札を交換し終わったさとりはテーブルを叩いた。門番が自分から状況を変えるタイプじゃないと読んだのだろう。枚数はそのままに、魔理沙に判断を委ねるつもりらしい。予想通り門番が『コール』をし、先ほどから目を瞑っている魔理沙の番になった。

「レイズだ」

 やっぱりね。状況的にもそうだろうが、きっと、勝っていてもこいつは同じ事をするに違いない。身じろぎ一つせず、淡々と、それでいて力強く宣言した。それを聞いて、隣に座る妹さんが手を叩きながら笑い出した。

「あなた、本当に最高ね♪フランも降りたりしないよ!」

 私にも選択肢は残っていない。レミリアもさとりも、門番までも勝負乗ってきた。掛け金は4枚。それが6人分。勝てば24枚のコインが手に入る。つまり、勝った人が優勝者。賭けが成立した所で、魔理沙がカードを表にしようとしたが、レミリアがそれを止めた。

「どうせ最後の勝負なんだもの。時計回りでいいでしょう?」
「別に構わないぜ」
「それじゃ、私はこれ」

 そう言って出されたレミリアの手は、6のスリーカード。

「それなら、私の勝ちね」

 さとりは、8のスリーカード。それを見たレミリアが肩をすくめて両手を挙げた。

「あぅ、負けちゃいましたね」

 門番は2と5の2ペア。次はいよいよ魔理沙の番だ。閉じていた眼を開き、手札を見せる。その役は……ちょっと、眼が疲れてるのかな?夜も遅いし。皆も同じように目の疲れを感じたのだろう。目を擦ったり、瞬きしたり、一度視線を外したり。私も一度目を閉じて、改めて公開された手札を見る。

「「「「「ブタ?」」」」」
「だな」
「ですわね」
「ちょっとぉ?!何その手札!?ここはかっこよくロイヤル・ストレート・フラッシュの流れじゃないの!?」
「いや、そんな上手くいくかよ」

 十六夜咲夜のクールな声が空しい。あんまりの手札に、文が発狂したように魔理沙の首をがくがくと揺する。あまりの事態にもう、敬語を使うことすら忘れたらしい。そういや、なんで敬語なのこいつ?あ~、すげぇどうでもよくなってきた。さとりも、なんか女の子がしちゃいけないような目つきで魔理沙を見ている。レミリアと門番も呆れ顔だ。一人、妹さんだけが腹を抱えて爆笑している。

「大体、最初の手札なんだったのよ!?」

 そう言って、魔理沙の捨てた札を見る文。ルール違反だが、誰も止めようとはしない。そして、見た瞬間、ピシッ、という音と共に文は動かなくなってしまった。停止すること数瞬。今度は油の切れた人形のように、ギギギと首だけを動かして魔理沙のほうを見る。泣きながら怒っている、とでも言うのか、目の端に涙を浮かべながら、口元をヒクヒクと引き攣らせていた。

「な、なんだよ?」
「まぁ~りぃ~すわぁ~!!」

 地獄のうめき声のような声を上げるや否や、元・手札を投げ捨て魔理沙へと飛び掛っていく文。門番が慌ててそれを止めにかかった。

「ちょっと、落ち着いてください!」
「これが落ち着いてられますか!な、ん、で、手札を確認しなかったのよ!?」
「いや、だってお前、あそこまで来たらもう腹をくくろうと」
「天命を待つ前に人事を尽くせっ!」

 ぎゃーぎゃー騒ぐ文を放置し、さとりが投げ捨てられた手札を1枚ずつ拾い集める。

「Kが1枚、3が1枚、3が1枚、3が1枚、3が……」

 まるで、さっきの映像をもう一度再生しているかのようだった。パサッとカードを取り落とすと、ものの見事に石像化し、文と同じような行動を取るさとりがそこにいた。凄い表情で魔理沙の襟をつかみがくがくと揺すっている。その様子を見てレミリアも声をあげて笑ってるし、妹さんなんか、今にも椅子から転げ落ちそうなくらいの大笑いだ。

「ちょっ、待て、さとりっ!」
「こんの、大馬鹿ぁ!よりにもよって、4カード捨ててブタ!?」
「まさか、そんなもん、来てると、思わな、いだろ?!」
「そんなの言い訳になると思ってんの!?」

 気持ちは良くわかる。私もこいつの事ぶん殴りたくなってきたし。でも、まだその時間じゃない。何せまだ勝負は付いていないのだ。見かねたように十六夜咲夜が仲裁に入った。

「少し落ち着きなさいな」
「「あぁん?!」」

 ギロッと十六夜咲夜を睨む2人。その視線を受けても、彼女は平然としていた。それに比べてキャラ変わりすぎよあんたたち。魔理沙は揺すられすぎて、既に泡を吹いていた。

「現時点では古明地さんが1番でしょう?負けたわけでもなんでもないのよ?」
「「……」」
「でしょう?」
「そう言えば、」
「そうでしたね」

 言われてようやく気付いたのか、魔理沙を解放する2人。魔理沙は涙目で咳き込みながら2人に抗議する。

「おい、それでこの扱」
「「何か言った?」」
「いや、この度はお手数かけて申し訳ありませんでした」

 が、一睨みで押さえ込まれた。うん、美しい土下座ね。人は自己批判を忘れたら進歩しないわよ?とりあえず、全員が席に座った。妹さんも、ヒィヒィ言ってはいるが大分落ち着いたようだ。

「あ~、おかしぃ。今のところは、紫のお姉さんの3・オブ・ア・カインドだっけ?」
「えぇ、8のよ」
「そっかそっか。ふふん♪」

 さとりの手を確認した後、先ほどまでとは種類の違う笑みを浮かべた。1回戦でも見せた、自分の手に満足している笑み。彼女のカードは綺麗に数字が並んでいる。10・J・Q・K・A。

「ストレ~ト~♪」
「げっ」
「嘘でしょ?!」
「お母さん、不孝な文を許してください……」

 その瞬間、皆の顔にサーッと簾が走る。1回戦の時と言い、決してこちらの手が悪いわけじゃない。3回やって、4カードとストレート。この妹さんの引きが良すぎるのだ。彼女は満面の笑みを浮かべて姉であるレミリアに抱きついていた。

「えへへ。どうお姉さま?フラン強いでしょ♪」
「全く、これじゃ勝ち越すことは永遠に出来そうに無いわね」
「ぎゅ~」
「もう、人前なのよ?仕方ない子ね」

 そう言って、妹の頭をなでているレミリアは、先ほど見せた恐ろしい吸血鬼の顔ではなく、心優しい、妹思いの姉の表情だった。メイドと門番もその光景を嬉しそうに見詰めている。一方、魔理沙たち3人は沈んだ顔をしていた。ふと、真面目な表情に戻った十六夜咲夜が私に声をかけてくる。

「まだあなたの手札は見てないわね」
「そういえばそうね。さっさと公開なさいな」

 レミリアも妹さんをハグしながらこちらを見る。それを聞いて文が目を輝かせて私の方に顔を向けた。他の2人も、ばっ、とこちらを見る。

「そ、そうですよ!霊夢さん、霊夢さんの手札は?!」
「6・5・8・10・4」

 私は顔を手札で隠し、淡々と手札の数字を告げる。それを聞いた文は絶望した声を上げた。逆にレミリアは声からも喜びが隠しきれていない。

「ブタじゃ、ないですか」
「あらあら、それは残念ね」

 ゆっくりとカードを持った手を下ろす。
 さっきから、私は一言もしゃべっていない。それはなぜだと思う?だってそうでもないと、今にも表情に出してしまいそうなんだもの。

「ふ、ふふっ」
「れ、霊夢?」
「壊れちゃったの?」

 私は無表情、ポーカーフェイス。でも、皆の顔が視界に入ってきたとき、笑いがこぼれる。
 古来から、人はご馳走に舌鼓を打ってきた。今と比べて調味料も少なかっただろうに、祝賀に、狩りの成果に美味い美味いと言っていた。そう言えば、文も言ってたわね?パンよりも調味料が美味いって。それはきっと、全て同じ調味料があったから。

「はい」

 テーブルに手札を投げる。バラバラの数字と裏腹に、綺麗に揃った紅白模様。皆の視線がそれに集まる。
 今なら、文の言うことがよくわかる。でも、それが間違いであることも。この味は調味料なんかじゃない。

「う、そ……」
「あ、あはは」

 驚愕に打ち震える皆を見て、私の心に、身体に、快感が駆け抜ける。

「ダイヤのフラッシュよ?私の『勝ち』ね」

 その一言こそ、まさにメインディッシュ。今まで味わったことの無い、最高の『勝利の味』がした。



「霊夢っ!」
「信じてたぜ、心の友~!」
「良かった、本当に良かった~」
「あははははっ」

 勝利が伝わった瞬間、3人が一斉に抱きついてきた。ちょっと重い。しかも1人押し当てられる感触がムカつく。そんな思いもすぐ消し飛んで、私からも笑い声がこぼれた。










 それからしばらく勝利の喜びを分かち合った後、改めてレミリアたちの方を見る。憎らしげな顔をしているが、どこか満足げな顔にも見えた。

「貴族の誇りで勝負に乗ったら、失敗しちゃったわ」
「そのおかげで、私たちは勝てたんだけどね」
「さて、それじゃ、約束だけど、私たちは何をすればいいかしら?」

 そう言えば、負けた方が勝った方の言う事を聞く、って約束だったわね。勝った時のことなんか全然考えてなかった。どうしよう?

「なんかある?」
「私は思いつかないわね」
「ん~、ここの事を記事に!って言いたい所ですけど、記事にしてくれないでしょうしねぇ。捏造扱いされるのが目に見えてますし」

 さとりと文も特に思いつかないらしい。実際、命令権なんて貰っても使い道が無いものね。そんな時魔理沙が手を挙げる。

「私はあるぜ」
「言ってご覧なさい」
「いや、まずはこいつらと相談してからな?」

 魔理沙は私たちに顔を寄せてゴニョゴニョとその命令を話す。なるほどね。

「はぁ。まぁ、私は構いませんが。彼女とは、同じクラスですし」
「中々いいアイディアだと思うわよ?」
「なら決まりだな」

 魔理沙がレミリアたちの方を振り向いた。

「名前で呼ばせてくれ。それで、お前たちも私たちのことを名前で呼べ」
「そんなことで、いいの?」
「あぁ、それがいいんだぜ」

 そう言うと、魔理沙はニカッと笑みを浮かべた。しばらく呆けた顔で魔理沙を見詰めていたレミリアだったが、急に手を叩いて笑い出した。

「本当に面白い奴だな!」
「よく言われるぜ」
「だが、それだと命令が2つになるだろう?2つとも聞いて欲しければこっちの条件も飲んで頂戴」

 ワンセット扱いじゃないらしい。とりあえず、条件とやらを聞いてみましょうか。

「条件って、何よ?」
「血の話さ。さっきも言った通り、私とフランは吸血鬼の血を引いている。普段はどうと言う事はないが、新月の次の日だけはどうしても咽喉が渇くのさ。だからその日だけでいい。少しだけ血を分けてくれないか?」
「それじゃ、勝った意味が無いんじゃ」
「本当は毎日だって飲みたいところを、月一で我慢するって言ってるんだ。それに、2人あわせて100ccもあればいい。献血よりもずっと少ないだろう?そのくらい、友人からのささやかなお願いの範疇じゃないか」
「どうする?」

 一応、3人の顔を見る。3人とも少しは逡巡したようだが、肯いてくれた。それを見て、レミリアが笑顔を浮かべる。そして後ろに並ぶ3人の方を見た。

「フランも咲夜も構わないわね?」
「フランはいいよ~♪」
「私も構いませんわ。折角のクラスメイトでもありますし」
「私には選択権も無いんですね、わかります」

 一人凹んでいる門番がいるが、他の2人は笑顔を浮かべていた。

「それじゃ、あの学生には申し訳ないけど、今日以降、適当に拉致って血を貰う様な真似はしないわ。それで構わないわね、霊夢?」
「えぇ、それで許してあげるわ、レミリア」

 私とレミリアは、互いに笑顔を浮かべた。










 館の外に出ると、月も大分傾いていた。日付はとっくに替わっている。これは、昼まで爆睡ルートだ。明日が休日でホント良かった。

「泊まっていけばいいのに」
「別に遠いわけでもないし、今日は帰るわよ」
「む~、魔理沙、今度また遊びに来てね♪」
「おぅ!って、ここって気軽に来れる所なのか?」

 フランの要望に笑顔で答えた魔理沙だったが、すぐに疑問に満ちた表情に変わる。そう言えばそうだ。さっき私が入れたのは偶然のようなもんだろう。そう思ったのだが、レミリアが、大丈夫だ、と言った。

「さっき先生も言ってただろう?コツがあるって。『この館はココにある』っていう事を意識すれば、簡単に来れるさ」
「そういうもんなんですか。不思議ですねぇ。何とか記事にできればいいのですが……無理だろうなぁ。超スクープの単独取材だと思ったのにな~。結局無駄足でしたか」

 確かに、新聞部員としては無駄足だったのだろうが、口で言うほど落胆はしていないようだ。むしろ、表情は晴れ渡っている気がする。完全に巻き込んだ形になったような気もするけど、向こうから巻き込まれに来たんだし、気にしないでおこう。この問題は、もう解決したんだから。










 月曜日の朝、いつものように2人と話をしていると、制服を着た十六夜咲夜が登校してきた。彼女に気付いた魔理沙が、声をかける。

「よう咲夜!」

 声をかけられた彼女は、一瞬キョトンとした顔をした。その後、少しだけ表情を変えて返事を返す。

「おはよう3人とも。相変わらず楽しそうにしてるわね。それとお嬢様が、今日はお昼を一緒に食べたいって仰ってたわ」

 あまり表情が変わらないが、彼女の笑顔が伝わってくる気はする。彼女が荷物を置いてこっちに来た。

「ふむ、場所取りは文と魔理沙に任せればいいか」

 ほっといても、2人は爆走して行くのだろう。そこに皆で座ればいい。それより彼女に聞きたい事がある。

「咲夜、今日の調理実習なんだけど、手伝ってくれない?」
「霊夢のメイドになったつもりはないわよ?」
「いいじゃないの。毎日同じ人に作ってるんだから、気分転換に他の人のために作ったって」
「そこに『休む』って選択肢が来て欲しいんだけれど」
「学生が、休むことばかり考えるのは良くないわね」
「全くだぜ」
「仕方ないわね。それじゃあ折角だから、パーフェクトメイドの実力を見せてあげようかしら?」

 咲夜が、春の日差しのような笑顔でお願いを聞いてくれた。入学式から1週間、ようやく、本格的な学生生活が始まる。
 自分でも予想外の第5話です。ここまで読んでくれている方、最早言葉にならないです。

 紅魔郷編、これで完結です。何でこうなったんでしょう?元々は、身体測定とか、体育の授業とか、プールとか、修学旅行に学園祭とか、そういったもので読みきりを何個も書く予定だったのに。ネタが思いつかず、気付けばこんな物を書いてしまいました。

 内容の方の解説(むしろ言い訳)ですが、これ、凄い削ったんです。前回の後書きでも言ったように、元々、お嬢様の登場シーンから始まる予定でした。と言うのも、ポーカーなんてやるつもりがなかったからです。長くなるのがわかっていたので、1vs1×4のトランプ対決をするつもりでした。けど、いざ書いてみたら締りが無くて面白くなかったんです。自分ですら面白くないものを投稿するわけには行かないですし、『えぇい、やっちまえ!』と。ポーカーを。
 当初は、30コインの5回勝負で、咲夜さんがディーラー、文とパチェも参加の、全員の心理描写をした、さとレミの一騎打ちだったのですが、2回戦が終わった段階で、50×50の原稿用紙10枚分を突破。『これじゃ、学園モノじゃなくて賭博黙示録じゃねぇかorz』と気付き、10コインの3回勝負で、本来どおりの霊夢視点オンリーで書き直しました。おかげで、ポーカーの醍醐味である心理戦描写はほとんどなくなってしまいましたが、ポーカーの魅力を損ないすぎない範囲で、逆に綺麗に纏められたんじゃないかと……自分で言ってもしょうがないですね。

 ポーカー短縮の結果、パチュリーが途中で「眠いから寝るわ」と部屋に帰っちゃいましたが、何も考えていないわけではありません。つい先ほど(4月1日24時調度くらい)書き終わった第6話は、パチュリーメイン魔女3人組の番外編です。そちらで活躍してもらうために今回はお部屋に戻っていただいたのです。
 というわけで、第7話が書き終わり次第、6話を投稿予定です。

 例によって例の如く、誤字脱字等ございましたら、ご指摘の程、よろしくお願いいたしますm(_ _)m
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コメント



0.1090簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
今回も面白かった。
だが、レミリアは自分の能力を何故使わないかだけ疑問に…
まぁ、使ったら面白みがなくなるとかかもしれないがww
次回も期待してます。
7.100名前が無い程度の能力削除
サマをしなかったということはレミリアも能力を持たないただの吸血鬼ということでしょうか?
いずれにせよ次回にも期待しています。
13.80名前が無い程度の能力削除
血液をコイン代りにしてポーカー…

鷲○麻雀ですね、わかります
14.90想月削除
紅魔メンバーがいい味出してました。
次は妖夢あたり出てきそうですね。
とにかく、今回も面白く読ませていただきました。
ただ、個人的には美鈴やパチュリーの出番がもうちょっと欲しいところでした。
そういった紅魔館メンバーの後日談等が読みたかったです。
これは、昼間で爆睡ルートだ。→これは、昼まで爆睡ルートだ。じゃないでしょうか?
次にも期待しています。頑張って下さい。
16.無評価R削除
>1さん、7さん
 暖かいコメントありがとうございます。そう言えば、能力に関することとかの説明を入れてませんでした。このシリーズは、現時点の予定ではメリー以外は能力を持っていません。ただ、さとりが人間観察力に優れていたりするように、能力に類する物が、数学がやけに得意な人や、マッドなサイエンティスト、人形大好きな人と言った感じで出てくる予定ではあります。
 また、スカーレット姉妹ですが、吸血鬼の『末裔』であって、純粋な吸血鬼ではありません。咲夜さんの目も含めて、そこらへんは番外編でおいおいやろうかと。

>13さん
実は、あのシリーズ読んだ事無いのですよ。何せ麻雀とか全然わからないもんで、ザワザワしか知らんのですorz

>想月さん
本当は出したかったんですよ。これに関しては実力不足としかいえないです。ただ、パチュリーは次の話で、今回は出ていない子との話が完成しています。美鈴の方も、もう少しメインキャストが揃ってからになりますが、体育祭の時には活躍してもらうつもりです。

誤字修正しておきましたm(_ _)m
17.90名前が無い程度の能力削除
⑨なおれにはちょっとルールがわかんなかった。
18.80GUNモドキ削除
ポーカー勝負ですか、正直素人の私には半分しかルール判りませんでしたねぇ。
お話の方は楽しく読ませていただきました、話半分で。
19.100名前が無い程度の能力削除
今後どのような方向で行くのかが今回で見えた気がします。
ラストの日常回帰が非常に好きです。
次回もお待ちしています。
21.100名前が無い程度の能力削除
よし、まだ当初のバージョンが残っていたら「新・秘封倶楽部 吸血鬼騒動 終Ver.2」とでもしてアップしてくれないか。
コールって何なのかわかんなかったけど、爽快感があって面白かったですよ。
25.80喉飴削除
ポーカー好きの私としては、もう少しだけ魅力が欲しかったですが、お話の全体的には綺麗に纏まりがついていて良かったです。
続きに期待です!
27.無評価R削除
>17さん
説明が下手で申し訳ないですm(_ _)m

>GUNモドキさん
毎回ありがとうございます。物凄い私事ですが、雪合戦の続き、読んでみたいですm(_ _)m

>19さん
思考が単純な所為か、あんまり捻った考えが出てこないんですよ。結果的にありきたりなハッピーエンドに行き着くわけですが、ほのぼの学園モノだからこれでいいか、と。今後もこんなオチばかりだと思いますが、よろしくお願いします。

>21さん
勘弁してくださいorz
よく見たら、コールの説明してないですね……orz

>喉飴さん
ありがとうございます。こんな所で、なんなんですが、毎回楽しく読ませていただいております。
31.100フクロウ削除
やっぱりルールは実際に見ないと分かりませんでした。
理解力が無くてもうしわけないです。
お話しはとても楽しかったです! 
36.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。