Coolier - 新生・東方創想話

幽谷響

2009/03/16 23:08:47
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「よ~し! ゆかりんの『スキマ酒』、いっきま~すっ!!」
「スキマ酒!! スキマ酒入りました~!」
「「喜んでー!!」」

 酒気も上々、宴会は姦し賑やかに。まるで空気そのものが酒を呷り、酔い騒いでいるかのよう。酒の肴は頬を桃色に染めた紫さま、随分と楽しそうに宴を盛り上げている。橙は自分の膝を枕に眠っている。時々撫でてやると、ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らすのだ。
 人も妖怪も、共に酒盃を交わす夢のような光景が目の前にある。もうしばらくは、このまどろみに身をゆだねていても罰は当たるまい。幻想郷の閻魔も酒心地に部下を侍らせているではないか。
 不意に、ぶるりと背筋を冷たいモノが走る。
 酔いの回る頭では、その悪寒が何モノであるか理解するのに若干の時間を有した。殺気……、ではない。自身の内側から溢れてくるものだ。吐き気……、違う。身体はふわふわぽわぽわと心地よい。橙が膝に頭をすり寄せてきて再びぶるり、悟った。

 ……おしっこ。

 所謂、尿意である。酒を飲むと近くなると言うが、そういえば宴会が始まってから一度も御不浄に立っていない。坂を転がり落ちる蹴鞠のように、意識してしまうと尿意はどんどん高まるばかり。橙がすり寄る行為にさえ刺激されてしまう。坂道を転がる蹴鞠と、追いかける橙を幻視してみたがなんの意味ももたらさなかった。もはや我慢も通り越し、八雲藍を護る結界は決壊寸前。
 橙を起こしてしまう懸念もあったが、ここで粗相をしてしまうワケにもいくまい。座布団を自分の膝の高さまで積み上げると、橙の頭をそっとずらす。橙は「藍さま~」なんて呟きながら自分の指をちゅぱちゅぱと吸っている。その様子に頬が緩む。まだまだ橙も子供だ、自分がキチンと導いてやらないと。橙の頭をもう一度撫でて、そっと席を立つ。

「……寒っ」

 酒気の篭る部屋から一歩踏み出すと、身も凍るような冷気が自分と、自分の膀胱を襲う。御不浄は離れに設置されている。穢れを嫌う神社ならではの計らいである。しかし、謂れのある住宅設計も、藍には煩わしいものでしかなかった。
 薄暗い廊下をペタペタ、ヒタヒタと歩いていくと、なにやら前方に人影が見える。自分と同じく御不浄に立ったものだろう、歩きながら道を譲るために右側へ動いた。前方の人物も同じことを思ったようで、左側へ動く、譲り合いの精神だ。良哉、良哉。とは言え、このままではぶつかってしまうので反対側へと身体を移動させた。影も自分と同じ方向へと身体を移動させる。良くあることだ。立ち止まって声をかけ、相手が通り過ぎるのを待つことにする。

「ヤアヤア、お先にどうぞ」

 影はピクリとも動かなかった。やや遅れて、「ヤアヤア、お先にどうぞ」と同じように声が返ってくる。自分はからかわれているのだろうか。声を張り上げて再び呼びかける。

「いやいや、貴方こそ先に行くべきだ。我こそは境界を操る大妖怪、八雲紫さまにお仕えし、恐れ多くも八雲の名を頂戴した式、八雲の藍。大妖怪の式ともあろうものが、我先に、などというわけにもいきますまい。さぁ、先にお通りください」

 宴会の参加者ならば、八雲の名を出して反応しないものは居ないはずだ。しかし、声はむなしく薄暗い回廊に反響してゆくばかり。……宴会の参加者ではない。つまり、得体の知れない人妖が博麗神社に忍び込んでいる、ということになる。奇怪なる目の前の影、自分と同じ動作を繰り返すその影に、一つ、心当たりがあった。

 曰く、幽谷響である。

 大分昔の話だが、紫さまから聞いたことがある。鋭い牙を持つ獣の妖怪。言霊を真似る妖怪。自ら関わろうとしなければ人畜無害の妖怪である。……しかし、決して彼の妖怪の言葉に耳を傾けてはいけない。返答をしてはいけない。返答すれば喉を潰され、魂を貪り食われてしまう。唯一つ、対処する方法は沈黙を守ること。黙して語らなければ、彼の妖怪も諦めて姿を消してしまう。はたと気がつく。……いや、待て。先ほど自分は返答してしまったではないか。気がつけば目の前の影は低いうなり声を上げていた。白い牙が時折キラリと顔を覗かせる。今、まさに、輝く切っ先が喉元に喰らいつかんとしている。言葉で説得しようにも同じ言葉を返されてしまうだけ、さりとてあの牙の餌食になるわけにもいくまい。既に戦いを避ける術は無かった。

 ならばこそ、『八雲に牙を剥く』と言うことが、どんなに愚かなことなのか、深く魂に刻んでやる必要がある。二度とこんな悪さなど出来ぬように、八雲に仇なす者全てを駆逐するが我が使命。
 彼の者よりも鋭き牙を、彼の者よりも硬き爪を、深く食い込ませ、引き裂き、四肢を散らして臓腑を抉り出してくれようぞ。

「いざ、参る!!!」






◇ ◇ ◇










 翌日、大きな姿見から生えた九つの尻尾を見て、皆一様に首をかしげたと言う。
「やっ、幽谷響! 幽谷響でございまするよ!? な、なんですか紫さま、その目は……」
沙月
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コメント



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1.60煉獄削除
鏡に突っ込んだ藍さま……ということでしょうか?
酔っていてそうなったのかそれとも御不浄に行きたいから
焦っていた解らなかったのか……。
それと橙の可愛らしさは十分に伝わってきたのですけど、
話としては……申し訳ないけど、悪くは無くても面白いとは
思えませんでした。
4.80名前が無い程度の能力削除
スキマ酒が酷く卑猥な言葉に聞こえる自分はもうだめかも知らん
5.70名前が無い程度の能力削除
幽霊の、正体見たり、枯れ尾花
結局藍さま、トイレは?
7.100名前が無い程度の能力削除
やらないか
8.50名前が無い程度の能力削除
鏡にしては表現にありえない部分が。
狙った所は面白いと思うんですけど、ちょっと半端。
10.90名前が無い程度の能力削除
けしからん。
もっとやれ。
12.80名前が無い程度の能力削除
橙に良いところは見せられなかった藍さま哀れ。
13.80名前が無い程度の能力削除
タイトルが読めるか読めないかで感じ方が全く異なるお話でした。
17.100名前が無い程度の能力削除
すきま酒・・・・・・この助平めっ!
21.80名前が無い程度の能力削除
まさか書いた本人も二年後にこのタイトルがニアミスするとは思って無かっただろうなぁw
結局、藍はトイレ行けてなくないかw
22.100名前が無い程度の能力削除
ここですでに響子は登場していたのかww
23.100名前が無い程度の能力削除
今となってはあと一文字『子』欲しい所ですね。