Coolier - 新生・東方創想話

スカーレットデビル 予告編

2009/03/11 22:00:58
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 『なあ、レミリアって優しいのか?』

 私は霧雨魔理沙の言葉を思い出していた。

 霧雨魔理沙とは私――フランドール・スカーレットの数少ない友人の一人であり、人間の友人である。この日、魔理沙は珍しく、門番長の紅美鈴を弾幕ごっこで吹き飛ばさずに、ちゃんとした手続きを踏んで紅魔館に入ってきた。魔理沙本人の言葉だから、完全に信じることはできないが、轟音が聞こえてくることはなかったし、たぶん本当なんだろう。私は、七曜の魔女パチュリー・ノーレッジの図書館で魔道書を読んでいて、同じく図書館にやってきた魔理沙とばったりと会ったのだった。魔理沙に会うのは久しぶりだった。私達は話でもしようということで、パチュリーが普段使っているテーブルのところに座った。珍しくパチュリーは薬品の研究をする、と言って、図書館の隅にある研究室に篭っていたため、不在だった。
 地底にある封じられた妖怪の街の話や、妖怪の山の上の神社で会った無意識で戦う少女の話をしながら、時間は過ぎていったが、一時間ほど経った頃だろうか、魔理沙は私にこう訊いたのだった。

 『なあ、レミリアって優しいのか?』と。

 レミリアとは、レミリア・スカーレット――紅魔館の主であり、私のお姉様である吸血鬼のことである。魔理沙はときどきこんな妙なことを私達に尋ねるのだった。前には咲夜がロリコンなのか、と聞いたことがあるらしい。私は魔理沙の質問にぽかんとしてしまったが、やがてうなずいてみせた。
 『うん……優しいと思うけど?』
『そうか……』
魔理沙はそううなずくと、もうその質問がどうでもよかったような顔をした。だが、私は気になって魔理沙にその質問の意図を尋ねた。
『いや、あいつのところには、咲夜とか、パチュリーとか、美鈴とか、色んな奴が集まってくるだろ?』
『うん、まあそうだね』
『あんな我が儘なのに』
『うん、我が儘なのにね』
『あんな意地が悪いのに』
『うん、意地悪なのにね』
しかめ面をして言う魔理沙に、私は苦笑しながらもうなずいた。吸血鬼としての性格からか、それともお姉さま個人の性格からかはわからなかったが、お姉様は実際かなりの我が儘娘だった。意地が悪いのも確かで、お姉さまは無理難題を言って人を困らせて楽しんだり、悪戯をしたりと、とても子供っぽいところがあった。
『あんな我が儘で意地の悪い奴でも、下についてくる奴がいるんだからな。あれも吸血鬼のカリスマなのか?』
『あー、どうなんだろうね? でも、吸血鬼は本来、もっとたくさんの配下の妖怪がいるらしいよ?』
『へえ。じゃあ、あいつも昔はもっと部下の妖怪がいたってことなのか?』
『どうだろう? いたのかもしれないね』
『フランは知らないのか?』
『……私は地下に篭っていたから、よくわからないや』
私の言葉に魔理沙は少しだけ申し訳なさそうな顔をして、黙ってしまった。だが、魔理沙は謝らなかった。私としても謝られても困るから、魔理沙のその気遣いがありがたかった。しばらく、魔理沙はテーブルの端を睨んでいたが、やがて私に向き直って言った。
『こんなこと言うのも、あいつの名誉に関わるかもしれないけど』
『お姉さまの名誉なんて気にしてないくせに』
『仮にあいつが過去にたくさんの妖怪を引き連れていたとして、今はそいつらがいないということは、あいつの部下だった妖怪はあいつの元から離れていったということなのか?』
 魔理沙の言葉に私は口を閉じた。私は別段腹は立たなかったが、魔理沙の言葉を肯定するのは、お姉さまに悪いような気がしたのだ。
 お姉さまの元を離れていった――
 それは、お姉さまが君主に値する器ではないことの証だということだ。
 お姉さまが我が儘だったり、意地悪だったりしたから、そうなったのかどうかはわからないが――
 お姉さまが人の上に立つのに、十分な力量をもっていないということになるのだろう。
 しばらく私が沈黙したままでいると、魔理沙はやがて首をふった。
『いや、そんなことないよな。咲夜や美鈴、パチュリーを見てればわかる。あいつらはレミリアのことが嫌いじゃないもんな』
私は魔理沙の言葉にうなずいた。確かにお姉さまのメイド長である十六夜咲夜、門番長の紅美鈴、親友の魔女たるパチュリー・ノーレッジは確固とした自分の意志でお姉さまの傍にいるように見えた。あんな自分勝手なお姉さまの傍にいるのである。それは、お姉さまが彼女達に慕われているということの証明なのだろう。
 『じゃあ、あいつにも優しいところがあるのかもなぁ』
と、魔理沙は頭の後ろで手を組みながら言った。しばらく魔理沙は天井の一点を見ていたが、やがて、私のほうに微笑んで言った。
 『そういえば、フランも意外と優しいよな』
 ……意外と、とは何だ。意外と、とは。
 私が非難する目つきで魔理沙を見ると、魔理沙は今度こそ、ごめん、と謝った。顔はにやついていたが。
『いや、フランには、どうしてか、なりふり構わず物を壊したり、妖精メイドをバラバラにしたり、って凶暴なイメージがあるからな』
『……壊されたいの?』
私がそう言って右手を開いて見せると、魔理沙は手を合わせて、すまん、と頭を下げた。やはりその顔は笑っていて、とても謝っているようではなかったけれど、私はため息をついて許すことにした。
『あくまで、イメージだって。イメージ。私は、目の前にいるおまえをそんな風に捉えちゃいないさ』
『まあ……そうだよね』
……実を言うと、私も自分に対してもっているイメージは、魔理沙と同様によくないものだった。暴走する破壊の力。死を弄ぶ狂った少女。なぜか、私も自分をそんな存在のように思ってしまうのだった。別の世界の私がいるとしたら、そんな私もいるのかもしれない。そう思う度に、私は――もしかしたら存在する彼女達には悪いと思うが――悪寒を感じるのだった。まあ、この世界の私も十分、頭がおかしいのだけれど。暴走したりしてモノを壊すこともないわけではない。
 暴力だとか、殺人だとか、人を傷つけることは嫌いなのに。
 不安そうな顔をする私に、魔理沙は慰めるように言ってくれた。
『大丈夫さ。それにおまえだって、そんな頻繁にその破壊の能力を使ってるわけじゃないだろ。メイド妖精の様子を見る限りじゃ、おまえはメイド妖精をバラバラにしてるわけがないし、最近では普通に人に会える程度には落ち着いてきてるじゃないか。だから、安心しろよ』
魔理沙は微笑んで、私の頭を撫でた。お姉さまとは違う乱暴な撫で方だったけれど、不愉快には感じなかった。私の髪の毛をかき回しながら、魔理沙は苦笑して言った。
『まあ、初対面の人に、初めましての挨拶代わりに弾幕ごっこを挑むのはどうか、と思うけどな……』
 その言葉を聞いて、私は自分の顔が赤くなるのを感じた。
『いや、それは、その……』
私は必死で弁解しようとするが上手くいかなかった。まさか、人見知りのあまり、恥ずかしくて攻撃してしまった、なんて言えるわけがない。霊夢や魔理沙たちとの初対面が弾幕ごっこだったから、頭が真っ白になると、つい弾幕ごっこに走ってしまう傾向が私にはあったのだ。魔理沙は、わかったわかった、と言って、私の髪を撫で続けた。私は魔理沙の子ども扱いする態度が気に入らなかったが、許すことにした。
『でも、最近はその癖もなくなってきたみたいだし、人見知りも直ってきてるぞ。フランはちゃんと成長してるって』
魔理沙は優しげな微笑を浮かべながら続けた。
『後は、私が本を盗みに入ってきても、注意しないで見逃してくれるようになれば……』
『それはだめ』
何、良い雰囲気のところで、無茶苦茶な要求をしているんだ、この白黒は。図書館の本はパチュリーのものなんだから、勝手に持って行っていいはずがなかった。私の言葉に魔理沙は唇を尖らせてみせた。
『ケチ』
『ケチじゃない』
『頑固』
『倫理を守る人間――吸血鬼のことを頑固とは言わない』
『ガリ勉』
『なんだか、小学生の悪口みたいになってきたね……』
『ドロワーズ』
『貴様も、お姉さまみたいなことを言うか』
『実は履いてない』
『履いてるってば』
『履いてないなんて、フランは痴女だな』
『だから、履いてるっつーの』
 その後、私と魔理沙は弾幕ごっこをした。いつもどおり、戦いの結果は引き分けに終わった。

 



 
 お姉さまは優しい。

 誰がお姉さまの悪口を言おうとも、私はこの事実を信じているつもりだった。
 お姉さまは確かに、私を地下室に495年間も閉じ込めていたが、その代わり、私が寂しがらないようにずっと励ましてくれた。私を元気付けることを考えてくれた。495年の地下生活で私が完全に心が壊れてしまわなかったのはお姉さまのおかげだった。
 地下室から出ても、お姉さまは私のことを考えてくれていた。こうして、紅魔館の中を自由に歩けるのはお姉さまが許してくれているからだし、私の生活リズムを自由にさせてくれているのもお姉さまの考えによるものだった。人里の寺子屋の先生を家庭教師につけてくれようとしたこともあった。お姉さまが優しいというのは、私にとって暗黙の事実だったのだ。
 
 だが――

 実際は、どうだったんだろう。

 お姉さまは確かに私には優しくしてくれる。

 だが、その他に対してはどうだったんだろう。

 咲夜や美鈴、パチュリーに対するお姉さまは優しかった。我が儘や意地悪で彼女達を困らせることもあったけど、思いやりの気持ちを決して忘れなかった。それは妖精メイドたちに対しても同じだった。お姉さまは主君として妖精メイドたちのことも気遣う様子を見せていた。
 
 私が知る限りのお姉さまはいつも優しかった。
 
 少なくとも、私の知る限りの。
 
 紅魔館の中でのお姉さまは――
 
 あるいは、幻想郷の中でのレミリア・スカーレットは――

 私に対して優しいのならば、お姉さまがそのほかの人間に対して優しくなかろうと、そんなことはどうでもいい――理性ではわかっているのだが、どうしても私はその覚悟を受け入れることができなかった。お姉さまが私に対して優しくしてくれるなら、当然、他の人に対しても優しいのだろう、と私は思い込んでいたのだ。

 私にとって、お姉さまとは優しくて強い存在だったのだ。



 だが、今――

 その気持ちが崩れようとしていた。



 いつものことのはずだった。
 魔理沙を見送った後、私は自分の地下室に戻り、シャワーを浴びて着替えた。
 そして、服を取り出すためにタンスを見てみたところ、タンスの引き出しのところに取り付けてあった赤い糸が切れていた。
 万が一、というより、確定的にお姉さまが私のタンスを漁ったときに気づくことができるよう、私はタンスの引き出しに赤い糸のトラップを張っていたのだった。
 ああ、またやったのか、と私は天を仰いだが、当然、見過ごすわけにもいかなかった。私は手早く着替えてお姉さまの部屋に向かった。
 本当に、それだけのつもりだったのだ。
 またいつものようにお姉さまと追いかけっこをして、弾幕ごっこをして、仲直りして――
 それだけのはずだったのだ。
 何も考えず、私はお姉さまのドアを開けた。
 いつものように、そこには下手な演技をして誤魔化そうとするお姉さまがいることを期待して、私はお姉さまの部屋に入った。



 けれども、

 お姉さまの部屋にいたのは、



 いつもとは似ても似つかぬ冷酷な顔をした美鈴と、
 感情を全て殺したような顔をして控えている咲夜、
 脳漿をぶちまけて倒れている死体、
 手足をロープで縛られて転がっている見知らぬ女性、
 そして――
 
 闇夜のような、全身の血が凍ってしまうほど冷たい表情で、見知らぬ女性を足蹴にして睨んでいるお姉さまだった。












 一瞬、部屋を間違ったのかと思った。間違えて、お姉さまの部屋じゃないところに来てしまったのかと。私は間抜けにも、全く想像だにしなかった部屋の中の光景に頭が真っ白になっていた。
 ドロワーズ泥棒の部屋に乗り込むのだ。ドアをノックする奴なんていないだろう。私も同じようにノックすることなどなく、思いっきりお姉さまの部屋のドアを開けていた。
 そんな私の目に最初に飛び込んできたのは、部屋の概観としての異様。ただ、日常と絶対的に違うということを示唆する警戒色だった。私はまず、今まで触れることさえなかった世界に足を踏み入れかけていることに気づいたのだった。
 一刹那遅れて、次に目に入ったのは、お姉さまの顔だった。お姉さま、咲夜、美鈴――そして、縛られている女性、頭の上半分がなくなっている死体のなかで、一番私の近くにいたのはお姉さまとお姉さまに踏みつけられている拘束された女性だった。私の目はまずお姉さまの顔を映した。
 それは今まで私が一度も見たことがない表情だった。喜んでいるときでも、怒っているときでも、悲しんでいるときでも、楽しんでいるときでもない。なんと表現していいのだろう? 何しろ、初めて見るお姉様の表情だから、それを説明できる言葉がしばらく浮かんでこなかった。だが、数秒の後、私の本能――おそらく、血に飢える吸血鬼としての、獲物を狩る消費者としての本能、そして、時には自分もまた天敵に襲われるだろうことを恐怖する本能が、この上なく正しいと思われる推定をつけてくれた。
 
 ――殺すときの表情。

 お姉さまは獲物を――あるいは敵を殺すときの顔をしていた。

 私はお姉さまの心臓をすり潰すような顔から目が離せなかった。

 「フラン……?」
 敵を見ることに集中していて、お姉さまは私の来室に気づかなかったのだろう。しばらくお姉さまは足蹴にしている女性に殺すような視線を向けていたが、気配を感じたのか、顔を上げて、ドアのノブを握ったまま固まっている私を見た。すると、お姉さまの冷たい表情は、まるで嘘だったかのように融けていき――代わりに信じられないことが起こったような、驚愕に染まった顔をして、間の抜けた声で私の名前を呼んだのだった。
 私とお姉さまはしばらく見つめ合っていた。
 私は思った。なぜお姉さまがそんなことをしているのだろうか。
 そして、たぶんお姉さまはこう思っただろう。なぜ私がそこにいるのだろうか、と。
 私とお姉さまは二人して自分の疑問に縛られて固まっていることしかできなかった。
 「ええっと、これはその…………」
 やがてお姉さまは誤魔化すように笑った。いつもの下手な演技でお姉さまは笑った。
 「いわゆる……あれよあれ。SMプレイって奴よ」
 あははは、とお姉さまの乾いた笑い声だけが虚しく部屋の中に響いた。お姉さまの数歩後ろで控えていたメイド長の十六夜咲夜が静かに目を伏せた。門番長の紅美鈴はやれやれとでも言いたげに、頭を掻く。
 
 どうして、こんな状況になっているのか。

 私は言いようもない衝撃と恐怖に心を乱されていたが、何とか自分を奮い立たせて、お姉さまに尋ねた。

 「……えっと、とりあえず訊いていい、お姉さま?」
 一瞬ばつが悪そうな顔をするお姉さま。だが、お姉さまはすぐに、いつもの微笑をなぞるように笑って返事した。
「ええ……いいわよ、フラン」
私は頬が引きつるのを何とかこらえながら、恐る恐るお姉さまに尋ねた。
「……その人、誰?」
「ああ、この人? この人はね?」
お姉さまは足蹴にしている女性を一瞥し、相変わらず誤魔化すように笑って言った。
「SMプレイの相手よ」
子供さえだませないような嘘だった。
「へえ、そうなの……」
「ええ」
「妖怪……じゃないよね?」
私の質問にお姉さまは一瞬、言葉に詰まったが、また強いて微笑みながら言った。
「ええ、人間よ」
「そうなんだ……」
私がうなずいてみせると、お姉さまは硬い笑顔で、ええ、そうよ、と言った。お姉さまはそれ以上のことを言おうとはしなかった。まさか、本当にSMプレイなわけがないだろう。とにかく、私はお姉さまが今、この人間の女性に何らかの激しい暴力を加えているということはわかった。
 何らかの激しい暴力。
 では、一体何のために?
 私はお姉さまに足蹴にされている女性に目を向けた。女性は教会の修道服を運動着に作り直したような黒い服を着ていた。服のところどころに十字架をモチーフにしたと思われる意匠がついている。縄で手を後ろ手で、足は足首のところで縛られていた。猿轡はしていない。私は女性の服装を確認してから、彼女の顔に視線を送ったが、彼女は私に視線を合わすこともなく、また、何も喋ろうとしなかった。ただ、苦しそうな、痛そうな顔で荒く息をするだけだった。歳は咲夜と同じくらいだろうか。それ以外わかることがなかったので、仕方なく、私はお姉さまの顔に視線を戻した。お姉さまは私を警戒しているかのように、ちぐはぐな微笑をやめなかった。
 私とお姉さまが沈黙したままでいると、お姉さまに踏みつけられていた女性が、身体をよじった。お姉さまの足が女性の身体から外れる。すると、お姉さまは笑うのをやめ、また闇夜のような禍々しい表情に戻った。
 そして、女性の胸に蹴りを入れる。
 女性の身体が吹っ飛び、壁に衝突した。女性は胸を蹴られた痛みか、壁に背をぶつけた衝撃か、苦しそうに呻き、激しく咳き込んだ。背を丸め、苦悶に耐えているようだった。私は頬が引きつるのを感じていた。悲鳴を出さなかっただけよく耐えたものだと自分でも思う。この女性を蹴り飛ばすとき、お姉さまは手加減したのだろう。吸血鬼の本気で人間の身体を蹴ったら、それこそ胸の真ん中を境に上下に分裂していただろうから。お姉さまはつかつかと倒れている人間の元まで歩み寄っていき、女性の頭の上に足を置いた。

 「誰が動いていい、と言った、人間――?」

 お姉さまの地獄から響いてくるような声に私は、胸を強く締め付けられるのを感じた。そして身体ががたがたと震えだす。そんな私の様子などお構いなしに、お姉さまは女性の頭を強く踏んで地面にこすりつけた。

 「私はいつでもお前を殺せるし、殺してもいいんだし、殺したいと思っているんだ。よく覚えておけよ、人間」

 お姉さまの瞳はまるで沸騰した血のように紅かった。しばらくお姉さまは人間を睨みつけていたが、まるで飽きたとでも言うかのように長い息を吐くと、顔を上げて私のほうを見た。お姉さまはもう無理な笑顔などせず、諦めたような、寂しいような微笑を私に向けていた。
 「……それで、フランは何の用事で私の部屋に来たのかしら?」
その声に、思わず肩が大きく震えてしまった。お姉さまの声は優しい声だった。それなのに、どうしてか私はお姉さまの声に首を絞められるような感じさえを覚えていた。
「その……私のドロワーズを返してもらおうと思って」
私がそう言うと、お姉さまは「ああ」と思い出したように声を漏らした。「そうだったわね」とお姉さまは力が抜けたように頬を緩めた。
「ごめんなさい、フラン。後で咲夜に届けさせるわ。申し訳ないけど、フランからの私へのおしおきは後でにしてもらえるかしら? 自分勝手だけど、許してちょうだい」
お姉さまはそう言って、私に頭を下げた。普段のお姉さまではありえなかった。いつものお姉さまなら、「ばれちゃ仕方ねぇ!」とか言って、バッドレディスクランブルで即、逃避を図るだろうに。それなのに頭を下げて謝るなんて、ありえないはずだった。

 いや、ありえるのだろう。
 
 この日常とは違う世界では――ありえるのだろう。
 
 私はお姉さまから数歩離れたところ――窓際に倒れている死体に目をやった。
 鼻の真ん中から上が、絨毯の上にぶちまけられていた。緋色の絨毯は黒く濡れ、さらにその上に血が半分混ざった吐瀉物のような、頭の上半分の残骸が広がっていた。
 胸が気持ち悪くなるのを必死で抑える。思わず、手を口元に運んだ。喉の奥に苦い味がいっぱいに広がるのを感じていた。
 吸血鬼の癖に情けない。
 自分でもそう思うが、よく思い出してみれば、死体を見たことなんてこの500年間、ほとんどなかった。確かに私は食事として人間の血を食べているけれど、それは全部、作ってもらった料理に含まれているだけで、実際に私が生きている人間を襲ったことなんてないのだった。妖怪の死体を見たこともほとんどない。精々、本の写真で眺める程度だ。だから、私は人間――人間に限らず、動物の死体を目にするなんて、数えるのに片手の指で足りるほどしかなかった。
 お姉さまは私の様子を見て、申し訳ないように眉を曲げた。後ろを振り返り、咲夜のほうを見る。
「咲夜」
「はい」
「悪いけど、『それ』、片付けておいて」
「……かしこまりました」
お姉さまが咲夜に視線で死体を示した。瞬きを一回した後にはすでに、死体も、絨毯の上の脳漿もなくなっていた。恐らく咲夜が能力で時間停止をしている間に片付けたのだろう。さすがに絨毯に広がった黒いしみまでは取りきれなかったようだけど。私は咲夜の表情を伺ったが、咲夜は何もなかったかのように涼しい顔をしているだけだった。美鈴もつまらなそうな顔をして、お姉さまと女性を眺めているだけだった。
 ――どうして、皆、そんなに冷静なの?
 違和感が頭を激しく揺すった。どうして、皆そんなに平気そうにしているのか? おかしいと思うのは私だけなのか? 私だけがこの世界に取り残されているのか? 違和感を超えて、私は理不尽ささえ感じ始めた。もっと言わなければならないことがあるだろうと、私は心に鞭打って言葉を探す。だが、喉のところまで声は出掛かっているのに、その言葉は口から出てくることはなかった。 
 「フラン、それで用事はお終い?」
お姉さまの言葉に、私はまた身体を震わせた。それを見たお姉さまの目がわずかに細められる。お姉さまは夕焼け空のような優しい微笑を浮かべ続けていた。
 お姉さまの言葉にうなずいてしまえば、私は楽になれるような気がした。今あったこの一件は何かの夢だったとして、忘れることができたような気がした。
 
 だが、

 「お姉さま、用事――というか、訊きたいことができたんだけど……」

 私はすでにその言葉を口にしていた。舌の上まで出掛かっていて、それでもなお出なかった言葉を話していた。言った次の瞬間、後悔が血しぶきのように噴き出した。同時に逃げ出したくなるような恐怖が私の身体を縛っていた。お姉さまが口元に手を置く。その仕草でさえ今の私には、裁判官が死刑を言い渡すために振り下ろす木槌のように恐ろしかった。お姉さまは、ふう、とため息をついた。

 「フランには知られたくなかったんだけどなぁ……」

 お姉さまは諦めるような声でぼやいた。
「フランだけには知られたくなかったんだけどなあ……」
お姉さまの口ぶりは私の次の言葉を知っているかのようだった。優しく寂しげに笑うお姉さま。そして、その間中もずっと、お姉さまの足は女性の顔を踏みつけていた。あまりにちぐはぐな光景に私はめまいすら感じていた。
 「そう……じゃあ、その訊きたいことって何かしら?」
お姉さまは柔らかい声で尋ねた。紅い瞳が私に向けられていた。私はつばを飲み込み、その視線を受ける。乾いた口を動かし、勇気を振り絞り、私はお姉さまに尋ねた。

「……ここで、何をしてるの?」

「…………」
「……SMプレイなんかじゃ、ないよね……」
「…………」
「お姉さまはどうしてその女の人を……踏んだりだとか、蹴ったりだとか……しているの?」
私の言葉にお姉さまは答えなかった。私から視線をそらして、逃げるかのように見えた。否、お姉さまは明らかに私の質問から逃げているのだった。お姉さまのその姿はまるで叱られている子供のようだった。しばらく沈黙が部屋を支配した。咲夜は相変わらず、石像のように表情を凍らせたまま、直立不動の姿勢を保っていた。美鈴は、やれやれとでも言いたげに前髪をいじっていた。どれほどの時間がたっただろう。この部屋の粘着質の空気が時間の流れを淀ませているかのように、一秒一秒が長く感じられた。だが、お姉さまがついに口を開いた。視線は逃げることなく、私に真っ直ぐに向けられていた。
「質問に答えるわ、フラン」
お姉さまははっきりとした声で言った。「こいつはね」とお姉さまは地獄の釜の火のような紅い瞳で、女性を一瞥すると短く言った。

 「敵なのよ」

 お姉さまは、怒るように、憎むように、呪うように、そして――諦めるように言った。
 
 敵。

 私は一瞬、お姉さまが何を言ってるのかわからなかった。『敵』というと、あれだろうか? 弾幕ごっこで戦って、そして、相手に自分の意志を伝えて、その後は何の恨みつらみもなし、という――。じゃあ、どうして、お姉さまは弾幕ごっこをするのでもなく、その女性を足蹴にしているのだろう?
「――それは敵とは言わないのよ、フラン」
お姉さまはため息をつくように言った。「敵というのはね」とお姉さまは初めて箸を使う子供に教えるように話し始めた。

 「本当の敵というのはね――弾幕ごっこじゃ解決できないものなのよ」

 「そうだったら、どれだけ気が楽なものか――」とお姉さまはぼやくように言ったが、やがて呆れるように笑った。
「やれやれ、私もこんなことを言ってるなんて、ぼけたものね」
お姉さまは髪を掻きあげて、自嘲するように呟いた。お姉さまは「……どこから説明しようかしら?」と腕を組んで絨毯を睨んでいたが、やがて、考えがまとまったのか、私のほうに視線を戻して言った。
「『教会』って知ってるわよね、フラン?」
 
 ――『教会』。

 聞いたことがある――というか、吸血鬼ならば知らない者はいないだろう。私も本やお姉さま、パチュリーから話を聞いたことがあった。
 外の世界で主流を成している宗教、キリスト教をまとめる宗教団体だという。キリスト教にも宗派は様々あるが、その中でも『カトリック』と呼ばれる宗派が一番大きいという。
 そして、カトリックこそが、永年に渡り、吸血鬼を敵として抗争を続けてきた集団だという――
「まあ、カトリックの中でも、さらに色々な集団に分かれるんだけどね……。平和主義から闘争主義、現世主義から魔法主義――本当にたくさんあるのよ。この女は、一つの闘争主義、魔法主義の細胞の――特務部隊かしら? まあ、吸血鬼ハンターね。それがご苦労さんなことに、ついさっき私を殺しに来たのよ」
お姉さまは女性の顔を踏む力をこめた。女性が苦悶の表情を強めて呻く。お姉さまはそれを冷たい視線で盗み見ると、説明を続けた。
「あっさりと返り討ちにしてあげたけどね。ちなみにこの女は二人目。一人目は頭半分なくしてそこに倒れてた男ね」
「後ろを取ったくらいで、殺せると思ったら大間違いなのよ」とお姉さまはつまらなそうに言った。だが、そう語るお姉さまの顔には同時に何かを楽しんでいるような陰が見えた。お姉さまの楽しそうな姿が私をより強く怖がらせた。お姉さまは私の心情などにかまうことなく、話し続けた。
「まだ二人しか見てないけど、幻想郷に来るには、こんな魔術も使えないような下っ端二人ではとても不可能だわ。当然、この二人を支持している組織がある。そして、その組織も幻想郷に潜り込んでいる可能性が高い」
「だから、」とお姉さまは言った。

「その組織自体を潰さなきゃならない。そのためには、場所と人員の特定が必要。というわけで――」

一瞬、お姉さまは私の顔を見て口ごもった――口ごもったが、すぐ何のことでもないように言った。

「こいつを軽く拷問してたのよ」

 ――拷問。

 なんてぼんやりとした言葉なんだろう。小説で見たことのある言葉だった。私は魔道書だけでなく、推理小説や冒険小説などの外の世界の小説を読むことがある。そんな本にたまに拷問という単語が出てくることがあった。パチュリーの世界史の授業でも習ったことがあった(もっとも、パチュリーは『こんな野蛮なもの知らなくていいわ』と言って、ほとんど飛ばしていたのだが) 。私は拷問というものがどんなものか一応知っているつもりだった。
 だけど、本当に拷問というものを見たのはこれが初めてなわけで――
 こんなに痛ましいものなんだ、と思った。
 拷問という言葉は、こんなに恐ろしいものなんだ、と思った。
 呆然としている私をよそに、お姉さまは喋るのをやめなかった。
「咲夜に比べれば、全然脅威というほどのものじゃなかったけど、準備はしっかりしてきているみたいね。気配と霊気を消し、さらには光学迷彩まで可能な結界が縫いこまれた服、純銀製の対吸血鬼専用の槍――なかなか見事なものだわ。結界の服は最高級品ね。私でさえ、部屋に入ってくるまで気づかなかったもの。槍もいい武器だわ。三十本くらい刺されれば、いくら私でも無事ではすまないでしょうね――」
 お姉さまの声に、私は戦慄していた。
 お姉さまはもはや楽しんでいる様子を隠そうとしなかった。今まで私に遠慮して見せないようにしていたのだろうが、お姉さまは活き活きと話し続けた。自分が殺されるかもしれないという状況で愉快そうに相手の武器を賞賛していた。
 私は改めてお姉さまの表情を盗み見る。
 
 殺す者の顔だった。
 
 「それで――」
 私はお姉さまの声を遮った。私はうつむくことしかできなかった。こんな恐ろしいお姉さまの顔を見ていたくなどなかった。私は歯を食いしばりながら言った。

 「お姉さまはこれから、どうするの?」

 私の言葉にお姉さまは喋るのをやめた。『もちろん、拷問を続けるつもりだけど?』とお姉さまが不思議そうな声で答えるのを期待して――まさか、期待などしていない。期待はしなかったが、予想していた。だが、意外にもお姉さまは――

 「……フランは私にどうしてもらいたいのかしら?」

 と、穏やかな声で私に尋ねた。その声に私は顔を上げる。お姉さまの微笑が目に映った。もうお姉さまは殺す者の顔をしていなかった。いつもの優しそうなお姉さまがそこにいた。
 安心した。
 ただ安心した。
 胸につかえていたものが少しだけ軽くなった気がした。
 私はお姉さまにどうしてもらいたいか――
 私はとにかくこの非日常を消し去ってしまいたかった。私の知る紅魔館はこんな刺々しい感情の吹き溜まりではなかった。私は自分の家でこれ以上恐ろしいことが起こるのに耐えられなかった。
 だが、私が口を開こうと意を決したとき、

 強い視線を感じた。

 私は思わずお姉さまから視線を外し、そちらのほうに目を向けてしまった。


 ――美鈴だった。


 普段、呑気に昼寝をして、妖精たちの遊びの相手をし、門番隊の隊員たちからまるで姉のように慕われる優しい美鈴が、いつもでは見せないような強い視線を私に注いでいた。
 悪意は感じられない。怒りもない。非難するような感情もない。
 だが、まるで、それは私に問うかのようだった。
 問う?
 何を?
 
 覚悟を。

 何故かは知らないけど、美鈴はまるで私に覚悟があるのかとでも言いたげな目をしていた。美鈴は、鋭い視線で『それで良いんですね?』と私に問いかけていた。

 「どうしたの、フラン?」
 お姉さまが首をかしげた。お姉さまは優しく微笑んでいた。まるで、何でも私の言うことを訊いてくれるかのように笑っていた。そして、それはその通りなのだろう。私は一瞬、躊躇したが、美鈴が視線で示すとおり、覚悟を決めて言った。

 「拷問をやめて」

 ――意外にもはっきりとした声だった。

 「拷問なんてしないで」

 私の願い事をお姉さまは優しく微笑んだまま受け止めていた。お姉さまはしばらく考えるように絨毯の紅を睨んでいたが、やがて、私に視線を戻した。

 そして、女性の頭から足を外した。

 ひゅう、と自分の気道が鳴る音が聞こえた。

 お姉さまは振り返り、美鈴を呼んだ。
「美鈴」
「はい」
美鈴が力の篭った声でお姉さまの呼び声に応じた。お姉さまは淡々とした調子で美鈴に指示する。
「この女を閉じ込めておいて。適当な空き部屋でいいわ。手と足は縛ったままで、ね。服以外で身に着けているものは全部押収して私のところにもってきて。結界に関しては心配しないでいいわ。呪文は破れているからもう発動しないでしょう」
お姉さまの言葉に美鈴はわずかに目を細め、尋ねた。ぎらぎらと光る刃のように静かな声だった。
「……もう、よろしいのですね?」
お姉さまはしっかりとうなずいた。
「ええ。いいわ」
「――かしこまりました」
美鈴は慇懃に一礼を返すと、女性のもとにやってきて、縛られたままの状態で脇に抱えた。
 私は美鈴の顔を垣間見たが、もう美鈴は険しい表情ではなくなっていた。いつもよりは無愛想ではあるが、普段に近い優しい美鈴に戻っていた。
そして、私は美鈴の片腕に挟まれている女性を見る。今まで目を合わせなかった彼女は、このとき初めて、私の目を見つめた。
 
 瞬間、

 ――ぞくり。

 ――背筋が震えた。
 禍々しい目だった。
 お姉さまと同じような心をざわつかせる不吉な目だった。

 美鈴は何食わぬ顔をして、女性を片手に抱えたままで退室した。私は固まったまま、美鈴がドアから出て行くのを見送ることしかできなかった。お姉さまのほうを向くことができるようになるまで、心臓が落ち着くのを待たなければならなかった。
 
 ようやく心拍が元のリズムに戻る。
 私はお姉さまのほうを振り返った。
 お姉さまはいつもどおりに戻っていた。
 ――少なくとも、いつもどおりであるように見えた。

 お姉さまはいつも私に見せてくれる優しい微笑を浮かべていた。
「これでいいわね、フラン?」
 お姉さまは笑みを深くして首をかしげた。私は呆然としていたが、慌ててうなずいた。すると、お姉さまは安心したように――だが、どこか寂しそうに――「そう、よかったわ」と微笑んだ。
 「そうだわ」とお姉さまは手を打ち、愛用の机に向かった。お姉さまは白い布を取って戻ってきた。
言うまでもない。私がこの部屋にやってくる原因となった私のドロワーズだった。お姉さまはそれを私に渡すと、深々と頭を下げた。

「――ごめんなさいね、フラン」

 頭を上げたお姉さまは恥ずかしそうに――そしてとても申し訳なさそうに笑っていた。
 私は渡されたものを手にして、突っ立っていることしかできなかった。
 ――いつものお姉さまじゃない。
 こんなに正直に謝ってもらえることなんて初めてなのに――
 お姉さまが素直に謝ってくれる姿が、私にはなぜか不安で、嫌な予感がして――そして、とても悲しかった。













 







 失敗したか――と私は思った。
 フランが出て行った後、私は自室の机の前に一人で座っていた。机の上には咲夜の淹れてくれた紅茶がある。咲夜には一人になりたいからと言って、外してもらった。今は紅茶を飲みながら、美鈴があの女から押収したものをもってくるのを待っているところだった。
 
 しかし、あそこでフランが部屋に入ってくるなんて、予想外だった。
 まあ、その後のやりとりは私のいつかの想像の範疇だったのだが。
 
 ――『拷問をやめて』。

 そう言ったフランの顔が今でも私の網膜に焼き付いていた。あんな必死で切実な顔をしたフランを見るのは久しぶりだった。そして、その理由が自分になるとは思いもしなかった。
 
 自分がフランを悲しませることになるなんてね――
 
 いつかこんな日が来るのかもしれないと覚悟はしていたが、本当に来てしまうとはね――
 私は紅茶を飲んでは、ため息をついていた。
 もっとも、フランの前で拷問を続けられるはずがなかったのだ。あの子の前で自分のそんな残虐な一面を見せるなど、勘弁願いたかった。フランにやめてと言われなくても、私はあれ以上、あの教会の人間を拷問することはできなかっただろう。
 私はフランの震えるほど怯えた顔を思い出した。
 ……あいつらの武器について話しすぎたのがよくなかったか。
 私はまた紅茶を口に含んで反省していた。あのとき私はつい興奮していたのだ。昔の血が騒ぐというのか――私はあのとき、自分が久しぶりに『戦場』に身を置けたことを喜んでいた。
 吸血鬼の血なのか、それとも、私の気質の問題なのか――。おそらく両者だろう。吸血鬼である限り、好戦的な人格になりやすいものだし、そして私はその吸血鬼の中でも特に『血に飢えた』吸血鬼だということだ。フランは優しい子だが、好戦的であるのは確かだった。あの子の一番の楽しみは弾幕ごっこだった。本来、殺し合いのための妖気弾を殺傷力を抑えたものを使う遊び。それは確かに遊びだが、同時に闘争でもあった。弾幕ごっこは安全な戦争ごっこなのだ。
 だが、弾幕ごっこで死亡した妖怪というのは聞いたことがなかった。ならば、結局のところ、弾幕ごっこはやはり遊びに過ぎないのだろう。だから、フランが弾幕ごっこをしたがるのは、殺し合いが好きなのではなくて、ただ単純に戦い――力比べを楽しんでいるだけなのだ。相手を殺さないでできる戦争ごっこ。それがフランにとっての弾幕ごっこなのだ。
 
 フランは人を傷つけるのが好きなわけではない。
 まして、人殺しが好きなわけではない。
 
 『気がふれている』、『情緒不安定』、『頭がおかしい』…………

 一連のフレーズを思い出す。
 私は自然に笑っていた。
 純粋におかしいから笑っているのか、自らを嗤っているのか、自分でもわからなかった。

 まあ、フランのことはともかく――
 これはレミリア・スカーレットの問題なのだ。

 吸血鬼がどうのこうのという話ではなく私の問題なのだ。

 わかりきった結論だった。
 答えはとうの昔に出ている問題だった。

 しかし、どうしたものか。
 ひとしきり笑った後、私は自分でも不愉快に感じる笑い声を黙らせ、カップを傾けながら思った。
 フランが私の部屋に訪ねてくるのは想定外だった。フランのドロワーズを盗んできたことを覚えていれば、こんなことにはならなかったのだが、つい忘れてしまっていた。まあ、悔やんでも仕方ないだろう。我ながら恐ろしく間抜けだったが、今回は運が悪かったことも確かなのだ。今の段階ではこれからのことについて考えるべきだった。
 あの女の始末をどうすべきか。

 ――『拷問なんてしないで』。

 またフランの言葉が耳に甦った。
 拷問が駄目だったら、殺人はもっと駄目だろう。
 フランの見えないところで殺すという手もあるが、きっとフランは気づいてしまうだろう。あの子は悪意だとか、害意だとか、そういう人の悪い感情に敏感なのだ。私が人間を殺せば、あの子はたとえ一つの根拠もなくても、きっとそれに気づいてしまう気がした。
 
 「あの子は、ほんとに悪魔の妹なのかね?」

 私は椅子の背もたれに身体を任せ、天井を見上げながら一人ごちる。それも仕方のないことなのかもしれなかった。地下室暮らしを495年間も続ければ、人間が人間らしくなくなるように(人間は495年も生きられないが)、悪魔も悪魔らしくなくなるのかもしれない。そして、私はフランに『人間』として接しすぎたのやも知れない。
 
 ――まあ、なんだかんだで、私はあの子のことが可愛いんだけど。

 思わず、自嘲の息が口から漏れる。とても『スカーレットデビル』の言葉とは思えなかった。『スカーレットデビル』と恐れられた吸血鬼はもっと残忍なはずではなかったか。誰に何を言われても、非道の限りを尽くす悪魔ではなかったか。
 もっとも――
 『スカーレットデビル』という概念は、フランのための概念でもあるのだから、全く間違っていないのだが。
 それにしても私も平和ボケしたものだ。幻想郷自体平和ボケしているとはいえ、たった数年でこんなに自分が甘くなってしまうなんて思いもしなかった。
 私は神社の縁側で呑気にお茶を飲んでいる巫女と、図書館に忍び込んでは本を盗んでいく、不敵な笑顔を見せる魔法使いを思い出していた。自然と笑みがこぼれるのを感じた。あいつらと一緒にいれば、ボケてしまうのも仕方ないことなのかもしれなかった。

 でもまあ――

 私は長い息を吐いた。

 いくらボケようとも――
 殺すときは殺さなきゃならないんだけど、ね――

 『スカーレットデビル』と呼ばれた吸血鬼は紅茶を啜りながら思う。
 『スカーレットデビル』であるがゆえに思う。
 『スカーレットデビル』であるために思う。

 『スカーレットデビル』か……
 私は自嘲する。
 全く、道化に相応しい渾名だよ……
 
 ……しかし、興がそげたな。
 
 私は額に手をやり、再び天井を仰いだ。今から拷問を再開しようにも、すでに私の心からサディスティックな気分は消えていた。いくら私でも、いつもの素の状態で人間を嬲る気にはなれない。そして、フランの顔と言葉が脳裏にちらついていた。とてもではないが、あの人間に会いたいとは思えなかった。
 どうしたもんかね、これは。
 あいつらの組織の場所を割り出すのは確定事項なんだけれど。
 確定されているのなら、その未来に向かって突き進むのが私の流儀のはずなのに。
 しかし、いざやろうと思っても、どうしてもその気が起こらなかった。

 私がうーんと唸りながら、天井を睨んでいると、ドアがノックされた。美鈴だろうか。「開いてるよ」と声をかけると、入ってきたのは意外にも別の人物だった。
 動かない大図書館――パチェだった。
「あら、パチェ? ティータイムでもないのにどうしたの? それに今日は何か大事な実験があるって話していなかったけ?」
私の言葉にパチェはむすっと不機嫌そうな表情を見せた。そして、いつもより低い声で話しながら、私の机近くにあった椅子に座る。
「……ちょうど『ネズミ』が入ってきてね。邪魔されたわ」
「『ネズミ』? 魔理沙のこと?」
「いえ、別の『ネズミ』よ。十字架の皮を被った珍しい種類の、ね」
ああ、と私はうなずいた。そうか、あいつらはパチュリーのところにも来ていたのか。
「そう……あなたのところにも来ていたの」
「『も』ということは、レミィのところにも齧りつきにきたのかしら?」
「ええ、二匹ね。一匹は殺したけど、もう一匹は空き部屋に閉じ込めているわ……パチェは?」
「私のほうは一匹……七曜の魔女もなめられたものね。研究室の床に黒くなって転がっているから、後で咲夜に言って片付けてもらえないかしら? 研究室が煙臭くてしかたなくて」 
「ああ、わかったわ。咲夜に後で言っておく」
「お願いね」
私はパチェにカップを差出し、紅茶を注いだ。パチェは「ありがと」と短く礼を言い、紅茶に口をつけた。パチェは一口啜ると、ふうとため息をつき、相変わらず不機嫌そうな顔で呟く。
「……幻想郷に来てまで、あの馬鹿共の相手をしなくちゃならないなんてね」
「全くもって同意だわ」
パチェの言葉に私は渋い顔をしてうなずいて見せた。すると、パチェは意外そうに目を少し開けた。
「……レミィも不機嫌なの? あなたのことだから、もう少し楽しそうにしていると思ったけど」
「よしてちょうだい」
私は苦笑しながら、顔の前で手を振った。
「あんな陰気臭い連中の相手なんか真っ平ごめんよ。まだ、霊夢たちと弾幕ごっこしてたほうが楽しいわ」
私がそう答えると、パチェはじっと私の顔を見ていた。そして、また一口紅茶に口をつけ、長い息を吐いた。パチェは遠くのものを見るような目をし、独り言を言うかのように呟いた。
「レミィ、変わったわね」
「…………」
「……否定しないってことは、自分でも認めたのね」
「……まあ、そういうことかしらね」
「レミィらしくもない」
「全くね」
私がうなずくと、パチェは目を細めた。訝しげな口調――といより、ほとんど心配するような口調で、パチェは私に尋ねた。
「どうしたの、レミィ? 珍しくずいぶん素直じゃない? というより、元気ないわよ」
「……別に何もないわよ」
私はパチェから顔を背けた。だが、パチェはティーカップを両肘を机の上に乗せ、組んだ手の上に顎を置き、つまらなそうに言うのだった。
「どうせ、妹様のことでしょ?」
「…………」
「妹様に何か言われたんでしょ?」
……さすがは我が親友といったところか。よく私のことをわかっている。だが、それは都合のよいこともあるが、今みたいに都合の悪いこともあるわけである。パチェは「やっぱりね」と額に指を当てた。
「ほんと、レミィってわかりやすいわね」
「余計なお世話よ。……ていうか、パチェ、そんなに私元気ないように見える?」
「ええ。どう見ても落ち込んでるようにしか見えないわ」
「そう……」
そうか、私は落ち込んでいるようにしか見えないのか……自分ではそれほど感じていないのだが、ひょっとしたら、心の奥底では私は相当がっかりしているのかもしれなかった。情けなかったが、なんとなく身体から力が抜けてしまった。パチェは私の様子を見て眉をひそめた。
「相当重症ね。まあ、深くは訊かないけど……」
パチェは紅茶を飲み干し、机の上に戻した。ポットを上げてみせて、お代わりを尋ねるが、パチェは首を振る。そして脇に抱えていた本を膝の上に広げ、目を落とした。パチェは本を読みながら、どうでもよさそうに私に訊いた。
「それで、今夜、報復するんでしょ?」
「…………」
「私も手伝ってあげるわ。一宿一飯の恩義って奴ね」
「…………」
「まあ、あの程度の暗殺者しか送ってこないんだったら、たかが知れてるけどね。私が手伝うまでもなく、あなたと美鈴だけで十分だろうけど」
「…………」
「……レミィ?」
私が何も言えずに黙っていると、パチェはようやく本から顔を上げて、私の顔を見た。訝しげなパチェの視線。しかし、私は渋い顔をして、彼女の視線に応える以外なかった。
「どうしたの? 報復するんでしょう?」
パチュリーは怪訝な顔でなお尋ねた。だが、やはり私は沈黙せざるをえなかった。
「……まさか、しないの?」
驚愕する表情を見せるパチェ。私以外の人が見ても驚いていることがわかるほど、パチェは吃驚していた。私はこれまた後退りするような、低い声で呟くことしかできなかった。
「いや、しようとは思うんだけど……」
「……思うんだけど?」
「……できないんだよねぇ」
パチェは馬鹿でも見るような目で私を見た。気持ちはわかる。今までの私――『スカーレットデビル』を知っている人間なら誰もが、こんな反応をとるだろう。もっとも一番驚いているのはパチェでもなく、私だろうけど。パチェはそんな私の気持ちを知ることもなく、首をかしげて言った。
「それは、相手の場所を知らないからできないってこと? それとも、そもそもやりたくないっていうこと?」
「あー、今のところ、前者。まず、敵の居場所がわからない」
「……わからない?」
パチェは顎に拳骨をあて、目を細くして私を見やった。
「レミィにしては手際が悪いわね……。さっき、一人は部屋に閉じ込めているって言ってたから、もう聞き出していたかと思ったわ」
「ああ……まあ、ちょっとね」
パチェの言うように、いつもの私ならば、『あのとき』に聞き出していただろう――『いつもの』私だったら。私はやはり何も言い返すことができなかった。口を開こうとするたびに、フランの悲しげな顔が浮かんできて、動かそうとした舌が止まってしまうのだった。
 確かに重症かもしれない。パチェの言葉通り、私は想像以上にショックを受けているようだった。
 だが、ここは気を引き締めないといけない。
 今までそうやってきたのだ。
 ここで変更するというわけにもいかないのだ。
 そう自分に言い聞かす。
 そう自分に言い聞かすのだが……
 その答えに疑問符を浮かべる自分がいた。
 もうやめてもいいんじゃないか、と呟く自分がいた。
 それにフランの声が重なる。
 だが――
 それでも、私は――
 ……………………。
 堂々巡りの思考に、私はだんだんイラつき始めた。
 ハムレットかっつーの。
 殺すと決めているのだから、早く殺せばいい。
 簡単な話なのだ。
 しかし、そう思うたびにフランの悲しげな目を思い出すのだった。
 ――勘弁してくれ。
 これでは私のほうが拷問を受けているようではないか。
 いくら考えても自嘲しか出てこない。
 私は思わず、「……うー」、と頭と膝を抱えた。すると、パチェは呆れたようにため息をついた。
「レミィ、そのポーズをとっていると、カリスマも何もあったもんじゃないわよ……」
「うるさい。どうせ、私はヘタレな幼女さ」
「レミィ……あなた疲れてるのよ」
「そのセリフ、パチェからはギャグのときに聞きたかったな……」
 「何を言ってるんだか」とパチェは再びため息をついた。どうやら、今日は『ため息デー』らしかった。私もパチェもため息ばかりついていた。
 しばらく私とパチェは向かい合って、黙り込んでいた。
 パチェは膝の上の本に再び視線を落としていた。
 パチェが何を考えているのか――私は知ることはできなかった。
 知る由もなかった。
 …………。
 否。
 知る必要はないのだろう。
 知るまでもないのだろう。
 おそらくパチェがどう思おうと、彼女は私の言葉に従ってくれるだろうから。
 要は私の意志一つだ。
 私の殺意一つだ。
 やれやれ。
 まさか、数年くらいで、人の殺しかたも忘れてしまうとは。
 平和ボケも大概にしておかないと。
 私はパンと自分の両頬を張った。そして、数秒自分の心をじっと見据える。
 ……うん、私だ。
 これは、私だ。
 いつもの私だ。
 もうフランの声も顔も頭の中には残っていなかった……ということはないが、かなり弱くなった。
 これが私の義務なのだ。
 誤魔化しのきかない、私の仕事なのだ。
 私は私の義務を全うしなければならない。
 私は私に課した責務を遂行しなければならない。
 数年ぶりに気合を入れなおしたところで、コンコンとドアがノックされた。恐らく美鈴だろう。「開いてるよ」と声をかけると、案の定、紅い長髪をなびかせて、門番長の美鈴が入室した。美鈴は一礼すると、私の机の前までやってきた。
「これが、あの女がもっていたものです」
そう言って、美鈴は私にいくつかの物品を渡した。私は「ご苦労様」と応えて、それらを受け取り、すぐに検分を始めた。
「お疲れ、美鈴。帰っていいよ」
と美鈴に声をかける。だが、美鈴が立ち去る気配がしないので、私は顔を上げた。
 そこにいたのは普段の――否、幻想郷の美鈴ではなかった。
 幻想郷に来る前――少し懐かしささえ感じる、いつもどおりの美鈴がそこにいた。
 美鈴はアルカイックスマイルのような微笑をたたえて言った。
「――どうやら、大丈夫のようですね」
その言葉を私は一瞬理解できなかったが――気づいたとき、私は自然と頬が上がるのを感じていた。
 私は牙を美鈴に見せ付けて笑った。
 ――自嘲するように笑った。
「もちろんよ」
私は昔の――いや、いつもの感情が甦ってくるのを感じていた。
「私は『スカーレットデビル』だもの」













 







 私は地下室のベッドの上で膝を抱えて震えていた。
 お姉さまの禍々しい表情が頭から離れなかったのだ。
 そして、同時にあの優しそうな笑顔も――

 どっちが本当なの?
 
 どちらが本当のお姉さまなの?

 馬鹿馬鹿しい――私の理性が嗤う。
 どちらも本当に決まっているのだ。
 人は多面的な生き物だ。その場その場、その人その人によって見せる顔が違う。私だってお姉さまに見せたくない一面があるし、お姉さまだって私に見せたことのない表情があるのだろう。
 理性ではわかっている。理屈ではわかっているのだ。
 だが、認められなかった。
 認めたくなかった。
 お姉さまがあんな恐ろしい顔をするなんて知りたくもなかった。
 お姉さまが他者にあんな悪意を見せるなんて考えたくもなかった。

 もし――

 あの顔を私に対して向けることがあったら――

 そう思うだけで、身体の震えが止まらなかった。カチカチと歯が音を立てる。寒くもないのに、歯の根が合わない。ドキドキと自分のものでないように拍動する心臓がうるさい。

 『なあ、レミリアって優しいのか?』
 
 魔理沙の言葉が思い出される。不思議そうに尋ねた魔理沙の顔を思い出す。

 それは――私のほうが訊きたい。
 私のほうが、お姉さまが優しいのかどうか訊きたい。
 私はお姉さまが優しいと信じられるのかどうか訊きたい。
 
 理性が冷静に私を嘲笑した。
 
 人に殺されそうになってまで、人に優しく必要があるの、と。

 そうだ。その通りだ。

 お姉さまは殺されそうになったんじゃないか。
 教会とかいう、よくわからない組織の人間達に。
 あれは正当防衛だ。お姉さまが悪いことなんて一つもないのだ。
 お姉さまの悪意は正当なのだ。
 もはや、優しいか、優しくないかという問題ではないのだ。
 
 だが、また理性がおかしそうな声を立てる。どっちつかずの不誠実な理性が笑い声を立てる。

 でも、拷問する必要はあったの? 
 返り討ちにされて、もう戦えない人間を――
 ただでさえ重傷な人間を拷問する必要はあるの?

 それは――
 私は膝に顔を押し付ける。額をぐいぐいと膝頭に押し当てて考える。
 お姉さまがあの女性を拷問したのは、組織の在り処を知るためだった。
 組織の場所を知り、組織を撲滅するためだった。
 自分に再び火の粉が降りかかってこないように――
 当然のことだ。
 お姉さまのやったことは常識的な判断だ。
 お姉さまは自分の――そして、私達の生存のために妥当な判断をしただけだ。
 お姉さまの拷問も私のためだったのだ。
 お姉さまは私のために拷問してくれたのだ。
 これは喜ぶべきことなのだ。
 喜んでしかるべきなのだ。
 『拷問をやめて』と言うのではなく、
 『お姉さま、拷問してくれてありがとう』――
 そう言うべきだったのだ。
 ――自然と私の目から涙が溢れてきた。私は涙を拭う気力もなかった。頬を涙がとめどなく零れ落ちた。
 ……無理だよ。
 ありがとう、なんて言うのは無理だよ。
 喜ぶなんて無理だよ。
 私には無理だよ。
 ――これは私の我が儘なんだろう。
 世間知らずな私の我が儘なのだろう。
 それはわかってる。
 わかってるのだ。
 わかってるけれど――
 私はぐわんぐわんと揺れる頭を押さえた。狂ってしまわないように必死で押さえつけた。
 正直、わかりたくなかった。
 そんな理屈、わかりたくなかった。
 そんなルールのないところで、生きていたかった。
 お姉さまを疑うことなく生きていたかった。
 
 拷問なんてしてほしくない。
 そして、
 これ以上、人を殺してほしくない。

 組織を滅ぼすとはより多くの人を殺すことになるのだろう。
 お姉さまはこれからもたくさんの人間を殺すつもりでいるのだろう。
 
 我ながら愚かだと思った。自分は馬鹿なことを言っているなぁ、と自覚していた。
 吸血鬼が人を殺すな?
 馬鹿も休み休み言え。
 吸血鬼にとって人間なんて食糧だろうに。
 食糧の命を気遣ってどうする?
 飢え死にしたいって言うのか?
 そして、吸血鬼と人間は争い合う関係なのだ。
 吸血鬼が人間を食糧にする代わりに、人間は吸血鬼を退治するために戦う。
 お互いは殺し合う運命なのだ。
 吸血鬼が人間を殺すのはこの世の真理なのだ。
 だが――
 私は知ってしまった。
 二人の人間に出会って。
 そして、咲夜と暮らすことで。
 人間だって、私達と同じなんだと。
 一緒に会話もできるし、遊ぶこともできると。
 確かに、私たちは人間を食糧にしないと生きていけないし――
 吸血鬼と人間は戦いを免れない運命なのかもしれないけど――
 仲良くできる人間とは仲良くしたいんだ。
 食糧としてでなく、友達として。
 敵ではなく、友人として。
 ――お姉さまもそうじゃなかったのだろうか。
 お姉さまも人間をそう捉えていたから、霊夢たちと仲良くできたんじゃないのか。
 お姉さまにとって人間とはどんな存在だったのだろう?
 私と同じように友人としてありうる存在だったのか?
 それとも簡単に殺してしまえる存在だったのか?
 吸血鬼にとって人間はそんな存在以外ありえないのか?
 ……わからなかった。
 お姉さまのことがわからなかった。
 こんなに大好きなお姉さまのことがわからなかった。
 そして――
 
 私はお姉さまを好きでいていいのかどうか――わからなかった。

 今の私にはそんな当たり前のことさえ、崩れてしまったのだった。

 時計を見る。六時半を少し過ぎていた。もう少しで晩御飯だった。
 きっと咲夜が私を呼びに来る。
 それまでに泣いていたのを悟られないようにしないと。
 私の頬はすっかり涙にぬれていた。目もきっと赤く充血しているだろう。そんな顔で人に会うのは恥ずかしかったし、何より、人にあれこれ心配されたくなかった。
 お姉さまに心配をかけるのは一番嫌だった。
 私が思っていることを伝えたら、お姉さまはどう思うだろう?
 悲しむだろうか。それとも、何とも思わないだろうか。
 ――どちらも嫌だった。
 洗面所に向かう。蛇口をひねり、手で水を受けて、それで顔を洗う。ひんやりとした水の感触だけが私を慰めてくれた。
 少しだけすっきりとした心で思う。
 私はお姉さまにどうしてほしいのか、と。
 私はお姉さまにどうあってほしいのか、と。
 ――許されるのだろうか。
 それを伝えることは許されるのだろうか。
 私はお姉さまにそう言う資格があるのだろうか。
 わからない。私にはそれすらもわからない。
 わからないが――
 晩御飯のときに私はお姉さまと顔を合わせるのだろう。
 そのとき、私はどうすべきなのか――
 そして、どうすべきでないのか――
 覚悟と不安がない交ぜになった気持ちで、私は時間が来るのを待った。

 

 やがて、咲夜が迎えに来た。
 咲夜はお姉さまの部屋にいたときの冷たい表情はもうなくなっていた。いつものように優しい微笑を浮かべて私を迎えに来てくれた。
 だが、咲夜に案内された食堂には、お姉さまはいなかった。
 「お姉さまは?」
 咲夜に尋ねると、咲夜は苦笑して言った。
「レミリアお嬢様は今、お仕事中なので、後でお食事をとられるそうです」
「仕事?」
「はい。書類仕事がたまっていらっしゃいまして。最近、さぼり気味でしたから」
「へえ、まあ、お姉さまらしいね」
「本当ですわ。今日だって、私に適当に判押しておいて、などと駄々をこねるのですから、ほとほと困ってしまいました」
 咲夜はくすくすと笑った。私も咲夜に釣られて微笑む。
 私は咲夜の言葉に納得しかけたが、どこか突っかかるような違和感があった。
 咲夜は微笑んだまま、厨房へと身体を向けた。私の食事を運んできてくれるのだろう。
 だが――気づくと、私はその背中に問いかけていた。
「ねえ、咲夜」
 私の呼び声に咲夜が振り返る。咲夜の顔に浮かぶのは数秒前と変わらない微笑。いつもの瀟洒なメイド長のそれだ。私のよく見知った笑顔だった。
 心が躊躇いの気持ちを見せる。だが、舌はそれを振り切り、動き出していた。
 「――お姉さまは本当に書類仕事をしているの?」
 私の言葉に、咲夜の眉がぴくりと上がった。あ、まずいな、と思う。しかし――
 「お姉さまは本当は――」
 ――後悔するとわかっていながら、口が動くのを止められなかった。
 「――拷問でもしてるんじゃないの?」
 言い終わった瞬間、後悔が汗のように噴き出してきた。口の奥に罪悪感がじわりと広がる。咲夜は微笑を消し、冷たく細めた目で私のことを射抜いていた。私は必死で咲夜の視線に耐えた。ここまで進んで退くことは許されなかった。睨み合いはおよそ一分まるまる続いたが、咲夜はやがて諦めたように首を振った。
 「いえ、正直に申し上げまして、お嬢様はお部屋で書類のサインの仕事をされています」
 咲夜は緊張を解き、微笑んで言った――心配するように眉が力なく下がっていた。
 「フランお嬢様、ご安心ください。あれからお嬢様はあの教会の者に会われていませんから」
 咲夜はどうしてか切なそうに笑ってそう言った。
 ――咲夜が嘘をついていないとは限らない。もし、咲夜がお姉さまから何か口止めされていたとしたら、咲夜はどんなことがあっても私に本当のことを言わないだろう。だが、このとき、咲夜はきっと嘘をつかないだろうと信じることができた。それこそ根拠がないが、咲夜を信じなきゃいけないような気がしたのだ。
 私は正直に咲夜に頭を下げた。
「ごめん、咲夜。変なこと訊いて」
 咲夜は、「このようなことで、頭を下げないでください」と手を振る。顔を上げると、咲夜の困ったような笑顔があった。
 咲夜は落ち着きのない生徒を心配する教師のような微笑をしばらく私に向けていたが、やがて、ふっと表情を柔らかくして言った。
 「フランお嬢様はお優しいですね」
咲夜の言葉に私はぽかんとした。
「私が優しい?」
すると、咲夜は綺麗な微笑でうなずいた。
「はい。フランお嬢様は慈悲深いお方です。それは誇ってもよいことなのだと思います」
「きっと、素晴らしいことなのでしょう」――咲夜は嬉しそうに再び首を縦に振った。
 だが、すぐに眉を歪めて――力なく微笑んで言う。
 見ている私が切なくなりそうなほど、悲しい笑顔で言う。
「ですが――いえ、だからこそ、フランお嬢様はレミリアお嬢様のなされることが許せないのでしょうね」
 咲夜の蒼く透き通った目は、私の心を奥まで見渡しているようだった。咲夜は私の知らない私の部分まで理解しているかのように言った。
 「おゆはんが冷めてしまいますから、急いで持ってきますね」
そう言って咲夜は再び厨房へと、身体を向けた。私はもう咲夜を引き止めるようなことはしなかった。
 胸にぽっかりと穴が開いたようで、無性に寂しかった。
 咲夜の食事はいつもどおり美味しかった。
 美味しかったが――どうしてか満たされた気分にはならなかった。
 「ねえ、咲夜、」
 私は夕食が終わってから、片づけをしてくれている咲夜に尋ねた。
「咲夜はお姉さまが優しいと思う?」
私の質問に咲夜は一瞬、きょとんとしたが、すぐに柔らかく笑って答えた。
「さあ……優しいときもあれば、優しくないときもあるかと思います。どんな人間――いえ、お嬢様は吸血鬼でしたわね――どんな妖怪もころころと心は変わるものです」
ですが、と咲夜は言葉を続ける。
「たぶん、フランお嬢様はこの答えでは満足していただけないでしょうね」
「…………」
咲夜は切なげで――だが、強さを感じられるような綺麗な笑顔を見せてくれた。
「――よろしいのではないでしょうか?」
「……『よろしい』って?」
「レミリアお嬢様が優しいと信じていても」
「…………」
「どんなにお嬢様が残虐非道な方でも私達が優しいと信じていれば」
「…………」
「私は信じますよ」
咲夜は明るい声で言った。
「私はレミリアお嬢様が優しい方だと信じます」
咲夜は当然であるかのように言った。そして、私に訊き返した。
「フランお嬢様は信じられないのですか?」
――私は咲夜の言葉に答えられなかった。
「フランお嬢様は、レミリアお嬢様を信じられないのですか?」

 どんなに時間がかかっても、私は咲夜の質問に答えることができなかった。



 私はドアの前にじっと立っていた。
 咲夜が来ないか心配だったが、幸い、咲夜は別の仕事をしているようだった。廊下を掃除しているメイド妖精たちもいない。私は廊下にぽつんと一人立っていた。
 まるで、世界に独りぼっちで取り残されたかのようだった。
 ――それは比喩ではないのだろう。
 今の紅魔館は私にとって異質なものだったから。
 あるいは、私が紅魔館の部外者なのか――
 私はお姉さまの部屋の前にいた。
 ここいる限りは、お姉さまの部屋に入るべきなのだろうけど――
 私はドアのノブを握ることさえできなかった。
 当然だ。
 そもそも私はお姉さまに用なんてないのだから。
 いや――用はある。用はあるのだ。
 だが、口に出すことができない。明確な言葉にすることができない。
 お姉さまに会ったところで、私は何を言っていいのか、わからなかった。
 どれくらい悩んだだろう。それは1分でもある気がするし、1時間でもある気がする。1秒、あるいは3時間は、まあないだろう、と言える程度だ。
 お姉さまの部屋の前で私はただ曖昧な時間をすごしていた。
 しかし、このまま待ち続けるわけにもいかない。
 けれども、目の前のノブを回す程度の勇気さえ持ち合わせていなかった。
 やはり、私はお姉さまの部屋の前で立ち竦むことしかできないのだ。
 まるで駄々をこねる子供だった。無いものをねだり続ける子供だった。
 「どうすればいいんだろう」
 私は思わずぼやいた。弱々しい声は薄暗い廊下に響くこともなく消えた。
 私は頭を抱えた。意味もなく泣き出したい気分だった。
 「どうすればいいんだろう」
 
 「――どうすればいいんでしょうね?」

 突然、耳元に声が聞こえた。

 「うわっ!」、と心臓が口から出そうになるほど驚いて、私は後ろを振り返った。
 すると、そこには、背の高い女性がいた。目立ちのはっきりとした美しい女性だった。闇に溶けるような黒髪を腰まで伸ばしている。細い体格だが、それは決して貧相ということではなく、いかにもしなやかで武道家を思わせた。彼女の着ている服は紅魔館ではあまり見かけないものだった。和装なのだろう。写真で見せてもらったことがあったが、人里に住む人達がよく着るような服装だった。
 ――まさか、教会の人間?
 私は突然現れた女性から、数歩後ろ足で飛び退った。そして、スペルカードを構えた。
 だが――
 「ストップストップ!!」
 女性は慌てたように手を振った。必死な表情でぶんぶんと両手を振り乱している。
 聞いたことのある声だった。
 私はスペルカードにこめた魔力を開放するのを思いとどまる。
 数秒考えた後、ようやく目の前の女性が誰だか理解した。
「……美鈴?」
 私が呟くと、目の前の女性は「ほー」と息を吐き、苦笑して頭を掻いていた。 
 「やっとわかってくれましたか」
 髪が黒かったから、最初はわからなかったが、私の後ろに突然現れた女性は本当に美鈴らしい。
 私は、はあ、と息をついてスペルカードをしまった。
「美鈴、悪戯はやめてよ。びっくりしちゃったじゃない」
私が口を尖らせてそう言うと、美鈴はすいませんと笑って謝った。はきはきとした動作、溌剌とした笑顔。間違いなく美鈴だった。
 しかし――
「美鈴、どうしてそんな格好してるの?」
大陸風の服装と星のついた人民帽が美鈴のトレードマークだった。メイドの仕事を頼まれたときは、メイド服を着ることもあった(ちなみにこのときは妖精メイドたちがキャーキャー言いながら、美鈴の後を追いかけていた。咲夜はそれを見て、頭を抱えていた)。だが、今のような和装――しかも浴衣でも着物でもなく、もんぺのような地味な服装をしているのは珍しかった。
 私が尋ねると、美鈴は「ああ、これですか」と自分の服を見返した。「変ですかね?」と逆に訊かれる。
「いや、変じゃないけど……。それに髪まで黒く染めて。本当にどうしたの?」
私の質問に、美鈴は何でもないように笑って答えた。
「いえ、久しぶりにおつかいを頼まれるみたいで」
 ……おつかい?
「おつかいっていうと、その格好はおつかいに行くためなの?」
「はい」
「だけど、おつかいって言っても……」
私は窓の外を見てから言った。晴れた空には多くの星が広がっていた。
「もうこんな夜なのに?」
すると、美鈴は可笑しそうに手を振った。
「嫌ですね、フラン様。妖怪は夜活動するものじゃないですか」
美鈴の言葉に、それもそうか、と納得しかけたが、妙な間違いを発見した。
「……でも、美鈴、昼型の妖怪じゃん」
すると、美鈴は失敗したかのように、鼻の頭を掻いた。
「……ああ、それもそうですね。すっかり忘れてました」
「忘れてたって……。それでも行くの?」
「まあ、昼型の妖怪っていっても、夜のシフトに就かされることも少なくないですし、危険な仕事でもないですから」
「そう……それなら、何も不思議はないんだけど」
私は美鈴の言葉に一応そう返したが、どうも納得できなかった。美鈴は何か隠しているようにも見えた。私が一応うなずいてみせると、逆に今度は美鈴が私に尋ねてきた。
「それより、フラン様はレミリア様の部屋の前で何をしていらっしゃるんですか?」
美鈴の質問に言葉が詰まる。頭をフルに回転させ、何とか叩き出した答えを美鈴に伝えた。
「えっと、その、お姉さまとお話しようかな、って」
「ああ、なるほど。……でも、お嬢様は今、お仕事中ですからね。あまり入らないほうがよろしいかと」
「そっか、そうだよね……」
美鈴とのやり取りの中で、私は早々と退散してしまうことに決めた。もう今日はお姉様の部屋に寄るのはやめよう。仮にお姉さまに会ったとしても、何を聞いていいのか、何を言っていいのか、決まっていなければ、いたずらにお姉さまを困らせることになってしまうだけだから。美鈴が来たのが諦めるのにちょうどいいタイミングだったのだ。
 本当に、どうして私はお姉さまの部屋に寄ろうとしたのだろう。
 ただ、足がその方向に向かってしまったから――としか言いようがなかった。
 私はお姉さまに会わずにいられなかったのだ。
 何かを確かめずにいられなかったのだ。
 それが何かはわからないけど……
 本当に私は何を確かめたいのだろう。
 そして、何を確かめたくないのだろう。
 ――疑問は尽きない。
「ありがとう、美鈴、じゃあ、私は帰ることにするよ」
私は美鈴にそう伝えた。美鈴も笑って言う。
「わかりました。では、私はお嬢様の部屋におつかいの内容を聞きにいきますので」
「わかった。じゃあ、がんばってね、美鈴」
「はい、お休みなさい。フランドールお嬢様」
私は挨拶を終え、美鈴に背を向けて、歩き出した。私はお姉さまに何を言うべきだったのか、考えながら、歩いた。

 歩いたのだが――

 ――後ろから強い視線を感じた。

 ――美鈴だろうか?

 そういえば、ドアが開いた音がしなかった。

 美鈴はまだ廊下にいるのだろうか。

 私は振り返った。

 ――くっ、と息が詰まる。
  
 美鈴はまだ廊下にいた。
  
 そして、

 あのときと――お姉さまの部屋で私に向けたのと同じ目で私を見つめていた。

 やはり、悪意や怒りなどはない。
 ただ、強い意志だけが感じられた。
 何かを見定めるような――
 何かを願うような目で私を見ていた。
 悪意や怒りなどの負の感情のこめられていないその視線は――
 しかし、思わず身体が震えてしまうほど強い力がこもっていた。

 私は、どうしたの、とは聞かなかった。

 美鈴も何も話さなかった。

 私と美鈴はただ見つめあった。

 そして、私は気づく。

 美鈴は最初から気づいていたのだ。

 どうして、私はお姉さまの部屋の前で立ち止まっていたのか、知っていたのだ。

 やがて、口を開いたのは美鈴だった。

 静かで、だが、厳しさを含んだ声で美鈴は言った。

 「姉君を信じなさい」

 「…………」

 「レミリアお嬢様を信じなさい。あの方は決して、フラン様を悪いようには扱いません。あの方はまず一番にあなたのことを考えていらっしゃいます。ご自分のことではなく、あなたのことを。そして、おそらく、その次に、ご自分のことではなく、私たちのことを、考えていらっしゃいます」

 私は何も言うことができなかった。美鈴の言葉に圧倒されていた。

 美鈴はなおも続ける。

 「『スカーレットデビル』は冷徹で残酷です。ですが、決してその牙はあなたには向けられないでしょう。『スカーレットデビル』は決して私達に爪を振ることはないでしょう。彼女は私達の味方です。ただ、フランお嬢様が『スカーレットデビル』に気に食わないところがあるとすれば――」

 美鈴は目を細めていった。申し訳なさそうに、そして――儚むように目を細めた。

 「あの方が、わたしたち『だけ』の味方ということなのでしょうね……」

 はあ、と美鈴が大きくため息をつく。疲れたかのように大きなため息をつく。

 「ですが……」

 美鈴は今までで一番力をこめて言った。

 「たとえ、『スカーレットデビル』とはいえ、彼女もまた一人の『人間』だということを忘れないで欲しいのです……」

 美鈴の口調は何事か願うかのようだった。
 自分では叶えられないことを神に祈るかのように言った。

 「このことだけは忘れないでください。レミリアお嬢様はご自身を救うことはできないのです。レミリアお嬢様を救って差し上げる誰かが必要なのです。それが誰になるか――よくお考えください」

 美鈴は私に頭を下げた。深々と頭を下げた。私は美鈴の礼を黙って受け入れる以外、できなかった。美鈴は頭を上げる。もう私を見ていなかった。背筋をしゃんと伸ばして、美鈴はお姉さまの部屋に入る。廊下には私だけが残された。
 ――行こう。
 私は今度こそ、自分の地下室に向かって歩き出した。廊下に敷かれた絨毯を睨みながら歩き出した。

 『スカーレットデビル』。

 確か、お姉さまの通り名だったか。
 お姉さまは小食な吸血鬼だった。
 そのため、人間の身体に牙を立てて直接吸血しても、その人間が貧血になる程度にしか血を吸えなかったのだという。
  それどころか、血を吸うのが下手で、こぼした血で白いドレスを赤く染めてしまうことから、『紅い悪魔』――すなわち、『スカーレットデビル』の通り名がついたのだとか。
 ……名誉な通り名どころか、お姉さまをからかう呼び名だと思うんだけど。
 しかし、美鈴はまるで畏怖すべき存在であるかのように、『スカーレットデビル』という言葉を使っていた。
 何かあるんだろうか?
 私は地下室へ帰る道すがら考えてみたが何も思い浮かばなかった。
 ――『スカーレットデビル』。
 その単語は強く頭にこびりついて離れなかった。
 
















 嫌な夢を見て起きた。 
 詳しくは覚えていない。
 シーンがところどころ、記憶に残っているだけだ。
 私が額に手を当てている間から、その記憶が流れていってしまいそうだった。
 何とか思い出せるものだけ、羅列してみる。
 服を真っ赤に染めたお姉さまの姿。虚ろな表情で、手にはグングニルが握られている。私はお姉さまから数歩離れたところに座り込み、どうしてか泣きじゃくっている。そして、死臭。死の匂いが辺りに立ち込めていた。死体も何もないのに、死臭がした。
 覚えているのはこれだけだった。
 とにかくものすごい嫌な夢だった。夢を見て頭が痛くなったのは久しぶりだった。
 今、何時だろう?
 昨晩、お姉さまの部屋から――より正しく言うなら、お姉さまの部屋の前から地下室に帰ってきて、私はすぐにベッドに入った。昨日は本当にたくさんのことがあった。私は疲れていたのだ。
 もぞもぞと身体を起こす。目はばっちりと冴えていた。正面の壁にかかっている時計を見やる。
 午前6時ジャスト。
 日の出の時間だった。
 こんな時間に起きるなんて吸血鬼らしくなかった。
 私、吸血鬼向いてないのかなぁ。
 悩むが、やめるわけにもいかない。やめたいと思っても、やめられない。私が吸血鬼であることは私が生きている限り、変わらないことなのだ。
 ……つまらないこと考えてないで起きよう。
 今日、咲夜が私を起こしに来るのは、あと1時間ほど後だ。二度寝してもよかったが、また寝転がっても、眠れない気がした。
 今起きていったら、咲夜に迷惑だろうか。
 この時間帯、咲夜は何をしているのだろう。
 掃除をしているのかもしれないし、朝食の下ごしらえをしているのかもしれなかった。ひょっとしたら、ギリギリまで寝ているのかもしれない。とにかく迷惑になることは控えようと思っていた。
 ……居間にでも行くか。
 居間とは大きなテラスがある部屋である。紅魔館の主であるお姉さま、その家族である私、友人のパチュリー、メイド長の咲夜、門番長の美鈴のみが入ることを許されたプライベートな部屋だった。パチュリーの司書の小悪魔もパチュリーといっしょに入ってくることが多々あった。主な使用目的は、お姉さまとパチュリー、そして、私が紅茶を飲んでくつろぐ場所である。咲夜や美鈴から報告を受けたり、命令を下達したりする役目もあった。お姉さまはどこにも出かけない日は、この居間で一日を大半を過ごしていた。
 今の時間帯、行っても誰もいないだろうなあ。
 お姉さまはきっと寝ているだろう。普段から咲夜が寝起きが悪いと言って苦笑するほどだ。きっと今もぐーぐーと布団を蹴散らして眠っていることだろう。
 だが、居間以外に他に行くあてがないのも確かだった。このまま地下室で本を読んで咲夜が来るのを待っていてもいいのだが、どうしてか今朝は地下室にいると気が塞いでしまいそうで嫌だった。私はベッドを見苦しくない程度に片付け、その上に書置きを残して地下室に出た。
 『居間にいます』。
 しばらく私はその書置きを見てにやにやしていたが、やがて自分の姿を振り返って、激しい自己嫌悪に陥ったのは言うまでもないことだった。
 だが、書置きを残す必要はなかった。
 居間に向かう途中で、咲夜と会ったからだった。
 咲夜は厳しい顔をして、ある部屋から出てきたところだった。
 私は咲夜に朝の挨拶をした。
 「おはよう、咲夜」
 私に声をかけられた咲夜は、びっくりしたように目を丸くしたが、すぐに瀟洒な微笑を浮かべて、「おはようございます、フランドールお嬢様」と優雅な一礼を返してくれた。
 咲夜はパンと牛乳の乗ったトレイを持っていた。
 私はそれを確認すると、咲夜が出てきた部屋を見た。
 確か、ここは空き部屋だったはずだった。
 そして、私は昨日のお姉さまの言葉を思い返していた。
「ああ、そうか、ここが――」
私がそう呟くと、咲夜は神妙な顔でうなずいた。
「はい。昨日の教会の者がこの部屋の中におります」
「じゃあ、そのパンと牛乳は……」
「はい。一応食事として与えるようにお嬢様から申し付けられましたが、やはり口にしませんね。自白剤が入っていると思っているのかもしれません」
「もっとも、私も彼女と同じ立場だったら、とても食べる気はしませんが」と言って、咲夜は目を伏せた。
 咲夜はこの部屋の中にいる女性をどう思っているんだろう。
 私は部屋のドアと咲夜とを交互に見た。
 咲夜も人間だ。ならば、同じ人間であるこの教会の人間についてどう思っているんだろう。
 訊こうか訊くまいかしばらく迷ったが、訊かないことにした。咲夜も人間だ。吸血鬼の私に訊かれても不愉快な思いをするだけだろう。同じ人間である咲夜が、同胞に対してこのようなことをするのはつらくないはずがないと私は思っていた。
 私はドアの向こうにいる人物を想像しながら、呟いた。
「……どうするんだろう?」
私の呟きに咲夜が小首をかしげる。私は咲夜に向き直って言った。
「お姉さまはこの人をどうするんだろう?」
「…………」
「いつまでも、このままってわけにもいかないよね……じゃあ、お姉さまはこの人を最後はどうするんだろう?」
 解放するのか、拷問を再開するのか――
 そして、殺してしまうのか――
 きっと咲夜にもわからないだろう。
 だけど、私は誰かにそれを訊かずにはいられなかった。
 一晩経っても、私は正体のはっきりしない問題を相手に、あるかどうかもわからない答えを求め続けるのだった。
 『これでいいわね、フラン?』
 お姉さまの笑顔を思い出した。
 『そう、よかったわ』
 お姉さまの言葉を思い出した。
 お姉さまはそう言ってくれた。
 そして、きっとそれは約束だった。
 だが、その約束はいつまで続くのだろう。
 お姉さまが気を変えないという保証はどこにあるのだろう。
 私はお姉さまのことを信じていいのか。
 私は昨日からずっと繰り返している問題にまた引っかかっていた。

 「『スカーレットデビル』か……」

 うつむいて考え込んでしまった私に、頭上から咲夜の声がかかる。咲夜も深く考え事をするようにうつむいていた。私は顔を上げて咲夜の真剣そうな表情を見ていた。
「知らなかったとはいえ、私もよくあんな命知らずなことができたものね……。ほんと、思い出すだけで背筋が震えるわ……」
どうやら咲夜は珍しく独り言を呟いていたようだった。私が咲夜を見上げているのに気づくと、咲夜は「申し訳ありません」と照れたように笑った。
「すいません。つい考え事を……」
恥ずかしそうに釈明する咲夜に私は尋ねた。
「ねえ、昨晩も美鈴から聞いたんだけど、『スカーレットデビル』って何?」
咲夜の目が少し大きく開かれる。
「お姉さまの渾名だっていうことは知ってるし、その由来も聞いたことがあるけど、どうもそれだけの意味じゃなさそうだよね? 咲夜も今、『スカーレットデビル』って言ったけど、どんな意味があるの?」
 私がそう訊くと、咲夜は口を一文字に閉じて黙ってしまった。
 ……そんなに重要な意味があるのか?
 咲夜がそんな真剣な顔をして沈黙してしまうほど、大事なことなのか?
 私はじっと待っていた。咲夜が時間を操っていないのに、時間が止まってしまったような気がした。
 やがて、咲夜が重々しげに口を開く。
「『スカーレットデビル』の意味ですか……」
思わず、唾を飲んだ。じっと咲夜の真剣な顔を見つめる。数秒が数時間に感じられる中、咲夜は言った。
「『スカーレットデビル』――その意味は……」

 咲夜は舌を出し、ウインクをして見せた。

 「――忘れちゃいました」

 お茶目という概念を具現化したような笑顔だった。

「……………………」
「どんな意味か、すっかり忘れちゃいました」
「……禁忌『レーヴァテ「お待ちください、フランお嬢様」
スペルカードを取り出した私に対して、咲夜は待ったという風に開いた掌を向けた。私は深呼吸をして怒りを何とか静め、スペルカードをしまい、睨んでやった。
「いくら咲夜でも怒るよ……」
「申し訳ありません、フランお嬢様」
「私は真面目なんだから」
「本当に申し訳ありません、フランお嬢様」
「『忘れた』、って嘘でしょ?」
「はい。嘘です」
咲夜はしらじらしくも告白した。全く悪びれた感じはなかった。咲夜は子供をからかうような笑顔で私を見ていた。そして、これまた駄々をこねる子供を優しくなだめるような口調で言った。
「ご安心ください、フランお嬢様。お嬢様が期待していらっしゃるような重大な意味はございませんから。『スカーレットデビル』の謎を解かなければ世界が崩壊するというようなことはありません」
「……もー、からかうのもいい加減にしてよ、咲夜」
「ふふ。でも本当に深い意味はないんですよ」
「じゃあ教えてよ、咲夜」
「いえ、私も実はよくは知らないのです」
「また嘘ついてるー」
「嘘ではありません。これは本当です」
そう言って笑う咲夜の顔に誰かを心配するような陰が見えた。咲夜は続けた。
「私が知っているのは、レミリアお嬢様が『スカーレットデビル』と呼ばれていたということ。そして、『スカーレットデビル』が非常に恐れられていたということです」
咲夜はどこか遠くを見るような目をして言った。
「伝説的な吸血鬼だったそうです。幻想郷では知る人もほとんどいませんが、『スカーレットデビル』と聞くだけでどんな妖怪も道を開けたというほどですから」
「私は人間の身ですので、お嬢様がどれほどの吸血鬼だったかは実際に見たことはありません。私が知っているのは全部伝聞です」と咲夜は付け加えた。そして、数秒、宙に目を泳がせた後、言った。
「美鈴なら知っているのではないでしょうか。彼女は私の前のメイド長でしたから、きっと昔のお嬢様のことについて詳しいでしょう。それほど気になることでしたら、彼女に訊いてみてはいかがでしょうか」
「美鈴、ね……」
 実を言うと美鈴とは、咲夜やパチュリーよりも長い付き合いだ。よくは覚えてはいないが、地下室に閉じ込められる前、美鈴に抱っこしてもらったことがあった気がする。よく考えると――よく考えなくても、美鈴とは500年以上の付き合いなのだ。美鈴は地上にいた分、私よりもお姉さまとさらに長い付き合いだということになる。確かに、美鈴ならお姉さまのことについてよく知っていそうだが――
 
 ――話してくれるだろうか。
 
 昨晩の美鈴の様子を見ている限り、何となく美鈴は話したがらないような気がしたのだ。
 いや、ひょっとしたら――
 話したくないことしか知らないのかもしれない。
 それは考えすぎなのだろうが……
 ……………………。
 ……まあ、もう少し待とう。
 ほかのことでもいい。お姉さまについてもっと色々なことを訊こう。
 私に出来ることはそれだけしかなかった。
 
 「ところで、フランお嬢様はどうしてここにいらっしゃったのですか?」
咲夜が今更のように尋ねた。ああ、そうか言っていなかったっけ。
「うん、何だか早く目が覚めちゃって。地下室にいるのもなんだったから、上がってきちゃった」
「そうですか。では、朝食を召し上がりますか?」
「いいの? 今忙しくない?」
「はい。大丈夫ですよ」
私は咲夜の提案どおり、いつもより早めの朝食を食べようかと思ったが、お姉さまのことが気にかかった。
「うーん、でもお姉さまが起きてからにするよ。数えてみると、お姉さまと一緒に朝食をとるのも久しぶりだし」
確かに私はお姉さまに会ったときどうすればいいのか、わからなかったが、同時にお姉さまに会いたいという強い気持ちがあるのだった。お姉さまの優しい笑顔が無性に見たかった。だが、咲夜の言葉は私の予想に反したものだった。

 「いえ、お嬢様ならもう朝食を召し上がられましたけど――」

 ……一瞬、咲夜が何を言ったのかわからなかった。
「え……お姉さま、もう朝御飯食べたの?」
「はい」
「ということは、もう起きてるってこと?」
「レミリアお嬢様なら、寝たまま食事をされても特に驚きませんが、ちゃんと目を開けて納豆ご飯を召し上がっていらっしゃいましたよ?」
「……あの寝坊助のお姉さまが?」
「はい。驚くことに」
「それこそ夢じゃないよね?」
「私も夢の中にいるのかと思って頬をつねってみましたが違いました。ついでにお嬢様の頬もつねってみたら、半べそで怒られました」
「私がこの部屋に食事を持ってきたのも、起きてこられたお嬢様の命令なのです」と咲夜は付け加えた。
「……『スカーレットデビル』って早起きするの?」
「さあ……」
私と咲夜は顔を見合わせて首をかしげた。
「吸血鬼なのに……」
「吸血鬼なのに、ですよね……」
「…………」
「……とにかく食堂に行きましょうか?」
「……そうだね」
 考えることはいろいろあったが――
 私達は食堂に向かうことにした。  

 

 朝食の後、私はパチュリーの図書館にいた。
 パチュリーはいつもの机の前に座って本を読んでいた。
 私もパチュリーすぐ傍に座って本を抱えていた。
 お姉さまは私室に篭っているようだった。図書館に来る前に居間にも寄ってみたのだが、お姉さまの姿はなかった。
 私の読んでいる本はパチュリーの書いた魔術書だった。魔力の使い方について記されたものだ。私はその本を新しい弾幕を作る研究のために読んでいた。
 だが、今日は文字が頭の中に入ってこなかった。いくらページをめくれど、私は本に集中することができなかった。
 パチュリーのほうを見やる。
 パチュリーはいつもどおり、何にも興味がないような顔で本に目を落としていた。時折、小悪魔に淹れさせたコーヒーを啜っては、億劫そうにページをめくっている。
 パチュリーはお姉さまの話を聞いていないのだろうか?
 私はそう疑問に感じた。パチュリーはお姉さまの友人だ。親友と言っても過言ではないだろう。そのパチュリーがお姉さまのしたことを聞いたらどう思うのだろうか。
 私はパチュリーの反応を想像してみる。

 『ふぅん、それで?』

 ……パチュリーがどうでもよさそうな顔でそう呟く姿が目に浮かんだ。
 パチュリーは友人の妹である私の目から見ても、変わった人物だった。決して自分の考えていることを他人に見せようとはしない。たとえ、心の中で「むきゅー!」と叫ぶくらい驚いていても、パチュリーは平然とした顔でそれを隠し通すような気がした。どうやら魔法使いという種族は概して、自分の心の内面を隠す傾向があるようだった。お姉さまから聞いたことがある。魔法使いは鋭い爪や強靭な牙をもたないかわりに、自然をも従える魔法を持つ。しかし、その魔法を最大限に利用するには魔法を使用するタイミングと場所が必要なのだという。強力な魔法を使うためには詠唱や儀式に時間がかかり、その間は無防備だからだそうだ。要するに魔法使いの戦いは頭脳戦らしい。そのために魔法使いは幾重にも罠を張り巡らせ、敵を待つこともあり、トラップに気づかれたりしないようにポーカーフェイスをもって自分の考えを隠す。そのためにパチュリーだけでなく、一般に魔法使いは自分のことを話したがらないし、自分の考えを他人に読まれないようにするのだという。
 パチュリーは本当にお姉さまのことをどう思っているのだろう?
 どうしてか、私は皆がお姉さまのことをどう思っているのか、知りたがっていた。自分がお姉さまをどう思っているか――そのことが大事なのに、私はお姉さまに対する皆の考えを知りたがっていた。
 私はまたため息をついた。私はかなり疲れていた。昨日のお姉さまの部屋から、ずっと神経が張りっぱなしだったのだ。
 私のため息に反応するように、だが、本から視線を外すことなく、パチュリーは私に尋ねた。
「何だか、元気ないわね、妹様?」
パチュリーの言葉に私は少し慌てた。
「いや、そんなことないよ、パチュリー」
「そう、それならいいけど……」
「うん、心配してくれてありがとう」
「どういたしまして」
パチュリーはまた本に集中し始めたようで、むっつりと黙り込んだ。私はまたため息をつこうとし、直前で気づいて、ため息を抑え込んだ。
 パチュリーはいつもの邪魔をするなと言わんばかりの表情で本を睨んでいた。声をかけようにも、遠慮してしまうようなオーラを漂わせていた。
 どうしようか、そう思って、気づかれないようにため息をつこうとしたとき、図書館のドアが開かれた。
 
 「よう、元気にしてるか」
 
 静かな図書館に明るい声が響いた。
 入ってきた人物は不敵な笑顔を浮かべていた。
 霧雨魔理沙だ。
 パチュリーは魔理沙の顔を見ると、不機嫌な顔をより不機嫌そうにした。
「……またネズミが来たのね。うちの本はチーズでできているわけじゃないんだけど? だいたい、あなた、昨日もきたでしょ?」
「いや、つい昨日忘れ物をしてな。それで今日はそれを取りに来たんだ」
 魔理沙は照れ隠しのように頭を掻きながら、私達のほうによってきた。魔理沙は私の姿を見つけると、笑みを大きくした。
「お、フランもいるじゃん。元気?」
「……あ、うん、元気だよ」
 魔理沙の声に私は一瞬、躊躇ってしまった。すると、魔理沙は首をかしげて言った。
「ん、返事が悪いな? ……フラン、なんだか、顔色悪くないか?」
「え、そう? そんなことないと思うけど……?」
「そうか、そうならいいんだけどな」
 魔理沙は怪訝な顔をしたが、やがて机の側に立った。そして、机の上の本を一冊手に取り、ほっと息をつく。
「お、これこれ。昨日パチュリーから借りてく予定だった奴だ」
パチュリーは本に目を戻して、呆れたように言った。
「いつもは勝手に本を取っていくくせに、私が借りる許可を与えた本を忘れていくなんて、どういうことなのよ」
「悪い悪い。昨日、フランと弾幕ごっこをしてたら、つい忘れてしまったぜ」
そう言って、魔理沙は照れたように笑った。パチュリーは本に目を落としながら尋ねた。
「今日は忍び込んできたの? それとも、手続きを取って入ってきたの?」
「あー……今日は正門で、美鈴と弾幕ごっこして、突破して入ってこようと思ったんだがな。美鈴がいなくてつまらなかったから、ちゃんと咲夜を通してきたんだ」
「……普段もそうやって入ってきなさいよ」
パチュリーの言葉に対して魔理沙は誤魔化すように笑うだけだった。だが、私は魔理沙の言葉に気になったことがあった。
「美鈴、いなかったの?」
私がそう訊くと、魔理沙は何でもないことのようにうなずいた。
「ああ。どうも出かけてるらしくて、留守にしてるそうだ。いつも正門のところにいるのに珍しいこともあるもんだな」
どうやら、美鈴は『おつかい』からまだ戻ってきてないようだった。危険はないと言っていたが、そんなに時間のかかるものだったのだろうか。まあ、美鈴は弾幕ごっこは下手だけど、本気で戦えば強いらしいから、襲われても大丈夫なんだろうが。
 魔理沙は本を帽子にしまうと――……この帽子の構造ってどうなってるんだろう?――、図書館の扉に身体を向けた。
「もう帰るの?」
私が尋ねると、魔理沙はうなずいた。
「ああ、今日は結構忙しくてな。悪いけど、今日はお暇しなけりゃならん。じゃあ、またな。フラン、パチュリー」
魔理沙は来たときと同じような、明るさに溢れた笑顔で言って、歩き始めた。
「うん、またね、魔理沙」
「……今度もちゃんと手続きどおりに来なさいよ」
魔理沙は私達の声を背に図書館から出て行った。ばたん、と図書館のドアを閉まる音が残った。
 パチュリーはそのドアをしばらくじっと見ていたが、やがてぽつりと呟いた。

 「……やれやれ、本を取りにくるだけのために、『スカーレットデビル』の居城を出入りするんだから、全く気楽なものね」

 まただ――
 また、『スカーレットデビル』だ。
「……まあ、そんなことができるのも、ここが幻想郷だからでしょうね。レミィもそれが気に入ってるから、幻想郷に住んでるんでしょうけど……」
そう言って、パチュリーはまた本に目をやる。私は自然とパチュリーのことを見つめていた。パチュリーはしばらくページをめくっていたが、やがて私の視線に気づき、顔を上げた。
「どうしたの、妹様? 何か用?」
私はもう迷わずに訊いた。
「『スカーレットデビル』ってどういう意味?」
私の質問に、パチュリーはきょとんとした顔をした。私は真剣な目でパチュリーを見る。
「『スカーレットデビル』がお姉さまの通り名だっていうことは知ってるけど、それにはどんな意味があるの?」
パチュリーの紫水晶の瞳が私を見ていた。その透き通った瞳の奥で、パチュリーは何か考え事をしているようだった。やがて、パチュリーは何かに気づいたようにうなずいた。
「ああ、そうか。昨日のレミィの様子がおかしかったのも、妹様が何だか元気がないように見えたのも、それが理由だったのね」
パチュリーは自分の言葉にうなずいて一人納得していた。
 ……『それ』。
 『それ』とは『スカーレットデビル』のことを指すんだろうか。いや、どうも違うようだ。「それなら、レミィが凹むのも理解できるわ」とパチュリーはぶつぶつ呟いていた。やがて、パチュリーは呆れたように、はあ、と息をつき、宙に向かってぼやいた。
「全く、ほんとヘタレね、あの幼女。それで私に黙っていたんだから、これはもうドヘタレね」
 ……パチュリーは昨日お姉さまの部屋にはいなかった。そして、私がいたことも知らなかった。私はパチュリーがお姉さまから、全部の話を聞いていたのではないかと考えていたが、どうやらお姉さまはパチュリーに話さなかったようだ。
 パチュリーは紫色の目を私に向けた。
「妹様、昨日、レミィがあの『ネズミ』と一緒にいるところを見たんでしょ?」
「…………」
「あるいは、ちょうどレミィが『ネズミ』を折檻していたところに出食わしたか」
「……よくわかったね」
私がおずおずとうなずくと、パチュリーは「やっぱりね」と大して興味もないように言った。そして、改めて「まあ、そりゃ落ち込むわね」とぼやく。パチュリーはそのまま本に再び目を戻してしまった。パチュリーが口を開く気配がないので、私は慌てて尋ねた。
「それで、パチュリー、『スカーレットデビル』ってどういう意味なの?」
私の言葉に、パチュリーはようやく私を見返した。考えるようにうつむき、やがて顔を上げる。パチュリーは真剣な表情をして言った。

 「教えないわ」

 パチュリーは短く、だが、強い意志をもった声で言った。パチュリーは淡々と本を流し読みするかのように続ける。
「たぶん、レミィは妹様にそのことを聞かれたくないでしょうからね。黒歴史――というか紅歴史とでもいうか――華々しくもあれば、惨めったらしくもある――。どちらにしろ、レミィは妹様に聞いて欲しくないでしょうから、言わないわ」
それだけ言って、パチュリーは本に目をやった。
 「そんなに重要な意味があるの?」
私はただ吃驚し、パチュリーに尋ねていた。パチュリーは本をめくる手を止める。
「『スカーレットデビル』という名前に、お姉さまにとって大切な意味があるの?」
「ないわ」
パチュリーは即答した。パチュリーは本をめくる手を再開しながら、私の問いに答えた。
「『スカーレットデビル』という名前に特別な意味はない。秘密でもなんでもない。知ってる妖怪は知っている。そして、知っている妖怪は決して少なくはない。ただ、妹様は知らないというだけで、ね。そして、それはレミィにとっても都合が良い――都合が良い、というよりは、心に良いというべきかしらね」
「いい?」とパチュリーはいくぶんか怒気のはらんだ目で私を見た。

 「妹様はレミィを傷つけようとしているのよ」

 ――その言葉に私は思わず息を飲んだ。
 パチュリーは珍しく強い口調で続ける。
「『スカーレットデビル』という通称は、レミィにとってどうでもいい名前でしょうね。基本的に呼び名でしかなかったから。一方的にそう呼ばれることだけの名前だったから。レミィも『スカーレットデビル』を自称することがあるけど、それも遊びのつもりだったんでしょう。妹様の前で言うことがあっても、それは格好付けでしかない。いえ、格好付けでしかなかった。あの『ネズミ』が来るまでは本当にただの遊びでしかなかった。でも、もうレミィは『スカーレットデビル』の言葉を妹様の前では出さないでしょう。妹様の耳に『スカーレットデビル』という名前が入るたびにびくびくと怯えることでしょう」
パチュリーは紫の瞳に静かな怒りを宿して言った。

 「ぶっちゃけて言えば――レミィは妹様『だけ』に、『スカーレットデビル』の意味を知ってほしくないのよ」

 私はパチュリーの言葉の内容と勢いに沈黙するしかなかった。
「わかったなら、もうその名前について詮索しないことね。『好奇心、猫を殺す』と言うけど、その言葉に殺されるのは妹様自身じゃなくて、レミィなんだから。レミィを傷つけたくないと思ったら、もうそんな名前のことなんか忘れてしまいなさい。そして、レミィの他のことについても、これ以上知ろうとしないこと。レミィはあなたに対して優しくしている――あなたにはその事実だけがあればいいの。もし、それを破ろうとすれば、傷つくのはあなただけじゃない。レミィも間違いなく瀕死の傷を負ってしまうでしょう」
パチュリーの紫の目は、私の心臓を貫き通すのに十分なほど鋭かった。
「だから、手遅れになる前に――今回のことは全て忘れてしまいなさい。全て忘れて、いつもどおり、レミィに甘えていなさい」
その言葉を言い終わると、パチュリーはまた本に目を戻した。もう質問についてはこれで終わり――そう言っているかのようだった。
 私はパチュリーの言葉に頭を抱えることしかできなかった。
 ――どうすればいいんだろう?
 本当にどうすればいいんだろう?
 私はお姉さまのことが知りたくて。
 知らないとお姉さまのことがわからなくて。
 自分がお姉さまのことが好きでいるのかさえわからなくて。
 けれども、お姉さまのことを知ろうとすると、お姉さまを傷つけることになって。
 私だってお姉さまを傷つけたくなんかない。
 私だってお姉さまのことを好きでいたい。
 でも、できないんだ。
 今のままじゃできないんだよ。
 何もわからないままじゃできないんだ。
 お姉さまのことを知らなければ何もできないんだよ。
 だけど、それさえ許されないのか。
 私はお姉さまを好きでいる努力さえ許されないのか。
 本当に私はどうすればいいんだ――?
 ――私は椅子から立ち上がった。図書館から帰ることにした。ここにいても何もできないから、帰ることにしたのだ。
 パチュリーは私を見ることなく、本に集中していた。冷たく、鋭い視線で何かをこらえるように、本を睨んでいた。
 私はふと一つの質問を思いついた。さして重要ではない、他愛ない一つの質問を思いついた。
「ねえ、パチュリー?」
「……何かしら、妹様?」
「お姉さまってさ、優しいと思う?」
「…………」
「お姉さまは優しい人だと思う?」
 
 ――パチュリーは、悲しむような、悔いるような声で答えた。

 「思わないわ」

 「…………」
「レミィは決して優しくはない。優しくすることはあっても、優しい吸血鬼ではない」
パチュリーは目を閉じて言う。
「だけど――いや、だからこそ、私はレミィの傍にいられるし、美鈴も咲夜も、他のメイドたちもレミィといっしょにいることができる」
「…………」
「私達は――」
パチュリーは長い息をついて言った。
「――レミィの優しさを犠牲にして、生きてるのかもしれないわね」





 私は廊下をとぼとぼと歩いていた。
 あてもなく、徘徊するように歩いていた。
 時刻はもう正午を回っただろう。もうすぐお昼ご飯だ。
 だが、食欲はなかった。今日も咲夜が頑張って料理をしてくれるというのに、私はご飯を食べる気分じゃなかった。
 図書館を出ても、私にできることは何もなかった。
 お姉さまの部屋に行く気にはなれなかった。
 お姉さまに何を訊いて、何を言うかということがまとまらないだけでなく――
 お姉さまのことを考えるたびに、私はパチュリーの言葉を思い返していた。
 ――お姉さまのことを傷つける、と。
 今、私がお姉さまに会ったら、お姉さまは悲しむことになるんだろうか――
 そう思うと、行けなかった。行けるわけがなかった。
 地下に帰ろうか、と私は思った。
 また地下室に閉じこもろうか、と。
 今、紅魔館で起こっているのは、私が知る由もないことだった。私が地下室にいて、地上のことなど想像もつかないときのことだった。そして、それはきっとお姉さまが私に知ってほしくないことなのだろう。
 だから、お姉さまがまた私の部屋に来てくれるのをじっと待つのだ。
 もし、お姉さまが私をまた迎えに来てくれるときがあるのなら、きっとそのお姉さまは私の知っているお姉さまだろう。
 『スカーレットデビル』という、見知らぬ吸血鬼などではなく――
 レミリア・スカーレットという私の優しいお姉さまだ。
 私は思い出していた。
 私が独りで地下に閉じ込められていたころのお姉さまを。
 お姉さまはいつも優しく笑っていた。
 優しく頭を撫でてくれた。外の世界の話を聞かせてくれた。おもしろい話で笑わせてくれた。勉強を教えてくれた。間違ったことをしたときは叱ってくれた。眠るまで手を握っていてくれたこともあった。弾幕ごっこを教えてくれた。友達のつくりかたを教えてくれた。
 あんなに優しかったんだ。
 お姉さまはいつもあんなに優しかったんだ。
 けれども――
 どうしても昨日のお姉さまの恐ろしい顔が頭から離れなかった。
 そして、その後、私に向けられた詫びるような笑顔も――
 たったそれだけのことで、私はお姉さまを信じられなくなっていた。
 ……………………。
 たったそれだけのこと――
 ……………………。
 ――たったそれだけのことか?
 人を拷問するのが『それだけのこと』か?
 確かにお姉さまはあの女性に命を狙われたかもしれないけど――
 もう、あの女性は戦えないほどにぼろぼろだったじゃないか。
 すごく痛そうな顔をしていたじゃないか。
 あんなに可哀想だったじゃないか。
 それをお姉さまは――
 私は重い頭を振った。
 たぶん、私が間違っているのだ。
 やはり、私は吸血鬼に向いていないのかもしれない。
 きっと私が悪いのだ。吸血鬼になりきれない私が悪いのだ。
 直接、人を襲ったことのない私は吸血鬼ではないのかもしれない。
 人と対立し、殺し合う生き物が吸血鬼なのだとすれば、私は吸血鬼ではなかった。
 私がちゃんとした吸血鬼だったら、お姉さまの考えに同調できたのかもしれない。
 まるで、人間だ――
 これでは私は吸血鬼じゃなくて、人間みたいじゃないか。
 私が人間よりも、もっと吸血鬼に近ければ――
 ――だが、そこまで考えたところで、私はふと違和感を感じた。
 ……吸血鬼というのは関係あるのか? と。
 本当に、お姉さまが吸血鬼だから、殺す者の目ができるのか? と。
 私は美鈴に連れて行かれるときに向けられた教会の女性の目を思い出していた。
 あの女性は、自分がお姉さまに向けられたのと同じ目をしていた。
 殺す者の目を私に向けていた。
 お姉様の目と比べれば弱いものだったが、殺す人間の目で私を見ていた。
 逆に言えば――
 お姉さまはあの女性と同じ目をしていたわけで――
 ならば、お姉さまが吸血鬼だとかそんなことは関係なく――
 ただ、お姉さまは――
 私はぶるりと震えた。
 頭ががんがんと痛んだ。
 吸血鬼だからだと思っていた。
 吸血鬼が妖怪で、妖怪と人間は敵対するものだから――そう思っていた。
 でも違った。
 もっと問題は単純だったのだ。
 妖怪とか人間とかの原理ではなく。
 もっとシンプルなところに答えがあったのだ。
 わかってしまった。
 まだ理屈でははっきり説明することができないけど、
 まだ、もしかしたらの段階に過ぎないけど、
 私はわかってしまっていた。
 本能で、お姉さまが『妖怪』として人を殺しているのではないということをわかってしまっていた。
 お姉さまが『人として人を殺す目』で人を殺していたことをわかってしまっていた。
 ああ――
 お姉さまが吸血鬼であるせいにできたらどれほどよかったことか――
 お姉さまが人間ならば、あんな目をしないと思えたらどれほど救われたか――
 お姉さまがお姉様であるがゆえに、殺す目をするのだと知らなかったら、どれほど幸せだったか――
 限界だった。
 私は限界に来ていた。
 つまらないことでひびの入った私の心はもうすぐ砕けてしまいそうだった。
 ただでさえ、狂っているのに、これ以上狂いたくなかった。
 狂い始めた心で思う。
 狂いそうに罪ながら思う。
 狂った心で恋ながら思う。
 ――お姉さまに会いたい。
 ――お姉さまの声が聞きたい。
 ――お姉さまの優しい笑顔が見たい。



 「フラン?」



 ひどく懐かしい声が聞こえた。恋焦がれて――でも、もう聞けないんじゃないかと思っていた声がした。
 当てもなく砂漠を彷徨うように、俯いて廊下を歩いていた私に、慈悲の雨のような優しい声が聞こえた。
 くたびれきった重い頭を上げる。
 霞みきった視界で確認する。

 ――いや、顔を上げなくても、目が見えなくても、それが誰だかわかっている。
 
 お姉さまは驚いたような顔をして、廊下に立っていた。
 いつものお姉さまが不思議そうな、少し心配そうな顔で私を見ていた。
 「どうしたの、フラン? どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?」
 お姉さまが私の方に歩いてくる。私を気遣う言葉をかけながら歩いてきてくれる。
 視界が大きく崩れた。
 ぼろぼろと涙が頬を伝っていた。
 「……お、姉…さまぁ……」
 本当に限界だった。
 自分を抑えることができなかった。
 部屋の前で逡巡し、会うことを恐れ、傷つけるかもしれないと我慢してきたくせに――
 ――結局のところ、私は本当に甘ったれな妹でしかなかった。
 「本当にどうしたの、フラン? 何で泣いてるの?」
 もうお姉さまは私にあと一歩のところまで来ていた。足は動かない。お姉さまを傷つけないために逃げなきゃいけないのに、もう手遅れだった。
 
 ふわり、と――
 
 優しさに抱き締められた。

 私の頭をお姉さまのしなやかで柔らかい腕が包み込んだ。顔にお姉さまの温かい胸が押し付けられる。お姉さまの使っている石鹸のいい匂いで胸が一杯になった。
 もう止められなかった。
 私はもう泣くのを止められなかった。
 みっともなく泣き続ける私を、お姉さまはぎゅっと抱き締めてくれた。
 たとえ永遠に泣き続けても許してくれるように抱き締めてくれた。
 お姉さまの柔らかな胸の中で思う。
 こんなに優しいのに――
 こんなに優しくて温かいのに――
 どうして、お姉さまは人殺しなんかするんだろうか――
 どうして、お姉さまは容赦もなく人を殺せるんだろうか――
 そう思うと、切なくてどうしようもなかった。胸を締め付けるような苦しさに涙は溢れ続けた。
 「どうしたの、フラン? 何が悲しくてそんなに泣いているの?」
 月の光のような優しい囁き。顔を上げると、ぐしゃぐしゃの視界にお姉さまの困惑した顔が映った。私の大好きなお姉さまは困ったように微笑んでいた。
 私はがらがらの喉を動かして言った。 
「……悪いん、だもん……」
「え?」
「……お姉さまが、悪いんだもん」
「…………」
「……お姉さまが悪いから、私は、悲しいんだもん……」
 そうだ……お姉さまが悪いのだ。
 こんなに優しいのに、あんなに残酷なお姉さまが悪いのだ。
 あんなに残酷なのに、こんなに優しいお姉さまが悪いのだ。
 私の言葉にお姉さまは一瞬、きょとんとしたが――すぐに、何もかも状況を理解したように目を悲しく光らせて――申し訳なさそうに笑った。私の言いたいこと全てを言われなくてもわかっているような微笑を浮かべた。
 お姉さまは悪いだけじゃなくて――ずるい。
 こんなに私のことがわかってしまうなんてずるい。
 私はお姉さまのことがわからないのに――
 どれほどわかりたくてもわからないのに――
 本当にお姉さまは悪くてずるい。
 本当に――
 本当にどうして――
 本当にどうしてあんなことを――
 ――お姉さまは優しい声で私に詫びた。
 「ごめんなさい、フラン――」
 ――私を殺してしまいそうなほど優しい声だった。
 「こんなお姉さまでごめんなさい、フラン――」 
 
 ――私なんか、このままお姉さまに殺されてしまえばいいのに。

 そうなれば、どれだけ楽だろう。
 
 私はお姉さまの胸で泣きながら、そんなことを考えていた。

















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投稿8作目、『予告編』です。
稚拙な文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。

……覚えている方がいらっしゃれば、と思います。
まあ、こんな変な奴、覚えている方はたぶんいらっしゃらないと思いますが。

フランのキャラがかなり無在アレンジです。でも、公式でも、フランは無闇矢鱈とモノを壊したりしません。文花帖の会話でも、ちょっと考察をすると、狂気の振りをしているだけで、かなりクレバーなんじゃないかと思います。でも、自分のフランを受け入れてくれる方がいらっしゃるか、とても不安だったり。
『スカーレットデビル』についてやたらと秘密めいてますが、大したことありません。まあ、お嬢様が容赦なく人を殺し続けた――その程度の事実です。
本当は一作にしたかったのですが、様子見で投稿してみたり。本当に様子見。削除するやも知れません。もっとも『2』の出来次第ですが。
最後まで書きあがった段階で、これを消して完成したのを投稿したいなぁとも思います。

以上の駄文をもって一度、筆を置かせていただきます。

追記:予告編は大げさだったか……私の予想では、全体でこの2.5倍くらいの文量になるかなぁというところなんですが。実際は上中下の上というところです。うう、何か詐欺みたいだ。すいません。
 
無在
hitokiri.humikata@gmail.com
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コメント



0.1300簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
予告編てボリュームじゃねぇwww
続き気になりすぎで困るがじっくり書いていってくだされヽ(´ー`)ノ
5.90煉獄削除
続きが気になるところですねぇ。
今後、フランとレミリアの間に何があって、どうなるのかが
楽しみです。
続きを期待してます。
8.100名前が無い程度の能力削除
まさに続きに期待というべき予告編でした。というよりタグの『予告編』を分量・質ともによい意味で裏切ってくれてついつい読みふけってしまいました。
本編を楽しみに待たせていただきます。
9.90名前が無い程度の能力削除
マズイ…オチが読めてしまったかも…?
お約束もありか…
いや無在さんならちんけな予想なんて裏切ってくれるハズ…

なんというか、この作品だけだとフランがかなり弱々しいですね。
それもこれも衝撃的な光景を目の当たりにしてしまったせいなのでしょが、
その対比が分かりやすいように、たまにレミリアの事を「アイツ」呼ばわりするような
普段のふてぶてしい強気なフランが描かれてると、
衝撃の強さがもっと表れたかと思います。

なんにせよこの作品には期待せざるを得ません。
緻密さを感じさせずに、各キャラの内面ありありと描くさまは圧巻です。
お嬢様への忠誠心(パチュリーにこの表現は適切でないですが)の表れ方もそれぞれ特徴が感じられ流石だと思います。紅魔館にレミリアへの愛に溢れているのがひしひしと感じます。

様子見なんてしてないで、自分の思うがままに、自信を持って作品を書き上げるのだ。
次回作、首を長くして待ってます。
12.70名前が無い程度の能力削除
うーん、それぞれのキャラの描かれ方がイイ感じなだけにフランの思考の違和感が拭い切れませんでした
それだけ諸々理解できる知性と考えられる思慮あるのにそっちにしか考えがいかないの?と
敵対者の目を実際に目の当たりにしても身内を失う危険に考え及ばないってのは
そこまで考えられない『何か』を感じさせて欲しかったのですが

この先の展開で納得が行くのかもしれないし、期待させていただきます。
13.100名前が無い程度の能力削除
ああ、私が求めていたのはこんな紅魔館です。決して血生臭いという意味では無く。
レミリアとその周りを繋ぐ忠誠心や信頼感というものが非常によく伝わってきました。
>レミィの優しさを犠牲にして、生きてるのかもしれないわね
この台詞が非常に印象的で、この一言だけでこの紅魔館を取り巻く哀しみを言い表しているように感じました。


フランは繊細で心優しい反面、精神的な弱さも持っている子だったと思います。
その弱さを今までは姉をはじめとした紅魔館の住人達がカバーしてきましたが今回はそうは行かないのかな?
だとすれば今回はフランの一層の成長が鍵になるのでしょうかね。

様子見?そんなもの必要ありません。
貴方が描く紅魔館、幻想郷はもはや筆舌に尽くしがたいほどに素晴らしいのですから。
26.100名前が無い程度の能力削除
このフランとレミリア、好みだな
続き楽しみにしてます
27.100名前が無い程度の能力削除
血生臭さとそれぞれのキャラの微妙な優しさが感じ取れる
私の中のイメージ通りの紅魔館で続きが非常に楽しみです。