Coolier - 新生・東方創想話

私はわかってしまったのです

2009/03/08 03:13:58
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 紅魔館のメイド長、十六夜咲夜は悩んでいた。今の紅魔館の現状について、である。

 今、紅魔館は幾つかの問題を抱えていた。

 一つ目に、門番である紅 美鈴のサボタージュ。二つ目に、パチュリー・ノレッジの引きこもりに近い生活。

 しかし、この二つの問題は今に始まったことでもない。解決しなくていいものでもないが、それよりも深刻な問題が最近発生したのだ。

 それは……、紅魔館の当主、レミリア・スカーレットのカリスマ低下である。

 近頃、レミリアにはカリスマが感じられなくなってきたように咲夜は思っていた。

 このままで良いはずがない。メイド長として紅魔館を守らなければいけない。

 その決意を胸に、完全で瀟洒な従者・十六夜咲夜は一人、戦いに向かった。




 紅魔館の門。

 そこの門番である妖怪、紅美鈴の本来の役目は、外敵や侵入を試みる者から紅魔館を守ることである。

 決して門で居眠りをすることではない。

 なのだが、そんなことはお構いなしに美鈴は寝息を立てている。
門番としてのプライドは湖にでも流したのか、その寝顔は幸せそうだった。

 そこに歩み寄ってくる一つの影があった。その影の主は、咲夜。

 美鈴の前まで来た咲夜は幸せそうな寝顔を見て、小さい溜め息をついた。それから美鈴の服の襟を掴み、湖まで引きずっていく。

 そして、無造作に持ち上げてに叩きつけるように湖に投げ入れた。爆音の後には、湖に大きな水柱が出来上がる。

 水柱が無くなって、少しばかり静寂が漂った。

 すると、美鈴が落ちた位置からぷくぷくと泡が出てきた。

 それはだんだん大きくなり、ぷくぷくからぶくぶくに、ぶくぶくからぶはぁ!! に、ぶはぁ!! からげほっげほっ、し、死ぬかと、げほっげほっ、危なかっ、げほっげほっ、に。

 あまりにも突然な湖から命掛けの脱出劇を終え、陸に上がった美鈴は、咲夜の存在に気づいた。

「あれ、咲夜さん、どうげほっげほ、どうしたんですか?」

「美鈴、あなたの仕事は何?」

「どうしたんですか、げほっげほ、突然」

「いいから、答えなさい」

 少しばかり声のトーン下げた言葉に美鈴は思わず半歩引き下がった。

「それはもちろん、門番ですけども」

「それは眠りながらでも出来る仕事なのかしら?」

「あ~、……それは何というか。あ、あれですよ。寝ながらでも反応出来るようにするための鍛錬なんです」

「成果は出てないようだけど」

「まだ鍛錬が足りないだけですよ」

「居眠りはかなり前からしているようだけど」

「……え~と、それは……ですね。つまり…………ごめんなさい」

「はあ、まあいいわ」

そう言って屋敷の方を向き、歩き出した。

しかし、その途中で歩を止め、振り向かずに告げた。

「次から眠るようなことがあるなら、そのたびに落とすから」

 再び歩き出す咲夜。残された美鈴は呆然とするしかなかった。




「運動をしましょう」

「……いきなりどうしたの?」

 紅魔館地下の大図書館にて、咲夜の突然の提案にパチュリーは困惑していた。

「ですから、運動をしましょう、ということです」

 どうやら自分に運動をさせたいらしい、と考えるまでもないようなことをパチュリーは理解するのにほんの少しかかった。

 咲夜が今までそんなこと言ってこなかったので、意外だったからだろう。

 しかし、理解しても運動する気など微塵もなかった。

「遠慮しておくわ。不必要な動きはしたくないの。じゃ、読書続けるから構わなくていいわよ」

 そう言って本に視線を向け、続きを読もうとすると、一瞬の間に本が消えていた。周りを見渡すと、直ぐに発見出来た。咲夜の手に収まっていたのだ。

「運動をしましょう」

 尚も続ける咲夜に、パチュリーは呆れたように言った。

「いったいどうしたの? そもそも、私が喘息持ちなの知ってるでしょう」

「えぇもちろん。ですので、軽くでいいんです。運動しましょう」

「いや……、あの……、だから」

「では、屋敷の周りのランニングから始めましょう」

「ちょっ、ちょっと待って! まだするなんて言っ」

 咲夜を掴もうとして立ち上がると、今度は一瞬で視界が変わった。場所は当然、館の外である。

「……ここまでする必要があるのかしら?」

「さあ、思う存分走ってください」

 笑顔のまま続ける咲夜を見て、走らないようにするのは不可能だとパチュリーは思い、諦めて、軽いペースで走り出した。

 咲夜がいなくなったら、適当に歩いてさっさと終わらせるつもりだった。
 
のだが、ちらっと咲夜の方を見ると、妖精メイドを呼んで、何やら話している。

「パチュリー様、私はこれでいなくなりますが、もし歩く、飛ぶなどのことすれば、さらに走ってもらうことになりますので、お気をつけください。尚、監視はこのメイドにさせますので。それでは」

歩き去っていく咲夜を見て、パチュリーは落胆するしかなかった。




「……………………暇ね」

 紅魔館のベランダで、日傘の影の下のテーブルで紅茶を飲んでいた、当主レミリア・スカーレットは呟く。

 それに答えるのは傍に仕える一人の従者。

「そうですね。最近は穏やかなものです」

「本当にその通りね。全く、このままじゃ動く気にもならないわ」

 テーブルに突っ伏しながらボヤくが、そんなことをしてもなにも起きはしない。

「……いっそのこと自分で起こそうかしら」

 もちろん本気ではなく、適当にボソッと言っただけだったのだが、

「えぇ是非ともそうなさってください」

 何故か咲夜が食いついてきた。反応が意外だったので、レミリアは数秒固まってしまった。

 ようやく動いて咲夜の方に顔を向ける。

「冗談よ。本気にしないで」

 軽く流そうとしたのだが、咲夜はそれを許さなかった。

「いえ、是非とも起こしください。お嬢様の手で」

 引こうとしない咲夜には思惑があった。

 過去にレミリアが起こした紅霧異変のときには、レミリアのカリスマが最高潮だった。また異変を起こせばカリスマが上昇するのではないか、と考えている。

 しかし、

「嫌よ。異変になるくらいのこと起こすなんて面倒だし。確かに霊夢と本気の弾幕勝負するのは良い暇つぶしなるかもしれないけど、けっこう疲れるのよ。だからパス。もっと別の奴に頼みなさい。そしたら私の暇つぶしになって良いじゃない」

 咲夜の思いはレミリアに届かない。ましてや、完全に他人任せになっている。

 しかし、咲夜はそれでも諦めない。

「お嬢様でなければいけないのです。お嬢様が異変を起こさなければ意味がないのです」

「ちょっ、どうしたのよ咲夜? 何かおかしいわよ。どうしてそこまでこだわる必要があるの?」

「それは……、いえ何でもありません。すみません、出過ぎたこと言ってしまって」

 冷静さを取り戻し、謝罪する咲夜を見て、レミリアは安心した。どうやら特に何もないようだ。

「いや、気にしないで良いわ」

  そう言って、視線を外の方に向ける。すると、門の方に居眠りをしている美鈴を見つける。

「あ~あ、またやってるわねあの子。ね、咲夜」

 声を掛けながら振り返るが、そこに咲夜の姿はなかった。

「咲夜?」

 問いかけてみるが、返事はなく、変わりに、ドッッパァァンッ!! と、湖に大きな水柱が上がった。

「え……、何?」

「どうなさいましたか?」

 いつの間にか戻ってきた咲夜が問い掛ける。

「あ、咲夜。湖の方で何かあったの?」

「さあ、存じません。門番が飛び込んだのではないですか?」

「え? だって美鈴はさっき居眠りしてたわよ」

「見間違えたのではないですか?」

「そう……、かしら」

「そうですよ」

 はっきりと断言されるので、レミリアはそれ以上考えなかった。

 再び視線を外に向けると、今度はランニングをしているパチュリーの姿が目に入った。

(ダイエットでも始めたのかしら。何て、魔女が太るはずないか)

「ねぇ咲夜。パチェ、急にどうしたのかしら?」

「きっと、今の生活はよろしくないとお考えになったんですよ」

「へえ、あのパチェがねぇ」

 意外そうな声を出すが、すぐに視線を外す。

 そして、空に向けて一言呟いた。

「暇ね」




 それから数日、紅魔館ではちょっとした変化が起きていた。

 まず、門番が一日平均三回のペースで湖に落とされていた。

 二つ目、魔女がランニングしている姿を見れるようになった。




 ある日、レミリアはパチュリーに呼び出された。

 小さい部屋のドアノブを回し、扉を奥に押して中に入ると、そこには小さい丸テーブルと三人分の椅子しかない質素な部屋だった。

 二つの椅子には既に座っている者が二人。一人は門番の美鈴、もう一人は呼び出した張本人、パチュリーである。

「どうしたのパチェ、咲夜に内緒で来てって。 何かあったの?」

 レミリアの問いに、パチュリーはすぐには答えなかった。

 訳が分からぬままに、とりあえずレミリアは椅子に座る。そこでパチュリーが口を開いた。

「どうしたのじゃないわよ。ねぇレミィ、咲夜はどうしちゃたの?」

「? どういうこと?」

「最近の咲夜さんの様子がおかしいってことですよ、お嬢様」

 これは美鈴の発言である。それで理解したのか、レミリアは納得した表情になった。

「やっぱりあなた達も気付いてたのね」

「気付くも何もこっちは被害を受けてるのよ。気付かないはずないじゃない」

「被害? 何それ?」

 予想外の言葉が出たのでレミリアが少し困惑する。

「あなたまさか、そっちは気付いてないの?」

「何のことだか、さっぱりね」

「実はですね、私達咲夜さんからある被害を受けてまして」

「へぇー、どんな?」

 興味があるのか、少し身を乗り出しながら美鈴に尋ねた。

「はい、先ず私は、最近になって居眠りをすると湖に落とされるようになったんです」

「え、あれってあなたが飛び込んでいるんじゃないの?」

「そんなことしませんよ~」

 情けない声で反論する美鈴。

「そう。それで、パチェの方は何されてるの?」

「あ、はい。パチュリー様は」

「いいわ美鈴。自分で言うから」

 美鈴を制止して、パチュリーが説明を始める。

「私に至っては、何を思ったのか運動させられる始末なのよ。おかげで今でも筋肉痛よ」

「あ、やっぱりあれあなたの意志じゃなかったのね」

「当たり前じゃない。なんで私がそんなこと」

「それもそうね」

 そう言ってレミリアは椅子に深く腰掛ける。

「確かに、咲夜が最近変なのは私も思ってたのよ」


「あなたも何か被害を受けたの?」

「私の場合は被害と言うほどでもないわ。何かね、なんでかは分からないけど、異変を起こせって感じのことをよく言ってくるようになったのよ」

「異変? 何でまた?」

「私が知るわけないじゃない」

 う~ん、と三人は考え始める。しばらく静寂が続いたが、それを最初に破ったのはパチュリーだった。


「もしかしたら」

「ん、何かわかったのパチェ?」

「いや、推測になるのだけど」

「構わないわ、言ってみて」

「なら……。まさかとは思うんだけど、クーデター起こす気なんじゃないかしら」

 あまりの突拍子の無さに、他の二人が反応するにはほんの少し時間を要した。

 ようやく口を開いたのは、美鈴が先だった。

「い、いやいやいや。咲夜に限ってそんなこと」

「そ、そうよパチェ。幾ら何でもそれは飛躍しすぎよ」

「それも、そうね。考えが過ぎたわ」

 結局、その日の会議は咲夜の気が立っているだけで直ぐに収まるだろう、という結論で終了した。




 それから、咲夜の行動は収まるどころか激しさを増していった。

 美鈴が居眠りをすれば、湖の真ん中に放り込まれた。

 パチュリーの運動に、ランニングに加え筋力トレーニングをさせられるようになった。

 レミリアに対しては異変のことについてさらにしつこく言い寄るようになるなど、三人の予想に反して行動は激化していった。




 館の廊下を歩きながら、咲夜は満足していた。

 自分の行動が意味を為してきたと感じているからである。

 美鈴は居眠りの回数が減り(寒気で眠り辛いだけ)、パチュリーは自発的に運動するようになり(自分からしないと運動量を増やされるから)、レミリアも異変のことについて前ほど嫌がる素振りは見せなくなった(断るのが面倒になり適当な返事をするようになっただけ)。

 このままいけば、紅魔館全体のカリスマが上がるかもしれない。そんなことを思いながら歩いていると、

「やっぱりパチェの言う通りよ!」

 バン! と、部屋の一室から聞こえてきたのは、机を叩いた音とレミリアの声だった。

 気になって覗いて見ると、他にも美鈴とパチュリーがいる。

「でも、咲夜さんがそんなことするなんて、やっぱり私は信じられませんよ」

 美鈴がレミリアの言うことに反論しているらしい。

 しかし、咲夜は何のことについて話しているのかはわからなかった。

「確かに、ここまでくるとレミィの言う通りね。私もまさかとは思うけど」

 いったい何の話をしているのか、それがわからず、困惑していたが、その咲夜の悩みを吹き飛ばすかのようにレミリアは声を上げた。

「咲夜はクーデターを企ててるわ。最近の私達への行動はその下準備なのよ」

「えぇ?!」




「? 今何か聞こえませんでした?」

「そう? 私は何も聞こえなかったけど」

 パチュリーがそう言うので、美鈴は気にしないことにした。

「美鈴を湖に落として風邪をひかせて、パチェに運動させて筋肉痛にして、私と霊夢を戦わせて消耗したところを一気に攻め落とすつもりなのよ、きっと」

「妹様はどうするつもりかしら?」

「あ、そういえばそうですよ。妹様がいましたね」

 レミリアの妹、フランドール・スカーレットは、無視するにはあまりに大きい存在である。

 それについて予め考えていたのか、レミリアは自分の考えを口にする。

「私もそのことは思ったわ。そこで考えたんだけど、咲夜とフランがグルだとしたら、どうかしら?」

「そんな! それは幾ら何でも考え過ぎですよ。咲夜さんにだって失礼です!」

 思い切り反論する美鈴に対して、パチュリーは冷静だった。

「いえ、今の咲夜には考え過ぎで丁度いいかもしれないわ」

「いや、だって……、それじゃ」

「私も自分の従者が裏切ってるなんて考えたくはないわ。けどね、何も直ぐに解雇しようなんて思ってないのよ。話し合えば、咲夜ならきっと、分かってくれるはずよ」




 一部始終を聞いていた咲夜は、あまりの衝撃にしばし言葉を失った。

(どうして? 何でクーデターなんて話になっているの?)

「やっぱり咲夜一人に無理させすぎたのかしら? まぁ、確かに働かせ過ぎかしらって思うときも無くはなかったけど、まさかクーデター起こすくらいまでストレスを溜めさせてたとはねぇ」

(違いますお嬢様! 私はこの館のことを思って!)

 レミリアの誤解に心の中で弁明するが、当然それでは咲夜の真意は伝わらない。

「やっぱり咲夜も人間なのよ。そのことへの配慮が少し足りなかったかもしれないわね」

(そんな……、パチュリー様まで)

 いったい、何でこんなことになってしまったのか? 考えれば考えるほどわからなくなる。自分は何か悪いことをしたのか? そんな風に見えたのか?




 しかし、ふと、どうでもいいのではないか、と思い始めた。

 あの三人には自分の思いは伝わらない。

 なら、どうするか?

 ……簡単だ。言ってわからない輩にわからせる方法など。

「ふふふ。ふふふふふふふふふふふふ」

 咲夜の口からは、自然と笑いがこみ上げていた。




「あの~。何か笑い声が聞こえるような気がするんですけど」

「ん? 私は聞こえないわよ。美鈴、あなたもちょっと疲れているんじゃない? と言うより、何で風邪引いてないのよ、あなた」

「湖に落とされたぐらいで風邪なんて引きませんよ。門番ですから、体は丈夫なんです。それより、聞こえませんか? やっぱり空耳かな?」

 再度パチュリーに否定されたので、美鈴は気にしないことにした。

「それじゃ、今から咲夜を連れて来て話し合いましょう。私達に争う意志がないことを知らせないと」

 そう言って、レミリアは美鈴を指差して、指名する。

「というわけで、美鈴、咲夜をこの部屋まで連れて来て頂戴」

「……はい」

 美鈴は立ち上がり、扉の方に向かって歩いていく。しかし、まだあまり気が進まなかった。

(咲夜さんがクーデターなんて、やっぱり考えられない、けどあの二人はそう思いこんでるし)

 悩みながらも歩は止めなかった。

(いや、誤解だったとしても話をすれば解決する)

 そう思うと、美鈴は歩調を早め、咲夜の元に急いだ。

 美鈴が出て行くと、暇になったのか、パチュリーは本を取り出し、レミリアは机に突っ伏した。




 それからほんの少し経つと、

 キィ、と静かに扉が開いた。

「あら、早かったのね。咲夜が近くを通りかかったの?」

 レミリアが声を掛けるが、返事がない。二人が変に思って扉の方を見ると、美鈴が現れた。何だ、と思い視線を外すと、美鈴が前の方に倒れ込む。

「「?!」」

 驚いて駆け寄ると、後頭部にナイフが刺さっていた。

「……っ、やられたわ。先手を打たれたわね」

「じゃあ、やっぱり」

「えぇ、これで確定したわ。咲夜のクーデターはもう始まっているのよ。こうなったら、少し荒っぽい方法で止めるしかないわね」

 レミリアの言葉に、パチュリーは頷いて、二人は覚悟を決め部屋を出ようとすると、

「いいえ、それは違いますよお嬢様」

 何処からともなく声が響いてくる。

 美鈴を確認するが、現在気絶中。となると、考えられるのは一人。

「何が違うのかしら? ねぇ咲夜」

 レミリアが問うが、返事は直ぐに返っては来なかった。二人は警戒しながら周囲を見渡していく。

「それはもう、見事に勘違いをしておられます」

 急に二人の背中側から声が聞こえたので、振り返ると、そこには目当ての人物が佇んでいた。

「勘違いって、どういうことかしら?」

「そのままの意味ですよ、パチュリー様。私は妹様と組んでいませんし、ましてや、クーデターなんてそんな血迷ったこと、考えるはずありません」

「えっ、無いの?!」

 自分の考えに余程の自信があったのか、レミリアがかなり驚いていた。それは無視して、パチュリーが再び問う。

「じゃあ、最近の私達への仕打ちはどう説明するのかしら?」

「それは勿論、紅魔館を思ってのことに他ありません。サボタージュを止めようとしない美鈴、なかなか外に出ようとしないパチュリー様、近頃急激にカリスマが低下してきたお嬢様。このままでは、紅魔館はどうなってしまうのか。そう危惧するのも仕方がない状態なのです、今、この館は」

 咲夜の言葉に、少し後ろめたくなるパチュリー。申し訳なくなるレミリア。気絶中の美鈴。

 どうやら非は、自分達にあったのかもしれないと、二人は少し反省する。

 何はともあれ、咲夜にクーデターを起こす気が無いとわかったことに安心もした。

「よかったわ。まさか本気で咲夜が襲撃してくるかと思ったわよ。でももう大丈夫ね」

 レミリアがそう言うと、咲夜は何故か不思議そうな顔をする。

「何が大丈夫なのですか?」

「え? だってクーデターの件は私達の勘違いだったんでしょ? じゃあ襲撃する理由が無いじゃない」

 レミリアは安心しきった様に言うが、咲夜はそれを見て溜め息をもらしていた。

「いいえ。私が此処に来たのはあなた方にわかって貰うためです」

「でしょ。なら」

「私はわかってしまったのです。あなた方にわかって貰うには少し乱暴な手段を取らなくてはいけないと。心は痛みますが、これも館のため。私は鬼になりましょう」

 咲夜が静かに歩み寄って来る。笑顔ではいるが、今は逆にそれがたまらなく恐ろしかった。

 あまりに威圧的で、二人は思わず後ずさった。美鈴と一緒に気絶出来ればどんなに楽か、そう思わずにはいられないくらいである。

「いや、そのー、咲夜? 大丈夫よ。私達ちゃんとわかったわ。これからはカリスマ落とさない様にするわ。ねぇ、パチェ?」

「ももも勿論よ! 私もなるべく外に出るようにするわ。ねぇ美鈴?」

「はい! 私もこれからもちゃんと門番します! (レミリア裏声)」

 三人(内一人偽物)の必死の言葉は、勿論咲夜の心には届かない。

 歩みを止めない咲夜。

後ずさり続けるレミリア&パチュリー。その二人に踏まれた美鈴。

「ぐぇ?!」

 ついでに、美鈴はそれで目を覚ました。

「あれ? 私何で寝てたのかな? ってあれぇ?! どうしたんですか咲夜さん?! 何かスゴイですよ! スゴく怖いです!」

 突然起こされたので状況がわからない上、咲夜が戦る気満々の状態なので、兎に角混乱するしか無かった。

 しかし、その後直ぐに冷静さを取り戻し、レミリア&パチュリー&美鈴になり、後ずさり始める。咲夜の威圧感に触れて、迂闊に喋れる雰囲気では無いと悟ったのだろう。

 咲夜が一歩歩けば、三人が一歩後ずさる。

 一歩近付くと、一歩離れる。しかし、ついに壁に追い込まれた。

 一歩近付かれるが、離れられない。

 三人は扉から出ようとするが、我先にと出ようとするので、詰まって身動きが取れなくなっていた。

 それに構わず咲夜は歩み続ける。

 三人は焦りながらも部屋から出ようとする。それぞれの額には冷や汗がビッシリと浮かんでいた。

 咲夜の両手にナイフが現れた。

 三人の動きがしばし無くなり、固まる。

 咲夜が近付いてくる。

 しかし三人は動けない。

 さらに近付く。

 そこでようやく三人が動きを再開する。しかし、先程と同じく身動き取れないままだった。

 ついに、間合いに入れられる。

 やっと三人は逃げ出せた。扉が限界を迎え、壊れたおかげだった。

 その後は、ただひたすらに走った。自分たちが悪いと感じているので、反撃するのは気が退けていたのだ。よって、三人はとにかく逃げるしか道がなかった。

後ろは振り向かない。振り向きたくなかった。数え切れないナイフが迫ってきていたから。




 フランドールが暇を持て余しながら廊下を歩いていた。

 図書館に行ってみたがパチュリーはおらず、レミリアも咲夜も見当たらない上に、美鈴が門に居ない。メイドの妖精に聞いてもわからないという。

 このままでは暇でしょうがない。

 兎に角部屋をしらみつぶしに探していくしかない。そして、行動し始めようとすると、

 どこかで窓が割れる音がした。もしかしたら皆そっちにいるかもしれない。

 軽くステップを踏みながら、フランドールは上機嫌に音のした方へ向かった。




「み~んなっ」

 目的地に辿り着いたフランドールは陽気な声で呼び掛けた。そして、そこで見たものは、

 飛び交うナイフ。

 巻き添えをくらった何体かの妖精達。

 ナイフに囲まれながらもそれを防いでいるレミリア、パチュリー、美鈴。

弾幕を張り続けている咲夜。

「パチェ! 右斜めから来てるわよ!」

「わかったわ! 美鈴! 後ろから来てる……じゃなくて刺さってるわね」

「え?! 何か言いましたか?!」

「あ多分それ最初のやつよ」

「あぁ、抜き忘れてたのね」

「どうかしましたか?!」

「「いいえ」」

「ふふふふふ、抵抗しますか。構いません。少し痛い目にあえばきっとあなた方も気付いてくれるはず。ふふふふふ」




 あまりに理解不能な惨状を目の当たりにしたフランドールが取った行動は、

「図書館で本でも読んでよ」

 唐突にそんな気分なったのだ。

 静かにその場を過ぎ去るフランドールだった。




 それからというもの、美鈴はいくつも怪我を負い満足に門番の責務を果たすことができないでいた。

他の二人は怪我こそ無いものの、パチュリーは急激な無理な運動による筋肉痛に加え、喘息も酷くなり、外どころかベッドから起き上がることも出来ずにいた。

レミリアは咲夜に怯えて部屋から出るのを嫌がる始末である。カリスマなんてあったものじゃない。




 数日後には、また以前のように戻ったのだが、咲夜はそれを何とかしようとは思わなかった。

 三人の様子を見て、無理にそんなことしても解決することはできないとわかったのだろう。

 もしかしたら、紅魔館はこのままの方が良いのかもしれない。

 そう思い、変えるのではなく、受け入れることに決めた。

「咲夜~、お茶~」

 主に呼ばれ、完全で瀟洒な従者は今日も仕事をこなす。
今回が初投稿になります。
いろいろと至らない部分もあるかと思います。
気になるところがあったら仰ってください。

ネタはいろんなところから持ってきました。

>5さん  貴重な意見ありがとうございます。こういった意見はありがたいです


>20さん 本当に申し訳ありません、そしてありがとうございます。修正しておきました
arado
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コメント



0.1040簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
ラストの台詞回しがなんかEDみたいだ

それにしても魔女に運動はいらないというのに・・・パチェカワイソス
5.40名前が無い程度の能力削除
ギャグの一部としてではなく、ギャグを成立させるためにキャラが不自然なリアクションを取らされている、そんな印象を受けました。作者の操り糸が目立ちすぎていて、素直に笑えないと言うか。
8.100名前が無い程度の能力削除
大変面白かったです。
ただラストがちょっと弱かったかな?

でも、楽しめましたよ!
12.60名前が無い程度の能力削除
話の構成が棒書下ろしの小説とほぼ一緒の上オチだけ改悪してるような感じ
14.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい
20.60名前が無い程度の能力削除
>『咲夜の両手にナイフが表れた』→現れた
>『ナイフに囲まれながらもを防いでいる』→囲まれながらも『それ』を、かな?

面白かったですが、ラストはもっと長くてもいいと思います
29.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんも苦労してるんだなぁ。