Coolier - 新生・東方創想話

ドロチラ

2009/03/03 00:42:02
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 こくこくと、今晩何杯目かになる珈琲を飲みほす。
 砂糖もシロップも入れていない黒く熱い液体は、一瞬、私の喉をちりちりと焦がし、すとんと胃まで落ちていった。
 度重なるカフェインの攻撃の所為か、胃はきりきりと小さな悲鳴を上げる。
 可笑しいなと、首を捻った。
 たかだか珈琲でどうこうなるほど、私の胃は脆くない筈だ。
 だとすれば、この痛みは過度な精神的負荷、所謂ストレスと呼ばれるものだろうか。

 私は、低く笑った――新聞を書く事は私の本望の筈なのに、其れを負荷と感じているなんて。

 そう、本望の筈なのだ。
 だと言うのに、筆が進まない。
 押し寄せる読み手の期待の声に、抑圧を感じているんだろうか。

 もう一度、低く笑う。

「まったく……人気が出過ぎるのも考えものね」

 せめて、胃を覆う液体が消化されるまでは、手を止めよう。
 許される時間はけして長くないが、されど私にとっては安息の時間だ。
 遥か過去に思いを馳せる……大空を駆け、写真機片手に愛する幻想郷の遍く真実を追っていた頃を。

 あぁ、ひょっとしたら。
 全ての人妖の期待を一身に背負っている今よりも。
 あくせく動き、がりがり書いていた当時の方が、楽しかったのかもしれない。



 きぃ、と小さな音が耳に響く。



「文様」



 白狼天狗の犬走椛――椛さんが両手一杯に資料や手紙を携え、部屋に入ってきた。

 私の胃が、またきりきりと痛む。

 自分のあり様に微苦笑を零し、座っていた重厚な木製の椅子に、深く身を沈ませる。

「置いといてくださいな。後で読みますから」

 言葉に隠しようのない傲慢さが含まれていたのを感じ、額に手を当てる。
 向けられた椛さんも、眉根を寄せ、困った顔をしていた。
 彼女の表情は非難めいてさえ見えた……私に、自責の念があるからだろう。

 あぁ、それでも今は、この僅かばかりの自由を楽しんでいたい。

「文様、あの」
「……わかっていますよ、椛さん。ですから、もう一杯、珈琲を淹れてきてくれませんか」
「御所望であれば……ですが、その、疲れませんか?」

 彼女の、心からの言葉に、私の胸はずきりと疼いた。



 ……そう、なのかもしれない。



「――だけれど、止める訳にはいきません。私の新聞を待っている方が、いる限り」





「えーと、構わないのですが、まだ『売れっ子になった私』ごっこを続けられるのですか?」
「いいじゃないですかっネタが出ないんですから害のない夢想に浸ったって!」
「あります、害。珈琲、もう今夜だけで三十杯以上飲まれていますよ」
「おぉ、通りでお腹が痛いわけですね」
「それは恐らく現在進行形で行われている腹筋の鍛錬の所為です」



 ほんとは座布団に座っているのだから、自然とそういう形になる。



 へふぅと覇気やらなんやら全て零れ落ちるような声を出し、炬燵に顎を載せた。
 だらけた姿に相応しいと、ついでに口と鼻の間に筆を挟む。
 こうすれば、先ほどの夢想の姿とプラスマイナスゼロで丁度よい塩梅だろう。

 題して、『ダメな私』ごっこ。

「あ、よかった、普段の文様に戻られました」
「意外と意地悪ですねぇ、椛さん。
 あ、ひょっとして腹黒キャラに転身ですかって、腹黒は私ですか、飲んだコーヒーの量的にっあーはっはっはっ!」
「と、飛ばしますね、文様……」

 手を打って笑う私を汗を浮かべて眺めつつ、椛さんは呟いた。飛ばしたくもなる。



「はぁ……」

 年始に始まったスランプは今尚続き、私を苦しめていた。
 加えて、苦しめているのはスランプだけではない。
 年始以来、胸を焦がす、書きたくなる、そんなネタがないのだ。

「まぁ、毎年の事なんですけどねぇ」
「……何がです?」
「冬の終わり頃、春が始まる頃はネタがないんですよ。皆さん、季節の移り目でのほほんとされているのでしょう」

 無論、例外はある。
 二年前のその頃には、月が爆発し、流れ星が砕けた。
 四年前には、冬が続き、春が来なかった。尤も、アレがネタと認識されたのは、梅雨に入り夏が近かったのだが。

 しかし、例外は例外だ。
 私が新聞を書き始めてから、既に数百年は経っている。
 故に、十年の中の一年に、百年の中の二年にそのようなネタがあろうが、私が言う『毎年』の定義は外れではない。

 心の中で押し寄せる何かに対し屁理屈をこねていると、横から可愛らしい唸り声が聞こえてくる。

「うーん……」
「どうしました、椛さん?」
「文様、割といつも、『ネタがないネタがない』と仰られているような」

 心の外、つまるところ、体に、『何か』が押しよせてきやがった。

「あややや。あややあやや」
「泣きそうな顔で首を横に振られても困るのですが。
 あ、『スランプだスランプだ』もですね。口癖だと思っていました」
「い、いやぁぁぁ!? 椛さんの意地悪ぅ、私が何をしたと言うのですかぁ……えぐえぐ」

 頬を伝う滴の出所を押さえ、私は嘆きの声を上げる。

「色々されている気がします」
「聞こえなーい、聞こえなーい」
「押さえているのは目じゃないですか!」
「あっはっは。でも、涙は本物ですよ? 結構グサッときたので。……はぁ」

 ついた溜息は、殊更重かった。

「そ、そう言えばですね! 此処に来る前、お気に入りの場所で、私、ネタを手に入れました!」

 これ以上ないような無様さを曝け出す私を哀れとでも思ったのか、椛さんは手をバタバタと振って注意を引こうとして来る。
 振り向いた私に、顔を輝かせ耳をぴんと立て尻尾をパタパタと振り、彼女は言った。
 可愛いなぁ。食べたいなぁ。あ、是は私の心の声。

「お気に入り。あぁ、山の中腹の。お聞かせ下さいな」
「とても強い風が吹いたんです! きっと、春一番ですよ!」
「スカートでも捲られましたか。――それはスクープですね! 是非再現を! 脱いでください!」



「一の弾幕、旋毛風!」
「のぉぉぉぉぉ!?」



 数分後、其処には元気に頭を下げる椛さんの姿が!

「わぅん、ごめんなさい、文様ぁ!」

 私の頭には弾幕で吹き飛ばされた筆が突き刺さっていた。

 室内での弾幕は注意しましょう。大変危険です。特に狭い部屋だと。……悪かったな、狭くて。

「いやいや。まぁ、私が悪かった訳ですから。――うーん、あぁ言いましたが、ちょいとネタとしては弱いですかねぇ」
「あぅ……そうですか。お役にたてると思ったのですが……残念です」
「スカートなんて捲らなくても、下から覗けばいいだけですし」



「二の弾幕、」
「まじすんませんでした、だから止めてください、家が壊れます」



 五体倒地で謝った。正確に言うと、溢れ出る椛さんの妖力で五回床に叩きつけられた。
 ……強くなったなぁ、この子。抵抗しなかったからだけども。

 椛さんはぷいと顔を横にして――すぐさま、私に向き直った。

「さっきのは冗談ですよね、じゃあ、春一番はネタになりますよね!」

 笑顔が眩しい。
 私は頬を掻き、微苦笑を浮かべる。
 彼女の思いやりは嬉しいのだけど……。

「春一番ならとっくに吹いていますよ」
「え!? で、でも、とても強い風で、その!」
「そもそも強さだけで云々言うモノでもないですが……椛さん、私の能力は何でしょ?」

 あ、と短い声をあげ、しゅんとする。

「風を操る能力……ですね。そんな文様が言うのですから、確かにもう吹いていたんでしょう……」

 声に力はなく、耳は垂れ、尻尾が申し訳なさそうに揺れた。
 ……そういうのが見たくないから、茶化したんですけどねぇ。

「まぁ、とはいえ、まだ寒い。椛さんも炬燵に入りなさいな」
「え、あ、でも、珈琲をまだ淹れてきて……」
「あぁ、それならもういいですよ。これ以上、胃を痛めるのもどうかと思いますし」
「それは多分、新聞が書けないストレスからくるものだと」

 ですよねー。……しくしくめそめそ。

 無邪気に棘のある言葉を発しつつ、椛さんは私の向かいに足を入れた。
 未だ強張っていた表情が、暖気により緩まる。
 炬燵とはそう言うモノだ。

 暫くして、彼女が二度三度小刻みに揺れた。

「あやや、まだ寒いですか」
「い、いえ! あの、でも、余り中が温かくない様な」
「そう畏まらなくてもいいですよ。――そう言えば、燃費が宜しくないので切っていましたね。ちょいとお待ちを」

 河童のにとりさん作電動炬燵。電力を賄っているのは単一電池。ぶっちゃけ、燃費は悪かった。

 身を屈め、炬燵布団の中に潜り込み、真ん中にあるスイッチを入れる。
 ぼんやりとした赤い灯りが暗い空間に光をもたらした。
 是ですぐに温かくなるだろう。

 椛さんも温まればよいのだが――そう思う私の視界に入ってきたのは、彼女の白い足。



 そして、白いドロワーズ。



(……!? ――っ!)

 あげそうになった声を、押し留める。
 ソレだけならば、どうと言う事はなかった。
 先ほど私自身が言ったのだ。下から覗けばいいだけ、と。

 しかし、今は違っていた。微妙な足の組み換えの度、私の見開かれた瞳に、ドロワーズが現れ、隠れる。



 ドロワーズ、チラリ。



 ドロチラ。



「――しゃぁぁぁぁぁっっっ痛ぁぁぁぁ!?」

 咆哮は魂からのものであり、悲鳴は炬燵に頭をぶつけた故のものであった。

「あ、文様!? どうかしましたか、文様!?」

 中で呻きをあげる私に驚き、椛さんが同じく潜り込んでくる。
 明かりが灯された炬燵だから、彼女の表情がよく見えた。
 私を心配する、真摯な瞳。

 冷水を浴びせられた。あり得ない程と思った熱量が一気に冷めていく。

「い、いえ。何でもありません、何でも。あぁ、そうだ」
「何でもないのにあのような奇声を発せ、あ、はい?」
「さっき言っていた、ほら、春一番」

 だが、私の魂は、まだ燻りを残していた。



「アレ、まぁ一面ではないですが、使わせてもらいますね」



 魂の名は、えっと、ブン屋魂とかそんな。多分。







《幕間》

「――!? 藍、ドロワーズを用意して頂戴! 何かが私を呼んでいるわ!」
「いや、自分で用意して下さいよ。何ですかいきなり」
「呼んでいるの! わからないけど、呼ばれているの! WHの一番を! 早く!」
「WHの一番も何も、紫様、白いドロワしか持ってないじゃないですか」
「悪い!? と言うか、他の色のドロワってあるの!?」
「薄い色ですが、ありますよ。っと、えーと……うわ、紫の下着。厭らしい。こんなの持って」
「ち、違うの!? それは、その、ほら、好奇心と言うかなんというか!」
「構いませんけど。……あ、タグが付いたまま。よくわかる箪笥の肥しですね」
「い、いやぁぁぁ!? 見ないでぇぇぇぇぇ!」

《幕間》







 椛さんを家に送って、帰ってきて。

 私は、辺りに誰もいない事を確認してから、風を操った。
 巻きあがるのは強い風。春一番に似せた風。
 捲れ上がるのはスカート。

 現れ見えるは足と、そして、ドロワーズ――ぱしゃっ。

 自身が灯した写真機の閃光が眩しい。

「……まぁ、春一番が吹いたのは真実ですし」

 私は心の奥底から湧き上がる何かに言い訳しつつ、家に入った。







《幕間》

「れいっせぇぇぇん!」
「ひゃ!? し、師匠、どうしました!?」
「名前呼びは緊急サイン。……最近、碌でもない事ばっかりだけど」
「ドロワーズを穿き変えなさい! この、この、緊急時にもばっちり安心、前が空いてい」
「エンシェント・デューパーァァァ!」
「あっがぁぁぁ!? てゐぃぃぃ!」
「ちぃ、倒れないか。鈴仙、下がってて!」
「もう。貴女の分もあるから。そんなに怒らないで、ね?」
「うさぁ!?」
「じゃあ、フタリで穿けばお揃いになるのかな。あ、師匠も入れてサンニンお揃いですねっ」
「嬉しそうに言わないでよ、鈴仙!? ……って、永琳、あの、きょとんとした顔は、何?」
「……そう言うのもありだなぁって。私、ほら、ドロワじゃないから……ぽ」
「わ……凄い大人っぽい……」
「ガーターですか。常、勝負ですか」
「うふふ、貴女がいる。うどんげがいる。そして、姫がいる。何時でも決闘準備OKよ?」
「――そ。じゃあ、決闘しましょ」
「はい、では姫様も下着を見せて……。……ひめさま?」
「皆が通る廊下で、恥じらいもなく、嬉しそうに、見せてるんじゃなぁぁぁい!」

「――勝負あり……だろうなぁ。1コンボキルはどうかと思うけど」
「師匠、死なないよ? ね、てゐはどっちがいい?」
「……まぁ、鈴仙も穿くなら、いっか」

《幕間》







 一週間後。

 なんとかかんとか全ての記事を書きあげ印刷所に回し、私は家に帰った後、泥のように眠った。
 夜を通しての作業などする必要もなかったのが、どうにも心が焦って寝付けないのだ。
 記事を書くときは何時もそう。ひよっこじゃあるまいし、と私は自嘲の笑いを浮かべる。

 まぁー、そもそも定期的に発行しているとは言え、ソレを気にしているのは私ぐらいだろうけどさ。

 ……いや。もうヒトリいたか。私は、意識が沈んでいくのを感じながら、微苦笑を零した。



 明けて、朝。

 ……じゃないな。もはや昼だ。窓の外の太陽がそう主張している。
 控えめに叩かれる戸に返事をし、髪と衣服を整えた。
 がちゃりと開けると、嬉しそうな顔をした椛さん。

 可愛いなぁ、食べたいなぁ。……あやや、寝惚けた頭が正常に動かない。

「おはようございます、文様! 見てください、文様の新聞にお手紙が!」

 ごそごそと腰につけたポーチから二枚の葉書を取り出し、向けてくる。
 私としてはポーチの中のまだ新しい写真機の方が気になったが、其方に話を向ける訳にもいかず。
 差し出された手紙を受け取り、少し苦い表情で答えた。

「はいな、おはようございます。あー、前回の苦情ですか。それとも、前々回への非難?」
「違います。今回の感想です。内容は読んでませんけど、びっしり書かれていて、凄く熱意が込められているのがわかります」
「あやや、椛さん、苦情も非難も有難いんですけどね。私の新聞に、私に、時間を割いて頂いたと言う事で……なんだと!?」

 素が出た。いや、でも、何て言った!?

「あ、えと、新聞を勝手に配ってしまってすいません。でも、昨日、文様がとても頑張って」
「それはどうでもいいのです、と言うか、ありがとうございます。ではなくて!」
「はい、感想です。ほら、見てくださ……文様?」

 私には見えなかった。
 戸に手を置き、よろめく体を支えていたから。
 いや、そもそも、目頭を指で摘み、きつく閉じていたから。

 それでも、滴は私の頬を伝い、ぽとんと地に落ちた。

「新聞を書き始めて、かれこれ、幾星霜……こんなに早く、しかも、感想なんて、あぁ……!」

 拙い。本気で嬉しい。本当に拙い。
 ついつい心の中の声も素になる。
 いつもならこうだ。やばい、マジ嬉しい、鬼ヤバい。

 ――平静を取り戻し、胸に手をあてながら、私は椛さんに向き直った。

「もはや、目が見えぬ……! 手紙はどっち……!?」
「じゃ、読みますね。
 『春一番の記事、素晴らしかったです。私の所にも早く来てほしいと思いました』。住所不定、Y・Yさんからです」
「あやや、あやややや、あややややややっ!?」

 呂律が回らない。と言うか、嬉しすぎて死にそう。

「も、椛さん! もう、結構です! これ以上続けられると、私」
「『今日ほど、貴女の新聞を読んでいて良かったと思う事はありません。素敵な春一番に感謝を』。P.N.蓬莱の薬屋さん」
「いろはにほへと、ちりぬるをー!!」

 達した。いえ、その、嬉しさの限界に。



 震えながら地に膝をつく。
 蕩け切った意識が恍惚の彼方に沈む。
 喜びの涙で滲んだ視界に映ったのは、椛さんの白い足と、白い……――。







《幕間》

「――! お燐、ドロワを穿いていますか!?」
「……何てこと聞くんですか。流石にこの姿の時は穿いてますよ」
「いえ、その、地上の方から凄まじい意識の奔流が……」
「駄目ですよ、なんでもかんでもそうやって誤魔化すの。大体、地上なんて関わり合いないじゃないですか」
「ほ、ほんとなのにー!? うぅ、うぅ、そうですよ、私は地底でも地上でも嫌われ者、地霊殿の主・古明地さとり」
「うにゅ、私も地上は知りませんけど、さとり様は大好きです!」
「ありがとう、ありがとう、お空。……でも、お空、その姿の時はドロワを穿きましょうね」
「あ、あたいだって、好きだけ今何つったぁぁぁ!?」
「言葉が乱れていますよ。うふふ、もうすぐ春ですね、お燐。楽しみですね」
「にゃぁぁぁぁ!?」

《幕間》







 更に一週間後。



「『桃色の風がきたりて春を呼ぶ。覗けるものはドロワーズかな』。」
「あぁん!」

「『老い先短い老体ですが、ドロワーズがある限り、まだまだ生きていけると思う次第です』。」
「はぁ、ん……!」

「『ドロチラ。何と良い響きでしょう。一曲、浮かび上がりました。譜面のみですが、お納めください』。」
「も、もぅ、かんにんしてぇ……!」

「『私、おっきくなったら、ドロわぁずのちらりをたくさん獲るの!』。」
「…………あふん」



 達した。いや、ですから、悦びのリミットに。あやや、喜びです、喜び。



 未だ震える体をなんとか起こし、私は戸に背を預け、額に浮かぶ汗を拭う。
 なんと言う事だ。こんなこと初めてだ。どうすればいい。
 老若男女、人妖問わず、手紙は届けられた。
 最後に読まれた手紙の主は、片仮名でさえ覚束ないのに、辞書と睨めっこしたのだろう、漢字まで使ってくれていた。

 …………。

「駄目だ、この幻想郷、早くなんとかしないと……!」

 よろめく足に気合を入れ、戸から手を離す。
 『どうすればいい』。自身から発せられた問いかけ。
 そう言った類のものは、得てして既に解答は自身の中にある。

 私は、翼に力を込め、舞い上がった。

「あ、文様!?」
「椛さん。飛ばしますので、今回は付き合わなくても――」
「そんな! わ、私も付いていきます! この犬走椛、それほど軟ではございません!」



 向けられる視線に、柔らかい微笑みで返す。

 一拍後、笑みを消し、強く鋭い瞳で前を向く。

 写真機を持つ手に、自然と力が込められた。



「……あの、でも、飛ばすって何処へ?」
「何処でも。この幻想郷の遍く真実を追いましょう」




 ――真実の名は、ドロチラ。




 ドロチラ! ドロチラ! ドロチラ! ドロチラ!
 ドロチラ! ドロチラ! ドロチラ! ドロチラ!

 別にドロワーズが見たい訳じゃない!
 私はドロチラが見たいのよ!
 間違えないで!
 座布団で隠さないで!
 OK! OK! テイクミー! ド・ロ・チ・ラ!

 主役巫女のドロチラ!
 七曜魔女のドロチラ!
 授業中でドロチラ!
 もー忙しい! 忙しい! 助けて頂戴!



 ――曲の提供はプリズムリバー三姉妹のヒトリさんから頂きました。

「サンキュー、メルランさん!」
「や、弦楽器担当様からです」
「え、ルナ姉!?」

 滅茶苦茶アップテンポなんですが。

 事の真相を尋ねようと、廃洋館へと赴く。
 戸をノックし、暫く待っていると、出てきたのは三女のリリカさんだった。
 むぅ。あわよくばドロチラを拝もうと思っていたのに、短パンを穿く彼女では無理か。

 ――いや……。

「はいはーい、あれ、射命丸と椛じゃない。どったの?」
「いえ、その、ルナサさんに少し尋ねたいことが……ですよね、文様?」
「ルナ姉ぇならいないよ。『真実の曲を見つけた』とか言って、どっか行っちゃった。
 因みに、メル姉ぇも追っかけて行ったから不在」

 後日の話だが、ルナサさんがゲリラソロライブを行ったと耳にする事になった。
 なんでも、彼の曲を何時もより少し短いスカートで演奏したそうな。
 で、追ってきたメルランさんに止められた、と。
 話を伺った人間の男性は、『ドロチラもいいけど絶対領域もね』と呟いたきり、沈黙した。
 いや、番いの女性に沈められたんだけど。あの一撃は、見ている私でさえ震えさせる程だった。

 閑話休題。

「リリカさんは行かなかったんですか?」
「うん、次のライブの件で、司会のヒトと話さなくちゃいけないから」
「あ、あの『れっでぇぇぇぇすあんどじぇんとるまん』って方ですか。売れっ子の方は忙しいんですね」

 一切の曇りなき笑顔で椛さん。
 壁に手をつけ黄昏るリリカさん。
 椛さん……リリカさんは三姉妹で唯一、ソロライブを行った事がないんですよ。くっ……。

 悪意なき言葉に言い返せないリリカさんの姿に目頭を押さえつつ。

 私は、動こうとした。――直前。

「――何を、考えておられますかな」
「……!?」

 部屋の方から、リリカさんと話をしていたのだろう、老齢の男性――件の司会が現れる。
 根っからの仕事人なのだろうか、右手に携えた長い長いスタンドマイクが場違いだ。
 飄々とした雰囲気。だが、私の勘、いや、経験は告げていた。

 目の前の相手は、強い。

 けれど。私は、射命丸文。

 言葉を発しつつ、体を揺らした。

「短パンではドロチラができない。――そう思っていた時期が私にもありました」
「ほう。で、今はどのように?」
「短パンを剥けばいいじゃない!」

 声は声になっていただろうか。
 駆ける。風になる。風を従える。風を超える。
 私は風を操る天狗。幻想郷最速と称される存在。

 誰も、私を止める事など、できやしない。

「速さでは、な」
「――! 居合い!?」

 スタンドマイクが。
 煌めいて。
 私を。
 薙ぐ。

「我に斬れぬものなど、僅かもないっ!」
「あやぁぁぁぁぁ!?」

「あ、文様!? 文さまぁぁぁ!」
「……え、何? 何が起こったの?」



 速く軽い球を打ち返せば良く飛ぶ。つまり、そう言う事だ。



 ――かなり遠くまで飛ばされた。
 それが証拠に、椛さんがまだ来ていない。
 まぁ、彼女には千里眼があるから、何れ追いつくだろう。

 私は気を取り直し、再び真実を追い求めた。

 だから、ドロチラですって。





 ドロチラ! ドロチラ! ドロチラ! ドロチラ!

 別にぼんやりしている訳じゃないわ!
 ドロチラについて考えているのよ!

 主役風祝のドロチラ!
 左斜め下の死神のドロチラ!
 たまに見たいわ胸チラ!



「……あやや、ぺったんこ」
「審判‘浄頗梨審判 -射命丸文-‘!!」
「い、命知らずな……。四季様も泣かな、あ、きゃん!? 映姫様、泣きながら埋もれないでください!」







 生きてる……?



 呻きながら上半身を起こした私が思ったのは、まずそんな事だった。

 ネタの為に命を賭ける……ふふ、こういうのも悪くないわね。

 静かに笑う。



「……何やってんの?」
「あやや、格好良くなかったですか」
「地面に激突する瞬間にも写真機を守っていたのは、格好良かったかな……?」

 此処が何処なのかは、かけられた声ですぐにわかった。
 振り向くと其処に居たのは、半眼の夜雀と、少し眠そうな蟲の王。
 ミスティア・ローレライとリグル・ナイトバグ。

 私は、閻魔に感謝した。

 もう一度、チャンスを与えてくれた事に。



 立ち上がる。妖力を溢れさせながら。風を巻き上げながら。



「ちょ、ちょっと何よ、いきなり!?」
「ミスティア・ローレライ。退きなさい。貴女のドロワに、今、用はない」
「……!? やだ、ね! 質問に答えな! 何をするつもり、射命丸文!」

 夜雀は、揺られながら、それでも毅然と言い返してくる。
 彼女の後ろには、目を白黒とさせる蟲の王。
 ……健気なものね。

 風を強くする。

「く、ぅ! この、程度! こんなのっ!」
「あやや……まだ耐えますか。蟲の王の騎士は、我慢お強い」
「わかって、わかってるんだよ! 射命丸文! あんたが、リグルに何をするつもりなのか!」

 風を、更に強くする。

「これはこれは……驚きですねぇ。貴女に、私の考えが読める、と……?」
「わたし、も! あんたの、新聞は、読んだから、ね!」
「くく……ありがとうございます。――それで?」
「ズボンを穿いているリグルのドロチラは見れない! そう思っていた時期が私にもありましたぁぁぁ!」

 すげぇ。本当に読まれているとは。

「そう……貴女は立派だった。尊敬に値する少女。ふふ……」

 風は既に彼女を幾度も切り裂いていた。
 そんな折の言葉に、驚く彼女。
 私は手を差し伸べた。

 そして、抗える筈もない言葉を添える。

「此方に来れば、リグルさんのドロチラが覗ける。来ませんか?」

 抗える筈もない……そう、思ったのだが。

「……や、だね。やな、こった……!」

 強い瞳。決意ある視線。彼女は、吠えた。



「いい、射命丸文……? リグルのドロチラは、私だけが見ればいいんだぁぁぁ!」



 風が、弾かれる。

 私の、射命丸文の風が。

「冗談、でしょう……?」

「ねぇ。出鱈目よ。彼女の彼女への想いは」

「想い……って! そんなモノで、私の風が防げる訳、わぉ、幽香さん!?」

 なんでいるんすか、花の大妖。

 呆然とする私の後ろに、彼女は居た。
 幽香さんは笑顔を浮かべている。
 青筋も浮かんでいるが。

「幽、香……?」
「……無茶をし過ぎよ、ミスティア。全く」
「あはは……ごめん、ちょっと、疲れた。あと、お願いね……」

 音をたて、倒れる。
 当たり前だ。私の風の直撃に晒されていたのだから。
 先ほどまで耐えられていたのがあり得ない位で、とんとんと肩を叩かれた。

 げ、現実逃避していたのに……!

 軋みながら首を動かすと、逃避の理由がやはりそこに居た。

「さて、射命丸文」
「はい。……あの、一つ、聞いて宜しいでしょうか?」
「手短にね。そろそろ、抑えられそうにないから」
「なんで、最強の妖怪とも称される『向日葵畑の風見幽香』が、この子達と仲良しこよしに」

「花符‘幻想郷の開花‘!」

 弾幕が向けられる。
 声のトーンが上がった事を鑑みるに、何か思う所があったらしい。
 私の言葉の何処かに、彼女を怒らせるものがあったのだろうか。

 思いながら。
 私は避ける。
 最強の妖怪の弾幕を。

 私は射命丸文。最速の妖怪。

 光と共に彼女の横をすり抜け、にやりと笑った。



「ご提供、ありがとうございました。風見幽香さん」



 写真機を片手に持ちながら。



「あー、でも、使えないね、それ。ドロワじゃないし」
「ですねぇ。黒色なのは流石ですが。……見えたのですか、貴女」
「私の目は節穴じゃないよ! 鳥目だけど!」
「さ、さすが、ミスティアさん! 格好いい!」
「ふふ……もう一つ、教えてあげる。
 ――幽香は、上も黒! おっぱいフォンデュの時に確認済み!」
「あぁもぉ、抱いてぇって、なんですかその頭の悪い単語!?」
「私に言わないでよ! 幽香がやったんだから!」
「えぇ! 幽香さんが!?」
「そう、幽香が!」

 ひゅばっ――二匹揃って、幽香さんに目を向ける。
 声を上げようとした彼女は、そうする前に身を震わせた。
 恐らく、私とミスティアさんの猛禽類な視線に恐怖を感じたのだろう。

「け、汚らわしい視線で、見ないで……!」

 無理です。

「あーっしゃっしゃっしゃ! も一回見せてよ、おねーちゃぁぁぁん!」
「胸チラ拝ませてくださいよ、幽香さはぁぁぁぁん!」

 ミスティアさんが飛んだ
 私も飛んだ。



 数秒後、叩き落とされた。



 叩き落としたのは、光る蟲の弾幕。

「目、覚めたよ。――懲りて、ないんだね。……ミスチー」

 そして、私に似た、風の弾幕。

「漸く、追いつきました。――何を、されているですか……文様」

 少女フタリが渦巻かせる洒落にならない妖力を感じる。
 私とミスティアさんは、ただ、抱きあって震えるしかできなかった。

「……ん? 文って、結構胸あったんだね。柔らかいよ」
「まぁ、並程度には。あやや、貴女も、意外と少女らしい体つき。細いですねぇ」
「やだ、あややったら! もう私、あんたのスカートめくっちゃう!」
「ミスチーこそ、もう! さっきはあんな事言ってご免なさい。やっぱり取らせてもらうわね、えいっ」

 あはは。うふふ。



「ミスチーの……!」
「文様の……っ!!」



「ばかぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
「お約束ー!?」



 吹っ飛ばされる中、それでも、写真機を守り続けた私は、格好いいと思う。
 誰か、そうだと言ってください。
 ……がくり。







《幕間》

「ミスチーってば、いつもあぁなんだから!」
「文様の馬鹿……。どうして気付いてくれないんだろう……」

「……」

「ね、ねぇ、椛。私達、なんだか、とっても似てる気がする」
「わ、私も、リグルさん、そう思いました!」
「また……今度、ヒトリで遊びに来てね」
「はい、ありがとうございます!」

「――かくして、少女フタリは手を交わし、笑顔を浮かべるのであった。
 ……それはいいけど、なんか、私、扱いが悪くなってるような。
 …………まぁ、いいか。見れたし」

「幽香さんも! それでは!」
「きゃ!? あ、ええ、またね」

《幕間》







 あれから一週間。

 私は、手に入れた真実を余すことなく紙面にぶちまけた。
 全面カラー故、えらく印刷代はかかったが、構うまい。
 あと、文字も少なかった。しかし、此方も構わない。

 真実は、写された物を見た者が、各々感じ取ればよい。



 つまり、真実とは、ドロチラである事を。



 ……一つだけ、構う事があった。
 あの日以来、椛さんが訪ねてこない。
 しょうがないと重い腰をあげて尋ねて行っても、門前払い、けんもほろろに帰されてしまった。

「まぁ、流石に呆れられましたかねぇ」

 ぽんぽんと、丸めた新聞で肩を叩き、私は本来の仕事場所――天狗の大社へと飛んだ。



 天狗の大社。なんてことはなく、数ある部署が一纏めに存在する、天狗の仕事場だ。頭領天狗の家でもある。

 私は其処の一室、報道部署へと威勢良く駆け込んだ。

「さぁ、報道部長! 私の新聞を称えなさい! 発行部数間違いなく一位のこの私の新聞を!」

 部屋が一気にざわめく。
 売り上げナンバー1新聞記者の登場に、チャンバが騒いだ。
 売り上げナンバー1……あぁ、いい響き……いっちゃいそう……!

「せ、先輩、あの方は……?」
「い、いや、私も結構長い間いるが、詳しくは……?」
「まぁ、知らないでしょうね。私も随分と見ていませんでした。久しぶりです、文さん」

 因みに、報道部長は私よりも年下だ。

「そんな事はどうでもいいの! 称えて! 万年底辺の私の新聞を!」
「言葉は正確に使いましょう。千年底辺です、文さん」
「喧しい。虐めるわよ?」

 素が出た。いけないいけない。

 気を取り直し、私は胸を張る。称賛を浴びるのに相応しいポーズ。

「『ドロチラ』。確かに、こう、心に響く言葉ですね」
「もっと! もっと頂戴!」
「私も、久しく忘れていた胸の高鳴りを感じてしまいました」
「あぁ……もぉ……快感……」
「文さん。貴女の『ドロチラ』は素晴らしい。他の方も勿論素晴らしいですが……見れて、光栄に思います」
「あふん、びくび…………え?」

 のけ反る私に届いた彼女の言葉。

 そして、響き。

 私は、首を傾げた。

「部長。何か、こう、可笑しくない? 言葉は正確に使いなさいよ?」
「使いましたよ。あぁ、虐めるのならどうぞ。できれば踏んでください。ドロチラの為に」
「そういや貴女、Mっ気があったわね……。いや、そうじゃなくて。私、今回、自分のは……」

 載せていなかった筈だ。

 彼女は、殊更愉快そうな響きで、言った。



「ええ。わかりませんか? 貴女もたいした部数でしたが……この幻想郷じゃ、二番目だ」



 冗談、でしょう……?
 乾いた笑いが零れる。言葉は出なかった。
 そういやこの子、Sっ気もあったっけ。そんなどうでもいい事を思い出す。



「一番目は、この新聞ですよ。見てください。この、余りにも素晴らしいドロチラを……!」



 呆然と受け取る。
 素晴らしい、と言われても。
 写っているのは真実、自身であり、どうとも返せない。

 掲載されている写真自体はそれほど上手くもなく、ブレも激しい。慣れていない者が撮ったのだろう。

 誰が……?
 誰が撮った……?
 私の後ろを……?

 回らない頭に、新聞の名前が、飛びこんできた。



『このはな新聞』



 このはな……。
 此花……?
 いや、もう一つ……木花……。



「椛、さん……?」
「……貴女が来れば、言ってくださいと伝えられました。『待ってます』と」



 私は、飛んだ。
 窓を突き破り、まっすぐ、まっすぐ。
 何処に。聞く必要はなかった。間違いなく、私と彼女がであった場所。

 彼女のお気に入りの場所。



 当然の様に、椛さんは、其処に居た。



「椛さん……是は――」

 私が彼女に新聞を向け、問う。

 前に。

 彼女が私に新聞を向け、言う。

「文様が、いけないんです」
「……え?」
「文様は、仰いました。遍く真実を追う、と」
「え、えぇ。ですから、私は遍く人妖のドロチラを」
「……そう、ですね。でも、文様の新聞には、真実が一つ、足りていませんでした」
「あ……つまり、天狗、の……?」

 こくり、と頷く。

「や、でも、流石に自分のを皆さんのと並べるのはどうかなと思」
「それなら! それなら、他の天狗が、いるじゃないですか!」
「椛さん……」

 ぽとり、と。
 私に向けられた彼女の腕に、雫が落ちた。
 それが余りにも美しくて、一瞬、私は言葉を失う。



「いつも、いつも、貴女の新聞を読んでいる、天狗がいるじゃないですか!」



 童の様に泣きじゃくる彼女に、私は駆けよる。
 小刻みに震える肩に片手を置き。
 涙が流れる頬を片手拭う。

 見上げる彼女に、私は微笑みながら、告げた。

「……わかりまし、いえ。わかったわ、椛」
「あや、さま、あやさまぁぁぁ」
「っとと、全く……大層な事を、言うようになったわね」

 抱きついてくる椛……の頭を、ぽんぽんと撫で、私は苦笑する。

「ねぇ、椛。まだ、間に合うかしら?」
「え……?」
「貴女が教えてくれた真実を、私が撮るの」

 椛は一瞬、何を言われたかわからなかったようだ。
 可愛らしい大きな目をぱちくりとさせる。
 可愛いなぁ、食べたいなぁ。……私の心の声だってば。

 彼女は、恥ずかしそうに目を細め――そして、私からゆっくり身を離し、言った。

「目をつぶってるので、その、早く……」
「難しい事を言うわね。少しかかるわ」
「わぅん!? わ、わかりました」

 後ろで、衣擦れの音がした。



「じゃあ、行ってくるわね」
「はい! って、何処に?」



 後ろとはつまり、既に振り向いていた私の後ろ。椛がいる辺りだ。何してるんだろう。

「何処って、大社だけど? いつも私の新聞読んでるのって、天魔様でしょ? 過保護よねぇ。……違った? 違いました?」
「あ、やさまの、あやさまのぉぉぉ」



 再度振り向く。
 私の視界に映ったのは、絶対領域を形成する彼女のスカート。
 そして、ひょっとしたらもしかしたら嘘、私より強くないこの妖力!?



「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なんでぇぇぇぇ!?」



 吹き飛ばされた。
 何処までも吹き飛ばされた。
 ――途中までは、そう、思った。

 私を止める者がいた。
 正確には止める者達がいた。
 ――遍く人妖が、其処に、いた。



「『君は一番、色気がないなぁ』だって。笑われちゃったわ」

 博麗の巫女が。

「小悪魔、ありがとう、もういいわ。――お礼は、自分でするから」

 七曜の魔女が。

「はっはっは、子供達に、よくも、いらん事を教えてくれたなぁ」

 里の守護者が。

「何方にも見せた事がなかったんですよ? 親にも、神奈子様にも、諏訪子様にも、霊夢さんにも」

 洩矢の風祝が。

「やぁ、あたいは別にそれほど怒ってないんだけどねぇ。四季様が刈り取って来いって」

 三途の渡し守が。

「用意してたのに! ばっちり用意してたのに!」

 結界の大妖怪が。

 ……。

「ゆ、紫さん! 私、貴女のは撮ってないじゃないですか!?」



「それが、あんたの最後の言葉。冴えない言葉ね、文」
「そんなものですよ、霊夢さはっがぁぁぁぁぁあぁぁぁ!?」



 あやややや。あやややあやや。あやややや。







 各々の弾幕を浴び、私は再び吹き飛ばされ、何処かにぶつかり、墜ちた。
 真実の為に命を賭け、真実の為に、散る。
 格好いいじゃないの。

 ――悪くない、散り方、ね。
 ――残念なのは、あぁ、そうだ。
 ――真実が一つ、足りていない。



 薄れゆく意識の中、どこか怒ったような、けれど、愛らしい声が耳に響く。



 ――私だって、天狗なんですから。
 ――私だって、その、出会ってからですけど、ずっと読んでいるんですから。
 ――私だって、わたしのだって、あやさまのしゃしんきに、あやさまのしんじつに

 ――あやさまのどろちらに、くわえてください。



 意識と共に落ちる瞼に焼きついたのは――。



 ――白い足と、そして、白い、白い、ドロワーズ。



 遍く真実が、私の心に、揃った。真実の名は――ドロチラ。






                      <了>
二十二度目まして。

真実は何時もドロチラ! ……十度目ましての時は違う事言ってましたね。すまん、ありゃ嘘だ。
だいぶ前、具体的に言うと、ドロワ異変の頃に思いついたネタでしたが、当時は書けませんでした。シャイだったの。
作中の挿入歌は、とあるバンドのパロディです。格好いいんだ、あの人たち。

あと。おっぱいフォンデュ、エロス、ドロチラって、私は何処に向かっているんでしょうか。

09/03/11(追記
書いてる途中、楽し過ぎてかじ取りが大変でした。
ちょいと気になって、ドロワ異変近日に自身が何を書いていたか調べたんですが、「きゃる~ん☆」でした。
方向性が違うだけだったようです。

以下、コメントレスー。

>>1様
真っ当ですよ。至極真っ当に欲望を曝け出しているだけです(爽やかな笑顔で

>>2様
わかりません。イカロではないと、自分では思っています。

>>ちゃいな様
突っ走れていましたかね。そう思って頂けたなら嬉しい限りです。

>>6様
ここまでやっておいていやらしさを感じないと言われるのも致命的だと思わないでもないですがががが。
多分、やってる事が概ね頭の悪い事だからだと思います(笑。>爽やか
……シリアス書いていると、ほんっとにこーいうのが進んでしまうんですよぅ。

>>三文字様
報道部長は即興ですが、天狗組織はいづれまた出すと思います。恐らく、碌でもない(笑。

>>11様
わかられてしまいました。やりぃ。 椛が此処に至る経緯も、またい(ry。

>>15様
男性はお呼びじゃないです(笑。霖之助が後14,5幼い容姿だったらなぁ……。

>>18様
気付いて頂けるとは。少女と少年の話もまた(ry。ほ、ほんとにシリアスが書けなくなってる……orz
ミスティアは……私のお話の被撃墜数NO1でしょうからねぇ(次点は紫か永琳かさとりか文。

>>22様
ありがとうございます。 彼女を『君』呼びして、新聞を読んでそうなのは彼だけでしょうね。

>>26様
アクセル入れっぱなし、ブレーキは最後だけ……でしたので。次々回こそは収めて見せます。

>>27様
いやいや。いやいやいや。ミスティアはほら、賢い夜雀ですし、文も……文は……どうかなぁ(ぉぃ。
道標
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コメント



0.1590簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
やあ、あなたの作品を一目見た時から感じていたものは間違いではなかったようだな。


このド変態め(褒め言葉)
2.70名前が無い程度の能力削除
ほんとにどこに向かってるんだあんたw
3.100ちゃいな削除
すんごい面白かったです! 最後まで突っ走るこのテンションっ!
変態的ぃ!
6.100名前が無い程度の能力削除
なんというか、道標さんの作品って、
ネタはあれなのに、不思議にいやらしさを感じないんですよね
いっそ爽やかというか
だから毎回さらっと読んでしまうんですが、
……なんだか作品を重ねるごとに、どんどん妙な方向性になってるような?
9.100三文字削除
ホントあんたって人はww
微妙に報道部長にときめいたのは秘密。
まあ兎に角、頭の悪そうなエロ単語バンザイ!
11.100名前が無い程度の能力削除
ドロチラオブジョイトイですね、わかります。健気な椛に乾杯。
15.80名前が無い程度の能力削除
宇宙の真理……それはドロチラ!
イエス、ウィーキャンドロチラ!
18.100名前が無い程度の能力削除
男は黙って絶対領域。
ゆうかりん直伝の一撃に耐え続けていたのか少年・・・立派な紳士だ!
最早ミスチーのお約束は鉄板(ニヤニヤ的な意味で)、ゆうかりんの可愛さがまたたまりませぬ。
道標さんにはこのまま突き進んでいただきたく。
22.90名前が無い程度の能力削除
あなたの文章はおもしろいから好きです。これからも突っ走ってください。

霊夢に『君は一番、色気がないなぁ』って言ったのはこーりんですか?
26.70名前が無い程度の能力削除
おもしろかった、でもついていけないorz
27.100名前が無い程度の能力削除
もうこの鳥二匹は手遅れだ……
43.80賢者になる程度の能力削除
ほのぼのですら…なんでもない。
そんな俺に隙は無かった。

ゆうかりん可愛いよゆうかりん
46.100名前が無い程度の能力削除
あなたの描く文は、可愛くないのに心に響く…
えぇい! 100点をくれてやろう!w(受け取ってください)