Coolier - 新生・東方創想話

地獄は良いとこ一度はおいで

2009/02/22 01:17:51
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あっちこっちに酔っ払い。そっちこっちに酒の匂い。
わいわいぎゃははと響く声。酒呑む音が聞こえてくる。
ここは地獄の旧街道。地面の下の古い世界。
軒先連ねる飲み屋の周り、今日もげらげら酔っ払い。

ほらほらどうしたもう駄目か。なんのこれしきまだまだいける。
駄目だもう無理吐いてくる。汚ねぇそこで吐くんじゃねえ。
酒が足らねえもっとくれ。はいはいただ今ちょいとお待ちを。

勿怪がふらふら。魑魅へらへら。皆そこらで騒いでる。
ポツリと出てきた影一つ。人影ふらりと歩き出す。
しゃらんと響く鉄鎖の音。からんと響くは下駄突っかけ。
一際響くその音で、皆がくるりと顔向ける。
赤々漆に星一つ。大きな盃ぐいと飲み、赤々一本、角がある。
世に名だたるは大江山。怪力乱神ここにあり。
星熊勇儀がそこを行く。
道行く軒先声上がり、あちらこちらで黄色の声。

やあやあ姐さん調子はどうだい。こっちで一緒に呑もうじゃないか。
おやおや星熊お姐さん、今日はどちらへ向かうんで?
姐さん姐さん良い酒あるよ。いいからとにかく飲んできな。

そこで誘われ向こうで誘われ、皆が皆笑っている。
おうさと応じ、笑って応じ、からんからんと下駄の音。
見知った顔がぽつぽつと、音に釣られて付いて行く。
酒飲み酔いどれ連れ歩き、ぐいと呑み干す星熊盃。
呑んでも呑んでも湧き出す酒の、えも言えぬはその匂い。
匂いに釣られた酔いどれが、ふらりゆらりと付いていく。
釣られた酔いどれ一、二、三。更に釣られて四、五、六。
騒ぎを聞いて集まった、酒飲みどんどん引き連れて、からんからんと下駄鳴らす。
酒の匂いが染み付いた、百鬼夜行の阿呆騒ぎ。
乱痴気騒ぎで練り歩き、笑いながらに酒を呑み、酒を呑んでは笑ってる。
姦し騒がし百鬼夜行。先鋒歩くは怪力乱神。
そこらで寝ている酔っ払い、からんと下駄鳴りゃ顔を上げ、鉄鎖がしゃらんと振り向かせ、その顔眺めて顔崩し、酒の匂いに付いて行く。
どいつもこいつも寄っといで、酒にまみれて笑ってけ。
どいつもこいつも酔っといで、酒が飲めなきゃ呑ませるまでだ。



あらあら鬼の勇儀さん。今日も楽しく飲んでるね。

ひょこんと出てきた土蜘蛛に、おうよと答えてけらけら笑う。
後ろで騒ぐ酔っ払い、ヤマメもおいでと誘ってる。
流石は地底の人気者。おいでおいでの大合唱。

遠慮は無粋だ捨てちまえ。誰でも彼でも呑め騒げ。

酔いどれ達がそう言って、ヤマメが笑って輪に入る。
地底一の人気者、可愛い土蜘蛛混じってみたら、更に姦し百鬼夜行。
あっちで呼ばれてこっちが呼んで、あっちで酌してこっちで酌され。
笑顔を振り撒き、笑顔で囲まれ、ヤマメヤマメと声上がる。
嬉しそうに嬉しそうに、酔いどれ土蜘蛛騒いでく。
呑めや騒げや歩き呑み、酒飲み行進どこへ行く。



がこん かこん。

酒飲み歩く足音に、痛くて重い釣瓶の音。
桶降りごっつんまたごっつん。
タンコブこさえて酒零す。
けれどもケロリとまた騒ぎ、げらげら笑って酒呷る。
がこん、かこんと音が鳴り、またまたタンコブ出来上がり。
突然、星熊腕を上げ、がこんと桶を受け止める。
片手で止めたその桶に、小さな妖怪入ってた。
桶に入って恐々と、辺りを見回す釣瓶落とし。

おやおやお前はキスメじゃないか。
キスメも一緒に来て呑むか?

タンコブこさえた酔いどれが、キスメに色々聞いてみた。
内気で小さな釣瓶落とし。
桶の淵から顔を出して、ぱぁと輝く顔をして、小さくこくこく頷いた。
そうして小さく頭下げ、タンコブ頭にごめんなさい。

タンコブくらいどうでも良い。兎に角一緒に飲もうじゃないか。

皆が口々そう言って、キスメは喜び輪に入る。
キスメにどんどん酒飲ませ、さらに酒くさ百鬼夜行。
キスメを桶に入れたまま、ほれほれ呑め呑め、お酒漬け。
内気で小さな釣瓶落とし、酒にまみれて顔真っ赤。服もお酒で濡れている。

やいやいキスメの酒漬けだ。
キスメが酒で溺れてる

酔いどれ共が大笑い。
キスメも釣られてくすくす笑う。
吊られた桶が笑いに釣られ、楽しそうに酒浴びた。
呑めや騒げや歩き呑み、酒飲み行進どこへ行く。



騒がしいのが妬ましい。笑っているのが妬ましい。
全ての物が妬ましい。

どこから聞こえる恨み声。
明るい明るい嫉妬の言葉。
光り輝く緑の目、嫉妬で燃えてる緑の目。
ゆらりふらりと向こうから、嫉妬狂いがやってきた。
妬み恨んで生きている、橋姫様がやってきた。
くすり小さく笑み零し、緑の瞳で見つめてる。

こりゃこりゃなんとも珍しい、番人橋姫ここにおる。
構うものか連れて行け、皆で一緒に呑み騒げ。

酔いどれ達がそう言って、ちょっと待ってと慌てるパルスィ。
びっくり逃げ出す橋姫を、あっという間に取り囲み、酔いどれ達が担いでく。
嫉妬狂いの橋姫を無理矢理引き込み酒勧め、そりゃそりゃ呑め飲め酔っ払い。
空気に流され橋姫は、思わずごくごく一気飲み。
そうして始まる一気の歓声。あっちこっちで上がった歓声。
更に酒くさ百鬼夜行、皆で一気と酒あおる。

それじゃあ一気がなってない。私が手本を見せたげる。
いいぞ橋姫、飲んでみろ。そらそら皆で一気飲み。

けらけら笑う橋姫が、嫉妬も忘れて酒を飲む。
緑に燃えてるその瞳、既にとろんと夢心地。
はぁ、と熱い息を吐き、赤ら顔には女の色気。
呑めや騒げや歩き呑み、酒飲み行進どこへ行く。


歩き終わった百鬼夜行。
通りを陣取り大宴会。
まだまだ呑めると騒ぎ立て、吐いたら酒で口濯ぐ。
あっちでヤマメが皆と騒ぐ。
こっちじゃキスメが酒びたし。キスメ酒だとパルスィが飲み干す。
ふらふらへらへら赤ら顔。酔いどれ共がゲラゲラゲラ。
そこらかしこに肴が飛び散り、そこらかしこで酒溢す。
深い暗いの地面の底で、そこは明るく酒の匂い。
ちょいと離れた屋根の上、片膝突いて鬼がいる。
ぐいと盃傾けて、ぼんやり眺める地面のお空。
お空の真ん中穴一つ。地底と地上の連絡橋。
ちびりちびりと酒を呑み、思い出すのはいつもと同じ。
酔いどれふらふらちっちゃい小鬼。
あいつは今頃、何しているか。
思い描いて、穴を見る。
いつもつるんで酒を呑み、背中合わせて暴れて回る。
一人で暴れりゃ山崩し、二人で暴れりゃ空崩し、四人で暴れりゃ敵は無し。
つるんで遊んだ四人の一人、居なくなったら何だか変だ。
張り合う相手が足りなくて、どうにもぽっかり物足りない。
物足りなさが何なのか、つらりつらりと考える。お空を見ながら考える。
ぼんやりお空を眺めていると、何やら自分を呼んだ声。
おーいと呼ばれて下向くと、ぞろぞろ皆で呼んでいる。
そろそろあれを始めやしょう。皆口々にそう言った。
今日も派手にと飲み比べ、鬼がいなけりゃ始まらない。
酒飲み酒浴び吐いても飲んで、先に倒れた方の負け。
弾幕ごっことまた違う、妖怪同士の真剣遊び。
よっこら立って、おうよと答え、も一度軽く空を見た。
相も変わらず小さなお穴、覗き込むようこっちを見てた。

そうして始まる飲み比べ。
一人二人と酔い潰し、三人四人と泡吹かせ、五人六人ばたんきゅう。
まだまだ星熊飲み続け、あたり一面酒の山。

ほらほら頑張れ早く飲め。まだまだ相手は余裕だぞ。

そんな声援掛けられて、あっちはへべれけ青い顔。
こっちの星熊すまし顔。
それでもしばらく飲んでると、終いに相手がばたりと落ちる。
さあさあ、お次は誰が行く? 勝てば官軍負ければ酔いどれ。見事勝ったらご褒美だ。
そんな言葉に踊らされ、周りはすでに酔いどれの、兵どもが夢の後。
さらにぐびりと飲み比べ。ただただひたすら酒あおる。
どうにもこうにも物足りない。どいつもそいつも歯応えなし。
ぬるいぬるいと思いつつ、ただただ呑んでは、相手を潰す。
潰れた様子をけらけら笑い、そいつを肴にぐびりと呷る。
酒も美味いし、騒ぎも愉し。けれども何かが物足りない。
少し遠くを見ていたら、お空の穴が目に付いた。
そこから小鬼を思い出し、己が心に今さら気付く。
あいつがいなくてなんだか寂し。
つるんで遊んだ大親友、居なくなったら心が寂し。
酒を呑んでも物足りず、騒いでみてもやっぱり足りず。
物足りなさは物寂しさ。
あいつがいなけりゃ寂しいと、己が心に今さら気付く。
ヤケクソ気味に盃呷り、物憂げそうに彼方見る。

「そろそろあいつに会いたいねぇ」

ぽつりと零れたその言葉。
酒気に紛れて、どこかへ消えた。




「そんなこと言うなんて、勇儀も意外と寂しがり屋だね」




響いてきたのは友の声。
懐かしきはその気配。
もわりと空気がかき乱れ、現れたるは二本角。
長い鎖をじゃらりと垂らし、ちゃぷりと揺れるは伊吹瓢。
小さな体で千鳥足。
赤ら顔を晒して笑い、景気付けにと酒あおる。
驚き顔の星熊見つめ、朗々たりと声上げる。

「やあやあ、我こそは伊吹が山の百鬼夜行、伊吹萃香! そこな鬼と呑み比べに参った! 腑抜けた酒飲みは我が成敗してくれる!」

口上並べて指を差し、にんまり笑うは二本角。
驚き顔の一本角。
口上聞いて笑み零し、やろうじゃないのと立ち上がる。

「おうおうおうおう!! 腑抜けといわれちゃ黙ってられねぇ。怪力乱神ここにあり、大江の山は我が盃。星熊勇儀がどうして負けようか!」

そうして始まる呑み比べ。
あたり一面酒気の海。そこに座るは鬼二匹。
ぐびりと呑んでは、にやりと笑い、ゲラゲラ笑えばぐいっと飲み干す。
いいぞいいぞと声が飛び、別の場所でも騒ぎが起きる。
どいつもこいつも馬鹿笑い。呑めや騒げや酔いどれ夜行。
夜はどこまで深けていく。
あっちこっちに酔っ払い。そっちこっちに酒の匂い。
わいわいぎゃははと響く声。酒呑む音が聞こえてくる。
ここは地獄の旧街道。地面の下の古い世界。
今でもいつでもお祭り騒ぎ。拒みゃしないさ遊んでおいき。
酔いどれ達が待っている。
飲む者は拒まないが吐く者は決して赦さない!
真夜中の行進……酒飲みパレードへようこそ…!

そんなデスマーチ。
どうも三文字です。
短めの文でテンポ良くってのを目指しました。
まあ、呑んでるだけですけどね。
え? 姐さんに勝った場合のご褒美ですか? 
力いっぱい抱きしめてくれます。それだけです。耐えてください。
三文字
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コメント



0.1190簡易評価
9.100煉獄削除
つまり抱きしめられて、天国と地獄を味わえということですか。
スッキリと読めましたし、楽しいお話だったと思いますよ。
面白かったですよ。
13.100謳魚削除
余計な言葉は一つも不要(いらず)。
ただただひたすら酔い痴れようか、楽しき嬉しき馬鹿騒ぎ。
しかして己がふと気になるのはキスメの漬け酒姐御の褒美、如何な至極の悦楽か。
14.100名前が無い程度の能力削除
なんだか歌を聴いているようなお話でした。
お酒って良いですねぇ。
15.100aho削除
イイッスねー。やっぱり地下世界ってこういう馬鹿明るいイメージがあります。
そしてキスメ酒がなんかエロいw
16.80名前が無い程度の能力削除
馬鹿騒ぎの声が聞こえてきそうなリズムのある文章だったと思います。
鬼たちの飲み比べの光景を想像すると、何ともほほえましい。
17.80名前が無い程度の能力削除
読んでるだけで酔いそうになったじゃないか。
どうしてくれるこの野郎!
18.無評価三文字削除
点数とコメントありがとうございます。
展開が普通なんで、まあ文章で勝負した作品ですけど思ったよりも好評でなによりです。

煉獄様
背骨が折れる音を聞きながら、姐さんのたわわに実った果実に埋もれ(ボキィ
絵面的には「勇儀ブリーカー死ねぃ!」的な感じ。

謳魚様
一回で良いからこんなバカ騒ぎがしてみたいものです。

14の名前が無い程度の能力様
リズムを作って歌を作るように書いたので、そういう言葉はとても嬉しいです。
それはそうと、俺、姐さんと飲んで急性アル中で死ぬのが夢なんだ……

aho様
ヤマメのセリフとか三面の旧地獄街道の背景を見てると毎日が楽しいんだろうなぁって思いますね。
三面は江戸時代の飲み屋街みたいなイメージがあります、なんとなく。
キスメが酒風呂状態なんですよ、お酒で濡れ濡れなんです!ベトベトなんです!スケスケなんですよおお!  ふぅ・・・

16の名前が無い程度の能力様
づらづら描写を書き連ねるより、こういう方が雰囲気が出るかなぁと思い書いてみました。物凄い書きにくかったですけど。
東方の鬼達は格好よくて可愛いと思います。

17の名前が無い程度の能力様
逆に考えるんだ、むしろ酔ってしまえいいんだと……
酔っ払いながら読むのも良いかもしれません。
19.100名前がない程度の能力削除
テンポが最高によく、短い文章の中でもワイワイガヤガヤと楽しく
騒がしい地底の様子が伝わってきて良かったです。
行きたいな地底……
萃香の登場シーンには思わず泣きそうになりました。
21.100名前が無い程度の能力削除
言葉の流れがとてもキレイで読んでいて気持ちよくなってしまいます
ただただ感動。こんな文章を書けるなんてスゴイのです
22.100喉飴削除
素晴らしいですね。ほんわかぬくぬくしました。
滑稽に感じられるテンポ良いリズムが最高です。
面白いだけじゃなく、美しさを感じました。
23.80深山咲削除
舞台芝居の発声口上のような、切れのいい字数とリズム感に満ちていました。
文章全体から非常に日本的な空気を感じました。
お酒の匂いの感じられる、素敵な作品でした。
24.無評価三文字削除
19の名前が無い程度の能力様
勇儀と萃香! 二人はオニキュア!!まあ、そんなわけで二人はマブダチなんですよ。
地底いいよね地底。

21の名前が無い程度の能力様
そこまで褒められるとちょっと気恥ずかしいわぁ。でもありがとうございます。
でもまだまだ語彙が足らず同じ単語の繰り返しがあるんで、個人的にはもっと綺麗で気持ちの良い文を目指したいと思います。

喉飴様
日本語というのは世界でも有数の難しい言語だそうです。
同じ意味の文でも言い回しによって、まったく美しさが違いますよね。
美しくも楽しくて読みやすい文章、そんな文体が自分の目標であります。

深山咲様
こういった宴会が日本人は大好きなんだと思います。
西洋風な気取ったりべろべろに酔っ払うようなパーティではなく、全てのものが等しく笑うような宴会。
上手く言葉には出来ませんが、日本の宴会と外国の宴会はどこか違うような気がしますね。
ああ、鬼達と一緒に酒飲みたい。
26.90名前が無い程度の能力削除
キスメ酒…なんとも艶かしい
29.無評価三文字削除
26の名前が無い程度の能力様
キスメ酒なら桶一杯でも飲み干せる!
ZUN帽に酒注いで、帽子酒ってのも良いかもしれません……
36.100名前が無い程度の能力削除
とろんと夢心地のパルスィ・・・襲え!勇g(ピチューン