Coolier - 新生・東方創想話

妄想はエロスな人妖の為に

2009/02/19 23:38:41
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 人妖が集まり宴もたけなわの博麗神社。



 式が式の式を寝かしつけている。
 地上の兎が月の兎を介抱していた。
 瀟洒な従者と紅の門番が赤い悪魔をあやし。
 白黒魔法使いが七色人形遣いや動かない紫図書館にちょっかいかけてたり。
 蟲の妖怪が宵闇の妖怪の口を拭ってやってたり、騒ぐ氷の妖精を落ち着かせていたりした。

 鬼は呑み、神々は語らい、騒霊が騒ぎ、天狗や人形、猫や鴉たちが踊る。



 騒然とした、けれど、温かい空気に、その場にいたモノ、皆が笑顔であった。



 一方、輪の中心から離れた所で、鎬を削り合う者達がいる。
 軽口の交わしあいでも、弾幕ごっこのやり合いでもない。
 投げかけられるのは冷たい言葉ではなく、放たれるのも激しい力ではない。

 静かに、だが、熱く熱く、己がプライドを糧に、彼女達は頭を一色に染めた。



 ――桃色に。



「はい! と言う訳で、第一回エロスビト選手権を此処、博麗神社にて行います! 
 司会は、清く正しくがモットー、私、射命丸文がお勤めしますよ!」
「えーと……射命丸に無理やり座らされました、解説は私、ミスティア・ローレライでお送りしないといけないみたいです。
 私、あっちでリグルたちと楽しく飲んでたんだけどぉ……」

 テンションがひたすら上がっている文を恨みがましく睨みながら、ミスティアは愚痴る。
 しかし、酒瓶をマイク代わりにして気勢を上げる文は意に介さない。
 焼き鳥にしてやろうかこの女郎と、ミスティアは自身の日々の労働を否定する想いを胸に抱いた。

 と。袖を引かれる。

「あー……さとりも、こんなのに付き合わされて大変――!?」

 引いたのは、地霊殿の主、古明地さとり。
 右手には空の一升瓶が掴まれている。
 そして、左手ではあろう事か彼女自身のスカートがまくられていた。

 愛らしいドロワーズがミスティアの視界を奪う。

「――だ、駄目だよ、さとり! それじゃ駄目! もっと恥じらいの表情がないと! そもそも、絶対領域の楽しみが!」
「心を読むまでもありませんでしたね。解説役、お願い致します」
「しまったぁぁぁ!?」

 アフターカーニバル。

 脳裏にきっちりと、頬を朱に染め――酒の所為だが――スカートをまくるさとりの姿を刻み、エロス鳥は失意の底に沈んだ。

「判定方法は、各々方が好きに己が持つエロスを妄想し、審査役のさとりさんが如何に反応するか、となります!」
「なるほど。エントリーされた面々を見るに、確かに言葉で表現するのはどうかと思う妄想が期待できそうだね」
「復活早いですね、ミスティアさん。そう言う事です。第三の目の有効活用ですね」

 得意げに語るさとり。暗くて見えにくいが、彼女の傍には一升瓶が何本も転がっていた。

「でも、大丈夫なの、さとり? かなり少女的にはきっつい責め苦だと思うんだけど?」
「ご心配なさらず。私は地霊殿の主。数多の怨霊の心を読み、ペット達の内なる声を聞いてきました。
 地上の人妖たちの妄想など、それらに比べればなんと軽い事でしょう。なんと健全な事でしょう。
 凄いんですよ。特にペット。動物ですし。普段は澄ましているお燐なんて、もー春になると大変な変態に!」

 猫だもの。仕方ないよ。

 これを機とばかりに、さとりは普段よく素行を窘められる愛猫を語る。正に外道。

 地底の猫娘がひた隠しにしている野性を興味深く聞き、鳥二匹は大いに手を打つ。
 やんやにゃんにゃの喝采は、しかし、抑え目だった。
 輪の中にいるお燐、ひいては他の者たちに感ずかれると、色々拙いのだ。

 そのまま数分、「おらがペットは、みな凄い」と言う話題で盛り上がった彼女達であったが、役割を辛うじて思い出した文が咳
を一つ打ち、話を進める。

「買い出しに行った博麗の巫女が帰ってくる前に始めましょう」
「追い出されるもんね。でも、さとり、今の話は後で詳しく」
「お燐もやりますが、お力もなかなかですよ。ボノボなんですけどね」

 何故、いる。





「では、お待たせいたしました! エントリーナンバー一番、前へ!」

 暗闇に、妖艶な淡い紫色の光が零れ、景色が揺らぐ。現れたるは――。

「結界の大妖怪、八雲紫ー!」



「弾幕を向けられるたびに五銭貰っていたら、今頃大金モチよ」



 因みに、光はスポットライトではない。紫自身が頑張って出している。

「言葉は解りません! 解りませんが、如何でしょう、ミスティアさん!?」
「格好付けてるんだよ、多分。
 ――そうだね、私的には優勝候補のヒトリ。いきなりこいつでいいのって感じ。
 ペレがトップバッターでK.O.勝ちする勢いになるんじゃないかな」
「流石は彼女の後継者と噂されるミスティアさん! 訳は解りませんがありがとうございました!」
「後継者って言うなー!?」

 無論、ダメさ加減と言う意味での、である。

「地上の賢者よ。肩の力を抜いて」
「初めてなの。優しく読んでね」
「気持ち良くなってくるわよ」

 彼女と向き合うのは初めてだったか――早速のジャブを放つ紫を前にして、さとりは不敵に笑う。
 相手にとって、不足なし。

 自身の名と同じ光を浴び、紫は静かに悶えた。

「……あぁん」

 司会、解説の二名が手を合わす。御馳走様、ええもん見れた。

「やー、実に悩ましい声、両腕を寄せ震える様は艶めかしくも妖しく、素晴らしいですね、ミスティアさん!」
「うん、エロいね。声も乳も実にエロい。でも、頭の中はどうなんだろう?」
「貴方はもう少し言葉を飾った方がいいかと。――ともかく、さとりさん、如何です!?」

 躊躇いつつも紫から視線を離し、さとりに向ける文。
 彼女は、使命を全う出来る女だった。
 ミスティアはガン見のままである。

 だが、優勝候補と見なされた紫に対するさとりの評価は、にべもない。

「はっ……この程度ですか」

 鼻で笑った。

「な、ちょっと、どういう意味よ! 私がエロスじゃないと!?」
「おぉっと、物言いだぁ! しかし、しかし、是は意外!」
「さとり、巨乳の奴は敵だから……ごめ、嘘だってば!」

 さとりの目尻にうっすらと溜められた涙は、疑われた事への傷心か、胸に対する嫉妬か。言わずもがな、後者。

「簡単に言いましょう。彼女の頭の中に出てきたのは、彼女と彼女の式、そして、式の式。
 私もね、乱痴気騒ぎかと、いきなり複数かと身構えましたよ。
 けれど、実際はどうですか。単に三名でお風呂に入るだけ。それだけ」

 溜息と共に語るさとりに、紫はあぅあぅ言いながら後退するしかできなかった。
 話を聞き、文やミスティアの呆れた視線が向けられ、紫は更に縮こまる。
 常日頃の威厳など、その姿には欠片も見受けられない。

 とどめをさしたのは、やはりさとりの言葉であった。

「しかも、若干、ご自身の姿も小さめにしていましたし。
 期待外れも甚だしい。貴女、趣旨を理解されていますか?
 是ではエロスなど程遠く、そう、単なる少女の戯れですよ」

「しょ・う・じょ! しょ・う・じょ!」
「い、いやー!? わ、私はエロスだもの! 少女じゃないわ!?」
「まだ言いますか。はっきり告げてあげましょう。貴女はエロスの器ではない」

 周りからの少女コール、そして、さとりの宣言に、びきりと音をたて、紫が崩れた。

 余談だが、本日以降、紫は少女と呼ばれると、複雑な表情をするようになる。
 地霊殿の主、古明地さとり。彼女は恐怖の記憶を思い出させるだけではない。
 作りだせる力も、持っていた――。





「是は意外、波乱の幕開け! 結界の少女、失礼、大妖怪、八雲紫が蹴散らされてしまいました!」
「驚いたね。まさか、紫が少女って言われて凹むなんて。でも、私も少女だと思う」
「ミスティアさん、ほどほどに。紫さん、しくしくめそめそ泣いていますから。
 ――さぁ、騒然とする選手権、次に出てくるのはエントリーナンバー二番!」

 少女が、闇から現れる。地に足をつけ、しずしずと。読んでいた本を閉じ――放り投げる。

「御阿礼の子、阿礼乙女たる――!」



「幻想郷でイラストを描かれたくない女、堂々三年連続ナンバーワン!
 (主な理由、視線がねばっこい、ぷちえす、貧乳を越えて無乳で描かれる)
 多分、今年もぶっちぎり! 泣いていいですか!? 私、幻想郷縁起執筆者、稗田阿求!」



 投げた本を、あたふたしながらも阿求はしっかりとキャッチした。

「そんな私にぞっこんなにとりさん――がいてくれるので、世界中の人妖を敵に回したって平気なんですけどね」
「それが信じられないっての! っくしょう、いいなぁ、ロリ巨乳!」
「ミスティアさん、ミスティアさん、さっき、文さんが言っていた通り、もう少し言葉を」
「言うだけ無駄な気がしてきました。――彼女はどうですかね、ミスティアさん?」
「エントリー内唯一の人間だけど、転生を繰り返しているから十分に目はあると思うよ。
 ただ、うーん、人間だけに、アクロバティックなエロスは期待できないかなぁ」

 的確な解説に、文が満足した顔で頷く。彼女の人選も、実に的を射ていた。

「人間とは言え、容赦しませんよ?」
「構いません。あぁ、是が終わってから取材させて頂けませんか?」
「私も構いませんが……あ、あの、是でも、Aはありますからね? AAじゃありませんからね?」

 何を考えているんだ。
 胸を考えている。

 分厚い本を開き、阿求は意識を集中させた。

「……きゅうり」

 呟いた言葉は、思わずでたもの。深く考えてはいけない。

「あぁーっと、忘れていました! 道具の使用は不許可です! 阿求さん、申し訳ありませんが、し――」
「待って、文! 鳥目だから仕方ないけど、阿求は目を閉じているよ! 使っちゃいない!」
「む。難しい所ですが、わかりました。許可しましょう。と言うか、貴女も鳥目なのでは……?」

 夜雀のミスティア。鴉天狗の文。鳥成分が多いのは、断然前者の筈である。

「いや、ほら。女の子がエロスな事を考えるってシチュエーション、そうないじゃん? しっかり見ておかないと」
「そんなだから貴女、女の子として大事な心を思い出した方がいいなんて言われるんですよ」
「よ、余計なお世話ー!?」

 騒ぐ二名をよそにして、さとりはヒトリ、判断を下す。

「……阿求さん、其処までです」
「うふふ、えへへ、にとりさ――は!? 如何でしたでしょうか?」

 目だけを鋭くして、阿求。口元は未だ、妄想の余韻か、によによしていた。

 同じような口をしつつ、告げる。

「結構なお手前で。――ごぉとぅねくすとすてーじ! ミスティアさん!」
「え、あれ、なんで私? なに、絡むの?」
「カツアゲしてどうするんですか。カツアゲと言う事にしておきましょうよ。
 二次審査は、与えられた言葉にどういうエロスを膨らませるかです! さぁ、ミスティアさん!」

 唐突に振られ、目を白黒とさせるミスティア。
 けれど、彼女こそは幻想郷でも有数のエロス。
 瞬時に言葉をはじき出し、言う。

「ふろ!」
「え、お風呂?」
「――河童の少女とキャッキャウフフですか。悪くはないですが」

 やれやれと首を振るさとりの態度に、阿求はその評価を察した。

「ゆ、紫さんの妄想に釣られてしまったんです! あぁ、ちくしょう!」
「阿求、あんたも女の子なんだから、そんな汚い言葉、思っても言っちゃいけないよ」
「お前が言うな。――二次は辛口ですが、一次では高得点の模様、阿求さん、十分に目はありますよ!」

 突っ込みも行う。進行もする。彼女達相手に両方行うのは、そうそう易しい事ではない。
 さとりは、文の能力を高く評価し、彼女の執筆する新聞の購読を決めた。
 一ヶ月経たずに後悔するのは、また別のお話。





「さー、盛り上がってまいりました! この勢いの儘いきましょう!」
「三番目は……え、もう、こいつ? 紫が消えちゃった今、優勝候補筆頭だよ?」
「では、そう評される実力を見せて頂きましょう! エントリーナンバー三番!」

 輝く。薄暗い中、輝きを放つ。放たれる光がいづるのは、遥か頭上。――月。

「月の頭脳! 誰もが認める天才! 八意永琳ー!」



「貴女達が立っている場所は、既に四千年前に通り過ぎているっっっ!」



 月光を背に受け、永琳は宣言する。大変だ。月の住人が皆、変態にされた。

「次も控えていますから、さくさくと進ませましょう、お薬屋さん」
「ふふ、星を数えている間に終わらせてね?」
「何時まで読ませるつもりですか」

 やり取りに、文が不安な顔をする。

「うーん、いけません。是では紫さんと同じではないですか」
「展開も似た感じになるって? ……どうだろうね。私はそう思わないけど」
「ほう……期待しても宜しいと。貴女がそう言うのであれば、注目させて頂きましょう」

 眼光を鋭くしているミスティアに唸りをあげ、文も倣うように永琳に視線を向けた。
 当の彼女は、声をあげ、悶えている。

「……はぁん」
「一緒じゃないですか、紫さんと!?」
「一緒じゃないよ! 紫の方が尻は悩ましかったけど、乳は永琳のが上だよ!?」

 文は頬に冷や汗を流し、後退さる。
 そんな差異を見抜いていたとは。
 感銘を覚えている辺り、お互い、駄目な鳥だ。

 自身のペットとは遠い二匹の鳥に感心を向けつつ、さとりは永琳の頭を探る。

 その表情は、暫くして変わった。

「……ミスティアさんが言うから、どれほどのものかと思えば。貴女は、やはり先の賢者と同じなようですね」

 冷めた嘲笑するものに。
 けれど、紫と違ったのは、永琳が声をあげずそのまま妄想を続けている事。
 彼女はただ、己が妄想を膨らませ続けた。

「見苦しいですよ、永琳さん。貴女の妄想は、『髪』。それ一点。何処がエロスだと言うのですか」

 嘲笑は侮蔑へと変わる。殊更辛辣な言葉に、しかし、ミスティアが気付いた。

「……待って、さとり! 『髪』? それだけだっての!?」
「ええ。期待外れもいい所ですよ。夢見るアリスちゃんじゃあるまいし」
「あやや、実際のアリスさんとは関係ありません。精神的に子供な方を指す言葉です。
 と言うか、さとりさん、紫さんの時よりも言葉がきつい……あぁ、胸がより大きいから」

 指摘され、ぷいすとそっぽを向くさとり。彼女も結構な駄目妖怪である。

「……フタリとも。ちょっと考えてみてよ。あんた達、『髪』で悶えられる?」
「は? 愛でる対象ではあるかと思いますが。椛さんの髪、ふわふわなんですよぉ」
「こいしの髪も素晴らしいですよ。いい匂いがするんです。こうふわっと……はっ!?」

 目を見開くさとりに、ミスティアは頷いた。

「うん。私も、リグルの髪で一時間は話せるよ。だけど、悶えられるかって言われると」
「……蓬莱人のエロスは奥が深い。そう言う事ですか。さとりさん、如何いたしますか?」
「認めがたいですが……仕方ありません。辛うじて、次のステージへの切符はお渡ししましょう」

 さとりが永琳から与えられた胸の傷は深い。
 心を読めないミスティアと文にも、それはわかる。
 故に、彼女達フタリは、判定を覆したさとりの肩を、柔らかく叩いた。

 柔らかく微笑みを返すさとり。そして、強い瞳でミスティアを捉える。

「では、永琳さんに言葉を」

 ミスティアはこくりと頷き、永琳を見る。
 展開は追っていたのだろう、視線を向けた先の永琳も、彼女を見ていた。
 目と目がぶつかり、互いに唇の端を吊り上げる。

「海藻!」
「え、髪を引っ張るの?」
「――はい、ダメ! 全然ダメ! きょぬ、じゃない、永琳さん失格ー!」

 物凄く嬉しそうにさとりが宣言した。傷は本当に深かったようだ。

「――あぁ!? わかった、今わかったわ!」
「あー……私も、何を考えているか解りました。エロス鳥め」
「貴女も鳥じゃないの。――って、仕方ないじゃない! だって、姫様、はえ――」



「魔符‘イルスタードダイブ‘ぅぅぅ!」
「それ本当に突っ込む技じゃなあっがぁぁぁ!?」



 ミスティアの頭突きに、永琳が吹っ飛ぶ。場所が場所だけに、木々や岩が彼女の体をより傷つけた。

「えーと、スペカ使ってまで止める必要があったんですか? 私は確定させたくて動きませんでしたが」

 永琳でさえ捉えなかった動きを、しかし、文は見抜いていた。止めない辺りが鬼畜である。

「ごめんよ、文。でも、言わせきっちゃうと、輝夜がタイミング悪く向こうから来ちゃうと思ったの」

 謝罪の言葉に、文も気付く。確かに言う通りだ。
 その先の展開は、動きについていけなかったさとりでさえ読める。
 輝夜を筆頭にして、芋づる式に椛やお燐が現れるだろう。そして、最後にはリグルが。

 二名は身を震わせた。ラストスペルで済むかどうか。こんな処で新技を披露して欲しくなかった。

 己の意志が伝わったフタリに半笑いを浮かべ、ミスティアは走る。
 その先に居るのは、彼女自身が吹き飛ばした永琳。
 自らを『後継者』と慕ってくれる、天才。

 立ち上がる事すらできない永琳を担ぎあげ、ミスティアは声を震わせる。

「永琳も、ごめん!」
「ふ、ふふ、いいのよ、ミスティア。いいから、私を置いて、戻り、なさい……」
「――! ごめん、永琳、本当に、ごめん! 私、リグルに怒られるのが怖くて……!」

 声もからがらの永琳。
 四肢と言わず、五体と言わず、その体全身が傷ついていた。
 それでも、彼女は戻れと言う。

 何故?――ミスティアの疑問に、永琳は、痛む体に鞭を打ち、無理やりに笑いながら、応えた。

「私、では、無理だった。紫でも、ね。でも、貴女なら、ミスティアなら、なれるわ……」

「えいり、ん……いいよ、喋らないで! 辛いでしょう!?」

「ぐ……はぁ、く……。ミスティア、私の最後のお願い、よ。聞いて……。
 戻って。戻って、つかみ、とって……なって、頂戴……!
 私と、紫の、『後継者』、ミスティア・ローレライ……!」

「え、い、ぐす、り、……ん……! 私は、私は……!」

「さぁ、想いを寄せる子の名を叫び、……妄想の翼を、はためかせて……幻想郷一の、エロスに……!」



「――リグルぅぅぅっっっ!!」



 その時、帰ってこないフタリを追い、文とさとりが走ってきた。
 文は見る。月光を背に、永琳を抱え、力強く翼を広げるミスティアの姿を。
 さとりは視る。ミスティアの脳裏に浮かぶ、生き生きとした、躍動感に溢れるエロスを。

「ミスティアさんが、光っている……!」
「あぁ、あぁ、彼女こそが、幻想郷一のエロスだったの……!?」

 さとりの言葉を耳にし、ミスティアは顔を俯かせ、抱く永琳を見る。

「聞いた、永琳? 私、さとりに――!?」

 言葉が詰まる。
 彼女が見たのは、永琳の安らかな表情。
 手に、腕に、今までよりも重さがかかる。その意味は――。

 ミスティアは、叫んだ。

「あ、あぁぁ、駄目だよ、永琳! 目を開けてよ、永琳! こんな私なんか、こんな私なんかの一撃で――!」

 慟哭。
 文は目を伏せる。
 さとりは耳を塞ぐ。



「死なないでよぉー!!」



 叫ぶと同時。
 手を動かす。
 永琳の胸元を探り、薬を掴む。

「――早い!? あの手の動き、あり得ない!」
「翼を土台にして不安定だと言うのに、塗る位置も正確ですよ!」

 より太い月光が、ミスティアを照らした。

 そして、ぴくりと、永琳の指が動く。

 二名の言葉が、奇しくも重なった。



「ま、まさか、ミスティアさん、――天才に!?」



 その呼び名に、当の彼女は、不敵に笑った。
 脳裏に浮かぶのは、以前、屋台で語り合った永琳と紫との会話。

『ミスティア、貴女、バレンタインのお返しとか考えている?』
『んー、服にしようかな。まだ寒いし』
『あらそぉ。じゃあ、微妙に大きいのにしなさいな』
『なんで? だぼだぼもいいけど、ぴちぱつも捨てがたいよ?』
『流石ね。だけど、まだまだよ。ねぇ、ゆかりん?』
『良い線は言ってるけどね、えーりん。いい、ミスティア? 微妙に大きいのだとね』
『うん』

『疑似穿いてない、が楽しめるのよ!』

『――!? 天才、フタリとも凄い。天才だね!』
『ふふ、ありがとう。でも、永琳はともかく、私にはその呼び方、止めて欲しいわ』
『あら、私だって、実は微妙だなぁって思っているのよ?』
『なんで? フタリとも、十二分にそう呼ばれていいと思うんだけど?』
『言葉面が宜しくないの。天からの才能なんて、自分が全然努力してないみたいじゃない』
『そぉそ。それに、茶目っ気がないもの』

『だから、ねぇ、ミスティア。私達を呼ぶ時は――』



「淑女」

「え?」
「なんです?」



「……そう! 私を呼ぶなら、淑女とでも呼んで頂戴!!」



 ごくりと、二名が唾をのむ。

「淑女・ミスティア……」
「わぁ、物凄くしっくりきます」

 二名が言葉を舌で転がしている間に、ミスティアは永琳を近くの木に寄りかからせる。
 そっと胸に手を当て、一瞬、微笑みを浮かべ、振り向く。
 振り向いた先には、当然、文とさとり。

「……そう言えば、永琳さんは死なないのでは?」
「……の様ですね。彼女も先程まで度忘れしていたみたいですが」
「と、鳥頭……。あれ、じゃあ、今の鼓動の確認は?」
「胸を触りたかっただけですよ。顔も笑っていますが、心も笑っています」

 あーっしゃっしゃ。

 二名の言葉を無視して、ミスティアは諸手をあげた。
 そして、各々に向かって人差し指を折り曲げる。
 意味するところは、『来なさい』。

 一瞬、文もとさとりは視線を交わす。
 刹那の後に、ミスティアへと投げる。
 言葉を。

「しょくしゅ!」
「うねうね! 触れる手!」

「あめ!」
「あぁん、蟲王様、もっと、もっとお仕置きを! 私はリグルに何時だって盲目だよ!?」



 ――完璧だった。

 隙間から現れた紫が背負い、右腕を永琳が持ち上げ、左腕を阿求が伸ばさせる。

 図書館の司書が、地底の毒蜘蛛が、博麗の悪霊が、魔界神が、亡霊嬢が、選手権に参加していた皆が、手を打つ。

『お前ら何時の間に現れた、と言うか、復活した』――そんな野暮な事を言う者は、ヒトリもいなかった。

 司会の文と、審査のさとりがこくりと頷き合い、頬に涙を溜め、同時に宣言する。

 満場一致に認められた、淑女、ミスティア・ローレライの栄光を。

「第一回エロスビト選手権、栄えある優勝者は、――」





 その時。ぴきりと音がした。木を足で踏みつける音。





 その場にいた全員が、各々言い訳を始める――前に。



 乱入者は、口を開く。



「……人の神社で、何、馬鹿な事やってんのよ」



 現れたのは、買い出しに行っていた博麗の巫女、霊夢。
 最悪の事態は免れたと、全員が胸を撫で下ろす。
 厄介と言えば厄介だったが、なに、ラストワード乱れ打ちに比べればましであろう。

「あ、あはは、えっと、私が淑女に覚醒めてね」
「……淑女? あんたらまとめて、馬鹿にしか見えないんだけど」

 ばっさりと切り捨てる霊夢の言葉に、誰も言葉を返せなかった。

「……まぁ、いいけど。子どもじゃあるまいし、他に迷惑かけないなら、そんな事で騒がないわよ」

 溜息と共に呆れた響きが零れ、それを耳にした文がさとりの袖を掴む。

(本心ですか? 探ってくれません?)

 言葉の代わりに、頭を縦に振る。
 これこそ第三の目の有効活用。
 口には出せなかったが、きっと出せば誰もが認めてくれただろう。

 さとりは、霊夢の心を覗いた。

「それに、私だって子どもじゃないし。そう言うのに興味がない訳じゃないし」
「あ、あ、そうなの、霊夢? 貴女もエロスだったのね!?」
「がっつかれても困るんだけど。ま、まぁ、人並みには」

 紫の嬉しそうな声に、何故か霊夢はたどたどしく応えた。
 その意味に気付いたのは、この時点では数名。
 けれど、さとりの反応に、皆が理解した。

 心を読む妖怪は、両目から涙を流している。

「ぴ、ぴゅあ……! なんて、乙女……!」

 全てのエロスを洗い流す純真な心。
 とめどなく流れる涙は、美しい。
 皆が、そう思った。

 当の霊夢以外は。

「ち、ちょっと! 私がピュア!? 冗談はよしてよ! この私が、エロスじゃないとでも!?」
「わー、唯一の一次落ち、ゆかりんと同じような事言ってるー」
「い、いやぁぁぁ、忘れようとしてたのにぃぃぃ!?」

 場に満ちる乙女コール。
 崩れ落ちる結界の人妖。

 その雰囲気を吹き飛ばしたのは、風を繰り、神に祈る者――



「よくわかりませんが、とりあえず、霊夢さんはエロスじゃないみたいですね」
「さ、さなえー! そ、そんな事ないもん! 私、えろすだもん!」



 ――東風谷早苗。

「――って、意外と早く追いついてきたわね。私、香霖堂を出てからすぐに、全力で飛ばしてたのに」
「もぅ、霊夢さん、酷いじゃないですか! 置いてかないくださいよ!」
「持ってる量は同じ位でしょ。あんたは胸が重いから遅いの」

 交わされるほのぼのとした会話。
 既にエロスの欠片も、参加者たちにはなかった。
 巫女と風祝の微笑ましく温かいやり取りに、皆が好々爺めいた表情となる。



 ただ、ヒトリ――



「あ、と。さっさと戻るわよ。あんたに、こいつらの会話は聞かせらんない」
「えと、何のお話をされているんですか?」
「エロスの――だから、ダメだって!」



 ――心を読む妖怪以外は。



「あ、あぁぁ、あぁぁぁぁ……!?」



 震えている。
 さとりが、声を出して震えている。
 地霊殿の主が、頬を朱に染め、声を出して震えている。

 ミスティアが覚醒した時にさえ、その頬は、白かったと言うのに。

「さ、さとり!?」
「どうしたんですか!?」

 駆け寄るミスティアと文。
 しかし、彼女達の声は届かなかった。
 さとりは今、頭を抱え、蹲っているから。

 鳥フタリの目が、人間二人に向けられる。いや、正確に言えば、一人。



「まさか! 早苗が来た事によって、『霊夢』が――」
「――『霊夢さん』がピュアガールから、エロスへと変化した!?」



 彼女達は、本心、そう思っている。
 参加者の皆もまた、同じだ。
 だが、さとりだけは違った。



 彼女の第三の目に否応なく流れ込んでくるエロスは、ミスティアと文の言葉により、更に強くなった。



「エロスな霊夢さん、ですか。良い響きですね」
「変な事言ってないで、行くわよ、早苗」



 蹲りながら、口に手を当て、さとりは絞り出すように、言う。



「第一回エロスビト選手権、優勝者は、早苗さんです……!」



 少女二人は、軽口を交わしながら、境内へと戻って行った――。





「早苗さん、イッちゃってますよ。あの方、未来に生きてます……」






                      <了>
Japanese is hentai. 



早苗さんが全部持ってった。二十一度目まして。
言いたい事の半分以上が、あとがきの一文目で終わってしまいました。
まぁ、早苗さんも現代人である以上、幻想郷の方々にとっては未来に生きていると思うんですよ。

あと。前回に書いてたミスティアの覚醒云々は此方に入れてみました。長いパロディだなぁ。

以上

09/03/05
このお話、拙作「測られたり!」のリベンジ的なものでした(内容やキャラは全然違いますが、構成は酷似しています)。
結果は……ぼちぼちですかね。ネタがネタだけに、後半になるほどなーも考えず書きこんでしまいましたが(ケフ。
以下、コメントレスー。

>>煉獄様
修羅場の展開、考えはあったんですが、テンポの為に削りました。
ただ、ご指摘を受け、単に自分の技量のなさを棚にあげて書かなかったんだなぁ、と。精進します。

>>8様
自分の中で、早苗さんは女子高育ちです。そして、女子高の方々はいろいろ知っている筈です。イエア!

>>10様
世の中にはわからない方がいいものもありますです。冗談は置いといて、アクセルとブレーキの加減が未だ掴めません。ぬぐぐ。

>>14様
早苗さんはピュアなので、ぼろは出さないってイッテマシタデスヨ(カクカク。

>>17様
アクセルが足りないのか、ブレーキが遅かったのか。いつか、どっちかをなくしたお話が書いてみたいものです。

>>謳魚様
サイドバーも残り僅かでの登場でしたからね(笑>確定。
作中でも好き放題言われているお燐ですが、元は動物なんですから、当然な思考なのです。

>>21様
何の話かと思いました>写真(ひでぇ作者。 あと、芸人言うな。芸人違う(笑。

>>25様
ボディコン、ワンレン、デーハーな早苗さんですか。見たいかも。

>>26様
この手の話題で、我々現代の日本人は何にも負けないのですよ。実践となると別ですが(笑。

>>28様
そこはノリで書きました。疑問に思われた時点で私の負け。ちくしょー。

>>32様
『髪を切るだけ』のエロスなビデオがあるそうです。同じ人間なのに、もう何が何だかわからない。

>>33様
前作にコメントして頂いた方でしょうか。まず最初に、お言葉を拝借しました。ありがとうございます。
映像化の見送りはご推察の通りです。具体的に言うと、阿求の時点で確実にアウトでした(笑。
大ちゃんは、ほら、湖から離れられないので(変なこだわり。

>>白徒様
各人各様のエロスを思い浮かべてみてください。
お考えいただけたでしょうか。それの斜め上を考えているのでしょう(なげっぱ。

>>43様
罵ってください! ぶちまけてください!(……が通じるのかどうか(じゃあすんな。

>>46様
格となったのは八名。文とさとり様の活躍所が書けなかったのが悔やまれます。
道標
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コメント



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4.80煉獄削除
面白かったんですよ?面白かったんですけど、もう少し
山あり谷ありが欲しかったかなぁ……と感じました。
笑いもしましたけど、でも何か物足りないような……。
リグルとかがその場面に登場して修羅場とかに発展しないからかなぁ…。
ともあれ、面白く読めました。
8.90名前が無い程度の能力削除
まぁ、現代っ子である早苗さんの持つ知識は
幻想郷には無いものが多そうですからねぇw
10.60名前が無い程度の能力削除
テンション高すぎてよく分かんなかった…w

だめだこの郷、早く何とかしないとww
14.90名前が無い程度の能力削除
霊夢の身が危ない ような気がひしひしと感じます
でも面白いので早苗にはどんどんいって頂きたい
17.70名前が無い程度の能力削除
面白かったんだけどgdgd。gdgdだけど面白い。
18.100謳魚削除
ただただ面白う御座いました。
そして早苗さんが出た時点で早苗さんの優勝確定済だった私の脳内がいました。
早苗さんは獣(お燐ちゃんとか)を超えるHENTAI且つエロスビトなのだ!
あと結界組がピュアなのはガチと思います。
21.90名前が無い程度の能力削除
写真という名のスペルで戦える賢者達は、ある意味次元が違ったのかw
それにしても淑女ミスティア、なんと素晴らしい響き!
お約束のリグル展開フラグをなぎ倒すとは・・・芸人として失格じゃ(ry
25.100名前が無い程度の能力削除
今夜はサナエナイトフィーバーだ!!
26.100名前が無い程度の能力削除
現代の現人神たる早苗嬢にエロスで立ち向かうなど笑止千万でございます。
28.90名前が無い程度の能力削除
淑女のくだりで吹いたwww
なんで天才=淑女なんだよwww
32.70名前が無い程度の能力削除
人間ってえろいしなあ
33.80名前が無い程度の能力削除
ああ、これは惜しい。道標さんでエロスというから期待してしまった分、肩透かしを食らった気分でした。
いや、ギャグ的には悪くないんですよ? 悪くないんですけど……なんか、こう、もっと……もっとぶっ飛ばせたような……!
さとり様の解説が口頭説明だった分だけエロスが緩和されたからかも知れません。いっそ想符とか使って映像として再現してしまえば……あ、いやそれだと年齢指定食らいそうだから駄目なのか。
というかなぜこんな美味しいお題で大ちゃんを使わないのかと! チルノちゃん妄想を膨らませないのかと!!

>『疑似穿いてない、が楽しめるのよ!』
しかしこの一文には唸らざるを得なかった……! あんた天才だ、否、あんたこそが紳士だ!

あと自分の前作でのコメントがまんま抜き出されてて吹いたww
34.100白徒削除
完璧だ…と途中までは思っていた。
ただ、ただ悔しい。
早苗さんのエロスが凄い気になるぅぅううう!!!!!
でも100点(ヘブン状態)
43.100名前が無い程度の能力削除
エロスはほどほどにな!
46.80名前が無い程度の能力削除
難しそうなネタをよくぞ。
そこからさらに、こんだけキャラ出してってのは普通に凄いと思います。
ピュアな少女と巫女がお気に入りになりました。
58.70名前が無い程度の能力削除
レベルEの野球部の部長を思い出した
62.100のや削除
なるほど、早苗はまさに『神』だったか…。