Coolier - 新生・東方創想話

ある日のリグル・ナイトバグ

2004/10/14 14:11:24
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 見方によっては、永夜抄のネタバレに見えるかも知れません。またわざとリグルの一人称を「僕」にしてしまっています。



 僕は闇に蠢く光の蟲・・・のはずがなぜか夕方近くに起きてしまった。昨日の晩、無数の蛍たちと光で語らい、気の赴くままに飛び回りながら一番大好きなときを過ごしていたら、初めて見かける人と妖怪の二人組に逢った。べつに二人を取って食うつもりなんかじゃなかったんだ、ただ、もう命の残り少ない蛍たちの最後の光を、一緒に見届けてくれる人がいればうれしいと思ったんだ。でも二人は「満月がどうとか」と言って急いでいたみたいで断られてしまった。僕もつい強気になってしまい、案の定弾幕ごっこ。月の光だって大好きだけど、僕ら「見かけはひとっぽいがひとじゃないもの」の心をざわつかせるあの強い満月の光より、優しくも儚げな蛍の輝きのほうが素敵なのにと思う。このことで調子が狂ってこんな場違いな時間に目覚めてしまったのだろうか?そういえば、あの日の月もなんだかいつものとは違っていた気がする、それに、なんだったんだあの異常に長い夜は!
 
 蛍たちの出番まですることがないので、森の周りをぶらぶら飛んでみる。思ったほど太陽の光は目に辛くない、ただ人間たちの集落が見えたとき、広場でまだ遊んでいた子供たちが僕を指差して「でっかいゴキブリ」と言ったのには泣けた、心が痛い、ある意味弾幕ごっこで負けたのよりも痛い。気を取り直して飛んでいるとどこからか蝉の鳴き声が聞こえた。彼らも僕の友達と同じ、けものやひとよりはるかに短い時間を懸命に生き、自らの存在を訴えているのだろう。そのことを考え、少し涙が出た。
 

 「そこの蛍さん、こんな時間にどうしたの」

 不意に後ろから少女のものと思しき声をかけられ、考え事の世界から無理やり連れ戻される。

 「君は・・・この森の蝉なのかい」

 彼女の頭には私のとは少し短い触覚が生え、透明で網目模様のある羽が背中に生えていた。

 「そう、あなたと同じ蟲の化身、でも珍しいね、昼に活動する私と夜に生きるあなたがこうして出会うなんて。蛍サンたちに仲間はずれにされたのかな。」

 「そんなことないよ、ちょっと早く目がさめたから散歩(?)してたんだ。そうだ、こんな機会めったにないから
一緒に蛍を見ようよ。」

 と何気なく誘ってみた、別に特別な感情(って何だ?)はなかったのだけれど。

 「出会っていきなり口説くのかしら」 彼女の表情が「おいおい」みたいな風になったので「まずい、怒らせちゃった」と後悔したが、彼女は少し考えて、そのうちこう言った。

 「いいわ、蛍の光を私にも見せて」と。


 いつもの森に二人でくる。少し欠けた月の光がゆらゆらと小川の水面を照らしている。そこには一匹の蛍もいない。しん、と静まり返っている。妖怪ですら心細くなるのではないかと思えるほどだ。

 「誰も、何もいないじゃない」

 「見ていて、おーい、今日は新しい友達を連れてきたよ」

と僕が呼ぶと、やがて、ぽっ、と光が現れ、瞬く間に辺りが小さな黄緑色の光点に包まれていく。節足動物たちの生命のダンス。太陽のような刺すほどの光ではなく、月のような妖しげな光でもない、高いエネルギー効率によるほとんど熱を出さない冷光の群れ。これだ、これを他のひとか妖怪にも見て欲しかったんだ。

 彼女はというと、目の前の光景にただただ圧倒されて蛍たちの飛翔に見入っていた。

 「夜の世界って、ただ暗いだけで何もないのかと思っていたけど、だからこそ輝くものがあるのかもね」
   

 そのあと、二人で夜通し語り合った、最近蛍の数が増え、外の世界がどうなっているのかといった事、なぜか夜も鳴いている蝉がいるのはどうしたことなのかという話題や、おなじ蟲でもなぜ外界のひとびとは蛍が少なくなるのを嘆く一方で、蝿や蚊をああまで嫌うのか、作物を食べる蟲は「害虫」、その蟲を食べる蟲は「益虫」と呼んで差別するのか、むしろ後から地上に出現して「これは私たちのものだ」と植物をを奪ったのはそちらではないのか、などなど。
 
 そして一番貴重だったのは、お互いが知らない世界の半分を教えあったこと。

 ひとたちや魔法使いたちの言う「知識を得る喜び」とはこういうことなのだろうか。そして彼女と語り合うこの時間がものすごく、宇宙全体の規模からみて、二度と戻ってこない、サイコロのおなじ目が百万回連続で出るような確率の出来事に感じられるのだ。そして僕は、わがままにもこの奇跡の時間をもっと過ごしたいと本気で思った。

 ミスティア姉さんがいつか言っていた、「そのうちあんたも特別な人が現れるかもね」とはこのことなのかな?

 初めまして、人生最初のSSを投稿させていただきます、HNとらねこと申します。何か批評がいただけたら幸いです。
とらねこ
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コメント



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13.80名前が無い程度の能力削除
文の調子がよく面白かった
22.無評価名前が無い程度の能力削除
蝉が登場したときのリグルの一人称が私になってた