Coolier - 新生・東方創想話

もしも彼女が二人なら(1)

2004/10/09 12:33:14
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アリス・マーガトロイドは人形のチョーカーを留め終えた。そしてゆっくりと数歩後ろ
に下がった。
「・・・やっと、やっと完成したわ」
彼女は両手を合わせ、何かを達成したような様子で嬉しそうに言った。彼女の前には椅子
に座った人形が置いてあった。人形というには大きく、しかもよく見ると、人形と言うに
はあまりにも精巧で存在感あるつくりをしていた。今にも目を開いて立ち上がりそうな程、
その人形は細部まで作りこまれていた。しかもきちんと上品そうな服をきせられている。
 そして何より、製作者であるアリス自身にそっくりだった。
 
 アリスと同じ綺麗に肩まで切り揃えられた少しカールのかかった金髪。服装も彼女の普
段着と全く同じデザインのものを着ていた。フリルをあしらった半袖の白いブラウスに、
膝下まである青色のノースリーブのワンピースである。ワンピースの腰の部分はピンクの
リボンで締められており、腰から胸の部分まで左半身と右半身の生地が黒い紐で結いつけ
てあった。腰のリボン同様に首には同じ生地で作られたチョーカーが結ばれてあり、肩の
辺りまであるケープを固定していた。まるでどこか良家のお嬢様と言った感じの装いであ
る。だがそれが似合うあたり、アリスはお嬢様なのかもしれない。
「本を参考にして作ったとは言え、良い出来だわ」
アリスは満足そうに腕を組んで人形を眺める。出来が良すぎて、まるで自分を見ているよ
うだ、顔立ちなんてまるでそっくり、アリスは思った。
「頑張った甲斐があると言うものね」
未だに人形を眺めながらそう言った。実際自分でもかなり頑張ったと思った。良く作った
と自分を褒めてやりたい。
 
 
 
 アリスが自分そっくりの人形を作ろうと思ったのは、単純な理由からである。自分そっ
くりの人形がどんな使い魔になるのか知りたい、どんな能力を持つのか興味がある、ただ
それだけだったのだ。
 しかし今までアリスの作ってきた人形は、裁縫が主で趣味の範疇で出来るようなものば
かりであった。したがってアリスが自力でそっくりに作ったとしても、よく出来てデフォ
ルメされた自分であった。また、そんな人形を作成することはプライドと美意識が許さな
かった。結局気がつくと、足は自然に紅魔館に住む識者、パチュリー・ノーレッジの元に
向いていた。
 さも迷惑そうに対応するパチュリーの態度に我慢しつつ、アリスは人形の作り方が記載
されているような本について尋ねたのだった。それってあなたの得意分野じゃない、とす
ぐに返答されてしまい少し言葉につまってしまう。しかしそれはそれ、何か人形に関する
本はないかとしつこく食い下がった。するとパチュリーは既に対応するのも面倒くさくな
ったのか、ある本棚を指して、なにやらぶつぶつ言って書斎の奥に消えていってしまった。
アリスはその本棚からある一冊の本を見つける。
 人と思われるシルエットが表紙のその本は、人造だが人間に近い生命体について書かれ
たものということが前書きで分かった。全く別物じゃない、アリスは思った。しかし他に
人形に関した本がない様子だったので、その本を拝借して自宅に持ち帰った。そして予想
通り、本は人形どころか本当に人が作れてしまいそうな内容だった。作るには必要材料も
多く、複雑な構造をしていたが、アリスのプライドは製作の放棄を許しはしなかった。
 本の通りに作るのは一見可能そうに見えた。しかし中には材料の入手が極めて困難で、
作れそうに無い器官もあった。けれどアリスが作りたいのは人工の生命体などではなく、
あくまで人形なのである。よって動くのに最低限必要と思われる部位や箇所だけで構成し
たのだった。つまり、人形の活動のエネルギー源などは自分の魔力であるし、循環的エネ
ルギー摂取回路など省ける器官は省いたということである。しかし省いたと言っても、そ
の後の製作は困難を極めたのものであったのは違いなかった。が、それはまた別のお話。
 
 
 そんな経緯があり、ようやく今しがた一大製作活動は終わったのだった。アリスは壁際
に置いてある自分そっくりの人形の座った椅子から離れる。
「今日は疲れたし、動かすのは明日からね」
アリスはそう言って、着けていたチョーカーとお揃いのヘアバンドを外し、部屋に置いて
ある机の上に置いた。そしてベッドまで進んで腰を下ろす。どうやらここ数日、根を詰め
ていたせいかすごく眠かった。
「ちょっと頑張りすぎたかしら」
アリスはふう、と息を吐いて立ちあがると、まずはお風呂に入ろうと思い部屋を後にする。
部屋の開け放たれた窓から吹き込む風が、涼しげな群青色のカーテンをはためかせる。外
の景色は既に暗く、見ただけではよく分からない。部屋から漏れる光があって初めて、よ
うやく周りが森に囲まれていることに気づくほどだ。幻想郷では魔法の森と言われる森も、
アリスにとっては単に広い庭でしかない。熟知していている妖怪でも時々迷ってしまうと
言われるこの森は、彼女の結界のようなものでもあった。森に住むもう一人の魔法使いが
居なくなってくれれば完璧なのに、常々アリスはそう思う。
 早々に風呂を出て、早々に寝る準備を終えたアリスは自分のベッドに入る。極度に疲れ
た体を包む布の感触が心地よい。
「おやすみ」
アリスは上半身を起こして、所狭しと部屋中に座っている人形たちに就寝の挨拶をする。
そして天井についたランプに向かって指を一振りすると、今まで部屋をてらしていた光は
消え、夜の闇が広がっていった。アリスは光が消えたのを確認してからベッドに深く潜り
込んだ。心地よい疲労で今夜は気持ちよく眠れそうだった。
 それからほどなくして部屋にはかわいい寝息が聞こえ始める。カーテンが風に揺られる
音が微かにする中、ベッドの中でアリスは穏やかな顔をしている。それを見守るかのごと
く、主人そっくりの人形はベッドの方を向いたまま、静かに壁際の椅子に座っているので
あった。


 翌朝、目覚めたアリスは背伸びをしてからベッドを降りた。既に顔を出している太陽の
光が窓から差し込んでくる。ぐっすり眠れたおかげで眠気も無く起きることができた。歩
いて机の上に置いてあるヘアバンドを左手にとり、未だに行儀よく座っている人形の前に
立った。そして右手の人差し指を立ててこうつぶやく。
「あなたに命を与えるわ」
言葉が終わらないうちに、アリスの細い指の先が輝きだす。まるで空中に舞う小さな光の
粒子を集まるがごとく、アリスの周囲からまばゆい軌跡を描いて光が指先に収束する。そ
うして何分か経っただろうか、見た目にも分かるほど指先の光が大きくなったところで、
アリスはおもむろに指を人形の額にかざした。次の瞬間、まるでそこに穴が開いているか
のように光はその額に吸い込まれていく。その際生じた風が人形とアリスの髪をそよめか
せる。
「願わくば、あなたが素敵な使い魔になれるように」


 やがて光がすべて吸い込まれてなくなり、起こっていた風も止む。お互いの金髪が揺れ
なくなり、アリスは微笑みながら尋ねた。
「お目覚め?」
人形の頬には既に赤みがさしており、無機質な白い肌もまるで生きているかのようにほの
かな赤みをたたえていた。主人の言葉に反応するかのように人形はまぶたを開く。
「どう、気分は?」
目を開いた人形は、今までずっと眠っていたかのような緩慢な動きで目の前のアリスを見
上げた。深い青を湛えたアリスの瞳と目が合う。
「私が分かる?」
その問いかけに答えるように人形は頷いた。素直に頷くその姿はアリスから見ても実に愛
らしい。
「構造上、もしかして、喋れたりするのかしら」
「・・・はい、マスター」
人形は薄い紅色をした唇を僅かに動かして答えた。それを聞いてアリスは、自分の頬がほ
ころんでいくのが分かった。胸が高鳴り幸せな気分に浸れる、自分の母性が満たされるよ
うな、そんな感覚を味わう。
「なんとか立てそう?」
そう言ってアリスは人形の手をとって立たせる。手を引かれて立ち上がった人形は、初め
て地面に立ったかのように不思議そうに床を見ている。初めて重力を感じている様子であ
り、膝が少し震えているのが分かる。
「多分歩くのもすぐに慣れるわ。それに空も飛べるようになるし」
アリスは人形の右手を離し、左手に持っていたヘアバンドを両手で持つ。そしてそれを自
分がいつもそうしているように、人形の頭につけてあげた。リボンの装飾が施されたヘア
バンドが目に可愛らしく映る。
「あなたを作るのには苦労したのよ。それはもう本当に」
そう言って、アリスは自分より頭一つ分背の低い人形の金髪をゆっくり撫でる。
「だから聡明で、行動力のある優秀な使い魔になってもらわないと困るわ」
この時のアリスの顔は、彼女を知る人が見たなら別人かと思うほどに優しい顔をしていた
に違いなかった。人形もどことなく幸せそうな顔でそうされるままでいた。そして言い終
わると同時に撫でるのをやめ、彼女は向きを変えて歩き出した。
「早速だけど、朝食の作り方でも覚えてもらうわ。キッチンはこっちよ」
言いながらなるべくゆっくりと歩いている様子のアリス、そのあとをついて行く主人そっ
くりの人形。まだ少々動きがぎこちないが、主人に置いていかれない様に頑張って歩いて
いるのが分かる。
 部屋のドアを開けて、少し右に進んだところで、ふとアリスは歩みを止め振り返って言
った。
「使い魔とは言え、休息場所が椅子なのは可哀相だから、この奥の部屋を使っていいわ。
少し古いけどベッドやピアノが置いてあるはずよ」
アリスの指した廊下の奥には茶色のドアが見えた。可哀相というよりも、自分似た姿を床
に座らせて休ませるのは気が進まなかったからである。
 言い終わるとアリスはまた歩き始めた。キッチンと思われるドアの前まで来て、アリス
は急に振り返った。同じく立ち止まっている人形に向けて嬉しそうに言う。
「あ、そうそう、名前が無いと不便でしょう」
また実を言うと、不便というよりも、自分そっくりの人形をなんとか人形という名前で呼
ぶのは少し気が引けたからであったのだが。アリスは人形の方を見て、ドアを開きつつ言
った。
「ありがちだけど、クレア、と言うのはいかが?」
人形はさも不思議そうにその名前を聞いていたが、自分の名前だと分かるとおもむろに何
度も頷いた。そして彼女の向く方向には、これから毎朝働くことになるであろう、綺麗に
整頓されたキッチンがあった。



 そのクレアが活動し始めて1週間が経った。
 彼女はアリスが思ったよりも利口で覚えが早い。5日目には掃除・炊事・家事一般が全
てそつなくこなせるようになっていた。やっぱり使い魔の質って人形の質に関係するのか
しら、と思わずには居られなかった。
 クレアのような人形を作ったのは今回初めてだが、過去には色々人形を作っている。例
えば上海人形や蓬莱人形などがある。可愛らしい長めの金髪が上海人形の特徴である。上
海人形などは今や彼女自身でレーザーをコントロールできるほどになっているが、それで
も食事を作らせるのには苦労した覚えがある。アリスの肘から手まで程しかない上海人形
の大きさを考えると、さすがに無理な注文だったのかもしれない。しかも手は手で、フラ
イパンを持つように作られていないし。
 でもその分不安もあった。これほど苦労して作ったにも関らず、情けない能力しか身に
つけなかったりしたらと考えると、アリスとしてはちょっとつらい。しかも自分に似てい
るという点も相まって、実際にそうなったら少し泣くかも知れない。でも現在において見
る限りは、覚えもいいし安心した。弾幕戦術やら教える時が楽しみである。


 アリスは食卓のテーブルに着くと、キッチンに立つクレアの挙動を眺めていた。窓の外
を見ると既に太陽は顔を出しており、その高さは夏を思わせた。最近眠りすぎるせいか、
いつも遅めの朝食になってしまう。換気のためにクレアが窓を開け、新鮮な空気を取り入
れる。
「マスター、今朝の朝食は何にしましょう?」
キッチンに向かっているクレアが聞いてくる。そこで意地悪でカレーと言っても多分材料
は無いし、それに朝からカレーは食べたくない。
「いつものやつでいいわ」
「はい。すぐに用意します」
主人の返事を聞いたクレアは手際よく材料を調理し始める。素早く卵の殻を割りかき混ぜ、
熱したフライパンに注ぐ。次にクレアは包丁を握り、慣れた手つきで野菜類を刻んでゆく。
こうしてクレアがエプロンを着けて朝食の支度に勤しむ姿を見ると、アリスは何か新しい
発見をした気持ちになる。なんせ自分が料理を作っている後姿など見る機会はめったに無
い。自分が料理を作るときもあんなに手際が良いのだろうか。それに、自分はあんなに嬉
しそうに料理をするのだろうか。アリスが目をやっている先のクレアは、どことなく楽し
そうに白い皿に料理を盛り付けていた。
 そうこう考えているうちにアリスの目の前に朝食が並ぶ。スクランブルエッグに茹でた
ソーセージ、シーザーサラダ、コーンポタージュにトースト。それぞれシンプルな白い皿
や食器に盛り付けられている。いたって普通の洋風の朝食である。それをアリスはそれら
を口に運びながら、食べる様子をじっと見つめながら側に立っているクレアに話しかける。
「朝食が終わったら、魔法の使い方を教えるわ」
「分かりました。よろしくお願いします」
お辞儀とともに丁寧に返事をするクレア。彼女の作る朝食は日を追うごとに自分そっくり
の味付けになってきている気がする。スクランブルエッグを口にするも、アリス自身が作
ったと思われる程の質であった。いや、たかがスクランブルエッグだし、それに私が得意
なのはシチューだったりするのよ。アリスはそう思いつつ彼女の作った朝食を残さず食べ
終わる。
「美味しかったわ。どんどん上手く作れるようになってきてるわね」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
そう答える彼女の顔は本当に嬉しそうだった。




 所変わって湖に囲まれたここ紅魔館には、陽の光もほとんど届かない薄暗い大きな部屋
がある。その部屋には本棚が整然と並べられ、その数は部屋の広さと相まって図書館とで
も言える程である。それぞれの本棚には大小様々な大きさの本が隙間なく収められており、
背表紙などからそれが古いものだという事が分かる。また本棚と本棚の間には所々机と椅
子が読書用に置かれてある。だがあまり利用されることがないのか、薄く埃を被っている
机や椅子も目につく。そんな部屋の中、颯爽と歩いている霧雨魔理沙の姿があった。
 肩口の程まであるブロンドの長い髪が目立つ、その少女は部屋の奥を目指して歩いてい
た。白い半袖のブラウスに、エプロンのかかった黒いハウスドレスを着ており、頭にも白
いリボンとフリルがあしらわれた黒の帽子が乗っている。全体を黒と白で統一されたその
格好は、先のとがった形状の帽子からして、ある単語を彷彿とさせる。それは魔女や魔法
使いと言った言葉であり、それが彼女を形容するには適当であると思われた。
 しばらく歩いて、魔理沙は足を止めた。彼女の目の前には机があった。他と比べると比
較的綺麗に掃除されているのか、机の上に埃は見当たらない。埃の代わりに読書灯が置い
てあり、その脇には本が重ねられている。読書灯は今まで誰かが読んでいたのか、開かれ
た本のページを照らしていた。
「ほう、あいつも面白そうなもの読んでるな」
魔理沙は開いている本を手に取り、眺めてそう言った。そのまま本に目を通しながら、机
の上に腰を下ろす。本に向いて動かない浅黄色の瞳からは、少なくともその本に興味をも
った様子が見て取れる。
 そうして何分か経っただろうか、少女に近づいてくるような足音があった。
「机の上に座って読むなんて行儀が悪いわ」
その声は近づいてくる足音の主から発せられたものであった。
「じゃあ家の座り慣れた椅子の上で読ませてもらうぜ」
魔理沙は本を閉じて、顔をその主の方に向ける。その向いた先に居たのは、魔理沙と同程
度の年齢に見える少女、パチュリー・ノーレッジであった。
「駄目よ。それ、私の読みかけの本でしょ」
パチュリーは机の方に向かって言う。魔理沙は笑って机の上から降りた。
「私の読みかけの本にもなったがな」
「それで、何か用なの」
そう言ってパチュリーは脇に抱えてきた本を机の上に降ろした。どの本も分厚く、年代物
特有の香りがした。本についていたのか運ぶ際についたものなのか、パチュリーの服には
埃が少々ついている。
 パチュリーの服装は外見上の年齢相応と言った装いであった。膝ほどまである長袖の薄
いピンク色のワンピースを着て、同じ色の布で作られた帽子らしきものをかぶっている。
薄い紫色のストレートな髪は腰辺りまで伸びており、様々な色のリボンが結ばれている。
ワンピースにはフリルの装飾が施されており、可愛らしい印象も受ける。
 パチュリーは読書灯の前に置かれた椅子に座ると、運んできた本の一つをめくり始めた。
「そっちの持ってきた本はなんなんだ」
丁度机を挟んで対面に立っている魔理沙が興味深そうに尋ねる。
「本を読むために必要な本よ」
そう言ってパチュリーは右手を魔理沙に向けて差し出す。どうやら魔理沙が手に持ってい
る読みかけの本を要求しているようだ。
「なんだ。要するに参考書か」
にやにや笑って魔理沙は持っている本を渡す。
「そういえば、何か用なの」
再度パチュリーは尋ねた。魔理沙のことを知っている者として、パチュリーも大体予測が
つくことではあった。つまり用を聞くということは、二人にとって挨拶みたいなものであ
る。
「特にないから来たんだ」
あっけらかんとした相手の返事を聞いて、パチュリーは自分の予測が当たったことを嘆か
ずには居られなかった。魔理沙が遊びに来ると、悪いことは起きても良いことが起きるこ
とは滅多にないからである。
「本を読んでるから遊ぶことは出来ないわよ」
「じゃあ読み終わったらいいんだろ。何時読み終わる?」
「大体3日かかるわ。だから今日は帰ったら」
パチュリーは相手に帰宅を勧める。勿論冗談で3日と言ったわけではなく、実際読むのに
時間がかかる本なのだ。当の魔理沙は面白く無さそうな顔をしている。
「じゃあ仕方ないから私も読書に励むぜ。家で」
そう言って魔理沙は本棚の周りを歩きだした。
「待って。本は上げないわよ」
パチュリーは楽しげに本棚を物色している魔理沙に向かって注意するも、聞こえているの
かも怪しいくらい応答がない。何度か言ってみるも反応がないあたり無視しているのかも
しれない。聞いていて無視するというのは一番性質が悪い。そう思っていると魔理沙が振
り返って聞いてきた。
「なんかこの本棚一冊抜けてるみたいだが、誰か借りていったのか?」
確かに魔理沙の指差す本棚の段には、一冊分空間が空いている。
「ああ、そういえば前にあなたと同じ森に住む魔法使いが来たわね」
「・・・ほう」
それを聞いて魔理沙は何か面白いものを見つけたような顔をした。相手の様子を見てパチ
ュリーはとりあえず自分の身と本を略奪される危険は回避されたと直感する。あの目は何
か面白いことを見つけた目だ。
「仕方ないから今日は帰るぜ」
 そしてその直感は当たった様子で、魔理沙はいそいそと出口の方へ歩き出した。パチュ
リーは出口に向かっている魔理沙を横目に、その本棚を見た。既にパチュリーが全書読破
している本棚であり、主に人工生命に関しての書棚である。
 人工生命を簡単に言いかえると、限りなく本物に近づいた機械、と言える。だがそれの
載っている本の内容は相当古く、実際作れないこともしばしばある。正常に作れても、ト
ンボやカエルとかなので実用性が全くない。要するに、パチュリーでさえ趣味で読む本だ
った。
「魔法使いがあんな本借りてどうするのかしらね」
まあ、読んで楽しければそれでいいのかもしれないけど。そう思いつつ、パチュリーは再
び本に没頭し始めた。
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