Coolier - 新生・東方創想話

オールマイティゴールド、宙癒す

2004/09/22 07:20:49
最終更新
サイズ
19.44KB
ページ数
1
閲覧数
766
評価数
6/34
POINT
1490
Rate
8.66








(注意:この独白には東方永夜抄製品版に関するネタバレが大いに含まれています!

 下記文章を読解する為のリテラシ
 →  東方永夜抄本編~Exステージを一通りプレイするの事
    及び、上記作おまけ.txt&キャラ設定.txtの読解
    及び、残虐表現を理解する程度の能力

 無くば、独言獨白の意図意思意識の末節理解に及ばず。
 とはいえ、そこまでに根を詰める必要も無いといえば無し。
 何もできなくとも生きては行ける。熱意と意思があれば。
 自分にはないので、条件を満たさない方には勧めきれません。
 最後のは、無い方がいいかもしれないのですけれど。

 話が大きくずれました。この先、1光年)




























「夜空に星が輝く理由、考えたことがある?


「大した理由じゃないわ。
 星一つも立派な生き物。
 自己主張の一つや二つや三億四兆程度、して当然の行為。


「地上人はよく、宇宙人は本当にいるか?なんて言うわね。
 冗談でか、馬鹿正直に考えてかは問わない。
 ま、彼らからすれば私たち月人はそのウチュウジンとやらだし、
 言ってる彼ら自身だって自分たちも地球人っていうウチュウジンだって自覚がある。


「要するに、自分の住んでる星以外に、
 自分たちと同じような生き物がいるかどうか、という議論。
 でも、問うまでも無いわね。
 地上人は愚かだから気付かないのか、さて気付かないから愚かなのか?


「規模に囚われていることが愚かといえば愚か。
 彼らには無理からんこと・・・なのかしら。
 星を生命と認識しているのなら、
 それは自分たち以外のウチュウジンだと理解できるはずじゃない?


「それが宇宙人なのか、はたまた宇宙塵なのかがわからなくとも。
 少なくとも夜空に輝く星の数だけは、
 ウチュウジンってのは確実にいるのよ。


「しかしまぁ、なんなのかしらね。
 あの地上人っていう塵どものしぶとい燐光は。


「いつまでも、いつまででも。
 地上最大の魍魎は地上人よ、間違いなく。
 都合の良い共同幻想を抱いて、
 心底自分たちの為だけの世界を、
 切り拓くともなくぶち壊していく。
 

「あれが意識せずにやっていることなのなら、
 や、どうやらそうらしいんだけれども、
 ある意味では尊敬に値するわね、あの姿勢は。
 それ以外の意味では最大限に蔑して余りあるのだけど。


「あれだけ自分たちで惑星を蒼くしておいて、
 やっぱり地球は青かったですって?
 行為に知性がついてきていないじゃない。
 あいつらは昼も夜も空の色しか見ていない。
 地面と海面を見れば、星が蒼いこと位産まれた途端にわかるわよ。


「まぁ随分と長いことこの星は赤かったみたいね。
 ある時、発生しなくてもいいようなものが発生したせいで、
 それからはおおよそずっと青色。
 誰が志向したんだか知らないけど、
 星産みとしては上出来な方でしょ。結構、綺麗なもんだわ。


「昔の月ほどじゃないけれどね。
 最近はもう、両方とも駄目。
 地球は幻想が汚れたせいで蒼が濁ったし、
 月なんか酷いものよ。まるきり光に色が無い。


「白い色ってのは、星の光。
 それ以外の色が見えたら・・・、
 そこにはね、星以外の生き物がいるってことなのよ。


「命の長さを蝋燭で喩えるでしょう?喩えない?じゃあ喩えなさい。
 命の形質によって化学反応が起こる。
 そうすると元とは光る色が変わって、
 それら全部が混ざり合った輝きが星の外から見えるわ。


「例えとしては、50点なのよ、これは。
 喩えなら合格ラインだけれどね。


「蝋燭に喩えていいのは、そうね、
 いつ消えるのかよくわからない奴。
 星か、銀河か、妖怪ぐらいのものだわ。


「蝋を注ぎ足すようなのもいるから、
 ずーっと静かに燃え続けたりする。
 芯が長すぎるから、蝋を足すだけでまるっきり永遠に生きられる。
 ただ、その代わり火の勢いは弱いわ。
 生き急ぐと、蝋を作れなくなってしまうものね。
 芯だけ、自分だけでは星だって生きられない。自分を生かす何かがいる。


「地上の生命は、星の蝋燭と比べるとほんの一瞬で燃え尽きるわね。
 酸化したら終わりかっていうと、
 そうでも無い、そこから始まるのもいるから、何とも喩えづらいけれど。


「ああ、人間? あれは五月蝿いくらいに燃えるわね。
 馬鹿みたいに多いわ、いちいち輝きが大きすぎるわ・・・、
 目を細めるくらいの光、それ自体には害が無い。
 身近に喩えるなら、マグネシウムとかかしら?
 塵に違いは無いから、なんでもいいけれど。


「こいつらの異常な輝きのせいで、
 もうこの星の青さといったら無いわ。
 青いも青い、青臭くてしょうがない。
 それとも宇宙の広さに恐縮して青褪めているのかしら。
 五十億年近くも何やってるんだか。
 青いまんまで生きられると思ったら、大間違いだというのに。


「でも、ま。劣等感を持つのも悪くないのかもしれないわね。
 あれだけの権勢を誇った月の世界が今はもう無いのは、
 優越感のみを頼りに他の星星を見下していたからなんだし。
 表裏一体の感覚でも、前者のデメリットは致命的じゃないわ。
 階梯を登る余地があるという意味でも、ね。


「苦笑いしながらも、言わずにはいられないわよ。
 ああ、本当。私が一番、他の全てを見下しているのだものね。


「私は八意。宇宙の全てを知る者。
 八は即ち宇宙よ。宙の字は何画だかわかるわね?
 私は、八世界の普く知性を受け持つ知性の上の大知性。
 統括理性者、アンビリバブルキラー。
 私に理解できない知性はこの宇宙の何処にも存在しないわ。


「・・・と、言いたい所なんだけれどね。
 残念ながら、私にもわからないことぐらい、
 それこそ星の数よりも多くあるのよ。
 最近は残念とも思わないけれども。


「知性の総括、つまり全天の支配者。
 神の力と自惚れた事もあったわよ。今となっては微笑ましいわ。
 昔過ぎて覚えてないけど。


「知性の統括。これはまあ、どこかに欠けた知性の持ち主がいたら、
 その欠けた部分を埋められる別の知性でもって治療する、
 知そのものの復元が可能、とかそんな感じよ。
 大した事だとも、大した事でないとも言えるわ。
 面倒だからあんまりしないし。


「そんなわけで、私はこの能力の応用でもって、
 最近は薬作ったりなんだり・・・でも、一番良く作る薬が風邪薬でねぇ。
 農薬撒いて作物の生長を早めるとか、薬湯でお風呂沸かしたりとか、
 ハーブ育てて部屋に飾ったりとか、兎たちに手伝わせて薬膳振舞ったりとか・・・。


「概ね暇なのよ、要するに。主人が気まぐれだから色々やるけど。
 ま、私の主人って宇宙そのものだから、よくわかんないのよね。
 そんなだからあんまり仕事する機会も無くて。
 往診ぐらいなら承るわ。


「主人? ああ、姫よ。輝く夜、即ち宇宙そのものね。
 始まりがあるけれど永遠のように遠く、
 終わりを知らないみたいに須臾を生きる。
 永遠の住人、エターナルドリーム。


「姫は終わらないのよ。とっくに終わってるけど。
 何考えてるのか良くわかんないってのは、
 あの方に知性があるのかどうかもわからないっていうこと。
 まったくね。ニコニコ可愛らしく笑って暗殺とか頼まないで欲しいわ。


「天才に理解できないのは、天よりも高い位置にある真の天。
 姫は月で生まれたけど、姫にとっては、
 この宇宙なんていうのは姫の住まう月の遥か下方で這いつくばってる混沌でしかない。
 ずぅっと遠くで私たちを見下ろす光の源。
 月の光って、本当は反射光なんかじゃないのよ。
 その色は、『インペリシャブルシルバー』。


「といっても、月下を眺めているだけだから、
 力の範囲としては私の製薬の方が上回っているんだけれど、
 私はそんなことおくびにも出さない。
 当たり前でしょう?脳味噌が心臓に反乱するかしら?


「ああ、するか。するとまぁ、心臓が怒って血を詰まらせて、
 そいつは脳溢血で死ぬけど。
 血があるから動けるのに、血の送り方にいちゃもんつけるなんて、
 下克上とかなんとかいうレベルの話じゃないわ。


「私が力を抑えるのは、ま、こそばゆい物言いになるけど、
 八意永琳がとても心優しい女の子だからなのよ。
 私が知性をひけらかして、輝夜さまを泣かせたりしようものなら、
 この宇宙はもうお終い。ばいばいアース、だわ。
 自慢じゃないけれど、この宇宙の生命は私が全部面倒見てるようなものよ。
 お母さんって呼びなさい。嘘だから口を噤むように。


「ま・・・とかなんとかずっと思っていたんだけどね。
 いや宇宙は広いってことかしら。
 むしろ世界は狭い、の方がしっくりくるところだわ。
 なかなかどうして、この郷は化け物だらけね。
 輝夜様だけでも大概手に余っていたのに、
 これじゃあ私の結界なんてそれは邪魔になるだけだってのよ。


「妖怪の癖に輝きすぎてるのがいて、まず吃驚だった。
 七色にぴかぴか光ってるくせに引き篭もってる人形座。
 赤の上に赤を塗りたくった紅だけで出来てる運命座。
 とにかく周囲を全て食み尽くそうと貪欲な自殺座。
 否が応にも目立つけど色のせいで輝きの見辛い境界座。


「油でも仕込んであるのかしらね。
 あの妖怪たちはよっぽど蝋が余ってるんだわ。
 余り、即ち余裕ね。資源が有り余っている奴は、
 概してああやって増長して生きてる。
 それが豊かということなのだから、蔑むものではないけど。


「それ以上に驚いたのが人間よ。
 あんなのが四人もいるのに、よくこの郷は郷のままで続いているわ。
 本当に心底感心してしまう。


「そのものズバリ、燃える事だけに全てをかけた黒魔の星。
 宇宙の端から端をずうっと往復するみたいな長さのマグネシウムリボン。
 あそこまでいくと、見てるこっちが熱くなってくるわ。
 今現在燃えている部分以外は、あいつ本人は冷たい奴なのに。

「ずるいのがあの銀星。少し思い当たる所があるけど・・・それを置いても。
 燃えたり燃えなかったり、時の流れにちょくちょく立ち止まっているから、
 私の張る知性の網に引っ掛かりづらいわ。縫い目を掻い潜る一本の紅い針ね。
 燃えてなかった過去に戻したりしたら、いつまでだって燃えつづけるに決まってる。
 止まってる間に見える、ゆらめかない炎が好みなのかしら?

「変さにかけては誰よりも、ってのが幻の双子星。
 どっちでもあるしどっちでもないなんて二律背反を体現しておいて、
 あんなに真っ直ぐな形のリボンなのよ。不思議というか小憎らしいというか、
 いい按配で混ざってるからどっちにも嫌われないでしょうけど。

「挙句の果てに、頭の中までおめでたい二色の星。
 恐ろしくスパンに差があるけれども、あの能力は反則ってもんじゃない。
 あんなみすぼらしい神社が、まさかまさか宇宙を越えた大宇宙、
 それすらを超えた超宇宙を含めての中心地点で、ご本尊があの巫女だなんて。
 月の裏側で粋がってた私の立つ瀬がまるで無いじゃないのよ。


「まったく・・・、あんなに驚いたのは久々だったわ。
 しかし、中々悪くない。
 私は心から劣等感を抱いたことが無い天才だから、
 そうそうああいう体験ってできないものなのよ。
 久々。初めて輝夜様を見たとき以来。


「天才って、何でも出来るから大変なの。
 姫は何でもかんでも私に仕事を押し付ける。
 私はそれを一度もやったことが無くても即座に成し遂げちゃうから、
 姫がまた面白がって私に仕事を押し付ける。


「ん?天才にだって出来ないことがある、って。
 ふうん、まあ私にも確かに出来ないことはあるわね。
 でもそれは、天にも出来ないことだから出来ないの。
 天より授かった万能を天才というのよ?
 ちょっとばかり秀でているからって天才なんて、勘違いも甚だしいわね。
 秀才は秀才、どこまでいっても天才には届かない。俊才も同様だわ。
 そんなに天才ばっかり増やしたって、天の方が足りないの。


「っと、そういえば。違ったわね、割と最近驚いてた。
 自分のミスって、うっかり忘れがちだと思わない?


「この前驚いたのは、そう。
 ―――あの不死を姫が見つけてきたとき。


「本当にお考えが読めないのよ、姫は。
 月でも見てくるわなんてお出かけなさって、
 帰ってきたら細切れになった肉を持って帰ってきて、
 懐かしい薬を見つけたわよ、だなんて。
 も、全然わからない。


「肉はその場で再生してパーツごとにくっついて、
 口が出来ると同時に痛い痛いって言い始めるし。
 ああいうのが気味悪いから、
 あの薬は一度しか作っていないっていうのに、
 姫は口ではええそうね、って言ってるけど、
 聞いているんだかいないんだかもわからない。


「私はこの姫の言動を理解しようって知を、
 とっくにどこかの知性へポイ捨てしたから平然と対応できたけど、
 心の中じゃ空いた口が塞がらなかった。
 若さゆえの過ちってのが、私にもあったんだなぁって驚いたのよ。


「そいつは、蓬莱の薬を服用した。結。
 私と姫の犯した大罪の犠牲者。不尽。
 そして、存在を止めた存在。殺人鬼。
 始まってすらいないもの。静止鳳凰。
 選択肢を失った人外人。無限修了者。
 属性を捨てた不純物。連環蘇生機構。
 永久に続く終わり。加害する被害者。
 理由の無い継続。フジワラノモコウ。
 蓬莱の人の形。必定を覆す拘束自由。
 正直者の死。宿主を生かすウィルス。
 完全螺旋。活火山に潜む爆動の希望。
 虚生命。デヴィエイティドプラチナ。
 不死。アン・アドミティドジェミニ。
 永。そいつは、奪う為だけに殺した。
 ドールズ・イン・スードパラダイス。


「あの薬を服用するということは、
 存在する意味を根っこからキャンセルするということよ。
 発端の二分木において、幹の部分をぶった切るってこと。
 その後現れる筈だった選択を、まるっきり全部無視して亡くす。
 生死の二分よりも以前の地点から一直線にされてしまえば、
 そいつはもう死ななくなるのよ。と同時に、生きてもいないわけだけど。


「口癖のように言うわ、あいつ。
 生きて生きて生きて生の初めに暗く、
 死んで死んで死んで、死の終わりに冥し。
 ま、人殺しなんてする奴が根暗でない筈もないし。


「それになんだかよくわからないけど、
 あいつは姫の事を憎んでいるみたいでね。
 姫は何考えてるのかわからないけど、
 それからはあいつとずーっと殺し合ってる。
 しかもねぇ、二人とも嬉しそうなのよ。
 殺し合いが嬉しいってのは、私にはわからないわ。


「容姿は随分と違うけど、あの二人は似すぎね。
 大昔にとんでもなく悪いことをしていて、
 本当にどうしようもなく狂っていて、
 何をどうした所で死ななくて、どっちも救い様の無い根暗で、
 続いている意味がまるで無いのに懲りもせずに続いていて。


「付けっぱなしのままスイッチを無くされた一対の常夜灯。
 照明が全て落とされた後で、二人だけで張り合ってる。
 誰も光っていないのだから、こいつさえ消せば私だけの夜になる。
 夜闇に紛れて、こいつをこっそり、殺してしまおう・・・ってとこなのかしら。
 前向きじゃないわよねぇ。横にいる奴しか見えてない。暗い暗い。


「姫が根暗なのは言うまでも無いわよ。
 絶対解けない問題を五つもこさえて、
 それを解こうとした人間が失敗する様を見て密かに笑う。
 あー、やだやだ。暇人にはなりたくないわねぇ。
 

「そんな根暗なことして引き篭もってばっかりだったから、
 解けない問題を解かれちゃうんだわ。
 常夜灯が蛍光灯に勝てるわけ無いじゃない。


「・・・ああ、でも、もしかすると。
 あれを解けるくらいの狂いが現れることを、
 自分の光を消してしまうような蛍光を、姫はずっと待ってたのかしら。
 それも、姫と二次元的に平行なずれ方をした狂いを。
 私の狂いは天才ゆえのものだから、姫とは垂直に交わってしまう。
 同じ狂い方だから、姫はあの不死と仲良く死に合いができた、のかも。


「だとしたら、私は反省よりも自慢をすべきなのかもね。
 遠因は、元を辿れば地球人。
 私が虚月を生んだのは、密室を生んだのはあの子と姫のため。
 あの夜が止まったのは、満足に狂えなくなった狂いがとち狂ったせい。
 そしてあの問題が解かれたのは、狂い達と狂い姫が出会ったから。


「でもそれなら、友引をしてやったっていうのに、
 何で誰一人として私に感謝しないのかしら。
 それどころか悪役面だのなんだの、随分酷い言われようだと思わない?
 私ほど優しい天才はこの世の何処にもいないのに。
 私の密室と虚月は皆のためを思って創ったのに、
 どうして身内も含めて総スカンを喰らわなきゃならないわけ?


「迷惑だから止めろとか、黴が生えてるとか、
 終いには姫までが嫌いだなんて仰るんだもの。
 ふん、いいのよ。
 何時の世も天才とは理解されないもの。
 私の天才を順逆に証明する証拠に過ぎないわ。


「さすがに、そういう讒謗に耐えて維持した結界が、
 実は何の意味も無い細工に過ぎなかったと知ったときには、
 ちょっとばかり堪えたけどね。天才は何よりも無駄を嫌うのよ。
 正直な話、あの人妖たちがぶっ壊してくれてなかったら、
 かさぶたの上に剥がれない絆創膏を張るような事になってた。
 無意味より悪い、余計なお世話ってやつ。涙が出てくるわ。


「ま、すぐに気を取り直したけど。
 ほら。結局、月の束縛から姫もあの子も自由になって、
 私たちは前よりも生き生きとしてる。
 これは結果的に見れば私の活躍によるものじゃない?


「なら、あの夜は無駄じゃなかったってことになる。
 それが確認できただけでも上々。
 私の行為は無為じゃなかった。
 有為かと問われればわからないけど・・・。


「そこに辿り着くのに、こんなに永い時を要するなんて思わなかったから、
 あの永わらない夜を生む要因となった全てを私は愛するわ。
 現代の魔性たち、紅魔の主従たち、幽玄の亡霊たち、境界の人妖たち、
 地上の塵たち、月の芥たち、この星の統括知性、月からの脱兎。

―――本当に、ありがとう。


「私が望んでいたのはたった一つ。
 姫を、ただ一人の宙(おおぞら)を癒すこと。
 贖ってなおひたすらに月下のみを望むあの人に、
 空とは、見上げるものなんだって、教えてあげる為に。


「でも、私自身にはそれが叶わなかった。適わなかった。
 宙の壁を越えようにも、私は自らが張った全天への知性の網に引っ掛かって、
 今いる宇宙から飛び出すことができない。
 それは、それをすることは、この宇宙の知性の全滅を意味するのだから。
 地上と海中の理は違う。地上に網を投げたとて、虫一匹捕まらない。
 脳が無くなれば、植物状態になるのよ。


「それまで培われてきた全てが失われる。
 そんなこと―――私には、できなかった。
 私は“看取り手(ラストフレンズ)”、『パブリックヒーラー』。
 どうしたって、私の毒は毒を制する薬。
 誰かを傷付ける為の物ではないのよ。
 消失する事が、私は怖かった。傷付け亡くすことが、恐ろしかった。


「結界も偽月も、姫とあの子へのフェイク。
 異変に気付いた何者かが、それごと姫の檻を叩き壊すことが、
 それだけが私の本当の狙い。
 まぁ、誰にも気付かれないならそれでもいいと思ってたのだけど、
 それじゃ事態を悪化させるばかりだったみたいだしね。


「果たして私の思惑通り、人妖たちは思いっきり絆創膏を引っぺがして、
 下にあった良くないかさぶたも一緒に破り去った。
 そうして、その下にはもう、傷なんて無いんだってことを、
 破り捨てようとする好奇を恐れていた私という脳に、
 まざまざと見せ付けてくれた。
 そこにあったのは、私のよく知っている終わらない月色。


「彼女たちのお陰で、
 ようやく私は姫に対しての償いができた。
 やっと姫に、何も含むところの無い素直な言葉が言えるようになった。
 呪文も、祝詞も、言霊も無い、形式を持たない本心。
 割に合わない魔女役はもうお終いよ。
 大体イメージが悪いわ。白衣の天使って柄でも無いけど。


「遠く離れた星の裏側から、
 シンデレラだけが目立つように夜を照らしていた、
 その魔女の名は太陽、誰よりも強く輝く黄金の万才。
 魔女は誰よりも美しく輝くしろがねの狂気に魅せられて、
 その美しさを宙全てに知らしめたくなった。
 姫を唆したのは魔女。魔女のために姫が苦しんだ。
 魔女にはそれが、悔やんでも悔やみ切れない失敗に思えた。


「隠れていた姫の元にレイセンっていう名前の王子様が迎えに来て、
 皆が幸せに幻想郷という大きな城で暮らす。
 魔女はそんな姫に―――おめでとう、カグヤ様―――って言うの。


「ふふ、昔話をごっちゃにするなって?
 何を言ってるんだか。ここは幻想郷よ。
 昔話が現実に在る夢の国、御伽噺の世界じゃない。
 ここにはあらゆる幻想があって、
 それらはごちゃごちゃに混ざってもうどれがどんな話だったかわからない。 
 いや、判らなくても良くなったのね。


「何故なら、ユメの集合混成体であるこの郷が、
 永遠に続く最新の伝説そのものになっているのだから。


「東方と呼ばれる地、幻想が普通で普通が幻想のこの世界、
 霧が全てを覆わんばかりに広がろうと、
 春という春が一点に集められようと、
 人間と妖怪が夜を止めようと、
 それは非日常ではなく、在りのままの異常日常。


「塊に含まれた成分はそれぞれ気の赴くままに干渉する。
 それが新しい物語を生んで、
 『千年幻想郷』という新しい伝説の断章になるのよ。
 紙片はそれこそ星の数の累乗分はあるのだから、
 無限でないにしろ無窮、永遠に漸近するライン。


「この青き星に生まれた最新にして最後の伝説、
 幻想の住人たちの為の物語は終わらない。
 永夜の報いを受けた咎人たちは、
 休む間もなく休み続けるのよ。


「私は、その全てを休ませ癒す者。宇宙の看護人。
 ネヴァエンディングストーリにも休息はいるの。
 当然、それを読む永遠のプレイヤたちにも、ね。
 ゲームは一日一時間、とまでは言わないけれど。


「見守ってあげるわよ。ええ。その位なんてことないものね。
 あなた達が皆、自ずから癒されるようになるまで、
 ―――自分という物語の、世明けを迎えるまで。


「そして、全天の知性の統括者である私が直々に、
 『星に願いを』かけてあげる。
 あなた達の世明けが、この伝説の夜明けと共にありますように、と。
 寿命も何も関係無いわ。
 ―――だって、そこからがあなた達の始まりなのだから。


「もしその時が来たら、私だけじゃない。
 聴こえた時がその時よ。きっとあなたは夜空を見上げる。
 全天の星と満月が、皆一斉に輝いて、
 幻想の住人と、伝説自体と一緒に総出で、
 あなた達を癒しに癒して癒し尽くし、
 最大限の祝いの言葉で呪ってあげるわ。
 

「親愛なる永遠の射ち人たちよ」
「始めてくれてありがとう。終わることが出来ておめでとう」
「そしてまた、何かが始まる次の夜まで」




「あはは、嘘。そんな硬い言葉じゃないわ。
 私のそれはたったの一言、感謝の気持ちと、再会の約束。
 シンプルな、それ故に忘れられないメッセージを、
 永遠の夢のBGMに乗せて告げるの。

 そう。







「―――楽しかったわ、また明日。ってね―――」








Imperishable Night is over.
But, paradisiacal night hasn't ended yet.
年末がもう射程距離内でびっくり、shinsokkuです。

冒頭の駄文は、ネタバレにつき読むな、
とだけ書くのに抵抗を覚えたせいなので、
余り穿った含意とかは無いものと思っていただきたく思います。

その話は置いておくとしまして。
今回は、月の知識人のお師匠さんです。
自分、知識人好きですので、もうすっかりやられてしまいまして・・・。
曲・弾幕もツボ突かれまくりです。天才はツボ治療も天才的。
一見すると散逸的なスペル構成が、隠された月の裏側では統一感を。ああもう。
委託開始から数日経ったので、そろそろやるか!と思い立ち、
長編を差し置いて、合計7~8時間程で書き上げてしまいました。
やはり好き勝手に書いている度合いが高いせいか、書き始めると速いものです。

長編の方、読み通して頂いている皆様へ。
続きの投稿が遅れてしまって申し訳ありません。
しかし、次回が投稿できるようになったとき、
それは最後まで書き上げたときにするつもりですので、
もう少しの間、余り期待せずにお待ちくださいませ。

全然関係ありませんが、ヴォヤージュ1969がとても好みです。
その昔、ボンボヤジって凄いネーミングセンスだ、と思いました。
名前そのものに意味があるなんてことは考えてもみない、
ちょっとぬけた子供でした。今も子供ですが。
ループ終わってすぐあたりのノイズ(1:23位に。入ってますよね?)、
自分には月の砂を踏んだ音に聴こえます。
意図的なものなのか、幻聴かですね。どちらでも素敵ですが。

さてさて、終わりの時間と相成りましたね。
恒例のご挨拶とさせていただきましょう。

本文未読既読に関わらず、
皆様、本当にどうもありがとうございました。

それではまた、近いうちにこの場にて会うことが出来ますように。

(9/22 22:30 ・追記・本文修正
 EXAM氏ご指摘の点を考慮し、冒頭の警句を明瞭な記述に修正。
 このような感じではいかがでしょうか・・・?
 氏、並びにご評価いただいた皆様、どうも有り難う御座います。

 9/24 1:40 ・追記・本文修正
 MSC氏のご指摘に応じ、英文の単語を正しい形に修正。
 過去分詞すっかり忘れてました(汗)。イカンですね、自分。
 皆様、ご評価下さいまして、どうも有難う御座います。
 色々と身辺が慌ただしくなって参りましたので、
 来週中には長編の方をすかっと一気にやってしまいたいですね・・・)
shinsokku
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1150簡易評価
1.70削除
お師匠さんのBGM、スペル、EXにラストワード。それらすべてが散りばめられていて脱帽の一言。

僕もお師匠さんは永夜抄の中でダントツです。shinsokkuさんとほとんど同じ理由で(笑
4.50ym削除
小難しい批評はできないので、とりあえず。

真ん中あたりの「そいつは・・・」から「・・・スードパラダイス」までの文章。
おそらく狙ってやってるんでしょうが、「。」がきっちり斜めに並んでるのが凄いですね。
よくそんな風に単語を並べられるものです。
それでいて、しっかり妹紅を表現してますし。

というか、細切れもこーがあまりにも哀れなw
11.40EXAM削除
やっぱりかっこいいですね、独白シリーズは
ymさんと同じく、中ほどの「そいつは~パラダイス」はスゴイと思いました。
フジワラノモコウの8文字だけ浮いているような気がしましたが
ひとつ思ったんですが
冒頭の文ですが、ネタバレにつき読むなとはっきり書いたほうがいいと思います。
意味は分かるんですが、注意書きはひねらずに単純明快にしたほうが読み手は困らないんじゃないかな?
14.60RIM削除
やっぱり良いですね。shinsokku氏の独白シリーズ、最初読んで時から好きですね。
一つ一つの言葉が事細かに意味を持つ。自分ではとてもとても…。
その解釈等が見えそうで見せない感じがしていてスゴイの一言です。

先日かな?Exをやっとクリアした今日この頃。妹紅って苛められキャラなのか、痛い痛いがとてもお気に入り。
細切れ妹紅が復活、想像すると恐いですなw
15.60Barragejunky削除
お師匠ラブが文体から滲み出てくるようです。
パチェといいこの人といい、知識人の独白はびしりとハマりますね。
性悪で黒幕で頭良くて、優しくてお人好しで面倒見の良いお師匠さま。
そんな相反する彼女の中身を、巧みに表現された秀作であると思います。
ご馳走様でした。
18.60MSC削除
何時もながらすばらしい独白シリーズです。
一つ一つの文章どれもが目を離せませんでした。
RIMさんと同じく妹紅の痛い痛いの部分、思わず想像するとぞっとしてしまいました。

最後の英文なんですが、
終わらない夜は終わった。
しかし、paradisiacal nightはまだ終わっていない。(私の辞典にparadisiacalという単語がのってませんでした)
と約すんですかね?
この文の場合だと、endedが正しいのではないかと思いました。
歴史上の真実・不変の真理・習慣的動作ではないと思ったので。
これでいいのでしたら申し訳ございません。
あまり英語は得意じゃないもので。