Coolier - 新生・東方創想話

狐と蛍

2009/02/09 14:11:22
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「暇ねぇ~」

「そうですね、やることも特にありませんし」

「藍の尻尾をもふもふするのもいいけど、それだけじゃ暇は解消できないし、霊夢のところに行った所で邪険に扱われるだけよね~」

「そうですね」

 今日も平和な幻想郷、その幻想郷と外を隔てる境界を操っている妖怪、八雲紫の式である八雲藍はあまり考えることなく言葉を返しお茶を啜っていた。特にこれといった異変は起きることも無く、現在の幻想郷自体ではあまり大きな事件が起きる雰囲気など本当にない。
 季節は秋、秋といえばいつぞやの永夜異変のことを藍は思い出していた。紫と霊夢が二人で異変を解決したように見えるこの事件、しかし、その中に藍の活躍があったことを忘れてはならない。主に紫の攻撃の際に直接攻撃しているのは藍自身であるからだ。あの異変の後は毛並みを戻したりとしばらく忙しかったが、今回はそんなことも無く、のんびりとした空気が流れている。

「ふわぁぁぁぁぁ、もう冬になるわね」

「確かにもうそんな時期ですね。何かやりたいことでもやってみるのはどうですか?」

 軽い助言を藍は紫に促す。
 しかし、当の本人はそれほどやりたいことが無いのか、あごに手をやりながら少しばかり考えた後に何もやりたいことが無いことをつぶやき、お茶に手を伸ばし飲み干す。
 これほどまでにやりたいことが見つからないのは紫が長く生きてきた妖怪だからであろう、年を取ると確かに欲が付くものだが、それは人間などの長く生きたとして100年ほどの存在だけである。妖怪のように軽く500年、紫に至っては1000年以上も生きているとなるとやりたいことなどほとんどなくなってしまう。

「霊夢さんに弾幕ごっこでも挑んでみるのはどうですか?」

「弾幕って気分じゃないわ」

「そうですね。それじゃ…………」

 藍も考え始める。今の紫の暇をつぶすことの出来るようなことを。

(橙の従えている猫達に踊りをさせてみる? いやいや、あの猫達は橙の言うことをあまり聞かないし、そんなものを見ても紫様は喜ばないので無し。何かおいしいものを作ってみる? う~ん、いい案かもしれないけれど紫様はあまり好きなものって言うのもありませんしだめですね)

 色々と他にも考えをあげてみてもいいものは無く、途方にくれている二人は同時に空を見上げ、そしてそれを目にした。
 未だに薄いが確実にその姿を見せ始める丸い姿、それは秋という季節において欠かせないものといえるほどのものであった。

「月見というのはどうかしら?」

 もう少しで太陽が夕日へと変わろうとする時刻、しかも今日の月は満月、月見のためのお饅頭もこの間買ってきたばかりで沢山ある。

「いいですね紫様。それでは直ぐに準備いたしますので家でお待ちください」

 しかし、藍はあえてまるで何かが足りていないかのように呟き、家を出る。もう紫が長い冬眠に入ることもあり、その最後ともいえるかもしれない今日の月見を最高のものにしようと考えたからである。その為の準備として藍はその場所に向かったのである。



  ―――狐と蛍――――



 そこは森の中でも一際草が多く生えている場所で、よく橙が友人と会っている場所でもある。その友人とは先ほどの異変時に結構くるくる回りながら攻撃をしていたために顔を良く知っている相手でもあるし、この頃は良く話もする仲である。
 そしてその捜し求めていた人物は草むらの丁度真ん中にある石の上に腰掛けつつ何かに話しかけているようである。

「羽が少し切れちゃってるみたい、ちょっと待ってね」

 手に力が込められる、淡い光がその手に乗っかっている何かを優しく包み込み、瞬く間にその切れている羽の姿を真新しい羽へと変えていく。
 それをやり遂げたその人物は嬉しそうに顔をほころばせてから、そのものを空へと放つ。一匹のアゲハ蝶は空へと瞬き、やがて森の奥へと消えていく姿はどこか神聖的であった。

「蝶の羽を治していたのかい?」

 その言葉にその人物は振り返る。頭から伸びた翔角、ボーイディッシュな外見に黒いマント、白いシャツと短いズボンを身に纏ったその少女、リグル・ナイトバグは藍の姿を確認して柔和な顔をする。

「藍さん、久しぶりです」

「ええ、久しぶり。隣に座ってもかまわない?」

「いいですよ」

 リグルの隣に腰を下ろして周りの草むらに目を向ける。彼女リグルは時折こうしてこの草むらに蟲を招いている。蟲にも蟲なりに悩み傷つくこともあり、リグルはそういう蟲たちの世話をしているわけである。

「すまない。今日も蟲たちの世話をしていたのかい」

「そうだね、毎日ってわけでもないけど、時々こうして悩み事を聞いてあげたりするんだ。藍さんは今日も紫さんの世話をしていたんですか?」

「まぁ、そんなところかな」

「もう冬になりますね。蟲たちも冬眠しちゃうんですよね」

 少しばかり悲しそうに呟くリグル。リグルは蟲ではあるが妖怪であるがゆえに冬眠しない。そして何よりその間は他の虫たちはほとんどが冬眠してしまうために、リグル独りぼっちになってしまうのだ。

「はぁ~、今年の冬もほとんど一人ぼっちかな~」

 そう呟くリグル、それは誰かと一緒に冬を過ごしたいという風にさえ聞こえる、やはり妖怪といえどもそういう気分になることもあるのだ。そんなことを思いながら自信もある意味で妖怪だけど、などと自覚した後に本当の用事を思い出した。

「ところでリグル、貴方に頼みたいことがあるのだが、いいだろうか?」

「別いいけど」

「ありがとう、実はな……」

 そしてリグルの耳に囁き掛けるように藍はしてもらいたいことを呟く、リグルはそんなことでいいのという顔をしながら顔を返し、藍はそれに小さく頷きを返し、その代わり藍にあるお願いをし、それに藍は頷きを返した。


◇◇◇


 夜、月見の準備が整った縁側に二人の姿はあった。いつもの服装ではなく、二人とも浴衣を着込み、少しばかり寒いけども月見を楽しむ一つの雰囲気としてそれを着込んでいた。

「藍、外になにしにいっていたのかしら?」

「ちょっとした用事ですよ紫様」

 藍はごまかすような笑みを浮かべるだけで紫にその真意を教えようとはしない。やがて橙がお酒を持ってきて二人の横に置くと同じように縁側に腰掛ける。無論ポジションは藍の隣である。

「藍様、準備が出来ました」

「ああ、ありがとう橙」

 そう言って藍は縁側から立ち丁度紫の前に立つと静かに礼をする。その仕草は優雅であり、九尾という最強の狐がする仕草そのものであった。

「紫様にはこの夜を忘れられない思い出にしてもらいたいと思っております」

「ええ、多分最後の月見ですもの、思い出に残しておきたいわ」

「はい、では月見を始めましょう………」

 その言葉と共に杯を上に掲げる三人、そしてその杯に入ったお酒を飲み干し、月見は開始される。特に余興も無い、月を見ながら会話を交わし、団子を食べ終わるのが月見である。
 だが、藍は月以外の綺麗なものを紫に見せたいと思った。それが彼女のしたかった紫への忠誠心であったからだ。

 やがて、それは訪れる。

「ん? だれかしら」

 その気配に気づいた紫はその暗闇の方角を眺め、そこに立っている人影を確認し、橙と藍は示し合わせたようにその人影に頷きを返す。

「紫様に、今宵の満月に相応しい光の幻術をお見せいたします」

「あなた、リグルね」

 その人影、リグルはその言葉に頷きだけを返すと同時にその手を軽く空へと掲げる。視界に広がっている木々が点々と淡い光を放ち始め、その暗闇だけの風景を明るく彩っていき、やがてその光たちは一つに集まりながら輪を描くように空を飛び始める。
 そして庭にも同じように小さな発光体が目に触らない程度、本当にそこに一つずつだけ存在している光のように現れゆったりと流れるように庭を浮遊し始める。
 次に聞こえてきたのは鈴虫の鳴き声、うるさすぎず、かといって聞こえないというわけでもないとても心地の良い音が三人の耳に届く。
 それらは全てリグルが従えている蟲が作り出す幻影芸術、空を舞う蛍たちはその光を利用して線を作り、庭に漂う蛍たちは点滅を繰り返し、音を発生させる蟲たちは主張をあまりせず、心を穏やかにしてくれる音を提供する。

 一種の幻影の世界がここに広がっていた。

 その光景を紫は嬉しそうに眺め、手に持った酒を口に含みながら全てのものに目を向ける。
 月を走るようにして飛ぶ蝶の形を保った蛍の光の集合体、庭を明るくする蛍たち、目には見えなくとも心地よい気分にさせてくれる音を発してくれる蟲、そしてそれを操るリグルと、これを考えた藍と橙。
 八雲家での花見のルールは用意した酒か団子が無くなったら終わりというルールで、続いている蟲たちが作り出す芸術もやがて終わりを迎えるように周り光の世界で彩っていく。
 何匹もの蛍たちが作り出すのはこの幻想郷と呼ばれるものが作られてから見たことも無いほどの光の柱、それらが何本も立ち、やがて崩れては色々な形へとその姿を変貌させ、それに合わせるかのように音楽も波を作り始める。

 やがて、紫が手を伸ばした皿には団子が一つだけしか残っておらず、それに少しばかりがっかりとした表情を取った後、その蟲たちが作る光の世界を眺めながら、最後の団子を口に頬張り、最後の杯を口に含んだ。

「それでは、私たちはこれにて」

 リグルの言葉と共に夜空を飛んでいた蛍の群れは弾けるように辺りへと散らばり、それが流れ星のように夜空を綺麗に彩ったところで月見は終わりを迎え、リグルもその姿を消した。
 静かになった縁側では、不規則に蟲が鳴き始めるが、それは今さっきの月見の雰囲気を乱すことの無いやわらかい音であった。

「藍、ありがとう」

「いいえ、楽しんでいただけましたか」

「ええ、綺麗な月見だったわ」

 それだけ呟くと紫は静かにスキマを開く、もうそんな時間なのだそうだ。手に持った杯も空になったお皿も全てまとめてから藍を正面に呟く。

「それじゃ、今日は少し早く眠ることにするわ。今日の風景を刻み込めるようにね」

「はい、紫様。おやすみなさい」

「ええ、おやすみなさい」

 そう言って紫はスキマへとその姿を消し、そのスキマもやがて閉じていった。
 橙はすでに眠りこけて縁側に大の字で寝転がっているので、それを抱きかかえてから布団に寝かせると、藍は残しておいたお酒と団子を持って家を出る。向かう場所はあの草が生えている場所にいる彼女の元だ。約束をまもらなければならないのはどんな世界でも当たり前のことだ。


◇◇◇


 月が良く見えるその場所にリグルは腰を据えてのんびりとしていた。周りには蟲の気配も無く、リグルがたった一人でこうしているのは珍しいことであった。それはリグルにとっての大切な人が来る時くらい二人きりにして欲しいという乙女心からきていた。

「いたいた」

「あっ、藍さん」

 その待ちわびていた言葉を呟いてリグルは現れた藍に体を向けた。その手に握られているのが団子と酒であることに気づいたリグルは自然と石の隣にもう二人分くらい座れるスペースを確保して待機する。
 そして藍はそれに従うように座り、真ん中に団子と酒と杯を二つ置き、笑顔で話しかける。

「リグル、ありがとう。紫様も満足されていた」

「いいんですよ、藍さんのためにやったようなものなんですから、それにこうして約束どおり着てくれましたし」

 リグルのした約束とは、後で二人で月見をしたいというものであった。そう言っているリグルの顔はどこか赤いが、なにも言わずに杯を渡す。
 見た目が子供であるリグルもお酒だって飲める、そのかわりあまり強いとは言えないし、それを知っている藍は杯に入れて酒の量も少なくする。
 二人して杯のお酒を口に含み満月を眺める。リグルのために取っておいた団子は一向に減る気配を見せず、まるでこの時間が長く続くようにしているみたいであった。

「もしかして団子はあまり好きではないのか?」

 だからだろう、藍はそう言葉を発していた。向けられる藍の眼差しに顔をさらに赤らめる。普段とは違う浴衣に身を包み、髪の毛から飛び出してる耳など見ることの出来ない藍の姿があることになまじ緊張しているのだ。

「そ、そんなことないよ」

「それならいいですけど、それにしても今日のリグルはいつもより可愛いですね」

 不意打ちの一言だった。その言葉にリグルの顔の赤さは頂点に足し、周りの紅葉し始めた葉にも負けないほどの赤を披露する。頭からは煙を上げて、もじもじとし始めてしまう。

「か、からかわないでくださいよ」

「ふふ、からかってなどいませんよ。本当に今日のリグルはいつも以上に可愛らしい」

「それは、藍さんがいるからで……」

「なになに?」

「な、なんでもないです」

 ごにょごにょと呟いた言葉を誤魔化す様に杯に残った酒を飲み込むと、すぐさま団子を口の中に放り込み、食べるがあまりにも動揺していたために団子の味を理解できなかった。
 そんな月見ものんびりとではあるが段々と終わりに近づき、残ったわずかな団子とお酒をリグルは残念そうに眺めている。これで楽しい時間が終わってしまうことが悲しい、けども結局何もかも終わりというものからは逃れられないと認めて、リグルは残った団子を頬張り、最後にその残った杯を飲み干してから、藍のほうに顔を向ける。

「もういいのかい?」

「うん、団子おいしかったよ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 そう言って藍はリグルの体を横に倒して、膝の上に頭が置かれるような形にする。膝枕という奴で、突然のその行動にリグルは混乱するが、それも藍の笑顔によってなくなった。
 藍の膝の上は妙に暖かくて、その暖かさに身を任せるようにリグルは瞼を閉じて、少しの間を置いてから眠りの中へと落ちていった。


 少しばかりの時間が経って、藍はリグルの髪を優しく撫でながら一人残った酒を口に運んでいた。彼女が言ってくれた言葉の意味や、彼女の態度の理由を理解できないほど藍は子供でもない。
 それは素直に自分自身へと向けられている好意であることも理解している、そしてそれが愛情ではなく、愛という感情の好意であることも理解していた。

「リグル、貴方の気持ちは本当に綺麗なものなのですね」

 膝の上で眠るリグルを起こさないようにもう一度髪を撫でる。あれほどの量の蟲たちを操ってくれたことは紫のためではなく藍の為であったと言ってくれたことも、いつも蟲と一緒にいる彼女がこうして一人で待ってくれていることも、すべて純粋な好意の現れであった。
 月を見上げる。あの夜は偽りの月が漂っていたことを覚えている。あの最初の森で出会ったリグルは藍の尻尾を綺麗だと去り際に言ってくれた。誰からでもなくそれがリグルの口から出たことが藍に取っての嬉しいことだった。異変が終わってから名前を知って、橙の友達ということで良く会っていると思わせていたが、それは違う。

「リグル、貴方には私が貴方のことをただの友人くらいにしか見てないと思っているのかもしれません。一方的な好意は実らないと思っているのかもしれません。けど………」

 一拍の間を置く、心臓の高鳴りが感じられる。顔は上気し真正面にいるその寝顔を直視できないくらいに恥ずかしい気持ちになる。
 そこには大妖怪八雲紫の式ではなく、ただただ恥ずかしがっている一人の女性である八雲藍しかおらず、女性である八雲藍は静かに口を開いて言葉を綴った。

「私は貴方のことを好んでいます。貴方のその笑顔が好きです、蟲たちの悩みや彼らの傷を治すそのやさしさも好きです、私は貴方が好きです」

 眠っている相手に対して一方的に告げる言葉、なんとも卑怯だなと思いながら藍は溜息を漏らす。自己満足、リグルはあれほどわかりやすく私に好意を示してくれているというのに、私はこういうことでしか思いを伝えることが出来ない。相手には絶対に知られることの無い一方的な言葉。
 少しして顔の火照りも心臓の音も落ち着いて冷静になった頃、自分の行いを恥じるように顔を下に向ける。

「情けないな、私は……こんなことも出来ないなんてな」

 そう呟いて藍はこの冬、リグルを家に住まわせてあげようと考える。
 冬の中、一人ぼっちだと言った彼女の温かみになれるかはわからないけれど、そうしたいと思ったから、そして何より自分の好きな人といられる時間が欲しかったから、藍の心の中にある唯一の我侭があった。


 月はまだ落ちる事も無くその姿を夜の空に漂わせ、狐と蛍の姿を見下ろしていた………
なんていうか、藍は一番がんばってると思って書いた。くるくる回りながらがんばってるから書いた。
俺もくるくる回りたい、でも回れない。
なんで蛍なのかだって、蛍がかわいいからさ。
続きはどうしようかな、書くか考え中。
でも狐と蛍ってなんかいいね。
アカテン
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コメント



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6.60名前が無い程度の能力削除
甘っ!甘すぎるっ!

後半の雰囲気は非常に良いのですが、それゆえに前半の詰めの甘さが惜しまれます。
それ以上に、どうして藍がリグルを好んだのか、それも知りたかった…。
それでも、ラストの藍にはやられました。くう、なんていうストレート…!
7.70☆月柳☆削除
雰囲気は良かったです。
ただ6sも書かれているように、何故藍が、という理由が知りたかった。
ん、この話続きあるっぽい?!
これは是非とも続きが読んでみたいです。
そうすればきっと藍の理由も明らかに!
10.50名前が無い程度の能力削除
雰囲気の良い作品でした。リグルの蟲を操る描写が丁寧で好感が持てました。
ただ、紫の「最後の月見」というくだりで、一瞬、紫の寿命が近いのかと勘違いしかけました。
ここは「今年最後の月見」という風にしたほうが良かったと思います。