Coolier - 新生・東方創想話

いかに嫉妬もするべきか、EX!

2008/12/31 11:47:29
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*CAUTION!*
このお話は作品集63「いかに嫉妬もするべきか!」の流れを引き継いでおります。
具体的に言うと、チルノとパルスィが知り合って、巫女と魔女に先んじて地霊殿に殴りこんだことがあります。




























 しーっとしん♪ しーっとしん♪ ねたましーいー♪
 旧都の鬼も♪ あの巫女も♪
 何がとは言わんがおーおきいぜー♪


 ……と、妙な歌を作っている場合でもなくなってきた。
 以前は本当に暇だったから暇つぶしに変な口調で話してみたり変な歌を作ってみたりとクリエイティブかつ無意味な行動に余すところ無く打ち込めていたわけなのだけれど。
 地上の巫女と魔女が旧都に乗り込んで、地霊殿の地獄烏を倒したあの事件があってから、この縦穴も人通りが多くなった。
 結局誰もが懸念していた諍いなんてなく、地上世界と地下世界はあれがきっかけでまた平然と交流を始めたのだ。
 物珍しそうに地下へと下ってくる者、空に思いを馳せて目を輝かせながら地上へと上がって行く者。
 私はここを見ていなければならないというのにまったくもうおめでたいことだ。あぁ、妬ましい妬ましい。頭が痛くなってしまいそう。
 ……あぁ、あの子は今度はいつ、こちらへ遊びに来るんだろうか。
 嫉妬心が高まってくると、自然と私はあの子のことを考えていた。
 巫女と魔女に先んじて地霊殿に突貫した馬鹿であり――そして、嫉妬狂いの私に一筋の清涼感をくれた、天衣無縫の氷精のことを。
「……あらあら、お熱いこと」
 びびくんと心臓がブレイクダンス。誰!? 私の心の中を覗いたのは――ってそんなことが出来るのは一人しかいない。
 私はそーっと後ろを振り返り、そして視認する。紫の髪の少女と、その心臓の位置あたりにある第三の目がしっかりとこっちをガン見していることを。
「ご名答――橋姫さん」
 ちょ、ちょっとちょっと、なんで地霊殿のサトリの妖怪がこんなところに!?
 もしかしてこの前チルノと地霊殿に殴り込んだ(?)時の事を怒って……!? ひいい、殺される殺される!
 なんて慌てていたら、サトリの妖怪はふぅ、とため息をついた。
「……名前くらい覚えていてほしかったものです。私の名は古明地さとり。別にあのときのことは気にしていません。ここには少し聞きたいことがあってきました」
 き、聞きたいこと? なんでしょう。お前の血は何色だー、とか?
「緑色じゃないんですか?」
 いや、さすがに血までは緑色じゃないっすよ。
「まぁ、血の色なんて聞いたところで、壁を塗り替えるときの参考くらいにしかなりませんわ。私はここをとある者が通っていないかを聞きに来たのです」
 確かに私はずっと見てますけどね。どんな者なんですか?
「クリーム色の髪をしていて、黒いハットを被っています。黄色い服を着ていて、胸には私と同じような目がありますわ。黒くて、開いてもいませんけど」
 んー? んー? ……あ、そういえば見ましたね。結構目立つような格好してましたし。
 ……ん? さとりさんと同じような目ってもしかして……。
「ええ、妹です。あの子は無意識で行動できるから、人に気配をさとられないのですよ。でもあなたならもしかしてと思いましたが……よく覚えていてくれました」
 はぁ、まぁ、よくわかりませんけど。
「……やはり地上に行っていたのですね。最近はペットの世話をがんばっていたと思っていたら、またふといなくなったもので少し心配になってしまって……。あぁ、そうだ。地上に行きたかったのでしょう? 水橋パルスィさん」
 ふと、古明地さとりが宙を仰いでいた瞳を下ろし、私を見据える。
「どうでしょう、ここで私はあなたに、妹のこいしを探してきてほしいとお願いしたいのですが」
 えええ!? でも、私はここを離れるわけには……。
「……だから私がお願いしているのですよ。これでも私は地霊殿の偉い人です。なんなら代わりに私がここで見てましょうか?」
 それはそれで行きかう人に妙なプレッシャーが……。というか、でも……。
 私が逡巡していたら、さとりさんが口を開いた。
「……しーっとしん♪ しーっとしん♪」
「わああああああ! そこから見てたんすかぁぁぁぁ!?」


 というわけで、私、水橋パルスィは、体よく古明地こいし捜索に駆り出されてしまった。
 地霊殿の偉い人ってそんな権力あるのかなぁ、と思いつつ、地上に出る大義名分が得られたと言うのはやはり悪いものではない、と思う。
 地上に行けるのだ。チルノに会いに。これはまさに盆と正月が一緒に来たといっても過言じゃないんじゃないだろうか。
 そう思うといてもたってもいられなくなり、スピードを上げて縦穴を勢い良く脱出しようと試みた。
 あたまぶつけた。
「あいったー!? あいったぁぁ!?」
 なんで!? 私はちゃんと出口も確認したし、何も障害物なんてなかったのに! 考えられることといえば、誰かがいきなり飛び出してきたとか……?
 その考えはどうやら当たっていたようで、私以外に何か頭を打ったような声が聞こえた。
「うーん、お昼なのにお星様が見えるー」
 それは私と頭をぶつけた衝撃で目を回しながら縦穴を転がり落ちていく全体的に青くて氷の羽を持った妖精でってチルノぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?


 チルノはスタッフこと私パルスィが必死こいて救出しました。
「あ、あぶなかったぁ……。それにしてもまさかチルノがこのタイミングで地下に向かってるなんて思わなかったわ」
「それはこっちの台詞だわ。あんたあそこから離れられないんじゃなかったの?」
 縦穴の出口に寄りかかりながら、二人して息をつく。
「まぁ、いろいろあってね……」
 しかし、変なところで記憶力のいい妖精だ。
「じゃあ、まぁ、なんというか。久しぶりだね、ばらスィー!」
 私の名前は全然覚えないくせに!


「つまり、そのこいしって奴を見つければいいのね?」
 色々話すと、チルノは本当に簡潔に結論付けてくれた。
 簡単に言う。さとりさんの話によると、全然気配をさとらせないっていうし、そんなのをどうやって見つければいいんだか。
 ただ、一つだけヒントをくれた。えーと……名前忘れたけどあの地獄烏が言った、『山から来た二人組の神様』というフレーズに、古明地こいしは惹かれていたようだったと。
「山って言ったら妖怪の山ね! 確か『神もいるよ!』って天狗が言ってた!」
 いるんだ。
「そうと決まれば行くわよ! ZUNは急げって言うしね!」
「善ね、善」
 何よZUNって、と心の中で思うと、なぜか恐れ多いような感覚がするのだった。


 ――妖怪の山。
 多くの神や妖怪が独自の社会を築いている地、と、チルノからようやっと聞き出した情報を整理する。
 まるで地上と地下のようだ。地上と地下が繋がる前も、地上の中ではこういう場所があったのか。と一人嘆息する。
 ここに来るまでも懐かしく、また目新しいものが数多くあった。こういう『山』もその一つだ。鮮やかに彩られた山は久々に見る。
「あれ? 冬だったらもう色なんてなくなってるはずなのに」
 でも、チルノはその様子に首をかしげていた。どういうことだろう。
「見ない顔ね! そこで何をしてる!」
 がさっと紅葉を掻き分けて現れたのは、穀物の刺繍の入った赤い服を着た少女。でも、なぜか頭にナベを被っている。漂ってくるのは壮絶な芋気。おイモが食べたくなるわ。
「ええと、ちょっと探し人を」
「それはここの山の者? 違うなら天狗とかにとっくに叩き出されてるよ。帰った帰った。ここは今それどころじゃないんだ」
「穣子ちゃん、誰かいるの?」
 憤る芋気に引き続いて、今度は紅葉のドレスとでも形容すべき衣服を着た少女が姿を現す。この子もまたナベやまな板で武装してるけど。
 ……胸にまな板を装着するのは虚しくない? 女として。
「ええお姉ちゃん。侵入者よ。まったく、この忙しいときに……」
 だが、ぶつくさと愚痴る芋気の前に、チルノが進み出た。
「どうでもいいけどどきなさいよ! ZUNが急いでいるのよ!」
「ええ!? ZUNが!?」
「ZUNって何!?」
 だんだん誤用が壊滅的な方向に進んでいる気がするんだけど、でもこの秋色シスターズもZUNという単語に何かの畏敬を感じたらしく、予想以上に狼狽していた。
 でも、芋気の方はそれでも譲れない何かがあるらしい。その疑念を振り切って立ちふさがる。
「ええい、なんだかわかんないけど、今は無く子も黙る宗教戦争の真っ只中なのよ! 女子供はすっこんでろ!」
「あんたも女子供じゃん!」
 こともあろうか条件両方満たしちゃってるじゃん!
「うるちゃいうるちゃい! 私は幻想郷の秋を司る豊穣の神、秋穣子よ!」
「そして私は同じく秋を司る紅葉の神、秋静葉です。ちなみに穣子の姉です」
 私のツッコミに騒ぐ芋うと……じゃなくて妹よりも、柔和な笑みを浮かべてここぞとばかりに自己紹介を挟んできた姉のほうに私は恐れを感じた。いやまぁ、どうでもいいんだけど。
「でも今は冬なのになんで秋の神が? この山が今だ色を失っていないのはあなたたちのせい?」
 ひょっとするとと思ったが、秋姉妹は首を振った。
「そんなわけないそんなわけない!」
「これ以上は禁則事項です」
「ああもう、ZUNが急いでいるって言うのに!」
 もうわけわかんなくなってきた。誰か何とかして。
 と、そう思ったら。

「スパイダーストリングス!」

 なにごと!?
 白い糸のような何かが私たちの間をすり抜け、妹子のほうに張り付いた。
 びっくりして振り向くと、そこには。
「ここは私たちに任せろ!」
「任せろー、ですー……」
「ヤマメ!? キスメ!?」
 縦穴に住んでいたはずの土蜘蛛と釣瓶落としがそこにいた。なんでこんなところに!?
 私たちのあとをつけていたんだろうか。
「私たちだってもうちょっと出番がほしかったんだ! だからここは任せて先に行くんだ!」
「だ!」
 何だその理由……まぁいいか。
「チルノ、先に急ぐわよ」
「そうね。ZUNに負けていられないわ」
 いつの間にZUNと競争してることになってるんだろう。
「な、なんだお前は!」
「私か!? 私は病気を操る程度の力を持つ土蜘蛛さ! お前もイモチ病にしてやろうか!」
「かー!」
「ひいっ、それは死活問題だわ!」
「どうしよう穣子ちゃん!」
「くるくる~、どこの組のカチコミかしら~?」
「来た! 厄神様来た!」
「これで勝つる!」
 そんな会話を背中で聞きながら、私たちは山の奥へと歩を進めた。


 樹海を抜け、チルノの案内で大蝦蟇の池に回る。水面から顔を出した大蝦蟇が心なしかチルノをじーっと睨んでいるような気がしないでもなかったが、私は彼女を急かしてさっさと通り過ぎる。
 そして今、すごくでっかい滝の前に出てきた。
「ふぅー、疲れたぁ……。こんなところに本当に古明地こいしはいるのかしら……」
 不安になってきた。そもそも情報がチルノの言った『神もいるよ!』というポロリもあるよ的な言い草だけで、どこにいけばいいのかよくわかってない。
 まぁ、さっきの豊穣神(笑)と違って究極の力を与えると言うほどの神。セオリーに則るならば山頂にいるんだろうけれども。
 さすがにチルノも心配げな顔をしている。
「うーん、早くしないとZUNに先を越されちゃうよ」
「いや、だからZUNと競ってるんじゃないから!」
 本当にチルノの頭の中を覗いてみたいと思った。でもまぁ、実際に覗いた古明地さとりは昏倒してたから触らぬ神に祟りなしなのかもしれないけど。
 と、せん無きことを考えていると。
「そこの者たち、何をしている」
 滝の上空から、駆け下りるように白い狼のような妖怪が現れ、私たちの目の前に着地した。大きな曲刀と盾を持ち、物々しい雰囲気だ。
「私はこの山の哨戒任務に当たっている白狼天狗の犬走椛。みんなからはもみもみと呼ばれて親しまれている」
 その自己紹介明らかに蛇足でしょうに!
 何こいつ、という私の視線も意に介さずに、犬走椛は私たちの顔を見回し、最後に私に視線をくれた。
「そこの妖精はいつものことだが、お前の顔は初めて見る。何者だ。何の目的で山に入った」
 答えようとしたところに、一足先にチルノが答える。
「あたいたちはZUNを探しに来たのよ」
「違うよ! ぜんぜん違うよ! なんでZUNを探してることになってるの!?」
「じゃあ、ZUNを倒しに来たんだっけ?」
「そうでもない! だからZUNは関係ないのよ!」
 なんで話の中心がZUNに摩り替わっているの……!? ZUNっていったい何!? どこにあるの!?
「話が見えないが、つまりそのZUNをどうしようというんだ?」
「だからZUNは関係ない! 私は地下の妖怪、水橋パルスィ! 地霊殿の偉い人の妹さんを探すと言う任務を帯びてきたんです!」
 ZUNの流れから引き戻さないと! ここが私の嫉妬じゃない力の見せどころよ! 思うにこの椛とやらは職務に忠実そうだから、こちらも任務と言う言葉を出せばそれなりに効くはず!
「な、地下の妖怪だと? ……むぅ、どちらにせよ、ここにその妹さんはいない。私には千里先をも見通す能力があるが、他に侵入者は見かけなかった」
 千里先を見通すという力がどの程度のものなのかは知らないけど、いないという言葉は信用できない。
「古明地さとりは彼女のことを『人に気配をさとられない』と言ったわ。あの地霊殿の主の妹さんのこと。並大抵のことではないでしょうよ」
「ふむ、といっても今はこの妖怪の山も政情不安定なんだ。お帰りいただくほかには無い」
「もう、じれったいわね。弾幕で白黒つければいいじゃない」
 私のやり口がまどろっこしかったのか、チルノが簡潔な案を出す。確かにそのほうが後腐れがないかも知れない。
「そうだな。どうせ私も侵入者を見つければ威嚇射撃なんてのは常だったのだ。お相手させていただこうか」


 ― 注目!―

 ― 決闘開始!―

「チクショオオオオ! くらえもみもみ! 新必殺『エターナルフォースブリザード』!」

「さあ来いチルノオオ! 実は私はスペルカードがないぞオオ!」

(ゴバー)

「グアアアア! こ このザ・モミモミと呼ばれる白狼天狗の椛が……こんな小娘に……バ……バカなアアアアアア」


 ― 決着!―

「勝ったわ」
「負けたぞ」
「ねぇ、もうこれ私ツッコまなくていい?」


「負けたのだから仕方ないな。クリーム色の髪をしていて、黒いハットを被っていて、黄色い服を着ていて、胸には第三の目がある少女だったな? 一応そう意識して探してみるが……」
 結果あれでいいんだ。
 そう思ったけどこれ以上事がこじれてもアレなので黙っておく。
 椛は古明地こいしの情報を復唱した後、指でまぶたを超開いてあたりを見渡していたが……。
「うっ!」
「ど、どうしたの!?」
 突然目を押さえ、うずくまる椛。何!? 一体何が見えたというの!?
「目が超乾いた……」
「チクショー! 心配して損した!」
 その後も懲りずに目を見開いてきょろきょろしていたが、不意にぴくんと尻尾を震えさせる。
「いたぞ。しかもなんというところに……」
「ど、どこにいたの?」
 やっぱり乾いていたのか、椛はしばらく目をごしごしと擦ると、こちらに向き直った。
「この山の政情異変の中心だ。……それでも行くと言うのなら、案内するが」
 ぶっちゃけて言うと、さとりさんにそこまでする義理は無い。特別親しいわけでもないし、よく考えるとこんなところに首を突っ込んで大丈夫なのかという気すらしてくる。
 でも、乗りかかった船とも言う。
「行こうよばらスィー。ここまで来てびびってちゃZUNにも申し訳が立たないって」
「いやZUNは関係ないだろZUNは」
 チルノの中でZUNは一体どういう存在になっているのだろうか。すごく気になる。
「でも……そうね。行きましょう。何が起こっているのか気になることだし」
 私たち二人の様子を見て、椛はふむ、と頷くとくるりと後ろを向く。
「ついてこい。さぁ、案内してやろう!」


 そこは山頂に近い森だった。
 いや、それはもはや森と呼べるものなのか。奇妙に背の低い木々が整然と並べられているこの光景は、どこか神々しくも薄ら寒い感覚がする。
 その森に分け入ってすぐに、私は探し人を見ることが出来た。
 そして、その探し人の前に立っているのは、緑髪で青い巫女服を着た少女。それは『山頂の神社』の巫女なのだろうか?
「まったくもう、あのお二方も勝手なことをして……。いいですかー? 核融合といってもまったく安全なわけではないですし、そもそも力が大きすぎてバランスが崩れてしまうのです。おいそれと渡せるものではないのですよ」
「ええー、残念だなぁ」
「でもご安心を。核融合なんかよりももっと平和的で素晴らしいエネルギーがあります。それが神の奇跡『ミラクルフルーツ』なのです」
「そーなのかー」
 ちょっと待ってみようか! なんでミラクルフルーツなのよ!
 エネルギーったってウイダーインゼリーエネルギーインとかのレベルだろそれ!
「秘法により温暖に保たれた気候の下、この山はミラクルフルーツ畑に生まれ変わるのです。さすれば大いなる神徳が我らを照らすでしょう」
「そーなのかー」
 今、この政情不安定の理由がわかった。
 この巫女が山をミラクルフルーツ畑に改造しようとして土着の神とかが怒った。終わり。
「ちょっと、何を話してるの!?」
 チルノが二人の下へ駆け寄っていく。私も椛と視線を合わせると、後に続いた。
「あら、こんにちは。私、守矢神社の巫女をしております、東風谷早苗と申します。ミラクルフルーツの素晴らしさを説いていたところですよ。あなたも一つどうですか?」
 早苗と名乗った巫女からそうして手渡されたのは、小さな赤い果実。少し怪しかったけれど、試しにかじってみる。すると、なんとも言えない微妙な味が広がった。
 チルノもあまりお気に召さないようだ。
「何これ? あんまおいしくないんだけど」
「そこで、このレモンを食べてみてください」
「えー、そんなすっぱいの食べたくないよー」
 ごねるチルノに、早苗は「だまされたと思って食べてみてください」と微笑んだ。だまされたと思ってっていうフレーズは本当にだまされてることが多いから困る。
 でも、それを押し通してしまえるこの笑顔は妬ましいと、そう思う。
 結局みんなしてレモンの切り身を食べてしまって、そしてみんな一緒に叫んだ。
『甘っ!!!』
 何これ。ホントにレモン!? ありえないほど甘いんですけど。
「うわー、うそでしょ!? レモンがこんな味なわけないもん!」
「だが、これは間違いなくはじけるレモンの香りだぞ」
「すげー! ミラクルフルーツすげー!」
 うん、すごいのは認める。
「どうですか? これが神の奇跡です」
 でもそれはない。
 まぁいいか。元々私の目的は守矢の巫女ではないのだし。
 私はさっき一緒にミラクルフルーツを食べて騒いでいたクリーム色の髪の少女に向き直る。
「失礼……古明地こいしさん?」
 そう問いかけると、鳩が威力の弱い豆鉄砲を食らったような顔をしてこちらを振り向いた。
「ありゃ、どちらさま? なんで私の名前を?」
 そうしてころころ変わる表情は、姉のさとりとはあまり似ないものだった。
「あぁ、私は水橋パルスィと言います。ちょっとさとりさんに頼まれまして。どこに行ったか心配だから探してきてほしいって」
 それを聞くと古明地こいしはけらけらと笑った。
「あははっ、私が出歩くのなんて珍しくもないのに、それこそ珍しいこともあるもんだ。しかしなんであなたが……あっ」
 ふと思い出したように、古明地こいしはちらりと視線をチルノにやる。
「そういえば、お姉ちゃんが言ってたっけ。巫女と魔女が来る前にやってきた妙な二人組がいたって。確か……氷精と橋姫!」
「ええまぁ、確かにあの二人が来る前に地霊殿にお邪魔しましたけれども」
 私が肯定の言葉を口に出すと、古明地こいしはうれしそうに微笑んだ。まるで欲しかったおもちゃを見つけた子供のように。
「さっき巫女と魔女にも会ったし、今日は大漁ね! お姉ちゃんが言ってたわ。『あの氷精にはあなたとは別の意味で絶対に勝てないわね』って。『あの橋姫にはあなたと通じるところがあるかもしれないわ』って。是非あなたたちと戦って、お姉ちゃんとの話の種にしたいわー!」
 いきなりエンカウント!?
 好戦的ってレベルじゃないわよ!?
「何々? さいきょーのあたいに挑もうって言うの?」
「ん、弾幕勝負が始まるのか?」
「畑では暴れないでくださーい!」
 当のチルノはノリノリみたいだけど、これ大丈夫なのかしら? いやな予感しかしないのだけれど……。
「じゃあ行くよ、ZUN!」
「えっ、誰!?」
 まだZUNを引きずってたの!?
 ええい、ともかく相手を混乱させながら、ミラクルフルーツ畑の上空へと飛び上がる。舞台は空!
「くらえー!」
 チルノが先手を打ち、氷弾が古明地こいしに襲い掛かる。でも、こいしは不敵な笑みをたたえてそれを待ちうけ――
 ――それはおよそ一切の弾幕合戦に聞いたことも見たこともない、奇怪な避け方であった。
 まるでポーズ全集をコマ送りかつ超高速で見ているような、奇妙でありまた流麗な動き。チルノが放ったありったけの氷弾は、古明地こいしにただの一つもあたることは無かった。
「な、何なの今のは!」
「これぞ古明地こいしの無意識弾幕回避術。弾幕を考えずに避けられるという事がどれだけ恐ろしいことか……身をもって味わうがいいわ!」
 そう誇らしげに叫んで、古明地こいしはお返しとばかりに弾幕を放つ。
「表象『夢枕にご先祖総立ち』!」
 ……。
 …………。
 何も起こらないね。
「ねぇばらスィー、ゴセンゾって何?」
 あぁ、なるほど。
「あー! 妖精にゃご先祖はいなかったか! これは盲点!」
 こいしも気づいたようで、パーンと額に手を打ち付ける。
「……痛くない?」
 と聞くと。
「痛い」
 と返してきた。だったらやるな。
「然らば――これならどう!? 表象『弾幕パラノイア』!」
 古明地こいしの宣言と同時に、チルノと私を紫のクナイ弾が囲う。
「なっ、これは……!?」
 驚く私に、こいしはにやりと笑って告げる。
「ふふっ、パラノイアとは被害妄想や誇大妄想を引き起こす心の病気。あなたたちは今からそれを体感することになるわ」
 このクナイの檻の中では、思うように身動きが取れない。ここで攻撃を食らったら……。
 チルノのほうもどうしていいかわからないらしく、クナイの檻をくるっと見回して、叫んだ。
「妄想っていうか、実際に攻撃受けてるよね!」
「はっ!」
 古明地こいしに電流走る。
 そして、こいしの動揺を表すかのように、クナイの檻もブレて弾けた。
 ……なるほど、避けるのも無意識なら攻撃も無意識。ちょっと根本にちょっかいを出すだけで、無意識なんて不安定な状態は揺るいでしまう。
 恐るべきはその根本をそれこそ無意識に探り当ててしまうチルノの感性か。
 ……え? 買いかぶりすぎ?
 それはそうかもしれないけれど、実際にこいしは結構ショックを受けているみたいよ。
「……お姉ちゃんの言ってたことが、『言葉』でなく『心』で理解できたわ。なんて――なんてなんてなんて、魅力的な妖精! こんなに私の心を打ち震わせたのはあなたが初めてだわ!」
 そりゃそうでしょうねぇ。
「本能『イドの解放』ーっ!」
 そうして諸手を挙げて撃ち出したのは……ハートの弾幕!?
 ちょ、ちょっと! 何チルノに求愛してんのよ! パルパルパルパル!
「来たわね! 凍符『パーフェクトフリーズ』!」
 パーフェクトフリーズは弾幕を凍らせるスペル! ということは!
「ああっ、私の愛が凍った!? 寒い! 心が寒い! 誰かあっためてー!」
 ふふふ、ざまをみなさい。パルパルパルパル。
「しかし変な形の弾幕ねー」
 チルノが完全に凍りついたハート弾幕を手にとってしげしげと見つめている。すると、何か古明地こいしが慌てだした。
「ああっ、割るなよ!? 絶対に割るなよ!?」
「えい」
 ぱりーん。
「マイハァァァァト・ブレイク!」
 どよーんとした暗い空気を纏わせつつ、空中で乙女ずわりで泣き崩れるこいし。なんだか哀れになってきたわ。
「ううっ……痛んだ心を守らないと……抑制『スーパーエゴ』~」
 しゅるるると凍った心が戻っていく。
「うう、私の何が足りないって言うの? みんなから怖がられる第三の瞳だってちゃんと閉じたのに!」
 第三の瞳を閉じた?
 ……そういえばあのサトリの妖怪の妹、すなわちサトリの妖怪だというのに、古明地こいしはこちらの考えを読んだ様子がなかった。
 無意識を操るというのはつまり、人の心にまで伸びるその心の触手を、自らのうちにとどめた反動? そしてその無意識に自らを落とし込んだ理由は……。
 ――なぁんだ。そういうことだったの。
「――そっか。何がいけないのかわかったわ」
 だとすると、古明地こいしの次の行動は……。
「反応『妖怪ポリグラフ』」
 私だけが、奇妙な円形方陣の中に取り込まれる。ほぉら、来た。
 思えばあの時、私だけがあなたの存在に気づいていたのも、今なら頷ける。
「あなたがいるからね?」
 あなこいし、閉じた恋の瞳よ。
 あなたは私と出会うずっと前から、この水橋パルスィの術中にいるのよ。
「ポリグラフとは嘘発見器。あなたはもう私に一切の嘘はつけない」
「ばらスィー!」
 チルノがこっちに向かおうとして、レーザー弾に阻まれて近づけないでいる。っていうか私の名前はパルスィだってヴぁ! ここで間違えないでよ! 緊張感が台無しじゃない!
「ええい! そうよ、私はあなたに嘘をつく必要はない! これから言うことは残酷なまでに真実だわ!」
 私が主導権を握ってるシリアスシーンなんて今後あるかどうかわからないんだから、せいぜい派手にやらせてもらうわよぉ!
「何を血迷ったことを言ってるの? さぁ、回れ妖怪ポリグラフ。あなたの鼓動が美しい弾幕の波を描くわ」
 回るレーザーの間に、私の動く軌道と同じように弾が設置されていく。なるほど。これを避けるのは一苦労ね。
「私には鼓動の激しいのはあなたのように見えるわよ。その心の位置にある閉じた瞳が、私に教えてくれる」
「この閉じた瞳が何を語るの?」
「あなたの無意識は確かに物理的な力には驚異的な抵抗力を持つ。だけど、閉じているようでむき出しのその心は、誰よりも危ういわ。……妬符『グリーンアイドモンスター』」
「!?」
「あなた、綺麗な緑色の眼をしているわね」
 私はにこりと微笑みかける。出来る限りの凄惨な笑顔で。
「ねぇ、知ってる? 嫉妬っていうのは、それをしてしまった時点で、相手のことを自分の及ばない存在だと認めているのよ」
 古明地こいしがこの私に抱く表象が、緑色の弾幕――怪物となって、彼女へと襲い掛かる。むき出しの無意識から汲み取られた、とびっきりの怪物が!
「うわっ!?」
 古明地こいしは飛び退り、同時にポリグラフが消滅する。そう、嘘を探る必要などもうないのだ。
「む、無意識『弾幕のロールシャッハ』っ!」
 こいしが放ってきたのは全方位無差別弾幕。確かに恐ろしい攻撃だけど、だめね。こんな状況で放っても、野菜の王子様の連続エネルギー弾くらいの悪あがきにしかならないわ。
「あなたは私に嫉妬する前から、ずぅっと嫉妬に取り付かれているのね。怖がられない者が妬ましい、誰かと仲良くできるのが妬ましい。そんなあなたにぴったりのスペルを持っているわ」
 ――花咲爺「華やかなる仁者への嫉妬」。
「あぁ、枯れ木に華を咲かせぬならば、せめて弾幕で咲かせましょう!」
 古明地こいしの表象を吸い取り、私のスペルは常以上の規模でもって顕現した。
「ただ眼を閉じるのではなく、その代わりにちっぽけな自分に何が出来るか考える。それがあなたのするべきことだったのよ」
 こいしは呆然と立ち尽くし、両の瞳を閉じる。あとは、ただ静かに
「奇跡『ミラクルフルーツ』!」
「ぎゃー!」
 えええええええ!? まさかの早苗さんが行ったー!?
 突如こいしの背後に現れた早苗さんが近距離からの弾幕で彼女を撃ち据える! 何をやっているんだ!
 こいしはそのままひゅるるると落ちて行き、地面に刺さった。
「まったくもう! さっきの弾幕のせいでミラクルフルーツ畑がめちゃくちゃじゃないですか! ぷんぷん!」
 どうやらさっきの連続エネルギー弾で畑が壊滅的な被害を受けたらしい。
 ……ええー、何この終わり方。


「……私の負け、かぁ。まさか貴女のほうに負けちゃうとは思わなかったわ」
 古明地こいしをダイコンのように引っこ抜くと、ずいぶんとたそがれていた。
「まぁ、少し相性が悪かったわね」
 膝を抱えて体育ずわりをする彼女のそばに、私も腰を下ろす。
「ばらスィー! 大丈夫だった!? まったくもう、最強のあたいに任せてくれればちょちょいのちょいだったのに!」
 チルノがなんだか心配そうに駆け寄ってきた。チルノのこういう顔が私は好きだ。この天衣無縫な妖精が自分のために表情を変えているのが、どうにもたまらなくうれしいのだ。
 私がチルノの頭をなでていると、こいしがじっとこっちを見ているのを感づいてしまう。
「うらやましいなぁ」
「……そうちゃんと口に出していえるのなら、特に心配は要らないのかもしれないわね」
 その言葉に、こいしははにかんだ。
「ううん、こういう気持ちになったのって、眼を閉じてから本当に久しぶりのことだったから、ちょっとびっくりした」
 復燃――か。
 元々はそれが無意識なのだ。なんやかんやと飾り立てられないから、誰よりも素直になれる。
 心を閉ざすということは、そういう意識の指向性自体を消してしまうから、それが活かされることなんてほとんどないのだけれど。
 『無意識を操る』。自分の心が閉じていないことにさえ気づけば、それは確かにとんでもない能力なのかもしれない。
「あぁ、チルノうらやましいなぁ。私もパルスィになでなでされたい」
 ええ!? そっち!?


「私の……ミラクルフルーツ畑が……」
 私がこいしの謎の発言に戸惑っていると、後ろのほうでもなんだかややこしいことになっていた。早苗さんが壊滅したミラクルフルーツ畑を今一度目の当たりにして、ガックシと膝をついている。
 そんな彼女の肩に手を置いたのは、犬走椛だった。
「あなたは少し性急過ぎたのだ。この山に越してきてから我らと和解するまでの苦労を忘れたわけではあるまい?」
 早苗さんはゆっくりと顔を上げる。
「ですが、ミラクルフルーツの良さを皆理解してくれると……」
「だからといって山で一番の縄張りを持とうなんて思わないことだ。そもそもミラクルフルーツとは、他に食べ物があって、初めてそのすごさがわかる代物なのだろう?」
 はっと驚いたように、早苗さんは椛を見上げた。
「……ふふっ、私としたことがミラクルフルーツの真髄を諭されてしまうとは……」
「信仰というものは、過ぎればその本質が見えなくなると聞いたことがある。今回のことはいい薬だと思うことだな」
「……はい」
 なんか向こうもやたら綺麗に収まったみたい。正直どうでもいいんだけれど。
「結局ZUNは見つからなかったね」
「いつまで言ってんだよ! もう!」


 椛や早苗さんに送ってもらった帰り道。麓でぶっ倒れている豊穣神とヤマメたちがいた。
「ふふ、やるな、あんた……」
「ふふ、あなたこそ……」
 なんで少年漫画のノリなんだよ。


 そんなこんなで、山に行った日からしばらく経った。
 結局、古明地さとりはこうなることを期待して私をこいし捜索に差し向けたのだろうか。
 確かに私とチルノは、彼女にとって奇妙な相性の良さを持ってはいたけれども。
『ありがとうございました。おかげさまでこいしも随分と明るくなったようです。でも最近あなたのことばかり話すんですよ。パルパルパル!』
 とか言われた。知らんがな。
 それでまぁ、あの妖怪の山登山でこの私が何を手に入れられたのかと言えば……。
「やぁ、遊びに来たぞ。お前の家はまるで市役所のように居心地がいいな」
 居心地いいのそれ!? ほめられてる気がしないよ!
 椛の考えていることは相変わらずよくわからない。初めて椛を見たときはもうちょっと真面目そうなやつだと思っていたのに。
「あのとき私が最後まで出せなかったスペル、『サブタレイニアンローズ』。この花はもう隠れたくないみたいだから、この薔薇をパルスィにあげちゃうよ!」
 薔薇の花言葉は……いや、考えるまい考えるまい。
 こうしてなぜか古明地こいしにも懐かれてしまって。
「やっほー、ばらスィー! 聞いて聞いて! ZUNの居場所がわかったよ! ZUNは私たちの心の中にいるんだって!」
 何それ!?
 っていうかまだ考えてたの!?
 そもそもなんでZUNが出てきたのかもうわからないわ!

 まぁ、こうして私の手に入れたものは我が家の騒がしさだけなのだけれど。
 それもまぁ、悪くないかなと思う今日この頃なのだった。

「あ、何この手帳」
「『私の歌詞手帳byパルスィ』?」
「しーっとしん♪ しーっとしん♪」
「うわあああああああ! やっぱ帰れええええええええ!」

 いかに嫉妬もするべきか、EX! ――fin
どうも、ナルスフです。
今回はもうちょっとチルノと早苗さんに暴れてもらいたかったのですが、こいし戦でノってしまったのが運の尽きでした。
というかぱるしーが話の主軸だったせいか、チルノが動かしにくかった。要反省ですね。
ともあれ、前回と意味合いの違う『いかに嫉妬もするべきか!』感が描けてたらいいな、と思います。

パルスィとチルノと椛とこいしとかどんな組み合わせなんだよ!
とか思ったけどそういえばアリスと萃香と輝夜なんてのもあったので、案外ままあることなのかもしれません。
本当東方キャラは無限大だぜ! フゥーハハァー!

ともあれ、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
あと、早苗さん、こいしちゃん、そして神主様。ごめn(ry

それでは皆さん、良いお年を。
ナルスフ
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コメント



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17.90名前が無い程度の能力削除
早苗さんのスイーツ(笑)っぷりに全神が泣いた。
19.80名前が無い程度の能力削除
なんというチルドマスターチルノ
そして突っ込み役は総受け体質だと思い知りました
25.100名前が無い程度の能力削除
チルノ最強説再びwww
28.100名前が無い程度の能力削除
>しーっとしん♪ しーっとしん♪ ねたましーいー♪
最高の替え歌ありがとう。 つミ[座布団5枚]
29.80名前が無い程度の能力削除
本当にミラクルフルーツはどうでもいいなと思ったw
こいしの天敵がパルスィ&チルノと言うのは新鮮でした
37.無評価名前が無い程度の能力削除
くっそwwwwwwwww真夜中だってのに爆笑したwwwwwwwwwwwww
あんたいいセンスしてやがるwwwwwwwww腹いてぇwwwwwwwww
38.100名前が無い程度の能力削除
ギャー 点数付けるの忘れたー。
41.100名前が無い程度の能力削除
腹筋が崩壊したwwwwwwwww
57.90名前が無い程度の能力削除
よかったねパルパル、かわいいよ。
どこの組のカチコミかしら~? って雛様w
58.100名前はある程度の能力削除
>マイハァァァァト・ブレイク!                    チルノなにげにひでぇwww
66.100名前が無い程度の能力削除
最初からクライマックスすぎて吹いたwww
嫉妬心スゲェw
77.90Admiral削除
さとりんの「パルパルパル」にフイタw
チルノこいし椛パルスィという組み合わせも新鮮なのに違和感がなくまとめられていてグッド!
こいしすら弾幕戦で翻弄するとは…チルノ恐るべし!
取っても面白かったです!
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チルパルいいねぇ
97.100名前が無い程度の能力削除
100点