どうしたものか、と香霖堂の店主は低く唸った。
卓袱台を挟んで丹前と布団を着込み、震えているのは見知らぬ少女だ。
いや、どこかで見たような気がしないでもない。
しかしそれはどうでも良い事だと霖之助は思い直した。
訳の分からない事に巻き込まれるのは慣れている。
とにかく先ずは、と目の前の少女を見て霖之助は言う。
「君。鼻をかんだらどうかな」
「んぅ」
だらん、と鼻水を垂らしたまま何とも言えない辛そうな表情を浮かべたその少女はあまりに哀れだった。
ちり紙を受け取ろうと手を伸ばした拍子に鼻水が揺れて、そのままぼとりと卓袱台に落ちてしまいそうである。
それを危惧した霖之助はやれやれと手を伸ばしてちり紙を彼女の鼻に押しつけた。
一瞬の沈黙の後、ちーん、と鼻をかむ音が響き、そしてお互いに安堵の溜息が漏れた。
「ありがと」
少しだけ照れたように少女は頭を掻いた。
別に構わないがね、と霖之助はくず入れを指さす。
少女はぺいっ、とちり紙を放り投げ、そしてそれは見事な弧を描いてくず入れに落ちる。
「甘酒ならたくさん用意してあるからどんどん飲んでくれ。
妖怪が風邪をひくとは思えないが、一応念のため体は温めておいたほうがいい」
そう言って霖之助は何杯目とも知れぬ甘酒のお代わりを少女に渡す。
一段落ついたら卵酒を用意してやってもいいかも知れない。
少女は両手で湯飲みを持って(甘酒に湯飲みというのもおかしな話である)、こくこくと喉を鳴らしてそれを飲む。
そして幸せそうにほぅ、と目を細めた。完全に緊張はほぐれてしまっているようだ。
あまりに和んだ表情を見せるので、そんなに無防備にされても困るのだが、と思いつつ霖之助は口を開いた。
「それで……僕と君は知り合いなのだろうか。
もしそうだったならば済まない。全く覚えていないのだが」
一日の営業を終え、何とはなしに外を見ると雪を被った少女が立っていたので思わず店に入れてしまった。
それが事の顛末である。少女は霖之助を見たとたんに安堵の表情を見せたので、彼はどこかで会っただろうかという疑問を抱いたのだった。
少女はうんうん、と何度か小さく頷いた。
「なんかね、天狗の新聞の私の記事にあんたの顔が載ってたから知り合いかなあって思って遊びに来た」
「天狗……」
文々。新聞のことだろうか。
訳の分からない話が出るとたまにあの天狗の少女から意見を求められることがある。
この子もその新聞の繋がりで香霖堂、そして霖之助を知ったのかも知れない。
だとしたら直接の面識は無いことになるが、ルーミアが店主の顔を知っていても奇妙ではない。
新聞の人と同じ顔の人を見て安心した、というのが真相なのだろう。
「ルーミアっていう名前だけど、覚えてないかなあ」
ふん、と霖之助は短く息を吐いた。
事実、ルーミアの記事について彼は意見を述べていたのだが、
基本的にどうでも良い事は忘れることにしているので、彼にとってその名前は忘れられて当然である。
数年前に一度見ただけの名前など、覚えている方が不思議だ。
しかし、霖之助はその名前を何度か耳にしていた。
宵闇の妖怪、ルーミア。
霊夢や魔理沙から話を聞いている。
曰く、闇の妖怪のくせに弱っちい。
曰く、両手を広げた間抜けなポーズを取ることがある。
曰く、いつも闇に包まれていてその姿を見ることは難しい。
「ああ。何度か聞いたことがあるよ。
なんでも闇を扱うそうじゃないか。
名前負けと噂されてはいるがね」
うぐ、とルーミアは眉をハの字にした。
「名前負けっていうのは酷いな。
確かにあんまり強くないけど」
「それに、今は闇をまとってはいないようだ」
「新月の夜は能力を使わないことにしてるのよ」
「それはまた。陽光は嫌いかい?」
「眩しすぎるから嫌ー」
「僕も嫌だ」
そう言って、霖之助は小さく笑みを零す。
親しみやすい人だと感じたのか、それとも元々呑気な性格なのか、ルーミアもふにゃふにゃと笑う。
「やだよね、明るすぎるの」
「ああ、嫌だね」
ぱちぱちと火の爆ぜる音がする。
霖之助にとっては聞き慣れた、そしてルーミアにとっては初めて耳にする音だ。
そしてこれからはきっと何度も耳にする音になるだろう。
香霖堂の奥の間は、一度人を招いたら何度も繰り返しその人を誘引する不思議な魔力に充ち満ちている。
それはあの古い妖怪であっても例外ではないのだ。
薄暗さ、けだるさを伴った温かさ、そして一癖も二癖もある奇特な店主。
そういったものを好む妖怪は多い。
博麗神社は強い妖怪たちがたむろする傾向にあるが、香霖堂はどのような妖怪も受け入れる。
ただ、人間が訪れる事は珍しいというのは両所に共通の項目である。
くしゅん、くしゅん、とルーミアは何度かくしゃみをした。
それを見て、霖之助は全く、と少しだけ怒ったような表情を見せる。
「この豪雪の夜に何も考えずにふわふわ飛んでいるからそういう目に遭う。
お気楽な妖怪であることは一目で分かるが、天候くらい気にしたらどうだい?」
ううむ、とルーミアは難しい表情を作ったが、やはりどこか間が抜けているように見える。
目を細めているせいか、それとも終始鼻を啜っているせいか。
おそらくはその両方が理由であろう。
「いっつものんびり飛んでるからねえ。あんまり雨とか雪とか気にした事無いのよ。
でも今日は凄かったなあ。うんうん、寒かったー」
「そう思うならば住処に帰れば良いだろう」
霖之助は至極当然の事を言うのだが、ルーミアは、うにゃ、と首を横に振った。
「どっか場所決めて住んでる訳じゃないし。
朝も夜もふわふわ浮いてるから、家とか要らないのよ」
「……呆れたな。何の為に生きて居るんだ君は」
痛烈な意見を何も考えず口に出してしまうのはひどく霖之助らしいが、
この少女はそういった無粋な言葉に胸を痛めることもない。
ある意味で霖之助と非常に相性の良い少女なのかも知れない。
「んー。何の為に生きてるんだろうねえ、私。考えたこともなかったけど、結構楽しいからそれでいいかなあ」
そう言って、ルーミアはふにゃりと笑った。
さすがの霖之助も毒気を抜かれたのか、うん、と笑った。
「楽しければそれが一番だよ。正直に言って、君のような生き方は羨ましい」
皮肉半分、賞賛半分の言葉だったのだが、ルーミアはそれを楽天的にとらえたらしく嬉しそうにからからと笑った。
「あんたもぼーっとしてればいいのに」
ルーミアの言葉はひどく魅力的だったが、もちろん霖之助がそれに賛同することはなかった。
腕を組んでやや傲慢な笑みを浮かべながら彼は言う。
「ゆっくりと生活するのも悪くないが、香霖堂と、そしてその店主たる僕は幻想郷から必要とされている。
僕が働くことは義務なんだよ。才能があるのも善し悪しだ」
そう言って、ふふんと満足そうに彼は何度も何度も頷くのだが、
「えー。香霖堂なんて無くても私は生きていけるよ」
ルーミアの返答はにべもなく、彼はがっかりと肩を落とすことになった。
本人は香霖堂の誉れは幻想郷中に轟いているものだとばかり思っていたらしい。
霖之助はルーミアを気ままな妖怪だと表現したが、
彼自身もまた非常に妖怪らしい自己中心的な性格だと述べても過言ではないだろう。
香霖堂を不必要と切って捨てられた事が辛いらしく、むくれた表情を見せていた。
「ええっと……怒った?」
霖之助の表情を彼女は不安そうに見上げるのだが、彼はふんとそっぽを向くだけである。
「君にはもう泣いて頼まれても何も売らないよ」
ごめんごめんと謝ろうとしたのだが、再びからだを襲った寒気にルーミアはぶるりと体を震わせて、
また一つ大きなくしゃみをした。
それを見た霖之助は不愉快さに歪めていた表情をすぐに切り替え、ルーミアの元に歩み寄った。
「全く、世話のかかる……もう寒くはないんだろう?」
じっとりと濡れてしまった彼女の服は全て脱がせ、
香霖堂に置いてある丹前と布団を幾重にも被せてある。
ストーブで部屋が暖まっていることもあり、じっとりと汗をかいてもおかしくはないのだが、
ルーミアは未だにぶるぶると体を震わせていた。
風邪だろうか、とそんな事を考えて一応彼女の額にも手を当ててみるが、常温である。
それはそうだ。妖怪が体を壊すことは滅多にない。
ならばただ単に体のしんから冷え切っているだけなのだろう。
そういう冷え切った体を温めるには、風呂が一番である。
風呂、と霖之助は考えた。
先程香霖堂について大見得を切ったばかりである。
幻想郷が必要とする店だ、と。
しかし、ここの風呂はなかなかにみすぼらしい。
それを笑われてはたまらない。
香霖堂の名が泣く。
だが、このままルーミアを放っておくのは良心が痛む。
ではどうしようかと彼は頭を捻った。
温泉や銭湯まで連れて行くのは非現実的である。
お湯程度ならば少々の工夫ですぐ沸かすことが出来る。
幸いな事にストーブのおかげで薪も余っている。
香霖堂に置いてある道具だけで、なんとか即席の風呂を作れないだろうか。
即席の風呂と言えば、やはり五右衛門風呂の形式になるだろう。
あれならば巨大な筒さえあれば簡単に作ることが出来る。
しかし、巨大な筒などあっただろうか。
彼の頭の中に、最近拾ってきた道具の数々が浮かんでは消える。
その中で、一つの廃棄物が頭に浮かんだ。
鋼鉄で出来た大型の缶――即ちドラム缶である。
霖之助はふう、と大きく息を吐いて、右手を握ってこん、と軽く卓袱台を叩いた。
その軽快な音にはてなとルーミアが顔を上げる。
「君の冷えた体を一気に温める良い方法を思いついた」
へえ、とルーミアは首を傾げた。
「今でも十分あったかいよ」
今よりももっと温かくなる、と霖之助は断言した。
「今から香霖堂でしか出来ない方法で、即席の風呂を作る」
「ふうん」
ルーミアはよく分かっていないのか、こくこくと頷いた。
それを聞いた霖之助は、ごほん、と咳払いをした。
「今から、香霖堂しかできない方法で、風呂を作る」
「うん。二回も言わないでも分かるよ?」
「……そうかい」
霖之助は淋しそうに肩を落とした。
さりげなく自分の店のアピールをしようとしたらしいが、見事に失敗である。
ともあれ、言葉に出してしまったのならば動かねばならない。
霖之助は、それならば完成した品でルーミアの心を奪ってやると意気込んで、立ち上がった。
道具に自分なりのアレンジを加えるのは森近霖之助の得意技だ。
作業は彼自身が思っていたよりもはかどった。
ドラム缶の錆落としとかまどの溶接にやや時間がかかったものの、それも十分程度で済んだ。
外の技術だけに頼っていれば数日かかるであろうそれも、霖之助の手腕にかかれば朝飯前である。
魔理沙や霊夢以外にはあまり知られていないことだが、霖之助は魔法に対する知識も深い。
それを戦闘に使わずに道具作りに使っているため、彼は非常に地味なただの商人に思われがちであるが、
あのミニ八卦炉の整備と改良が可能な程度の知識と技量は持ち合わせているのである。
彼の職人魂はさび止めと排水用のバルブの取り付けを求めたが、
しかし目的はあくまでルーミアを速やかに風呂に入れることである。
その二つの項目を完遂するには更に二、三分を要するだろう。
倉庫で用いていた脚立を持ってきて、階段代わりとし、続いてかまどの焚き口に薪を放り込み、
ドラム缶に水を入れて火を熾す。最後にすのこを浮かせれば準備は万端である。
彼はふう、と流れる汗を拭った。我ながら久々の傑作であると彼は自画自賛した。
並大抵の人間ならばこれを完成させるのに一週間はかかるだろう。
鬼の協力を得れば数時間で出来ない事もないだろうが、自分はそれを三十分で完成させた。
あれこれと用意している間に風呂は沸くだろう。
吹雪も小康状態になっている今の内とばかりに霖之助はどたばたと慌ただしく奥の間に戻った。
ルーミアはお菓子を食べたりお茶を飲んだりして和んでいたのだが、
あっという間に戻ってきた霖之助に驚きを隠せないようだった。
「ええっと……店のお風呂を焚いたんじゃないんだよね? 作ったんだよ、ね」
「ああ、今作った」
霖之助は胸を張ってそう言った。
ルーミアは未だに体を震わせていた。
暖を取って元気になっていたらどうしようかと内心不安だったのだが、その心配は杞憂に終わったようだった。
霖之助としては彼女が元気なってほしいとの願いよりも自分の努力の賜を認められたいとの欲求の方が深いらしい。
このような点は職人らしくもあり、子供らしくもある。少なくとも合理的な商人らしくはない。
霖之助は笑って言う。
「適温になるように調整をかけているからね、いつでも入って良いよ。
香霖堂の出口にタオルを用意してあるからそれで体を隠して入ると良い」
あれ、とルーミアは小首を傾げる。
「部屋に作ったんじゃないの?」
まさか、と霖之助は肩を竦める。
「さすがの僕も増築工事をそこまでスピーディに行うことは出来ないさ」
「じゃあ外なのっ!?」
ぐぐい、とルーミアが詰め寄ってくる。
失望するだろうかと内心不安だったのだが、ルーミアは何故かとても嬉しそうである。
霖之助が考えあぐねていると、
「凄いっ、露天風呂だっ!」
非常に子供っぽい理由でルーミアは起きあがった。
先程まで震えていたのに、布団を放り投げて(重い羽毛布団が宙を舞う様子は圧巻であった)、
彼女はどたばたと慌ただしく奥の間から出ていった。静止する間もなかった。
「……しょうがない子だな、全く」
伸ばした手を戻して、霖之助は溜息を吐く。
礼は無かったが彼は気にしない。
礼というものは形式的に行われても嬉しくないものだ。
彼女が風呂に入り、そして歓喜の声を上げてくれればそれで十分である。
霖之助はストーブの火を消すと、ゆっくりと背伸びをした。
急ピッチでの作業だったので疲れてしまった。
しかし、ドラム缶風呂などルーミアにとっては初めての経験だろう。
色々と指示をしてやった方が良いかも知れない。
そう思い直し、霖之助は下駄を引っかけて再び寒空の下へ出ていった。
風呂に入れるまでがここまで大変だとは思わなかった。
何が大変だったかというと、ルーミアが石川五右衛門の釜茹での話を知っていたのである。
泣きそうな顔で嫌だ嫌だと首を横に振られた時にはどうしたものかと霖之助は途方に暮れてしまった。
すのこを踏み台にすれば熱い底の部分に触れなくて良い事を説明し、
次に側面は下の部分でなければ熱くはない事を話し、
結論として非常に心地よい入浴を楽しめる旨を説明したのだが、
少々頭が弱いのか、この妖怪少女は納得してはくれなかった。
なので仕方なく霖之助が服を着たままでドラム缶に飛び込み、自分自身が実験台となって安全性を証明した。
人の為に何かをする事を好んでいるからという理由ではない。
自分の作ったものにけちを付けられたのが純粋に許せなかったのだろう。
ルーミアは入っても大丈夫だということが分かると、嬉々として風呂に飛び込んでくれた。
霖之助はそれを見て安心し、服を着替えて、ちょっとしたつまみを持って彼女の元に戻ってきた。
気温はぐんと下がっており、またふわふわと雪が舞いだしていた。
霖之助は卵酒を差し出して、にやりと笑った。
「どうだい、湯加減は」
ルーミアはこくん、と頷いた。
目を閉じて、頬をほんのりと赤く染めているその姿は本当に心地良さそうである。
彼から酒を受け取ると、少しだけ恍惚とした表情に心配そうな色を浮かべてルーミアは言う。
「……私、お金持ってないよ?」
霖之助はそれを聞いても全く動じなかった。むしろ何を馬鹿な、と余裕を含んだ笑みを見せる。
「商人にとっては人間関係こそが何よりの資本だ。君と出会えたことがすでに僕にとっては大きな財産なんだよ」
それが気遣いの言葉だということはルーミアにも分かった。
変人かも知れないけれど、悪い人じゃないな、と彼女はそう思った。
ちびちびと酒をすすって、そして幸せそうな笑みを霖之助に向けて、ルーミアは言う。
「あったかい」
それを聞いて、霖之助も相好を崩す。
気取ったニヒルな笑みでも、自信に充ち満ちたいつもの笑みでもない、自然で優しい微笑だった。
「それはありがとう。何よりの賛辞だ」
ありがとうは私の台詞だよ、とルーミアはくすくす笑って、また酒を啜る。
そんな素直な少女の様子にちょっとだけ悪戯心がくすぐられたのか、霖之助は言った。
「髪でも洗ってあげようか?」
あるいは、彼は淋しかったのかも知れない。
霊夢も魔理沙も成長してしまった。
昔はあれこれと世話を焼いていたものだが、今では何でも一人で出来るようになっている。
時には友人として、時には協力者として付き合うことはあっても、
こちらが一方的に彼女たちを支援することはめっきり少なくなっていた。
端的に言えば、兄貴面が出来なくなっていたのである。
対するルーミアは単純なもので、
「ありがとー」
と二つ返事で承諾が返ってきた。
霖之助は外の世界のシャンプーの容器を持って、脚立を上る。
その様子を見て、ルーミアはくすりと小さく笑った。
「最初から髪洗うつもりで準備してたの?」
霖之助は、はじめ言われたことの意味が分からなかったのだが、
そういえば自分が何も考えずにお盆にシャンプーも乗せてきたことを思い出した。
「ああ……昔妹分が泊まりにきたときに髪を洗ってやっていたからね。
その名残かな。癖になっていたみたいだ」
「そーなのかー」
「なんだい、その間延びした口調は」
「口癖」
「変わった口癖だね」
小さく笑い、霖之助は内容液を手に塗りたくってから、ルーミアの髪にそっと手を通した。
髪は思っていたよりもかたく、ごわごわとしていたので霖之助は少しだけ驚いた。
「あまり髪の手入れはしていないのかい?」
尋ねると、ルーミアはうん、と頷いた。
「御札が付いてるから洗いにくいし、そもそもお風呂に入れる機会がそんなにないからねえ。
大抵は水浴びだから冬は寒くて寒くて……ふぁあ、温かいなあ」
御札、と言われてはじめて霖之助はルーミアがリボンをつけたまま風呂に入っていることに気が付いた。
「これは外さなくてもいいのかい?」
彼の質問に、ルーミアはうんうん、と二回頷いた。
「別に外す理由もないし、撥水性ばっちりだからね。気にしないでわしゃわしゃ洗って良いよ」
そうかい、と頷いて霖之助は優しくルーミアの髪に指を通した。
慎重に慎重を重ねなければせっかくの髪を痛めてしまうかも知れない。
汚れて指が通りにくいだけに、乱暴な洗い方は避けたかった。
ルーミアはそんな霖之助の手の動きがこそばゆいのか、時々体をすくめては小さく笑っていた。
「くすぐったい所があったら言ってくれ」
「ん……別に気持ちいいだけだから気にしないで良いよー」
「それは幸甚だ」
「灰燼?」
「違う」
ぺちん、とルーミアの頭を軽く叩いて霖之助は苦笑した。ふわふわとシャボン玉が宙に舞って、そして弾けた。
はじめはぎちぎちとしていた髪も、やがてさらさらと大人しく霖之助の指を受け入れるようになっていた。
「君はちゃんと風呂に入った方が良い」
霖之助がそう言うと、
「お金が無いのよ」
とルーミアは当然のように返答した。
それを聞いて、霖之助はまた考える。
「駄菓子で子供を惹きつける作戦もそこそこ成功したことだし……。
今度は夜に風呂を焚いて貧乏な妖怪を呼んでみるのも悪くないかも知れないな」
貧乏な妖怪を呼んだところで儲けにはならないということを霖之助は全く考慮に入れていないようだった。
彼の商売が本物ではなく趣味の領域を出ていない事の良い証拠である。
ただ、そのような資本第一主義ではなく客と道具を第一に考えた姿勢こそが香霖堂の常連を増やす要因となっているのだが。
ルーミアは霖之助の案に諸手をあげて賛成した。
「いいねえ、香霖堂のお風呂大作戦。私だったら毎日入りに来るよ」
「人里にも銭湯くらいあるがね」
「お金が無いのよ」
「まあ、ここなら確かに無料で風呂くらい提供するが」
風呂どころか一宿一飯無料である。このような良心的な店も珍しい。
しかし、妖怪が風呂に入れないというのは妙な話である。
霖之助は考えを巡らせる。
自分のよく知る妖怪と言えば、レミリアとその家族、そして八雲紫が挙げられるだろう。
誰も彼もが住居を持っている。
森に住む魔法使いであるアリス・マーガトロイドもきちんとした洋風の家を建てている。
いくらルーミアが風の向くまま気の向くままに漂っているといっても、
家が無いのはやはり妙なのではないかと彼は小さく首を傾げた。
もしかしたら嘘なのかも知れないし、もしかしたら然るべき理由があるのかも知れない。
しかし、それについては考えないことにした。
今現にこうしてルーミアが自分の作った風呂に満足してくれている。
その事が霖之助が関心を寄せる唯一のことだった。
ルーミアは目を閉じたまま頬を緩めた。
自由な少女。
なにものにもとらわれずに、ただただ漂い続ける少女。
この子を見ていると、今の暮らしに満足している自分も何故だか心を動かされてしまう。
ゆっくりと手を動かしながら、霖之助は思わずぽつりと漏らした。
「遊びをせむとや生まれけむ……」
ん、と半ば眠ってしまっていたルーミアが目を開いた。
「何か言った?」
ああいや、と霖之助は少し笑って、照れ隠しに頭を掻いた。
そして、自分の手にシャンプーが付いていたことに気が付いて、肩を落とす。
ルーミアからはその様子を見ることが出来なかったのだが、
何かに慌てた事は分かったのだろう、くすくすと笑っていた。
「絶対に何かぼそぼそ言ってたよ。何?」
笑いながら、ルーミアは尋ねる。
独り言を聞かれたのは恥ずかしかったが、聞かれて答えないのは益々妖しい。
「古い歌だよ。ずっと昔のね。君を見ているとふと口をついて出てしまった」
関心を持ったのか、ルーミアはふうん、と息を吐いた。
そして、くるりと振り返って小さく笑った。
「ねえねえ、それ歌ってよ」
無邪気な表情だった。
上気した肌も、赤く、吸い込まれそうな目も、泡でもこもことした髪も、
全てがただ純粋に楽しそうに見えた。
そんなこの少女の姿を見ていると、不思議と笑みがもれてくる。
自分もこのような笑みを浮かべて駆け回っていた頃があったのだろうか。
あったのだろう。
人も妖怪も子供の頃は無邪気なものである。
大人になるにつれて、優しさや醜さを身につけていき、子供らしさをどんどん失っていってしまうのだ。
その「らしさ」をルーミアは保ち続けていた。
一体全体何年生きた妖怪なのか分からないが、そうやって子供であり続ける事を悪いことだとは思えなかった。
変わらない幻想郷だからこそ、変わらない事も悪くないと、そう思える。
霖之助はルーミアの頭を撫でるようにしながら、また言葉を紡いだ。
「遊びをせむとや生まれけむ」
人は、遊ぶ為に生まれて来たのだろうか。
「戯れせむとや生まけむ」
人は、戯れる為に生まれてきたのだろうか。
「遊ぶ子供の声聞けば――」
霖之助は空を見上げた。
「我が身さえこそ、揺るがるれ……」
楽しそうなルーミアを見ていると、自然と自分もうずうずと突き動かされてしまう。
無邪気に何も考えず、はしゃいでいた遠い昔の事を、思い出してしまう。
ふわふわと、月のない空から雪が落ちてきては溶け始めていた。
あれだけの豪雪だったのだ。今まで止んでいたのが不思議なくらいである。
しかし、温かな風呂からそれを見つめるルーミアの目は新鮮な驚きにきらきらとしていた。
「良い歌だねえ」
しみじみとそう呟いて、また酒を啜った。
「この歌を口ずさんだのは数年ぶりだよ」
霖之助の方は、苦笑と共にそう返した。
楽しそうな子供を見ると、童心を思い返すのはいつの時代も変わらないのだろう。
少しだけ切ない思いと共に、ルーミアと同じ空をじっと見つめる。
「ねえ」
ルーミアはぽつりと呟いた。
どんな表情をしているのだろうか。
彼女は振り返らなかったので、それは分からなかった。
そして、呼びかけの後に一つだけ、彼女は霖之助にお願いをした。
霖之助は苦笑と共にそれを受け入れ、彼女の頭を軽くお湯で流した。
それから小一時間ほどだろうか、店主と少女は互いに表情を緩ませたまま、
空を見つめては星を褒め、酒を呑んでは酒を褒め、雪を眺めては雪を褒め、
和やかに、穏やかに、心の赴くままに、
まるで兄妹か何かのようにのんびりと語り合っていたのだった。
深い深い真夜中の闇の中にぼんやりと見える少女の寝顔を見つめながら、霖之助は考える。
妖怪たちは気楽な生き物で、群れることなく一匹狼でうろうろしているものも多い。
そういった連中は寂しさを感じないものだとばかり思っていた。
だがしかし、それは違うのかもしれない。
霖之助自身も孤独を好むたちだが、それでもやはり一人で居ると、ふとどうしようもない寂しさに襲われる事がある。
ルーミアにとっては、それが今日だったのだろう。
思うに、しきりにくしゃみをしていたのも、家が無いと言ったのも、全ては嘘だったのかも知れない。
かまってくれる人がいて欲しかったのかも知れない。
そして、それに自分が選ばれた。
そう考えるのは傲慢だろうか。
霖之助は、軽く首を振った。
あんまり少女の顔をじろじろと見て、意味のない考察にふけるのは失礼だ。
第一証拠が何もない。
それでも、と霖之助は思う。
ルーミアが今日はここに泊まりたい、とそう言ったことだけは確かなことだ。
もぞもぞと、彼は熊のように起きあがり、そしてはだけた毛布をそっと彼女にかけてやった。
霖之助は自分の布団に戻り、そして誰にともなく呟いた。
「またおいで。今度は美味しい料理を振る舞ってあげよう」
眠っているはずの少女は、ほんの少しだけ表情を緩めたように見えた。
彼女は狸寝入りをしているのか。
彼女はそれとも眠っているのか。
それは分からない。
分からないけれど、霖之助にとってはどちらでも良かった。
明日の朝に、改めて先程の言葉を述べるつもりはなかった。
不思議な満足感と共に、彼は眠りに落ちていった。
遊びをせんとや生れけむ
戯れせんとや生れけむ
遊ぶ子供の声聞けば
我が身さえこそ動がるれ
今様の温かな調子が、狭い奥の間にいつまでも小さく響いていた。
いつしか少女の唇はその言葉を追いかけるように小さく動いていたのだが、
ついに鈍感な彼がそれを知ることはなかった。
卓袱台を挟んで丹前と布団を着込み、震えているのは見知らぬ少女だ。
いや、どこかで見たような気がしないでもない。
しかしそれはどうでも良い事だと霖之助は思い直した。
訳の分からない事に巻き込まれるのは慣れている。
とにかく先ずは、と目の前の少女を見て霖之助は言う。
「君。鼻をかんだらどうかな」
「んぅ」
だらん、と鼻水を垂らしたまま何とも言えない辛そうな表情を浮かべたその少女はあまりに哀れだった。
ちり紙を受け取ろうと手を伸ばした拍子に鼻水が揺れて、そのままぼとりと卓袱台に落ちてしまいそうである。
それを危惧した霖之助はやれやれと手を伸ばしてちり紙を彼女の鼻に押しつけた。
一瞬の沈黙の後、ちーん、と鼻をかむ音が響き、そしてお互いに安堵の溜息が漏れた。
「ありがと」
少しだけ照れたように少女は頭を掻いた。
別に構わないがね、と霖之助はくず入れを指さす。
少女はぺいっ、とちり紙を放り投げ、そしてそれは見事な弧を描いてくず入れに落ちる。
「甘酒ならたくさん用意してあるからどんどん飲んでくれ。
妖怪が風邪をひくとは思えないが、一応念のため体は温めておいたほうがいい」
そう言って霖之助は何杯目とも知れぬ甘酒のお代わりを少女に渡す。
一段落ついたら卵酒を用意してやってもいいかも知れない。
少女は両手で湯飲みを持って(甘酒に湯飲みというのもおかしな話である)、こくこくと喉を鳴らしてそれを飲む。
そして幸せそうにほぅ、と目を細めた。完全に緊張はほぐれてしまっているようだ。
あまりに和んだ表情を見せるので、そんなに無防備にされても困るのだが、と思いつつ霖之助は口を開いた。
「それで……僕と君は知り合いなのだろうか。
もしそうだったならば済まない。全く覚えていないのだが」
一日の営業を終え、何とはなしに外を見ると雪を被った少女が立っていたので思わず店に入れてしまった。
それが事の顛末である。少女は霖之助を見たとたんに安堵の表情を見せたので、彼はどこかで会っただろうかという疑問を抱いたのだった。
少女はうんうん、と何度か小さく頷いた。
「なんかね、天狗の新聞の私の記事にあんたの顔が載ってたから知り合いかなあって思って遊びに来た」
「天狗……」
文々。新聞のことだろうか。
訳の分からない話が出るとたまにあの天狗の少女から意見を求められることがある。
この子もその新聞の繋がりで香霖堂、そして霖之助を知ったのかも知れない。
だとしたら直接の面識は無いことになるが、ルーミアが店主の顔を知っていても奇妙ではない。
新聞の人と同じ顔の人を見て安心した、というのが真相なのだろう。
「ルーミアっていう名前だけど、覚えてないかなあ」
ふん、と霖之助は短く息を吐いた。
事実、ルーミアの記事について彼は意見を述べていたのだが、
基本的にどうでも良い事は忘れることにしているので、彼にとってその名前は忘れられて当然である。
数年前に一度見ただけの名前など、覚えている方が不思議だ。
しかし、霖之助はその名前を何度か耳にしていた。
宵闇の妖怪、ルーミア。
霊夢や魔理沙から話を聞いている。
曰く、闇の妖怪のくせに弱っちい。
曰く、両手を広げた間抜けなポーズを取ることがある。
曰く、いつも闇に包まれていてその姿を見ることは難しい。
「ああ。何度か聞いたことがあるよ。
なんでも闇を扱うそうじゃないか。
名前負けと噂されてはいるがね」
うぐ、とルーミアは眉をハの字にした。
「名前負けっていうのは酷いな。
確かにあんまり強くないけど」
「それに、今は闇をまとってはいないようだ」
「新月の夜は能力を使わないことにしてるのよ」
「それはまた。陽光は嫌いかい?」
「眩しすぎるから嫌ー」
「僕も嫌だ」
そう言って、霖之助は小さく笑みを零す。
親しみやすい人だと感じたのか、それとも元々呑気な性格なのか、ルーミアもふにゃふにゃと笑う。
「やだよね、明るすぎるの」
「ああ、嫌だね」
ぱちぱちと火の爆ぜる音がする。
霖之助にとっては聞き慣れた、そしてルーミアにとっては初めて耳にする音だ。
そしてこれからはきっと何度も耳にする音になるだろう。
香霖堂の奥の間は、一度人を招いたら何度も繰り返しその人を誘引する不思議な魔力に充ち満ちている。
それはあの古い妖怪であっても例外ではないのだ。
薄暗さ、けだるさを伴った温かさ、そして一癖も二癖もある奇特な店主。
そういったものを好む妖怪は多い。
博麗神社は強い妖怪たちがたむろする傾向にあるが、香霖堂はどのような妖怪も受け入れる。
ただ、人間が訪れる事は珍しいというのは両所に共通の項目である。
くしゅん、くしゅん、とルーミアは何度かくしゃみをした。
それを見て、霖之助は全く、と少しだけ怒ったような表情を見せる。
「この豪雪の夜に何も考えずにふわふわ飛んでいるからそういう目に遭う。
お気楽な妖怪であることは一目で分かるが、天候くらい気にしたらどうだい?」
ううむ、とルーミアは難しい表情を作ったが、やはりどこか間が抜けているように見える。
目を細めているせいか、それとも終始鼻を啜っているせいか。
おそらくはその両方が理由であろう。
「いっつものんびり飛んでるからねえ。あんまり雨とか雪とか気にした事無いのよ。
でも今日は凄かったなあ。うんうん、寒かったー」
「そう思うならば住処に帰れば良いだろう」
霖之助は至極当然の事を言うのだが、ルーミアは、うにゃ、と首を横に振った。
「どっか場所決めて住んでる訳じゃないし。
朝も夜もふわふわ浮いてるから、家とか要らないのよ」
「……呆れたな。何の為に生きて居るんだ君は」
痛烈な意見を何も考えず口に出してしまうのはひどく霖之助らしいが、
この少女はそういった無粋な言葉に胸を痛めることもない。
ある意味で霖之助と非常に相性の良い少女なのかも知れない。
「んー。何の為に生きてるんだろうねえ、私。考えたこともなかったけど、結構楽しいからそれでいいかなあ」
そう言って、ルーミアはふにゃりと笑った。
さすがの霖之助も毒気を抜かれたのか、うん、と笑った。
「楽しければそれが一番だよ。正直に言って、君のような生き方は羨ましい」
皮肉半分、賞賛半分の言葉だったのだが、ルーミアはそれを楽天的にとらえたらしく嬉しそうにからからと笑った。
「あんたもぼーっとしてればいいのに」
ルーミアの言葉はひどく魅力的だったが、もちろん霖之助がそれに賛同することはなかった。
腕を組んでやや傲慢な笑みを浮かべながら彼は言う。
「ゆっくりと生活するのも悪くないが、香霖堂と、そしてその店主たる僕は幻想郷から必要とされている。
僕が働くことは義務なんだよ。才能があるのも善し悪しだ」
そう言って、ふふんと満足そうに彼は何度も何度も頷くのだが、
「えー。香霖堂なんて無くても私は生きていけるよ」
ルーミアの返答はにべもなく、彼はがっかりと肩を落とすことになった。
本人は香霖堂の誉れは幻想郷中に轟いているものだとばかり思っていたらしい。
霖之助はルーミアを気ままな妖怪だと表現したが、
彼自身もまた非常に妖怪らしい自己中心的な性格だと述べても過言ではないだろう。
香霖堂を不必要と切って捨てられた事が辛いらしく、むくれた表情を見せていた。
「ええっと……怒った?」
霖之助の表情を彼女は不安そうに見上げるのだが、彼はふんとそっぽを向くだけである。
「君にはもう泣いて頼まれても何も売らないよ」
ごめんごめんと謝ろうとしたのだが、再びからだを襲った寒気にルーミアはぶるりと体を震わせて、
また一つ大きなくしゃみをした。
それを見た霖之助は不愉快さに歪めていた表情をすぐに切り替え、ルーミアの元に歩み寄った。
「全く、世話のかかる……もう寒くはないんだろう?」
じっとりと濡れてしまった彼女の服は全て脱がせ、
香霖堂に置いてある丹前と布団を幾重にも被せてある。
ストーブで部屋が暖まっていることもあり、じっとりと汗をかいてもおかしくはないのだが、
ルーミアは未だにぶるぶると体を震わせていた。
風邪だろうか、とそんな事を考えて一応彼女の額にも手を当ててみるが、常温である。
それはそうだ。妖怪が体を壊すことは滅多にない。
ならばただ単に体のしんから冷え切っているだけなのだろう。
そういう冷え切った体を温めるには、風呂が一番である。
風呂、と霖之助は考えた。
先程香霖堂について大見得を切ったばかりである。
幻想郷が必要とする店だ、と。
しかし、ここの風呂はなかなかにみすぼらしい。
それを笑われてはたまらない。
香霖堂の名が泣く。
だが、このままルーミアを放っておくのは良心が痛む。
ではどうしようかと彼は頭を捻った。
温泉や銭湯まで連れて行くのは非現実的である。
お湯程度ならば少々の工夫ですぐ沸かすことが出来る。
幸いな事にストーブのおかげで薪も余っている。
香霖堂に置いてある道具だけで、なんとか即席の風呂を作れないだろうか。
即席の風呂と言えば、やはり五右衛門風呂の形式になるだろう。
あれならば巨大な筒さえあれば簡単に作ることが出来る。
しかし、巨大な筒などあっただろうか。
彼の頭の中に、最近拾ってきた道具の数々が浮かんでは消える。
その中で、一つの廃棄物が頭に浮かんだ。
鋼鉄で出来た大型の缶――即ちドラム缶である。
霖之助はふう、と大きく息を吐いて、右手を握ってこん、と軽く卓袱台を叩いた。
その軽快な音にはてなとルーミアが顔を上げる。
「君の冷えた体を一気に温める良い方法を思いついた」
へえ、とルーミアは首を傾げた。
「今でも十分あったかいよ」
今よりももっと温かくなる、と霖之助は断言した。
「今から香霖堂でしか出来ない方法で、即席の風呂を作る」
「ふうん」
ルーミアはよく分かっていないのか、こくこくと頷いた。
それを聞いた霖之助は、ごほん、と咳払いをした。
「今から、香霖堂しかできない方法で、風呂を作る」
「うん。二回も言わないでも分かるよ?」
「……そうかい」
霖之助は淋しそうに肩を落とした。
さりげなく自分の店のアピールをしようとしたらしいが、見事に失敗である。
ともあれ、言葉に出してしまったのならば動かねばならない。
霖之助は、それならば完成した品でルーミアの心を奪ってやると意気込んで、立ち上がった。
道具に自分なりのアレンジを加えるのは森近霖之助の得意技だ。
作業は彼自身が思っていたよりもはかどった。
ドラム缶の錆落としとかまどの溶接にやや時間がかかったものの、それも十分程度で済んだ。
外の技術だけに頼っていれば数日かかるであろうそれも、霖之助の手腕にかかれば朝飯前である。
魔理沙や霊夢以外にはあまり知られていないことだが、霖之助は魔法に対する知識も深い。
それを戦闘に使わずに道具作りに使っているため、彼は非常に地味なただの商人に思われがちであるが、
あのミニ八卦炉の整備と改良が可能な程度の知識と技量は持ち合わせているのである。
彼の職人魂はさび止めと排水用のバルブの取り付けを求めたが、
しかし目的はあくまでルーミアを速やかに風呂に入れることである。
その二つの項目を完遂するには更に二、三分を要するだろう。
倉庫で用いていた脚立を持ってきて、階段代わりとし、続いてかまどの焚き口に薪を放り込み、
ドラム缶に水を入れて火を熾す。最後にすのこを浮かせれば準備は万端である。
彼はふう、と流れる汗を拭った。我ながら久々の傑作であると彼は自画自賛した。
並大抵の人間ならばこれを完成させるのに一週間はかかるだろう。
鬼の協力を得れば数時間で出来ない事もないだろうが、自分はそれを三十分で完成させた。
あれこれと用意している間に風呂は沸くだろう。
吹雪も小康状態になっている今の内とばかりに霖之助はどたばたと慌ただしく奥の間に戻った。
ルーミアはお菓子を食べたりお茶を飲んだりして和んでいたのだが、
あっという間に戻ってきた霖之助に驚きを隠せないようだった。
「ええっと……店のお風呂を焚いたんじゃないんだよね? 作ったんだよ、ね」
「ああ、今作った」
霖之助は胸を張ってそう言った。
ルーミアは未だに体を震わせていた。
暖を取って元気になっていたらどうしようかと内心不安だったのだが、その心配は杞憂に終わったようだった。
霖之助としては彼女が元気なってほしいとの願いよりも自分の努力の賜を認められたいとの欲求の方が深いらしい。
このような点は職人らしくもあり、子供らしくもある。少なくとも合理的な商人らしくはない。
霖之助は笑って言う。
「適温になるように調整をかけているからね、いつでも入って良いよ。
香霖堂の出口にタオルを用意してあるからそれで体を隠して入ると良い」
あれ、とルーミアは小首を傾げる。
「部屋に作ったんじゃないの?」
まさか、と霖之助は肩を竦める。
「さすがの僕も増築工事をそこまでスピーディに行うことは出来ないさ」
「じゃあ外なのっ!?」
ぐぐい、とルーミアが詰め寄ってくる。
失望するだろうかと内心不安だったのだが、ルーミアは何故かとても嬉しそうである。
霖之助が考えあぐねていると、
「凄いっ、露天風呂だっ!」
非常に子供っぽい理由でルーミアは起きあがった。
先程まで震えていたのに、布団を放り投げて(重い羽毛布団が宙を舞う様子は圧巻であった)、
彼女はどたばたと慌ただしく奥の間から出ていった。静止する間もなかった。
「……しょうがない子だな、全く」
伸ばした手を戻して、霖之助は溜息を吐く。
礼は無かったが彼は気にしない。
礼というものは形式的に行われても嬉しくないものだ。
彼女が風呂に入り、そして歓喜の声を上げてくれればそれで十分である。
霖之助はストーブの火を消すと、ゆっくりと背伸びをした。
急ピッチでの作業だったので疲れてしまった。
しかし、ドラム缶風呂などルーミアにとっては初めての経験だろう。
色々と指示をしてやった方が良いかも知れない。
そう思い直し、霖之助は下駄を引っかけて再び寒空の下へ出ていった。
風呂に入れるまでがここまで大変だとは思わなかった。
何が大変だったかというと、ルーミアが石川五右衛門の釜茹での話を知っていたのである。
泣きそうな顔で嫌だ嫌だと首を横に振られた時にはどうしたものかと霖之助は途方に暮れてしまった。
すのこを踏み台にすれば熱い底の部分に触れなくて良い事を説明し、
次に側面は下の部分でなければ熱くはない事を話し、
結論として非常に心地よい入浴を楽しめる旨を説明したのだが、
少々頭が弱いのか、この妖怪少女は納得してはくれなかった。
なので仕方なく霖之助が服を着たままでドラム缶に飛び込み、自分自身が実験台となって安全性を証明した。
人の為に何かをする事を好んでいるからという理由ではない。
自分の作ったものにけちを付けられたのが純粋に許せなかったのだろう。
ルーミアは入っても大丈夫だということが分かると、嬉々として風呂に飛び込んでくれた。
霖之助はそれを見て安心し、服を着替えて、ちょっとしたつまみを持って彼女の元に戻ってきた。
気温はぐんと下がっており、またふわふわと雪が舞いだしていた。
霖之助は卵酒を差し出して、にやりと笑った。
「どうだい、湯加減は」
ルーミアはこくん、と頷いた。
目を閉じて、頬をほんのりと赤く染めているその姿は本当に心地良さそうである。
彼から酒を受け取ると、少しだけ恍惚とした表情に心配そうな色を浮かべてルーミアは言う。
「……私、お金持ってないよ?」
霖之助はそれを聞いても全く動じなかった。むしろ何を馬鹿な、と余裕を含んだ笑みを見せる。
「商人にとっては人間関係こそが何よりの資本だ。君と出会えたことがすでに僕にとっては大きな財産なんだよ」
それが気遣いの言葉だということはルーミアにも分かった。
変人かも知れないけれど、悪い人じゃないな、と彼女はそう思った。
ちびちびと酒をすすって、そして幸せそうな笑みを霖之助に向けて、ルーミアは言う。
「あったかい」
それを聞いて、霖之助も相好を崩す。
気取ったニヒルな笑みでも、自信に充ち満ちたいつもの笑みでもない、自然で優しい微笑だった。
「それはありがとう。何よりの賛辞だ」
ありがとうは私の台詞だよ、とルーミアはくすくす笑って、また酒を啜る。
そんな素直な少女の様子にちょっとだけ悪戯心がくすぐられたのか、霖之助は言った。
「髪でも洗ってあげようか?」
あるいは、彼は淋しかったのかも知れない。
霊夢も魔理沙も成長してしまった。
昔はあれこれと世話を焼いていたものだが、今では何でも一人で出来るようになっている。
時には友人として、時には協力者として付き合うことはあっても、
こちらが一方的に彼女たちを支援することはめっきり少なくなっていた。
端的に言えば、兄貴面が出来なくなっていたのである。
対するルーミアは単純なもので、
「ありがとー」
と二つ返事で承諾が返ってきた。
霖之助は外の世界のシャンプーの容器を持って、脚立を上る。
その様子を見て、ルーミアはくすりと小さく笑った。
「最初から髪洗うつもりで準備してたの?」
霖之助は、はじめ言われたことの意味が分からなかったのだが、
そういえば自分が何も考えずにお盆にシャンプーも乗せてきたことを思い出した。
「ああ……昔妹分が泊まりにきたときに髪を洗ってやっていたからね。
その名残かな。癖になっていたみたいだ」
「そーなのかー」
「なんだい、その間延びした口調は」
「口癖」
「変わった口癖だね」
小さく笑い、霖之助は内容液を手に塗りたくってから、ルーミアの髪にそっと手を通した。
髪は思っていたよりもかたく、ごわごわとしていたので霖之助は少しだけ驚いた。
「あまり髪の手入れはしていないのかい?」
尋ねると、ルーミアはうん、と頷いた。
「御札が付いてるから洗いにくいし、そもそもお風呂に入れる機会がそんなにないからねえ。
大抵は水浴びだから冬は寒くて寒くて……ふぁあ、温かいなあ」
御札、と言われてはじめて霖之助はルーミアがリボンをつけたまま風呂に入っていることに気が付いた。
「これは外さなくてもいいのかい?」
彼の質問に、ルーミアはうんうん、と二回頷いた。
「別に外す理由もないし、撥水性ばっちりだからね。気にしないでわしゃわしゃ洗って良いよ」
そうかい、と頷いて霖之助は優しくルーミアの髪に指を通した。
慎重に慎重を重ねなければせっかくの髪を痛めてしまうかも知れない。
汚れて指が通りにくいだけに、乱暴な洗い方は避けたかった。
ルーミアはそんな霖之助の手の動きがこそばゆいのか、時々体をすくめては小さく笑っていた。
「くすぐったい所があったら言ってくれ」
「ん……別に気持ちいいだけだから気にしないで良いよー」
「それは幸甚だ」
「灰燼?」
「違う」
ぺちん、とルーミアの頭を軽く叩いて霖之助は苦笑した。ふわふわとシャボン玉が宙に舞って、そして弾けた。
はじめはぎちぎちとしていた髪も、やがてさらさらと大人しく霖之助の指を受け入れるようになっていた。
「君はちゃんと風呂に入った方が良い」
霖之助がそう言うと、
「お金が無いのよ」
とルーミアは当然のように返答した。
それを聞いて、霖之助はまた考える。
「駄菓子で子供を惹きつける作戦もそこそこ成功したことだし……。
今度は夜に風呂を焚いて貧乏な妖怪を呼んでみるのも悪くないかも知れないな」
貧乏な妖怪を呼んだところで儲けにはならないということを霖之助は全く考慮に入れていないようだった。
彼の商売が本物ではなく趣味の領域を出ていない事の良い証拠である。
ただ、そのような資本第一主義ではなく客と道具を第一に考えた姿勢こそが香霖堂の常連を増やす要因となっているのだが。
ルーミアは霖之助の案に諸手をあげて賛成した。
「いいねえ、香霖堂のお風呂大作戦。私だったら毎日入りに来るよ」
「人里にも銭湯くらいあるがね」
「お金が無いのよ」
「まあ、ここなら確かに無料で風呂くらい提供するが」
風呂どころか一宿一飯無料である。このような良心的な店も珍しい。
しかし、妖怪が風呂に入れないというのは妙な話である。
霖之助は考えを巡らせる。
自分のよく知る妖怪と言えば、レミリアとその家族、そして八雲紫が挙げられるだろう。
誰も彼もが住居を持っている。
森に住む魔法使いであるアリス・マーガトロイドもきちんとした洋風の家を建てている。
いくらルーミアが風の向くまま気の向くままに漂っているといっても、
家が無いのはやはり妙なのではないかと彼は小さく首を傾げた。
もしかしたら嘘なのかも知れないし、もしかしたら然るべき理由があるのかも知れない。
しかし、それについては考えないことにした。
今現にこうしてルーミアが自分の作った風呂に満足してくれている。
その事が霖之助が関心を寄せる唯一のことだった。
ルーミアは目を閉じたまま頬を緩めた。
自由な少女。
なにものにもとらわれずに、ただただ漂い続ける少女。
この子を見ていると、今の暮らしに満足している自分も何故だか心を動かされてしまう。
ゆっくりと手を動かしながら、霖之助は思わずぽつりと漏らした。
「遊びをせむとや生まれけむ……」
ん、と半ば眠ってしまっていたルーミアが目を開いた。
「何か言った?」
ああいや、と霖之助は少し笑って、照れ隠しに頭を掻いた。
そして、自分の手にシャンプーが付いていたことに気が付いて、肩を落とす。
ルーミアからはその様子を見ることが出来なかったのだが、
何かに慌てた事は分かったのだろう、くすくすと笑っていた。
「絶対に何かぼそぼそ言ってたよ。何?」
笑いながら、ルーミアは尋ねる。
独り言を聞かれたのは恥ずかしかったが、聞かれて答えないのは益々妖しい。
「古い歌だよ。ずっと昔のね。君を見ているとふと口をついて出てしまった」
関心を持ったのか、ルーミアはふうん、と息を吐いた。
そして、くるりと振り返って小さく笑った。
「ねえねえ、それ歌ってよ」
無邪気な表情だった。
上気した肌も、赤く、吸い込まれそうな目も、泡でもこもことした髪も、
全てがただ純粋に楽しそうに見えた。
そんなこの少女の姿を見ていると、不思議と笑みがもれてくる。
自分もこのような笑みを浮かべて駆け回っていた頃があったのだろうか。
あったのだろう。
人も妖怪も子供の頃は無邪気なものである。
大人になるにつれて、優しさや醜さを身につけていき、子供らしさをどんどん失っていってしまうのだ。
その「らしさ」をルーミアは保ち続けていた。
一体全体何年生きた妖怪なのか分からないが、そうやって子供であり続ける事を悪いことだとは思えなかった。
変わらない幻想郷だからこそ、変わらない事も悪くないと、そう思える。
霖之助はルーミアの頭を撫でるようにしながら、また言葉を紡いだ。
「遊びをせむとや生まれけむ」
人は、遊ぶ為に生まれて来たのだろうか。
「戯れせむとや生まけむ」
人は、戯れる為に生まれてきたのだろうか。
「遊ぶ子供の声聞けば――」
霖之助は空を見上げた。
「我が身さえこそ、揺るがるれ……」
楽しそうなルーミアを見ていると、自然と自分もうずうずと突き動かされてしまう。
無邪気に何も考えず、はしゃいでいた遠い昔の事を、思い出してしまう。
ふわふわと、月のない空から雪が落ちてきては溶け始めていた。
あれだけの豪雪だったのだ。今まで止んでいたのが不思議なくらいである。
しかし、温かな風呂からそれを見つめるルーミアの目は新鮮な驚きにきらきらとしていた。
「良い歌だねえ」
しみじみとそう呟いて、また酒を啜った。
「この歌を口ずさんだのは数年ぶりだよ」
霖之助の方は、苦笑と共にそう返した。
楽しそうな子供を見ると、童心を思い返すのはいつの時代も変わらないのだろう。
少しだけ切ない思いと共に、ルーミアと同じ空をじっと見つめる。
「ねえ」
ルーミアはぽつりと呟いた。
どんな表情をしているのだろうか。
彼女は振り返らなかったので、それは分からなかった。
そして、呼びかけの後に一つだけ、彼女は霖之助にお願いをした。
霖之助は苦笑と共にそれを受け入れ、彼女の頭を軽くお湯で流した。
それから小一時間ほどだろうか、店主と少女は互いに表情を緩ませたまま、
空を見つめては星を褒め、酒を呑んでは酒を褒め、雪を眺めては雪を褒め、
和やかに、穏やかに、心の赴くままに、
まるで兄妹か何かのようにのんびりと語り合っていたのだった。
深い深い真夜中の闇の中にぼんやりと見える少女の寝顔を見つめながら、霖之助は考える。
妖怪たちは気楽な生き物で、群れることなく一匹狼でうろうろしているものも多い。
そういった連中は寂しさを感じないものだとばかり思っていた。
だがしかし、それは違うのかもしれない。
霖之助自身も孤独を好むたちだが、それでもやはり一人で居ると、ふとどうしようもない寂しさに襲われる事がある。
ルーミアにとっては、それが今日だったのだろう。
思うに、しきりにくしゃみをしていたのも、家が無いと言ったのも、全ては嘘だったのかも知れない。
かまってくれる人がいて欲しかったのかも知れない。
そして、それに自分が選ばれた。
そう考えるのは傲慢だろうか。
霖之助は、軽く首を振った。
あんまり少女の顔をじろじろと見て、意味のない考察にふけるのは失礼だ。
第一証拠が何もない。
それでも、と霖之助は思う。
ルーミアが今日はここに泊まりたい、とそう言ったことだけは確かなことだ。
もぞもぞと、彼は熊のように起きあがり、そしてはだけた毛布をそっと彼女にかけてやった。
霖之助は自分の布団に戻り、そして誰にともなく呟いた。
「またおいで。今度は美味しい料理を振る舞ってあげよう」
眠っているはずの少女は、ほんの少しだけ表情を緩めたように見えた。
彼女は狸寝入りをしているのか。
彼女はそれとも眠っているのか。
それは分からない。
分からないけれど、霖之助にとってはどちらでも良かった。
明日の朝に、改めて先程の言葉を述べるつもりはなかった。
不思議な満足感と共に、彼は眠りに落ちていった。
遊びをせんとや生れけむ
戯れせんとや生れけむ
遊ぶ子供の声聞けば
我が身さえこそ動がるれ
今様の温かな調子が、狭い奥の間にいつまでも小さく響いていた。
いつしか少女の唇はその言葉を追いかけるように小さく動いていたのだが、
ついに鈍感な彼がそれを知ることはなかった。
本当にこんな人がいたらいいのに、と思わせるくらい。
なんだか満たされた気分です。ごちそうさまでした。
いや、ほんわか暖かいお話有難うございました、やはり素晴らしい雰囲気
田舎の家は五右衛門風呂なので、初めて入ったときの恐怖感を思い出して少し共感してしまいました
山から・・・というか家がほぼ山の中なんですが、乾いた枝やら葉やら拾って来て釜に放り込むんですよね
いや懐かしい、そして幻想郷のイメージがしっかりと浮かんできました
すばらしく温かな話をありがとうございます。お兄さんなキャラの店主いいよー。
ああ家の風呂壊れちまったなぁ……直るのは正月過ぎ……。
よかったです~。
霖之助とルーミアのベクトルはすれ違うけど、がっちりかみ合ってる。
もしくは合うようにかけるのだろうか。
いやはや、脱帽しました。
ルーミア可愛いよ! そして霖之助もとても良い!
氏の書く霖之助シリーズ(勝手に付けた)は魅力が凄くて面白いですね。
次が楽しみで楽しみで……。
面白かったですよ。
このこーりんは殺されずに済みそうないいこーりん。
ルーミアがずっと、この夜のことを覚えていてくれたらいいなあ。
こういう人物になりたいものです。
霖之助もルーミアもいい。
五右衛門風呂か、懐かしいな~
入ってる時は至福だけど、出るとめっちゃ寒いんだよなあれ・・・
それにしても霖之助、良い人だ。
ルーミアも素直で可愛い
まさしくお風呂みたいなあたたかくてしっとりしているお話でした、最高
るみゃの髪洗ってあげたい
ぶわっ
これは最早常識!
とてもいい作品でした。
ゆったりと流れる時間が心地良いですね。
しかし、霖之助がこんなに少年っぽいというか、どこか子供らしく描かれるとは。
まるで兄妹のやりとりを見ているような、微笑ましい一幕でした。
ご馳走様でした。
山一つ焼き払える手のひらサイズの火炉を作ったり、
伝説の金属を普通に加工したり、道具の効果を別の道具に移したり。
そんな彼にとって今回の仕事は文字通り朝飯前なのかもしれません。
ま、それはともかく、宿屋香霖堂、行ってみたいですねぇ。
僕はドラム缶風呂に入ったことがないので、機会があったら浸かってみたいです。
ルーミアの穏やかでほんわかした性格と、霖之助さんの鋭くも優しい性格が
見事にマッチしていた良作でした!