Coolier - 新生・東方創想話

春の罪

2008/11/27 02:26:34
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「見てみてごらんよ~ この木は罪で溢れてるぅ♪」
「また変なのが来た」

 幻想郷と外の世界に位置すると言われている博麗神社。
 神社の境内は新緑の緑に包まれ、今まさに夏の準備に取り掛かっている真っ最中だ。

 花の異変から数週間後、あれだけ花が咲き乱れていた幻想郷は、霊夢の予想通り夏が来る前にはすっかり元通りになってくれていた。
 外の人間が咲かせた境内の桜の木は、散っても散っても再び咲くのを何度も何度も繰り返していたせいで、
 三日に一度行われたあの妙な宴会の時以上に、連日花見が行われた。

 普段ならすぐに散ってしまう見事な桜がずっと咲いているとあれば、
 騒ぐことが大好きな幻想郷の少女たちにとって、宴会をしないわけにはいかなかったのだ。

 勿論、これらの宴会は全て魔理沙が幹事となって行われたものである。

「失礼ね。折角気持ちよく歌っていたのに変とは何よ変とは」

 だが何度宴会が繰り返されようとも霊夢は少しも嫌な顔をせず、むしろ皆を快く引き入れ、自分も一緒になって花見を楽しんだ。
 閻魔にこのままでは地獄にすらいけないと言われてからというもの、
 霊夢はどんなに小さなことでもいいから出来るだけ毎日善行に勤しんでみよう考えを改めるようになっていた。

 だから桜で有名なこの神社で、皆をもてなして楽しませるのも一つの善行ではないかと考えたのだ。

 もっとも、今回の宴会はあの時とは違い酒癖の悪いつるぺた幼女も一緒に加わるようになってしまったせいで、
 主に酒の減る量が尋常じゃなかったのは流石に痛かったが……。

「神社に歌いながら入ってくるなんて、よっぽどの能天気者か頭が春でいっぱいなやつぐらいだわ。まあ、今は初夏なんだけど」

 霊夢はそういってどこからとも無くやってきた珍客に言い放った。

 やってきたのは人を惑わす歌姫、ミスティアだった。
 霊夢はミスティアを目で一瞬だけ確認すると、すぐ下を向いて掃き掃除を始め出す。

 ミスティアが宴会以外のときに神社にやってくることはかなり珍しいことだったが、霊夢はさほど驚いた様子も無く黙々と竹箒で石畳を掃いていく。
 特に興味がなさそうに振舞っているが、別に誰が来ても驚かなくなってしまっただけなのかもしれない。

「それってどこかで聞いたようなセリフね。どこで聞いたかなんて忘れたけど」
「やっぱりあんたは鳥頭なのね。そんなにすぐ忘れてたら生活に困らないの?」

 耳元をぽりぽり掻くミスティアを見ながら、手を休めることもなく声をかける。

「鳥目のあんたに言われたかないわね……って、あ! 今いい歌詞が浮かんだわ。何もかもを忘れてく~ 私の頭の中のイレイスァーがぁ~♪」
「……聞くだけ野暮だったわね。あんたは今が楽しければいいような感じだし」

 妖怪なんて言う者は、大半が今が楽しければそれでいいと言うお気楽な者ばかりだ。
 霊夢の横で歌い出してしまったミスティアもその一人と言えるだろう。

 何の悩みもなさそうに歌っているミスティアの顔を見て少し呆れてしまった霊夢は、
 五月蝿いのが来たなぁと思いつつ、さっさと掃き掃除を終らせようとしたその時である。

「あら、なんか声がすると思っていたら誰か来てたの?」

 誰もいないはずの居間の戸の隙間から、顔と身体を支える腕だけを出してこちらに話しかけてくる人物がいたのだ。
 その人物は、相変わらず目に優しくない赤いチェック柄の服を身にまとっていた。

 神社にいる格好としてはあまり相応しくなさそうな感じだが、
 色合いが巫女服と似ているせいか、案外その風景に溶け込めているのだから不思議なものである。

 その人物とは、泣く子も黙るいじめっ子、風見幽香であった。
 幽香の手には湯のみが握られており、中から僅かに湯気が上がっている。
 そして口には半分に割られた煎餅を咥え込まれているあたりを察するに、恐らく幽香は今まで中でのんびりとくつろいでいたのだろう。

 それがあまりにも突然で、少し意外な人物だったために、これを見た霊夢の手がここで初めて止まってしまったのは仕方がない。

「さも今まで私と一緒にいたような口調だけど、いつの間に沸いて出てきたのよ」
「えーとね、あなたが可愛い寝顔でお昼寝していたときからよ」
「昼寝って今は朝まだなんだけど」

 すると幽香は、何も言わず何故か急に頬に手を当てて顔を赤らめた。それはそれは少女のように可愛らしく。
 どうやらこのお気楽妖怪、昨日の昼ごろからずっと隠れて神社内に居たらしい。

 しかも住居不法侵入をした上に、勝手に神社の茶菓子を漁って優雅にティータイムと洒落込まれていらっしゃる。
 これほど大胆かつ堂々とされると、かえってこそこそされるよりは気持ちがいいくらいだ。

 霊夢は、ここは神社だと言うのにこれほどまでに妖怪の好き勝手にされていると言う事実が無性に悲しさを呼び、泣きたくなる思いに駆られた。
 そして霊夢は幽香に対して返す言葉も出せずに、ただ肩をがっくりと落としてここぞとばかりに大きなため息をついた。心底嫌そうな表情と共に。

「あれは誰~ あれはいつぞやの老婆ぁ~♪」

 一方ミスティアは、まだ一人で騒がしく歌い続けている。
 幽香の登場にインパクトがありすぎて、危うく霊夢はこの歌声が聴こえてくるまでもう一人厄介者がすぐ横に居ること忘れてしまうところだった。

「何で今日は次から次へと変なやつばっかり……」

 言いようのない悲しさに包まれていく霊夢をよそに、突然幽香が声を上げた。

「あ~ら。それって一体誰のことを言っているかしらぁ?」

 そのミスティアの歌詞のある一単語に思わず反応してしまったようだ。実に大人気ない妖怪である。
 幽香は手に持っていたもう半分の煎餅をひょいと口の中に放り込むと、それをハイペースでバリボリと噛み砕いた。
 すると喉に煎餅の破片が詰まったのか、幽香は目を白黒させて手足をじたばたして暴れ出した。

「むぐっ! んぐぐっ……!」

 慌てて床に置いておいたお茶に口をつけるが、熱々のお茶を一気に流し込んだために、今度は熱がってもがいている。

「――っ! ――――っ!!」
「あんた何してんのよ……」

 ずっとその様子を見ていた霊夢が幽香に声をかける。
「ぐむーっ! ぐむむーーっ!!」

 幽香は涙目になりながら、必死で霊夢にジェスチャーで何かを訴えている。
 多分あれは「こっちが聞きたいわよ!」とか言っているのだろう。

 ようやく落ち着いてきた幽香は、一息つくとゆっくりと立ち上がった。
 その目は獲物を見つけた獣のように両目を光り輝かせている。ころころと感情変化の忙しい妖怪だ。

 当の歌姫さんの方はと言うと、歌うことに熱が入ってしまっているようで、完全に歌の世界にのめり込んでいる。
 周りのことが全く見えていないらしく、ゆらりゆらりと身体を大きく揺らしながら不気味に近づいていく幽香の存在に気付いてさえいない。

「こらこら、まだ話している最中よ」

 霊夢の言葉などスルーして構わずミスティアへと歩み寄る幽香。

「もしかしてその歌の続きは『チェック柄着たおばさん~♪』とかじゃないわよねえぇぇ」
「出たな、そいつは~ チェック柄着たおb……♪」
「かぁーーつ!!」



 ガッ!



「あだっ!」
「『ゆうかりん☆ちょっぷ』炸裂ぅ!」

 腕を大きく振りかぶり、思いっきり振り下ろした幽香のチョップ、通称『ゆうかりん☆ちょっぷ』なるものがミスティアの頭部にクリーンヒットした。
 何が起こったのか分からないままのミスティアは、とっさのことに激痛の走った頭を抱え込んだ。

「あだだだ……いきなり何すんのよー!」
「私のどぉーこをどう見たら老婆とかおばさんとかに見えるのよおぉぉぉ」

 多分ミスティアは、何の他意もなくただ気持ちよく歌を歌っていただけだろう。
 なのに不意を突かれてのあの「ゆうかりん☆ちょっぷ」はとても痛かったに違いない。

 にしても色々な意味で痛い技である。特にネーミングとかネーミングとか…………。

「おーい幽香ー、理不尽に苛めるのは構わないけど、やるなら他所でやって欲しいんですけどー」

 霊夢が遠くで幽香に抗議している。それでも幽香はお構いなしだ。

「私はただ思い思いに歌を歌っていただけじゃないのよー」
「今度私のことを侮辱する誹謗中傷的な歌を歌ったら次はただじゃすまないわよ。いいわね?」
「話通じてないっ!?」
「さて、ところで今頃だけどお久しぶりね」

 幽香はにっこりと笑った。さっきまでの形相が嘘のようだ。というか元々そんなに怒ってなかったのだろう。妖怪のテンションはよく分からない。

 幽香は実に紳士的な態度で――先ほどのことを考えれば紳士もへったくれもあったものではないが――ミスティアに挨拶をした。
 しかしミスティアは、そんな幽香に対して大層難しそうな顔をした。

「えーっと……誰だっけ? 確か花咲かじいさんみたいな人だったのは覚えてるんだけど――」
「おばさんの次はじいさんかー! そうりゃ!」



 ザシュッ!



 そういうと幽香は空高く飛び上がり、腕を十字に組んで脚を畳んだ。ぱっと見どこかのスーパーヒーローがやりそうな絵である。

 今まさに自分の身に危険が及ぼうとしていると言うのに、ミスティアは今何が起こっているのか全く理解出来ないといった様子だ。
 その証拠に逃げ出すどころかその場でぽっかりと口を開けて幽香の軌道を目で追っている。

 そうこうしているうちに幽香は跳躍の頂点に達し、重力に従って次第に鉛直下方向へと加速し始める。
 そしてクロスした腕を目標物へ定め、そのまま真っ逆さまに落ちてきて……。



 ズバゴンッ!



「あいだーっ!」

 プロレスラーも顔負けの無駄に豪快なクロスチョップをミスティアめがけてお見舞いした。

「ふっ、『ジャンピングクロスチョップ☆ゆうかりんスペシャル』決まっt……ぎゃっ!?」
「はいはい分かった分かった。お帰りはこちらよ」

 いつの間にか霊夢が、綺麗に地面へと着地した幽香の背後に回り込んでいた。
 霊夢は幽香の後ろから首根っこを鷲づかみにし、幽香に正面を向かせてやることもなくそのままズルズルと鳥居のほうへと引きずられていく。

「ぢょ、ぢょっと霊夢! 離じて、離じなさいよっ! ぐ、ぐるじい~」

 いくら善行に勤めているからといって、流石にここまで人の敷地内で勝手なことをされてしまっては黙って見ていることが出来なかったらしい。

 一方、いじめっ子から解放されたミスティアはほっと胸を撫で下ろしているかと思いきや、
 彼女は『ジャンピングクロスチョップ☆ゆうかりんスペシャル』をまともに喰らってしまったらしく、
 それが地味に痛かったのか、何も言えずにただ悶絶している。
 とてもじゃないが今はそれどころではないようだ。かなり痛そうである。

「分かった、分かったわよ! もう勝手なことしないからこれ以上襟を引っ張らないで頂戴! 服が伸びちゃうわっ! そして首がもげる!」

 幽香は手足をばたつかせて霊夢の手から逃れようと必死になっている。
 霊夢はこのまま無視して幽香を神社の階段から突き落としてやろうかと考えていたのだが、
 しばらくした後短くため息を吐き出すと、じたばた暴れる幽香から手を離してやった。

「ぎゃわっ!」

 幽香は後ろへコテンと倒れてしまった。無理のある後ろのめりの体制から突然支えるものがなくなったのだから当然である。

「……い、いきなり離すなんて酷いじゃないのよっ」
「何言ってるの。離せと言ったから離したんじゃない」
「だからって急にやることないじゃ――」

 危うく頭を硬い石畳に打ち付けそうになった幽香は、少し口調を荒げて霊夢の居るほうへと顔を上げた。
 しかし次の瞬間、怒り顔だった幽香の表情が見る見るうちに疑問の眼差しへと変化し、そこに広がっていた光景に一瞬目を疑うように目を擦り始めた。

 そしてもう一度まじまじと見上げた幽香の表情は確信めいたものへと変わっていった。

「?」

 初めはそれが何を意味しているのか良く分かっていなかった霊夢だったが、『あること』に気づいた時にはもう時既に遅かった。

「あ、霊夢の下着みーえた♪」
「っ!!!」




 ズドゴォォン……!!




 その隕石が落ちてきたような尋常じゃない破壊音は、遠く離れた紅魔館でも良く聴こえたんだそうな。





 ◇  ◇  ◇





「……で? 結局あんたらは一体何しに来たのよ」

 ここは霊夢が生活の間として良く使用する部屋、通称居間。彼女がこの神社に居る時間の大半はこの部屋に居る。
 先ほど幽香がお茶してくつろいでいたところと同じ場所である。
 居間の真ん中に置かれたちゃぶ台の上には、幽香が勝手に棚から引っ張り出してきて使っていた急須に新しい茶葉と熱いお湯が入れられた物が置かれ、
 その横に湯飲みが三人分用意されていた。

 勿論お茶の友である煎餅も忘れてはいけない。

「別に。私はただ気まぐれで来ただけよ。これと言って特に用事なんてないわ」

 この妖怪はただの気まぐれで一晩かけて人の寝顔を見に来るのか。
 霊夢はそんなことを考えながら急須から三人分のお茶を注ぎ、妖怪二人にお茶を差し出した。

 幽香は差し出されたお茶に「あら、ありがと」と短く礼を言って湯のみに口を付ける。
 あれだけの大惨事だったにもかかわらず何事もなかったようにケロッとしている。恐ろしく頑丈な妖怪である。
 お茶に舌鼓を打つ幽香に対し、ミスティアは何も言わずただ目の前に置かれた湯飲みをただじっと見つめている。

「気まぐれで来る妖怪が多すぎるのよね、うち。こんなんだから人間の参拝客は一向に来ないのよ。
 このまま信仰心が失われ続けてそのうちどこかに乗っ取られちゃうでもするじゃないかしら」

 霊夢はそう言うとお茶を啜って煎餅を一口かじった。
 つられて幽香も煎餅に手を出す。

「こら、あんたはさっき散々食べてたでしょ」

 霊夢がすかさずその手を叩き落とす。

「じゃあ、この煎餅は何のために置いてあるのよ」

 口を尖らせて抗議する幽香に、霊夢は冷静に口を開く。

「勿論これは私用」

 さも当たり前のように言うと、霊夢はまたお茶と煎餅を口に含んだ。

「ん~、やっぱりお茶のお菓子といったら煎餅よねぇ」
「むむー」

 この世にお茶と煎餅が存在して本当に良かったというような表情を浮かべ、霊夢は一人悦に浸りだした。

 だが、面白くないのは幽香だ。一人で煎餅を食い荒らしていたとは言え、そう言われてしまっては良い気はしない。
 目の前にある煎餅が食べられない、そう思うと余計に食べたくなるものである。

 そこで幽香は霊夢に対して正攻法以外の手を使うことにした。

「あ、あんなところに札束が飛んでいる」
「え!! どこどこどこどこどこー!?」
「うりゃ!」

 つい札束と言う言葉に目が眩んだ霊夢は、幽香の目論みどおりに振り向いてしまう。
 その隙に幽香は煎餅の入った皿めがけて素早く手を伸ばし、あっという間に煎餅を手中に入れてしまった。
 幽香は「はっはー、ちょろいもんね」と手にした煎餅を口へと放り込む。

「ばりっ!ぽりっぽりっぽりっ…………ぐむっ!!」

 けたけたと笑いながら煎餅を噛み砕いていく幽香だったが、突然表情を一変させた。 
 鼻元を押さえ、鼻の奥から何かがこみ上げて来るモノを必死で追い返そうとする。

「かかったわね!」

 後ろを向いていた霊夢が幽香のほうを向いてニヤリと口元を吊り上げた。
 幽香は涙目になりがらも霊夢の方を向いて必死で言葉を繰り出す。

「かっ辛い! ちょ、霊夢、これ何なのよ!?」
「ふふ、それはさっきのようなただの煎餅じゃないわ。特製わさび煎餅よ!」

 それを聞いた幽香は耳を疑った。実は幽香は元々辛いものが苦手であり、特にわさびのあの鼻にツーンと来る辛さは大の苦手だったのだ。

「わ、わさび!? な、なんてもの食べさせるのよっ! あーっ! 鼻がっ鼻がぁー!!」

 幽香があまりの辛さに鼻を押さえてのた打ち回っている。
 霊夢に一杯食わせたつもりが、逆に食わされてしまったようだ。

「あんたが勝手に食べたんじゃないの、自業自得よ。こんなに美味しいのにねぇ……ぽりっぽりっ」

 わさびの辛さをものともせず、霊夢は平然とわさび煎餅を口の中へと放り込んでいく。
 どうやら霊夢はこの特製わさび煎餅が全く平気らしい。と言うより、自分の神社に食べられないものをおいて置くというのも変な話なのだが。

 あっという間にわさび煎餅を平らげた霊夢が二枚目に手を出そうとした時、霊夢はふとあることに気づいた。

「そう言えばあんた、さっきから黙りこくっているけど食べないの? 折角用意したお茶にも手を出していないみたいだけど……」

 確かにミスティアはさっきまで散々歌を歌ったりして騒いでいたと言うのに、今は借りてきた猫のように黙り続けている。
 正座をして手はひざの上に行儀良く置かれており、さっきまで様子とは少し様子が違うようだ。

「うむー」

 やっと声を出したかと思えばただ唸っただけ。これでは伝わるものも伝わって来ない。

「何唸ってるのよ、言いたいことがあるなら言ってみなさ――」
「……んじられない……」

 ミスティアが突然口を開いた。でもまだ声が小さすぎて何を言ったのか聞き取れない。

「え? 何? 今なんて――」
「信じられないよ……」

 霊夢が言葉を続けようとした時、ミスティアが突然しゃべりだした。しかし、ようやく声がはっきりと聞こえた。
 視線は湯のみに向けられたまま、彼女は真剣な顔つきをしている。
 彼女の一変した雰囲気に、霊夢は息を飲んだ。

 一体どうしたというのだろうか。

「な、何? どうしたのよ」

 何か気に障るようなことでもしただろうか。
 霊夢は二人の妖怪を部屋に招きいれた辺りから今までの回想を頭の中で繰り広げていったが、特に思い当たる節がない。
 となると直接本人に聞いてみる他ない。霊夢は恐る恐る尋ねた。

「信じられないわ! こんな熱いお茶を私に出すなんて!」

 ミスティアは声を張り上げた。
 突然怒鳴り散らしたミスティアに、霊夢はつい圧倒されてしまい、
 一瞬謝罪の一言を言い出しそうになったが、すぐに我に返りもう一度彼女の言葉を思い出す。

 『こんな熱いお茶を私に出すなんて』?

「…………」
「…………」

 しばらく二人は沈黙した。そしてすぐに、

「……はぁ?」

 とうとう耐えられなくなった霊夢が間の抜けた声をあげた。
 どう考えてもその言葉はおかしい。

 『茶が不味い』とどやされるならまだしも、『こんな熱い茶を出すなんて』などと言われるなんて全く予想だにしなかった言葉だ。
 そもそも霊夢にとって、お茶とは熱いものが最良であると考えていた。好みは色々だろうが、世間一般的に考えればそれが正しいと言えるだろう。
 だから彼女は良かれと思い、おもてなしの意味も込めてわざわざ熱いお茶を出してやったと言うのに、
 そんな風に言われてしまって理解が出来ずに困惑の色を隠しきれずにいる。

 具体的に分かりやすく言うと今彼女の頭の上では『?』マークが五つほどくるくる回っている状態である。

「それに、わさび煎餅だって? 幻想郷一の歌手である私にそんな劇物を出すなんて信じられないわ!」
「はぁ……」

 ……少しミスティアの言いたいことが分かってきた気がする。
 つまり彼女は喉を一番に考える歌手に対してこんな喉を痛めつけるようなものを食べさせるな、と言いたいのだろう。

「つまりはそういうことね……」

 意味は分かった。分かったのだが、霊夢はなんだか心配をして損したような気分になってしまった。
 もっと重大なことだと思ってしまったために拍子抜けてしまったのだ。

「はぁ……」

 霊夢はため息をついた。

 とそこへ見慣れた新たなる来客が姿を表す。

「よっ。どうした霊夢、ため息なんてついて」

 魔理沙だ。たまたま遊びにやってきた魔理沙が玄関方面からでなく、縁側の障子を開けてやってきた。
 担いでいた箒を壁に立てかけると、どっこらせとその場に腰を下ろす。

「あら魔理沙。はぁ……」
「その霊夢のため息も気になるんだが、その前にひとつ、もっと気になることがあるんだけどいいか?」 

 魔理沙が少し改まった口調で霊夢に切り出した。

「何よ?」
「こいつ、今にも死にそうだぞ」
「た、たすけて……がはっ」

 見れば今だ起き上がることが出来なかった幽香が、目に涙をいっぱい溜めて苦しそうに魔理沙のスカートの裾を弱々しく引っ張っていた。
 あれから随分時間が経ったが、まだわさびの辛さが引かないようだ。流石『特製』と名がつくだけあって、辛味成分の引きの悪さはハンパない。

 そうとは知らない魔理沙はこの状況が上手く把握出来ていない様子だったが、この場の見た目から一つの答えを導き出そうとしていた。

「『怒り狂った博麗の巫女、ついに風見幽香を毒殺』か。明日の号外はいつも以上に嘘と誇張が盛り込まれたものが届けられるんだろうな」

 今魔理沙の頭の中ではネタに飢えた文が、獲物を待ち忍ぶハイエナの如く連日神社の前で出待ちをして、それを全力で追っ払う霊夢の姿が浮かんでいる。
 神社の前にはこの事件に興味を持ち出した様々な妖怪たちが集まるようになり、ヤミ金の取立て屋のように神社の建物の中に侵入しようと騒ぎ立てる。
 霊夢は結界を張って中に入ってこられないように抵抗するも、このままでは精神的に追いつめられる一方だった。

 決心した霊夢はこっそり皆の目を盗んで神社から逃亡することに成功するも、
 すぐに天狗やその他の妖怪に見つかってしまい、繰り出される言葉は毒殺についての質問攻め……。
 出歩くたびにその話題が尽きないことに嫌気がさした霊夢はついにどこへにも外に出歩こうとしなくなってしまう。

 そんな中やってきたのはかの楽園の最高裁判長、閻魔様。
 死神を先頭に群がる野次馬を掻き分け、閻魔様は優しく問いかけるように霊夢の居る建物の中に一声をかけると、
 一瞬にして張り巡らされていた結界が解けてしまい、静かに神社の中へと入っていく。
 数分後、頭に布を被せられて下に俯く霊夢を抱きかかえるように連れて閻魔様が出てくる。

 彼女は『全て終ったのよ』と大衆に向けてそう言い放つと、建物内に入られないように見張っていった死神と共に静かにその場を後にする。
 その後、一躍時の人と騒がれた霊夢は、ムショにて今なお犯した罪を償いながら一生を過ごすことになったのだtt――――



 ゴスッ!



「物騒なこと軽々しく言うんじゃないの。叩くわよ」
「言うより先に手が出てるぜ……」

 およそ五秒ほど妄想に耽っていた魔理沙が叩かれた頭をすりすりとなでる。叩くと言うより殴られた気がするのだが……。

「折角これからムショ暮らしの霊夢を慰める理由づけで酒を呑もうとしてたのに」
「何を想像していたのよ、あんた……」

 嫌な汗を流す霊夢とけらけら笑う魔理沙との間に、もう一人の人物がわって入ってくる。

「ちょ、ちょっと、いい加減私にかまってよっ! 水、水ぅー!」

 嫌な想像をされていたことにいささか呆れた霊夢であったが、一方またもや放っておかれかけていた幽香が、
 必死の思いで魔理沙のスカートを引っ張って訴え始めた。

 魔理沙は『おお、そうだそうだ、すっかり忘れてた』と言うと、幽香のほうへ顔を向けた。

「霊夢、こいつ水を欲しがっているぞ。一体何を食ったんだ?」
「特製わさび煎餅よ。なんでも、幽香はわさびの辛さが苦手ならしくて、わさび煎餅とは知らずに勝手に食べてのたうち回っているのよ」
「なるほど、わさびか……」

 魔理沙は手をあごに当てて少しばかり考えるポーズとりはじめた。そして、何かを思いついたような表情をするとすぐさま幽香へと声をかける。

「そうそう、わさびなら水なんか飲むよりもっと手っ取り早い対処法があるぜ」
「何よそれは、早いとこ教えて頂戴っ! 鼻が痛くてしょうがないわっ」

 幽香が魔理沙を急かす。今まで散々苦しめられていたのだから仕方ないだろう。

「えーっと確か、口から息を吸って鼻から吐けばすぐに辛くなくなるはずだぜ」

 鼻から辛いのを出すような感じで、と魔理沙は付け加えた。
 そういわれた幽香は一刻も早くこの辛さから逃れたいがために、早速言われたととおりにやってみることにした。

「わ、分かったわ。すぅぅぅぅ、すーーーー…………」
「どうだ?」
「あれ、鼻の奥からより一層アツいものがこみ上げてきt……」

 次の瞬間、幽香の顔が真っ紅に爆ぜた。




「ッア"ッーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」




 その声はたまたま博麗神社上空を飛行中だった天狗に聞かれ、
 翌日の文々。新聞の一面記事に『博麗神社にて謎の大絶叫!境内で密かに行われていた調教の実態!?』と言う名の記事を書かれてしまうのだった。





  ◇  ◇  ◇





「あっはっは、すまんすまん。吸って吐くのがそれぞれ逆だったな、いや面目ないぜ」
「何があっはっはよ! あなたのせいでえらい目にあったわ」

 人事だと思い罪悪感の欠片もなくけらけらと笑う魔理沙に対して、幽香が睨みを利かせて怒っている。
 わさびが嫌いだと言う彼女に対して、あの惨劇はあまりにも酷いものだったといえるだろう。

「あーいや、本当にすまなく思ってるさ。だからその侘びにこうして季節外れの花見宴会を開催しているんじゃないか」

 魔理沙の言うとおり、博麗神社境内ではようやく花散らせて落ち着きを取り戻していた桜の木が再び満開を迎えていた。
 今の季節が初夏なだけに、新緑の葉によって少しばかり緑色の割合も多いのだが、それでも桜の花の咲き具合は見事だった。

「って、これらを用意したのは私なんだけどね」

 花の咲いた原因はそういうことである。
 彼女が花を咲かせたのは桜の木だけでなく、そこらに自生していた花の咲く品種全ての植物にも花を咲かせていた。
 春と夏の花々が入り乱れる光景には、今はどこか懐かしさを感じる。

 そう、この光景はまさにあの花の異変そのものだった。
 今博麗神社の境内は、再びあの花の咲き乱れる異変の状態に逆戻りしてしまっているのだ。

「っていうか口ではそう言っていても、どうせただ自分が宴会したいだけじゃないの?」

 さらに幽香が的を付いたようなツッコミを入れる。

「何を今さら。魔理沙の性格から言ってそうに決まっているじゃないの」

 追加の酒瓶を持ってきた霊夢が二人の会話に割り込んでくる。

「失礼な奴らだな。おっと霊夢、悪いが酒を注いでくれないか?」

 そう言ってグラスを霊夢のほうへと差し出す魔理沙。
 先ほどから用意した酒の大半の消費しているのはこの魔理沙である。

 いくら最初の一杯目は幽香にお酌してあげていたとは言え、
 今の状態を見てしまえばどう見ても魔理沙は幽香の為に宴会を開いたようには見えなかった。
 そんな魔理沙の姿に二人は呆れてしまっている。

「あんたは少し自粛しなさい。しばらくはお酒は禁止」
「えー、それは酷いぜ」

 魔理沙がむくれる。
 花見で酒が呑めないとはこれ何て放置プレイ、と言いた気な表情と共に。

「『えー』じゃないわよ。放っておくと私たちの分まで飲み干しそうな勢いなんだから」
「ほんとほんとー」

 霊夢と幽香は口をそろえて文句を言う。今ばかりは珍しく意見の合う二人だった。

「ちぇー。なあ、それより見事なキャスティングだとは思わないか?」
「……いきなりなによ」

 急に話題を変え出す魔理沙。
 何故いきなりそんなことを言い出すのか気になる二人であったが、黙って魔理沙の言うことを聞いていることにした。

「歌で場を盛り上げさせるミスティアに、花見には欠かせない花を咲かせる幽香に、宴会の場を提供してくれる霊夢、そしてこの場を仕切る幹事の私だ」

 皆にこんな感じでキャスティングを施していったのは魔理沙だった。
 確かにキャスティングは見事なまでに宴会に適したものだった。

「嗚呼ー さくらさくらー さくら散るこの世界ー♪」

 その証拠に、今そこでミスティアがひたすら歌を歌っている。……いや、彼女の場合何も言わずとも勝手に歌っていそうだが。

 彼女が今歌っている曲は鎮魂歌だった。

 何故今このタイミングで鎮魂歌を選んだのは、実は彼女自身もよく分かっていない。
 彼女はただその場で思いついたことをそのまま歌にしているだけなのだ。

 以前、幽香とミスティアが対面した時、幽香はミスティアの歌う曲は自分の内から出てきているのではなく、幽かな声を歌にしているだけだと言った。
 そう幽香に告げられたミスティアであったが、そんな幽香の言うことなど全く信用しようとはしなかった。
 彼女は自分で歌詞を考えて、それを歌にしているに過ぎないと考えている。

 それを幽かな声を歌にしているだけなどと言われても、ああそうですかとはいくはずもないだろう。第一、幽香の言うことはどこか信用に欠ける。
 その後、ミスティアは歌をあまり歌うなと閻魔に説教されてしまうのだが、彼女にとってそんなことは既に記憶の彼方へと消え去ってしまっていた。
 鳥に説教など、馬の耳に念仏と同等である。

「散りゆく紫のさくらー 少しずつ罪が許されるー♪」
「確かにこのキャスティングはぴったりだったかも知れないわね。
 あそこでうるさく歌を歌ってるやつもあの鳥頭で自覚しているのか知らないけど、しっかり鎮魂歌を歌っているみたいだし」
「あれって鎮魂歌だったのか? てっきり私は「さくらさくら」のパクリだと思っていたぜ。けど、何で鎮魂歌だって分かったんだ?」

 魔理沙がそう思ってしまっても仕方がない。傍から見れば彼女はただうるさく歌っているだけに見えるのだから。

 では何故霊夢は分かったのだろう。
 尋ねる魔理沙の顔には興味の色が浮かんでる。
 理由を知ってか知らずか、幽香は何も言わずグラスに自分で手酌した酒を注ぎ、そっと口をつけた。

「前にも言ったことあると思うけど、桜は罪を吸収して時間を掛けて徐々に土へと還してくれるの」
「そんなこと前にも言ってたっけ?」

 前のことをすっかり忘れてしまっている魔理沙はきょとんとしてしまい、頭をかいた。

「言ったわよ。もう、魔理沙も鳥頭なんだから。……で、その影響で花咲く桜には罪を犯した霊が集まりやすいのよ」
「確かに、ちょっと幽霊が出てきているみたいね」

 今まで黙っていた幽香が口を開く。普通の人間には見ることの出来ない幽霊を、幽香には見えているようだ。
 それを普通の人間ではない普通の魔法使い、霧雨魔理沙も気が付く。

「そう言えば、そうだな」
「でね、罪を吸収された幽霊の活動が何だか活発じゃないのよ。本当なら罪がなくなって、もっと喜ぶもんなんだけどね」
「つまりその原因はあの歌にあると霊夢は言いたいのね?」
「ほう」

 核心を突いた幽香の言葉に霊夢は静かに頷いていたが、何だか釈然としていないようだ。

「まあそういうことなんだけど、ただ、あの鳥風情がちゃんとした鎮魂歌なんて歌えるんだなぁと思ってね」
「確かにな。にわかには信じがたいぜ」
「さっきから何の話をしているのかと思えば……。歌う歌を選ばないってのがプロってもんなのよ」

 いつの間にかミスティアが霊夢たちの近くへとやってきていた。
 流石に長い間歌い続けて疲れてしまったのだろう。彼女の手は喉元に宛がわれ、少しいがらっぽそうにしている。

「ところで、水をもらえない? 喉が渇いちゃったんだけど」
「残念だがここには酒しかないぜ」
「お酒はいらない。私が欲しいのは水なの」
「ま、酒でもいいじゃないか。呑め呑め」

 置いてあったグラスに勝手に酒を注ぐと、無理やりミスティアに酒を差し出す。
 自分が呑めない腹いせに他人に呑ませてやりたくなったらしい。

「いらないってば。お酒なんて呑んだら喉に影響が……むぐっ!」

 嫌がるミスティアに無理やり酒を飲ませる魔理沙。
 下手をすれば閻魔に裁かれるようなことに匹敵する行為である。

「ぷはっ。…………あははー、なんか身体ふわふわしてきて凄く気分がいい~。じゃ、ここらで二曲目「お花見妖怪『デストロイ』」いきま~す♪」
「おおっ、なんて単純なやつだ。もう酔いが出てきたか。いいぞいいぞ私も歌うぜ」

 ミスティアは足取りふらふらと鳥だけに千鳥足で皆の前に立つと、
 そのまま二曲目の歌を歌い始めた。魔理沙も立ち上がるとその横に並んで一緒になって歌いだす。
 すると、周りに居た霊たちは突然混乱したような様子を見せ出した。

 曲名から聞いても分かる通り、どうやら今度の曲は鎮魂歌ではないようだ。多分ジャンル的にはデスメタ。
 そのため、霊たちにとってこの思い思いの歌はただの雑音でしかなく、直に曲の影響されてしまっているらしい。

 昔、外の世界の人々はどんなものにでも魂が宿っているのだと信じ続けられていた。
 それは単なる物理的な『物』だけにでなく、言葉自体にも魂が宿り、言葉一つで人の人生が左右することが出来るとまで言われていた。通称『言霊』である。

 つまり幽霊達は、その彼女らの歌う言霊の影響を受けてしまっているのだ。
 さらに言霊は歌にされると普通に話す時より、より感情的になるため影響力も強い。
 ましてや元々ミスティアは歌で人を惑わして狂わすことが出来る能力を持っている。幽霊とはいえ、元は人間だ。多少なりとは影響はあるだろう。
 そんな彼女に歌を歌わせるということは何が起こるか分からない、非常に危険な状態であると言えるのだ。

 だから、あの時閻魔は彼女に無闇に歌ってはならないと忠告をしたのだった。
 まあ、彼女にとっては全くの耳障りな言葉としてしか受け止められなかったが。

「ああ、また騒がしくなりそうね」
「いいじゃない、いつだって宴会は騒がしくなるものよ」

 今のことより後片付けの方が気になって仕方ない霊夢は、事前に打ち合わせもしていないはずなのに『何故か』息ぴったりで歌う二人を見て言った。
 酒を呑みつつ霊夢の受け答えをする幽香はどこか楽しそうな表情をしていた。

「騒がしくなるのはいいんだけどさ。後で誰が後片付けするのか知ってる?」
「さぁ、知らないわねぇ」

 霊夢が言ったように、桜は罪を吸収して時間を掛けて土に還してくれる。
 そのおかげで罪を持った幽霊が集まってきてしまうのだが、罪が吸収されていくのはなにも幽霊達だけではない。

 そう、桜はここに居る彼女達の罪も吸収してくれるのだ。
 大した理由もなく幻想郷に住む彼女達が博麗神社へと集まってしまう本当の理由は、
 無意識のうちに自分の罪を吸収してもらおうとする、せめてもの罪滅ぼしなのかもしれない。

 花を咲かせた桜は、より一層の罪を吸収してくれる。吸収された罪は花びらに蓄積されて無害なものへと消化された後、地面へと舞い落ちる。
 恐らく、罪深い死者の霊達が跋扈する彼岸にある桜の花が紫色なのは、罪の色が可視出来るほどに溜まりすぎているのが原因なのだろう。

「あんたのせいで私はまた面倒な桜の花びら掃除をしないといけなくなってしまったわ」
「まあまあ、折角咲かせたんだから、そんな後のことを言ってないで今年最後のお花見宴会を楽しまないと損よ?」
「あら、あんたに頼めばいつでも花見が出来そうだけどね」
「そういうわけにもいかないでしょ。桜だってちゃんと休ませないと可哀想だわ。あんなに罪を溜め込んで……」

 桜がなぜ罪を吸収するのかは、実は良く分かっていない。
 一説では桜にとって罪とは、水や養分に近いものだと言われている。

 だが、だからと言って水を多く与えすぎてしまってはいつかは根腐されしてしまう。
 それは罪にしてみても同じこと。いつかはおかしくなってしまうだろう。

「分かっているわよ、ちょっと言ってみただけ。さ、宴の本番はこれからね。今日は呑むわよ」
「私もとことん付き合ってあげますわ」

 本来喰う喰われる、退治する退治されるの関係であるはずの人間と妖怪がお互いにお酌をしあっている。
 非常識かつ平和に満ち満ちた美しい光景だ。

 ここにいる少女たちの罪は少しずつ、ほんの僅かずつではあるが、次第に解消されつつあった。
 彼女らは何となく、胸の奥にあった重苦しいものがすっと晴れやかになってきたのを心のどこかで感じていた。





 ◇  ◇  ◇





 その様子をこっそり覗き見ていた黒い影。

「あややー、ああやってお酒で釣っておいてそこから徐々にハッテンしていくのね。くわばらくわばら……」

 とだけ言い残すと、天狗はその場をそそくさと飛び去った。せっかく吸収された罪も意味なく、同時に盗撮という罪を犯していたことも知らずに。
後日、白黒のボロ布のようなものが滝つぼへと真っ逆さまに落ちてゆくのを大将棋をしていたにとりんともみーによって発見されたのだった。



というわけでゆうかりんはやられてもめげない強い子な話でした。
弱いものをいじめても、強いものにはいじめられてしまうゆうかりん可愛いよ。

最後に一言。
白黒の二人、自重しろっ
おひる
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コメント



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ゆうかりんほほえましいよゆうかりんw
なんか地の文が語りかけられてるみたいで、最初一人称と勘違いしたんだぜ。誰の視点なんだろこれって。
とかくこれは日常だねぇ。のんべんだらりとした。
面白かったけど、ちょっと話題があれこれ動いて筋が散漫だったかな? ってのが気になったところかな。
5.60名前が無い程度の能力削除
ちょっと纏まりが無いかな
12.90名前が無い程度の能力削除
しかしまあ悪くない。