Coolier - 新生・東方創想話

穀物神の約束 ~秋と冬の狭間の日~

2008/11/23 13:47:44
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※この話は「穀物神の約束 ~秋と冬が交わる日~」(作品集49)の続編に当たります。
※お手数ですが、この話を読む前にそちらを読んでおいてください。そう長い話ではありませんので。
※前作は短いですが、この話は長いので、それなりに時間に余裕を持って読んでください。
※前の話とは雰囲気も異なります。
































『秋と冬 交わらざらん 時ならば 私は待とう 狭間の時で』



―秋と冬

―決して交わる事のない

―時間であるならば

―私はずっと彼女を待っていよう

―その狭間の時間、秋の終わりと冬の始まりで…。





今日、幻想郷に雪が降った。
今は晴れているけど、夜の間はずっと降っていたらしく、現在幻想郷はうっすらと白く染まっている。
だけど、紅葉で紅く染まっている部分も多く見られる。本当に1センチくらい積もった程度だ。
木々を彩る紅葉は、まだ私たちの季節だという事を教えてくれる。冬と言うには、まだちょっと早い。

…だけど、私はそんな雪を待ち望んでいた。

だって、今年の冬の終わりに、約束したから。

ずっと待っている、と。

秋と冬が混じるその日、私は妖怪の山、この場所で待っていると。





「お姉ちゃん、今年も無駄に頑張るなぁ…。」

私は今、妖怪の山の中腹ほど、舞台のように大きな岩が突き出た場所に座っている。
其処から見下ろす、白と紅に染まった幻想郷。
白い部分は雪だとして、紅の部分は紅葉を司る神、私のお姉ちゃんの仕業である。

全く、お姉ちゃんはずるい。こんな大々的に秋の到来を告げれば、それはそれは目立つことこの上ない。
紅葉の神であるお姉ちゃんは、視覚で人を楽しませる。
私は豊穣の神なのだから、味覚で人を楽しませる。
…どっちがより秋を感じやすいかなんて、言うまでもない。お姉ちゃんを褒めるのは癪だけど。
因みに当のお姉ちゃんは、今日は知り合いの神様と遊びに出かけている。
誰だかは聞かなかったけど…。…こっちには来ないよね、多分。

でもまあ、あれよね。
紅葉を見るのは生きていくのに必要ないけど、食べる事は絶対必要よね。
うん、結論。やっぱり私の方が凄いわよね。
だから私は収穫祭に呼ばれたりもするし。お姉ちゃんにはそんな事ないからね。

そうやって、私が優越感に浸っていると…。


急に、あたりの気温が一気に下がったような気がした…。



「…冬の妖怪に秋に出て来いなんて言う悪い子は、あなたかしら?」



…ああ、たった半年ちょっと、まだ1年も経ってないのに…。
とても懐かしい、それでいて、聞きなれているような不思議な感じがする。

「そうね。でも、本当に出てくるあなたもあなたじゃないかしら?」

あの時は、彼女とろくに話も出来なかったけれど…。
…なんだか、こうやって普通に話す事が出来るのが、たまらなく嬉しい。
何となくだけど、彼女と同じ立ち位置で会話が出来るように感じるから。
私なんかよりずっと神様らしい、冬の神とも呼べる彼女と…。

「くすっ、そうかしらね。
 だけど、そんな弱い妖怪は、神様がちゃんと守ってくれるんでしょ?」

相変わらずの、ちょっと人を小馬鹿にするような意地の悪い笑みだ。
だけど何故か、今の彼女の笑みには不快な物を感じない。
それは私が、あの時本当の彼女のを、少しでも知る事が出来たからだろうか…。

それにしても、弱い妖怪だなんて、わざと言ってるのか本気で言ってるのか…。
寒気を操る能力、自然の力を操る能力を持つ者が、弱いはずないというのに…。
それは、私達と同じ神に等しい能力だという事を、彼女自身気付いていないのかな?

「ええ、神様は信じてくれるものはきっと助けてあげるわよ。
 あなたは秋の神様を信じて、こうして出てきてくれた。だから、秋の神様はきっとあなたを守ってあげる。」

彼女が自分の能力に気付いていようといなかろうと、秋ではあまり力を発揮出来ないのは真実。
だから、私は彼女を守らなくちゃいけない。
彼女に、秋を嫌いになって欲しくない。
私の事を、嫌いになって欲しくないから…。


「…ありがとう、そして久しぶりね、穣子。」


去年の冬の終わり、最後の最後に見せてくれたあの笑みを、彼女は浮かべていた…。



「…久しぶり、レティ。…お帰り。」





 * * * * * *





「さて、レティ。」

8ヶ月ぶり、私やレティが生きてきた年数で考えれば、ほんの僅かな時間だけれど…。
それでも、私はこの日を待ち望んでいた。レティにもう一度会える、この日を。
私は今日のために色々と考えてきたのだから。
レティに秋の良さを知ってもらうために、今日は精一杯秋の魅力を伝えないと。


「まずは何が食べたい?」


…私がそう言うと、何故かレティの表情が固まってしまう。
あれ?私そんなおかしな事言った?
秋と言えばやっぱり食欲の秋。だから、秋の魅力を伝えるのには食べ物が一番だと…。

「…あのね穣子、私が冬の妖怪だって事、早速忘れたかしら?」

ため息混じりにそう言うレティ。
おかしな事を。そんなの忘れてるわけないじゃない。
あなたが冬にしか外に出る事が出来ない妖怪だと判っているからこそ、こうやって…。

「…あっ。」

そこで私は気が付いた。
ああそうだ、冬しか外に出れないって事は、即ち…。
…秋何を食べるのか、と言う事を知らないんだ…。

「ご、ごめんなさい!!」

ああ、こんな最初から失敗するなんて!!
私はただただ必死に頭を下げる。
盲点だった。こんな初歩的な所で躓くなんてぇ!!
こんなんだから54位になっちゃうの私は!?

「いや、別にそこまで謝らなくてもいいんだけど…。
 …それに私、食べ物はちょっと…。」

…What?レティさん、今なんて言いました?

「レ、レティ?折角逆冬眠から起きたのに、何も食べないなんて身体に悪いわよ?
 ま、まさか拒食症!?そんなの絶対に駄目!!生きてるんだから食べなきゃ駄目よ!!」

いきなり窮地に立たされる私。
まさかいきなり「食べ物は駄目」なんて言われるとは思わなかった。
レティは私に比べれば身長も高いし体格もいいから、そんなこと思いもしなかったけど…。

で、でも引き下がっては駄目よ穣子!!私は豊穣の神、秋の食べ物の神!!
折角秋の味覚を存分に楽しめる計画を色々用意したんだから!!今までの苦労を無駄にしては駄目!!

「お、落ち着いて穣子。別に食べる事が嫌いなわけじゃないわよ。」

興奮する私を両手で制すレティ。
…すー、はー、すー、はー。…よし、落ち着いた。

「…取り乱してごめんなさい。だけど、だったら何で駄目なの?
 「食欲の秋」って言う言葉があるくらいだから、食べ物は本当に今が一番美味しいわよ?」

今度はちゃんとそう聞いてみる。
…と、何故かレティは「食欲の秋」という単語を聞いたあたりから、顔色が悪く…。


「私、今ダイエット中なの。」


…はい?

「…それ、8ヶ月も碌に食事をしていないであろう妖怪が言う台詞なの?」

それに、どう見たってダイエットが必要な体系には見えないんだけど…。

「…実はね、最近良く「ふとましい」って言われるのよ。」

「日本語的にはおかしいけど、意味は判るわ。」

多分、太ってるとまではいかないけど、普通とそれの中間くらいかしらね。
ぽっちゃり系、というのが一番適してるかな?

「お陰で私がふとましいキャラだってちょっと定着気味なのよ。」

「…刷り込みって怖いわね。」

「だから、ダイエットしてるのよ。」

「だからって、もう必要そうには見えないけど…。」

「これでも結構頑張って痩せたのよ?きっと当たり判定も小さくなってるわ。」
 
「ちょっとギリギリな台詞だけど、まあ言いたいことは判るわ。」

「それでも、冬の異変以降ろくに出番がないから、誰も気付かなくて…。」

「…そうなんだ…。」

「…色々、食事制限したりもしてるのよ…。」

「………。」

「だから、あまり食べたくないの。食べたらまた太るから。」

「…ごめんなさい…。」

「食べたらまたふとましくなっちゃうの。」

「ごめんなさい。」

「食べたらもう完全にそういうキャラが定着しちゃうのよ。
 次出てきても同じあたり判定だったら、もう抜け出せないのよ。
 ああ、私は永遠にそういうキャラだわ。完全にネタキャラになっちゃうわ。
 あはははははは、あはははははははははは!!!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!
 レティはふとましくないから!!大丈夫だから!!お願いだから正気に戻ってぇ!!!!」

焦点の合わない目で不気味な笑い声を上げるレティ。
先生、どうやら私は踏んではならない地雷を踏んでしまったようです。先生って誰?人間の里の上白沢慧音?
幾ら大人びてるとは言え、やっぱりレティも女性です。体系は気にしているようです。
えー、これを見ている皆さん、レティをふとましく言うのも程ほどにね?

ああ、それにしても、レティにこんな一面があるとは思わなかった。
8ヶ月前に逢った時には、クールで優しいお姉さん、という感じだったんだけどなぁ…。
…地雷を踏むって、恐ろしいことね…。

結局、レティはその後5分ほど焦点の合わない目で笑い続けた。










「…はー、はー…。」

「…落ち着いた?」

「ええ、大分。ごめんなさい取り乱しちゃって…。」

「私こそ触れちゃいけないところに触れてごめんなさい…。」

お互いに頭を下げる。
もうなんだかさっきから謝ってばかりね。

「でもまあ、そういう事なの。だから、出来れば食べ物関係の事は避けて欲しいわ。」

「…うん、そうさせて貰う。」

流石にあんなレティを見た後で、なお食べ物を勧めるような事は私には出来ない。
だけど、じゃあどうすればいいのかなぁ。
今日私が立ててきた計画は、殆どが食べ物関係のこと。
しかしレティにそう言われてしまうと、計画の9割は潰されてしまった事になる。
うーん、いきなり厄いなぁ。近くに雛でもいるのかなぁ。


「ふふふっ、詰めが甘いわね穣子。やっぱり秋はあなたじゃなくて私の季節なのよ。」


「厄~♪厄い~♪あなたも私も厄循環~♪」


………。
えっと、きっと気のせいよね。気分が滅入りすぎて幻聴が聞こえるようになっただけよね。
今此処にいられると最も腹が立つだろう姉と、まさか本当に厄神がいるなんて事、ありえないよね。
そうね、全部幻聴。神だからって幻聴の一つや二つあるわよ。

「…さ、レティ。行きましょ。」

まあ、計画は後で練り直すとして、こんな所で何時までも立ち話しているわけにもいかないわよね。

「…穣子?あなたの後ろにいr「私の後ろには誰もいないわ。あなたも幻覚が見えているのね。早くお医者様に診てもらいましょう。」

確か人里に降りてる時に、迷いの竹林に永琳という腕のいい医者だったか薬剤師だったかがいると言うのを聞いている。
そうね、秋の観光の意味も込めて、折角だから迷いの竹林に行こうかな。
その序にちょっと診察してもらって、後は秋を楽しめば…。

「穣子、いい加減にしないとお姉ちゃん怒っちゃうよぉ?」

この場を立ち去ろうとした私の肩を、がっしりと掴む毒々しい色のリボンが巻かれた腕。
ああ、最近の幻覚には物理的な作用もあるのかしらね。とっても厄い幻覚ね。

「これ以上厄い事になりたくなかったら、静葉のいう事を聞いた方が賢明よ?」

…ごめんなさい、諦めます。

「…何で此処にいるのよ…お姉ちゃん…雛…。」

知り合いの神様って雛の事だったのか…。確かに神様だけどさぁ…。
私たちは妖怪の山の麓に住んでて、雛は山に住んでて…。
家が近いし神様同士と言う事もあるから、それなりに仲はいいんだけどね。
雛と遊びに出ているなら、妖怪の山にいる可能性も否定は出来ないけど…。

「朝から穣子が雪見て嬉しそうだったから、ちょっと雛に協力してもらって…ね。」

「私が近くにいれば、神様だろうとなんだろうと不幸になれるから。」

にこにこと全く悪びれた様子もなく笑う神様二柱。

この腹黒姉がぁ!!
確か冬の終わりにも勝てないじゃんけん勝負持ちかけてたよね!?
静かなキャラというより、これはもう確実に陰険なキャラだよね!?
ま、まさかそれがばれるのが嫌だったから私に1ボスの座を譲ってたんじゃ…!!

「雛、一生分の厄を穣子にプレゼントしてあげて。」

「いやああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

まさかのお姉ちゃんのテレパシー攻撃。
一応神様姉妹だから、言葉無しに何か通じる事もあるかもしれないけど…!!
そんな無駄なところで神通力発揮しなくてもいいじゃん!!
て言うか神様の一生分の厄ってどれだけの量!?厄だけで死ねる気がするんだけど!?

「…安心しなさいな、私は厄を溜め込むだけだから。そんな意識して他人に厄を流す事は出来ないわよ。」

そう言って笑顔を作る雛。
いや、それはそうかもしれないけどね。
厄を引き取るのが厄神の仕事であって、厄を流す事は専門外のはずだからね。
だけど…。

「とりあえず手を離して、雛。」

そうやって肩を掴まれたままだと、普通に私は厄塗れになるわよね。
そう言えばお姉ちゃんはずっと雛の傍にいるはずなのに、何で厄が伝染ってないんだろう。

「あら、酷いわね穣子ちゃん。友達に対して手を離せだなんて。」

笑顔のままそう言う雛。すみません今無性にあなたとの縁を切りたくてしょうがないです。
あれかな、今はわざと私に厄がいくように、溜め込む力を弱めてるだけかな。
だとしたら、雛も相当腹黒いなぁ。お姉ちゃんの性格が伝染ったのか、それとも元々そういう性格なのか…。

「…で、穣子。この方達は?」

今まで忘れられていたレティが、困惑した表情で私に尋ねてくる。

「赤の他人よ、レティ。」

「穣子、そんな事言うとお姉ちゃん、一生外に出られない身体になるほど穣子を殴っちゃうかもよ?」

「穣子ちゃん?そんな事言うと厄を溜め込んだ五寸釘で刺しちゃうわよ?ぷすっと、人思いに。」

「…私の姉の秋静葉と、その友人の鍵山雛よ…。」

背後から感じる尋常でない殺気に、心を折らざるを得なかった。五寸釘が地味に痛そう…。
しかも恐ろしいのが、二人の声が私には届くけどレティには届かないであろう、絶妙な大きさにコントロールされていた事。
今更だけど、私の姉とその友人ながら恐ろしいなぁ…。

「今日は、レティ・ホワイトロックさん。秋静葉と申します。
 今年の冬に妹がお世話になったみたいで、ありがとうございました。」

「私は鍵山雛。厄を集める厄神をやっています。」

必要以上に丁寧に挨拶するお姉ちゃんと雛。
ああ、恐ろしい。素晴らしき猫かぶり。
妹を陥れる紅葉の神と、厄を溜め込む厄神…。
…あれ?もうこれ最凶のコンビじゃない?

「あら、穣子と違って丁寧な挨拶ね。
 レティ・ホワイトロック。冬の妖怪よ、よろしく。」

しかもしっかり騙されてるし。
もう今日からこの二人の見方を変えないと駄目ね。

「…で、結局何しに来たのよ二人とも。」

話を戻そう。
私とレティの時間を邪魔してまで此処に来たんだから、それなりの理由が…。

「私たちも仲間に入れて。」

…別になかった。

「お姉ちゃん、何そんな子供みたいな事…。」

「別にいいわよ?折角だから、人数は多い方がいいからね。」

レティイーーーーッ!!!!

「あら、じゃあ決まりね穣子ちゃん。…これからとっても厄い事になるかもね…。

「雛!?今ボソッと何言ったの!?」

「あらあら、お友達とお姉さんにそういう態度は感心しないわよ?」

「普通の姉と友達ならね!!でも何か企んでそうなこの二人じゃどうしてもそうなるのよ!!」

「何言ってるのよ、そんな変な事考えてないってば。」

「…ほ、本当に…?」

「ええ、大丈夫。さあレティ、私が秋の事も色々と教えてあげるわ。」

「それが狙いかァーーーーッ!!!!」

お姉ちゃんの魂胆理解した!!
秋の食べ物を教えようとしていた私の計画を潰して、別の秋…というか紅葉の事をレティに教える気か!!
陰険過ぎるだろお姉ちゃん!!多分誰もお姉ちゃんがそういうキャラだと思ってないだろうに!!

「やっぱり却下ああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「あら、どうしたの穣子ちゃん?大声出してはしたない。」

「雛ちょっと黙ってて!!お姉ちゃんレティを洗脳しようなんて事許さないわ!!」

「そんな事考えてないわよ。私はただ、私の知ってる秋を知ってもらいたいだけよ。」

「それ私の役目だから!!て言うか完全に私のやろうとしてる事だから!!」

「あら、姉妹だから考えが似てるのは当然よね。」

「否定はしないけど根本的なところで間違ってる!!私のやる事横取りしないでよ!!」

「穣子がそれを出来るならね。さっき食べ物は駄目って言われなかった?」

「ぐっ…!!」

言葉に詰まる。そう言われたのは真実だから。
半分くらいは雛の厄のせいかもしれないけど、レティが実際にそういう状況であるのも確か。
さっきみたいに半狂乱になって欲しくはない。ない、けど…。

「だ、だったら秋の健康的な食べ物でいってやるわ!!
 食べてこその秋!!食べても太らなければ全く問題ないわよね!!」

そうだ、食べても問題ないならそれこそ問題ないんだ!
何も食べ物全部が全部食べたら太るわけじゃない。料理次第では全然問題ないわよね。
レティは食事制限してるみたいだから、本当はきっと色々食べたくて仕方ないはず。
そうよ、やっぱり秋は食べ物よ!食欲の秋よ!

「そう来るとは予想外ね。だけど、私もそれは譲れないわ。
 秋は紅葉よ。美しいものを見て楽しむ事は、この世に生きる者全ての共通理念なのよ。」

「否定はしないわよ!!私とお姉ちゃんは2人で1つの秋の神なんだから!!
 だけど人のやる事横取りするような神に情けを掛ける気はないっ!!」

「あらあら、姉妹なんだから考える事は似てて当然でしょ?
 私だって紅葉の事を知ってもらいたいわ。だって食欲の秋より紅葉の秋よね。」

「豊穣の神の目の前でそれを言うかぁ!!」

「だって私は紅葉の神だもの。それに味覚より視覚の方が誰にでも判りやすいわよねぇ。」

「よっしゃいい度胸だァ!!今この場で豊穣と紅葉とどっちが優れてるか思い知らせてやる!!」

「あらあら、妹が姉に勝てると思っているのかしら?」

「五月蠅い!!この幻想郷では姉より妹の方が強いのよ!!」

「じゃあ私がその理念を壊してあげる。妹に虐げられてるお姉ちゃん全てに代わって成敗してあげるわ。」

「虐げられてるの私だけどねどう考えても!!」

この陰険な姉を叩きのめすべく、私は臨戦態勢をとる。
ちょうどいい、8ヶ月前に冬の山に放り出されたあの恨み晴らしてくれる!!
えっ?そうじゃなきゃレティに逢えなかった?
そんな事は今はどうでもいいの、何でもいいからお姉ちゃんと殺り合う理由が欲しいだけだから。
第何回か忘れたけど、とにかく此処に秋姉妹戦争開始を宣言…。

「…あの、ちょっといいかしら?」

と、お姉ちゃんとの言い争いで会話から外れていたレティが、臨戦態勢の私たちに声を掛ける。

「何?レティ。今ちょっとこの陰険なのを叩きのめさなくちゃいけないから手短にね。」

良かったわねお姉ちゃん、まだちょっと紅葉は続きそうよ。
お姉ちゃんの血でその辺の葉っぱを染めてあげるから。

「いや、とりあえず姉妹喧嘩は後でやってほしいわね。」

「それは同意ね。穣子ちゃんも静葉も落ち着きなさいな。」

呆れたといわんばかりの表情のレティと、いつの間にかその横に移動して同じ表情を浮かべる雛。
そんな二人を見ていると、嫌でも落ち着かざるを得ない。
雛はともかく、レティは今日の主賓。レティがそう言うなら、剣は収めないといけないわね。持ってないけど。

「…判ったわよ。それで、どうしたの?」

同時に臨戦態勢を解く私とお姉ちゃん。無駄なところで姉妹のシンクロ発動。

「どうも話が纏まってないみたいだから、一つ聞いて欲しいお願いがあるんだけど…。」

そうズバッと話が纏まってないとか言わないで欲しいなぁ…。
まあ、纏まってないのは事実だけど。

「レティのお願いなら何でも聞くわよ。尤も、出来る範囲での事だけど。」

「ありがとう。…貴女もそうだったけど、もう一人逢いたい子がいるの。紅魔館前の湖まで連れてってくれる?」

紅魔館前の湖?
紅魔館って、確か吸血鬼が住んでるって言う紅い館の事よね。又聞きだけど。
神とて出来れば近づきたくない場所だけど、その前の湖だって言うなら別にいいか…。

「まあ、それは構わないけど…。そんなトコにいるなんて、どんな子なの?」

湖に住んでるんだから、水棲の妖怪とかそのあたりかな?
なんにせよ、そんなところに住んでるなんて変わってるなぁ、と思う。
わざわざ好き好んで吸血鬼の住む館の近くに住む必要もないだろうに…。
別にちょっかい出さなければ何の問題もないだろうけど。

「…そうねぇ。まあ、ちょっと変わってるところはあるけど…。」

そう言って、レティは身体を浮かせ、石舞台から飛び降りる。
私達3人もそれに続き、紅魔館へ向けて飛び始める…。

「こんな事言ったら、あの子は何て顔するかな…。」

そう語るレティの顔は何処か嬉しそうで、そして同時に寂しそうな感情が混ざっているような気もした。
後で知る事になるけど、それはきっと、妖怪と妖精との差を感じての事なんだろう…。
レティは本当に、その子の事を大事に思っているからこそ…。



「歳の離れた妹か、或いは出来の悪い娘かしらね。」



くすりと小さく笑みを零し、後は黙って、私達は並んで幻想郷の空を飛び続けた…。





 * * * * * *





特に障害物もないので、程なくして紅魔館前の湖に到着。
霧が立ち込めることが多いらしいけれど、今日はそれも少なく視界は良好である。

「さて、何処にいるかしらね。」

レティは辺りをきょろきょろと見回す。
私達も一緒に探したいところだけど、生憎探し人が誰なのかはレティにしか判らない。

「…あっ。」

と、割とすぐにレティが小さく声を上げる。
私もその目線の先に目を向けてみると、1人(?)の緑髪の妖精がふわふわと、湖の上をゆっくりと飛んでいた。

「大妖精。」

身体を浮かせ、湖の上を飛びながら、レティはその妖精へと声を掛ける。
大妖精、と呼ばれた妖精もこちらに気付いたらしく、顔をこちらに向ける。
…そして、レティの姿を見た瞬間に、驚愕の表情を浮かべた。

「れ、レティさん!?何で!?まだ冬にはちょっと早いですよ!?」

わたわたと慌てる大妖精。その姿が結構可愛らしいなぁ、と思う。

「ちょっと色々あって早く起きただけよ。
 それより大妖精、あの子は何処にいるかしら?」

おや、探し人とはこの子の事ではないみたいね。
その探し人の場所を知っているということで、探していた可能性はあるけれど。

「あ、はい。もう少ししたら来ると思いますけど…。
 あの、レティさん。その方たちは…?」

と、私達に目線を移す大妖精。
まあ、レティと知り合いでも私達とは初対面なのだから、当たり前といえば当たり前だけれど。

「ああ、紹介するわ。
 帽子を被ってるのが穣子、冬の終わりにいろいろあって、それ以来の友達よ。
 紅葉の髪飾りを付けたのが、そのお姉さんの静葉。
 リボンを付けた黒いのは雛、穣子と静葉の友達よ。」

簡潔に私達の事を紹介してくれるレティ。
面と向かって友達と言ってくれるのは嬉しいけれど、ちょっと気恥ずかしいなぁ…。

「そうですか。あの、初めまして、私は大妖精といいます。大妖精か大ちゃんと呼んでください。」

丁寧にお辞儀をしながら自己紹介する大妖精、もとい大ちゃん。
…うん、名前については突っ込んではいけないのだろう。だから大ちゃんで。

「秋穣子よ。これからよろしくね、大ちゃん。」

「秋静葉、妹共々よろしくお願いします。」

「…厄いわ。」

…私達が自分で自己紹介しなおしたところ、何故か雛だけが目を輝かせる。
これは…あれだ、欲しい玩具を目の前にした子供か、獲物を見つけた変態の目だ。
差があり過ぎないか?という突っ込みは禁止。

「素晴らしい厄だわ。最上級の厄だわ。天然記念物級の厄だわ。
 大妖精だったわね、あなた、私の家に来ない?」

いきなり爆弾発言。言いたい事は前半部分で判るのだけど、後半の言葉は明らかに間違ってる。

「…えっ?えっ?」

「あなたの厄があれば私はもう何も要らないわ。厄神辞めてもいいわ。
 こんな凄い厄を持った子は初めて見たわ。よっぽど周りの環境が苦難だらけなのね。」

困惑する大ちゃんに、変態以外の形容詞が見つからない目で迫る雛。
私達には判らないけれど、どうやら大ちゃんは物凄い厄を抱えているそうです。
だけど雛、厄神辞めたら厄の意味なくならない?

「えっと、その、あの…。」

「私と貴女で素晴らしい厄ライフを過ごしましょう?大丈夫、生活費は私が全額保証するから。
 こんな極上の厄を持った子に出会えるなんて、ああ私はなんと恵まれた厄神なのかしら…。」

はぁはぁと息遣いを荒くする雛。これはもう変態という言葉すら生ぬるくなってきた。
そう言えば、厄神って雛だけなのかしらねー。神様だから1人しかいないのかなー。
とりあえず、目の前の友人の奇行から目を逸らすべく、私は余計な事だけを考えることにした。

「やっ、その、困ります、私には心に決めた人が…。」

「そんな事はどうでもいいのよ。私は貴女が傍にいればいいだけ。
 最近山に住み着いた神とか奇跡の風祝とかのせいで、全然厄が萃まらなかったのよ。
 商売成り立っていなかったのよ。こんな厄づる(金づるみたいな意味)見逃す手はないわ。」

「い、意味が判りません!きゃっ、へ、変なところ触らないでください!」

「私に全てを任せなさい。大丈夫、痛くないようにするから…。
 ほら、貴女の持ってるもの全てを私に頂戴…。」

もう変態とも柔らかな恐喝とも取れる意味不明な会話。
私もそろそろ止めた方がいいのかもしれないけど、何となく止める気になれない。
と言うのも、狼狽する大ちゃんの姿をもうちょっと見たいのと、雛の奇行がどこまでエスカレートするかがちょっと興味あるからだ。
お姉ちゃんもレティも見てみぬフリをしているし、きっと同じ事を考えているのだろう。
と言うわけで、みんな共犯だからもう少し見てみぬフリをしておこう。

「ああっ…!!だ、駄目…!!」

「ほらほら、我慢しなくていいの。早く頂戴…。」

「だ、駄目です、駄目ですってばぁ…!!」

「大丈夫、落ち着いていれば何も怖くないから…。」

「あふあぁ…!!」

今おかしな展開を想像した人は、とりあえず閻魔様のところに裁かれに行って来なさい。
…一応状況を説明しておくと…。
雛は大ちゃんの後ろから首に腕を回し、そのまま両肩に手を置いている。
きっと厄が抜け出す時は脱力感か何かに見舞われるのだろう。だからあんな声が出るのだろう。
間違っても危ない光景ではない。誤解だけはしないように。
尤も、このまま放っておいたら本当に危ない展開になってしまいそうなので、そろそろ助けてあげるべき…。





「くぉらぁーーーー!!!!そこの変態ーーーー!!!!大ちゃんから手を離せーーーー!!!!」





ゴスンッ、と巨大な氷の塊が雛の頭に直撃する。形が釘に見えなくもないから、まさにゴス…いや、なんでもない。
とにかく、その氷の塊は雛の意識を削り取ったらしく、そのまま湖に落下する雛と氷。
…まあ、どうせあの程度で死ぬとは思えないし、変態にはちょうどいい制裁かもしれない。
雛は後で回収するとして、ひとまず私は氷の塊が跳んできた方へと目を向ける。

そこには、背中に氷の羽が生えた、見るからに寒そうな妖精が1人…。

「大ちゃん!!大丈夫!?変なことされてない!?」

「チ、チルノちゃん、落ち着いて、私は大丈夫だから。」

チルノ、と呼ばれた妖精。氷の妖精だから氷精と言うべきかな?

「ん…?こいつらは?今の変態の仲間!?だったらあたいが全員相手してやる!!」

と、何故か私達に敵意を向ける氷精。
誤解されてもおかしくはない状況だけど、いきなりとっかかって来るのもどうかと思うんだけど…。
と言うか私達をあの変態と一緒にしないで。

「いや、私達は…。」

「チルノ、大丈夫よ。この子達は私の友達だから。」

弁解しようと思った私の言葉を遮り、レティがそう言う。
そしてチルノはレティの方へと振り向き、最初の大ちゃんと同じように驚愕の表情を浮かべた。

「れ、レティ…?ど、どうして…?」

「ふふっ、今年はちょっと早く出てきちゃったわ。…ただいま、チルノ。」

優しい声でそう語りかけるレティ。
…ああ、これだけでもう判った。レティが逢いたかった人物とは、チルノの事だったんだと。
レティが浮かべる、子供を見守る母親のような笑みを見て…。
本当に、レティは私達なんかよりもずっと神様らしいなぁ、そう思わずにはいられなかった。



「レティ…レティーーーーッ!!!!」



レティに抱きつくチルノと、チルノを優しく抱きしめるレティ。
何年ぶりに再会した親子のような暖かい光景に、私とお姉ちゃんの涙腺が、少しだけ緩んでしまう。

「レティ、お帰り、お帰り…!!」

「…もう、そんなに泣かなくてもいいじゃない。たった8ヶ月でしょ?」

「うん、だけど、だけど…。」

「ほらほら、早く泣き止んで。早くみんなで遊びましょ?」

「うん…。…でも、もうちょっと…。」

氷の妖怪と氷の妖精のペアだと言うのに、とても暖かい。
妖怪と妖精だから親子であるはずもないのに、どうしてこうも暖かいんだろう。
きっとそれほどに、この二人の絆が深いんだろうなぁ。
私の目から、涙が一粒零れて…。



「…ああ、レティの大きなおなかがふぁッ!!!!」



…綺麗に地雷を踏んだチルノの頭に炸裂した肘撃ちによって、涙はそこで完全にストップした。
湖にまっ逆さまに落ちるチルノ。そしてそんな様をにこにこと微笑みながら見つけるレティ。

「学習しない子にはお仕置きが待ってるって何時も言ってるのにねぇ。」

いや、肘撃ち…。…意識を一発で削り取るほどの肘撃ち…。
さっきの感動は何処へやら、私の心の中はレティへの恐怖でいっぱいになった。

「穣子も静葉も、さっきみたいに喧嘩しちゃ駄目よ?でないと大変な事になるかもしれないから。」

笑みを浮かべながら私達を見るレティ。
しかし、それが逆に怖い。どう考えても笑ってない。怖いと言うレベルですらない。
妖怪に恐怖を与えられる神と言うのもどうかと思うけれど、だって怖いものは怖いんだから仕方ないじゃん。

「「は、はい…。」」

私とお姉ちゃんは大人しく頷く。
とりあえず、絶対にレティは怒らせないようにしよう…。

「それでいいわ。さっ、湖に落ちたのを回収しましょ。大妖精も手伝って。」

言われるがままに、私達は墜落した雛とチルノを回収し…。
…これから何が起こるんだろうと言う、強烈な不安に襲われた。
恐るべし、レティ・ホワイトロック…。





 * * * * * *





「ここは何処…私は誰…。」

目が覚めるなり意味不明なことを言い出す雛。
頭から大量の血を流していて、正直結構怖い光景なのだが、さっきの雛の奇行が奇行だからなぁ…。
それにしても、雛って一応人形じゃなかったっけ?血なんて流れてるのかしら?
まあ、なんだか記憶が飛んでるみたいだから、ちゃんと戻してあげないと。

ゴインッ!!

「…思い出した?雛。」

「ええ、思い出したわはっきりと。氷精殺していいかしら?」

「120%雛が悪いんだから我慢しなさい。」

手にべっとり付いた雛の血を湖で洗い落とす。
やっぱり記憶が飛んだ相手にはグーで殴るのが一番ね。

「…だけど私は諦めないわ。絶対にあの子の厄をモノにしてみせるわ。
 でも見るからにあの氷精が厄の元凶…。あの子がいても、厄を生む存在がいないと安定した供給は…。」

ブツブツと何かを呟く雛。
今更だけど、安定した供給が入るようにしてどうするんだろう。別にエサにするわけでもないだろうし。
何処かで厄を売る心算なのか?誰が買うのか物凄く興味があるんですけど。

「さあさあみんな、起きたみたいだし早く遊びましょ。」

と、チルノを叩き起こしに行っていたレティがそう声を上げる。

「ううっ…あたいが馬鹿になったらどうするんだよぅ…。」

その横で頭を擦りながらそう呟くチルノ。
どう見ても最初っから馬鹿っぽいけど、誰も突っ込まないところを見る限りそれは暗黙の了解なんだろう。
そう言えば私達の自己紹介してないけど、まあいいか。気にしてないみたいだし。

「それはいいんだけど、何をして遊ぶの?」

お姉ちゃんがそう聞き返す。
確かに私、レティ、お姉ちゃん、雛、大ちゃん、チルノと人数はそれなりに集まったけど…。

「勿論、雪合戦よ。」

勿論なんだ。

「でもレティさん、雪合戦にはちょっと雪が少ないんじゃ…。」

「だからこそ面白いんじゃない。限られた雪の中でいかにして相手を狙い撃つか、それも楽しみ方の一つよ。」

大ちゃんの疑問に即答するレティ。
でも、確かに言わんとする事は判る。
無限に武器がある勝負と言うのも、なんだか少し興ざめだ。
スペルカードのように上限があり、その中でいかにして戦うのか、それもまた一興かもしれない。

「…そうね、それで行きましょうレティ。だけど、やるからには本気でいくわよ?」

私の発言に、レティは嬉しそうに笑みを零してくれた。

「ふふっ、雪合戦のプロ相手に何処まで戦えるか、楽しみね。」

「さいきょーのあたいに勝とうなんて100万光年早いんだからね!」

「えっ、あの、…お、お手柔らかに…。」

3人が3人異なった反応をする。
成る程、確かに冬の妖怪と氷の妖精と…。…大ちゃんは普通の妖精かな。
とにかく、雪合戦だのなんだの冬の遊びには強そうな面子だ。

「ふふっ、負けないわよ。まだまだ季節は秋、私達の時間なのだからね!」

「うーん、雪合戦なんて殆どした事ないけど、まあ大丈夫よね。」

「…雪合戦に乗じて、何とかあの子の厄を…。」

もう雛に対して突っ込むのは止めよう。
ちょっとはやる気はあるみたいだし、別に雛が秒殺されようと知った事ではないし。


「OK、それじゃルールを説明するわ。
 サバイバル方式で戦って、基本的に1回被弾したらそこで負け。
 だけど自分の能力の使用は自由よ。1回被弾だけで終わっちゃうから、攻撃だけじゃ勝てないと言う事を考えてね。
 勿論被弾したらゲーム参加は不可能。湖の良く見える場所で仲良く固まっててね。
 それとスペルカードの使用も自由。だけど弾幕は全部雪玉を使うように。
 行動範囲は湖の周辺。明確に範囲は決められないけど、あまり離れすぎちゃ駄目よ?
 10分くらい、自分の作戦を練る時間と雪玉を作る時間を設けるわ。
 この間にいかに雪玉を多く作って、かつ作戦を練るかが勝負の鍵よ。」


簡潔に説明を終えるレティ。
だけど、その説明だけで判るほどにルールはシンプルだ。
たった1つの残機を守りつつ、限られた雪で相手を倒すか、結構面白そうなゲームかもしれない。
と言うか、もう殆どスペルカードバトルよね。結構熱い戦いになるかもしれない。

「判ったわ。勝負は10分後ね。」

「飲み込みが早くて助かるわ。みんなも大丈夫?」

「あたいは何時でもけーおーよ!」

「は、はい、大丈夫です。」

「私も大丈夫よ。」

「…氷精、厄い目にあわせてあげるわ…。」

全員結構士気が上がってる。乗り気で何よりだ。
去年の私達姉妹では、こうやって冬の妖怪と雪合戦をするなんてこと、考えられなかったけど…。
今は違う。冬の妖怪と、氷精と、雪合戦を楽しみたいと思う。
そして、最初からKO宣言してどうするんだろう。負ける気満々なのか勝つ気満々なのか…。

「さあ、開始するわ。10分経ったら私が合図の弾幕を撃ち上げるから…。」

私はぎゅっと拳を握る。



「スタートッ!!!!」



レティのその声と共に、私はとりあえず何処かに陣を取るべく走り出した…。










「…ねえ、穣子。」

「何よお姉ちゃん。付いてこないでよ。」

「いや、ちょっと聞きたいんだけど…。」

「…?」

「当初の目的から凄く離れてる気が…。」

「…あっ…。」

「もう紅葉もサツマイモも何もあったモンじゃないわよね。」

「…まあ、いいんじゃない?」

「…まあ、いっか。」





 * * * * * *





「さて、こんなものかな…。」

湖周辺の森の中。とは言っても深く入っているわけじゃなく、湖が視認出来るほどの距離。
大体10分ほど経って、私の目の前には20個ほどの雪玉が。
雪が少ない故にちょっと手間取ってしまったけど、1人5個まで使えると考えれば大丈夫か。

さて、誰から狙うべきかな…。
レティは絶対に強いから後回しにした方がいいかな。
お姉ちゃんと雛も、今日あれだけ色々と見てしまったが故に、何を考えてるか判らない恐ろしい。
大ちゃんは色々と未知数だ。能力も判らないし、それに雪合戦にはなれていそうだし…。
チルノは…。…うん、とりあえず様子を見てみよう。一番有力候補として。

と、そんな事を考えているうちに…。

パァン!!と上空で大きな音を立てて弾幕が弾けた。

時間的にもピッタリだし、恐らくそれがレティからの開始の合図だ。

「よしっ…!!」

小さな声で自分に喝を入れて、やる気を再度上げる。
私は雪玉の山から、3つだけ玉を取り出した。
さて、まずは様子見だ。一番のターゲットのチルノからまずは…。


「よっし!!あたいが最強だって事レティに思い知らせてやる!!」


…わりと近くでそんな声が響いた。
えっと、あの、うん。ありがとうございました。探す手間が省けました。
戦場(?)でそんな自分の位置を教えるような事をしては駄目よ。
木に隠れつつ声のした方へと向かえば、そこには雪玉を抱えてふよふよと宙に浮くチルノの姿が。

チルノが抱えている雪玉は5つほどで、その近くには大量の雪玉が積んである。
私の作った雪玉の数とかから比較して、大体40くらいかな?
それに少し大きめのサイズ(私は野球ボール、チルノはソフトボールくらい)の。
うーん、流石に冬に慣れている事はあるんだなぁ。同じ時間だったはずなのに、私の倍…。

…って、ちょっと待て。何か勘定が合わないぞ?
この少ない雪の中で、あの大きさの玉を一つ約15秒で作れるのか?
いや、どう考えても無理だと思う。時間的にも雪の量的にも。

ちょっと調べてみるか…。

「見つけた!!」

わざと大きな声を出して、チルノの前に飛び出す。
ただし、私は雪玉を投げる気はない。だからチルノの手の動きだけに意識を向ける。
突然の私の登場に一瞬だけ驚いたようだったけど、すぐに強気な表情に戻るチルノ。

「ふんっ!!あたいに見つかった事を後悔してあげるわ!!」

何か日本語が変ね、まあそんな事はどうでもいいけど。
私が敵だと判るや否や、チルノはすぐに手に持った雪玉を私に投げてくる。
反応速度が早かったのは結構だけど、玉自体はそんなに速くなく、私は容易にその雪玉をかわす。

ドスッ!!

…と、私がかわした雪玉が、そんな音を立てて雪の上へと落ちる。
…今のは、どう考えても雪玉で鳴るような音じゃないんだけど…。
チルノに気を配りながらも良く見てみれば、僅かにその雪玉の中に、何か光る物が入っているのが…。

「…げっ!!」

それが何かと判った瞬間に、私は思わず声を上げる。

「あたい特製氷入り雪玉を喰らえーッ!!」

やっぱりあれは氷か!!
なるほど氷の塊を入れる事で大きさと雪の量をカバーしたのか。
確かに雪玉の中に何か入れちゃいけないとは言わなかったから…。
しかも、氷入り雪玉だから遠隔操作が出来るらしく、離れた場所の雪玉を次々と自分の手の内に持ってくる。
まるで無限に玉を持つ砲弾だ。
くっ!!意外とやるわねチルノ!!

「ええいちょこまかと!!」

木々に隠れつつ、私はチルノの玉を出来る限り消費させる。
見た目どおり熱くなりやすい性格みたいだから、こうして逃げ回ってればそのうちチャンスが…。


「当たれ当たれ当た…あれぇっ!?」


…と、私の目に信じられないんだかお約束なんだかよく判らない光景が映る。
夢中になって雪玉を投げていたチルノは、足元にあった雪に気付かずに足を滑らせ転倒。
チルノが持っていた雪玉は高々と宙を舞う。

「いたたたっ、なんだって…。」

ゴインッ!!

「あたいっ!!」

…尻餅ついたチルノの頭に、その氷入り雪玉(しかも一際大きいの)がジャストミート。
打ち所が悪かったらしく、ぱたりと仰向けに倒れて目を回すチルノ。
…そして、そんな様子を呆然と眺める私。

「えっと…。」

数十秒眺めてもチルノが起き上がる様子はない。どうやら本当に気絶してるみたいだ。
私はゆっくりとチルノの元へと近づいて…。

「…ごめんねチルノ、戦場で情けは掛けないわ。」

ぽすっ、と倒れているチルノの顔に雪玉を落とした。ぴちゅーん。

…1人、撃破。なんか色々と虚しいけれど。





 * * * * * *





「覚えてろーっ!!」

はいはい覚えててあげますよ、あなたのステキな自爆っぷりを。
目が覚めたチルノを被弾ゾーン(被弾した者が集まる場所)に放置して、私は次のターゲットを探す。
因みにチルノが目覚めた時「気絶してたんだから被弾なんかしてない!!」と意味不明な事を言われたので…。
もう一度0距離で雪玉を当ててあげた。ああ、貴重な一個を無駄に…。

「…あらっ?」

もう一度森の中に入ろうとした私の視界に、木々の間で動く“黒い”ものが映る。
よく目を凝らすまでもなく、それは雛だった。しかもくるくると回りながら移動してる。
…お姉ちゃん、レティ、大ちゃんが比較的目立たない格好をしているのに対し、雛はやっぱり目立つなぁ…。

まあ、そのお陰でこうして素早く見つける事が出来たんだから良しとしよう。
木々に隠れながら、私は雛へと近づいていく。

くるくると回ってて見づらいけど、雛の手の中には4個の黒い雪玉。
そしてその周りには、これまたどす黒いオーラを放つ雪玉が20個くらい浮いている。
多分厄のせいだろう。雪玉に厄が乗り移ると言うのも変だけど、まあ相手は厄神だし。神様だし。
しかし、こうして厄を纏わせて周りに溜め込む事で、何時でも全弾装備可能にしているわけね。
さすが雛、そういうところには抜かりがない。私は一回一回補給しに戻らなきゃいけないし。

「…あら、厄の気配。この厄の多さは穣子ちゃんね。」

うっ、気付かれた!
厄神相手に隠れても無駄だった。厄の気配ですぐに見つかってしまう。
…て言うか、そんな判りやすいほどに私も結構厄持ってるって事?

「…ばれちゃしょうがないわね。」

何処の三下の悪役だよと自分に突っ込みたい台詞だなぁ。
とにかく、雛からある程度距離を取った場所に姿を出す。

「穣子ちゃん、あの氷精を殺ったのはあなた?」

と、雛は急にそんな事を聞いてくる。漢字が怖いわよ。

「ええ、ちょっとしたハプニングで…。」

いきなり足滑らせて自滅するとは思わなかったなぁ。
そう言えば、雛は何でこんな事を…。

「…そう、じゃあ獲物を奪った穣子ちゃんを一番に倒してあ・げ・る♪」

雛の後ろに漆黒の炎が燃え上がるのを幻視する。
ああ、確かゲーム開始時に「厄い目にあわせてあげる」とか言ってたっけ…。
大丈夫よ雛、チルノは立派に厄い目にあってたから。あなたの臨む結果にはなってたはずだから。
だからそんな怖い目で私を見ないでッ!!

「ええいっ!!雛がその気なら!!」

ただならぬ雛の狂気に、私は先手必勝と雪玉を投げつける。
雛相手に小細工しても無駄だと思う。人を陥れる点ではお姉ちゃんと並んで優れてるから。
策略を巡らせて勝てる相手ではないので、此処は真っ向勝負を挑むべきだろう。

「甘いわよ、穣子ちゃん。」

…と、雛の周りに浮いていた黒い雪玉が、一斉に一箇所に集まり壁を作る。
私の投げた雪玉はその雪玉の壁に阻まれて、壊れるかと思いきやそのまま動きを止めて…。

「…あなたの厄は私のもの。」

…私の雪玉が、一瞬にして厄に包まれた。

「ふえっ!?」

そして厄雪玉達は再び雛の周囲を漂い始める。しかし、私の投げた雪玉一つを追加して。

まさか吸収された!?雪玉の防壁で身を守るだけじゃなく、相手の雪玉を吸収出来るの!?

「あら、おかわりはまだかしら?」

にこにこと愛想の良い笑みを浮かべる雛。恐るべき余裕が見える。
拙い、これは非常に拙い。まさか雛の厄を溜め込む能力が、雪合戦で此処まで威力を発揮するとは誰が予想出来たかしら?
周囲の雪玉で攻撃を防ぎ、しかもその攻撃を自分の物として吸収してしまうなんて…。

「じゃ、じゃあこれならどう!?」

私は手持ちの雪玉(4つ)を全て宙に放つ。
1方向からが駄目なら、4方向からはどうかしら?

「豊符『オヲトシハーベスター』!!」

今回はレーザーを雪玉に!
私の可愛い(?)雪玉たち!狂気の炎に駆られた雛を狙撃せよ!!

「ふふふっ、甘いってば穣子ちゃん。」

しかし、私がスペルカードを放ったにも拘らず、にこにこと何処か黒い笑みを浮かべる雛。
…次の瞬間、私は雛の恐怖を知る。



「『マジ☆カル☆アルティメットヤクジンツイスター☆』!!!!」



「なにそれえええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



ネーミングセンスの欠片も感じられない技名と共に、何時もの100倍増しくらいの超高速回転を見せる雛。
その回転が生む風圧は木々を薙ぎ倒すほど、何時も以上に余計に回っております。モォ~メントォ!!
いやまあ、流石に木々を薙ぎ倒すは極端だったとは言え、それでも私の放った雪玉全てを押し返すほどの強風が…。
今日幻想郷に、一つの竜巻が発生しました。

「…うそ、でしょ…?」

唖然呆然。まさかこんなのに私のスペルが破られるなんて…。

「あはははは~!!私に雪玉は絶対に届かないわ~!!」

確かに雛のこの回転力は物凄い。フザけた名前だけど威力は折り紙付きだ。
これじゃ普通に雪玉投げたって、雛には絶対に届かない。そもそも私は今弾切れだけど。
もうなんだか色々な意味で泣きたい。
雛に勝てない絶望と、勝てない理由がこんな訳の判らない技によるものなのと、こんなネーミングセンスしか持っていない雛への哀れみと…。

「あはははは~!!でも回りすぎてと~ま~ら~な~い~!!」

…そして、こういう事やる奴は絶対にこうなると言う期待を裏切らないその発言に。

「…ごめんね雛、次逢った時はあなたが普通の厄神に戻ってる事を祈るわ。」

止まらないならそれは好機。
私は弾切れ、そして雛は回り続け、これでは私に勝機はない。
とにかく、今はこの場を離れよう。雛は相手にしてはいけない。
誰かが雛を倒してくれればそれでいいし、万一雛が勝ち残ってしまった時は諦めればいいし。

「穣子ちゃん待ってぇ~!!私をた~す~け~てぇ~!!」

ごめんね雛、勝負の世界は非情なのよ。
きっとその内、樹にぶつかったり湖に落ちたりして止まるよね。
それまで待っててね。私にあなたを止める事は不可能だわ、色々な意味で。
て言うか雛が回る様を見てたらこっちの目が回ってきた…。
これ以上この場にいたくないので、私は戦略的撤退をする事にした。逃げてなんていないからね?


「み~の~り~こ~ちゃ~ん~!!後で呪ってやるぅ~!!」


…聞こえない、聞こえない…。


数分後、ドゴンと何かが樹にぶつかる大きな音が森に響いた…。





 * * * * * *





「こんな物でいいかしらね…。」

雛から戦略的撤退した後、私は最初に陣取った場所へと戻っていた。
其処に雪玉が幾つか置いてあるし、とにかくまずは落ち着きたかった。
いや、だって雛のあんな姿を見たら誰だって慌てるわよ…。

そして今、新しく雪玉を15個追加。これで消費した分と併せてほぼ30。
とは言っても、こうして作ったところで私は雛みたいに全部を持ち運ぶ事は出来ない。
弾切れのことを考えると、出来る限りこの周辺から動かない方がいいのかな。

さて、まずは状況を一回整理しなおそう。
今の所、撃破されているのはチルノ1人。他のメンバーが被弾ゾーンにいる様子はない。
で、雛は絶対に狙いたくない。あんな相手は二度とお断りだ。
そしてお姉ちゃんも出来れば避けたい相手。だって腹黒いから。
レティも出来ればまだ控えておきたい。どう考えても強そうだし、それに出来れば…。

そうなると、残りは大ちゃんになるわけだけど…。
大ちゃんは大ちゃんで、どんな能力を持っているのかが全く判らない。
迂闊に手を出せない相手であるのは確かだけど…。

…でも、判らないならそれを調べる事も必要かもしれない。
もし危ないと判断したら、即座に逃げよう。最初からそれを意識していれば、何とかなるわよね。

そういう訳で大ちゃんを探したいのだけれど、此処でまた一つ問題が。
…何処に居るのかが見当も付かない、と言う事。
大ちゃんとは今日知り合ったばかりだから、比較的丁寧な性格だと言うことくらいしか判らない。
お姉ちゃんは気付かれ難い場所にいるだろうと予想は出来るけど、大ちゃんに関しては全く…。

まあ、探してみない事には始まらない。
何処にいるか判らないとはいえ、別に幻想郷全体でやってるわけじゃないんだから。
とにかく、まずは行動。出来るだけ気付かれないように、大ちゃんを探してみよう。とりあえず雪玉を3個だけ手に取った。










…で、結局探し人は割とあっさり見つかった。と言うのも…。

「…じゃあ、チルノちゃんは穣子さんにやられたのね?」

「そうなんだよ!!あいつったらあたいが気絶してる最中に攻撃するんだよ!?」

「いや、半分以上チルノちゃんが悪いと思うけど…。」

「男なら正々堂々勝負しろーッ!!」

色々突っ込みたかったけれど、とにかく大ちゃんは被弾ゾーンのチルノと話し込んでいた。
しかも私が悪いみたく言うんだもんなぁ。大ちゃんがしっかりした性格でよかった。
ただ半分ちょっとは私が悪いのかしら?私は微塵も悪くないような気がするんだけど…。

「とにかく、じゃあ私がチルノちゃんの敵をとってあげるから!」

「えーっ?なんか頼りないなぁ…。」

「…そうズバッと言わないで…。」

チルノの一言にテンションダウンする大ちゃん。…悪気はあるのか無いのか…。
まあ、とにかく話は纏まったみたいだし…。

…私は木陰から大ちゃん向けて、雪玉を一つ思いっきり投げつけた。
卑怯?何のことかしら?これから雛やお姉ちゃんを相手にするんだったら、心を鬼にしなくちゃ駄目なのよ。
まあ、実際の鬼だったら正面から行くかもしれないけど。

「あっ!!大ちゃん危ない!!」

私の雪玉に先に気付いたチルノ。
その言葉に大ちゃんも振り向くけれど、もう遅い。これで大ちゃんも被弾…。

…そう思った矢先、その一瞬前までそこにいたはずの大ちゃんの姿が、フッと私の視界から消えた。
ボスッ!!

「…えっ!?」

い、一体何処に…!?辺りを見回してみても、大ちゃんの姿は何処にも…。

「穣子さん、影から人を襲うなんて卑怯ですよ。私だったから良かったですけど…。」

いきなり背後から大ちゃんの声が。
驚いて振り向けば、大ちゃんはにこにこといい笑顔を浮かべながら、私の背後に立っていた。
そんな、何時の間に…!!

「驚きましたか?私は「くぉらーーーー!!大ちゃんーーーーッ!!!!」

大ちゃんの言葉を遮るように響くチルノの怒声。
私と大ちゃんが何事かとチルノの方を見てみれば、何故かチルノの顔には少量の雪が…。

「急に避けるなーッ!!幾らあたいだからってそんなの避けられるわけないじゃん!!」

…ああ、19行前の「ボスッ!!」って音は、目標を失った私の雪玉がチルノに当たった音だったのか。

「…あ、あはは、ごめんねチルノちゃん。ちょっと急だったから…。さて、穣子さん。」

チルノに関してはそれだけでいいらしい。意外と酷いなぁ大ちゃん。
まだチルノは大声で何かを喚いているが、もういいや。
今は、大ちゃんとの雪合戦に集中しよう。…なんだか、想像以上に強そうだし…。


「チルノちゃんの敵、取らせてもらいます!!」


その言葉と共に、またもや大ちゃんの姿が一瞬にして消える。
なんなんだと思いつつも、私はすぐに大ちゃんの妖気を探った。
妖気は…真上!?

「…ッ!!」

私はすぐにその場から離れる。
そしてその僅か1秒後、元私がいた場所に雪玉が落ちてきた。

「まだです!!」

大ちゃんの上空からの狙撃は続き、私はとにかく動き回り、雪玉が当たらないようにする。
幸い大ちゃんの投げる雪玉の速度はチルノと同程度。かわせない事はない。

だけど、さっきのは…。
私は一瞬たりとも目を外さなかったはずなのに、大ちゃんは私の視界から…。
高速移動、何てものじゃない。あれはまさに…。

「瞬間移動…!!」

他にどんな能力を持っているのかは判らないけれど、とにかく一つは判明した。
大ちゃんは瞬間移動の能力を持っている。でなければ、私の視界から一瞬で消えるなんて事は出来っこない。
これは…かなり厄介な相手かもしれない。
私の雪玉は、大ちゃんの視界に入った瞬間にかわされる。
そして、私には今のところ大ちゃんの瞬間移動の法則は判らない。
何か法則があればいいのだけれど、もしも無かったら…。…完全に、何処からでも雪玉が飛んでくる状況と変わらない…。

「こうなったら…!!」

せめて、この上空からの砲撃だけでも封じよう。
私は急いで森の中へと入る。森の中なら、木の枝や葉っぱに遮られて、上空からは攻撃できない。

「逃がしません!!」

大ちゃんは私を追い、森の中へと入ってくる。その際近くに用意してあったらしい雪玉を拾って。
とりあえず上空からの攻撃は封じたけれど、まだ安心は出来ない。
あの瞬間移動に対処できなければ、結局私に勝ち目は薄い。

ああっ!!自分の『豊穣を司る程度の能力』が恨めしい!!
だってどんな能力なのか自分でもよく判らないから!!

「逃げの一手では勝てませんよ!!」

再び大ちゃんの雪玉が飛んでくる。ただし、一球だけ。
雪玉を手で抱えてるところを見ると、今までのチルノや雛とは違って、雪玉を大量に持ったりは出来ないみたいだ。
…よし、だったらまだ何とかなる。

「…よしっ!!」

ただ闇雲に森に入ったわけではない。
私はある場所に着いたところで、一旦逃げるのを止める。

「食らえっ!!」

私を追ってくる大ちゃんに向けて、手持ちだった3個の雪玉を全て投げつける。

「当たりませんよ!!」

雪玉3つを難なくかわす大ちゃん。普通のスピードも結構速いみたいね。

「穣子さん、手持ちの雪玉を一気に使うのは自殺行為ですよ。」

大ちゃんも私の雪玉が一気に尽きたと見るや、飛ぶのを止める。
そうね、確かに自殺行為かもしれないわね。だって手ぶらで戦場に立ってるようなものだもの。
…本当に、武器がないなら、ね…。

「大ちゃんこそ、敵の陣地で足を止めるのは自殺行為よ?」

そう、此処は私の陣地…。

「…えっ…?ああっ!!」

大ちゃんもそこでようやく気付いたらしい。
自分の四方位に、いくつもの雪玉が置いてあることに。

「秋符『秋の空と乙女の心』!!」

周りに置いてあった雪玉が、一斉に大ちゃんを狙う。
察しの通り、此処は私が最初に陣取って、雪玉を置いてあった場所。
大ちゃんを探しに行く際に、もしもの為とこうしてあちこちに雪玉を置いておいたのだけど…。
どうやら、それが功を奏したみたいね。

「くうっ!!」

突然の攻撃に焦ったのか、慌てて上空へ飛び上がる大ちゃん。
だけど、これがかわされるのは予想済み。それでも私は大ちゃんに攻撃する。
大ちゃんのあの瞬間移動を、今度こそ見極めるために。

…しかし、何回か攻撃を繰り返したところで…。

「きゃっ!!」

大ちゃんは私の攻撃を寸前のところでかわし続け、被弾には至らない。
しかし、それは普通に避けているだけ。さっきの瞬間移動を、全く使おうとしない。

「…くっ!!」

駄目だ、そう思って私は一回攻撃をとぎった。
大ちゃんが瞬間移動を使わないなら、これ以上避けられる攻撃をしても無駄だから。

「…はぁ、はぁ…。じ、時間切れですか…?」

息遣いを荒くする大ちゃん。
それはまあ、私の攻撃を細かい動きで避け続けたのだから、少しは疲れるだろけど…。

…なんで、瞬間移動を使わなかったの…?

瞬間移動を普通に使えば危険は無いのに、わざわざ私の攻撃全てを、普通に避けるメリットなんて…。
探られないため?だけど、一回でも雪玉に当たったら駄目なこの雪合戦でそれをする必要はある?

「今度はこっちから行きますよ!!」

と、私がそんな事を考えている間に、再び大ちゃんが私に雪玉を投げてくる。

「うわっと!!」

一瞬対応が遅れたものの、何とか大ちゃんの雪玉をかわす。
危ない危ない、考える事に集中しすぎて、大ちゃん自身への対応が疎かだった。
私の油断が解けたと見て、大ちゃんはそれ以上の攻撃はしてこない。
大ちゃんの残り雪玉は2つだから、迂闊に攻撃できないのだろう。

ちょうどいい、大ちゃんから目を離さず、私は先ほどの思考を整理する。
瞬間移動を使わなかった。じゃあどうして使わなかったのか。
単純に考えれば、瞬間移動には何か制約があり、さっきと今では何かの違いにより使う事が出来なかった。
じゃあ仮にそうだとして、さっきと今とでは一体何が違うの?
さっきは湖の畔で、今は森の中で。畔にあって森にない物や、逆に畔になくて…。


「…ああっ!!」


思わず声を張り上げる。そのせいか大ちゃんの肩がびくりと跳ねた。

判った、と言うか、それじゃないと説明が付かない。
もしもこれ以外だったら、私の負けだ。その時は素直に諦めよう。

「秋符『秋の空と乙女の心』!!」

先ほどまでとぎっていたスペルを、今一度発動させる。
周りに置いてある雪玉全てを、このスペル一枚で全て使う。そうでなければ、意地でも大ちゃんは瞬間移動を使うだろうから。
だけど、攻撃はしない。あまり、大ちゃんに雪玉をぶつけたくはないからね。

「…っ!!!!」

大ちゃんが声にならない悲鳴を上げる。
私は、全ての雪玉で大ちゃんの周囲を囲う出来る限り、隙間が出来ないように。
多分、これだけで大丈夫なはず…。


「…穣子さん、ひょっとして気付いちゃいました?」


一時の静寂の後、驚きの表情から一転、どこか諦めたような表情を浮かべる大ちゃん。
ああ、良かった。詳しい理屈は判らないけど、正解だったみたいね。ハズレだったら私の負けだったわ。

「あなたの瞬間移動は、障害物を貫通して移動は出来ないのね。
 さっきの湖の畔になくて、今此処にあるもの、それは沢山の障害物…樹、よね。」

さっき湖の畔は、樹が一本も無く開いた場所だった。
故に大ちゃんを遮るものは何もなく、瞬間移動を無理なく使う事が出来た。
だけど、今は周囲には沢山の樹がある。それが、大ちゃんの瞬間移動を邪魔していた。
だから、こうして大ちゃんの周囲に、何でもいいから障害物を作ればいい。上に逃げた時は、上に集中攻撃すればいいだけだしね。

「…はい、その通りです。もう少し言うと、私はまだこの瞬間移動を上手く使えないんですよ。
 判りやすく言うなら、しっかり意識しないと移動後の位置を調整しきれないんです。
 だから、森の中で使うと座標が狂った時に、樹にぶつかったりしちゃうんです。
 私の瞬間移動は、まだ殆どランダムなんです。レティさんにも、話してない事なんですけど…。」

なるほど、私の中に残っていた一抹の不安は、大ちゃん自身の告白によって解消された。
幾ら障害物を貫通出来ないとは言え、ちゃんと移動後の位置を調整出来れば、難なく瞬間移動を使えたはずだったから。

「たった2回使っただけでばれちゃうなんて思いませんでしたよ。凄いですね、穣子さん。」

「まあ、伊達に神様やってない、って事で納得してね。」

くすっ、と私と大ちゃんは、同時に小さく笑った。


「チルノちゃんの敵をとりたかったですけど、私には他に何も出来ないので…。…降参です。」


大ちゃんが雪玉を落とし両手を挙げたところで、私はスペルを解除した…。





 * * * * * *





大ちゃんに勝った私は、大ちゃんを被弾ゾーンに連れて行く序に、雪玉全部を湖近くまで運ぶ。
ちょっと浪費したとは言え、それでも10個以上はあるので、大ちゃんにも手伝ってもらって。

「ごめんね大ちゃん、手伝わせちゃって。」

「いえ、大丈夫ですよこのくらい。」

雪玉を全て判りやすい場所に置いておき、大ちゃんは被弾ゾーンのチルノの元へと駆け寄る。

「あっ!!大ちゃん!!勝ったの!?」

「あははは、ごめんねチルノちゃん、負けちゃった。」

「むぅ…。」

大ちゃんの姿を見て一瞬だけ笑顔を見せたが、すぐにむくれるチルノ。
…なんだか姉妹みたいだなぁこの2人。大ちゃんが姉でチルノが妹で。

「まあいいや。まだレティがいるもんね!」

そしてすぐにまた強気な表情に戻る。感情の変化が豊かなのはいい事だろうけど、流石に変化が早すぎるわね。
それにしても…。

「大ちゃん、チルノ。レティはやっぱり強いの?」

私は雪合戦開始当時から思っていたその疑問をぶつける。

「そうですね…。…きっと、すぐに判ると思いますよ。」

答えをはぐらかす大ちゃんと、強く頷くチルノ。
…なるほど、確かにすぐに判るかもしれない。判ってて質問した私も私だけれど。
だって、大ちゃんと戦った後此処に来てから、ほんの数分しか経ってないのに…。

…その数分の間に、この湖畔の気温が急激に下がっていたから…。



「あら、穣子。チルノはともかく、大妖精まで倒すなんて凄いじゃない。」



…ラスボスの、ご登場だ。

「こらー!!あたいならともかくってどういう意味だーっ!!」

チルノの叫びを全員がスルー。私達は、声の方へと目を向ける。
声の主は勿論、レティ。そしてその後ろには、頭にちょっと雪が乗ったお姉ちゃんと、何故かお姉ちゃんにおんぶされている雛の姿が…。

「レティ…。」

この状況から判断するに、お姉ちゃんも雛も、レティにやられたんだと思う。
私が警戒していた2人を、レティは1人で…。

「ほら、しっかりしなさいよ雛。」

「め~が~ま~わ~るぅ~…。」

ああ、雛、さっきのあの技使ったのね。
えっと、確かマジ…。…マジカ…。…駄目だ、私には恥ずかしくて言えない。
とにかくあれで目を回してる隙にやられたのね。別に雛を倒すのはそう難しくなかったのね。

「うふふふっ、静葉も雛も初めてにしては筋が良かったけど、まだちょっと私相手には早かったかしら?」

そうだ、雛はともかく、お姉ちゃんもレティにやられてるんだ。
お姉ちゃんがどういう戦い方をしてたかは知らないけど、普通に戦ったら倒すのは大変だったはず。
レティはそれを倒したんだ。しかも、あれだけの余裕を見せられるほどの大差で。

…それにしても、お姉ちゃん全然活躍してないなぁ今日。殆ど空気ね。

「穣子、今日の夕飯は穣子の大好きなジャガイモの芽にしましょうね。」

またもやお姉ちゃんのテレパシー能力発動。

「酷いッ!!ジャガイモの芽にはソラニンが入ってるのよ!?メインで食べたら一発で食中毒よ!?」

「大丈夫大丈夫、イモの神様なんだから。」

「豊穣!!豊穣の神!!秋の農作物全ての神だから!!」

「イモの神じゃない。香水も薩摩芋のだし。」

「いや間違ってはいないけど!!確かに今が旬だけど!!」

「やっぱりイモ神ね。」

「イモ神ですね。」

「イモ神って何?強いの?」

「そうね、イモ神ね。」

「イモ神ねぇ~…気持ち悪い~…。」

酷い!!寄って集って私をイモ神扱い!?て言うかイモ神って何!?
目を回してる雛まで言ってくるのが物凄く腹立たしいんですけど!?

「イモ神言うなぁ!!そんな事言うと来年大凶作にしちゃうよ!?」

豊穣の神の切り札発動!!私を怒らせるとお米が食べられなく…。

「いいわよ別に、私は困らないから。寧ろ紅葉の需要が上がりそうで嬉しいわね。」

「えっと、妖精は本来は食べ物を食べなくても大丈夫ですし…。」

「あたいはさいきょーだから大丈夫よ!!」

「私はそもそも秋は起きてないからねぇ。」

「大凶作で厄がいっぱい嬉しいわぁ~…。」

…すみません、泣いていいですか?
私の切り札あっさりと消滅。何でこんな連中ばかり集まってるんだろう此処には。

「さて、穣子。」

落ち込んでいる私の耳に、レティの声が響く。
…そのとても重みのある声に、私は意識をはっと切り替える。



「…そろそろ、準備はいいかしら?」



…そうだ、忘れてはいけない。
まだ、雪合戦の途中なんだ。そして、今被弾していないのは私とレティの2人だけ。
そして、今この場に二人とも揃っている。
そうなれば、やる事はたった一つだ…。



「…ええ、何時でも大丈夫よ、レティ。」



私も神だけど、今ほど神に感謝した事はないかもしれない。
だって、これは私が一番望んでいた事だから。

レティとは、最後の2人同士で戦いたい。
それが、この雪合戦が始まってからずっと思っていた、私の願いだったから…。

「穣子。」

と、こちらへ向かってきたお姉ちゃんが、静かに私の名前を呼ぶ。

「…強いわよ、レティは。だけど、負けちゃ駄目よ?」

「うん、判ってる。お姉ちゃんはそこで黙って見ててね。」

ちょっとだけさっきのお返しの念を込めて、お姉ちゃんにそう返答する。
お姉ちゃんは少しだけ笑みを浮かべてから、後は黙って被弾ゾーンに腰を下ろした。

「いたっ!!静葉酷い!!」

雛は放り出すようにして。…あれ?思ったより気に障ったのかな今の私の言葉…。
ま、いいや。今は目の前の相手に集中するとしよう。

だって、今がとても楽しいから。

冬になるに連れて、憂鬱になるしかなかった私とお姉ちゃん。

それが今、こうして(レティ)を目の前にして、こんなにも気分が高揚しているのだから。

私は、今のこの時をもっともっと楽しみたい…!!


「さあ、いくわよ穣子。あなたに冬の厳しさを教えてあげるわ!!」


「私も、あなたに教えてあげる。秋の強さを、美しさを!!」


バトル、スタート!!


私はまず、いの一番に用意してあった雪玉へと飛びつく。
大ちゃんにも運んでもらった雪玉は計11個。
1人を相手にするには充分な数だけど、相手はレティだ。寧ろ足りないくらいかもしれない。
とにかく、まずは様子見で一球…。

「駄目よ穣子。武器は常に持ってなきゃ。」

レティのその声にハッとふり向くと、私の目の前には既に雪玉が…。

「ほわぁ!!」

反射的に思いっきり背中を反って何とかかわす。まさにマト○ックス。
一瞬グキリと腰の骨が鳴った気がしたけど、気のせいよね。決してもう歳だなんて事は有り得ないわ。

「うん、よく避けたわね。そうじゃないと面白くないわ。」

体勢を立て直して、レティのほうを注視する。序に雪玉も確保。
…おかしい、レティはさっきまで雪玉を一つも持ってなかった。
なのに今、雪玉は私目掛けて…。…レティは、何処に雪玉を隠しているの…?

「さあ、続きをいくわよ!!」

そうレティが叫ぶと、レティの手の中で一瞬だけ何かが光ったような気がして…。
…何も持っていなかったはずの手に、小さな雪玉が一つ、握られていた。

「えっ!?」

一体何が起きたのかと確認したかったけれど、レティが武器を持った以上はとにかくそれに集中しないと…。
再びレティが雪玉を投げ、私はそれを回避する。
レティの雪玉の速度は大ちゃんやチルノよりも遥かに速く、うかうかしていると、ちゃんと見ていても当たってしまいそうなほどだった。

「そうそう、いい反応よ。それでこそ私が見込んだ子だわ。」

余裕の表情を浮かべるレティ。
確かに、どんな能力なのかは判らないけれど、レティは瞬間的に雪玉を作り出せる。
チルノも同じように、離れた場所の雪玉を自分の手に持ってくる事は出来たけれど、レティはその上を行く。
本当に際限ない、無限の弾幕(雪玉)を保持している事になる。

だとすれば、お姉ちゃんがレティに負けるのも良く判る。
身体能力も高く、そして弾切れがない連続攻撃となれば、流石のお姉ちゃんも色々考える余裕はなくなるだろうし…。
…だけど…。

「…レティ、あなたの能力は、確か『寒気を操る能力』だったはずよね…。」

「ええ、その通りよ。どこかで話したかしら?」

いや、別にレティに聞いたわけではない。
『幻想郷縁起』を読んでたらレティの事が載っていたので、それをしっかり読んできただけの事。

「だけど、それは自然の力を強めるだけだったはず…。…雪を操ったりする事は、出来ないんじゃ…。」

私の質問に対し、レティはくすくすと小さく笑う。

「そうね、私は冬の環境をさらに強くする能力。雪を降らせたりする事は出来ない。
 まあ、雪が降ってれば寒気を操って、さらに大雪に出来たりはするけどね。」

さり気無くレティの能力がかなり強大である事を知らされた。
いや、判ってはいたけどね…。自然を操る能力なんだし…。

「…じゃあ、今のは…。」

「穣子。」

私の言葉を遮るように、レティが私の名を呼ぶ。
その声が、なんだかとても重く、深く感じたので、私はそれ以上言葉を続ける事は出来なかった。

「私が、どうして冬の間しか外に出ていられないか、知ってる?」

静かに、レティは私に質問を投げかける。

「何故って、それはレティが冬しか能力を発揮できないから…。」

…そう言ったところで、とある疑問が頭を過ぎる。
あれ?確かにレティは寒気がなければ能力を発揮できない。

だけど、だからと言ってそれが「冬以外では活動できない理由」になるのだろうか?

能力が使えないからって、レティは妖怪。身体能力は人間よりも遥かに高いはず。
それに、今の幻想郷を見る限りでは、たとえ能力が制限されたところで、そんな危険な目に晒されるとも思えない。
妖怪が人間を襲うならともかく、妖怪が妖怪を襲うなんて事は、元々あまり聞かない事だし…。

「…じゃあ穣子、私は“何の妖怪”だと思う?」

その質問に、私は何も返答する事が出来なかった。
何の妖怪?…何のって、何…?
レティを妖怪として分類するなら雪女。じゃあ、雪女は何から生まれる妖怪?
そしてそれは、レティが冬以外の季節で暮らせないのと、どんな関係が…。


「…正解は、雪よ。私は雪の妖怪。」


レティはそう、静かに告白した。


「私の身体は、大量の雪が集まって出来てるの。ちょっと想像し辛いかもしれないけどね。
 私の身体は雪そのもの。だから、私は夏の日差しの下には出れない。身体が溶けてなくなってしまうから。
 私は雪が降るような低い気温でないと、満足に動く事も出来ない。だから、冬しか外に出れないの。」


それが、レティの妖怪としての本質だった。
雪の妖怪。何らかの歪みによって雪から生まれたのが、レティ・ホワイトロックと言う存在なんだろう。
だからレティは冬しか生きられない。雪は冬の寒さの下でしか、存在することは出来ないから。
レティが自分の事を「冬の妖怪」と形容するのも、雪は冬の象徴であり、そして冬しか存在しない儚いものだから、と言う意味なんだろう。

「私自身が雪だから、ちょっと位なら雪を生み出す事も出来るのよ。
 尤も、さっき言ったみたいに雪を降らしたりは出来ないけどね。」

レティは先ほどの雪玉の事を説明していた。
だけど、私の意識はもう別のところへ向いていた。

…この秋の空の下にレティを誘い出した事は、正しかったのだろうかと…。

レティが雪の妖怪だと言うなら、幾ら寒くなってきたとは言え、まだ外に出てはいけないはず。
秋の空の下に誘い出す事は、一歩間違えばレティを殺す事にもなってしまう。

…また、私は軽率な事をしてしまったんじゃないか…。

今年の冬の終わり、私はレティから何を学んだのよ…。

考えなしに行動しない、相手の事を良く考える、それを学んだはずだったと言うのに…。

私はまた、レティを傷つけて…。



「…穣子。また馬鹿な事を考えてない?」



それは、あの時私に冬の事を教えてくれた、レティの暖かな声だった。

「本当はね、私はあまり期待してなかったのよ。秋のうちにこうして、外に出るなんて事。
 だけど、秋のうちに雪は降ってくれた。あの時の私の願いを叶えてくれたかのように、気温は下がってくれた。
 これは一つの奇跡なのよ、穣子。こうして雪が、私が、秋の空の下にいられることは。」

天を仰ぐレティのその姿は、とても幸せそうだった。



「だから、一緒に喜んで欲しいのよ、この奇跡を。私と一緒に、この空の下にいる事で。
 勿論、それはあなただけじゃないわ。チルノにも、大妖精にも、静葉にも、雛にも。
 私はこの奇跡を、みんなに感じて欲しい。一緒に喜んで欲しい。私はみんなの事を、友達だと思ってるから。」



レティがそう語り終えたところで、湖に一瞬の静寂が流れる。

…ああ、何で、何でレティはこんなに暖かいんだろう。
冬にしか生きられない妖怪なのに、何でこんなに、人を幸せに出来る暖かさを持っているんだろう。
本当に、私なんかよりもずっとレティのほうが、神の名を持つに相応しいじゃないか…。

結局、私はまたレティに教えられてしまった。
やっぱり、私は人の心を考えていない。自分の独りよがりでしか物を考えていない。
…神様失格だな、こんなんじゃ…。

「くす、くすくす、あはははは…。」

…だけど、何かが吹っ切れたような気がした。

「そうね、その通りよレティ。こんな事考えるなんて、後でも出来る事。今こうして悩んでるなんて、ホント馬鹿みたい。」

私の心に、もう迷いはない。
私は今この時を、レティと共有したい。レティと一緒に、喜んであげたい。

確かに、これはただの雪合戦。人から見ればただのお遊びだけど…。
だけど、私とレティにとっては…いや、この場にいる私達全員にとって、とても大切な物。
秋と冬が一緒に存在する事が出来るこの奇跡を、みんなで分かち合う大切な事。
だからこそ一秒でも長く、ほんの少しでも多くの、沢山の思い出を作ろう。

そうしてこの奇跡を信じれば、きっとまたこの秋の空の下で、レティと同じ時間を過ごす事が出来るから。


「レティ、本当はもう少し雪合戦を続けたかったけど…。」


私はスペルカードを構える。

「他にもやりたい事が出来ちゃった。だから、最初から一気に勝負を付けさせてもらうわ。」

ごめんね、レティ。これも結局、私の独りよがりかもしれない。
あなたはそれを望まないかもしれない。あなたが如何思ってるかなんて、私には判らない。
だけど、今度こそ信じたい。私が少しでも、レティの望む事をしてあげられる事を。

…もっともっと、沢山の思い出を作ってあげられる事を…。

「…そうね、私も同じ事を考えてたわ。」

レティの周囲に、幾つもの雪玉が生まれる。

「他にも、もっともっと沢山やりたい事があるの。
 限られた時間の中で、私はもっと沢山の思い出を作りたい。
 だから穣子、一緒に楽しみましょう。全力で戦って、決着を付ける事で。」

レティのその言葉で、私は少し救われたような気がした。
今度こそ、私は間違わなかったと思えたから。レティの事を、少しでも知る事が出来たから。

だから、私は次の一撃に全力を込める。
レティはそれを望んでいる。そして、レティもきっと全力を出してくれる。

「いくわよレティ!!」

「こっちこそ、いくわよ穣子!!」

お互い同時にスペルカードを発動する。
もう後は、勝敗が決定するまでスペルを使うのみ。
全力で戦うことで、レティの心にこの一撃が、楽しい思い出として残ってくれることを願う。

…だって、それが約束だったから。
私はレティに約束したんだ。絶対に、秋の素晴らしさを教えてあげると。
そういう意味でも、このスペルはきっと、この場面に一番相応しい。

「怪符『テーブルターニング』!!!!」

レティがスペルカードを宣言したのを聞いて、私もこのスペルの名を叫ぶ。


レティ、私はもう一つ約束するわ。


この秋と冬、あなたに最高の思い出をプレゼントするって。



「豊作『穀物神の約束』!!!!」



私の声は、何度も大空で木霊した後、静かに消えていった…。





 * * * * * *





私の視界には、雲一つない青空が広がっていた。
昨日の夜は雪が降っていたはずなのに、今はその気配は何処にもない。
もう昼くらいになって気温も少し上がってきたし、小さな雪は全部溶けてしまったかな…。

結論から言うと、私の負けだ。
たった10ちょっとの雪玉で、無限に弾を持つレティに勝とうなんて事、最初から無理だと判ってた。
私の放った雪玉はレティに届く事はなく、逆にレティからの大量の雪玉に、私は被弾してしまった。

…だけど、あんまり悔しくない。
寧ろとても気分がいい。レティと本気で戦えた事が。レティが本気で戦ってくれた事が。

「穣子、とても楽しかったわ。ありがとう。」

倒れていた私の顔を覗き込む、レティの優しい笑顔。
ああ、この笑顔を見れて良かった。これできっと、レティの心に思い出を残す事が出来たから。

「ええ、私もよ。ありがとう、レティ。」

そう言うと、レティは静かに私に手を差し伸べてくれた。
私は黙ってその手を掴み、ゆっくりと起き上がる。
本当に、楽しかった。レティだけじゃなく、大ちゃんやチルノとも一緒に雪合戦をした事が。
レティだけじゃない、私の心にも、この雪合戦は大切な思い出として、きっと残り続けるだろうな…。


「レティーーッ!!!!」


と、大声を出しながらレティに飛びつくチルノ。

「やっぱレティはさいきょーね!!あたいの次くらいにさいきょーね!!」

レティが勝った事がよっぽど嬉しかったらしく、チルノはその喜びを身体全体で表現している。
日本語が滅茶苦茶だけどね。最強の次に最強ってそれ最強じゃないわよね。

「穣子さん、お疲れ様でした。」

そう声をかけてくれる大ちゃん。
その時の大ちゃんの笑顔もまた、どこかとても幸せそうで、私もなんだか嬉しくなってしまった。

「穣子ちゃん青春ね~。その歳になって今更青春期戻りかしら?」

すっかり元通りになった雛。その腹立たしさも何時も通りに戻っている。

「五月蠅い、その歳になって訳の判らない技名付ける神様に言われたくないわよ。」

「あら、可愛いと思わない『マジ☆カル☆アルティメットヤクジンツイスター』って。」

恥ずかし気も無く言うんだもんなぁ…。

「「全然。」」

私がそう突っ込むと、もう1人同じタイミングで同じツッコミを入れる声が。

「穣子、いい勝負だったわよ。負けたのはちょっと許しがたいけどね。」

お姉ちゃんがそう声を掛けてくれる。
今日のお姉ちゃんの労いの言葉ほど不気味なものもないけれど、此処は素直に受け取っておこう。

「ありがと、お姉ちゃん。」

私は小さくそう言う。
お姉ちゃんは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに静かな笑みを浮かべる。
…うん、今キモイとか思っただろお姉ちゃん。姉妹だからすぐに判るからねそんな事。

「さあみんな、まだまだ時間はあるんだから、もっともっと遊びましょ。」

と、レティがみんなに聞こえる声でそう言う。
それに対し、大ちゃんとチルノと雛は元気良く(雛が元気よくって言うのも変だが、何時ものテンションから考えると元気がいいんだろう)返事をする。

だけど、私はちょっとそういう風に返事は出来なかった。
だって、雪合戦が終わったら、今度こそレティに秋の事を教えないと、と思っていたから…。

「あ、レティ…。」

ちょっと待って、と言おうとした私の肩を、がっしりと掴む細い腕が。
振り返って見てみれば、それはお姉ちゃんの腕だった。
お姉ちゃんは何も語らず、ただ黙って首を振る。

ああ、私はまた早とちりをするところだった。
今はレティは、この空の下にいる事を楽しもうとしている。
だったら、私が口を挟むのは無粋な事。今は、レティが望む事をしてあげるのが、私に出来る一番の事なんだ。

「そうね、レティ。もっと沢山遊びましょ。」

まあ、今日出来なくてもまだ機会はあるか。
もう少しだけ秋は続くし、何も今年が最後って訳じゃない。
今は、ただレティと一緒に同じ時を過ごすだけ。

それが、約束だしね。この秋と冬、レティに最高の思い出をプレゼントする、という…。



「それじゃ次は―――」



この秋の空の下、私はレティやチルノ、大ちゃん、そして雛やお姉ちゃんとの一時を、満喫する事にした…。





 * * * * * *





「レティーッ!!また明日ねーっ!!」

時は夕刻、幻想郷を赤い夕日が包み込む。
大きく手を振るチルノと、対照的に小さく手を振る大ちゃんに、私達妖怪の山在住組は別れを告げる。
何となく、レティが最初にチルノの事を「歳の離れた妹か娘」と形容していた理由が判った気がする。
確かにチルノは生意気なところもあるけど、それも誰よりも純粋な心を持っているからこそだ。
チルノと一緒にいると、それだけで色々と楽しくなる。
尤も、レティとチルノのコンビがいると、ちょっと寒いけどね。

「みんな、今日は楽しかったかしら?」

と、妖怪の山への帰り路で、レティは不意にそう質問してきた。
急な質問だったためにちょっと驚いたけれど、私達はお互いの顔を見合わせて…。

「「「ええ、勿論。」」」

お姉ちゃんならともかく、雛までもが全く同じタイミング、同じ言葉でレティに返答する。
それだけ、私達全員が等しく、今日という時間を過ごせた証拠なんだと思う。

「そう、良かった。私もとても楽しかったわ。」

そう言って、私達に笑顔を返してくれるレティ。

「雛は凄く回ったりして驚いたわね。尤も、すぐに樹にぶつかって倒れちゃったけど。」

ああ、私は雛やお姉ちゃんとレティの雪合戦を見てないけど、やっぱりあれを使ってたんだ。
雛の方を見てみると、顔を赤くして恥ずかしそうに俯いていた。

「静葉は落ち葉で撹乱してくるから、雪玉が当てづらくて大変だったわ。『忍法木の葉隠れ』だったかしら?」

思わず吹き出しそうになったけど、後が怖いので何とか堪える。
…うっわぁ、お姉ちゃんそんな事言ってたの?雛もだったけど、お姉ちゃんもなかなか恥ずかしい事を…。
いい歳こいて、そういうのが好きなのかな?

「穣子、後で覚悟しておきなさい。」

「ごめんなさい冗談です。」

だからこのテレパシー止めてほしいなぁ…。

「…穣子、あなたには驚かされたわ。大妖精はあの能力を持ってるから、私でもかなり梃子摺る子なんだけどね。」

ああ、そう言えば大ちゃんは「レティにも話してない」って言ってたっけ。あの瞬間移動の弱点の事。

「そうね、まあ運が良かっただけよ。次勝てるかどうかは判らないわ。」

だったら、あの事は私の胸にだけ留めておいた方がいいんだろう。
そうしたらレティも大ちゃんも、雪合戦の楽しみが少し無くなってしまうかもしれないから。
私も次に雪合戦をやる時は、出来るだけ普通に雪玉を当てられるように頑張ってみようかな。

「…あっ!!」

と、急にお姉ちゃんが思い当たったように声を上げる。

「ごめん、私ちょっと忘れ物してきちゃったみたい。ちょっと取りに戻るから、先に帰っててくれる?」

いやいやいや、何処に何を忘れてきたのよお姉ちゃん。
今日確実に手ぶらだったわよね?何も持ってきてなかったわよね?

「雛、ちょっと付いてきてくれる?」

「ほえっ?静葉?忘れ物なら1人でも大丈夫でしょ?」

お姉ちゃんに手を引かれて困惑する雛。
いや、そもそも雛は私たちより先にお姉ちゃんと一緒にいたんだから、お姉ちゃんが手ぶらだった事は知ってるはずなのに…。
「いいから付いてきてって。穣子、後はよろしくね(・・・・・・・)。」

それだけ言い残して、お姉ちゃんは雛を引きずるように誘拐する。

「ちょ、静葉~!ちゃんと説明してよぉ~!!」

「空気読みなさいバカ。」

ゴンッ!!と雛の頭に振り落とされるお姉ちゃんの拳骨。
それが痛かったから黙ったのか、それとも拳骨一発で意識を削り取ったのかは判らなかったけど、それ以降、お姉ちゃんたちが見えなくなるまで雛は動かなくなった。

「…なんだったんだろう…。」

お姉ちゃんのやってる事が全く理解出来なかった。
忘れ物なんてあるはずないのに、わざわざ雛を連れて…。
…まさかと思うけど…。

「くすくす、静葉も粋な事をしてくれるわね。」

レティその言葉で、まさかが確信へと変わる。
うーん、どうもお姉ちゃんの今日の行動は気味悪くて仕方がない。
わざわざ私とレティに気を使って、2人きりにしてくれたのだろうけど…。

とにかく、私達は再び妖怪の山に向かって歩き始める。ただ、ずっと黙ったまま。
だって、二人きりになったからって、何を話せばいいのか…。
いや、話す事は確かにあるんだけど…。

「穣子、チルノと大妖精はどうだった?」

と、少し歩いた後に、レティが私にそう問いかけてきた。

「ん、とってもいい子達だったと思うわ。
 チルノはちょっと生意気だけど可愛いし、大ちゃんは素直でいい子だったし。」

素直な感想を述べる。本当に、あの二人はいい子だと思う。

「そう、良かったわ。」

それだけ言って、レティはまた黙ってしまう。
…そういえば、一つ気になってることがあったんだっけ…。

「ねえレティ、こんな事聞いていいのか判らないけど、何でレティとチルノや大ちゃんは友達になったの?」

おかしな質問だろうけど、何で妖怪のレティと妖精のチルノや大ちゃんが一緒にいるのか、少し気になっていた。
気が合うから、とか言われればそれまでの質問だけど…。
…今日一緒に過ごして、なんだかレティのチルノへの執着がかなり強い気がしたから、ひょっとしたらそれだけじゃないんじゃないか、と…。

「…そうね、確かにちょっと変かもしれないわね。
 以前冬が長引いた異変の時に、チルノとは知り合ったのよ。
 お互いに巫女や魔法使いと弾幕ごっこして負けた、と言う共通点もあったし、それで意気投合したのが最初だけど…。」

どこか遠くを見つめながらそう話すレティ。きっと、その時のことを思い出してるんだろうけど…。
…巫女と魔法使いって、ひょっとして霊夢と魔理沙の事かなぁ。いや、それしかいないわよね…。
レティ、あなたもあの二人の被害者だったのね。

「穣子、妖精が短命だって事は知ってるわよね?」

「ええ、それは勿論。だけど、妖精はすぐに同じ姿で蘇るから、結果的には死なない存在なのよね。」

一応私も幻想郷に長い間住んでいるし、その程度の事は流石に知っている。
妖精には死という概念は存在しない。ある意味では、不老不死である。

「ええ、その通り。妖精は死ぬ事は無い。当たり前だけど、チルノや大妖精も死ぬ事は無い。
 …だからこそ、私はあの子達と友達になりたかったのよ。」

…えっ?

「雪合戦の時に言ったわよね。私は冬の環境でしか生きる事が出来ないって。
 私は雪、何時どんな事で溶けてなくなってしまうかも判らない。
 そうでなくても、私は妖怪だから寿命がある。何時かは、あの子達ともお別れしなくちゃいけない時が来る。」

静かに話すレティの言葉を、私はただ黙って聞く。

「だから、私はあの子達に、私の事を覚えていて欲しい。
 何時か私がこの世からいなくなった後も、私はあの子達の心に生きていたい。
 …そして、それはあなたもよ、穣子。」

「えっ?」

「あなたにも、私の事を忘れないでいて欲しい。
 あなたは、私に冬以外の世界を教えてくれた大切な存在。あなたは私にとって、真の意味で“秋の神様”なのよ。
 …だから、あなたにも私の事を覚えていて欲しい。あなたの心にも、私はずっと生きていたいから。」

…ああ、なるほど。どうしてレティが、最初チルノに逢いに行く前にあんな寂しそうな顔をしていたのか。
レティは妖怪。チルノは妖精。何時かはお別れをしなくちゃいけない時が来る。
何時までも一緒にいる事は出来ない、そんな差を感じての思いを、あの表情が物語っていたんだろう。
レティは本当に、チルノの事を大事に思っているからこそ…。

だから、私は絶対にレティの事を忘れないでいよう。
私も何時か、レティとお別れしなくちゃいけない日が来るんだろうけど…。
私は、レティを死なせたりしない、絶対に。何時までも私の心の中にいて欲しい。
あなたが私を“秋の神様”と形容するように、私もあなたの事を“冬の神様”だと思っているから。

「…穣子、ありがとう。私はあなたに逢えた事、本当に感謝してるわ。」

ううっ、急にそんな事言われても、何て言い返せばいいのか…。

「それは、私に感謝する事じゃないわよ。もっと別の神様に感謝しないと。」

「でも、ありがとう。あなたに逢えなかったら、私は秋を知る事は出来なかったから。」

…レティ、私はそんなに大した存在じゃないわよ。
冬の終わりも、今日も、私はレティに色々な事を教えられてばっかりだったし…。

「…私はあなたに謝らないといけないわね。ごめんなさい、秋の事を教えてあげるって言ったのに…。」

冬の終わりに約束しておきながら、結局私は、レティに何も秋の事を教えてあげられなかった。
こんな私が秋の神を名乗るなんて事、本当に許される事なのかな…。

「いいえ、それは違うわよ穣子。」

と、レティが急に足を止めたので、私も反射的に足を止める。

…レティの手がぽんと、私の頭の上に置かれる。

レティが私に冬を教えてくれた、あの時と同じ暖かさを持って…。



「私はもう、素晴らしい“秋”を貰ったわ。何者にも代えられない、大切な“秋”をね。」



レティが何を言っているのか、私には判らなかった。
私もお姉ちゃんも、レティに何も教えられなかったのに…。
私がレティにしてあげられた事なんて、レティが私にしてくれた事に比べれば、無いに等しいくらいなのに…。
なんで、レティはそんなに満足そうに笑えるんだろう…。

「レティ…。」

でも、その満足そうな笑顔は、私の心を少し溶かしてくれた。
私がレティに何をしてあげられたのかは判らないけど…。
…レティが満足していると言うなら、それだけで充分だから…。

「それじゃあ、私はこっちだから。」

と、気付いてみればもう妖怪の山の麓まで来てしまっていた。
意識してなかったけど、話したり色々しているうちに、そんなに歩いていたのか…。


「じゃあね穣子、また明日ね(・・・・・)。」


私に小さく手を振るレティ。
また明日、たったそれだけの言葉だったのに、なんだかとても嬉しかった。

だって、また明日もレティに逢えるのだから。
冬の終わりの時みたいに、長い間逢えなくなるわけじゃない。日が昇れば、またレティに逢う事が出来るんだ。

「…ええ、また明日逢いましょう、レティ。」

私がそう答えると、レティは今日一番の笑顔を浮かべてから、私に背を向けた。
そう、また明日だ。また明日も、レティやチルノたちと一緒に…。

「…よしっ!!」

そう考えると、何だかとても楽しみになってくる。
私は思わず、家に向かって走り出していた。

明日は一体どんな遊びをするのだろう。明日は一体、どんな事があるんだろう。
もっともっと、レティと沢山の思い出を作りたい。レティと同じ時間を過ごしたい。

まだまだレティとの時間は始まったばかりなんだ。


私は、冬と生きる事が楽しみになった…。





『秋と冬 交じわらざらん 時なれど 繋ぐ心は 永久に続かん』



―秋と冬

―決して交わる事のない

―時間なのだろうけれど

―今こうして繋がった心は

―きっと永遠の絆になってくれるはずだ…。














今日は、酢烏賊楓です。こんな話を書いておきながら寒さには物凄く弱いです。
そんな事はどうでもいいですね、それでは後書きみたいな物を。

穣子とレティの時期ネタ、覚えていたので8ヵ月越しに書いてみました。
レティが何の妖怪であるかと言うのはあまり詳しく明言されていないので、大分独自の解釈が混ざっています。
大ちゃんの瞬間移動についてもある程度独自の解釈です。
静葉姉様空気だなぁ…。最初はもっと活躍の場があるはずだったんですが…。
逆にチョイ役止まりだったはずの雛様がなんかおかしな事に。…キャラの持つ魔力と言うものでしょうか?((

穣子とレティ、秋の神様と冬の妖怪、そんな二人が仲良くする話。
冬が目の前に迫ったこの狭間の時期、こんな事が有ってもいいんじゃないかな、と。
…本当は立冬くらいに書きたかったんですけどね。余裕で遅刻しました。((
…まだ12月前ということでご勘弁を。((

何時もながら、少しでも楽しんでいただけたならば重畳です
御意見、感想、誤字訂正、その他ツッコミなどがございましたら是非お願いします。
酢烏賊楓
magic_three_map@yahoo.co.jp
http://www.geocities.jp/magic_three_map/touhou_SS.html
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コメント



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2.10名前が無い程度の能力削除
前回の秋姉妹とレティの話が結構好きだったので、期待していたんですが、
ちょっとドタバタし過ぎてまとまりがなくて私の好みでは無かったです。
もうちょっとしんみりする部分が多くて、きっちりレティに秋を楽しんでほしかったなあ。
あと、もうちょっとギャグ部分の切れが良ければよかったんですが、ただうっとうしい感じになってたのが
残念でした。
7.無評価酢烏賊楓削除
コメントありがとうございましたー。
ちょっと早めに返しておくべきかな、と思ったので。

前作が8ヶ月前なだけに、期待通りになっていなかったのであれば大変申し訳ありません。
…前作で既に「チルノ辺りと色々やるネタ話に~」と書いているので、出来ればその時点でドタバタ話になることは予想しておいて欲しかった所なのですが…。
ギャグの切れに関してはぐうの音も出ません。完全に私の力不足です。
…やっぱり文章って難しいデス…。