Coolier - 新生・東方創想話

ある日 彼岸の 幻想郷で

2008/11/09 01:16:02
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手を伸ばす。

何時までも消えない光がチカチカとして眩しい。

ああ、あれは太陽の光か。それとも、迎えの光か。

ただ、沈黙が支配する冷たい土の上。

そこが湿っているのは何も雨のせいだからではない。

多分、大方は私が原因で色鮮やかに大地を彩っていることだろう。

証拠にこんなにも身体があつい。雨後ではあり得ない温度である。

天高く煌めくお天道様の温もりか。

心地よく意識を飛ばしてくれる。

目を閉じたまま天に向かって突き上げた腕を降ろす。

端から、目を開ける余裕もない。

ただ静寂が蔓延る泥の上。

大地に横たわる術しか持ち合わせていないとは死神の名に恥じように。


一迅の風が吹き抜けた。


ふとあの人の声がした気がして、自然と目が開く。

そこに拡がるのは今にも雨の降りだしそうな暗雲垂れ込む彼岸の天蓋。

人影などとうに消え果てた河原に彼女の声すら届くはずもなく、どこからか響く波の音に意識が混ざっていった。


あれ、そういえば。

お天道様は何処へ行った。

私の身体はこんなにもあついのに。

目の前にはまだ光がちらついているというのに。

「まったく、いつからそんなになったのさ。あたいの感じた温もりまで幻想になったなんて、ホント、ついてないねぇ」




  ◎ ◎ ◎




秋深まりし夜の帳はうっすらと、瞬く星を産み出してゆく。
三途の川の水面は淡く、重く沈んではかき消える。
いつからか、この景色が好きになった。
西の空が茜色に、藍色に、明るく優しく混ざっていくこの景色が好きになった。


風は止む。


河原の彼岸花は郷愁にかる紅を縁の川面に施していく。

思えば、あの時、彼女にここの分担を割り当てられた時分に太陽は出てはいなかった。
まだ、夜も開けずに黒い垂れ幕によって辺りが覆われている時分だった。

緑の髪が微かに揺れて、赤白黒のリボンがたわむ。

今となっては懐かしいあの悔悟の棒は未だに文字がはっきりと読めていた。
そのうち叩きすぎの御利益あってか罪の字がだんだん薄くなっていくのだが。
そんなことは知る由もない。
まだ物静かだった彼女の先導で見た暁明けの日の出は今のように綺麗だった。

今は西陽の橙色に視線を流しているけれども。

ふと、気付けばいつも夕刻の空を眺めてることが多かった。
朝焼けは見ることができないので、夕焼けにあの彼女を重ねて見ていたのだろう。
今はいない彼女を思うとそう感じられた。
幾度となく怒られた朝寝坊は未だに治らない。
おかげで朝日は愚か、朝露、朝顔の花まで顔を合わせることはない。
起きればいつもお天道様は頂付近に鎮座している。
私は彼女と顔を合わせることもなく、船頭を続けていた。


前髪が揺れる。


少し風が出てきた。
乗っている船は櫂をさされて揺れ、波間に煽られ進んでいく。
そろそろ、かつての終業時刻が訪れる。
日が落ち、風が吹き、花は歌い、月は踊る。
宴の予感をいっそう際立たせる夜の風に緩やかな雨の匂いを感じた。

ここは幻想郷番外地。
死霊集いし斯の賽河原。

いつかの賑わいも絶えて久しく、流れる舟は一隻のみ。
日の暮れた川面には船頭が独り映るだけ。
唐突に口を突いたのは溜め息一つ。
軽く出でては重そうに落ちていく。


 ◎ ◎


遠くに流れ星が光った。


幻想的な夜闇に駆ける一筋の煌めき。
しかし、それは消えることなく。

ただ一途に走り続ける。

ささくれだつ周りの草花、波形、霧影。
櫂越しに不穏な電気まがいの違和感が伝わる。
けれども、私はその向かってくる流星を眺めていた。
否、惚けていた。
着々と質量を持ちゆく彗星弾を七色故の美しさにただただ惚けるしかなかった。
辺り一面に低く響く空気を裂く音。
肥大化する閃光塊は真っ直ぐ此方へと向かう。

左手の河原に着弾する。

轟音とともに暴風が吹き荒れる。
彼岸の花々は風とともに周りを廻る。
七色の疾風に巻き込まれ、踊り狂う。
世界が暗転したような夜の河原を七色の星々で染め上げる。
一瞬で閃光は炸裂し、光は幻想の外れに吸い込まれていった。

一部始終を止まった時の中で立ち尽くす。

天蓋を砕く勢いの隕石は花に埋もれて、淡く戻った暗闇に漆黒の本体を顕にする。
昼間のように明るくなったのが嘘のように再び暗転。
残されたのは、花畑に降り立つ漆黒の魔女と余韻に揺れる川面の死神。

「あたたたた、やっぱり痛ぇぜ」

全身打撲ではすまなさそうなものを、砂ぼこりを振り払うだけで健康体へと復帰した。

「あんたに贈り物だぜ。サボり神様よ」

四間弱は離れている距離からなにやら包みらしきものを振り回してくる。

「あたいにかい?」

聞くまでもなかった。

「こんな心気臭いとこにあんた以外に誰を訪ねてくるんだ。ばっちり届けものを届けに来たぜ。光速宅配霧雨便だぜ」

そうだ。
ここには私しかいない。

魔女はまだ続けた。

「ただし、ただではやれないぜ。私と弾幕勝負して勝ってみせな。それが送り主からの条件だぜ」

なぜか誇らしげに頷く魔女。
言伝てを全うできたのが嬉しいのか、弾幕勝負を楽しみにしているのか。

「だれからの包みなんだ」

「それは言えないぜ」

 
 ◎ ◎ 


不思議なものが来るものだ。

ここ暫く誰からの音沙汰もないと思ったら、轟音と一緒に魔女が荷物を持ってきた。
送り主不明。
弾幕勝負のおまけつき。

―――彼女はどうしてるだろうか。
そんな思いが頭をよぎった。

「その勝負、のった!」

売られた喧嘩はなんとやら。
久方ぶりの鎌を構えて鈍った身体を叩き起こす。
三途の川を霊が渡らなくなってからこれといって弾幕を張っていない。
懐かしい記憶を掘り起こす。

あの時はまだ彼女がいた。


魔女が小さな炉に手をかける。

幾重にも重なり、輝く星光が闇を暴きたてていく。

一筋、二筋、三筋、繰り返し流れていくスペルの条なる光を横薙ぎ一閃、灰塵へと帰す。

鎌を振り上げ河原の大地へと突き立てる。

地を這い、紫の霧を纏いし魂をぶつける。

回り被せる七色の星屑がことごとく弾き返し、七色に紫が覆われ、奇妙な色合いを醸し出した。

色の弾幕が晴れる前に、踏み込む。


距離を操る程度の能力。


一気に縮まった間合いをこれ見よがしに大鎌の横断で捩じ伏せる。

空気中に散々するダイヤモンドダストの如き星の残骸が鎌の引き連れし風に舞う。

白刃が黒衣へ触れ合う寸前。目一杯振り切られた力業が左側から帯を一蹴。

河原の花を巻き上げて右方へ飛ぶ。

伸ばした右手を軸に大地を掴む。

両足を鎌に当て地面との接触を図った。

鎌が河原の表面を抉り、眠れる砂塵を巻き起こす。

川霧と相まって、粒子を大きくした砂が魔女と死神を隔てる。

ぶっ飛ばした間に炉に光が集約されていく。

直感で合間をゼロに。

―――見開いた魔女の瞳にはくすんだ自分が映った。

石突を腹めがけて押し込む。

軽く触れた刹那、衣擦れの音とともに消える。

魔女は姿を目前から姿を消し、目下には長い影が現れる。

「転移魔法。予めここに陣を張っていたのさ。敵に背を向けるなんて決闘には御法度だぜ」

魔女は振り返る私の顔を見て不敵に、自慢気に笑いながら、手を突き出す。

余りの眩しさに目が霞む。

夜の川面に七色が瞬く。

手に握られた小さな炉には満々と湛えられた光の奔流が凄まじく、在る。

魔女の口が裂ける。

「恋符、マスタースパーク!」

閃光が暗い空を穿つ。

幾重にも重なりながら進行していくスペルを川面に映した三途の川は波の立つこと甚だしくなり、河原の草花は激しく彩られた。


逆光に動く自らの影に彼女の声を聞いた。

―――「また、サボっているのですか」

それは警告でも罵倒でも忠言でもなく、紛れもない彼女からの言葉。

もはや埋もれてしまった言葉。


 ◎ ◎


かえっては来ない日常に埋もれた彼女の呆れた顔を、河原の七色に輝く彼岸花に重ねて―――

魔女との距離を離す。

離す。

離す。

離す。

―――距離を操る程度の能力

光が見えなくなる迄に。

魔女の声が、姿が、一切が消えて失せる程に。

一条の星屑も残らぬ様に。

私の仕事場が静寂を吹き返すことを夢みて。

賑わいを取り戻すことを想って。

魔女との距離を離した。


距離にして万里。

感覚にして無量。


永劫の彼方には一針の穴ほども見えなくなった七色に夜の暗さが舞い戻る。

暗い。

霧が立ち込め始める。


前髪が揺れる。


私は力を出しきった身体のまま地面へと崩れ落ちた。
大の字に寝転び、広げた手に固いものが触れる。
それは魔女の寄越した包みの塊。
頭上に持ってきた包み紙は焼け破れ、中身が覗いていた。


それは一輪のクラスターアマリリス。


送り主を表記したラベルは真っ黒になり、判別はつかなかった。
だが、あの人の心が見え隠れしてある気がして、その深紅へと目を向ける。
優雅に反り返る花びらは剃刀の如く。
その赤を手元まで垂らす。


紅く染まった両腕。


気付かぬ負傷に意識が移る。
身体が熱い。
頭の中では幾条もの光線が巡る。
魔女はどうなっただろうか。
考える前に意識が飛びそうになる。
開いた目は黒々とした天球を捉える。

いつまでも変わらなかった空。
霧雨の薫りのする河原。
ゆっくりと身体を覆う熱気が心地よい。


一迅の風が吹いた。


手を離れて送られてきた花が飛ぶ。
風なりに舞い落ちる。
その花は河原に咲く他の花々と混じりあい、区別はつかなくなった。

ただ、一面が赤く縁取られる世界。

人影はなく。

動くものもなく。

聞こえるものもなく。

見るものも聞くものもいない。



 ◎ ◎ ◎



ああそうだ。
魔女がいること自体可笑しいのさ。
考えるまでもないじゃないか。
あの人も居なくなって久しいのに、あんな人間が今まで生きていたなんて。

ああ、また、一人になっちまったなあ。

おおっと、いけない。

なんであたいがこんなことになってるんだい。
あたいらしくもない。
あたいには今を過ごすことしかできないよ。

だってねぇ―――



「あたいに涙は似合わないのさ。そう思わないかい?」
初めての投稿となります。
初めましてではない方も幾人かいらっしゃると思いますがあの時はお世話になりました。
至らぬところも多いとは思いますがご指南の方よろしくお願いします。

設定的には物凄く未来の話。
ヤマザナドゥはいらっしゃらず、三途の川も機能していない世界で小町の見たある日の幻想。
多分、地獄の色々な政策の一環として小町が一人残された模様。
本文は意味が通りにくいかもしれませんがご容赦願いたい次第です。

東方うpろだの方に挿絵を置いておきます。よろしかったら合わせて見て下さい。《 th3_6603.jpg 「ある日 彼岸の 幻想郷で」挿絵  》
極月獄月
http://www.geocities.jp/mordantam/
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