Coolier - 新生・東方創想話

輝夜と妹紅のお弁当対決

2008/11/08 17:07:19
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 迷いの竹林。その奥にある永遠亭。今日もそこで、月姫と不死鳥の争いが行われていた。

 「喰らえ輝夜! 『ヴォルカニック・キャノン』!」
 「甘いわ妹紅! 『マジックシリンダー』! その炎は貴女が受けなさい!」
 「なんだと……うわあああ!」

 勝負は決した。

 「ふふふ。これで私の345戦173勝ね」

 手元の勝敗表に印をつけ、輝夜は満足そうな笑みを浮かべる。
 対面に座る妹紅は、それとは反対に不満そうな顔をする。

 「くそっ! 次だ! 輝夜に負け越すなんて耐えられない!」
 「いいわ。次は何が良いかしら?」
 「そうだな……」

 部屋を見回しながら、妹紅は次の種目を考える。
 しかし、将棋も、囲碁も、チェスも、百人一首も、坊主めくりも、おままごとも、なわとびも、全て勝負がついている。
 初心に戻って弾幕ごっこをして周りに被害を出そうものなら、また永琳と慧音のお仕置きが待っている。
 そんな、悩める妹紅の眼にある物が映った。

 「よし。次はこいつで勝負だ!」

 妹紅の指差す先にあるのは……

 「おにぎりでどう勝負する気?」

 妹紅が勝負をするためにここを訪れるまで、輝夜が食べていたおにぎりだった。
 輝夜の食べかけおにぎり。魅惑の響きである。おそらく写真つきで競りに出したら会場は戦場と貸すだろう。
 そんなことはさておき、妹紅はおにぎりに向けた指を輝夜に向け直す。

 「次は料理対決だ!」

 妹紅の言葉に、輝夜は絶句する。
 そう。料理対決といえば、太古の昔から行われてきた勝負方法である。悪の組織を壊滅させたり、地球滅亡を救ったり、リアクションにより、人の過去すら変えてしまう……まさに究極の勝負方法と言えよう。
 その重みをよくわかっている輝夜には既に、先程までの笑みは無い。

 「流石ね妹紅……この料理対決で長い間続けてきた私達の戦いに完全な決着をつけようというわけね。いいわ。永遠亭の主として、藤原妹紅のライバルとして……この勝負受けないわけにはいかないわ」

 いつにもまして真剣な輝夜の表情に、妹紅は少々気圧される。しかし、そこは長年張り合ってきた好敵手である。そんな事は表に出さず、不敵な笑みを浮かべる。

 「よし。じゃあ早速台所を借りて……」
 「いいえ、ダメよ妹紅」

 妹紅の提案を最後まで言わせず、輝夜は即座に否定する。

 「こんな大切な勝負、即興でやるわけにはいかないわ。それに、おにぎりを発端とするこの戦い。それ相応のものじゃなきゃいけない」

 おにぎりに相応なものとは何だろう。ちなみに中の具はおかかが好きな妹紅である。

 「相応……?」
 「そう。お弁当対決よ!」

 こうして、輝夜と妹紅の弾幕を使わない勝負346戦目の種目が『お弁当対決』に決まったのだった。





 「永琳ー? 永琳ー?」

 永遠亭の台所から、主の声がする。

 「はい。どうしました? 姫」

 呼んで一分もせずに、月の頭脳は台所に入る。

 「出来たわ。ちょっと味を見てちょうだい」

 輝夜が差し出したのは、竹筒で出来た弁当箱。

 「出来ましたか。わかりました。味見しましょう」

 それを受け取った永琳は、蓋を開ける。
 まずは白米。中央には梅干しが嵌め込まれ、見事な日の丸を描いている。
 続いておかず。筍の煮物に大学いも、それにほうれん草のおひたしが細やかに周りを彩る。中央にはメインである鶏の唐揚げ。

 「……では。いただきます」

 とても数年は台所に立っていない姫の料理とは思えない見た目に驚きながらも、永琳は箸をとる。

 ぱく。もぐもぐ。ぱく。ごっくん。

 美人薬師の口に運ばれた料理は、口の中で噛まれ、転がされ、飲み込まれる。

 「どう……かな……?」

 一通り箸をつけた所で、輝夜は不安そうな上目遣いで尋ねる。

 「そう……ですね」

 永琳は箸を置き、微笑む。

 「大丈夫。これならきっと妹紅も美味しいって言いますよ」
 「本当!?」

 先程の不安げな表情から一変。顔を輝かせる。

 「ええ、後は本番で失敗しなければ大丈夫ですよ」 「ふふふ。見てなさい妹
紅。明日こそ、この戦いに終止符を打つんだから……」

 決意に燃える輝夜。その横で、「私にも作ってくれたことないのに……」と、永琳が涙しているのには気がつかなかった。





 所変わってこちらは竹林の外れの小さな家。妹紅の住む家。

 「邪魔するぞ。妹紅」

 寺子屋からまっすぐにここに来た慧音は、鼻をくすぐるいい香りに眉をひそめた。
 さらに足を進めると、ちゃぶ台に、普段より豪華な料理が並んでいる。

 「こ、これは一体!」

 慧音は美しい顔を壊して驚いた。びびった。アッチョンブリケ。

 「ああ、来たのか。慧音」

 台所から妹紅がやって来る。

 「も……妹紅……これは一体……」

 慧音は震える手でちゃぶ台の上を指さした。
 妹紅が料理をしたのに驚いている訳じゃない。彼女は毎晩二人分の料理を作っている。
 この豪華さに驚いているのだ。いつものをにとり印のくるくる寿司とするなら今日のは値段が毎日変わる寿司だ。

 「正月は……先だよな」

 ちゃぶ台の真中に居座るチラシ寿司の桶に、慧音は誰に言うわけでもなく尋ねた。

 「別に。ちょっと予行練習してたら作りすぎただけだよ」
 「練習? 何のだ?」
 「弁当。すぐ食べるだろ? おかず温めてくるよ」

 そう言って妹紅は台所に戻る。

 「そうか……弁当か」

 上着を畳み、床に置く。
 そして窓の外を見れば三日月が美しく輝いている。

 「妹紅……」

 慧音は目の奥の熱いものを堪えて言った。

 「慧音、感激」

 弁当は自分のところにくるもんだと、信じて疑ってなかった。





 決戦当日。永遠亭、輝夜の部屋にて。

 「覚悟は良いかしら? 妹紅」
 「それはこっちの台詞だ。輝夜」

 互いに、弁当箱を持って対峙する。その部屋には重く、静かな空気が満ちていた。

 「じゃあ……これが私のお弁当よ」

 輝夜が竹筒を差し出す。

 「これが私の弁当だ」

 妹紅も輝夜のものと似た竹筒を差し出す。

 「じゃあ……」
 「ああ……」
 「「いただきます」」

 二人は、同時に蓋を開ける。そして、同時に料理に箸をつける。

 「もぐもぐ……これは!」

 妹紅の作ったチキンカツを口に入れた輝夜の眼が見開かれる。

 (……このチキンカツ、一見油がキツそうに見えて、かなりあっさりしている! 油っこいものが好きじゃない私でも無理せず食べられるわ! それにこの焼き加減! まさに私好み……この境地は永琳にしか至れないと思ってたのに……)

 「むしゃむしゃ……これは!」

 輝夜の煮物を食べていた妹紅の眼が見開かれる。

 (この煮物……固すぎず、柔らかすぎず……まさに絶妙だ。これは筍本来の食感を最大限に引き出している! それにこの味はどうだ! まさにお袋の味……ああ、母上が懐かしい)

 互いに眼を見開いた後、二人は箸を置く。

 「負けたわ。妹紅」
 「お前の勝ちだ。輝夜」

 同時に、敗けを認めた。

 「いいえ、貴女の勝ちよ。このお弁当には私を満足させようという気持ちが溢れている」
 「いや、お前の弁当からは食べたものへの慈愛が感じられるよ」
 「いいえ、貴女の方が……」
 「お前の方が……」
 「貴女の勝ちって言ってるでしょ!」
 「お前の勝ちだ!」
 「何よ!」
 「何だ!」
 「いいわ。表に出なさい」
 「弾幕だ!」
 「ブリリアントドラゴンバレッタ!」
 「パゼストバイフェニックス!」

 その日、数週間ぶりに行われた弾幕の嵐はすっかり安心していた竹林を大混乱させるには十分すぎるものだった。





 「てっきり私にだと思ったのに。私にだと思ったのに」

 そんなことをぶつくさ呟きながら慧音はおにぎりを頬張った。

 「ん?」

 窓の方を見れば、子供達が外を見ながら騒いでいる。

 「何かあったんだろうか?」

 どっぷりと落ち込んでいたため肝心の発端を聞き逃してしまったのだ。彼女にしては珍しいミスだ。

 「まぁいいか」

 視線をおにぎりに戻すと、慧音はまた食事を再開させた。

 「私だと思ったのに。私だと思ったのに。一体誰に? 一体誰に?」

 今日の慧音先生は、にじみ出るオーラとかがちょっと素敵じゃなかった。
初めまして。滝村です。

ああ、輝夜の食べかけおにぎり食べたい。
妹紅のチキンカツ食べたい。
滝村
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コメント



0.1010簡易評価
3.60煉獄削除
料理・弁当対決なのはいい!
でも、肝心の内容が薄すぎて残念です。
それに最初からそんなに料理が出来てしまえば、せっかく時間をとったのに
上達するとかの醍醐味が!(滅
だから、非常に残念に思います。
7.70名前が無い程度の能力削除
山が無い。あと乱闘オチにするんならけーねとかえーりんとか…
9.80名前が無い程度の能力削除
永琳と慧音のお約束な反応がたまらないぜ
12.80名前が無い程度の能力削除
もうそろそろ愛が芽生えて破綻しそうな二人ですね、解ります
14.60名前が無い程度の能力削除
発想・展開は好き。
ボリュームが惜しい。
16.90謳魚削除
この位あっさりなSSも好きだったり。
姫さまともっこが料理上手って素敵。
待つんだ作者、姫さまが作られた及び口にした食べかけのお弁当は永遠亭の共有財産だから迂闊な行動と発言は死を招くぞ!
実はえーりんは姫さまの料理が食べたいのにいつもタイミング悪くて頼めないとか。
きっとけーねはたまに影を背負うからハクタクなんだよ。(意味不明)
>「バゼストバイフェニックス」→「パゼスト」ではないかと。
20.70灰華削除
不老不死でも虫歯になるのかな?
まぁそれよりもおままごと勝負がどんなのか気になってしょうがない。
21.無評価滝村削除
>煉獄さん

>内容が薄すぎる
薄すぎたか・・・いや。最初はちゃんと修行パートもあったけど冗長すぎたから省略した・・・
という言い訳はさておき。
とりあえず輝夜はさておき、妹紅は普通に料理出来る・・・を支持する私です。
でも、確かに『料理対決』で両方努力とかしないで決着ってのはまずいな・・・
ご指摘、ありがとうございます。

>7さん

>けーねとかえーりんとか・・・
けーねは寺子屋で、えーりんは診療所でそれぞれ悲しみにくれています。
ヤケになった二人を乱入させてもよかったかもな・・・
だが、しかし。
二人は『先生』と呼ばれるような重要な仕事をしているんだ!それを放り出して乱闘なんて・・・しそうだな。

>9さん
多分この後永琳と慧音は夜雀の屋台で飲み明かす・・・んじゃないかな。
互いにお弁当のことで愚痴りあいながら・・・

>12さん
次はお洗濯対決。その次はお掃除・・・家事のスキルを競い合い、そして最後はどちらがパートナーに相応しいかって勝負で同棲でも始めるんです。多分。

>14さん
ボリュームか・・・
長さ的には「少し短いけどこんなものかな?」と思ってたので、自分の感覚的に「少し長すぎる」くらいで丁度いいのかも知れないですね。
以後、心がけます。

>謳魚さん

>迂闊な行動と発言は死を招くぞ!
あはは。何言ってるんですかそんなわけ・・・あれ。何かさっきから外に兎さん達が・・・

>「バゼストバイフェニックス」→「パゼスト」
あ、本当だ・・・ご指摘ありがとうございます。修正しました。

>灰華さん

>不老不死でも虫歯になるのかな?
・・・そう言われるとならない気がしてきた。病気とかじゃない方向に修正します。ご指摘ありがとうございました。

>おままごと勝負
どちらが先に恥ずかしさでやめるかを競う勝負。
てゐの書いた台本つき。
22.80名前が無い程度の能力削除
プチ向けな話の気がしないでもない。
26.80名前が無い程度の能力削除
多少冗長でも料理対決に欠かせない要素として、
意外なアイデアと過剰なリアクションにはもっと力入れてもいいと思った!
慧音の反応は終始すごくよかった!けどオチにはちょっとよわいかもだ
27.100名前が無い程度の能力削除
愚痴るけーね・・・たまらん
28.70名前が無い程度の能力削除
阿智太郎的な…
たしかにあと一段階欲しかったなー
32.70名前が無い程度の能力削除
なかなかほのぼの