Coolier - 新生・東方創想話

秋神ワインの湯

2008/11/06 21:21:49
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一応注意:オリジナル設定が入ります。温泉注意。





「雛さーん」

 とある妖怪の山の麓の夕方。
 私、オータムシーズンにフィーバーな秋の神、秋穣子は友達で厄神の鍵山雛さんの家を訪れている。しかし、何度か扉を叩いても反応は無い。おかしいなぁ、今日この時間は家にいるって言ってたのに。

「雛さーん」

 ──コンコン

「……おかしいなぁ、いないのかなぁ」

 声も聞こえないし……。

「諦めてかえろっか」

 言って私は振り返り、帰ろうとした。そのとき、

「こっちよ!」
「うひゃぁっ!?」

 急に背中に氷室に入れた蒟蒻を入れられた時と同じの冷たさを感じ、私は飛び上がった。

「な、何をするかー!」

 ──ぶんっ

 私は背後にみのりん☆ぱんちを打つ。しかしその手はつかまれ、攻撃は入らなかった。

「いいセンスね。だけどコーヒーを飲んだ後にカップの底に溜まってる砂糖よりも甘いわ」
「普通溜まらないわよ! ……って、雛さん?」
「おとといきやがれ♪」

 今私の攻撃を止めたの雛さんだったんだ……。って、いつの間に後ろに?

「いや、おとといきやがれって……。さっきまで後ろにいなかったわよね?」
「家の中にいて返事してたのに反応が無かったから驚かせただけ。裏口からこっそり出れば楽チンよ」
「返事してないじゃん!」
「してたわよ。穣子のノック音とほぼ同時にかなり小さく『だが断る』って」
「聞こえるはずが無い!? というか断られてた!?」
「なんとなく穣子のノックって断りたくならない?」
「私に聞かないでよ!」

 というか他人のノックとどう違うって言うのよ!

「まぁ中に入りなさいな。あなたのために厄神様特製ヤックルームを用意しておいてあげたから。不幸絶賛増量中よ♪」
「何か中に入った途端に不幸の嵐に会いそう!」
「まずは落とし穴ね。偶然家の中にあった」
「思いっきり意図的なの来た!?」
「まぁ安心しなさい。私は不幸にならないから」
「何を安心しろって言うの!?」

 うん。雛さんと会話すると本当疲れるよ……。

「えーと……」
「本当にヤックルームな訳ないじゃない。肥料と水を用意してあげるから上がりなさいよ」
「私作物扱い!?」
「腐ってやがる! 遅すぎたんだ!」
「なんかすごくひどい言われようだ!」
「勘違いしてるみたいだから言っておくけど、腐ってたのは穣子よ」
「ああ勘違いじゃ無かったわよ!」
「あら、よかったわ」
「よかないわ!」

 何よ! イジメ!?

「まぁ家の中で厄の心配はしなくていいわよ。ただのヒナハウスだから」
「ただのヒナハウスって……」
「鍵山雛のアジトだからヒナハウス。すごいネーミングセンスでしょ」
「え? あ、う、うん。……まんまやんけ」
「何か言ったかしら?」
「ナニモー」

 実は前、雛さんにネーミングセンスがおかしいと言ったところ、急に「あなたは私を怒らせた」って言われて弾幕勝負に半強制的に持ち込まれた。ちなみに雛さんはエクストラ化してたって言っても過言じゃない弾幕だったわ。何よ、なんで流刑人形の小さい玉が青の大玉になってるのよ。もちろん私は即落とされた。以来、私は雛さんのネーミングセンスの話題は封印している。突っ込む時は雛さんに聞こえないように注意を払ってるし。

「まぁいいわ。……とりあえず入りましょうよ。気になるけど気になるけど気になるけど」

 …………すごい気になってる。

「う、うん」

 私はとりあえずヒナハウスの中に入ることにした。
 いつもどおりの鍵山家。いつもどおりの家具の配置。そして、いつも通りの──ブービートラップ。

「トウッ!」

 私が家の中に入った瞬間、頭上から何か液体のようなものが落ちてきた。間一髪、避ける。

「除草剤!? なんて危険なものを!」
「対象の厄度によって落ちてくるものが変わるの。今回はあなたの人き──」
「ぶっこぉすぞ!」

 人に気にしてることをそう軽がると口にしおって……。

「まぁ今回のトラップは難なく避けれたみたいね。次回は何にしようかしら」
「いや、やるなよ」
「とりあえずお茶でも入れてくるわ。待ってて」
「無視かい」

 言って雛さんは立ち上がる。

「あ、一応言っておくけどここで農薬とか出したらゼロ距離穀物神の約束するから」
「……そ、そんなことするわけ無いじゃない、嫌ねー。うふふふー」
「そうよねー。あはははー」

 やっぱり考えてやがったかコノヤロウ。




「それで──ズズ──今日は──ズズズ──どんな用事──ズズズズ──なのかしら?」

 お茶をすすりながら雛さんが聞いた。少し落ち着きなさいよ、お茶は逃げないんだから。

「あ、そうだ。これこれ。…………ハッ!」

 言って私は両手を肩の上まで上げる。すると、

 ──ひゅー……ガッ!

「あ痛ぁっ!?」
「……一人で何やってるのよ」
「いや……こんなはずじゃ……」

 私は頭に落ちてきたビンを一本、机の上に置いた。え? どこから落ちてきたのかって? ……豊穣神の成せる業よ。気合を入れて手を上げると落ちてくるの。神様だから、で納得してもらえると嬉しいわ。

「何? その液体」
「ワインよワイン。葡萄のワイン」
「ワイン……?」
「知らない? 洋酒のこと」
「あぁ……私は基本日本酒しか飲まないから……。へぇ、これがワイン……」
「私の手作りのワインよ」
「手作り……さては私の暗殺を計画しているわね!?」
「何が!?」
「手作りのワインの中に数本小さな針を入れる。あとは飲むのを待つだけ……いかにも穣子が考えそうなことだわ」
「考えないから! というか暗殺する理由が全くもって見当たらないわ!」
「カッとなってやった」
「カッとなってないから!」

 その程度の理由で暗殺なんかしてちゃ幻想郷の豊穣神なんてやってられないわよ。

「で、それは私にくれるのよね?」
「うん。そのつもりで持ってきたんだし」
「じゃあ早速飲みましょうか」
「早っ!」
「欲望には従うものよ。特に今の私は興味や好奇心や知識欲もあるし」
「いや、どれもそこまで変わらないでしょ」
「それだけ飲みたいってことよ…………あ」
「? どうかした?」
「ちょっといいこと思いついたわ」

 雛さんが片目を瞑って人差し指を唇に持っていきながら言った。

「なになに?」
「穣子をいじめる八千九百通りの方法」
「何考えてるの!? というか多すぎ!」
「……じゃなかったわ。豊穣の神様をいじめる八万九千通りの方法ね」
「同じだ! というか増えてる!」

 十倍はいくらなんでも増えすぎでしょ。

「まぁ冗談はここら辺で終わりにして、本題に入るわ」

 言って雛さんはズズとお茶を飲んだ。私もつられて飲む。

「実はね、このワインを美味しく飲む方法を思いついたのよ」
「ワインを?」
「ええ。まぁついてくれば分かるわ」
「ついて……外に出るの? もう夕方よ?」
「あー……今日は泊まっていきなさい。別に死ぬほどおねーちゃんが恋しいのなら送ってあげるけど」
「いや、別に今日このまま帰ればいいだけの話でしょ」
「うふふ。果たして穣子はアレを見て帰ろうだなんて言うかしらね」
「……まぁ、見るだけ見てあげるわ」

 私の言葉を聴くと、雛さんは準備をしてくると言って家の奥に入っていった。少しして、大きく「ヤクッ!」と書かれたタオルを二つと、グラスを二つ、お盆を一つ持ってきた。

「タオル?」
「ええ、必要なのよ。穣子の帽子からブドウを奪うために」
「なっ! これはダメよ! 私のアイデンティティなんだから!」
「ふっ……もっと奪いたくなってきたわ」
「絶対に渡さないわ!」
「このタオルがある限り、あなたは私に勝てない」

 雛さんがものすごく自身あり気に言う。一体どんな秘策があるって言うの!?

「な、何故?」
「何故なら……ジャンケンで三種同時効果を持つ例の技を出しても反則にならないからよ!」
「何が!? タオル関係ないし、まずジャンケンなの!? しかも相当セコい!」
「ミスディレクションってやつね。タオルを意識させて『意外ッ!』みたいな……」
「ミスディレクションは手品の話よ! 普通の会話で使うものじゃないわ!」
「まぁぶっちゃけ私穣子のブドウに興味ないんだけど」
「じゃあなんで今ブドウ奪うなんて言ったの!?」
「ほら、なんかボケなきゃいけないかなって」
「別にいいわよ! 私のツッコミが増えるだけだし!」

 気分で無理やりボケないでよ!

「まぁいいわ。さっさと出発しましょう。めくるめく厄の世界へ」
「急に行きたくなくなった!」

 ツッコミをしつつ私は立ち上がり、雛さんについて家を出た。



 目的の場所は雛さんの家から一分ほど歩いた場所にあった。私はその場所を見て、一言。

「…………き、今日は雛さんの家に泊まっていこうかしら」
「あら? 帰るんじゃなかったの?」
「気が、変わったのよ。ええ、そう気が」

 私がその場所で見たもの。それは──

「豊穣神、厄神の用意したエサに堕ちる」

 何故か樹海にある温泉だった。しかもちゃんと石で周りを囲ってあったりして本格的だ。温泉が好きな私にとってこれを避けるのは得策とは言えないだろう、と思えるくらいしっかりと出来ている。

「堕ちてはないわよ。……多分。と言うかなんでここに温泉があるの?」
「あぁ、にとりが引いたのよ。『地下に人間を潜らせて地獄烏を手なずけさせたのも、全てこのための伏線だったのさ!』って」
「…………いや、何やってるのよ……」
「核の研究に一段落着いたところで──と言っても最近なんだけど──私のところに来て、冬の異変の話をしたらいつの間にか温泉の話題になってたのよ。で、温泉にまだ入ってないって言ったら『雛って温泉まだ入ってないの!?』とかって驚くの。別に厄神だから普通よね? 迷惑かかっちゃうもの。でもそう言ったらいきなりにとりが泣き出して『私、雛のために温泉作るよ!』って言って、こうなったわけ」
「……雛さん自分の能力気にしすぎよ」
「いいえ、少しも気にしすぎてなんかいないわ。むしろ穣子は軽く見すぎなのよ。あなたは厄の本当の恐ろしさを知らない。溜まりに溜まった厄は……そう、金ダライなんかじゃない。ドラム缶を落とすのよ」
「何が!? 真面目な話だと思ったのに!」
「にとりは口惜しくも皿を割らなかったけど」
「にとりさんにドラム缶落ちたんだ! しかも口惜しくもって言った!」
「次は絶対に割るわ」
「にとりさんの生死に関わるからやめて!」

 というかあの帽子の中ってやっぱり皿があったのね……。てっきりアホ毛かと思ってたわ。

「さ、入りましょう」
「あ、うん。……脱衣所は?」
「無いわよ。今まで私かにとりしか入らなかったんだし」
「…………そうよね」
「ま、その籠の中に脱いでおきなさい」

 そう言って雛さんは温泉の右のほうを指差した。

「不自然に籠の乗せてある棚だけがある!」
「にとりの『せめて脱いだ服を入れる場所だけでも置いておこう』っていう発案で出来た作品よ」
「もう少し考えはなかったの!?」
「シンプルさを目指した結果よ」
「シンプルとかそういう問題じゃない気がする!」
「ちなみに厄を自動で噴射する機能付きよ」
「なんで!? 付けた意味がわからない!」
「厄が大量に付いている服をそうと知らずに着たにとりが大量に降り注ぐドラム缶相手に絶望的な表情をして悲鳴を上げるのには何かそそられるものがあったわね」
「やっぱり被害者はにとりさんだった!」
「ちなみに私はその場を動かなかったけど当たらなかったわ。まるでドラム缶が私を避けて落ちてくるみたいだったわね」
「まるでじゃなくて避けてるのよ!」
「まぁもちろん嘘だけど」
「……そうだと思ったわよ」
「いや、その場を動かなかったのが」
「え!? 厄噴射装置は本当!?」
「さて、温泉入りましょう。もう待ちきれないわ」
「いや答えて! 答えてもらわないと私入れない!」
「少し汚れるかもしれないけど地面に置けばいいじゃない。少し汚れるかもしれないけど」
「う……」

 服、少しでも汚すと洗濯担当のお姉ちゃんが煩いのよね……。
 前なんて端っこにちょっと土が付いただけなのに耳元でにとりさん作の拡声器なるものを使って叫ばれた。…………とりあえず何回か殴った後で謝った。
 うーむ。これは案外究極の選択ね。百パーセントの確率でお姉ちゃんを殴るのと、五十パーセントくらいの確率で雛さんを殴るの。迷うわね。
 …………まぁ、賭けてみますか。というか多分冗談だろうからこっちのほうが得をするに決まってるわ。
 私は服を脱いで畳み、もしかしたら厄噴射装置が付いている棚の上の籠に置いた。そして入浴。

「あら、置くのね。じゃ、早速スイッチ入れましょう」
「本当に付けてたの!?」
「嘘よ、嘘。さて、私も入ろうかしらね」

 雛さんはそう言うと自分の服を脱ぎだした。
 私はゆっくりと温泉に足を入れると、そのまま勢いに任せて肩まで浸かった。体を熱いお湯が包む。

「……くるぅ~」

 最初はかなり熱いと思えたが、すぐに慣れた。湯加減もバッチリ。しかも神社のみたく人妖で溢れ返っている訳でもない。温泉は静かに入るのが一番よね。

「うん……最高……」

 私は目を瞑ってはぁー、と息を吐きながらそう言った。

「でしょう? ちなみに温泉の名前は厄の湯で決定したわ」
「……努力したのにとりさんなのに……」
「にとりが私に付けてもいいって言ったのよ」
「あぁ……やっぱり雛さんの命名なんだ」
「神的ネーミングセンスと言って頂戴」
「そりゃ私たち神様だけど」

 あの複雑な服を脱ぐのに少し時間を取られていた雛さんが入ってきたのだろうと思い、私はその言葉に適当な返答をした。そして目を開けて、

「…………。…………誰?」

 一、二秒固まった後、そう言った。え、いやだってさっきまで雛さんの声が聞こえてたのに今目の前にいるのは全くの別人……いつの間にここに来たのかしら。

「え? 偉大なる厄神様だけど」
「え……その良く分からない自己陶酔は……まさか雛さん!?」
「当たり前じゃない! 誰だと思ったよ!」
「そ、そんなはずないわ……で、でも……ハッ! まさか……」
「な、なによ」
「雛さん…………あなたはリボンが無いと誰だかわからない!」

 ──どーん

「え、えぇ?」
「もし、雛さんが首の前で髪を結んでなかったとするわ。すると……それだけでも別人に!」
「見えないわ! どこからどう見ても私よ!」
「ううん。案外別人に見える」
「嘘!」
「大丈夫。私は一回その姿の雛さんを見たから。……次に雛さんがリボンを取る時に弄れるし」
「全然大丈夫じゃないわ! あなた助ける気ゼロじゃない!」
「弄られキャラも、たまには弄っていいじゃない。神様だもの」

 うん。爽快ね。少しだけ雛さんを弄るにとりさんの気持ちが分かった気がするわ。

「と、とりあえず飲みましょう。私のことはひとまず置いておいて」
「そうね。『ひとまず』置いておいてね」
「ぅぐ…………。さ、さて、こちらが豊穣神作、ワイン『なんか銀杏くさい』です」

 雛さんはワインを持ち上げて言った。

「何勝手に名前付けてるの!? というかどこが銀杏の匂い!?」
「別に何の匂いでも良かったのよ。ワインの匂いであれば」
「雛さん銀杏の匂い嗅いだことある!?」

 私はいささか雛さんの嗅覚に不安を抱いた。銀杏の匂いのワインって何よ。

「では早速飲みましょう。……あら?」

 あぁ……そういえば洋酒は飲んだことがないって言ってたっけ。
 どうやら温泉に来てから運気が全部こっちに向いたみたい。
 私はワインのコルクの抜き方が分からずに戸惑っている雛さんを見てニヤニヤした。

「あれー? 雛さんコルクの抜き方分からないのー?」
「わ、分かるわよそれくらい。えーと、えーと……」

 雛さんはピッチリとビンの口にはまったコルク相手に四苦八苦している。下に向けてみたり、爪で取ってみようとしたり。……なんか小動物見てるみたいな気分になるなぁ……。

「……雛さんカワイー♪」
「う、うるさいわね! そうよ! わからないわよ!」

 言って雛さんは私にぐいっとビンを突き出してきた。私はこうなることを予測して持ってきていたコルク抜きを服の中から取り出し、それをコルクに刺し、抜いた。

「何よ、道具を使うんじゃない」
「うん。敢えて言わなかった」
「このっ……。まぁいいわ。それよりもはやく飲みましょう。どんな味か気になって仕方ないわ」

 ずっと、私のターン。次はどう弄ろうかしら。
 私はお湯に浮かんだお盆の上にグラスを二つ置き、そこにワインを注いだ。
 紫色の液体とともにワイン独特の匂いが溢れ出る。私はグラスの七割くらいまでワインを注ぎ、ビンを温泉の石のところに置いた。お猪口じゃないから流石にお盆の上には置けないわ。
 私と雛さんはほとんど同時にグラスを手に取り、そしてほとんど同時に傾けた。

「……なかなか面白い味ね……。でも温泉にはミスマッチな気がするわ」
「あー……まぁあんまり温泉に入りながら洋酒って言うのも聞かないしね。基本私たちが飲んでるのが日本酒だからっていうのもあるだろうけど」
「まぁ、ね。でも新鮮な味ね。結構好きかも」

 雛さんはまたグラスを傾けた。心なしかほんのりと頬が赤みがかっている気がする。もう酔っているのだろうか。私もグラスを傾けた。

「っふぅ……。やっぱり苦労して造ったワインはおいしいわね」
「そうね……」
「いや、雛さん何もしてないでしょ! 何私も努力しました的な顔してるの!?」
「美味しいワインが飲みたいっていう念を送ったわ」
「嘘だ! 最初ワイン出したときに『そんなのもあったわね』見たいな顔してたじゃん!」
「念を送りすぎて境地に達してたからよ」
「そこまで送ってたの!? 送りすぎだ!」
「まぁもちろん冗談だけど。……でもそろそろ新鮮な味がほしいとは思ってたわね……。そう、ちょうどこんな風に秋の匂いがする……」
「へ……ふぇ!?」

 急に雛さんが私の腰に手を回し、そして耳を甘噛みしてきた。雛さんの吐息が感じられる。温泉の熱さとは別に要因で私の体は熱くなった。

「なななななな何をー!?」
「秋っておいしいのかしら? おいしいわよね、お芋のにおいするし」

 そう言って雛さんはくんくんと匂いをかいだ。芋の匂いって……まさか私特注の芋香水の匂いのことかしら……。って、そんなことより落ち着いて状況整理よ穣子!
 まずワイン飲んだ! そして雛さんおかしくなった! …………十中八九ベターなあれじゃん……。

「……も、もしかして雛さん酔ってる?」
「酔ってないわー。私にはしっかりとおいしいサツマイモが見えてるもの」
「オーケー酔ってるな」

 まさか雛さんがこんなにお酒に弱いなんてうひゃぁっ!

「み、耳やめて! 弱いの! 耳弱いの!」

 また雛さんが私の耳を噛んできた。
 と、とりあえずどうにかしてこの場を切り抜けなきゃ! 私までおかしくなる!
 私は雛さんから離れようともがく。が、

「逃がさないわよ! 厄いほどにおいしそうな秋!」

 予想外にも強く捕まえられていて逃げられない。

「お、落ち着いて雛さん! 私お芋じゃない!」
「うん。それはわかってるわ穣子」
「分かってたのかよ!」
「あぁ~おいもおいも~」
「殴るぞ!」

 私がそう脅すと雛さんは私から離れた。
 まったく、酔った振りして何してるのよ!

「穣子、可愛かったわよ♪」
「へ、変なこと言わないの! な、何がしたいのよ!」
「神と神とのスキンシップよ」
「そ、そんなこと言って……厄が移っちゃだめでしょ!」
「いや実はこの温泉ね、厄の効果が薄まるみたいなのよ。だから普段あなたたちと距離を取ってる私もこうして接近できるのよ。……そう、こうして」
「ひぅ!?」

 雛さんが今度は首に手を回して私に抱きついてきた。私はびくっと跳ねる。

「そうそう、実はね、私にとりとは一緒に入ったことないの」
「……へ? そうなの?」

 素直に驚く。ほぼ毎日雛さんのところに来ているにとりさんとだったらもう入っていると思ったのに。

「ええ。……何かにとりが狼になりそうな気がして」
「なんじゃそりゃ」

 河童は河童でしょうが。

「いや……穣子には早かったわね。で、どうやって厄の件を知ったかというと、迷い込んできた猫と一緒に温泉に入ったからなのよ。黒い毛に所々赤い毛が混ざってる珍しい猫と」
「へぇ……それでどうだったの?」
「猫死んだ」
「厄移ってる!?」
「嘘よ。三時間入ったけど死傷者は出なかったわ。猫もドラム缶どころか金ダライすら落ちてくる気配無かったし、ちゃんと弾幕も出せたし」
「弾幕!? それどこかおかしくなったんじゃないの!?」
「え? どこもおかしくなかったわよ? スペルカードも出せたし」
「スペルカード!? 猫なのに!」

 それもう別の生物じゃないの? 動物がスペルカード使うなんてありえないし。

「まぁそういうわけでこの温泉内では誰とでもゆっくりできるのよ」
「なるほどね」
「あぁ、でも注意してね。この温泉は厳密には『厄が伝わりにくくなる』だけだから、厄い人が入っても厄が取れるわけじゃないから」
「了解したわ」
「さてと…………」

 言って雛さんは私の体から離れ、ワインのグラスを手に取り中身を飲み干した。

「今夜みたいな気分がいい夜は一晩中飲み明かすのもいいかもしれないわね」
「……一晩中温泉の中には居たくないんだけど」
「もちろんよ。そんなつもりは無いわ。二次会は私の家で」
「……で、この一次会はいつ終わる予定なの?」

 私が聞くと、雛さんは月を見上げた。それから私のほうを向いて答えた。

「さぁ? 気分で決めるわ」

 私は聞いてくすりと笑った。とても、雛さんらしい答えだと思った。

「それは名案ね」

 秋の、終わりに近い、よく月の映える夜のことだった。
どうも、メガネとパーマです。
知っている方もいると思いますが、第六回東方SSこんぺに参加させていただきました。こんなん投稿していいのだろうかっていう作品を投稿してあるので興味のある方は見てみてください。ちなみに私初の地霊殿メインです。

さて、今回の作品ですが、温泉です。
……私、温泉好きなんですよ。で、せっかく地霊殿で温泉話が出たんだしここはそれを応用して……って感じでこの作品を作りました。十作品目(こんぺの入れたら)なのでたまには動かないでまったりするのも有りかなと思った節は有りますが。
今回もにとりの出番はなしですね。したがって今回も「はぅ!」はありません。……「はぅ!」はにとりだけの特権なのですよ。
まぁ次回は風一~三面ボス(もちろん静葉お姉ちゃんもだよ!)の話を書く予定(一応です。フランとかこいしとか早苗さんとかに誘惑されない限りは……)です。ぱっとプロット見てみた感じちょい長くなりそうですね。だいたい25KBくらい。
まぁ気長にお待ちください。

あ、あとサイトも一応作ったのでよろしければそちらの方も見てみてください。すげえ適当に、且つシンプルに作ったのでSSの保管とブログしかコンテンツ無いですが。


そうそう、私がコーヒーを飲むとたまに底に砂糖が残ります。



<おまけ>(こんぺ作品読んでから読んだ方がいいですが、別に雛と燐が友達だって分かってれば大丈夫です)



「お姉さん!」

 私が自宅でお茶を飲みながらくつろいでいると、ものすごい勢いで扉を開けてお燐が入ってきた。

「あら、お燐じゃない。そんなに慌ててどうかしたの?」
「ひどいじゃないか、あたい以外と温泉に入るなんて! 通りすがりの紅葉の神様に聞いたよ!?」
「あぁ……」

 静葉……余計なことしやがって。

「でも、私が温泉に入り続ける限り、いつかは起きていたことよ。ただ、それが早かっただけのこと……あなたは私と一番最初に入ったでしょう?」
「それは……そうだけど……」
「なら一番乗りじゃない。今、あなたは誰よりも得をしてるのよ?」
「そ、そうかな?」
「そうよ」

 私が言うとお燐はうれしそうな顔をした。感情の変化がいつも以上に激しいわね。

「うにゃー♪ やっぱりあたいお姉さん大好きだよー♪」

 そう言ってお燐は私に抱き付いてきた。……水が満タンくらいまで入ったドラム缶がお燐に落ちてくるまであと二十秒ってところね……。



※11/7 指摘箇所を修正

※11/8 さらに指摘箇所を修正
メガネとパーマ
http://gandp.web.fc2.com/
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コメント



0.270簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
芋香水・・・?
6.80名前が無い程度の能力削除
訂正です。
>最初はかなり暑いと思えたが、すぐに慣れた。
湯加減なので「熱い」のほうです。
7.無評価メガネとパーマ削除
コメントありがとうございます。
>1さん
きっと穣子は人間の里で特注していると思うんですよ。いやなんとなく。

>6さん
ご指摘ありがとうございます。修正しました。
8.100#15削除
雛さま-リボン=…

うん。考えないことにしよう。主に、神主さまが緑髪が好きだとか、だから多いとかについては。
9.無評価メガネとパーマ削除
ぐああ! フランちゃんと早苗さんからの誘惑がッ!
コメントありがとうございます。
>#15さん
にとり「誰!?」
静葉「……誰?」
燐「……どなたさまですか?」
雛「うわぁん! 泣いてやるぅ!」

それ以来厄神様はリボン無しでは生きていけない体になったとさ。

雛とリボン。そこには、切っても切れない縁があるのだと思います。
10.90名前が無い程度の能力削除
>>あなたはリボンが無いと誰だからわからない!」
誰だかわからない では?
11.無評価メガネとパーマ削除
>10さん
指摘ありがとうございます。修正しました。