Coolier - 新生・東方創想話

今際の約束

2008/11/06 16:11:25
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※注意
この話には以下の点が含まれます。

・ゆかれいむ
・死

苦手な方は注意を。

それと、もしかしたら性格が違うかもしれません。















鳥居は神社の参道入口に立てて神域を表す一種の門―――つまり境界―――である。
そんな役目を持つ神聖な鳥居の上に座るなどということはあってはならい。
ならない、のだが……。
幻想郷にある二つの神社の内の片方、博麗神社の鳥居の上にそんな罰当たりな人間がいた。
赤と白の特徴ある服を着ている罰当たりな人間は、他でもないこの博麗神社の現巫女・博麗霊夢であった。

霊夢は鳥居の上に腰を下ろし、沈みゆく太陽と眼下に広がる景色を眺めていた。
鳥居の上からは人間の里などの幻想郷の風景がよく見えた。
しかし眺めていると言っても、その目は太陽にも景色にも焦点をあててはおらず、虚空を映していた。
それもその筈。
彼女の頭は考える事をやめている。
考えることをやめ、記憶を辿っているのだ。

「……現の夢…ね。……言い得て妙ね。今の私にとっては……」

自嘲するかのような苦笑をこぼす霊夢。
視線を動かしても、やはりその目には何も映っていないのだった。


【今際の約束】


「……寒いわね……」

何時からそうしているのだろう。
何時までそうしているのだろう。
体は芯まで冷えきっているというのに、彼女からは家のなかに入ろうという気配を微塵も感じることが出来ない。
時折寒いと呟くだけである。

――あぁ。寒い。あいつら……今頃は……

心まで寒いと呟く傍らで、いくつかの知り合いの顔が浮かんでは消える。

――どうせ家の中で暖まってるんでしょう。こっちが寒い思いしてるってのに。

その知り合い達に八つ当りをしながら記憶の糸を辿る。

「氷精なんかははしゃいでるんでしょうね」

秋は既におわった季節。
冬は彼女達にとって一番心地よい季節なのだ。

「……なら、紅魔館辺りはここよりも寒いでしょうね」

氷精が動き回れば気温が下がる。
あの館の周りは気温がここよりも低くなっているはずだ。

――まぁ、咲夜あたりが何とかするんでしょうね。

あそこには瀟洒で完全なメイドがいるのだ。多少の寒さは何とかしているだろう。

――あの紅い霧もどうにかしてほしかったわ。

賛同する前に諫めろよと、呟きながら紅い霧の記憶を辿る。

  紅い霧が広がった夏のこと。
  犯人を探して辿り着いた紅い館。
  そこで出会った幼くも気高い吸血鬼。
  叩きのめしたら神社に来るようになって。
  そんなうちに妹とも戦った。

紅い記憶はそこで途切れる。

――懐かしい。

それ程昔の話ではない。
だが、“今の”霊夢にとっては酷く懐かしく感じられた。

「……降ってきたか」

遂に雪まで降り出す。
ふわりと舞い落ちる雪を見て、霊夢の頭は、長い冬の記憶を辿り始めた。

  長すぎた冬のこと。
  春を探して着いたのは冥界の屋敷。
  出会ったのは妖怪桜に魅せられた亡霊の姫。
  春を取り返した後にもう一度冥界へ行ってみれば、
  隙間妖怪とその式と戦う羽目になった。

冬の記憶が途切れる。

――結局、春は短いまま。あぁ、それが宴会騒ぎの要因にもなったか。

どうやら霊夢の頭は彼女の認識の及ばぬ範囲で、今までの異変の記憶を辿る事にしたようだ。
加えて無意識の内に霊夢はそれを望んでいるようだ。

  三日置きの宴会のこと。
  犯人は霧となって眺めていた。
  居なくなったはずの鬼の幼女。
  結局完全に退治は出来ずに幻想郷に居座る事になった。

宴会騒ぎの記憶は賑やかに想い出され、あっけなく途切れる。

――まぁ、楽しい宴会だったわ。

三日置きは流石に大変だが、宴会の度にあの鬼は美味そうに酒を飲むのだ。
萃香が加わってから宴会の酒はより美味しくなった。
それならば。
それならば鬼が加わろうともかまわなかった。

そんな思いに霊夢が浸りきる事は出来なかった。
彼女の頭がそれを許さなかった。
記憶を辿る事だけしかしない頭はそんな思いは要らないと、月の記憶を引っ張り出した。

  満月の消えた夜のこと。
  隙間妖怪に連れられるまま赴いた竹林の屋敷。
  不死の月人に出会うことに。
  肝試しで竹林に行ってみれば、
  蓬莱の人の形に喧嘩を売られることになった。

今までで一番長く大変だった夜の記憶が途切れる。

――……そういえば…。

思えば、誰かと協力して異変を解決したのはあれが最初だった。
彼女と。一緒に。

――……紫……。

その思いに反応して、頭は先日の記憶を辿ろうとする。

ズキン、と。
記憶が痛む。
心が痛む。

――……いや。思い出したくない。あいつの……あんな……。

  先日のこと。

――や、めて。

  話があると隙間妖怪を神社に呼び出して。

――やめて。

  そこで伝えたのは……「やめて!」

ぶつり。
そんな音が聞こえた気がした。


◆◇◆


「寒い」

思い出したくもないことを思い出した頭はあれから沈黙を守っている。
そんなうちに太陽は完全に沈み更に気温は下がり体温は奪われる。
だと言うのにやはり母屋に戻ろうとはせず、風景を眺めている。
勿論、その瞳には何も映ってはいない。

――……。永夜のあとは……大結界だったわね。

再び過去の異変の記憶を辿る。

  花が咲き乱れた春のこと。
  紫の桜が咲く中で。
  閻魔は死神に頭を悩ませていて。
  ありがたくもない説教をいただいた。

花の記憶が途切れると、霊夢は一つ息をついた。

――『地獄にすら行けない』か。

あの時言われたことを思い返す。

「正解」

意味深に呟いた言葉は彼岸にいる閻魔に向けて放たれたもの。

「あんたの言った通りよ」

感慨深げに眼を細め彼岸のある方向を眺める。
ようやく、霊夢の眼がものを映し出すことをした。
しかしそれもすぐに消え、再び記憶の海へと意識を戻す。

  風祝が現れて神社の譲渡を迫られた秋のこと。
  山に越してきていた神社にて。
  そこの神と戦った。
  もう一柱とも『神遊び』だと戦わされた。

神との記憶が途切れる。

――分社が建って御利益はあったのかしら?

境内にある小さな分社に視線をやるがすぐに視線を外す。

――まぁ。いいか。もう……。

降りしきる雪が月の明かりに照らされて神秘的に舞い踊る。
霊夢はただただそれを眺める。

――あの後の大きな異変といえば……。

  天気がおかしく神社が倒壊した初夏のこと。
  山を登ってたどり着いたのは天界。
  暇を持て余していた天人を懲らしめて。
  なんだかんだと隙間妖怪の怒りが炸裂して。

「っ!」

先日の記憶が思い出されようとしているのに気づき、地震の記憶を途切る。

――……。思い出す必要は……ない。

忘れる様にきつく目を閉じる。
そんな霊夢を無視して記憶は辿られる。

最も最近の異変。
昨年の終わりの記憶だ。

  間欠泉と地霊が湧き出た冬のこと。
  地底に潜り見つけたのは地霊殿。
  そこには忌み嫌われた妖怪とそのペットがいた。
  全ての元凶である山の神を懲らしめようと向かえば。
  地霊殿の主の妹と戦うことになった。

熱かった冬の記憶はそこで途切れ、記憶巡りは終わる。

――あいつらはどんな顔を……。さとりにばれたのは失敗だったわね。

今日の昼、心を読まれた。

――さとりのあんな驚いた顔なんて初めて見たわ。

その時に彼女が見せた表情は霊夢が初めて見るものだった。

「……仕方ないじゃない」

誰に言うこともなく呟く。
否。
それは後ろにいる存在に向かって言ったものだ。

「……霊夢……」

夕方から霊夢の呟きだけが響いていた空間に、初めて別の声が響いた。
酷く痛々しく、酷く物悲しい声が響いた。


◆◇◆◇◆


ものには魂が宿る。
それは万物に等しく定められている。

そして魂には限りがある。
それもまた定められていること。

それは万物の定め。
即ち『理』

理は覆せない。

どう足掻いたのだとしても。


◆◇◆◇◆


「……霊夢……」

――あぁ……なんて声を……。

そこに居ると薄々気付いていたからこそ言った言葉だった。
それに特別な返事を期待していたわけでもなかった。
いつものように言われるとばかり思っていた。
なのに。
それなのに。
なんて声を、そう霊夢は思う。

そんな声が聞きたいわけじゃない。
だから、霊夢は無意識のうちに呟いていた。

「なんて声出してるのよ。……紫……」

振り向けばそこには、スキマから体を半分だしている八雲紫がいた。
じっと霊夢を見続ける紫。
霊夢は居心地が悪そうに身じろぎをして、先程までそうしていたように、向きを変えて幻想郷を眺め始める。

「………」

紫はそんな霊夢の姿を見て、体をスキマから出し霊夢の後ろに移動する。

そして。

そっと、後ろから抱き締めた。

「……何?」
「……すっかり冷えてしまっているわ」

霊夢はただ為されるがまま、寄り掛かりもせずにいた。

「えぇ、寒いもの」

紫の言葉にそう返す霊夢。
既にこうやって眺め続けて三時間近く。
冬の厳しい寒さの中なにもせずにいたのだ。
寒いのは当然である。

「そこまでして貴女は何も見てはいない。……意味は、無い」
「そうね」

さも当然。
霊夢の言葉にはそんな意味が込められていた。


◆◇◆


『あら、珍しいわね。霊夢が私に用事なんて』

『まぁ…ね』

『何かあったのかしら?』

『え、えぇ。……紫、あんた冬眠は?』

『そうねぇ。そろそろだけど……それが何か?』

『………』

『霊夢?』

『……紫。あんたに伝えなきゃならないことがあるのよ』

『あら?告白かしら?』

『違ッ……いいえ。あながち間違いじゃないわ』

『え?』

『紫。私は……』


◆◇◆


紫が霊夢を抱きしめてから暫く。
漸く、霊夢が口を開いた。

「……紫、暖かい」
「貴女が冷たすぎるのよ。霊夢」

じんわりと紫の触れている部分が温もりを感じる。
ただの気休めにしかならないその温もりは、霊夢の凍てついた思考を動かした。
霊夢はいまだ風景を眺めているが、その眼は先程までのように何も映していないわけではない。
まるでその風景を刻みつけるが如く、しっかりと風景を捕えていた。

「……寒い」
「えぇ」
「寒いわ」
「えぇ」

紫が暖めようと抱きしめる力を強くする。
しかし、その行動は意味を成さない。
紫がいくら辺りの気温から霊夢を守ろうが霊夢の寒さを止めることはできない。
霊夢が寒がっているのは、気温の低さが理由ではないからだ。
例えこの場が冬ではなく夏だとしても、灼熱地獄跡などの暑い場所でも、今の霊夢は寒さ以外を感じることはない。
そのことを紫は知っている。
知っているのに、紫は抱きしめるのをやめない。

自分が霊夢にしてあげられる事はこれしかないと知っているから。
だから、紫は抱きしめ続ける。


◆◇◆◇◆


魂は脆い。
わずかな衝撃によって傷つく。

されど。
通常、魂が傷つくことは滅多に無い。

魂は常に包まれている。
傷つかないように、傷つけられないように守られている。
だから、傷つくのは滅多にない。

もし、魂が傷つく事があるのなら。
それは魂を守る“力”が薄れたか、その“力”が守り切れないほどの負荷が加わった事になる。

そして、魂は命。
魂が傷つけば、命が傷つく。
寿命が縮む。

だが。
魂が傷つく事で起こる一番重要な事は寿命が縮む事ではない。

一番重要な事。
それは……


◆◇◆◇◆


『何故!?』


『あんたは私をよく知ってるでしょ。なら、分かるんじゃない』

『それは……』

『それに。あんたは妖怪の賢者。私の言葉の意味が分からないほど、愚かじゃない』

『……いやよ…』

『紫?』

『嫌よ!そんなの許さない』

『……紫、あんた……。泣いてるの?』


◆◇◆


――嫌だったのよ。本当に。

先日の事を思い出し、止まったはずの涙が再び零れるのを感じながら、霊夢がそうしていたように鳥居の上から見える幻想郷の風景を眺めた。

――だってそうでしょう。いつかは来ると覚悟はあったけど、こんなに早くなんて……。思いもしなかったもの。

「……また、泣いてるの?」

腕の中からの声に紫ははっとして、霊夢を見る。
霊夢は振り返って紫を見ていた。

「……二度目、ね。あの日も……あんたは泣いたわ」

その言葉に紫は何も言えない。
だが、霊夢は言葉を続ける。

「あんた、話を全部聞かずに帰るんだから。今日は、最後まで聞いてもらうわよ。……今日しか、無いんだから……」
「……霊夢」

霊夢は吐き出すようにあの日の続きを話し始めた。

「何年か前から違和感というかそんな気はしていたのよ。まぁ、確信したのは半月くらい前ね。朝起きたら、辺り一面血の海ですもの。流石に驚いたわ」

苦笑する霊夢に対して紫は辛そうだ。

「永琳の所に行くまでもなく『そういうことか』って納得したわ。あの時ほど自分の勘の鋭さを恨んだ事は無いわ。その日のうちに映姫が来てね」

曰く。

『巫女の魂の気配に異変を感じてきてみれば……。なんてこと……』
『貴方は……そんなになるまで、気がつかなかったのですか?』
『これでは、貴方を裁くことができない』
『分かっているのですか?裁きを受けられないということがどういうことか』

等々。

「散々好き勝手言ってくれたわ。あんたなら分かるわよね?映姫の言った意味」

紫には分かってしまう。
それが何を意味するのか。
だから悔しい。
だから悲しい。

「……まぁ、話したいことはこれくらいよ」

そう言って、霊夢は目を閉じる。
更に体温が下がったのか、小さく震えている。
その震えを止めるかのように紫は抱きしめ続ける。

――あぁ、霊夢。……霊夢。

伝えなければ。
そう思うも紫は言葉を出せないでいる。
今を逃したら伝えることは出来なくなる。
紫を今までに無い恐れが襲う。
伝えることに対する、言えなくなる事に対する、そして、失うことに対する恐れが襲う。

――怖い。失うことがこんなに怖い事だなんて……。

長い間生きてきた紫は知り合いを失うことには慣れていたはずだった。
生前の幽々子を失った時だって、それ程恐怖は感じなかった。

なのに。
それなのに。

霊夢を失うとなるとこれ程までに怖い。
それはつまり、紫にとって霊夢を今までで一番深く思っているという証拠だった。

だから。
紫は恐る恐る口を開いた。


◆◇◆◇◆


それは……


傷ついた魂は閻魔の裁きに耐え切れないと言うことである。
そして、魂の傷は癒すのに長い、本当に長い時間を要すると言うことである。

癒しが終わらなければ閻魔達は裁きを行わない。
否、行えない。

だから閻魔達は魂が傷つく事を酷く嫌う。
もし傷を負いそうな魂を見つけたら、助言をして傷つかないように配慮する。

それでも傷つく魂はある。
閻魔達が気づくことのできなかった魂もある。

傷ついた魂達は癒しが終わるまでの長い間、彼岸でも顕界でもないどこかで過ごす。
顕界は傷に悪い影響を与え、彼岸では他の魂達からの影響力が強すぎるためだ。
だから、傷ついた魂は生者にも死者にも見られることはない。

転生も成仏も出来ないまま、生前の知り合いを見ることも出来ないまま、傷を負った魂は癒しが終わるのを待つ。

長い長い癒しの間。
魂は何を思い、何を考えるのか。


それは、誰にも分からない。


◆◇◆◇◆


「……好きよ。霊夢」

小さな呟きは掠れてほとんど聞き取る事が出来ないものだった。
しかし、霊夢にははっきりとその言葉が聞こえた。
閉じていた目を薄らと開け、反応を示す。

「いつから……なんて分からないけれど。好きなの」

紫は言葉を紡いでいく。

「ねぇ。好きなのよ。どうしようもないくらい。貴女の事が……」
「……紫……」

氷を抱きしめているような感覚に囚われるほど、霊夢の体は冷え切っていた。
そんな冷たい手を霊夢は紫の頬にあてる。
霊夢の眼には困惑と動揺が広がっていた。

「…なんで……」
「好きなの」

泣きながら好きだと繰り返す紫。
霊夢は震える声で言葉を返した。

「……なんで……今なのよ……」

その眼からは大粒の雫が零れていた。

「なんで……」
「……霊夢?」
「……あぁ、くそっ」

悪態をつきながら霊夢は体制を紫と向き合うように変える。
そして、紫と視線を合せる。

「……あんたね。卑怯よ。人が折角、我慢してたっていうのに……」
「霊夢、それって……」

恥ずかしげに目線を逸らす霊夢。
それは肯定だ。

「……本当?」

紫の不安げな言葉に頷く霊夢。
ただし、言葉には出さない。
その代り、初めて霊夢は紫に自分の意志で縋り付く。
そんな霊夢を優しく、だけどしっかり紫は抱きしめた。


◆◇◆◇◆


今代の博麗の巫女の力は大きかった。
それこそ人の身に余るほどに。

巫女は数多く起きた異変をその力を持って解決していった。

しかし、その力は巫女を蝕んだ。
大きすぎる力はその身を、その魂(みたま)を守る“力”を削るはめになった。

元々、人の身には大きすぎた力は魂に大きな負荷をかけていたのだ。
今までは魂を守る“力”が負荷を和らげ、守っていた。

しかし度重なる異変とそれを解決するために力を使用し続けたのがいけなかった。

魂を守る“力”が役目を果たせなくなるほど削られていた冬の日。
地底に潜り、力を行使した瞬間。
巫女の魂を守る“力”は負荷に耐え切れず砕け散った。

巫女も巫女の周りの人間も妖怪も気付くことなく、巫女の魂に小さな傷がついた。

そして一年をかけてその魂は小さな傷を大きくしていった。
人の身に余るほどの巫女の力は、その力を行使せずともあるだけで魂の負荷になる。
ゆっくりと、しかし確実に魂の傷は大きくなった。

そして半月前。
ついに魂は悲鳴を上げた。

悲鳴は吐血という形をもって巫女に届いた。


◆◇◆◇◆

「紫」

ほんの僅かな時間。
だけど、彼女達にとっては長い時間二人は抱き合っていた。
抱き合っているうちに二人の眼から涙は消えていた。
霊夢の言葉を聞き紫は名残惜しそうに体を離す。

「何?」
「あんたは知っているでしょう?私がこれから何処に行くのか」
「……えぇ」

行先は知っている。だけど、そこに紫が行くことは出来ない。

「………。映姫がね。私の魂は他の人間や妖怪とは違うから、癒しが普通の連中と比べて長いらしいのよ」
「……それは…」

巫女の魂は神聖なものだ。
癒しの期間が延びるのは当たり前である。

「それでね。どうやら私はあの場所から動く事が出来ないらしいわ。たぶん、あんたが死んだ時もまだいると思うのよね」
「……それは、勘?」
「そう。私の勘」

巫女の勘はよく当たるのである。

「だから……」

その後に発せられた言葉は紫を驚かせた。


◆◇◆


「貴女らしくないわね……そんな言葉」

自分を取り戻した紫はそんな事を言った。

「まぁ……そうでしょうね」

対して霊夢は薄く笑って返事をした。

「今までは博麗の巫女として、寄り掛かりもせずにいたんですもの。あんたがそう思うのも当たり前よ」
「霊夢」
「最後くらい寄り掛かったって、罰(ばち)は当たらないでしょ」
「そうね。その通りよ」

そう言って二人は微笑んだ。

「返事は聞かない」
「わかったわ」

霊夢は紫に抱きついて言う。

「ねぇ。紫」
「なに?」

紫も霊夢を抱きしめ返す。

「寒い。それに、眠い」
「…ッ!……そう」

俯き抱きしめる腕に力らを入れる紫とは対照的に、霊夢の体からは力が失われていく。

「寝ても……いいのよ」
「いい、の?」
「えぇ。私が付いてるわ」
「紫……」
「なに?」
「……ありがと…」

何に対しての感謝なのか。
それを知る者はもういない。

「……約束、したわよ……霊夢」

呟く声が空しく虚空に響いて消えた。


◆◇◆◇◆




『待ってる』




◆◇◆◇◆


そう遠くない未来。
その約束は果たされる。
こんにちわ。
時風です。

今回はゆかれいむにチャレンジです。
いかがだったでしょう?

タイトルは今際(いまわ)と読みます。

内容の補足を少々。

霊夢が言っていた「現の夢」というのは「この世の現実が夢のようにはかないこと」という意味です。
過去の異変を思い出していたのは所謂、走馬灯ってやつです。
さとりにばれたのは霊夢がもうすぐ死ぬということです。
霊夢はさとりに騒がないようにと言った為、加えてその日の夜に死んだため、紫以外は神社に来ませんでした。

まぁ、こんなところです。

実はこの話、続きがあるんですが……
あげるかどうかは未定です。

(11/19)
読んで頂きありがとうございます。
続きはあげることにしました。
ここで終わってもいいんですが…
約束が叶えられる場面が書きたくなりました。

続きは
霊夢の死を知った幻想郷の住人の話(つまり、この話の直後の話)と
二人の約束が叶う話の2本です。

で、現在直後の話を書いているんですが……
難産です。ものすごく難産です。
全体像は掴めているんですが、なにぶんキャラが動いてくれなくて……。
もう暫くお待ちください。

(12/15)
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続編難航中
時風
kazenotayori_tokikoete@yahoo.co.jp
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コメント



0.1780簡易評価
6.80名前が無い程度の能力削除
こういう”ゆかれいむ”もいいですなぁ……
続きはぜひお願いします。霊夢と紫のその後や幻想郷の他の面々の気持ちとか気になります。
点数は続きへの期待も込めて満点回避で。
8.80名前が無い程度の能力削除
個人的にゆかれいむ限定ではなく他の人物も含めた話ならばなお良かった。
続きを期待します。
10.70名前が無い程度の能力削除
存在の死、か・・・
13.80名前が無い程度の能力削除
霊夢は愛されてるけど、やっぱりどこか孤独なイメージがありますよね・・・
続きは、是非読んでみたいところです

ハッピーかバッドか・・・・・後者っぽいなぁ
21.100名前が無い程度の能力削除
つ づ き ま っ て ま す
23.80名前が無い程度の能力削除
続きが気になるSSは本当に初めてだ。
 ゆかれいむ最高すぎる。

 自分に授けられた能力によって自分を壊す・・・というのは、あまりなかった話ですね。面白かったです。
27.90シリアス大好き削除
意味深めな前半パートですね、後半に期待してます…ここまでの流れは意外性もあって楽しめました
28.無評価時風削除
>6の方
そういって頂けると嬉しいです。
続きはもう少々お待ちください。

>8の方
あぁ、すいません。
他の面々を絡ませるとちょっと書きたいものと違うものになりそうで。
続きはほかの面々も出ますので。
期待道理になるかはわかりませんが。

>10の方
存在の死というか……魂そのものの死というか……
まぁ、普通とは違う死です。

>13の方
そうですね。
霊夢はどこか周りの人間との間に線を引いているような感じが私の中にあります。
ハッピーかバットかは本人達によります。
約束が叶う話でそれは明らかになりますね。

>21の方
全力で書かせていただきます!

>23の方
そう言ってもらえると書かなくてはいけませんw
よく“大き過ぎる力は身を滅ぼす”と言います。
それが、才能でも権力でも、何でもです。
人間は身に余る力を手に入れてはいけないんです。

>シリアス大好き様
後半というか、前・中・後になりました。
今書いている話が期待に添えれるような話であれば、と思います。

読んで頂きありがとうございました。
41.100蛸擬削除
この作品には個人的にとても思い入れがあって、今でも読み返すたび、文章の巧拙を超えて感じ入るものがあります。
紫さんも霊夢さんもそれぞれ、きっと私の想像以上の孤独を抱えて苦しんでいるのでしょう。そんな二人が出会えたというのに、なんだって別れはやってくるのでしょうね。それでもこの二人は強く生きて、それから死ぬのでしょう。
彼女らの寂寥の何万分の一にもならぬでしょうが、私も待つこととします。
続きを、期待しています。
45.100名前が無い程度の能力削除
ベネ