Coolier - 新生・東方創想話

瀟洒な洞窟大作戦 体験版

2008/10/26 03:01:45
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 地霊殿のネタバレを含んでいます。っていうかネタバレそのものです。

 すっげえ注意。























































 主人であるレミリアの部屋の掃除を終え、ドアを開け放った矢先。十六夜咲夜の視界に飛び込んできたのは、赤い絨毯の引かれた清潔な廊下ではなく、大量の湿気を含んだ薄暗い洞窟の中だった。振り返っても、侵入口だったドアは見当たらず、周囲は淡く苔が光るのみ。



「……ウチの廊下はいつのまにリフォームされたのかしら。おんぼろ神社もびっくり、劇的すぎるビフォアーとアフターだわ」



 前方も後方も深い闇に閉ざされており、どちらが入口で、どちらが出口なのか、まるで分からない。途方に暮れていると、前方から冷えた風が咲夜の体へと吹きつけられた。



「たいていは風が吹いているほうに向かえば出口よね」



 あっさりと決断して、出口と信じる方向へ飛ぶ。

 おそうじの続きもしなくちゃいけないし、買い出しも済ませなくちゃ。それからお洗濯ものを取り込まなくちゃ。

 咲夜の頭は仕事の残りでぎっしりと詰まったままだった。今日は珍しく自分を連れずに、ある意味厄介なご主人様と、普通に厄介な時もあるパチュリー様が博麗神社へと出かけて行った日。チャンスとばかりに普段できない仕事を片付けてしまおうと思った矢先の出来事だった。



「そういえば、おゆはんの中身考えてなかったわ。どうしましょう」



 寒さを和らげるために両手に息を吹きかけながら飛翔する。しかし、飛べども飛べども景色が変化することはなかった。



「こんなことになるならマフラーでも持っていけばよかったわ。あと手袋も……あら妖精」

「あら人間……って、人間だ、また人間が来たよー!」

「……また?」

「迎撃、げいげきー!」



 通りすがりの妖精は、咲夜の姿を確認すると、突然、警告もなしに魔法を放った。あわてて撃った魔法は大きくそれて、近くの壁に当たって弾けた。咲夜がどう対処しようか悩んでいると、奥から仲間の妖精がわらわらと湧き、次から次へと魔法を放つ。



「こんなじめじめした洞窟に入りそうな人間なんて、一人しか知らないわね。黒くて白い泥棒猫とか」

「固まるなー!動けー!一気にやられちゃうよー!」「変な服着てるわね」「黒くてよく見えないわ」



 わらわらと前方から飛び交う魔法の弾の群れを、大きく、ゆっくり飛びながら回避していく。突然現れた人間に動揺しているのか、みな狙いが甘く、やみくもに撃たれた弾は全て洞窟の壁へと叩きつけられていた。避けるのは簡単だった。自分が狙われる状況がよく分からない咲夜だったが、とりあえず正当防衛に乗り出すことにした。十中八九、厄介な知り合いたちが原因と勝手に判断して。



「ま、撃ってきたんだから、敵でいいわよね」



 取り出した数本のナイフをかかげ、狙いを定める。距離は適正。障害物なし。視界はちょっと良好じゃないが、咲夜の腕では狙いを外すほうが難しかった。



「よいっと」



 軽い掛声とともに放たれる銀のナイフ。その軽さとは逆に、ナイフは風を切りながら妖精の群れへと飛び込んでいく。無造作に見える投擲も、狙いは一本残らず正確に彼女たちを捉えていた。



「きゃっ」「あいたあ!」「ぎゃっ!頭に刺さったぁ!いたたたた……」「撤退よー!」



 ばたばたと地面に落ちていく妖精たち。蚊取り線香の煙にやられる蚊を連想させた。運よく咲夜のナイフの対象にならなかった妖精たちは、傷ついた妖精たちを引っ張りながら退散していく。普通の人間ならば十分に脅威である妖精の小隊も、普通の人間じゃない咲夜ならば腕を一振りするだけで退散願える。



「……とんでもないところに来ちゃったわね。出口は本当にこっちかしら」

「残念ながら、まったくの逆方向でございますわ」



 気配もなく背後から放たれた声に、咲夜は特別に驚く様子もなく、溜息をつきながら振り返った。そこには、何もない空間から上半身だけを現した八雲紫が不敵に笑っていた。



「出たわね黒幕。でも黒幕にしては早すぎる登場よねえ」

「それは私が黒幕じゃないから。でもここに貴方を誘い込んだのは私」

「刺していいのかよくないのかはっきりして」

「まずはこれを受け取ってね」



 もうひとつ、空間に穴が開き、中から拳大の大きさの球が飛び出し、咲夜の周囲で回転を始めた。同時に光を放ち、暗闇の洞窟を明るく照らし出す。西行寺幽々子が引き起こした春雪異変の際に活躍した、あの星型のオーブにそっくりだった。



「……とっても面倒事の予感がするわ」

「起動完了。もう喋っていいわよ」

(あー、あー。こちらレミリア・スカーレット。聞こえたら応答されたし)

「あら、お嬢様の声。かくれんぼですか?神社で宴会と聞いたのですが」

(私がかくれんぼをするのは人間を襲うときだけだよ)

「貴方の主人は確かに博麗神社にいるわ。ご友人の魔法使いも一緒よ。この球を通じて会話ができるの」

(ふふふ。この件が終わったら、これをもらう約束をしたの。これからはいつでもどこでも咲夜を呼びつけられる)

「願ったり叶ったりのような、踏んだり蹴ったりのような」

(さあ咲夜。さっそく私は命令するよ)



 オーブの向こうでレミリアが満面の微笑みを浮かべている様を想像した。



(霊夢に代わって異変を解決なさい)





















 Stage 1 忘恩の地から吹く風(幻想風穴)











 間欠泉と一緒に出る地霊たちを鎮めること。

 漠然とした内容だけ伝えた後、八雲紫は早々に退散を決め込んでしまった。



(そのまま奥に進んでてね。ちゃんと手助けしてあげるから)



 最近は仕事で館にカンヅメだった咲夜は、間欠泉の存在は知っていたものの、それが異変を引き起こしているなんてちっとも知らなかった。そのうち主人の寝ている間に温泉に入ろうと思っていた程度である。

 もっとも、いくら怨霊が沸こうとも、紅魔館には直接影響もないので、あまりやる気もない。さっさと帰って仕事の続きをしたい咲夜であった。



「迎撃っ!迎撃っ!」



 肌寒い洞窟の中でも、妖精たちは元気に編隊を組んで咲夜に襲いかかる。だが所詮は妖精、咲夜が投げるナイフの前では牛の行進みたいなもので、飛ぶ鳥を落とすよりもずっと簡単だった。

 しかし、数が溜まれば話は変わってくる。落とせども落とせども、妖精は数を増していく。このままずるずると状況が続けば、いずれは手持ちのナイフが尽きてしまうのは確実だった。せめて装備を整えることができればもっと状況は変わってくるのだが。



「いくらなんでも多すぎやしませんか、お嬢様」

(霊夢と魔理沙がひっきりなしに出入りしてたからね。警戒が強くなってるか、ものすごくお祭り騒ぎになってるか)

「やっぱり。どうしましょう、お掃除中だったからほとんど丸腰なのに」

(突き進め。いつもみたいに)

「まだ先は長いのでしょう?切り札はいっぱい取っておかなくちゃ」

(切り札っていっぱいあるものだっけ?)



 曲がり角に差し掛かると、案の定大量の弾幕によるお出迎えが待っていた。引き返して身を隠すと、魔法弾は対岸に当たり、いくらかの土砂やつぶてをまき散らしながら壁を削った。落ち着いたところでそっと身を乗り出すと、またもや大量の魔法弾が壁を削り取る。しばらく身を隠すと、魔法弾はぴったりと止んでしまった。攻め込まないあたり、どうやら向こうもこちらの動きを探っているらしい。こう着状態になってしまった。



「生き埋めになりたいんですかね、彼女たちは」

(妖精はそんな先のことまで考えない)

「あら。今度はパチュリー様の声」

(紫が通信機能を強化したの。複数人と同時に会話することも可能よ)

「よく分からないけど、すごいのですね。じゃあ、霊夢と魔理沙に代わってもらえますか?」



 間もなく、星型のオーブから力無い声が聞こえてきた。霊夢も魔理沙も、今は神社の布団で二人仲好く治療中だった。咲夜と同じように、妖怪たちにそそのかされては何度も地底に潜らされていたらしい。そして毎度返り討ちにあっていたらしい。そしてそして、今は全身に包帯を巻いたミイラ状態らしい。ものすごく情けない。



「まったく。本職さんも副職さんも、職務怠慢よ」

(まだ職務中だからサボってない。骨は後で拾ってあげるから、ぼちぼちでいいわよ~……あいたたた!)

(おい咲夜、もっと気合いを入れろよ。せめてあの館までは噛ませ犬になってもらわんと、代役よこしたこっちの面子が立たないぜ……いてててて!)

(はーい、すごく染みますよー)

(師匠、そゆのは染みる前に言うもんです。……それにしても、なんだか新鮮な格好ね、二人とも)

(あんたも行ってみたら?おしりに余計なボンボンついてるぶん、私よりもっとひどいことに……っっ───たああああああ!?ちょっと永琳、いた、いたたたた!!)

(ものすごく染みるガマの油ですよ~)

「……油って染みましたっけ?」



 永琳特製の火傷の薬で悶絶する情けない二人に代わって、ちょっとばかり人間様の根性を見せ付けてやらないと、また周りの妖怪たちに馬鹿にされそうだ。どっちにしろ、お嬢様の命令もこなさなくちゃいけないし。気合いを入れなくちゃ。手に持ったナイフを改めて握りなおす。



「さて。それじゃ張り切って───」



(あらあら、餅巾着が食べごろよ。早く取らないと崩れてしまうわ)

(幽々子様、もう器に入りませんよ。少し食べてから取ってください)

(何を言うか半人前。時は得難く失い易し。食べ時のタイミングを逃したら後の祭り……あーっ!私の松茸がもう消えた!?まるまる五本はあったのに!?)

(うっひゃ!?ごめんなさい天子様!)

(おおよしよし、私が悪かったね、橙。すまない天子殿、橙の褒美についつい)

(食べごろを逃すと美味しくないですし。ねぇ、椛)

(いや、その。あまってたから、文様と一緒に食べちゃいました)

(獣は食い意地が張ってるわねぇ……剥ぐか)

(まあまあ、機が悪かったということで。また採って食べればいいじゃないですか)

(……ひい、ふう、みい、よ。衣玖、貴方、最後の一本はどこのどいつが持ち腐れやがったか知らない?もしかしないことを祈るわ)

(おっとネギが煮えごろですね。下仁田ネギはだしで煮込むのが一番です)

(おまえかー!!)



「……………」



 握りなおしたナイフを取り落としそうになる。



「……い、いきます───」



(まま、せっかくの休みなんだし、閻魔様も呑みなせえ)

(……だから、明日は仕事なので、遠慮すると言ってるでしょう。そもそも鬼よ。貴方は少々酒を勧めすぎる。酒は自分に合ったペースで、程よく酔える程度にたしなむのが心にも体にも正しい呑み方です。最近の人間も妖怪も、まるで酒の楽しみ方を理解していなガボがぼがぼ───)

(お堅いこと言いっこなしですよ。無礼講ぶれいこう。おおっと映姫様、素敵な飲みっぷりですねえ。小町は感激いたしました!)

(うひゃー。一気飲みかぁ。容赦ないねえ死神は。私ゃしーらないっと。さて次の標的は、っと……)

(一気に酒臭くなったわね。蓬莱、あんまり酔っ払い集団に近付いちゃだめよ。酒臭さが移っちゃうから。上海、そこにしこたま転がってるワインを一本くすねてきて)

(……都会派魔法使いも田舎者になったか)

(いいじゃない。せっかくの馬鹿力が無駄に終わるよりはさ。ね、美鈴)

(腕が痛い、腰が痛いぃ……重量オーバーの量を運ばせないでくださいよぅ……誰か揉んでぇ……)

(お呼ばれしたよ。そんな時はにとり特製の電気マッサージ機で解決さ。パッドを腕に取り付けて、スイッチをオン。するとあら不思議)

(し、痺れるぅ……あいたた、いたたた!?びりびりくるぅぅー!!しかも外れないし!!)

(途中で剥がれちゃうから接着剤を使ってみたんだ。安心してじっくり揉みしだかれな)



「……いやがらせかしら」



 突然聞こえてきた能天気全開サウンドですっかり脱力しきってしまった。

 現在、神社にいる妖怪たちは宴の真っ最中。祭事用のちゃぶ台は巨大な土鍋に占拠されていた。その周囲には古今東西ありとあらゆる酒類が並べられていた。



(咲夜が寂しそうだったから、神社にいる全員としゃべれるようにしてみたの。気合い入った?)

「……ありがとうございます。ものすごくリラックスできました。でも、にぎやか過ぎると敵の的になりやすいので、ほどほどでお願いします」

(なんと。咲夜ってば柄にもなく緊張してたの。珍しい。ま、がんばってね。そろそろ私もパチェもお鍋を食べたいし、いったん切るわ。さっさと解決して、さっさと戻って来ないと、咲夜のぶん無くなっちゃうから。それじゃ、また後で)



 それきりでオーブは黙りこくってしまった。

 そもそも、どうして宴会の最中にこっちへよこしたのだろうか。紫の意図が読めない。本気で嫌がらせかもしれない。

 壁の向こうでは妖精が小さな声で騒いでいた。何か作戦を立てているように思える。どのような手で来るにせよ、妖精の浅知恵ごときにひるむ咲夜ではない。主人がやれと言ったらやる。どんな状況でも、不可能じゃない命令ならば、適当に全力で答えなければ。



「……さて。改めて」



 持てる限りのナイフを握り、再び交差点へと躍り出た。



「参りましょうかね」



 咲夜の姿を確認するや否や、あわてて一斉に迎撃態勢をとる妖精たち。



「来たーっ!飛んで火に入る夏の虫!」



 迫りくる大量の弾幕。咲夜は難なくかわしながら、相手の動向を観察し、空中にナイフをばらまいていく。ばらまかれたナイフは、僅かに光を帯びながら空中に留まり、回転を続けた。



「とっつげきぃ!」「かかれー!」「おとせー!」

「む」



 右から二体、上から一体、左から一体、下から一体。計五体の妖精が取り囲む。咲夜は、左手を接近戦用のナイフに持ちかえ、右手に投擲用のナイフを補充すると、きりもみ状に落下しながら、寸分の狂いなく右の二体の妖精にナイフを撃ち込み、下の妖精を踏みつける。踏みつけた反動を利用して左に跳び、ナイフの束で殴り飛ばしてから、上から迫ってくる大きなハンマーを振り下ろす妖精をかわし、かかとで蹴り落とした。



「うきゃ!」「あいた!!」「むぎゅ!?」「きゃああ!」「うわああああ!!」



 時間にしてわずか三秒。この間に、手に持っていたナイフは、左手のものを残して全て手元を離れ、空中で回転を始めていた。



「えぇい!!」

「おっと」



 背後から妖精に抱きつかれ、咲夜は動きを止めた。両手両足を巻きつけられ、思うように身動きが取れない。



「へへっ、つかまえたぁ。私、えらい!」

「えらいぞ!よくやった!」「そのまま押さえてろー!」「取り囲め!」「いっせーのーで撃つわよ!」「ちょっとジャマよ、あっちいって!」「うごけないー!」



 安全と判断した妖精たちは、確実にしとめようと、ある者は右往左往と駆け巡り、ある者は我さきにとあらぬ方向に弾を放っていく。弾が付近を掠めても、咲夜は微動だにしなかった。必要がないのだ。



「ああもう、はやくしてよ~」

「そこの貴方。痛い目に遭いたくなかったら、そのまま動かないほうがいいわよ」

「言われなくても動きませんよーだ!」

「忠告は素直に聞くものです」



 なぜなら、ナイフの配置が完了した時点ですでに決着はついているから。取り乱す要素など何もない。

 ゆっくりとポーチから一枚のカードを取り出し、真横に掲げる。色も模様もついていない、汚れなき純白のカード。



「……げ……げげげ!」

「ということなので」



 妖精は瞬時に悟った。カードから放たれる魔力は、自分たちの魔力をはるかに凌駕した、危険極まりないレベルのものと、本能で理解した。



「みんな、スペルカードくるわよー!でっかいのが!逃げろー!」



 声に反応した妖精たちは、はっとして息を飲んだ。周囲の妖精たちも力量の差を感じ取っていた。



「うそ!?こうなったら、やられる前にやるってやるわよーっ!!」「い、いち抜けた!」「つっかえてるから早く飛んでー!!」

「……幻符」



 宣言が成される。同時にカードは淡く光を放ち、純白だった紙面が色づいていく。きめ細やかな文様が縁に現れ、中心部にはスペルを表した絵が浮かび上がっていく。カード空中に固定されたナイフの回転は勢いを増し、ひゅんひゅんと空気を刻む音を走らせた。抱きついていた妖精は、すっかりナイフの音に怯えてしまい、咲夜から体を離して背中を向けて飛び去っていった。

 カードの絵が完成する。その後ろ姿を追うようにカードを眼前に掲げ、発動の宣言をする。



「『殺人ドール』」



 瞬間、回転していたナイフが弾けて加速した。目にも留まらぬ速度で空間内を駆け巡り、弱々しく飛ぶ魔法弾を食うようにかき消してから、逃げ惑う妖精たちへ一直線に飛来する。動きの鈍い妖精たちは、逃げる間もなくナイフの餌食と化していく。まるで餓えた狼が子羊を食い潰しているようだった。

 何十ものナイフの飛来が終わる頃には、妖精の気配はすべて消え、代わりに壁に突き刺さって生まれた砂塵とつぶてが周囲を覆っていた。役目を終えたカードは色を失い、灰となって空中に飛散していった。



「実は、飛んでナイフに刺さる冬の妖精なのでした。おそまつ。……さて、回収回収」



 単純な生き物は力の強い者には普通に弱い。これで頭の弱い妖精へのけん制になった。どうせすぐに忘れてしまうだろうが、しばらくは出てこないだろう。

 ナイフの回収のために地面に降り立つ。しかし咲夜は、遥か頭上で聞こえてきた音に固まってしまった。音を立てて崩れる頭上の岩。

 少し派手にやりすぎちゃったらしい。呑気に頭をかきながら、咲夜は時間を遅延させるために集中を始める。



「洞窟は崩れるのがお約束ね」

(そして岩は真っ二つがお約束です!)

「?」



 途切れる集中。つい先程まで反応を見せなかったオーブがはつらつとした声を放ちながら、咲夜の身を守るかのように岩石へと上昇していった。



「何が起こるのかしら?」



 咲夜の丈の三倍はある岩石に立ち向かうには小さすぎるオーブだったが、やがて咲夜にも感じ取れるほどの魔力を帯び始める。オーブから半透明の霧のようなものが飛び出し、人間の形を形成していった。



(人符!)



 背中に刀。腰に短刀。鞘に入れたまま、背負った長い刀を腰に構えた“彼女”は、自身が持つ最も得意なスペルを宣言した。



(『現世斬』!)



 一閃。追突の直前で目にも映らぬ速さに加速し、勢いを乗せて抜刀した。岩石は真っ二つに切り裂かれ、空中で分離し、咲夜の左右に墜落した。ワンテンポ遅れて、オーブだったものが咲夜の元へと降り立ち、



「きぃやあああ!?」



 さらにワンテンポ遅れて、桶のような物体が悲鳴とともに遠くに墜落した。



(おまたせしました咲夜さん!お次の敵はいませんか?)



 オーブを中心にして生まれ出た半透明の霊体は、ほがらかな笑顔で刀を納めた。見た目も声も性格も剣さばきも、魂魄妖夢そのものだった。



「さっきみんな倒しちゃったわ。ところで、何か用かしら?」

(何か用って、手伝いに来たんですよ。貴方の。紫様から聞いていませんか?)

「……そんなことを言ってたような気がする。でも、手伝うならもうちょっと早く来てほしかったわ」

(すみません。ちょっとたてこんでいまして)

「お鍋奉行でもしていたの?」

(いえいえ鍋は関係なくて。実は、幻想郷のみんなで咲夜さんを助けようと、萃香さんがみんなを神社に萃めていたのですよ。本当は私たちが乗り込めばいいんですけど、どうやら人間以外は入れないらしくて)

「人間ねえ……なるほど、やっとちょっとずつ話が見えてきたわ。珍しくパチュリー様がお出かけになったと思ったら」



 助けようとしている奴らがどうして宴会を開いているかって?神社に妖怪が集まれば宴会と相場が決まっている。



(それで、誰が支援を担当するかで騒いでいたのです。紫様が公平にお決めくださったので、大きな騒ぎにはなりませんでしたが)

「公平に?」

(あみだくじです)

「あみだくじて。適当にもほどがあるわね」

(まあまあ、おかげで心強い味方が来たでしょう?ささっ、さっそく行きますよ斬りますよ)

「はいはい、行きましょ刺しましょ」

「そのまえに、たすけてぇ……」

(っとと、そいえば敵がまだ残ってましたっけ)



 咲夜と妖夢の視線の先には、ごそごそと動く、反対向きにひっくりかえった桶。中からか弱くすすり泣く声が聞こえてくる。二人で桶を持ち上げると、中では簡素な白装束の少女がひっくりかえっていた。桶を正常な向きに戻してやると、のっそりとした緩やかな動きで桶の中に収まり、またぐったりとしてしまった。



「頭に血がのぼるぅ……くらくらするぅ……」

(さあ勝負!……って雰囲気じゃないですね、さすがに)

「ほんとは、落ちた岩にまぎれて驚かしてから、その隙をついてやっつけようと思ったの。そうしたら、そこの幽霊の攻撃に巻き込まれちゃったの」

「辻斬りで有名なの、彼女」

(口で言うより刀で斬ったほうが早い場合もあります)

「会話する気がちっとも感じられないわ……くちゅん!!」

「……鼻がむずむずする。冷えてきたのかしら?」

「いやいや、妖怪の仕業なのだよ、人間」



 桶入り妖怪と咲夜が鼻をすすりながら見上げる。切り落とされた岩の上に立っていた妖怪は、飛び降りて二人の前に降り立った。



「キスメにも耐えられない、くしゃみ一回分のウイルス攻撃に耐えきるとは。最近は千客万来で楽しいばっかりね」



 友好的に振る舞いつつも、彼女の目に油断の文字はなかった。



「ヤマメちゃん、ちり紙持ってる?」

「はいよ。あんたらもいる?」

「いらない」

(私はもらっても意味がないですし……)



 妖夢は楼観剣を抜き、敵意を持ってヤマメへと切っ先を向けた。



(敵から塩を貰うほど餓えてもいない)

「血の気の多い幽霊さんだね。言葉よりも刀で語るってのは賛成」



 不敵に笑うヤマメは、跳びあがってキスメの桶に足をひっかけた。鼻をかんだキスメがちり紙を捨てると、桶はゆっくりと上昇を始める。妖夢は同じ高度を保ちつつ上昇し、咲夜は鼻をこすりながら遅れて浮上した。



「でも、刀よりも弾幕で語ったほうがもっと分かりやすいと思うわ。というわけで問答は無用。キスメ、向こうは二人いるし、あんたも手伝いな。裏切ったらくしゃみ三回よ」

「帰れって言ってるのかな、ヤマメちゃん?」



 青白い炎が出現し、桶の周りを取り囲んだ。同時に、黒くくすんだ瘴気がヤマメから溢れ出す。



「1.5対2になりました。向こうが半分ならつり合いが取れるのだけど」

(じゃあ私が二倍動いてじゃんじゃん斬ります)

「はたしてあんたらにできるかしら?動けなくなったら刀もナイフも振れないのにね!」



 咲夜と妖夢が散開すると同時に、ヤマメとキスメも散開する。咲夜とキスメ、妖夢とヤマメ。互いが互いにどちらと戦えばいいか理解していた。ただ単に右と左に別れただけという真実は置いておくとして。







 瞬く間に上昇していくキスメを咲夜が追走する。追いつつ投げるナイフも、左右に揺られる桶にはかすりもしなかった。桶に吊るされているにも関わらず、動きは機敏である。桶を吊るす紐は彼女の意志で自由自在に動く。



「今度はあくびが出そうだわ」

「催眠術なんて使ってない!いくよ!『釣瓶落としの怪』!」



 スペルカードを宣言すると同時に、巨大な火の塊が咲夜めがけて落下し、続いて小さな鬼火がばらまかれる。降り注ぐ鬼火は薄暗い洞窟をまばゆく照らした。



「上から攻撃されると大変なのよね。当たらなければいいんだけど」



 攻撃に専念しているためか、キスメの動きは先ほどよりも鈍い。ここぞとばかりにナイフを撃ち込む。しかし。



「うわわっ!?」



 高速のナイフが桶に刺さるも、先端のわずかな部分でえぐっただけに留まり、空しく地上へ落下していった。



「あぶないなあ……甘いよ人間。そんなへ、へなちょこナイフなんかでやられるもんですか。私の桶はすこぶる頑丈なの」



 笑顔を保ったまま、咲夜の眉がぴくりと動いた。



「……へなちょこねえ」

「う……へ、へなちょこなの!」

「へなちょこですか」



 多少どもった声で気丈に自慢するものの、咲夜の笑顔は崩れない。攻撃の通じない相手に少しもひるまない咲夜を前に、キスメはうすら寒いものを感じていた。

 以前襲ってきた巫女と魔女には強引に桶を破壊されて負けてしまったが、今回の相手は、力の弱いナイフを投げるだけのメイド。負ける要素はないはずなのに、なぜかキスメは勝てる気がしなかった。



「でも貴方は頑丈ではなさそうね」

「……ふん。最近の人間はちっとも私に驚かないから残念だわ。そろそろ私の怖さを知らしめる時だね」



 自分が優勢であるのは変わりがない。大丈夫、今度は勝てる。

 攻撃が通らないとわかると、勢いに乗って、キスメの攻撃はさらに激しさを増し、地上を焼いていった。空間をくまなく移動しながら、迫る鬼火を大きくよけつつ、キスメに向けてナイフを投擲していく。しかし、上方を陣取ったキスメに死角はなく、ナイフはすべて避けられ、そして弾かれ、洞窟の壁に突き刺さっていった。







 一方。妖夢は予想以上の苦戦を強いられていた。

 現在の妖夢は、オーブに半霊を憑依させている状態であり、幽霊と何も変わりはない。相手の攻撃だって当たってしまう。



「なーんか動きがぎこちないねえ。いろいろと」

(……同感です)



 ヤマメが両手をかざすと、彼女の力となる瘴気が集う。

 ヤマメは病気を操る。威力はさほどではないものの、生き物が一撃でも直撃したなら、微熱程度の症状を与えるほどの厄介さを持つ。



「まあ、やっつけやすいから好都合だけどね」



 凝縮した力を爆発させ、周囲に瘴気をまき散らした。妖夢は最小限の動きでこれらをかわしつつ、刀を振るって攻撃を打ち消しながら、反撃の機会をうかがっていた。普段の妖夢ならあっさりと接近して斬り捨てられるのだが、どうしたことか、近づこうとしても、見えない力に引っ張られて思うように動けない。

 実は、ちょっと考えれば原因はすぐにわかるのだが、戦闘に集中している妖夢には頭が回らなかった。



(……っ!見えた!)

「おっ?」



 回避に専念していた妖夢は、弾幕の隙間に相手の姿を捉えると、すぐさま抜刀の体勢へ移行した。回避しきれないと判断したヤマメは、攻撃の手を止め、両手を合わせて前に突き出した。

 刀を目の前にしてひるまない相手に、妖夢は一瞬だけ戸惑ったが、ためらわずに加速を開始した。相手がどう反応しようとも、小細工ごと叩き斬れば問題はない。



(『現世斬』!)



 再び繰り出される閃光の一撃。息もつかせぬほどの速さでヤマメに接近し、楼観剣で薙ぎ払う。妖夢の脳内では、既に楼観剣によって吹き飛ばされるヤマメのイメージが既に浮かび上がっていた。



「うひー、こわいわー」

(なっ!?)



 しかし、その予想は大きく裏切られることとなった。妖夢の声が思わず上ずる。

 楼観剣は、ヤマメの両手にはさみこまれる形で収まっていた。最高速ならば最速を誇る現世斬を、真正面から、しかもあからさまに格下の妖怪にいともたやすく止められたのは完全に予想外の出来事だった。



「真剣白羽取り、ってね。一度やってみたかったんだ」

(抜けない……っ!)

「そりゃ糸でがっちがちに固めてるもの。そう簡単に動かせないよ」



 ヤマメが両手を開くと、その間には、粘りつく太い糸が何本も張り巡らされ、楼観剣の刀身をからめ取っていた。

 ヤマメが妖夢の現世斬を止めることができた理由はたしかにある。両手の間に幾重にも糸を張り巡らせ、その糸で斬撃を防いだのである。強力な弾性と粘性を兼ね備えた糸と姿勢の制御により、現世斬の衝撃を完全に逃がしていた。



「ふっふっふ。おかえししなくちゃね」



 妖夢は笑っているヤマメを見て息をのんだ。言わば今の自分は蜘蛛の網にかかった獲物である。



「罠符『キャプチャーウェブ』」



 両手から妖夢に向けて大量の糸が飛び出す。そして妖夢のみならず、ありとあらゆる方向に向けて糸が吐き出され、洞窟内に付着していった。

 宣言が終わる前に妖夢は判断していた。刀を手放して素早く距離を取る。糸に残ったままの刀は煙になって消え、妖夢へと吸収されていく。煙が集まりきると、妖夢の右手には楼観剣が収まっていた。幽体ならではの芸当だった。



「ありゃりゃ。そいつは計算外。でも、次が本番だよ」



 張りめぐらされた糸の束の一つが突然弾け飛び、大量の散弾となって妖夢に襲いかかった。またもや意表を突かれ、回避が遅れた妖夢の鼻先を糸の弾がかすめていく。ひりひりと痛む鼻先を抑えながら、妖夢は後退していった。



「ひゃっと!?冷たいわね」

(っとと、ごめんなさい)



 やがて咲夜の背中とぶつかって動きを止める。機を逃さず、ヤマメとキスメは素早く二人を取り囲んだ。



「なんか苦戦してるように見えたけど。二倍どころか半分も動いてないんじゃない?」

(前だけその言葉お返しします)

「私はもう勝てるからいいの」



 背中越しに聞こえる咲夜の声には本当に余裕が感じられた。お互いにほとんど攻撃が通じない状態で、敵に挟まれた危機の中でも、咲夜はまるで焦りを見せていない。



(そ、そうですか。さすがです。こっちは思ったように動けなくて……でも、それはあまりにも情けないので、最低でもあの蜘蛛っぽい妖怪くらいは斬りたいです)

「どっちにしても倒すことには変わりないから、別にやられてもいいわよ」

(せっかくの出番なのにー)

「観念したの?とどめやっちゃうけど、いいのかい?」

「ダメって言っても撃つんでしょ?」

「そりゃもう、じゃんじゃんばりばり、大当たり。キスメ、たたむよ!」

「うん!せーの!」



 咲夜と妖夢めがけて大量の鬼火が降り注ぐ。同時に張り巡らされた糸が弾け、大量の弾幕となって襲いかかる。時折ヤマメの弾とキスメの鬼火がぶつかると、炎となって軌道を変えつつ、咲夜たちへと降りかかった。弾の密度は倍になり、抜け出す隙間は見当たりそうにない。



(うわわ、さすがに二人分は避けきれませんよ)

「ここにいたらね。じゃあがんばって逃げてね」

(へ?)



 妖夢が振り返った時には、すでに咲夜の姿は無かった。頭上にはすでに炎のカーテンが形成され、地面を覆い尽くそうとしていた。おいてけぼりをくらった妖夢は、思わず叫んだ。



(ひとでなしぃぃぃ!)



 叫びは炎に飲み込まれて消え、地面は火の海となって一面を焦がした。鬼火と糸によるじゅうたん爆撃を逃れる術など、たかがナイフ使いと剣士が持っているはずがない。ひとしきり攻撃が終わると、二人は寄り添って周囲を見渡した。案の定、反撃の気配はない。ヤマメとキスメは勝利を確信した。



「よーし大勝利。一人でも二人でもたいしたことないね」

「前に来た人間は怖かったもんね。今回はそんなに強い人間じゃなくてよかったわ」

「確かに、あの二人は私より強いけど、たまに私だって彼女たちに勝つわよ」

「うええ!?」



 知らぬ間に背後に浮かんでいた咲夜に驚いて、ヤマメとキスメは飛びのいた。



「ゆ、幽霊……南無阿弥陀仏……」

「どいつもこいつも失礼ね。まだまだ人間やってます」



 ヤマメもキスメも、信じられないような目で見てくるが、咲夜は一向に気にしない。自分の能力で驚かれるのはいつものことだから。

 眼下に広がる火の海を見降ろしてからはたと気づいた。



「しまった。貴重なお助けキャラがいなくなってしまったわ。楽ちんになるはずなのに。

 ……ま、いつも一人でやってるんだし、ほうっておきましょ。いつもどおり、いつもどおり」

(……勝手に殺さないでください)

「あらま」



 岩陰からふわふわと漂ってきたのは、やられたと思っていた妖夢だった。しかも無傷である。咲夜には逃げ遅れたように見えていたので、この登場は嬉しさよりも驚きのほうが強かった。



「貴方は支援に向いてない。それはもう絶望的に」

(返す言葉が無いです……でも、なんだかんだでお優しいじゃないですか。ありがとうございます)

「?」

(え?貴方がやったんじゃないんですか?そのへんてこな力使って。こう、ぐいーっって引っ張られたから助かったんですよ)

「べつに何もしてないんだけど……」



 そういえば、動きにくい、なんて言っていたような気がする。

 咲夜は妖夢の体をじっと見た。正確には、妖夢の腹に浮かんでいる星印のオーブを観察していた。オーブと咲夜の間には微かながらオーラらしきものの流れが形成されていた。構造はよく分からないが、咲夜が持つ何かの力を吸い取りながら動いているらしい。



「……ははあ、なるほど」

(なにか分かったのですか?)

「一人で倒しちゃうのが一番手っ取り早いということが分かった」

(あんまりだ……)



 落ち込む妖夢に慰めの言葉をかけるはずもなく、咲夜がナイフを取り出す。素早く身構えるヤマメと、慌てふためくキスメ。



「もっと手っ取り早いのは、大人しくやられて家に帰ること!キスメ、もう一度行くわよ!」

「ごめんヤマメちゃん、もうちょっと待って~」

「もうちょっと待てない!『フィルドミアズマ』!」



 掲げられた右手から螺旋状に配置された瘴気の塊が上方へ放たれていく。一定の高度に上がると、弾は速さの強弱をつけながら咲夜と妖夢めがけて降り注いでいく。

 妖夢は二対の刀を抜き放った。今度こそ叩き斬ってやる、と意気込む妖夢だったが、



「……………」



 咲夜は邪魔だと言わんばかりの視線を妖夢に投げかける。



(え、いや、一匹くらい斬らせてくださいよ。このままじゃ幽々子様に顔向けできませんし)

「確実に倒せる時に、確実に倒せる奴が、確実に倒せばいいのよ」

(そんなぁ)



 ヤマメの瘴気が降り注ぐ直前に二人は散開した。



「よーし準備完了!もう一度……『釣瓶落としの怪』!」



 カード宣言、そして再び放たれる鬼火の雨。咲夜は自分に火が来る前に、一本だけナイフを投げた。標的であるキスメとはまったく別の方向にある、天井にある銀の光点に向かって。



「そんな方向に投げても当たらないに決まってるじゃない」

「普通は当たらないけど、私の手品にかかれば……」

「きゃっ!?」



 キスメが笑おうと口を開いたが、その笑い声は、頬を掠めて桶の“内側”に突き刺さったナイフによってかき消された。同時に鬼火の生産も止まってしまう。



「ほらこの通り」

「あれ、あれ?どうして後ろからナイフが飛んでくるの?」



 キスメが後ろを向くと、天井や壁、地面と、ありとあらゆる場所に銀のナイフが突き刺さっていた。鬼火の炎に照らされたナイフは、まるで星空のように輝きを放っていた。キスメは何事かと考えていたが、やがて結論した。



「……ええぇぇえ!?ありえない!!」

「あらら、もうばれちゃった。ここの壁はもろいから、ああいった下準備が必要なのよ。設置するのに苦労したわ。やっぱり手品は技術よねえ」



 二本目のナイフが放たれる。またもやあらぬ方向に放たれたナイフは、壁に突き刺さったナイフに反射し、さらに別のナイフに反射してから、キスメの顔面めがけて肉薄した。にわかに信じきれなかったキスメだったが、実際に目前に迫るナイフを見て、予想は確信に変わった。



「きゃああああ!?」

「おみごと。へなちょこのナイフだから、避けられて当然よね」

「え……あ、あれ嘘です、嘘ですから!ごめんなさい!」



 咲夜の笑顔は変わらない。キスメは死を覚悟した。巫女と魔法使いの力技でやられたときも十分に怖かったが、今回はもっと怖かった。特に笑顔が。最初の予感通り、やっぱり勝てる相手ではなかったのだ。



「へなちょこナイフ、今度は二本いくわよ。何本まで耐えられるかしら」

「や……ヤマメちゃん、助けてぇぇっ!!」

「これこれ、か弱い妖怪をいじめるのはよくないよ」



 切迫したキスメの悲鳴。すかさずヤマメは標的を咲夜へと変更し、瘴気の弾を集中させた。



「近づけば病苦、触れればさらに病苦。果たして人間に耐えられるかな」

「そんなもの、毒をまき散らす人形に比べたらどうということはない」



 咲夜は、弾が集まりきる前に、キスメを反射するナイフでけん制しつつ、銀のナイフによる風圧で瘴気の塊をかき消していった。



「だから次は三本のへなちょこナイフが飛ぶのです」

「ヤマメちゃん、ぜんぜん助かってないー!」

「分かってるー!こいつちょこまかするから当たらないのー!」



 キスメはすっかりおびえてしまい、もはや戦力にはならなかった。被弾する気配を見せない咲夜に対し、ヤマメは弾幕を厚くしていくほかはない。



「ところで、もう一人の相手を放っておいていいの?」

「強い奴が先!弱い奴は後!」

「なんて言われてるけど」

「んあ?」



 咲夜の視線の先。ヤマメをはさんで、地面に足をつける妖夢の姿があった。咲夜と妖夢、そしてヤマメは一直線上の位置にいた。攻撃の手を咲夜へ集中させ、妖夢の存在を忘れてしまっていたヤマメは、地面に立つ妖夢への攻撃をすっかりおろそかにしていた。その隙を妖夢が見逃すはずがない。



(……剣伎)



 跳躍。



(『桜花閃々』)



 そして抜刀。ヤマメの傍を一陣の風が通り抜ける。ヤマメは突然発生した風に反応すらしなかった。十分に左右を見渡してから、ようやくヤマメは低く沈んだ声に振り返った。けれども、誰の姿も見当たらない。おかしいと思いつつ咲夜の方へ振り返ると、隣には、いつのまにか接近した妖夢の姿。



「なんだ、とっくにやられたかと思ったわ」

(とっくにやられているよ。貴方がね)



 つばを鳴らして刀を納めると同時に、ヤマメの周囲の空気がはじけ飛ぶ。破られて宙に舞う衣服の破片が、ヤマメには季節外れの桜の花びらに見えていた。そして、ヤマメは意識を手放した。



「……あう」

(死人に口なしです)



 全身をくまなく攻撃され、直撃を受けたヤマメは、ふらふらと目を回し、やがて地面へと墜落していった。



「またつまらぬものを斬ってしまった」

(それは私のせりふです)

「ヤマメちゃんが……」

(さて、残り者には福来たる、と)

「喜んで降参します~」



 顔を青くしたキスメは、迷わず白旗を上げてから、気絶したヤマメを置いて洞窟の奥へと逃げて行った。地上を焦がす鬼火は、主を失い、完全に沈黙した。騒がしかった洞窟に静寂が戻る。刀を納める妖夢の顔は、ちょっぴり誇らしげだった。



(やれやれです。思わぬ苦戦でした。でも最後に汚名を返上できたのでよしとしましょう。確実に倒せる時に、確実に倒せる者が、確実に倒せばいい。実にいい言葉です)

「どうもどうも」

(うふふ、見直してくれましたか?役立たずなんて言わせませんからね)

(いやいや妖夢。役立たずを無理やり役立てたのよ)

(幽々子様!?)



 妖夢のおへそのあたり、ちょうどオーブが浮かんでいる部分から響く、幽々子の残念そうな声。口が二つあるようで、少し気持ち悪かった。



(妖夢は気づいていない。半霊の貴方が媒介としているその珠が、咲夜の力を利用しているから、彼女からあまり離れられないことを。だから妖夢は上手く動けなかった。

 そして、さっき上手く動けたのは、妖夢が動きやすいように彼女が位置を調整したから。全ては彼女の掌の上だったの)

(え。ほんとですか?)

「……いやまあ、斬りたがってから」

(……穴があったら入りたい)

(気づいている者があんまりいないみたいだから、今回は妖夢の舞茸を全部いただくことで許してあげましょう)

(コリコリ感が好きなのにぃ)

(ありがとうね咲夜。そしておみやげをよろしく。よしなに~)



 光が弱くなり、それっきり幽々子の声は途絶えてしまった。



「それにしても、この調子じゃお先が真っ暗ね。本当にちゃんと帰れるのかしら」

(こう言うのも癪なのですが、ご心配なく。私はもう抜けますから)

「幻想郷の未来より鍋を選ぶんだ」

(この遠隔操作をやってみたいとおっしゃられる方が多いもので。おおよそ一人一殺の交代制なのです。幽々子様に、紫様と藍様。宇宙人や鬼に天狗、閻魔様に天人、吸血鬼。だめ押しで死神と魔法使いと河童、その他もろもろ。いずれにせよ、これだけ屈強な方々が揃えば怨霊だって怖くないでしょう?)

「肝心な時にへべれけになってなければね」

(うぐっ……私ではどうにもできないので、そのへんは運ということで)

「……本当に余興なんだ。誰も本気で助けてくれる方がいないなんて。まあ、状況が状況だから、あまり期待もしていないけどね」





















 Stage 2 地上と過去を結ぶ深道(地獄の深道)











 長い風穴を飛び続け、ようやく抜け出したかと思えば、次に待っていたのは底の見えない巨大な縦穴だった。地下から吹き付ける風は勢いを増し、冷たい風を容赦なく吹き付けた。外行きのメイド服を着てこなかった咲夜だったが、紫にオーブをもらってからさほど寒さを感じなくなっていた。どうやら防寒効果があるらしい。便利だ。風の影響を少なくするために、ゆっくりと下降する。咲夜の周囲を飛び回るオーブは、今や数を二つに増やしていた。姿も変わっており、一方が赤い光球、もう一方が青い光球となっている。赤鬼と青鬼。式神の橙が使う妖術である。



「赤いのが遅れてるわよ」

(だって難しいんだもん、この操作。ムーンサルトとか、ジャイロ回転とか)

「普通に撃って、普通に動いてくれればいいの」

(えー)

(まあまあ。まだ敵は出てきてないんだし、ちょっとした戯れくらい許しておくれ)



 橙の修行という名目で任せているが、操縦者の橙も指導者の藍も、まるっきり遊び気分だった。先ほどの妖夢よりもずっと不安だった。



「飼い猫のしつけはちゃんとしてくださいね。ほら、言ってるそばから来ましたよ」



 下方から妖精が編隊を組んで浮上してくる。同時に岩の物陰に隠れていた妖精が背後から飛び出し、咲夜を奇襲した。



「では、それなりに後ろを任せたわよ」

(はーい。よいしょー!)



 元気一発、赤鬼と青鬼は背後に群がる妖精へ突撃した。速さが自慢の橙が操縦する赤鬼と青鬼は、機敏に右へ左へと動き、のろまな妖精の目を回させ、体当たりをして次から次へと落としていく。思った以上に優秀だったので、このまま後ろを任せても問題は見当たらなさそうだった。藍が命令さえすれば、その式である橙の力が増すので、割と頼れる存在なのである。

 しかし、咲夜はちょっといらいらしていた。



(橙!右、右!)

(分かりました藍様!)

(上から来るぞ!気をつけろ!)

(にゃんとぉぉぉ!)

(よーし。あの集団を毘沙門天で蹴散らしてあげなさい!)

(赤鬼と青鬼で精一杯ですよぉ)

(ならば無理しなくてもいい……と言ってる間にメイドが右から狙われてる。青鬼の動きも少し鈍くなってるよ)

(うぇ!?えーと、えーと?)

(大丈夫。私が見守ってあげるから、失敗を恐れず、落ち着いて操作なさい)

(はい、藍様!)



 とてもうるさかった。どさくさにまぎれて撃ち落としてやろうか。



(正面、何か来る!)



 藍の声に耳を傾けるまでもなく、咲夜はナイフを放っていた。物陰から飛び出した高速に飛び交う三体の物体。それらに狂いなくナイフは突き刺さり、沈黙した。その物体は霊夢が持つ陰陽玉によく似ていた。さらに途切れることなく飛び出す陰陽玉もどきは、飛び交いながら咲夜に狙いを定めて攻撃をばらまいた。



「なに、あれ?」

(迎撃システムかなにかだろう。なに、妖精がちょっぴり素早く飛んでいるだけのようなもの、我々の敵ではない)

「まあね。でも───」

「かかれー!」



 飛びまわる陰陽玉を盾にしながら、便乗して妖精が突っ込んでくる。中には、先ほど洞窟内で遭遇した妖精もちらほらと確認できた。



「やられるって分かってるのに、どうしていつも向かってくるのかしらね」

「……妬ましい」

「ん?」



 風に乗って聞こえてきた微かな声を聞き、思わず咲夜は足を止めてしまった。あっという間に駆け付けた妖精と陰陽玉に囲まれ、大量の弾を全方位から浴びてしまう。迎撃しながら周囲を見渡すが、誰も見えない。



「気のせいかしら」

(おーい。後ろの敵はやっつけたよ)

「ご苦労さま」



 立ちふさがる敵を体当たりで落としながら、赤鬼と青鬼は咲夜へと舞い戻った。咲夜と橙。二人で増える敵を少しずつ撃ち落とすも、敵が減る気配を見せない現状に耐えかねて橙が叫んだ。



(もー、しつこい!大技で一気にやっつけちゃおうよ!)

「分かってる」



 咲夜もスペルカードでせん滅したかったが、脳裏には先ほど聞こえてきた声が頭にこびりついていた。声だけではない。今では不気味な視線が、遠くから伝わってきていた。誰かに見られていると気になってしょうがない。しかし、このままでは進展がないのもまた事実。



「……らちが明かないのは確かね。仕方ない───」



 ポーチからカードを取り出す直前、再び微かな声が響いた。



「『グリーンアイドモンスター』」

「!」



 今度こそ、咲夜は声を聞いた。橙が動かすオーブもまた声を聞いて動きを止めた。

 下方に広がる暗闇の穴の底から湧きあがる緑色の光の柱。鈍く光るその柱は、周辺に群がる陰陽玉や妖精をお構いなしに弾き飛ばし、ときどき壁を削りながら、急激なスピードで咲夜へと接近する。まるで緑色の巨大な芋虫状の怪物だった。

 咲夜は右へ左へ、下へ上へと旋回して回避する。速いといっても、足を止めなければ追いつかれはしない。



「こんなのに当たるもんですか」

(でもずっと追いかけてくるよ。どうするの?)

「貴方はその辺の妖精と相手をしてなさい。こいつは何とかしておくから」



 咲夜は中央で停止して引き寄せてから、壁と垂直に移動し、張り付いた。正確に動きを追い、ひるむことなく迫る怪物。耐えかねて橙の操る赤鬼青鬼は早々に退避するも、咲夜は動かない。やがて、怪物はひるむことなく真正面から突進し、躊躇なく衝突して壁をえぐった。崩れる岩石に巻き込まれ、緑色に光る胴体が千切れると、怪物は消滅していった。衝突した場に咲夜の姿はない。



(藍様、メイドがやられた!)

「そんなわけないでしょう」



 赤鬼と青鬼の後ろ。すでに咲夜は退避した後だった。怪物の登場に気を取られて呆ける妖精たちの姿はない。咲夜は、怪物を誘導して陰陽玉を消しつつ、近くにいた妖精を全て撃ち落としていたのだった。



(すごい……)

「ぼやっとしない。もう一発来るわよ」



 震える空気。ほのかに光る緑色の体。新たに生まれたもう一匹の怪物が唸りを上げながら登ってくる。



(南南東の方角、下方75度を狙いなさい)

(なんなんとうってどっちですか藍様!?)

「だいたい左斜め後ろの下」



 おおよそ指示通りの方向へナイフを投げる。交差するナイフと緑色の怪物。ナイフが暗闇に吸い込まれても、怪物の進行は止まらない。



(ぶつかるー!)



 オーブ越しの橙はたまらずに目を閉じた。目前まで迫り、口を大きく開けて咲夜を飲み込もうとした瞬間、怪物は力無く霧散した。藍の卓越した頭脳と獣の聴覚があれば、微かな音で相手の位置を特定することなど簡単だ。



「茶番はこれくらいにして、さっさと出てきなさい。さもないと───」

「さもないと?」



 下方の景色がぐにゃりと歪んだ。深い闇の中から、歪みを中心に一人の妖怪が浮かび上がってくる。



「さもないと、どうするって言うの?」

「貴方を無視してさっさと下に降りちゃう」

「それは困る。私が楽しくない」



 言葉の内容とは裏腹に、妖怪は特別に困った様子もなく、また特別に楽しそうにもせず、無表情のまま淡々と答えた。



「何の用かしら人間。また地下にちょっかいをかけるつもり?」

「ものすごくちょっかいをかけて、武勇伝を作りに行くの。『紅魔館が誇るメイド長、巫女の代わりに異変を解決!』っていう内容。きっと印税がっぱがぱ、私のおこづかいがうっはうは」

(とてもつまらなそうだから私は買わん)

(……ちょっと欲しいかも)

(……やっぱりちょっと興味が湧いてきた)

「ほーらがっぽがぽ。出版したら貴方もどうぞ。サイン貰うなら今のうち」

「……楽しそうね」

「向こうがお祭り騒ぎだからね。こっちもテンション上げないと」

「向こうがどの方向を言っているのか知らないけど、貴方の気楽さがとても妬ましいわ」

「むむ」



 妖怪の周囲に広がる景色がさらに歪みを増していく。



「私は一人、光の当たらぬ闇の底。貴方は光降り注ぐ恵みの大地。ああ妬ましいったらありゃしない」

「……さっきから妬ましいって言われてるけど……初対面よね?」

(彼奴(きゃつ)は橋姫の水橋パルスィ。嫉妬は彼女の十八番さ。地底は、彼女のように地上から忌み嫌われた妖怪が集う場所なんだ)

「お嬢様が落とされなくてよかったわ。さすがに地下で暮らし続けるのはちょっと」

(そんなこと言って。あんたのとこのお嬢様、すごく怒ってるよ)

「私は嫌ってないので大丈夫」

(何が大丈夫なんだか……)

「……余裕ね人間。太陽の光を浴びて暢気な貴方は、この風穴で少し頭を冷やすといい」

「お生憎様。私も太陽とはあまり縁がないの。お仕事的に、ね」



 パルスィがカードを取り出し、対する咲夜は素早くナイフを投げた。



「舌切雀の話を知っているか?」



 ナイフが到達する直前、パルスィの体が左右に分裂し、まったく同じ姿の橋姫が二人現れた。



(二人になった!)



 ナイフは空を切って壁に当たり、地下の闇に落ちて吸い込まれていった。咲夜は特別に驚くほどでもなかった。分裂ならフランドールのほうが倍は上手だから。



「『大きな葛籠と小さな葛籠』。どちらも金銀財宝の詰まった魅惑の宝箱よ。選べるのは片方だけ。さあ、貴方はどちらを選ぶ?」



 二人のパルスィは咲夜の周囲を飛び交いながら、一人は弾速が遅く、威力の高い巨大な弾を。もう一人は、微弱ながらも弾速の高い大量の弾をばらまいた。本格的に囲まれる前に、咲夜は壁際へ移動し、なるべく二人を視界に捉えるように努めた。



「そんなもの、答えるまでもない」

(もちろん大きい方!)



 弾幕の間を縫って片方のパルスィへと接近する赤鬼と青鬼。大きくともまばらにしか放てないパルスィに、小さくすばしこい二つの鬼を止める術はない。あっけなく接近を許したパルスィに赤鬼と青鬼の体当たりが突き刺さる。しとめたと喜ぶ橙だが、体を貫かれたパルスィもまた笑みを漏らした。



(大きい方が凄いのです……って、あれ、手ごたえがない)

「強欲な者には罰を」

(橙、回避!)



 藍の叫びが響くが時すでに遅し。霧散すると同時に、おびただしい数の大弾が弾け飛んだ。至近距離にいる赤鬼青鬼に避ける時間はない。



(ひえええええ!?)



 急いで後退するも、迫る弾幕の方が速い。緑色の破壊エネルギーを目の前にして、錯乱した橙の青鬼と赤鬼は完全にコントロールを失い、やがて大量の弾幕の波に飲み込まれてしまった。壁まで吹き飛ばされたオーブは、くぼみに引っかかり、光を失って停止した。



「ミイラ取りがミイラになったわね」

(ごめん!今はちょっと動けないみたい!)

「会話はまだできるようね。いつになったら動けるかしら?」

(術式組まなくちゃいけないの、もうちょっと待ってー!)

「やれやれ」



 一方の咲夜にも余波が回っていた。二方向から迫る弾幕の対処に追われ、なかなか決定打を撃ちだせない。牽制にナイフをばらまいても、相手は直前で分裂を解き、再び二人に別れることで咲夜のナイフを避け、新たな弾を打ち出す。しかし、今まで何度も、彼女以上の濃厚な弾幕を打ち破ってきた咲夜にとって、二人同時の攻撃を回避するなど簡単だった。



「……………」



 優勢だったパルスィだったが、やがて攻撃の手を止め、一人に戻ってしまった。



「もういいのですか?」

「貴方の動きはさっき観察させてもらったわ。これではきっと仕留められない」



 現在のスペルでは倒しきれないと判断したパルスィは、カードを廃棄し、新たなスペルカードを取り出した。パルスィは左手をめいっぱいに広げ、咲夜に向けた。墨色の五芒星が描かれている。



「だから次の手。恨符『丑の刻参り』」



 パルスィの顔が微笑みに歪む。咲夜は本能的に直感して移動した。

 その甲へ、パルスィは自らの右拳を叩きつけた。次の瞬間、パルスィから高速の魔力弾が放たれ、先ほどまで咲夜が浮かんでいた空間を突き抜け、壁を砕いて破片をまき散らした。弾道はちょうど咲夜の腹の部分を捉えていた。



「いけない、避けられちゃったわ」

「あぶないあぶない、でもネタが分かれば簡単ね」

「避けるだけなら、でしょう?」



 左手が人形、右手が五寸釘。パルスィの丑の刻参りにろうそくと柱はいらない。

 再び拳が下ろされる。咲夜は飛びのくと、そのまま縦横無尽に飛び回り、足を止めないままにナイフを投擲していく。しかし、ナイフはなかなかパルスィを捉えることができない。投げナイフで正確に攻撃するには遠すぎる距離だった。近づいて攻撃したい咲夜だったが、相手の攻撃の性質上、近づけない状態にあった。咲夜の攻撃は投擲の動作を強いられるのに対し、パルスィは左手に右手を当てるだけ。一秒にも満たない動作で、咲夜の位置を正確に捉えている。高速かつ短い間隔で正確に吐き出される破壊弾に対し、パルスィを中心に円移動をする以外に避ける方法が無かった。



「そして分かったつもりが命取り」



 咲夜の投擲に合わせ、パルスィは素早く左の人差し指を弾いた。速さの衰えない攻撃が、咲夜の右手に握られたナイフを束を弾き飛ばした。



「!」



 右手に広がる鋭い痺れ。直撃はしなかったものの、満足に指も曲げられない事実が威力を物語っている。たまらずに壁際まで後退してしまう。



「手のひらは胴体。そして五指は頭と両手足の代わりなの。狙いは一つだけじゃないのよ。さあ、もっと追い詰めてあげる。左手だけでどれだけ耐えられるかしら。残りの手も封じて、そして体を狙って、確実に倒してあげる」



 ついにパルスィの口から笑い声がこぼれ出した。だが、咲夜の表情もまた崩れない。咲夜は気づいていた。パルスィの背後に浮かぶ、黄色と緑色の光に。



「……追い詰められてるのにその余裕。気にくわないわ」

「本当に余裕だからね。このくらい、危機でもなんでもない」



 右拳が振り下ろされる直前、ようやく異変に気づいたパルスィは素早く構えを解いて場を移動した。直後、黄と緑の光弾がパルスィの服と左手をかすめた。攻撃に失敗した二つの光弾は、大きく旋回しながら咲夜の周囲を飛び交った。



「間に合いましたね」

(お前さんが苦戦してるのを見てられなくてね。橙には悪いが、少し手伝わせてもらうよ。私の前鬼と後鬼も加勢しよう)

「助かりますわ。貴方の式は?」



 藍は言葉ではなく、行動で返事をした。二つのオーブが細かく震えだして分裂を始める。黄色のオーブから赤いオーブが、緑色のオーブから青色のオーブが生まれた。



(呼ばれて飛び出て~)

「さっきも赤いのと青いのに分かれるところを見たけど、どういう原理なのかしら」

(藍様もよく分からないって言ってた。やっぱり紫様はすごいよね)

「さすが紫、よく分からなさは一番ですわ」



 上機嫌な咲夜に対し、パルスィは限りなく不機嫌だった。



「ちっ……スペルが破られた……」

「それはよきかな。ではこっちも反撃しましょ。ちょうど新しいスペルを思いついたの。ついさっき」



 左手でスペルカードを取り出し、思い浮かべたイメージをカードへ具現化していく。と、やがて、掲げた腕の周囲を、四つのオーブが取り囲み、腕を軸に回転を始めた。



(あれれ?私の赤鬼と青鬼、藍様が動かしてますか?)

(どうやら制御系が彼女に乗っ取られた……いや、ちがうね。彼女の意思が優先されているみたいだ)

「やっぱり。私の力で動かしてるんだから、私が動かすこともできるみたい」



 力は橙と藍が扱うままに。動きは咲夜の意思通りに。『殺人ドール』の要領でオーブを動かしていく。やや不気味に思えたオーブにだんだんと愛着がわいてきた咲夜だった。

 一方のパルスィは、予想外の援軍を前にして、思わず歯ぎしりをした。彼女たちの間に流れる空気に、一切の危機感が感じられない。今まで優位に立ち続けていたパルスィにとって、妬ましい状況だった。



「まだまだ、私の好機には変わりない。私も最後の一枚を使わせてもらうわ。花咲爺『シロの灰』」



 パルスィを中心に、桜の花で満たされた枝が伸びる。枝は壁に突き刺さり、咲夜の周囲を取り囲む。花で空間を支配され、咲夜は満足に身動きが取れない。このまま攻撃されてはひとたまりもなく、一刻も早く迎撃をしなければならない。

 はずなのだが。咲夜はまったく別のことを考えていた。



「……思いついたはいいけど、名前をどうしましょう」

(こらこらー!攻撃されてるんだから、動いてー!)

「とっさだったから、何も考えていなかったわ。赤と青で紫。黄色と緑で黄緑。紫と黄緑は……何色かしら?茶色っぽいけど……ブラウンリコシェ……おかしの名前みたいでちょっと……」

(だめだこりゃ)

(橙。諦めて委ねなさい。どうせこちらの勝ちだ)

「無視するの!?馬鹿にして、馬鹿にして!みんなまとめて灰にしてあげるわよ!」



 とうとう怒りの表情さえもあらわにして、咲夜へ集中砲火をしかけるパルスィ。しかたがない、とため息をつきながら、咲夜はカードの宣言を決意した。



「もう、せっかちなんだから。それじゃてきとうに」



 カードが光り、染色されていく。描かれた文様は、赤青黄緑が入り混じった光のオーブ。カードの完成と同時に咲夜は言い放ち、左腕を振るった。



「混色『マーブルリコシェ』」



 左手から放たれた四つの光球は咲夜とパルスィの間を瞬く間に駆け巡る。壁にバウンドしては夜空に瞬く流星のように飛び交い、空間を制圧していく。パルスィが張り巡らせた花の枝をへし折り、鮮やかに彩られた花をまき散らした。



(に゛ゃぁぁああ!?)



 ただ一つ計算外があるとすれば、弾を操る主人への負担。跳ね返る度に視界は転回し、橙を混乱させた。回り慣れしている橙だったが、自分の予想外の動きを繰り返されてはたまらない。しばらく跳弾したのち、赤鬼と青鬼は色を失い、空中を漂った。



「なっ……」



 一方のターゲットであるパルスィは、自慢のスペルが一瞬で破られてしまい、呆然と立ちすくむしかなかった。

 逃げなければ。パルスィが意識を取り戻し、行動に移そうとした時には既に時は遅く、前方は投擲された大量のナイフに制圧さていた。少しも動けないままにナイフが服を巻き込んで壁に突き刺さり、見る間にパルスィを標本へと仕立てていった。引き抜こうとももがくが、目前にたたずむ咲夜を前にして、パルスィは抵抗を止めた。



「私の勝ちでいいわね?」

「……ええ」

「素直でよろしい」



 パルスィは首を縦に振るしか選択肢は残されていなかった。咲夜が微笑むと、パルスィを張り付けていたナイフがかき消えた。



「最近の人間は恐ろしい。これからはもっと準備をしてから人間を襲うことにしよう」

「あの二人なら全力で襲ってもいいけど、他の人を襲うときはほどほどにしてね。ところで、やられた記念にサインはいかが?」

「色紙を持ってきてないから、また今度の機会に」

「冗談だったのに」



 襲うことのできない人間に用はない。パルスィは恨みがましい視線で咲夜を射抜きながら浮上を続け、やがて闇の中に姿を消した。視線は残ったままだったが、これ以上の害がないと判断した咲夜はほうっておくことにした。



「ささ、邪魔者もいなくなったし、下に降りますか。式の式さんは生きてる?」

(なんとかー……)

(橙はしばらくだめだ。次の方に引き継ぐまで私が動かしておこう。

 ところで橙。舌切雀のお話は知っているはずだね?)

(え。まあ、知ってますけど)

(葛籠には、小さい方には本物の財宝が、大きい方には魑魅魍魎が詰められていた、という話だったのは憶えているかい?)

(憶えてますけど……)

「へぇ、そうだったんだ」

(何が言いたいのか分かる?よく観察すれば、力の弱い方が本体であると、妖術を使う橙なら簡単に見破れただろうに。でも、橙は相手の動向を確かめもせずに、自分が倒したいという浅はかな考えだけで勝手に飛び込んだ。結果、橙もメイドも危機にさらされてしまった。もし橙自身が戦っていたら、酷い目にあっていたのは橙だったんだよ?)

(だって、大きい方がいっぱい入ってすごいじゃないですか。そしたら、みんなからもう少しお鍋の鱒をよそってもらえると思ったし……藍様や紫様にいっぱい褒めてもらえるし……)

(素直でよろしい。でも、それはいけない考えだよ橙。強欲は己の身を滅ぼす。目先の報酬にとらわれず、自分ができる最良の役割をこなしなさい。そうすれば、おのずと最高の結果が出るはずだよ。ひとまず、橙はもう少しだけ謙虚になること。分かったかい?)

(はーい)

「はーい」

(……ところで、お前さんはどちらを選んだんだい?)

「両方」

(藍様、両方選んだらどうなるの?)

(少なくとも地獄行きは確実だろうね)





















 Stage 3 忘れられた雪の旧都(旧地獄街道)











 しとしとと雪が降る。天上には太陽も月も星の光さえも見えず、粗忽な岩の天蓋からただ冷たい雪ばかりが舞っている。下に広がるのは古ぼけた木造の屋敷が立ち並び、提灯や行燈の淡い光が、薄暗い街道や家屋を照らしていた。幻想郷の地下に造られた都は、音もなく降り積もる雪と共に静寂を保っていた。

 しかし。静寂は都の一角で起こった爆発によってあっけなく崩された。爆発音とともに立ち昇る粉雪の柱。砕け散って破片をまき散らす家屋。



「とーっととと。いかんいかん、ちょっと張り切っちゃうなあ」

「張り切らなくて結構ですってば」



 一本角を額に生やした女性は、灰になったばかりのスペルカードを握り砕いた。式神が操る鬼ではなく、正真正銘本物の鬼である星熊勇儀は、なみなみと注がれた酒をあおり、景気よく息を吐いた。ずいぶんと離れているが、酒臭さが臭ってるような気がして、咲夜は顔をしかめた。



「しばらくぶりに盟友とも会ったし、強い人間ばかりが潜ってくる。最近の酒は格段に美味いったらありゃしない」



 勇儀は、崩れ落ちた家屋の中にそそり立つ柱に降りると、一本足で器用に姿勢を保ちながら酒を注ぎ足した。咲夜は彼女の向かいに建つ青い瓦張りの屋根へと降り立ち、勇儀を見下ろした。



「しかも天界からの御誘いまで来るなんて、そんな美味しい話に食いつかない勇儀様じゃないよ」

(誘ってない!この小鬼が勝手にのたまっただけです!)



 咲夜の周囲を回る四つの小さな岩。岩には白いしめ縄がくくりつけられていた。元となっているオーブに周辺の岩石をコーティングして固めただけの簡易的な要石である。その小さな要石ごしに、比那名居天子は怒涛の叫び声をあげていた。天子の隣では、すでに泥酔状態の伊吹萃香が気の抜けた笑みを浮かべている。



(だってさあ、懐かしい再会と最高の呑み場があったら、誘いたくならない?)

(天界にこれ以上鬼はいりません!神社でやれ!)

「みならいてんきだっけ?あんたがなんと言おうと、私ゃ天界で萃香と呑ませてもらうよ。私が地上に戻っちゃいけないって訳じゃないからね。まあ、私もここが気に入ってるからなるだけ穏便に済ませたいし、呑んだらとっとと帰るから、安心しな」

(私の名前はひなないてんし!どーして今になって鬼がぽこぽこ現れるのかなー、ふざけた奴ばっかりだし)

「それで、私が襲われるのと、今の話との関係はこれっぽっちもないはずなのですが」

「あれはあれ。これはこれ。強い奴がやってきたら力試しが相場だろう?」

「そんな相場はさっさと捨ててしまえ」



 溜息をつきながら、咲夜は予想外の強敵にどう立ち向かおうか悩んでいた。幸い、同じ鬼である萃香に比べて動きも鈍いし、大した攻撃も仕掛けてこない。先ほど放たれたスペルカードも、鬼のものとは思えないほどに緩やかだ。ただ、先の三人のように、出し惜しみして勝てる相手でもない。



「あんたらは間欠泉と怨霊の調査に来てるって言ってたけど、私じゃどうにもならんからね。ということで、まずはそこの人間と戯れて楽しむ。それから、神社とやらに行って、異変が解決されるのを眺める。そして萃香と天界で呑んだくれる。うふー、考えただけで酔っ払えるわー」

「戯れなくていいです、速攻で地上にどうぞ」

(メイド、貴方が力でねじ伏せてあげなさい。そうすれば鬼も納得するわ)

「私のメリットが何にもありませんし。レミリア様も、一度くらい天界に出かけてみたいっておっしゃってたのよね。ちょうどいい機会かも」

(どいつもこいつもメイドも……)



 夢見心地の勇儀。苦笑いをする咲夜。オーブの向こうでは、げらげらと笑う萃香。そして、ぎりぎりと歯ぎしりを続ける天子。

 四者四様の均衡を打ち破ったのは、怒りが大爆発した天子だった。



(ええい、そんなに行きたけりゃ、そこのメイドを倒したら天界行きを許してあげるわよ!)

「なんと」

「え゛」

(うや?)



 予想外の提案に咲夜は目を丸くした。酒にまどろんでいた勇儀の目に活気が戻る。ちびりちびりと呑んでいた酒を再び注ぎ足すと、ゆっくりと上昇した。放たれる闘気は今までの比ではない。



「ほほー、言ったね天人。そういう展開は面白い。乗ったよ。萃香、私が負けたら、あんたがこっちに戻って一杯付き合いなよ。このままじゃフェアじゃないからね」

(むー。仕方ないなあ。じゃあメイド、がつんとやられちゃいなー)

「ちょっとちょっと、私をだしに使わないでください。人権無視反対!」

(うるさいうるさいうるさい!どっちに転んでも損しちゃうじゃない!もーいい、鬼どもにでかい顔されるくらいなら稼ぎを捨てる!)

(むふふー。私は勝っても負けても得なんだよねー、これが)

「損?得?稼ぎ?んんんー?話が見えないですよ?」

「楽しけりゃなんでも来いだ!さあ、さっさと本気でかかってきな!私の力でぶち抜いてやるわ!」

(調子に乗るな鬼ども!天を手繰る剣無くとも、比那名居の力は大地を揺るがすものと知れ!)

「私の意見を聞いて……くれないですよね、やっぱり」



 溜息とともに咲夜は跳躍した。次の瞬間、リング状に展開されたエネルギーが足場を砕いた。



「怪輪『地獄の苦輪』」

(ちょこざいな。メイド、反撃するよ。私が攻撃に専念するから、貴方は回避に専念なさい)

「はいはい」



 観念した咲夜は、最大速度で飛び交う輪を避け、その間に天子の要石が赤い針状の気を上空からばらまいた。舞い上がる粉塵と粉雪、崩れ落ちていく家屋の連なり。



「軟弱!貧弱!脆弱ゥ!」



 左手で盃を器用に支えたまま、右手を振るう。いくつもの輪が腕から放たれ、天子の投針を弾き飛ばしていく。天子の攻撃を防ぎながら跳び上がり、咲夜のさらに上を陣取ると、腕を振るって輪を投げつけた。咲夜が避ける前に、天子は要石を周囲で高速回転させ、勇儀の輪を弾き飛ばした。弾き飛ばされた輪は、軒を三つほど砕いて消えた。



「なんかむちゃくちゃやってますけど、いいんですか?」

「構わない構わない。仲間は遠くで呑んでるし、家はまた建てればいい。細かいことは気にしないで、どんどんかかってきな」

(言われなくても!)



 縦向きに高速回転をしながら、四つの要石は次々に細いレーザーを吐きだした。先程の投針とは桁違いの貫通力を持つこの攻撃、さすがの勇儀でも避けざるを得ない。鬼と天人。どちらも人知を超えた力を持つ。支援の立場上、力が制限されているであろうとはいえ、勇儀も油断はできない。ほぼ傍観していた咲夜だったが、天子のレーザーと共に勇儀へ向けて飛び出していた。両手に近接用のナイフを構える。



「鬼に接近戦を挑むとは、命知らずだね」



 体重を乗せ、逆手で持った右のナイフを振り下ろす。勇儀は腕の手錠でその一撃を受け止めると、弾き飛ばして至近距離から輪のエネルギーを叩きこんだ。しかし咲夜の姿はすでに消えていた。弾き飛ばされた力をそのまま回転運動に変えて上方に飛び上がり、勢いを保ちながら宙返りし、横に回転を変えつつ、逆さまの状態で左のナイフで顔面に斬りかかった。姿を見失っていた勇儀に手錠で防ぐ余裕はない。



「甘い!」



 勇儀は一笑すると同時に、上半身をひねって額に生えた真っ赤な一本角を当て、逆に力任せに砕いてしまう。



「うそ!?」

「伊達や酔狂でこんな頭をしてるわけじゃないよ」



 咲夜が驚いている隙に拳を叩きこもうと構えるが、咲夜ごと狙った天子のレーザーが迫っていた。咲夜は勇儀の肩に手をついて軸にしながら、真横にナイフを放った。筋肉のばねと投げナイフの反動を利用して加速し、レーザーの射線上から離脱する。



「おっとっと、と、と、とぉ!!」



 咲夜によってバランスを崩しされた勇儀に、容赦なくレーザーが連打されるが、間一髪でこれらを避けていく。バランスを回復しつつ、レーザーをかいくぐりながら、勇儀は地上へ降り立った。焦った勇儀だったが、盃を覗いて安堵のため息をつく。

 周囲は天子や勇儀の攻撃によって、もはや瓦礫の山と化していた。咲夜と要石は、合流すると、勇儀からやや離れた位置の真正面に降りた。降りる際に、勇儀が盃を見て安心した表情を浮かべる瞬間を、咲夜は見逃さなかった。



(ちぇっ。押さえててくれれば勝てたのに)

「前門の虎、後門の狼、ってやつですかね」

(いやいや、一応ちゃんと支援してるわよ?さっき貴方が言ってたじゃない、殺れる奴が殺れる時に何としても殺れって)

「犠牲にしろとは一言も言ってません」

「くっちゃべってると、こっちの攻撃続けちゃうよ!」



 盃を左手に持ちかえ、右手をカードと共に突き出す。親指と掌にカードをはさむと、残りの四指をぴんと伸ばして、そのまま中指と薬指の間を開いた。勇儀の両サイドに散らばる大小の破片が宙へと舞い上がる。破片の一つひとつが青い球体に包まれると、勇儀は人差し指と中指を折りたたんで、腕を右から左に振りかぶった。



「力業『大江山颪』」



 右方に展開していた瓦礫が咲夜めがけて降り注ぐ。瓦礫は咲夜が今まで体験したスペルカードの中でも上位の速さで飛来した。



(数が多い、撃ち落とすよ!)

「私のナイフじゃ絶対に力負けするので、がんばってください」



 人差し指と中指を開き、薬指と小指をたたむと、続けて左から右へと振り下ろす。左方に展開していた瓦礫までもが咲夜に向かった。右上空と左上空からの時間差攻撃。上空は瓦礫で埋め尽くされ、左右は土塗りの塀に覆われている。前進か、後退か。咲夜は前者を選んだ。姿勢を低く保ちながら、低空飛行で距離を詰めていく。降りかかる瓦礫の除去は周囲に回る天子の要石に任せ、最短ルートで突進する。



「私の近くなら当たらないと思った?正解だけど、それは近付けたらの話!」



 弾幕勝負は接近すればするほどに危険が増す。このスペルは左右に展開されているために、一見して正面が手薄に見えなくもないが、それは不正解。距離を詰めれば詰めるほどに死角からの攻撃が増え、さらに距離が短くなる分、避けにくさも増す。事実、咲夜と勇儀の距離は、ある距離を境に一向に縮まらなかった。

 天子は、自分だけ弾幕から切り抜けて、あの憎たらしい鬼に一発ぶちかましてやりたかった。しかし、要石の動きは咲夜に制限され、迎撃を続けなくては共倒れが関の山。その結末は何としても避けたい。



(ちょっと、私を開放なさいよ!あの鬼をやっつけたいんでしょ?私に任せて、貴方は後方でちまちまナイフを投げてればいいの!)

「そんなこと言って、私ごと撃つ気でしょう?それより、こんなことできませんか?」



 瓦礫が降り注ぐ中、咲夜は天子にだけ聞こえるように提案をした。嫌々聞いていた天子だったが、次第に相槌が感嘆の色を含んでいく。



(……できるけど、貴方が先にやられるわよ?)

「カードを何枚か使えば大丈夫。私の推理が確かなら、絶対に勝てます」

(そうじゃなくて、現在進行形で言ってるの)



 咲夜は足を止めた。飛来していた前方の瓦礫は止み、代わりに後ろは積み重なった瓦礫によって封鎖されていた。勇儀を中心に円形の広場が形成されており、咲夜と勇儀を阻むものは何一つ残っていない。勇儀は咲夜を誘導しつつ、自分の陣地へと引きずり込んだのだった。



「さあ御立ち会い、御立ち会い!これから見せるは星熊勇儀が奥義!避けられたらあんたの勝ちかもね!」

「奥義と来ましたか。だったらこっちもちょっぴり本気で行きましょう」

「ほぉ……」



 咲夜の内に潜む自信を感じ取った勇儀は、盃の酒を三分の一程度になるまで飲み干した。盃に入り込んでいた砂利を吐きだし、指を鳴らして気合いを入れる。



「逃げるなら今のうち。逃がしゃしないけどね」

「私だって逃がすつもりはぜんぜんない」



 余裕あふれる勇儀の視線と、表情の抜けた咲夜の視線がぶつかりあう。青から赤へ。咲夜の瞳が反転していく。完全に赤く染まりきった瞬間、咲夜は上空高く飛び上がり、勇儀はカードを取り出して静かに宣言した。



「四天王奥義『三歩必殺』」



 両手一杯にナイフを抱えた咲夜もまた、カードを切った。



「奇術『エターナルミーク』」



 上空から降り注ぐナイフの雨。加えて要石から放たれる大量の投針弾。放射状に投げつけられたナイフと投針は、勇儀の周囲に突き刺さり、砂塵と粉雪を巻き上げた。途切れることなく続く攻撃は、瞬く間に勇儀の視界を遮った。



「煙幕なんて無意味だよ!」



 一歩。勇儀が踏み出した右足は地面を砕いた。投げられたナイフと投針を弾き飛ばし、酒が盃のふちまで傾いてから、中央に戻って波打った。その間に咲夜は砂塵の中に降り立ち、投げたナイフを回収しつつ、即座にナイフを投擲しながら、勇儀へ接近を始めていた。

 二歩。左足もまた地面を砕く。盃の酒が微かな揺らぎを見せた。咲夜が追い打ちでナイフを投げるも、またもや闘気に弾かれてしまう。砂塵が勇儀へ渦巻いていく。握りこんだ右拳から放たれる力が、大気そのものを震わせる。

 ままならない視界の中、咲夜は漠然とした不安に駆られていた。不安が力を使わずとも体感時間を圧縮させていく。



『煙幕なんて無意味だよ!』



 勇儀の言葉。勇儀の自信。間もなく来る合図に向けて待機していた咲夜だったが、遠くで構える勇儀の盃を見て、不安を確信に変える。盃の中身はほとんど動いていなかった。風のない湖のように澄んでいた。



「ッッ───『プライベートスクウェア』!」



 カードを取り出すと同時に咲夜がスペルを発動させる。不完全な状態での発動。許された時間は三秒。一秒が経過する前に最大加速で勇儀へと駆け出した。勇儀が三歩目を踏み出してから、砂塵の外に退避していた天子の放つ、最大出力のレーザーが閃光を放つ。



「よいしょおっ!!」



 一秒経過。拳が放たれる直前。咲夜は全速力で勇儀の元へ駆けた。

 二秒経過。前方の空間が歪み、次々と弾け飛んだ。地面に開いた、人間がぎりぎり一人通れる隙間にスライディングで潜りこみ、勢いを乗せて手元に残っていた三本のナイフを投げつけた。

 そして三秒が経過した瞬間、勇儀を中心に突風が巻き起こり、周囲の空間全てが弾けた。舞い上がった砂塵と雪を吹き飛ばし、天子のレーザーをかき消しながら、衝撃波は広場全体を覆った。勇儀よりおよそ二歩分の距離から、地面はえぐり取られて完全に平地になり、衝撃波の威力を物語っていた。



「え!?」



 奥義を放った直後、勇儀は初めて驚きの声を上げた。

 このスペルを先の人間に使った時。巫女は範囲外まで空間を移動した。魔女は三歩目の衝撃波を魔法で相殺した。勇儀にとって、どちらも素晴らしいと言える対処だった。

 だが、このメイドは、見事に避けきって二歩以内の接近を成功させたうえに、右方、頭部、腹部へ、計三本のナイフを投げつけてさえいた。ナイフを捌くか、メイドに対処するか。勇儀の目が素手のままの咲夜を捉えた瞬間、決断は下された。

 右方からのナイフは右手で。

 頭部へのナイフは歯で受け止め。

 腹部へのナイフは左手で遮った。



「んっとぉ!……んん?」



 左手。そこにあるべきはずの物が、今は銀のナイフに置き換わっている。口のナイフを捨て、勇儀は振り返った。



「ふふふ。勝利は我にあり、です」



 信じられない光景だった。勇儀の盃は、咲夜の左手に収まっていた。そして、はるか上空、『三歩必殺』の衝撃波も届かない高度。赤いオーラに包まれたナイフが、まるで猛禽類が獲物を品定めするかのように飛び交っていた。勇儀が盃を取り返そうと一歩踏み出した時、突然上空から巨大な岩石が四つ降り注ぎ、勇儀を取り囲んだ。その岩石は、天子が瓦礫を寄せ集めて肥大化させた要石。

 勇儀の予想では、メイドの決定打は、天人が放つ一撃までだった。それさえしのげば完全勝利と思われた。だが。回避不可の位置にいたはずのメイドに『三歩必殺』が避けられる。まだ予想の範囲内だ。しかし、あの一撃が囮であり、本命は非力なメイド本人の攻撃とは予想しきれなかった。



「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」



 咲夜の声に反応して、上空のナイフが勇儀に向けて飛来を始める。先程の『エターナルミーク』よりも遥かに速い速度で接近するナイフ。防がなければ、いくら勇儀でもただではすまない。しかし、防ごうにも、要石に阻まれて身動きが取れない。やがて咲夜のナイフは、対象を完全包囲し、そして要石を撃ち砕きながら勇儀へと殺到した。一斉に突き刺さったナイフは、崩れた要石と相まって、墓標のようなオブジェと化していた。



「我ながらえげつないかも」

「あいたたたた……いやあ、お見事!」

「そうでもなかったか」



 瓦礫が崩れ、体中にナイフを生やした勇儀が立ち上がった。ほぼ直撃したとはいえ、勇儀の薄皮一枚に突き刺さった程度だった。咲夜はナイフを取り出して、手に持った盃へと突きつけた。



「なんにせよ、私の勝ちには変わりありません」

「ごもっとも、完敗したよ。いやあ、まさか私の盃を奪い取る人間がいたなんて。記念にあげるわ、その盃」

「ええっ!?」

「あん?」



 咲夜は仰天し、その様子を見た勇儀もまた何事かと驚いた。



「なんで驚いてるの?」

「えーと……とっても大事な物じゃないんですか、これ。ほら、大事そうに持ってたし……」

「うんにゃ。ちょっと綺麗な普通の盃だよ」

(そもそも大事な物をおおっぴらに持ちながら戦うわけないじゃない。この鬼は手加減するために酒をこぼさず戦ってただけよ)

「……あ、ああ、そうだったのですか。私はお酒があまり飲めないし、お嬢様はワイン派なので、お返しいたしますわ」

「あらそうかい。酒が呑めないなんて、人生の九割損してるねえ」



 慌ててナイフをしまうと、盃の中身をこぼさないように勇儀へ差し出した。雪と砂が溜まってとても飲めた状態ではなかったので、勇儀は名残惜しそうにしながらも中身をすべてこぼした。



(確かに、盃を奪えば勝てるっていう考えは当たりだけど……人質じみた真似は感心できないね)

「いえいえいえ、人質なんてとんでもない。いや、ある意味人質と言えば人質なんですけど」

(?)

「あんまりにも大事そうにしてたから、こっちが本体かなーなんて、思っちゃいまして。ほら、たまにそんな妖怪いるじゃないですか。見たことないけど、パチュリー様の本にはそんな感じの妖怪が載ってましたし」

「……よく知らんけど、私ゃ鬼だよ?鬼にそんな器用な奴がいるもんか」

「世の中広いから分からないじゃないですか」

(普通は分かると思うわよ、それ)



 もう少し遅かったら、盃を相手に降参を迫っていたところだった。そんな場面を見せれば、主人の恥になってしまうし、後が怖い。危ない危ない、と咲夜は内心安堵した。

 実を言えば、「おたくのメイドは変わった頭をお持ちですねえ」、などと、主人はすでに周囲からこっぴどくからかわれている真っ最中なのだが、咲夜は知る由もない。



「ところで天子さん。先程、損とか徳とか稼ぎとか、何やら聞き捨てならない単語が聞こえてきたのですが?」

(あー、それ?貴方が異変解決できるかできないかでトトカルチョしてるの)

「んな!?」

(四人除いて、みんな途中で帰ってくる方に賭けてるから、あんまり賭けになってないけどね。巫女ならいざ知らず、貴方じゃちょっとねえ。大穴すぎるわ)

「……へえ」



 咲夜は笑顔になった。ただし、誰かを和ませるような空気を持ち合わせてはいなかった。



(というわけだから、おとなしくぶっとばされて帰ってきてね。ちょっとでも得したいから)

「なるほど、つまりは残りの敵を全員ぶっとばして、貴方の鼻をへし折ればいいわけですね。分かりました分かりました」

「これまた面白そうなことを。じゃあ私も賭けに参加しよう。今から行くんだから構わないでしょ?」

(いいんじゃない?好きにすれば?)

「よし、敵発見」

「まあ待て人間、私は分の悪い賭けは嫌いじゃないんでね。五人目の大穴狙いをさせてもらうよ」

(カモが一匹追加だわ)

「本物のカモは置いておくとして。怨霊を鎮めたいのですが、どちらに向かえばいいですか?」

「都の中心にやたら奇抜なお屋敷があっただろう?そこが地霊殿さ。怨霊のことならとりあえず中にいる奴に聞いてみな……って、前の人間たちにも言ったんだけどなあ。聞いてないの?」

(先に敵を知ってたら賭けにならないからね。教えてないわ)



 咲夜は誰にも見えないように、ポーチの中身とナイフの残りを確認した。投擲用のナイフも近接用のナイフも、普段から見れば心許ないが、まだ十分戦闘に耐えられるほどに蓄えられている。今までのように繰り返し使えば問題はない。スペルカードも十五枚ほど残っている。よほどの強敵でない限り、使いきることはないだろう。

 大丈夫、まだまだ戦える。



「分かりました、ではそいつをぶっとばしてさっさと帰りましょ。もうそろそろ、おゆはんの準備の時間が厳しくなってきたしね」













お久しぶりです。体験版のタイトルどおり、次回に続きます。続くといいですね。

みんな、後半残り3ステージぶん、オラに元気を分けてくれ。



いくつかの質問が予想されるので、あらかじめ答えておきますね。



Q.なにしたいの、このSS?

A.咲夜さんのゆるゆる冒険活劇みたいな。

 真・東方無双とか、デビルメイドクライと思えばよろしいかと。



Q.咲夜さん強すぎね?

A.1~3面なんてこんなもんさ。



Q.なんかいろいろ自分のイメージと違うんスけど?

A.東方のバトル物は皆さん割とフリーダムだと思う。儚月抄含めて。



Q.つかいろいろと物理的にありえなくね?

A.溶岩の上をかっ飛ぶ巫女だって、幻想郷にはいるのです。余裕。



Q.残り3ステは○○と組ませてplz!

A.って声がいっぱいあったらうれしい。



Q.咲夜さんが逆さまになったらおふぁんつ丸見えじゃね?(勇儀戦より)

A.男の子は黙って心眼。







追記:誤字脱字その他もろもろ修正しました。ご指摘ありがとうございます。

    ホント、椿姫とかアホ丸出しですねwどっから出てきたんだw



鳥頭
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コメント



0.2750簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんかっこいい!!
自分的には美鈴と組んで欲しい
9.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんらしい頭脳戦が楽しめました。

全身火傷で生きている辺り、人間二名も充分人外か。
底の方に落としたナイフは、回収きついだろうなぁ。
賭けやっている以上、
中盤以降のサポートは任務達成にかけていると思うので紅魔館勢であって欲しいかも。
10.100名前が無い程度の能力削除
両肩から大量のベアリング弾をぶっぱする姐さん幻視余裕でした。

続きを期待しておりまする。
12.80煉獄削除
最終的に咲夜さんと組むのはお嬢様かな。
ああ、こういう地霊殿もいいですねぇ。
咲夜さんやっぱり格好良い。
次回も楽しみにしています。

誤字?の報告
>「そういえばおゆはんの中身~」
え~っと、これってお夕飯・・・でしょうか?
他にも脱字とか誤字があったと思います。
16.90名前が無い程度の能力削除
緋想天仕様の咲夜さんですね、わかります。

個人的にはまだ出ていない永夜組と合わせてほしいです、永琳とかうどんげ。
20.100名前が無い程度の能力削除
会話がすっごく原作っぽい。

後半楽しみにしています。もちろん、EXまでですよねw
26.100名前が無い程度の能力削除
ああまだ買ってないのに地霊殿やりたくなってきたじゃないかチクショウ
27.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
なんか色々と撃ち貫いてくれそうな勇儀姐さんが素敵でした。

ただちょっと気になったのですが、何故に椿姫?
31.100名前が無い程度の能力削除
なんと続きが気になるSS。
次回も画面の前で待ってます。
四五六はなんか色々な方々が入れ代わり立ち代わりしそうな雰囲気ががが。
白銀の堕鼠(にとり仕様)とコテツな姐さんがランペィジ!
32.無評価レス31の者削除
誤字らしきもの
>「~都の一角で怒った爆発~」→「起こった」若しくは「起った」

>「息吹萃香」→「伊吹」

>「まぁ、私もここが気に入ってるからなるだけ穏便に~」
→「なるたけ」
かと。
連レス失礼しやした。
42.90名前が無い程度の能力削除
みならいてんき…結構あってるかも(笑)
43.無評価名前が無い程度の能力削除
椿姫>>遊戯王カードにあった。植物族シンクロモンスター
44.100名前が無い程度の能力削除
ぜひ製品版を!
46.100名前が無い程度の能力削除
地霊殿ver 咲夜さん、なんとも続きが気になる。
戦闘描写がすばらしい
47.90イスピン削除
実に続きが気になりますね。
個人的には四季映姫様に地底のみんなの罪を裁いてもらいたいかな?
51.100名前が無い程度の能力削除
めーりんと!めーりんとのコンビをお願いします!!!
53.100名前が無い程度の能力削除
続き!続きがないとさとりが!!
54.100名前が無い程度の能力削除
賢いけどちょっと天然な咲夜さんが素敵ですね
「おゆはん」は何度も使われてるので、公式にあった誤字なのかな?
後半、ピンチにレイマリが駆けつける……なんて安直な予想を裏切ってくれることを期待してます
57.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです!さとりが誰のスペカをコピーするのかに期待w

誤字:「再開」→「再会」ですね
60.80名前が無い程度の能力削除
「おゆはん」は緋想天の勝ちゼリフですね。
誤字というか、そういう表現だと思いますよ。口語。

残り3ステージ、お嬢様と美鈴で2ステージ。
となるとさとり戦が問題? 咲夜が過去に対戦経験ある相手ということで、幽々子とか映季とか…。
続き、楽しみにしてます。
62.100名前が無い程度の能力削除
めっちゃくちゃ面白かった!
お気楽な会話が正に東方って感じでいいなぁ。
4面はお嬢様を是非! 萃と緋で経験あるし。
5、6面は美鈴、妹様と組んでほしい。
70.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんの装備がマジうらやましい。
マーブルリコシェ、避けてみたい。
そして天子がんばれ。
ところで、溶岩地帯に入ったら、溶岩に落ちる前にナイフを回収するのはかなりきついのでは?
71.100ルル削除
お話も勿論面白いが、戦闘描写が凄まじいなぁ。素晴らしい

次のさとり戦での「トラウマ」が気になりますね。
個人的には、やっぱり不老不死コンビが来てほしい。姫様ともこたん。
ドラゴンバレッタとフジヤマヴォルケイノはガチでトラウマ……
73.100名前が無い程度の能力削除
東方らしさが抜群に出てて素晴らしい!続きに期待~~
74.100MASSY削除
春先に地霊殿の情報が出た時点で、きっと咲夜さんもプレイヤーキャラで、おぜう様、パチェ、めーりん辺りがサポートするんだろうなあと思っていただけに、イザ発表となったら出番無くてがっかり…
全国の咲夜さんファンが待ち望んだSSではないでしょうかこれ。
75.90名前が無い程度の能力削除
そういえば永夜組は地霊にはでてませんよね。(緋想天はさいきんだから除く)
76.100名前が無い程度の能力削除
正直「なぜこの設定で咲夜さんがプレイヤーキャラじゃないんじゃーーー」
って発狂しかけた咲夜スキーの私としてはそういう話は大歓迎です。

このまま一気にEXTRAまで攻略してしまって
本職たちwの立場を無くしてしまってください。