Coolier - 新生・東方創想話

映姫と小町の地底視察。胸が大きいことは罪なりて

2008/10/25 23:10:08
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悪質なキャラ崩壊注意。
苦手な方はバックしてください。



静かな地底にを下っていく二つの人影。

「四季様ぁー、帰りましょうよー」
大きな体に見合わない情けない声を上げるのは、サボタージュの達人・小野塚小町。
「何を言ってるんですか。まだ地底に入ってから半刻もたってませんよ」
小さい体で小町を叱責するのは、泣く魂も黙る裁判の達人・四季映姫。

「だってー、今日はあたい休暇だったんですよ」
休暇中に無理やり連れてこられたため、ご機嫌がよろしくない小町。
普段にも増して顔にやる気が感じられない。
「私も休暇です」
前を向いたまま、映姫が言った。
「四季様とあたいは、ちがうんですよ。休暇が仕事の能率を上げるんで」
「貴方は普段から半分休暇状態でしょう」
振り返り、小町を睨みつけながら小町の泣き言をピシャリと制した。
流石の小町もこれには黙った。

なぜ、普段は彼岸であれこれしてる二人が地底を歩んでいるか?
休日を好き好んで説教して回る映姫である。
今回、地底で博麗の巫女が暴れまわったと言うので、
「そうだ、地底に行こう」
と映姫が思い立ったのだ。

ちなみに今、地上では今日は映姫の説法が来ないと里も妖怪の山も安心していた。



黙々と地底を下っていく。
時折、小町が「もう休みましょうよー」等と繰り返していたが、映姫は全て無視していた。

と小町が既に何回目かの泣き言を上げようとした時、二人の目の前に橋が現れた。
もの珍しそうに、小町が橋を見る。
「この橋はなんですか」
橋は、やや古びてはいるものの、しっかりとした木製である。
暗い地底には些か不釣合いである。
「旧地獄とこちらを結ぶ重要な橋です」
映姫が表情を変えずに答える。

小町が何か考えている様子で口に手をあてながら、橋を見つめている。
その様子に、映姫の表情が少し明るくなる。
「あなたも、この旧都へと続く橋を見て感慨でも覚えるのですか」
普段見せない小町の一面だ。
素直に上司として喜ぶ。
「いえ、三途の河に橋を架けたら仕事が楽になるなと思いまし」
地底に、鈍い音が響いた。
映姫が思いっきり小町を殴ったのである。
「痛いです。何するんですかっ!」
叩かれた箇所をさすりながら、抗議の声を上げる。
そんな小町を映姫はアイシクル・フォールよりも冷たい瞳で見つめる。
「し、四季様……あのー」
怒っていた小町も、映姫の表情に固まる。
「……貴方に期待した私が馬鹿でした」
映姫は踵をかえすと、そのまま橋を渡ろうとする。

「あら、閻魔様が何か用?」
橋の向こうから現れた金髪の女。
尖った耳と一歩間違えると農民のように見える服を纏っているのは、地底を住処とする、水橋パルスィ、橋姫である。

「あれ、お百姓さんがなんで、こんなとこ」
喋り終わる前に、思いっきり映姫が小町を引っ叩いた。
再び、小町が抗議の声を上げようとするが
「私の部下が失礼しました」
映姫が頭を下げる。
それをみて、小町も一緒におずおずと頭を下げる。
「すいませんでした」

「え、えぇ。気にしてないわ」
目の前で繰り広げられた折檻に、本当は少し気にしてるのだが、パルスィは答えた。
「彼女は橋姫です。橋を渡るものを見守るありがたい存在なのですよ」
映姫は小町に向き直ると、パルスィに関して解説をした。
「へぇ」
小町は素直に声を上げる。
「本当に失礼しました」
映姫が申し訳無さそうに言う。
「大丈夫。それより」
パルスィは小町のその豊かな胸部を見つめる。
そして、歯軋りをする。
「妬ましいわ」
心のそこから、憎そうな表情で小町の豊かな胸部を睨みつける。
「へっ」
呆気にとられた小町。
「妬ましい、妬ましい。何を食べたらそんなに無駄にデカイ、胸になるの」
と、二名を置いていきながら、一人で嫉妬の声をあげるパルスィ。

「あの、パルスィさん」
映姫が、背筋を伸ばす。
これはいけない、説教モードだ。
パルスィは『なによ』と言わんばかりの表情で向き直る。
「いいですか、嫉妬と言うのは、人の視野を狭くします。そして、嫉妬は」
あちゃーはじまったか、そんなことを考えながら小町が溜息をつく。
パルスィは説教を聞きながら、映姫の胸を見つめる。
「聞いているのですか!!」
全く見当違いの方向を見つめるパルスィに映姫の声が張りあがる。
「いえ、あなたは別に妬ましくないわ」
そう哀れむような表情で映姫の胸を見つめていた。
そう、映姫の胸はお世辞にも大きくない。
正に、それは絶壁。
足がかり一つ無い絶望の壁。
あの、天人と肩を並べるほどの絶壁。

「なっ……」
パルスィがいわんとしていることに気づき映姫の表情が見る見る間に変わっていく。
あの顔は般若だ。
正に旧地獄にふさわしい。
あぁ、橋姫・水橋パルスィよ。
なんて愚かなことを。
小町は思う。
『この表情になったらやばい。地底が崩壊する』
小町は映姫を抱え上げると
「すいません、失礼しました」
と、パルスィに言って、全力で橋を駆け抜ける。
「こら、小町!!」
お姫様抱っこされながら言っても全く、威厳が無い。
これは、小町×映姫が好きな人が見たら、なんとももだえる光景である。

こうして地底は小町の龍宮の使い並みの空気読みで崩壊の危機から脱したのである。
ありがとう、小野塚小町。
実は陰から見つめていたキスメは小町に心から感謝したのである。




橋から遠くはなれ、小町は、肩で息をしながら、立ち止まる。
「はぁ、はぁ」
体躯の良い小町でも流石に映姫を抱えたまま走り続けたため、息が上がる。
「ここまで、来れば大丈夫か」
立ち止まったまま後ろを見る小町。
「危ないところだったなあ」
地底の崩壊を救った小町は一仕事終えたとばかりに、溜息をつく。
さて、ここで小町はあることに気づく。

――四季様、何でこんなに静かなのだろう?

ふと、目線を落とすと、なんと映姫の顔は、小町の柔らかな胸に圧迫され……とても安らかに、そう、とても安らかに……

小町の顔面が蒼白になる。
なんといことだ。
小町はその豊かな美しい胸で最愛の上司を殺してしまったのだ。
冷たい地底に映姫を安置する。
そしてうなだれた小町の頬に大粒の涙が伝った。
「あたいは、取り返しのつかないことをしてしまったぁああ」
拳を握り締め、映姫の顔を見つめる。
そして、小町の頭にリフレインする映姫との思い出。
確かに厳しかったけど良い上司であったのかもしれない。

――船に寝転び休息を取っていた所を船ごと蹴飛ばされ三途の河で溺れ掛けたこともあった。
――ボーナスの査定に躊躇いも無く『丙』とつけられた。
――酔っ払った四季様に思いっきり胸を揉みしだかれた。

そんな四季映姫を小野塚小町は好きだったのかもしれない。
嗚咽が地底に響く。
それは悲痛な調。

だが、小町は顔を上げ、指で涙を拭く。

「泣いていて、どうするんだ、あたい!」
小町は自分を奮い立たせる。
地底で散っていった映姫への手向けは泣いていることじゃない。
今こそ立ち上がり、地底の底を目指すのだ、小野塚小町

小町は歩みだす。
愛しい者の死を乗り越え力強く、地面を踏みしめる。
三歩歩いた所で小町は振り返る。

冷たい地底に、閻魔が横たわっていた。
横から見ると本当に厚みが無い。
安らかに眠れ四季映姫。
その死に顔は穏やかで、とても、『幻想郷の強説教魔』として恐れられた者とは思えなかった。

小町は再び前を向いた。

そして、暗い地底へとひと……
「きゃーーーーん」
その小町の頭に、子気味よい音を立てて悔悟の棒がヒットする。
情けない声を出してその場に崩れ落ちる小町。

「閻魔が胸に溺れて死んで堪りますか!!」
蘇生した映姫はのっそりと、服を手で払いながら立ち上がる。
「生きてたんですか?」
小町は、頭を摩りながら映姫の方を見る。
「当たり前です!」
まだ立ち上がる小町を見下ろしながら怒鳴る映姫。
普段とは目の高さが逆転している。
「ちっ……」
小町は目を逸らすと舌打ちをした。
「『ちっ』とはなんですか!!」
「なんでもないですよーーー」
口を尖らせながら小町も立ち上がる。

映姫は溜息をつき、首を横に振った。
「いつの間にか、旧都の近くまで来たのですね」
そりゃあ映姫様、窒息死しかけてたからね。
「旧都ですか」
そういえば、遠くに灯りが見える。
「賑やかそうな所ですね」
賑やかな方が好きな小町は少し嬉しそうな表情になる。
二人はゆっくりと灯りの方へと向かって歩き出す。

「懐かしいですね」
そう、旧都は昔、地獄があった場所。
映姫も昔はよくここに来ていた。
幻想郷の中でも古株の映姫である。
その分、こういう風に昔を懐かしむこともあるのだ
昔を思い出しながら感傷に浸る映姫。
「へー、やっぱり、四季様ほど長ーーーーく生きると色々と思い出が出来るものですね」
そして、それは一言で崩す小町。
感傷を一瞬でぶっ壊され溜息をつく。
だが、映姫は満面の笑みで小町へと振り返る。
小柄な体で、可愛らしい笑みを浮かべる姿は微笑ましい。
その笑顔の裏にあるものに気づいた小町は顔を引きつらしているが。
「次のボーナスの査定『も』楽しみにしていてくださいね」
可愛らしく、首を斜め45度で傾けて言う。
あぁ、これを見れれば並大抵の大きなお友達はころりと往くだろう。
「……すいませんでした」
小町はがっくりと肩を落とし、謝罪の言葉を述べる。
「一度、口から出てしまった言葉は二度と元には戻らないんですよ」
笑顔を崩さずに言い放った。

そんなことをやってるうちに二人は旧都の入り口へとつく。
「やはり、懐かしいですね」
懐かしい旧都へと来れて映姫はどこか上機嫌。
「えぇーいいですよー。どーせ、あたいは万年『丙』査定ーー」
落ち込みながら変な歌を歌っている小町。
まだまだ、地底は長い。
こんな調子で小町は大丈夫なのだろうか。


地底に有りながら、瓦の屋根が並び、それなりに風情がある、旧都の町並み。
華やかで賑やかである。

「変わりませんね、ここは……」
少々ハイになりながら映姫は嬉しそうに解説をしている。
それを小町は聞き流しながら、あさっての方向を見ている。

二人は大通りを歩き続ける。
ふと、あさっての方向を向いていた小町は、飲み屋の看板を目にした。
良く見ると『本日飲み放題(但し星熊勇儀氏お断り)』と書いてある。
その言葉に、小町の唇が釣りあがる。
「あのぉー、四季様」
まだ、嬉しそうに解説をしていた映姫は、話を止められて少し不機嫌そうに振り返る。
「なんですか」
眉間にちょっとだけ、皺が寄っている。
映姫の眉間は皺がなくなることが無いなぁ、と小町は思った。
「少し、休んでいきませんか?」
何、ご休憩2時間とか、そういう意味ではない。
「あたい、お腹が減ってしまいまして。ご飯食べてきても大丈夫ですかね」
映姫の表情を伺いながら、恐る恐る尋ねる。
「ええ」
映姫が微笑む。
やった、小町は心の中でガッツポーズをする。
「小町がそこの、飲み屋で一杯飲んでいきたいのはよくわかります」
微笑んでいた映姫の表情が一瞬で引きつる。
「視察中に飲酒とは何を考えているのですか!!」
悔悟の棒で、小町をぶん殴る。
「いたぁ!」
頭を抱えながら、屈みこむ小町。
今日、何度目にした光景であろう。
「大体、あなたは、普段の勤務態度からして……」
繰り広げられる説教。


映姫は、必死に普段の小町の勤務態度がいい加減か、屈みこむ小町に追い討ちを打つ様に畳み掛ける。
その様子をみて、見かねた一人の鬼が、声をかける。
「おいおい、大通りで」
声の主は星熊勇儀。
額の一本の角が逞しく、小町と同じくらい豊かなバストを持っている。
くいっと、片手に持っていた盃を傾け、喉をごくりと鳴らす。
そして、長い綺麗な指で前髪をかきあげる。
一連の動作はとても、美しく風情がある。
「と、思ったら閻魔様じゃないですか」
あの、泣く子も黙る映姫にフランクに話しかける勇儀。
それを見て小町は『こいつ……できる』と思った。
「あぁ、久しぶりですね」
映姫は説教を中断し勇儀に向き直る。
「どうしたってんですかい」
ニコニコと笑いながら、映姫に尋ねる勇儀。
まぁ、あれだけの剣幕で大通りで説教を繰り広げていたら、誰でも気にはなる。
「いや、部下の死神が……」
理由を映姫が説明し始める。すると小町が手で顔を覆う。
「えっ、う、酷いんですよ」
屈みこんだまま、嘘泣きを始める小町。
「普段から……こき使われて、うぐ……今日だって本当は休みだったのに引っ張りまわされて」
普段いかに、小町が酷いパワー・ハラスメントを受けてるか嗚咽交じりに語りだす。
「……なっ」
映姫の表情が強張る。
「なんだって!?」
勇儀の表情も固まる。
「休み無しでずっと地上から歩いてきて、休みたいといったら、殴られてぇ」
おいおいと地に伏せる。
地底の住人もその動きに目をひきつけられる。
勇儀は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の閻魔を除かなければならぬと決意した。
勇儀には閻魔と死神がわからぬ。
勇儀は、地底の鬼である。酒を飲み、猫と遊んで暮して来た。
けれども邪悪に対しては、人一倍敏感であった。
「四季様は、私を殴ります。」
「なぜ殴るのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、私はそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんお前を殴ったのか。」
「はい、はじめは私の頭を。それから、綺麗な太ももを。それから、この豊かな胸を。それから……」
「おどろいた。閻魔は乱心か。」
「はい」
聞いて、勇儀は激怒した。
「呆れた閻魔だ。生かして置けぬ。」
地底の大通りの住人が一様に小町の芝居に注目している。
そしてそれに乗せられる勇儀。

大通りに二回、良い音が木霊した。
小町と勇儀を思いっきり打ったのだ。
「何をやってるんですか!」
映姫も流石に我慢し切れなくて殴ったのだ。
「本当のことじゃないですか」
映姫に反抗する小町。
「それは、貴方の普段の態度が前提にあってのことです!」
毅然として小町を睨みつける。
「あたた、閻魔様も変わってないねぇ」
あれだけ、力いっぱい殴られて、酒をこぼさない辺りは流石である。
「ねぇ、堅苦しいでしょ。この人」
同意を求める小町。
「あぁ、昔からこうだった。粋じゃないねぇ」
「そうでしょ」
何故か、意気投合する二人。
そういえば、この二人、色々と合うところがある。
胸の大きさとか、胸の大きさとか。
「あぁー! もう良いです。早く行きましょう!!」
無理やり小町を引っ張っていく映姫。
「ちょっ、痛いですってば」
首根っこを掴み引っ張られていく小町。
あの小さい体で、あの小町を引っ張っていられるのか。
不思議である。

そんな二人を見送りながら、
「おーい、今度は飲もうなぁ」
と手を振る勇儀。
いつもと同じ日常におきた珍事にクスクスと笑うのであった。



さて、いつの間にか、大きなお屋敷へとたどり着いた。
「ふう、やっと地霊殿まで、たどり着きましたね」
汗を手で拭う映姫。
ここで、映姫は違和感を感じる。

――あれ、なんでこんなに小町は静かなんでしょう。
と思って小町に目を落とす。

小町は、襟元を引っ張り続けられたため……そう、安らかに、とても安からに……


「とっとと起きなさい」
襟元を引っ張って無理やり小町をゆする。

「おわっち」
ガタガタと、頚椎がはずされそうな勢いでシェイクされたため、舌を噛みながら小町が声を上げる。
「あなたが寝たふりをしてサボろうと考えているのはバレてますから」
小町を思いっきり突き放す。
「ひどいで……」
小町は、言葉を止めると、地霊殿の奥の方を見る。
目線の先にあるのは暗がり。
「何か嫌な感じがしますね、ここ」
小町はだらしなく緩んでいた顔を少し引き締める。
「この中に、居るのは地底の大人物です」
映姫は落ち着いた表情で告げる。
「そして、残酷な面もあります。気をつけなさい」
小町に念を押すように告げる。
地上の妖怪のなかにも、残酷な種族は居る。
だが、地底の妖怪はまた違うのだ。
元々、忌み嫌われた妖怪や地上で上手く生活できなかった妖怪が地底で大きなコミュニティを作ったのである。
だから映姫は警告をするのである。

小町も、背筋を伸ばす。
そして、二人は屋敷の中へと進んでいく。



だだっ広い屋敷の中に、地霊が漂っている。
時折外より吹き込む風の音が寂寥の念を感じさせる。
華やかだった旧都と違い、ここにあるのは、寂しそうな地霊の声と悲しげな情景のみ。

ここだったら、まだ三途の河の辺の方が居心地が良い。
内心、小町はそう思う。
「やっぱり、嫌な雰囲気ですね」
辺りを眺めながら小町が言う。
「ええ、ここは……」
映姫が何か言いかけたときに、目の前に一人の人物が現れる。

「ようこそ、地霊殿へ」
桃色の髪を揺らしながらその人物は言う。
「久しぶりですね。古明地さとり」
映姫は礼儀正しく礼をする。
小町もそれに合わせて慌てて礼をする。

「実はですね」
映姫が事情を説明しようとすると
「言わなくてもわかります。先日の騒ぎのことでしょう」
静かにさとりが言った。
映姫は苦笑する。
「そうでしたね。貴方に説明は必要ないですね」
その二人の様子を見て不思議そうに首を傾げる小町。
さとりが小町の方を向く。
「意味がわからない、といった感じですね」
心の中を言い当てられて小町が驚いた様に肩を震わす。
「え、はい。あたいにゃ、二人のやり取りが良くわからない」
小町は再び首を傾げる。
映姫が全てを言い切る前に、さとりが言い当てた。
「そちらの死神さんは、初めてね。初めまして古明地さとりです」
余り表情を動かさずに自己紹介をする。
「は、はい、初めまして……」
「小野塚小町さんね」
「えっ」
初対面のはずなのに、名前を言い当てられたため、さらに慌てる小町。
(……どこかであったっけ?)
小町の頭の中で増殖していく疑問符。
その部下の様子にたまらなくなった映姫。
「彼女は、『さとり』なのです。心に浮かんだことは全て彼女に読み取られますよ」
そういって、再びさとりの方を向く。
「はえーー。そんな妖怪も居るんですね」
合点がいって、小町が感嘆の声を上げた。

「相変わらず、閻魔様は私のことを苦手に思っているようですね」
心の中を読んだのか、ゆっくりと告げる。
映姫は一度小さく溜息をつくと悩ましそうに首を振った。
「相変わらず、貴方は他人と心を交わせてないようですね」
その言葉に、初めてさとりが口元をゆがめる。
地底の屋敷の主に相応しい冷たい微笑であった。
「孤独に生きることがどれだけ、自分の死後を悪くするかわかっているはずなのに……まぁ今日は良いでしょう」
再び映姫は溜息をつく。
「えぇ、問題の私のペットは中庭にいるわ」
再び、心を読んで答えを告げるさとり。
「あと、貴方の部下『あぁ、めんどくさいなぁ、早く帰って寝たい』と思ってるわね」
「……っ!!」
まるで、尻尾を掴まれたネコの様に体を硬直させる小町。
「それはわかっています」
映姫は諦めたように首を振る。
「あら、そう」
さとりは興味が無さそうに相槌を打った。
ただ慌てているのは小町のみ。
映姫は何度目かわからない、溜息をつくと中庭へと歩みだした。
小町もそれに続く。
その二人に後ろから声がかかる。
「あと、この服は幼稚園児の服じゃないですよ」
小町は振り向くとただ苦笑する。
その後頭部へ、映姫の打撃がヒットする。
「あたっ!!」



屋敷の中にはから、二人は地底のさらに降りていく。
徐々に増えていく、地霊たち。
皆寂しげに体を震わせているように小町には見えた。
「本当に寂しいところですね」
「ここは、忘れ去られた場所ですから」
地霊達は、この暗い地底で長い時を何を思って過ごしてきたのか。
それを考えると小町の胸が少し痛んだ。
「いつか、ここの地霊たちも供養してやりたいものですね」
小町が、静かに言う。
「……」
映姫は押し黙る。
もはや、過去の存在となった旧地獄に取り残された霊達をどうこうするほど、今の地獄の財政状況は潤っているわけではない。
「わかっていても出来ないことはあるのです」
映姫はただ、そう呟く。
小町も、映姫の心情を酌んだのか、それ以上はそのことには触れなかった。


「にゃーん」
急に猫が飛び出してきた。
「おわっ」
小町が驚いて尻餅をつく。
そんな小町をみて、軽く溜息をつく映姫。
すると、黒猫は尻尾を震わすと、一瞬で人の形に変わる。
「おどろかしちゃって御免ねー」
人懐っこそうな笑顔を浮かべて、小町に手を差し出す。
「あ、あぁ、大丈夫」
まだ驚きの色を顔に浮かべたまま、手をとり立ち上がる小町。
「あなたは?」
二人のやり取りを見ていた映姫が猫にたずねた。
「火焔猫燐」
燐はまた人懐っこそうに笑う。
「火車ですか」
合点がいった映姫とは対象に、小町は
「火車?」
と、たずね返す。
それを聞いて、燐はにっこりと笑う。
だが、彼女が次に行った行為は、その無邪気な笑顔とは正反対のものであった。
「この中を見てごらん」
燐は持っていた猫車の中身を見せる。
それを見た途端小町は顔をしかめた。
中にあったのは妖精の死体。
まるで、人形のように横たわっていた。
小町が顔を背けると、燐の近くに、地霊たちが寄って来る。
そして、妖精の遺骸の中へと溶け込んでいく。
すると、どうだろう。遺骸が動き出したではないか。
妖精の遺骸はぎこちない動きで飛び始める。
「……」
小町は無言でそれを見つめていた。

呆気に取られてるのではない。
小町の中の倫理がそれを否定しようとしているのだ。
燐が行った行為が小町にはとてもおぞましく見えた。
映姫は部下の心境の変化を察する。
「よしなさい、それが火車というものです」
小町は上げようとした鎌を納める。
「?」
燐は二人のちょっとした、様子の変化に疑問を持ったようだが、
特に気にはしないらしく、人懐っこそうに笑っていた。
「ところで、お二人さん、どんな用?」
小町はまだ納得いかぬようで後ろを向いた。
「ここに、最近とんでもない力を手に入れた地獄鴉がいると聞いてきたのですが」
すぐに、燐は理解したようで手を胸の前で叩いた。
「ああ、空のことだね」
『うつほ』、どうやら、それが映姫が目指す地獄鴉の名前のようだ。
「この先で、あそんでるよ」
燐は先にある、暗闇を指差す。
「ありがとうございます」
映姫は燐に一礼すると、歩みだした。
「ほら、いきますよ」
まだ、納得いかない様子の小町に声をかけて。




地底をさらに下っていくに連れて、温度は上がり続ける。
すでに、映姫の額には汗が光っていた。

最早、紅く光る溶岩があたりに流れ始めていた。
既に、徒歩では無理だと思い、飛び始める映姫。
(ある意味、地獄に相応しいかもしれないですね)
内心そう思いながら、映姫は先に進む。


一帯に溶岩が流れている。
その熱気が篭る空間を一羽の鴉が飛んでいた。
時々、龍の如くうねるマグマ。
空間全体が紅くそまるこの様子はこの世の終わりに似つかわしい。

「お客さん?」
ただ、飛び回っていた鴉が映姫に気づき、動きを止める。
その胸は紅く太陽のように輝く。
「初めまして、四季映姫・ヤマザナドゥです」
空は感心したように不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ、なんでこんなところに?」
制御棒となっている右腕を映姫の方へと向ける。
映姫はそれに動じない。
「あなたは大きな力を手に入れたようですね」
映姫も悔悟の棒を空へと差し向けた。
「ですが、その力を持て余し、意味も無く振り回しているようですね」
映姫は一度頬に伝う汗を拭う。
「目的無き力は大きな害を生みます。自分にも周りにも。あなたは、それを反省し、自分の力を省みる必要がある」
退屈そうに空は欠伸をした。
「わざわざ、説教をしに? えーと、シャバダバドウさん」
「ヤマザナドゥです!!」
すかさず、映姫が叫ぶ。
「し・き・え・い・き、ヤ・マ・ザ・ナ・ドゥ。覚えましたね」
映姫は、息を整えて、空に伝わるように、一言一言言った。
さすが、四季映姫・ヤマザナドゥ。
どんな相手でも公正に。
冷静に対処できる。
空は、ゆっくりと映姫の言葉を反芻しているようであった。
「ええ、でダバダバドンさん。なんの話だっけ」
映姫は大きく肩を落とした。
そして、映姫は痛感する。

こいつ……ばかだ。

そりゃ、三歩で忘れる鳥頭といいますもの。

(クールになりなさい、四季映姫。私は楽園の裁判長。公正なのが取り得)
四季映姫は自身に落ち着くように言い聞かせる。
馬鹿相手でも頭に血を上らせたらあかん。
それが映姫の心情であった。
「何一人でぶつぶつ言ってるの? 馬鹿みたいね」
「……な!!」
その一言に、映姫の怒りのボルテージが急上昇する。
馬鹿に馬鹿と言われるほど悔しいことはない。
そう、それは小町に「真面目にやってくださいよ」と言われるのと同じくらい悔しい。

――小町?

四季映姫は辺りを見回す。
いつの間にか小町は消えていた。

「あーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

ついに、映姫の堪忍袋が崩壊した。

映姫は悔悟の棒を構える。
すると、後ろの空間がさけ、幾つもの悔悟の棒を模した弾幕が現れる。
「もういい、馬鹿には口で言っても伝わらない!!」
映姫がこの世の真理を叫ぶ。
「口でわからないのなら、体で覚えなさい!!」

審判「ラストジャッジメント」
レーザーと弾幕が一斉に空へと向かっていく。
「いいじゃない。相手にとって不足なし!!」

爆符「メガフレア」
マグマの火球が映姫へと向かっていく。

その二つが衝突する。
地底が大きく揺れた。



その頃小町は……行った後の酒は美味いねぇ」
「おっ、粋だねぇ」
「あぁ、妬ましい」
何故か、橋の上で、勇儀とパルスィと酒を飲んでいた。

「いやはや、堅苦しい上司から解放されて気分がいいやー」
酔いが回っているのか楽しそうに笑う小町。
「ほらほら、もっともっと」
小町が酒を飲み干すと、勇儀もそれにあわせて盃を開ける。
「死神も飲むねー」
「鬼さんこそ。粋だねぇ」

「「ははははははははっははは」」
馬が合うのか二人とも、大きな声で笑う。

その間で、パルスィは両手でお猪口を持ちながら妬ましそうな表情をする。
身長がパルスィに比べ、二人が大きいので、勇儀と死神の会話がパルスィの上を飛来していく。

お猪口をゆっくりと飲み干すパルスィ。
パルスィは右を向く。
そこには誇らしげな勇儀の胸。
パルスィは左を向く。
そこには豊満な小町の胸。

パルスィは下を向く。
そこには、中途半端な膨らみ。

パルスィは親指の爪を噛む。
「あぁ、妬ましいわ!!」

突然、大声を上げたパルスィに、小町と勇儀は笑い声を止める。

「どうした?」
小町がパルスィの顔を覗きこむ。
胸がプルプルと揺れる。

「酒が足りないのか?」
勇儀がパルスィの顔を覗きこむ。
豊かな胸がパルスィの肩に触れる。


「妬ましいわ、妬ましいわ!!」
遂に、パルスィの嫉妬ゲージが崩壊した。

舌切雀「謙虚なる富者への片恨」

嫉妬ゲージマックスのパルスィがスペルを放った。





さとりは溜息をついた。
地霊殿の前と後ろで繰り広げられる喧騒に。
さとりの願いは唯一つ。
早く、地底が元の静けさを取り戻すことのみである。
すいません。
やっぱりギャグは難しいですね。
phantom
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コメント



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12.80名前が無い程度の能力削除
メロスwwww
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笑ったから私の負けww
18.80名前が無い程度の能力削除
これは酷いwwwww
後、
>「ああ、空のことだね」
燐は空のことをお空とよんでいたはず。
26.90無名削除
さすがに空はそんなに頭悪くないかと……個人的には橙程度はあると思ってる
それと
>あと、この服は幼稚園児の服じゃないですよ
その発想はなかったわw
28.90名前が無い程度の能力削除
古明地こいしにはどういう反応するんだろう?
31.無評価名前が無い程度の能力削除
>その頃小町は……行った後の酒は美味いねぇ」
 ?
32.60名前が無い程度の能力削除
メロス吹いたw なぜか創想話ではメロスネタが多いような気がしますね
個々のネタは面白いのですが、全体としてエピソードごとにブツ切り感が強いのと、
後半ほど話が散漫になりラストも投げっぱなしなので、纏まりが無く感じられます
34.無評価名前が無い程度の能力削除
呆れた閻魔だ。生かしておけぬ。
吹いたww
35.80名前が無い程度の能力削除
難しい感想は書けませんが、ただこれだけは伝えたい。
すばらしいおっぱいだったと。