Coolier - 新生・東方創想話

火車が神社に姿を見せなかった理由

2008/10/19 19:16:24
最終更新
サイズ
32.04KB
ページ数
1
閲覧数
630
評価数
4/18
POINT
890
Rate
9.63

この作品は作者の過去作品と世界観を共有している設定です。
ですが読んでいなくても問題はまったくないと思われます。
一部オリジナルの設定を加えています。ご容赦ください。
























私の生まれ落ちた世界は灰色で、空は四角に区切られていた。















(meow [アメリカ圏での英語表記])












1980年代 とある先進国のとある都市のどこか



母親はある朝、車に轢かれ死んだ。
父親は生まれた時からいなかったので、生まれたばかりの子供達を守ってくれる存在はいなくなった。
私たちは自分の力だけで生きていくことを余儀なくされた。選択支などない。
当然ながら生後まもない私たちにそんな力はないに等しい。あるものは病気で、またあるものは餓えで、もしくは母と同じ運命をたどり死んでいった。しかし私は生き残った。私には不思議な力があった。
例えば私は生まれてすぐ人の言葉を理解することができた。そのおかげでとりあえず自分の置かれている状況を判断することができ、突発的な事故で死ぬことはなかた。知能も高かったのかもしれない。この力のおかげで食べ物にも困らなかった。どこにいけば望むものが手に入るのかわかったからだ。私は街を流れて暮したが、住む場所にこまることもなかった。少なくとも雨風をしのげる場所などいくらでも見つけられたからだ。それでもこの街で子供が一人で生きていくことは簡単ではないことはわかっていた。死は常に自分の目の前にある。そう考えていたので自分の力を存分に発揮して行くことにした。自らに危険が迫り、生きるために敵の命を奪わなければならない時、私は躊躇わずにその相手を殺した。そして私は生まれて一度もないたことがなかった。
母が死んだ時も。この世に生をうけた時も。初めて人を殺した時も。


そのうちに自分は他とは違う、特殊な存在であるということが理解できた。だから私は誰ともつるむことなく一人で生きていた。そしてある時私は深い絶望感に襲われた。
私は少なくとも野たれ死ぬことはない。このまま成長していくだろう。そうすればこの力はもっと大きくなる。これは確信に近かった。しかし異能の力をもつ今私の目に映っている人間達は受け入れてくれるだろうか。
答えは否、だ。
人間は私を仲間とは受け入れてくれないだろう。人間は私の存在を認めてはくれないだろう。『この世界』は私を必要としてくれていない。そう考えた時、私は死のうと思った。このまま食事を断ち、睡眠と覚醒だけを繰り返して死を迎えようと。
幼い私の命が尽きるまでそう長く時間はかかるまい。
そのまま私は眼を閉じた。





何回目の覚醒だったか、目を開けると周囲の景色は一変していた。車も、コンクリートの建物も、人間の姿さえもなかった。
あるのは何件かの木でできた建物とまばらに生えた植物。そして乾いた土の匂い。
最初自分は死んだのだと思った。だが体は衰弱して動くこともままならないが、どうやらまだ生きているようだ。
ここはどこだ? 
確かめようにも体が動かない。まぁよい。ここがどこであろうと私はもう死ぬ。おそらく最後になるだろう睡眠に入ろうとした私の耳に、突然声が飛び込んできた。

「あらぁ 珍しいものを見つけたわ 早起きは三文の得って諺は本当だったのねぇ」

見たこともない服装。金色の髪。吸い込まれそうな濃い色をした瞳。初めて聞く不思議な雰囲気の声。
雨も降っていないのに傘を差した人間が私を見降ろしていた。・・・いやこれは人間、なのか?

「紫様、お言葉ですが今はもう昼過ぎです 決して早くありません 急いで結界のほころびの修復を済ませてください」

姿は見えないが別の声が聞こえた。張りがありきびしい感じがするがとても優しい声。
ゆかりさまと呼ばれた「それ」は、その声をまるで聞こえていないかのように無視をすると、しゃがみ込みながら私を見つめ、ゆっくりと私の頭を2度なでた。

「たいしたものねぇ あなた自力で結界を超えてきたの? ・・・なるほど、生まれたばかりなのに中々の力を持ってるのね 
ふふふやっぱり早起きはするものね」
「ですから早くありませんてば」
「今じゃないとダメだったのよ 早くても遅くてもいけなかったのね あなた虚と実の境界が曖昧になっているわ 
 そう・・・自分の力を自分の存在を否定し続けてきたのね 自分はいらない存在だと ・・・でも、そう考えてもあなた、やっぱり 生きたかったのね」

!? なんだというのだこの存在は。もしかして私と同じ・・・?

「『あちらの世界』があなたを受け入れずとも、「こちらの世界」はあなたを歓迎いたしますわ ここはそういう場所ですもの」 

そう言ってゆかりさまは私を抱きしめた。見えない力の波が私を包み込む。
それはとても強く、とてもとても・・・あたたかい。

「来なさい わたくしのもとに」

私の中が満たされ行く。私を苦しめていた絶望感が薄れてゆく。失われていた生きる意志がもどってくる。
答えなければいけない。この体に宿るすべての力を振り絞ってでも、ゆかりさまの言葉に答えたい・・・!

























「ニャア」



黒い子猫は生まれて初めてないた。


「あら! 鳴いた! この子鳴いたわ! 決めました 今決めました 藍、命令です この子の面倒はあなたが見なさい
 そして八雲の名にふさわしい立派な式に育てなさい わかったわね?」
「自分で拾っておいて世話を他人任せにするなんて、ろくな大人になりませんよ?」
「ならわたしに関係ないわね だってわたし永遠の少女なんだから」


私は実にあっけなく救われた。

私はこの方たちのために生きよう。そう心に決めた。

私が存在する意味が見つかった。






「うふふ・・・ようこそ『幻想郷』へ」



その日から私は『橙』になった。









ーーーー<火車が神社に姿を見せなかった理由>ーーーー  




XXXX年 幻想郷


◆ 


「にゃーん」

火焔猫燐はご機嫌であった。なぜなら、今日は久々のお休み。いつもの怨霊の管理から解き放たれて地上に遊びに来ているからだ。
天気は快晴。なんと気持の良い朝。愛用の猫車と共にふよふよと鼻歌交じりに幻想郷の空を行く。

「んー地上は久しぶりだねぇ 早く神社にいって温泉に入りたいもんだよ 巫女のお姉さんはおもしろいし、お酒はおいしいし、
神社は最高さぁ♪ これでいい死体でもあれ言うことなしなんだけどなぁ」

なんとも物騒なことをさらりと言ってのける。しかし彼女は火車。死体運びは趣味と実益を兼ねたすばらしい仕事なのだ。
なんとうらやましい。人生こうありたいものである。

「あーそういえばおくうの奴を置いてきちゃったね まぁだいじょうぶだろうさ 神社に行くっては伝えてあるし、
そのうち追いついてくるだろ それよりおんせーん♪」

普通、猫は水を嫌うものであるが、この妖怪猫はそうではないらしい。
さすが幻想郷。常識にとらわれてはいけないのですね。猫水なんてただの迷信ですよ。
そのまま鼻歌交じりに博麗神社に一直線・・・と思われたのだが。

「んん? すんすん すんすん」

急に進むのを止め、鼻をひくひくさせ何かの匂いをしきりにかぐお燐。

「この芳しいかほりは・・・あたいの体を芯から火照らせるかほりは・・・!」

カッ! お燐の目がが大きく見開かれる。

「マタタビ~~~!!!」

さすがの妖怪猫もマタタビの力には勝てなかったようだ。その香りのする方向へ天狗も顔負けのスピードで
すっ飛んでいってしまった。





「うにゃ~~」

橙は今にも泣きそうだった。なぜなら自分の集めた猫達がまったく言うことを聞いてくれないからだ。
今まで何度も試してはいるものの、自分のしもべになってくれるような猫は一匹もいなかった。おそらく今日もいないのであろう。

「なんでみんな私言うこと聞いてくれないの~? 私はネコマタなんだよ! 妖怪なんだよ! しかも式! すごいんだから!!」

叫んではみるものの猫達はどこ吹く風。好き勝手にふらふらにゃーにゃー、なかには欠伸までする奴までいる始末。
橙にはまだ何がいけないのかわかっていないようだ。あこがれの藍様のようにはなれない。ましてや紫様のようになど・・・ 
そう考えると橙は涙がでそうになる。しかし泣いちゃいけない! こんなことで泣いていたら「八雲」の名など夢のまた夢。

「じゃあ、みんなに聞くよ 私に何が足りないのか教えてくれないかな?」

猫のことは猫に聞け。今は人間の姿だが、かつては橙も猫だった。だから猫の言葉ならわかる。そう思って猫達の言葉に耳を
かたむける。しかし聞こえてくるのは、

(お腹すいた)(ねむい)(しっぽナメナメするの気持ちいい)

(うほ! あのメスすげぇかわいい!)(どけ! そいつは俺のだ!)

まるで橙のことなど無視した声ばかり。

「ふぇぇぇぇぇーーん」

ああ、泣いちゃった。だがその心はまだ折れてはいなかった!

「ぐすん これは使いたくなかったけど・・・仕方ないわ、最後の手段ね」

そう言うと橙は懐から手のひら大の巾着袋を取り出し、その封を開けた。

「見てみなさい! これはマヨヒガ特製スーパー星のマタタビDXよ! 
 その効果は通常のマタタビの10倍・・・(だからスーパー) いつもだったら、私も一緒になって興奮しちゃうところだけど、
 今日は同じ失敗はしないわ 妖術をかけて私自身 には効果がないようしてあるんだから!(そこんところがDX) 
 さぁあなた達これが欲しければ私のしもべになりなs・・・?」

橙は気づいてしまった。自分を取り囲んでいる猫達の様子がおかしいことに。
さっきまで好き勝手していた猫達はまるで何かに憑かれたかのように橙のことを凝視している。
しかしその目に理性の光はない。まさに獲物を捕らえんとしている野生の獣の目だった。
ところで「星の」ってどういう意味?

「や、やばい・・・マタタビの効果が強すぎた? み、みんな落ち着いてね~」
 
フーッフーッフーッフーッフーッフーッフーッフーッーフーッ   フーッフーッフーッフーッフーッフーッフーッフーッーフーッ
   フーッフーッフーッフーッフーッフーッフーッフーッーフーッ   フーッフーッフーッフーッフーッフーッフーッフーッーフーッ   (ごめん それ無理w)

「いやーーっ! 助けてーー!!  藍様ーーー!!!」

憐れ橙は数十匹の猫に押し倒されてしまった。





「今日から橙に式を打つ」
「はい、らんさま! でも式ってなんですか?」
「式とはハードに対するソフトのようなものだ 式を打つことによってハードの、つまり橙だな、橙の体を補い、
 機能や性能、機動性、妖力などを向上させることができる」
「ごめんなさい よくわかりません・・・」
「ふむ わかりやすく言うとだな 私の命令に従う時に限り、橙はパワーアップできるんだよ」
「ではちぇんは強くなれるんですね!」
「そういうことだ しかしそれでお終いということではない 
 ハード自体の能力が向上することで、より高性能な式を打つことが可能になる 要は橙ががんばって修行すればもっと強く
 なれるってことだ」
「はい! ちぇんはもっとたくさん修行して、勉強して、らんさまやゆかりさまのお役に立てるようになります!」
「そうかそうか 橙は本当にいい子だね」
「らんさま鼻血!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・






「昔のこと思い出しちゃったなぁ 藍様達の役に立ちたいのに全然私役に立たない・・・」

猫達は私からマタタビを奪うとすっかり夢中になってしまった。私のことはどうでもいいらしい。
猫に地面に大の字に押し倒れたまま私は起きる気力さえ失っていた。

「うぅぅ私って駄目妖怪なのかなぁ」

また涙が出そうになる。       

「・・・きなっ! それ・・・たいんだよ!」

ん? 猫の鳴き声に交じって人の声がする。起き上がって見ると、猫の群れに交じって女の子が居る。
黒いワンピースに赤毛のおさげ。見たことない格好だ。しかしいい年をした女の子が地面に顔を近づけてくんかくんかしている絵はかなりやばい気がする。何してるんだろう?

「ほれっあっちいきなっ! しっしっ! 地獄の火車を嘗めるんじゃないよ! ふぅ、やっと全部追っ払ったね 
 しかしこんな上質なマタタビに可愛い女の子の死体、あー今日はホントについてるねぇ 
 あの死体は灼熱地獄で燃しちゃうのはもったいない さとり様へのお土産にしよう きっとあんなのが趣味なはず・・・」

火車?灼熱地獄?何言ってるんだろう?
でもすごい、あんなに興奮してた猫達をみんな追っ払っちゃった。しかもあの耳は・・・

「ねえ! あなたも猫の妖怪なの!?」

「ぎゃあ! 死体がしゃべったあああああああ!!」





「いやぁ お嬢ちゃんぶったおれたままぴくりともしないから、あたい死体だと勘違いしちゃったよー 
 このマタタビはもらっていいだろ? あたいは火焔猫 燐 長いからお燐でいいよ 
 見たところお嬢ちゃんも猫の妖怪だねぇ お仲間か! よろしく!」

「うん あげる 私は橙 ネコマタだよ よろしくね」

「ネコマタか あ、お嬢ちゃん苗字はないの?」

「え? あ、うん ないんだ 橙は橙だよ」

「ふぅん まぁいいや」

話を聞いていくとお燐は地下の旧都というところから来たことがわかった。前に紫様が、地下との交流が復活したとか、山の神様達のせいで頭痛いとか話してたっけ・・・
肩を叩いてあげたら喜んでくれたけど、そんなことでしか役に立てない自分が情けない。
そういえば地下から来たって言う土蜘蛛の妖怪とみんなで遊んだことがある。あの子も旧都から来たのかな? 
そのことをお燐に聞いてみると、

「ああ、それはヤマメちゃんだね へぇお忍びで地上に来てたのか お嬢ちゃんそのことは偉いさんには話しちゃいけないよ?
 でもうらやましいねぇ ヤマメちゃんと友達なのかい 今度紹介しておくれよー 
 あたい、ヤマメちゃんのファンクラブの会員NO. 1でね……」

どうやらあの子は地下では人気者らしい。たしかにかわいかったな。
あ、そうだ私はお燐に大事なことを聞くのを忘れてた。

「ねえお燐 さっきのあれどうやったの? あんなにたくさんの猫にどうやって言うことを聞かせたの!?」

「へ? どうやってって、あたいらは猫の妖怪だろ そんなこと普通にできるもんなんじゃないのかい? 
 んー方法なんて考えた こともなかったね・・・ もしかしてお嬢ちゃんは猫じゃなくて狸の妖怪だとか?」

「違うよ! 猫だよ! そう・・・なんだ あのね、あのね、私ね、猫達に自分の命令をきかせようとしてるんだけど、
 全然うまくい かないの・・・私のことなんかちっとも敬ってくれない 
 やっぱり私ダメダメ妖怪なのかなぁ う、うぇぇぇぇん!」

「ちょ! 泣くんじゃないよ 可愛い顔が台無しじゃないのさ ほら涙をふきなよ 
 どうやら訳ありみたいだね あたいで良かったら相談にのるよ マタタビのお礼もあるしね
 でもそのまえに、その汚れた服と顔 をなんとかしないといけないね 
 泥と猫の涎でボロボロだよ そういや近くに川があったね そこであたいが体を拭いてあげるよ 
 服も洗濯しちゃおうか なあに天気もいいしすぐに乾くだろうさ」

「うん ありがとう」

私とお燐は川に向かうことにした。
川につくとお燐は薪を探して来ると言って森に消えていった。
私は顔を洗うべく川に近づいた。
水に映った私の顔はひどいものだった。
水を手ですくって、顔をバシャバシャする。
水は嫌いだけどこのさい仕方がない。
立ち上がって服に付いた泥を払う。この分じゃ帽子も汚れているなぁ。
帽子を脱いで目の前でパンパンと叩く。
もあっと粉が立った。
どうやらマタタビの粉が帽子にくっついてしまっていたようだ。
びっくりしてその粉を吸い込んでしまった。
ゴホッゴホッ! 
咽る。
苦しい。涙がでる。今日は何回泣いただろう。
ついてない。
マタタビの粉が今度は私の鼻腔をくすぐった。
くちぇん!
思わずくしゃみが出た。瞬間足元を滑らせた。
あ。
私は派手な音を立てて川に落ちた。
まったく、今日は厄日なのかな。
沈みゆく意識の中私はそんな風に思った。





「お、おはようございます! 紫様!!」
「あら、おはよう橙。今日は珍しくこっちにいるのね」
「は、はい! 藍様が一緒にお昼を食べようと仰られたので」
「・・・藍のやつなんで私には声をかけてくれなかったのかしら こほん、ところで橙、調子はどうかしら?」
「えっと、修行は続けていますが、全然だめです・・・紫様や藍様にはおよびません・・・」
「うふふ 違うわよ お友達はできた? たくさん遊んでるかしら?」
「はい! そっちなら! チルノに大ちゃんにリグルにミスチーにルーミアに門番さんに・・・」
「はいはいわかったわ ねぇ橙、『ここ』は楽しい?」
「はい! とっても!!」
「そう あなたがうれしいと私もうれしいわ」
「紫様がうれしいと橙もうれしいです!」
「いい子ね これからまた遊びに行くの?」
「はい、みんなで魔法の森にきのこ狩りに行ってきます!」
「元気でなにより 遊んで社会を知ることも修行なのよ」
「はい! では行ってまいります!!」
「あぁ、橙! 藍に会ったら最近主に対して愛がなさすぎるんじゃないかと伝えて欲s」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・






「んん」

「ちょっとお嬢ちゃん大丈夫かい!?」

「あ・・・私、川に落ちて・・・お燐が助けてくれたの? 式、落ちちゃった 藍様に打ち直してもらわなきゃ・・・」

あたいが薪を集めてもどってくるとそこに橙の姿はなかった。まさかと思って水の中を覗くと橙が沈んでた。
さすがにびっくりしね。
いくらあたいが死体が好きだといっても、さっき友達になったばっかりの奴がいきなり死んだんじゃ目覚めが悪いってもんさ。
すぐに水に飛び込んで助けたけど、落ちてすぐ気を失ったのか水はあんまり飲んでいなかったみたい。
水量も少なくてよかった。流されでもしたら一大事だからね。
まあ妖怪だからそうそう簡単に死ぬことはないと思うが、万が一ってこともある。
あたいはスペルカードでゾンビフェアリーを呼び出し、拾ってきた薪に弾幕を使って火を点けた。
橙のやつは目を丸くして驚いていたけど、そんなに妖精が珍しいのかね? 
とりあえず濡れた服を乾かさないといけないね。女同士だし山の中だし誰にも見られることないし裸になったっていいだろ?
まったく今日が暖かい日でよかったよ。
ふぅ、今日は温泉はあきらめないといけないかねぇ。

裸になって二人で焚き火を囲む。橙は裸になるのが恥ずかしいみたいで、しきりに隠そうとしてる。かわいいやつだ。
なんかおくうを見てるみたいだね。妹みたい。
まぁおくうのやつはこんな可愛らしい羞恥心なんて持ち合わせていないけどさ。
あれももう少し女の子っぽくなりゃいいんだけどねぇ。友人として心配だよ。
まぁ、そんなことはどうでもいいとしてだ。さて、どうやって話を切り出そうかな。

「こうやって裸になると昔ただの猫だったころを思い出さないかい? 
 あのころは自分が火車になるなんて夢にも思ってなかった」

「ん・・・そう、かな?」

「でさ、さっきの話 あんたも猫だったんだからわかると思うんだけど、そもそも猫ってやつは
 端から命令をきくような性格していないのさ そりゃさ、あたいらみたいな妖怪猫だったら
 少しは知恵がつくから話は通ると思うけど、普通の猫はやりたいことしかしないよ 
 でもボスになって敬われてるやつもなかにはいるんだよ 
 でもねそういうヤツは 無理やり従わせるようなマネをしないもんなんだよ」

「じゃあどうやって?」

あたいは立ち上がると焚き火の周りを行ったり来たりしながら話の続きをした。あたいまるで先生みたい。

「猫には猫の社会がある そこで餌場や、安全に昼寝できるような場所の情報を交換したりしてるんだ 
 その中で喧嘩の強 いヤツや頭のいいヤツがリーダーになっていくんだね あたいは長く生きてるから猫
 のコミュニティにすんなり入り込める 意識してるわけじゃないんだけどね 
 一度入っちまえば、あたいが普通の猫じゃないってこともあいつらは本能で察する
 だから あたいの言うことは聞く お嬢ちゃんはさ、まだあいつ等の社会の外側にいるんだよ 
 お嬢ちゃんはそこを忘れちまってるんじゃないかな」  

「忘れてたっていうか、初めて知った・・・」

どうも話が噛み合わないね。もしかして飼い猫だったのかね。
しかし何十年も同じ人間に飼い続けられるような猫もいないと思うけど。

「一つ聞くけどさ、お嬢ちゃんは何年生きて妖怪になったんだい? 覚えてる範囲でいいから教えておくれよ」

「んと、確か3年・・・かな?」

「な!? 3年だって!? 冗談だろ!?」

いくらなんでも早すぎる! 驚いたあたいは思わず橙に詰め寄った。
猫は40年~100年以上長生きすることで尻尾が分かれ妖怪になると言われている。
中には10数年で妖怪になるヤツもいると聞いたこともあるけど、それでも猫の寿命は10年ちょっとしかない。
あたいだって妖怪になり、火車という存在になるまで100数十年かかってるんだ。

「あ、あれかい? 親も妖怪だったとかそういうオチかい?」

「違うよ お母さんは普通の猫だった。お父さんは知らないけど兄弟はみんな普通だったみたいだからたぶん違うと思う。
 私は生まれて半年もしないうちに今のご主人様達に拾われたの」

信じられないが橙は生まれたときから妖力が備わっていたという。
つまり極めて妖怪に近い普通の猫だったというわけだね。
なんでそんな生物が生まれてきたのか知らないけど、この言葉が妖怪にふさわしいかどうかわからないが天才ということなのかね。
猫としてほとんど生きていないのなら知らなくても不思議はないが、ご主人様は何故そのことを橙に教えてやらなかったんだろう? まぁそこまで首を突っ込むのは野暮ってもんかな。

「びっくりしたけどそういうことなら、お嬢ちゃん自身に問題はないさ 
 あとは猫の社会の一員になれるようにがんばるしかないさね でもあたいはお嬢ちゃんならきっとできると思うよ 
 一朝一夕にはいかないかもしれないがね」

「そっかな うん! 私がんばってみるよ! ありがとうお燐」

そういって橙はにっこりと笑いあたいに身を寄せてきた。どうやら気に入られたみたいだね。
うーむ、やはりこの子は笑顔の方がかわいい。死体にして飾りたいもんだ。
この会話はすべて素っ裸でおこなわれていたということを忘れてしまいそうだ。








服が乾ききるころにはお昼はとうに過ぎ、太陽もだいぶ傾いていた。もうじき暗くなってくる。
私はお燐と別れ藍様と紫様の住む屋敷に行くことにした。
今日は藍様が夕飯を作ってくれると言っていたのを思い出したからだ。みんなで食べるご飯はおいしい。
飛んで帰れば完全に日が落ちる前には帰れるだろう。
遅くなると藍様が心配しちゃうしね。ついでに式も打ち直してもらわないと・・・
怒られるかもしれないが自分が悪いのだから仕方がない。
猫に言うことをきかせる修行も、お燐のアドバイスのおかげで希望が見えた気がする。
どうやった猫達に受け入れてもらえるか考えないといけないな。

「ニャーー!」

どこかから猫の声が聞こえた気がした。助けを呼ぶ声。声の感じからしてまだ子猫だ。でもどこからだろ?
辺りを見回してもここは空の上だし。ということは地上か。眼下に広がる森の中で木がガサガサと揺れてい
た。数体の何か大きなものが森の中を移動している。まさか・・・
考え終わるより先に、私の体は一直線に森に向かっていた。





さて服も乾いたね。この時間ならまだ神社に行って夕食にありつけそうだ。
色々あったが良い出会いだったな。地上にはいろんなやつがいるもんだ。
よし! 愛車の猫車と共にいざ神社へ! 温泉があたいを待っている。
ん? さっきまで橙が座っていた石のすぐ脇に何かが落ちている。橙の忘れ物かね? 
どらどら、ありゃ、こいつはまずいんじゃないかねぇ・・・





私は子猫を抱えて暗い森の中を走りぬけていた。
声の主はやはり子猫だった。まだ生まれて間もないであろう白い子猫。この子は3匹の妖怪に追われていた。
1匹は熊のような姿をした妖怪。2匹目は大きな犬の姿をしていて、3匹目は見たこともないような異形の姿をしていた。
いずれも人の形をとっていない。おそらくスペルカードも持っていないような知能の低い妖怪達。
森に迷い込んだ人間や動物達を襲って生きているのだろう。
ほとんど言葉になっていない子猫の声に耳を向けると、家族はすでにこの妖怪達に食べられてしまって、
自分は隠れていたのだが見つかってしまったらしい。
普通なら妖怪が人や動物を襲うのは自然なこと。それを助けるのはルール違反だ。
まったくバカなことしちゃったな。紫様にまで怒られちゃうかも・・・ 
だけどどうしても許せないことが一つある。
あいつらは食事をすましてお腹は空いていないはず。
それに妖怪が3匹も集まればこんな子猫なんかすぐに捕まえられる。
つまりあいつらは食後の戯れとしてこの子を追いかけまわしていたんだ!

生きるためならいざしらず、遊びで命を奪うようなヤツは絶対許せない!

初めは威嚇すれば追い返せると思って爪で顔をひっかいてやった。
それが裏目にでてしまったみたい。痛みで頭に血が上ったあいつらは大きく咆哮すると私に襲いかかってきた。
さすがに3対1では分が悪いと感じ子猫を抱えて逃げ出した。
しかしこの森はあいつらのテリトリーらしく、なかなか振り切ることができない・・・ 
飛んで逃げればいいのだけど、視界が悪く、木の枝が四方八方に伸びていて、下手に飛びあがったらぶつかってしまう。
だから少しでも障害物の少ない地面を走るしかない。
幸い猫は夜目がきくしね。この森さえ抜けきれば・・・

                      がくん!


突然右足を何かに掴まれ、私は転んでしまった。
「異形」から伸びた触手が足に絡みついていた。爪でそれを切り裂く。
再び走り出そうとするが少し遅かった。3匹に追いつかれてしまったようだ。 
式が落ちてしまっているため妖術もたいしたものは使えない。
ならば最後の手段、ホントの使い方とは少し違うんだけど、私はスペルカードを使うことにした。
弾幕が当たればそれなりのダメージを与えられる。その間に逃げよう。
私は子猫を放すと木の陰に隠れさせる。不安そうな声で子猫が鳴いた。
ごめんね、今のうちに逃げるんだよ。
私は妖怪達を正面に捉え、懐に手をいれスペルカードを宣言する・・・って、あれ!? 
ない。スペルカードがない!





陰陽「道満晴明」 仙符「鳳凰展翅」 

スペルカードにはそう書かれている。間違いなく橙のカードだね。
こんな大事なもの忘れるなんてあの子はどっかぬけてるねぇ。
返すにも橙がどこに行ったのか見当もつかないし、当てもなく探し回ったんじゃ文字通り日が暮れちまいそうだ。
さてさてどうしたもんかね。





「異形」の触手が再び私を捕える。両手を後ろでに縛られ身動きがとれない。
「異形」体の全面がぱっくりと縦に割れ、赤い口のようになった。
昔藍様に教えてもらった、ハエトリクサに似ている。どうやら植物の妖怪だったみたいだ。
あぁスペルカードがないことだけでこんなに動揺してしまうなんて。
基本的に妖怪は妖怪を食べない。おそらく私はこのまま嬲りものにされて、下手をしたら殺される・・・
つくづく自らの未熟さを痛感させられる日だ。
猫は言うことはきかない、式は落ちる、スペルカードは失くす、あげく幻想郷のルールをやぶって殺されそうになっている。
私が死んだら藍様は悲しむかな。紫様はどうだろう。
泣いちゃうのかな。それは・・・嫌だ。
ああ、私最後の最後まで主人不幸だ。そういえばあの子は無事に逃げられたかな?

「ニャン」

どうして逃げなかったの!? 私のこと心配してくれてるの・・・?
子猫を見つけた「熊」と「犬」が二ヤリと笑う。とても下卑な笑い方だった。

守らなきゃ。このだけは守ってみせる。子猫1匹も守れず何が式だ。何が八雲だ。
命の尊さもわからないような輩にこの私が負けるもんか!

「わああああああああああああああああ!!!」

雄たけびと共に「異形」にむかって全力で突進して行く。
その勢いのまま地面を蹴り、さらに体を高速できりもみさせる。
高速回転する私の体は、捕らえていた触手を引き千切り、そのまま弾丸のように「異形」の本体に激突する。

「ぎゃがあががgっがっがあ」

衝撃をもろに受けた「異形」の体は宙に浮き上がり、吹き飛ばされた。
しかし私の勢いはそれで治まらず、ついにはその体二つに引き裂いた。
バラバラになった「異形」の破片があたりにばら撒かれる。「熊」と「犬」の顔から笑みが消える。
まさかの私の反撃に驚きの色を隠せないでいるようだ。
あと2匹。

不意打ちはもう通用しない。ならばこちらに有利な状況を作り出すまでだ。
私は勢いもそのままに2匹の周囲を跳ねまわる。
高速と低速の緩急に急な方向転換を加えて、目の錯覚を引き起こし、あたかも私が瞬間移動をしているように見せる。
撹乱は効を成し、「熊」と「犬」は私の姿を捉えることができないでいるようだった。
時間はかけない。一撃で決める。
そのまま上方に跳躍、大木の幹を蹴りさらに加速、おまけで空中で1回転を加え、そのスピードのまま「犬」の頭部を踵で蹴り砕く。「犬」は悲鳴をあげる間もなくゆっくりと地面に倒れる。

ハァハァ、さすがに、息が上がる。
しかし残すは1匹。
「熊」の目には明らかに恐怖の色が窺える。
ハァハァ、私だってやればできるじゃない! このまま一気に終わらせる!

「ニーニー」


                           ズドン



突然後頭部に衝撃が走る。目の前がぐにゃりと歪み、足から力が抜ける。
こいつら仲間がいたのか・・・私は力を振り絞って背後の4匹目の姿を捉えようとした。
「猿」のような姿、木の上にでも身を隠していたのか。そのまま顔を思いきり殴りつけられ、地面に叩きつけられた。
足が立たない。体が言うことをきかない。まったくどうしようもなく未熟だ。
言ったそばからまた油断とは。子猫が私のもとに走り寄ってくる。

「ダメだよ・・・逃げて」

しかし子猫は動こうとしない。せめてこの子だけは守らなくちゃ・・・
私は子猫を抱きしめ自分の体の下に隠した。

「ぐおおおおおおおおおお!」

「熊」が咆哮をあげ私に近づいてくる。そしてその腕を高く振り上げた。
もう、本当に今日はついてない。










                      ドグオオン








「猫車だ! うにぃぃぃぃやぁぁあー!!」



轟音と共に猫車に乗ったお燐が降ってきた。お燐は猫車を「熊」に叩きつけ、吹き飛ばす。
木に叩きつけられた「熊」に向かってお燐はスペルカードをとりだし宣言した。

「死ね 贖罪『旧地獄の針山』」

お燐からすごい数の針状の弾幕が発射され、「熊」の体を木に磔にしていく。
無数の針に突き刺された「熊」は剣山のような姿になりやがて動かなくなった。

「き!? ぎしゃー!?」

その光景を見た「猿」が逃げ出そうとする。しかしその足を回転する鬼火が焼き払う。

「あんた、よくもあたいの友達を殺ったね あたいはね友達は大事にするタイプなんだ 
 あんたらみたいなプライドもコダワリもなく 殺しをする外道はね、灼熱地獄の薪にするのもおこがましい だから」

お燐の茶色い大きな瞳が鈍い黒い輝きを湛える。そして2枚目のスペルカードを取り出した。

「『死灰復燃』」

スペル宣言と共に「猿」の周囲に無数のあの「白い妖精」が召喚される。
妖精たちはゆっくりとしかし確実に「猿」周りを取り囲んでいく。
近づいてきた妖精を振り払うべく「猿」は腕をふりまわし、あがく。
しかし「猿」が触れた妖精は白色の光球に姿を変えその皮膚を焼く。
そして次の瞬間妖精たちは一斉に赤い炎を吹き上げ「猿」の体を覆い尽くしてしまった。

「魂まで灰になれ」

赤黒い炎が断末魔の叫びさえも飲み込こんで、「猿」のからだを静かに燃やし尽くしていく。
やがて炎は集束していき、まるで地獄に帰っていくかのように地面の中に吸い込まれてしまった。
その場には燃えカスすら残されていない。

あまりにも急な展開に頭が追いついていかない。しかもまだ頭がぐるぐるしてるし・・・あ、とにかくお燐にお礼をいわなきゃ。

「お燐、あり・・・」
「ちぇぇぇぇぇん! 友達になったばっかりなのに死んじゃうなんてぇぇぇ 心配しなくていいからねっ 
 死体はあたいがちゃんと持って帰って、綺麗に着飾って、永久に地霊殿のエントランスに展示してあげるからさ! 
 あれおかしいな、あたいなんかわくわく してきたよ!」

お燐は私の肩を掴んでぶんぶん振りまわしてきた。やばい、世界が回る・・・

「お燐、私、死んで、ないよ」

「ぎゃぁぁぁ! また死体がしゃべったぁぁぁぁぁ!」

いきなり手を離されしこたま頭を地面に打ち付けた。

私、死ぬかもしれない。





いやぁあたいもびっくりしたねぇ。スペルカードを返すにもお嬢ちゃんがどこにいったかわかんないだろ? 
ダメ元でゾンビフェアリー達に辺りを探してもらったのさ。
そしたらお嬢ちゃんが妖怪に追われてるなんて報告がはいってくるじゃないか!
慌てて猫車フルスロットルでぶっ飛んできたわけさ! ホント間に合ってよかったよ。ギリギリだったけどね。
え? なんで助けてくれたのかって? そりゃ友達が危険な目にあってるっていうのに見捨てられるわけないだろ。
もしかしたら死体が手に入るかもしれないとか考えたんじゃないかって?
そそそそ、そんなわけないだろ! だから怖い目で睨まないでおくれよう。あは、あははは。 

それよりお嬢ちゃんもちっこい体をそこまでボロボロにして良くがんばったね。たいしたもんだよ。
それにほら、見てごらん。
この子こんなにお嬢ちゃんに懐いてるよ。きっとお嬢ちゃんの誠意が伝わったのさ。
猫はね、こう見えて以外に恩義にアツいところもあるんだよ。
どこかの国には長靴のお礼に主人を王様にした化け猫もいるって話だからね・・・これがきっかけになるといいね。
あぁでも可愛い子だねぇ。ほらすこしあたいにもなでさせて、痛っ! なんであたいだけ噛むんだい!? 
お嬢ちゃんも笑ってないで言ってやっておくれよう、もう!

ちょっと! そんなに頭を下げないでおくれよ! 命の恩人なんて柄じゃないよ火車なんだし。
このあとかい? うーん神社に行く予定だったんだけど、もうじき日も落ちそうだしねぇ。
夕飯にもありつけなさそうだし、今日は地下に帰るしかないかなぁ。
ん? お嬢ちゃんのご主人様の家にかい? いいのかい? せっかく家族水入らずなんだろ?
そ、そうかい。んじゃお言葉に甘えようかね。
うん。こちらこそ。これからもよろしくね、橙。





「ねぇ藍、橙を拾ってからずいぶん経つわね」

「そうですね あんなに小さな子猫だったのにすっかり大きくなって嬉しい限りです」

「そうね ねぇ藍、妖怪にとっていらないものは何かしら?」

「突然ですね、色々ありそうですが うーんお金でしょうか」

「それもあるわね 私たちは人間の社会の外側で生きる存在ですものね 私が考えるに妖怪に必要のないものは、努力よ」

「努力ですか」

「そう 妖怪はね生まれた時からその力の上限は決まっているものなの しかも努力なんてしなくても長く生きることで
 その力は勝手に増していくわ 妖怪にとって努力なんて暇つぶしにもならない」

「確かに」

「幻想郷で毎日その身を研鑽している妖怪なんて、あなたか紅魔館の門番くらいだわ」

「では私は妖怪失格ですね」

「ああもう1匹いたわ 橙ね」

「あの子はがんばっています 日々の修行を欠かしたことはありません」

「藍、もし橙があと100年早く生まれていたら、あなたに迫るくらい、いえ私と肩を並べるような大妖になっていたかも
 しれないわ」

「たった100年でですか?」

「あの子は、生まれつきすさまじい妖力を持っていたわ だけど生まれた時代が悪かったのね 
 あの時代、妖怪が安心して暮らせるような場所はどこにもない 
 私はね、思うの 橙を呼び寄せたのはきっと幻想郷の意思 そして私をあの場に引き寄せたのも同じ力なんじゃないかって
 橙はね、私やあなたがいなくなっても博麗の巫女と共に幻想郷を守り続けてくれるわ 
 私はそう信じている あの子はこれからどんどん強くなっていく 
 私達はその力が悪い方向に向かないよう、見守っていかなければならない できるわね藍?」

「ご命令とあらば しかしお言葉ですが私も橙がいつか八雲を継ぐと信じております 
 それにあの子は優しい そして強いです 
 私たちが心配するようなことなどないのかもしれません
 しかし紫様、幻想郷の意思などというものが本当に存在するのでしょうか?」

「さぁねぇ、わからないわぁ」

「紫様にもわからないことがあるのですか?」

「そりゃそうよ 私もまだまだ努力がたりないわ」

「紫様にその言葉は似合いませんね 悪い意味で」

「あらぁ そんなに褒められたら照れるわねぇ」

「ところで紫様」

「何かしら愛しい私の藍?」

「さっさと布団から起きやがりください もうすぐ橙が帰ってきます また夕飯抜きにされたいですか」 





空が夕暮れ色に染まっていく。今日はついてない日だった。きっと厄まみれ。
厄神様は仕事もしないで何をやっていたのか。
そう思っていた。
しかし、最後の最後で得難きものを得ることができた。今日はいい日だった。
そう思える。

橙は新しい友人2人を見る。

何もあせることなんてない。幻想郷はいつまでも私たちを包んでいてくれている。
ゆっくりでいい。できることをしていこう。
空を見上げる。茜色の空。

橙はこの空が好きだった。

自分と同じ名前の空の色。
その空はしだいに濃い青色にかわっていき、二つの色は混じりあい、そして、漆黒の闇が訪れる。
夜が降りてくる。
夜はあの方の時間。その準備を私と藍様がする。なんて素敵なんだろう。
いつか私もあの高見へ。
そう考えると笑いがこぼれる。
やっぱり橙は笑顔が良いとお燐が言う。
さあ早く帰らなきゃ。
そしてご飯をたくさん食べなきゃ。
とってもお腹が空いたから。









私の生きる世界はまるで万華鏡のようで、空はどこまでも広く高く澄んでいる。

ねぇ、そう思わない?




「ミャオ」

白い子猫はそう答えた。















空が朝焼けに染まる日は、幻想郷を一望できる丘の上に、
その空と同じ色の法衣に身を包んだ、七尾の妖怪の姿を見ることができる。
それはまだ遥か遠い未来のお話。





ーーーー<終わり>ーーーー
[おまけ]

その1<カリスマがほとばしるっ>

「くくく、夜は紫の時間だと? 笑わせるわ! 夜の帝王はこのレミリア・スカーレットよ!」
「仰る通りでございます」

シャンデリアの明かりが揺れる、紅魔館の玉座の間。美しいメイドを傍らにはべらせ、不適な笑みをもらす「永遠に幼い
紅き月」は、真紅に彩られたグラスの中身を優雅に口に含むと・・・


ぶっぱぁぁぁあっっ!!!


盛大に噴いた。


「咲夜! 何これ不味い! すごく不味いわ!!」
「それはトマトジュースですお嬢様。山の巫女が吸血鬼はトマトジュースを好むのが常識だと言っていましたの
 で大量に購入いたしました。」
「どこの世界の常識なのよ! それにジュースは甘いものなのよ! シロップをもってきなさい!」
「はい既にここに」

さすが完全で瀟洒なメイド。仕事が早い。

「まったく、あの青巫女め・・・」
     ダバダバ…
「いらんことをうちのメイドに吹き込むのは止めてもらいたいわね・・・」
     ダバダバ…
「それに私は常識に縛られないリベラルな吸血鬼なのよ」
     ダバダバ…

気を取り直して「永ry」は再びグラスの中身を優雅に口に含むと・・・


ぶっぱぁぁぁあっっ!!!


盛大に噴いた。


「どうして!? 甘いのに不味い! 青甘臭い!! 咲夜ぁなんでなのよ~~~」
「なんでも甘くすればおいしくなるわけではありませんよ お嬢様」
「わかってたんなら先に言え! それと噴き出したジュースをスポイトで採取するのはやめなさい!!」

さすが完全で瀟洒なメイド。仕事が早い早い。



その2<本音>

(どうしよう・・・朝焼けの日って雨になるっていうよね!? 雨は嫌いだよぅ)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私は猫よりウサギ派です。

藍様の式になるくらいだから橙はすごいやつなんじゃないかと思って書いたら「猫車だ!」になりました。
なんででしょう。
あとゲームのお燐の弾幕は、殺す気満々にしか感じられないのは私だけではないはず。。。



最後までお付き合いいただきありがとうございました。ウサギ大好きナムでした。
ロップイヤーかわゆす 
ナム
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.610簡易評価
7.80名前が無い程度の能力削除
猫車だのところはJOJOネタですか?
9.80煉獄削除
橙とお燐との関係や、やりとりが面白かったです。
いづれ、橙は逞しく成長するのでしょうねぇ・・・。
良いお話でした。

誤字の報告
>私はため割らずにその相手を殺した。
とありますが、正しくは「躊躇わず(ためらわず)」ではないでしょうか?
他にもあったと思いますが・・・。
以上、報告でした。
10.40名前が無い程度の能力削除
全体的に文章が拙い。あと誤字多すぎ。
それと、どうして橙は火車が死体を持っていく妖怪だと分かったんだ?お燐が橙に教える描写も無かったはずだけど
13.80削除
傑作というほどではないけど良作かな