Coolier - 新生・東方創想話

Happy 2 Weeks ~Dance in the Moonlight~

2004/09/09 00:12:19
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※注意

この話では、「リグルは男の子」という事が前提になっています。





夜が来た。
夜は彼の時間。彼が大好きな時間。
なぜなら、彼は蛍の妖怪だから。
なぜなら、彼は夜にこそ輝くから。


空にはきれいな月。満月を過ぎて少し欠けた月だが、彼を照らすにはこれで充分。
あまり明るすぎると彼が輝けない。夏の夜は彼が主役なのだから。
その月に向かって、彼は飛ぶ。
月に向かって地を蹴って。1,2の3で飛び上がる。



ふわり。

まっすぐ月を目指して昇る、昇る。あの月が手に届きそうな所まで。
この夜空は彼のキャンバス、月の明かりでさえここではスポットライト。
彼の光は月よりも妖しく、星よりも儚く。
地上の流星となって、夜を翔ける。
地上の彗星となって、空を駆ける。



ぴたり。

周りのどの山よりも高い所まで来て、ついに今夜の夜空は彼のもの。
木も、森も、ヒトも、妖怪も。豆粒みたいに小さく見える。邪魔なものは何一つない。
紅白の神社も、大きな湖も、紅い館も。
白銀の深山も、辺境の迷い家も、人形の遊び場も。
深い森も、人間の通る道も、人間の里も。全てを見下ろせる。



ふわり。

でも、彼はさらに空を目指す。
本当は、スポットライトを浴びたいんじゃない。漆黒のキャンバスで輝きたいんじゃない。
本当は、あのスポットライトを見ていたい。あの大きな月を独り占めしたい。
だから、どこまでも空を目指す。この羽根が動く限り、高みを目指す。





―――きれいな月だなぁ。

―――昨日見た満月もすごかったけど、

―――今夜は本当に月と星ばかりだ。

―――チルノと一緒に来ればよかったかな?





ぴたり。

さっきよりずっと高い所まで来て。
月が少し大きくなったような気がする。
月の光が強くなったような気がする。
あの月にさえ手が届きそうな気がする。



「きれいな月だね~」

―――え?

「月を見に来たんでしょ?満月は昨日だったけど」



振り返れば、そこにはわだかまる闇。
その闇の中から、声がする。
その闇の中に、誰かがいる。
その闇に向かって、声をかけずにはいられない。



―――だ、誰?真っ暗で何も見えないよ・・・・・

「・・・・・・・ああ、そうだっけ。ちょっと待って」



すぅっ・・・と、夜が明けるように闇色が引く。
闇の中から出てきたのは、金髪の女の子が一人。リグルより少し年上に見える。
まだかすかに残る闇色の中で、一人ニコニコと微笑んでいる。



「キミ、男の子?珍しいね」

―――珍しいって、何が?

「キミが男の子だって事。久しぶりに見たなぁ・・・」

―――(・・・確かに。地上に出てきてから見たのは女の子ばかりだった・・・・・・なんで?)


「まぁ、そんな事はどうでもいいか、キミも月を見に来たんでしょ?」

―――え?まぁ・・・・・・・・うん。

「私もそうなんだ。一緒に見よっか?」

―――あっ・・・・!?



戸惑うリグルと手をつなぎ、一緒に月を見上げる女の子。
どうしたらいいか分からず、つないだ手を振りほどくわけにもいかず。
リグルにできる事は、チラチラと横を見ながら言葉をしぼり出す事のみ。



―――あ・・・・あのさ。君、誰なの・・・?名前くらい教えてよ・・・・・

「私?私、ルーミア。こう見えても実はね・・・・・」

―――妖怪、でしょ?

「・・・・・あれ?バレてた?」

―――空を飛んでるのはともかく、そんな闇を操ってたら分かるよ・・・・・・

「んふふふ・・・・・・やっぱり分かっちゃうかぁ。キミも妖怪みたいだしね」



何がそんなに嬉しいのか、笑いを押し殺すルーミア。
隣のリグルは、突然手を握られてまだ戸惑いっぱなし。
年上の雰囲気を持つ彼女にドキドキしているのかも知れない。



・・・・・・



・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



どれほどの時間が経ったのか。
ゆっくり動く月を見つめ続け、無言で宙空を漂う二人。
手はずっとつないだまま。放そうとは思わないし、
放したら何故かもう二度と会えないような気がして。
だから、ルーミアの手を握る力も強くなる。



「・・・・・・・・ねぇ」

―――何?

「私たち、何だか舞台にいるみたいだね」

―――そう?

「あの月が私たちを照らすスポットライト。で、この空が私たちの舞台」

―――・・・・僕もさっき同じ事考えてた。



顔を見合わせて笑う二人。
出会ったばかりという事も忘れて、声を潜めて二人笑う。
このシンパシーは二人だけの宝物、誰にも知られてはいけない。
だから、誰もいなくても声を潜めてクスクスと笑う。



―――あぁ、もうすぐ夜が終わっちゃう・・・・・・

「そうだね・・・・・・・・・・・ねぇ、踊ろうか?」

―――・・・・・・・・・・・・・・はぁ?



突然の申し出に口をあんぐりのリグル、
至って真顔(笑顔だが)のルーミア。
笑顔のついでに、リグルの両手を持って向かい合う。
目と目が合って、ますますニッコリ微笑むのはルーミア。
目と目が合って、顔を真っ赤にするのはリグル。



―――ちょ、ちょ、ちょっと待って!

「何?」

―――なんで、いきなり・・・・・・踊るの?

「え、なんでって・・・・・面白そうだから」

―――・・・・・・それだけ?

「それだけ。さっ、せっかくだから踊ろうよ!」





ふわり。

戸惑うリグルの手を引っ張ってもう少しだけ高い所へ。
舞台に出るダンサーのようにゆっくりと、堂々と。



夜空の舞台で踊り始めるリグルとルーミア。
ステップを踏み、身体を反らせ、くるりと回り。
ルーミアがリードし、リグルが恐る恐るついて行き。
それはとても楽しそうで、しかしどこか儚げで。

朝が近付いてきているのを忘れ、二人は踊り続ける。



「そうだ、キミの名前をまだ聞いてなかったっけ」

―――僕はリグル。この格好で、僕が何の妖怪だか分かる?

「ん~?・・・・・・・・・ゴキb」

―――・・・・違う・・・・・・・・・・・・・・・・あ、お客さんだ。

「お客さん?」

―――下を見てごらん、僕の仲間たちさ。



言われるままに下を見ると、辺り一面に光の粒。
緑色の光で、二人を足元から照らす。



「・・・・・・すご~い!」

―――これで分かった?僕は『蛍』の妖怪なのさ。

「へぇ・・・・・・・・」

―――もうすぐ朝になるけど、僕たちを見ようと集まってきたんだね。

「そーなのかー」

―――・・・・もう朝になる、彼らも次の夜までお休みだ・・・・・・・・・



二人を取り囲むように群がり、思い思いに蠢き、そして散っていく蛍たち。
ほんの少しの間だけ見せてくれた、蛍流のスタンディングオベーション。
そして小さな観客たちが立ち去った後・・・・・・






―――また、逢えるかな?

「きっと逢えるよ。その時はまた、一緒に踊ってくれる・・・・・?」

―――うん、約束する。

「じゃあ、この月の下で・・・・また逢おうね、リグルくん・・・・・・・・」

―――・・・バイバイ、ルーミア・・・・・・・






最初に会った時より、二人の距離が少しだけ近付いたような気がした。
密かに続いてましたw
ちょっと文体を変えてみたり。いや、ちょっとどころじゃないか・・・・・
微妙な引っかかり具合が本当に微妙ですorz

二人が踊るシーンは社交ダンスを意識してますが、果たしてルーミアにその知識が(ry
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コメント



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3.50Honami.Y削除
文章一固まりごとの、そして数固まりごとの余韻がいい感じです。
その表現力は自分の中に場景を描くのに十分でした。すごい。
9.50峰下翔吾(仮)削除
読みながら、ずーっと狩月さんの絵が脳裏に。
10.50MUI削除
間が絶妙です。それが雰囲気を醸し出していていいですね、闇の中の子供二人っていう感じがなんとも…。
リグルが男の子と想像すると、私の中で何かが壊れそうです。
可愛い女の子と、可愛い男の子。それは萌える!!(爆)
12.40いち読者削除
 前回はチルノとこっぱずかしいまでの時を過ごしていたというのに、今度はルーミアと夜空の舞踏会!? この浮気者ー!! ……いや、ごめんなさい。
 短く切られた1つ1つの文が、雰囲気的に作品の中身と良くマッチしていますね。まるで詩のようで。
 私も、峰下翔吾(仮)さんと同じく、狩月さんの絵が浮かんできたクチです。