Coolier - 新生・東方創想話

もしも二人が○学生になったなら(後編)

2004/09/03 08:09:34
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 委員の作業時間が終わってもぼーっと考え事をしていたせいか、空は既に暗く、教室の
明かりはほとんど消えている。部活が終わったと思われる生徒が数人校門や体育館のあた
りで帰る準備をしている程度である。校門のところで見知った顔を見つける。近くの電灯
に照らされて霊夢がそこに立っていた。
「よお、霊夢じゃないか」
「あら、魔理沙じゃない」
お互い挨拶を交わす。薄暗いせいで表情は良く分からないが、あんまりいい表情はしてい
ないようだ。言うなら、何かに悩んでいる感じである。
「どうした、そんな辛気臭い顔して。霊夢らしくないぜ」
「ちょっとね。この頃何か分からないけど、圧迫感があるのよ」
霊夢は難しい顔をして答える。
「なんだ、大会のプレッシャーって奴か?」
「違うわよ。今朝、魔理沙が言っていたことなのよ」
「あー?」
「私もああ言ったけど、最近何処かに帰らなくちゃならない。そんな強迫観念があるのよ」
その言葉を聞いて魔理沙は霊夢も結局私と同じだった、ということに気づいた。霊夢の場
合は帰るべき場所の名前が分からなくて、私は分かるというだけの違いはあるが。
 話しつつ二人並んで帰り道を歩く。朝とはまた違った感じであり、それなりに新鮮であ
る。一定に置かれた電灯が二人の歩く舗装された道路を照らす。
「ところで魔理沙は今まで何してたのよ」
「気高き図書委員活動だ」
「どうせ本ばっかり読んでるんでしょ」
「読書を推進するのも図書委員の仕事だからな」
そう言ってはっと気づく。やけに鞄が軽い、朝家を出た時よりもはるかに軽い。そして少
し動揺する。誰からか分からないがあれは確か借り物だったはずだ。
「む。どうやら重大な忘れ物か落し物らしいぜ」
「何よ。財布?」
「買えれば取りに戻らないぜ」
「気になるから私も探すのを手伝ってあげるわ」
結局今来た道を戻って学校に向かうことになった。

 少し道を戻ったところで見知った顔を見つけた。委員Aである。何やら手にはこれまた
見知った本を抱えている。しばらく様子をみていると、こちらに気づいたのか小走りで向
かってきた。なぜか泣きそうな顔をしている。
「お、委員Aじゃないか。何してるんだ」
「名前なの?」
霊夢がすかさず突っ込んでくる。名前なわけがない。
「霧雨さんが図書室に本忘れてたから、渡そうと思って」
「ストーキングしていたわけだな」
「ち、違うよ」
あわてて否定する委員A。どちらにしろ二人にとっては学校に戻る手間が省けたことになっ
た。魔理沙は委員Aから手渡された魔道書受け取り、を大切そうに鞄にしまいこんだ。
「おう、サンキュー。でも今度からストーキングするときには事前に連絡しろよ」
「図書室出るときに忘れ物って言ったのに」
委員Aは何やら疲れた顔をして息を吐き出す。安心したのか顔の表情がすこし和らいだよ
うだ。
「どちらにしろ良かったじゃない。学校に戻らなくて済むんだから」
「だな。ところでなんであんな泣きそうな顔してたんだ」
「夜の暗い道は怖いんだよ」
どうやら委員Aは怖がり屋らしい。しかも登校時に気づきにくいが、ここのあたりの道は
電灯もほとんどなく、人通りもすくない。道の一方は閑静な住宅街になっているが、反対
側は生い茂った木々がのぞく森である。気の弱い委員Aにしてみれば肝試しのようなもの
だったのかもしれない。

「で、委員Aよ。後ろのやつは誰だ」
きょとんとした顔で魔理沙の方を見る委員A。Aから見ても魔理沙はいたって冗談を言って
るようにも見えなかったし、隣のポニーテールの生徒もぐるになってだましているという
雰囲気ではなかった。でも自分があとをつけてここに来る途中ですれ違った人も居なけれ
ば同じ方向に歩いている少女も居ないし、ましてや歩いてる靴の音も聞こえなかった。と
ここまで考えたところで十分に怖いのだが、さらに魔理沙たちが少し強張った顔をしてい
ることが恐怖を加速させた。
「本当に居るの?」
委員Aは恐る恐る魔理沙に聞いてみた。だが返事は魔理沙たちからではなく背後の人物か
ら返って来た。
「居るよ。ずっと君をつけてきたもん」
その声は場違いなほどに可愛らしかった。Aは声を聞くや否や振り向き大げさにあとずさる。
今まで自分の立っていた場所のちょうど後ろに人物が立っているのが見える。暗くてよく
分からないが、ぱっとみ自分より年下の少女でブロンドの髪の毛をしていた。肩ほどまで
あるセミロングの金髪に、冬というのに白のワンピースの上に黒い制服のようなスカート
とノースリーブを着ている。耳の上辺りの髪と胸のあたりで結ばれている赤いリボンが闇
に映えるようだった。少女の姿は明らかに言うところのお化けや妖怪とは程遠いように見
えたのもあって、Aは少し驚いただけで失神までには至らなかったようだ。
「き、君は誰?」
暴走する心臓を落ち着けながらAは聞いた。すると少女は顔いっぱいで無邪気な笑みを作
って言った。
「私はルーミア」

 その一部始終を注意深く見ていた魔理沙と霊夢はその少女に既視感を感じていた。どこ
かで見たことあると思った。午後5時を回ったとても暗い道を自分より年下に見える少女
が一人で歩いているというのも変な話であるのだが、その闇こそが彼女に似合って仕方な
いように魔理沙も霊夢も感じていた。目の前の少女の名前を聞いた瞬間、何かに撃たれたように
戦慄とも恐怖ともつかない衝撃が走った。意味も無く体全体が高揚し、すみずみまで力が充足していくの
を感じた。そして同時にあの少女が何なのかを理解し、忘れていたものを思い出すことが
出来た。今まで心にまとわりついていた黒い色をした靄が消え去り、記憶にかけられてい
た厚い結界がぼろぼろと崩れていく感覚を味わう。
「委員A。そいつから離れた方がいいぜ」
「え」
驚いて魔理沙を振り返る委員A。しりもちをついているあたりひざが抜けたのかもしれない。
本当に怖がりなんだな、と魔理沙は思った。でも私はにやにやしながら言うのだろう。
「そいつは妖怪だぜ」
「そいつは妖怪よ」
ほぼ二人同時に言ってのける。この様子だと霊夢も思い出したみたいだった。
霊夢の方はにやにやせずにしれっとした顔で言っている。
「残念。私のほうが気づくのが早かったな、霊夢」
「言ったのは私の方が先よ」
そんな二人のやり取りを唖然とした顔で委員Aは見ている。つられてルーミアもそちらに
目をやる。すると見知った顔巫女が居るではないか。割と美味しそうな子供をつけてきた甲斐
があるというものだった。
「あー巫女だー。食べてもいいのかな?」
「次はどちらが先に倒すか勝負だぜ」
また少し聞きなれた声がするので、暗闇の中目を凝らして声の方を見る。
よく見ると隣に例の魔法使いも居るのが確認できた。二人とも不気味な笑みを浮かべて今
にもスペルカードを発動しそうな勢いだ。さすがに二人対一人は分が悪いし、この世界の
人間はほとんど不味い。痛い目をしてまで食べる価値は無いとルーミアは判断した。
「うーん、退治されると痛いし幻想郷に帰ろっと」
そう言ってルーミアは回れ右をして、三人に背を向けて闇の中を当たり前のように飛んでいく。
少なくともAの目からは空中を滑るように飛んでいくように見えた。
飛んでいくその先には、いびつな色をした隙間が見える。
空に入ったひびのようなその隙間からはいろんなものがのぞいている、
どう見ても巨大な人間の目のようなものや腕が動いているのが分かる。
「こんなところであいつに会うなんておかしいと思ったら、やっぱり紫の仕業だったのね」
「そんな言い方はないんじゃなくて?」

 突然霊夢の横脇の空間が割れ、今さっきまで前方の空間に見えていた隙間に変わる。そ
の中から顔を出したのは綺麗なブロンドを持つ、一目で美人と分かる女性であった。紫色
の上品そうなワンピースを着て首に赤いリボンを結んでおり、頭にはぶかぶかとした帽子
らしきものを被っている。あらゆる境界を操る幻想郷の妖怪、八雲紫であった。
隙間と風景の境界がまるで窓のサッシかのように、肘を立てて会話を始める。
「あなたたちの帰りが遅いから様子を見に来たというのに。こんな人情厚い妖怪なんて私
以外にいなくてよ」
「あんたが穴を開けたからあんなやつが出てきたでしょ。まあ帰っていったけど」
霊夢は横から沸いたことなど全く気にせず、のほほんとした雰囲気の紫に文句を言う。
その一部始終を見て、委員Aはまた唖然として口を開けて驚き放心するしかなかった。
空とぶ少女とを目撃してしまったことといい、彼の常識が理解するという行動を拒否してしまったかのようだった。
そのAを指して尋ねる紫。
「そしてこの子は人間?妖怪?」
「図書委員だぜ」
委員Aの代わりに魔理沙が答える。
「で、私の記憶が1時間前まで狂ってたんだが、何か心当たりはないか」
紫は隙間の中で首を捻ってしばらく考えると、思いついたように言った。
「ああ、そういえば。ワーハクタクの人に人間の持つ幻想郷の歴史を食べてもらったわ。
知ったままでいられるといろいろ面倒くさいでし」
「なんかおかしいと思ったのよ。色々思い出せないし」
「私たちはなぜ思い出すことが出来たんだ?」
「きっと人間と妖怪の境界線が薄れたのね」
「違うわ、あなたたちが半分越えているからよ。妖怪の知り合いが人間より多いなんてこ
の世界じゃありえない。それに」
ちらっと委員Aの方に視線を移す紫。委員Aはまだ放心中で、我ここに在らずといった感
じだ。
「あなたたちみたいに妖怪を倒そうとするのはここじゃ非日常なのよ」
「見解の違いだな。ここにきて嫌ほど分かったぜ」
魔理沙はそう言うとこの世界の家の方に回れ右する。
「あら、どうしたの?別にそっちの家にはもう戻らなくてもいいじゃない」
霊夢が不思議な顔をして尋ねる。幻想郷に戻るならこのまま紫に頼んで隙間をくぐらせて
もらうだけだ。自力で幻想郷の入り口を探すなんて出来ないこともないが、二日三日で済
む話ではない。魔理沙はにやにやしながら答える。答える間も歩を進めている。
「委員Aの話だと明日はドッチボール大会らしいぜ」
ドッチボールという単語を聞いて霊夢はぴんときた。魔理沙は何かやるつもりだ。大体予
想がついてしまうのが悲しいというか、仕方ないことといえばそうなのだが。
「それにお気に入りの服を置いてきているんだ」
「ああ、そういえば私も色々と取りに帰らなくちゃ」
「それじゃ私は帰って寝るわ。帰りはこの辺りに開けておいた博麗大結界の穴を通って帰るのよ」
「って、帰ったら直しなさいよ」
霊夢の言葉が終わらないうちに紫はまた隙間に消えていった。隙間の中の目が周辺を
うかがいながら、不可思議な色の空間は音も無く閉じてゆく。そしてあとに残ったのは、半ば意
識のない委員Aと霊夢たちだけだった。
「この子どうするのよ?」
「ほっといても大丈夫だぜ。なんせこの世界には妖怪はほとんど居ないからな」
「変人はいるでしょ」
そう言って魔理沙は家に向かって歩き出す。幻想郷に帰ったらとりあえず慧音のところに
ご挨拶に行かなくてはならないようだ、二人は思った。
「じゃあまた明日」
「おう」
手を振って霊夢もまた歩き出す、この世界の家に向かって。博麗神社とも似ても似つかな
い神社の家。短かったが居心地は悪くなかった。お爺さんはお酒を飲んだこともとがめることなく、
優しく笑ってくれたしね。

 久々にとても晴れ晴れしい気分で起きた魔理沙は、自慢のブロンドを片方だけ結い、制
服ではなく久々に着慣れた服である白のブラウスに袖を通した。それから黒のエプロンド
レスを着て、頭には魔法使いの象徴たる先のとがった帽子を被る。
「なんせドッチボールだからな、気合入れていくぜ」
誰にともなくそう言って、食卓に向かう。右手には例の本や箒や色々入った鞄が提げられ
ている。
「おはよう」
食卓のある居間の戸を開ける。養母はこちらの姿を見てぽかんとした顔をしていたが、
すぐにその表情を崩して微笑みながら魔理沙の分のご飯を茶碗に盛る。
「なにか今日はあるのかしら?」
ふふふ、と微笑を崩すことなく養母が尋ねる。荷物を下ろし席に着いた魔理沙は茶碗を受
け取り、ご飯を口へと運ぶ。
「ドッチボール大会らしいぜ」
口にご飯をほおばりつつ答える。そして目の前のきゅうりの漬物に箸をのばす。並べられ
ているおかずは季節野菜の煮物や、焼いた塩鮭といった純和食である。和食派の魔理沙か
ら見ても栄養バランスの取れたいい食事だった。朝食こそ一日の始まりである。
「あら、じゃあがんばらないとね。もう一杯食べる?」
空になった魔理沙の茶碗を見て養母が尋ねる。だが、戦闘前に腹はいっぱいにするものじ
ゃない。動きがのろくなるからである。魔理沙は手で遠慮の意思を表し、味噌汁をすする。
「ごちそうさま」
そう言って手を合わせると魔理沙は席を立って、色々入った鞄を持って廊下へ出る。後ろ
から養母の声がする。
「今日は何時ごろ帰れそう?」
「不明だ。気が向いたら帰ってくるさ」
その答えを聞いた養母は少し悲しそうな顔をしたが、でも何か悟った顔で少し微笑んで
言った。
「いってらっしゃい」
「いってくるぜ」
魔理沙も言いたいことはそれなりにあったはずだったのだが、そう答えるのがこの場合の
正解だと思った。正解と思っていながらも少し、胸が痛かった。
こっちに来てから、魔理沙はこの養母に今のように胸を切なくされることがいくらかあった。
その理由として初め、自分を含む人間は情にもろいと言う欠点がある、と結論付けていた。でも
よくよく考えてみると霊夢のような冷血な人種も居るわけだし当てはまらないことも多々ある。
しかし今ようやく分かった気がした。きっと人の持つ愛情や優しさが強大なだけの話なのだ。
それこそ私の魔力をもってしても、誰かを今の私のような気持ちにさせることは難しいだろう。
そう思いつつ、玄関を出る。もう胸の痛みは消え、代わりに心地よい暖かさだけが残る。
でもこの痛みは多分忘れることは無いだろう、魔理沙は思った。
これらがこっちで学んだ重要なことの二つ目だった。

 今日はこれまでに無いほどに天気のいい日だった。青い空と雲の割合は9:1、いわゆる快
晴というやつである。委員Aとしては昨日の魔理沙と出会ってからの出来事は、恐怖のあま
り自分が見てしまった幻想、という結論に達した。空間が割れてその中から人が出てくるな
んてありえない、常識的に考えてありえない。委員Aが夢見がちな少年にしても、その現実は
あまりに日常からかけ離れたものだったのだ。けれど心の何処かではその現実を認めたいと望んでいる
自分が居るのにも気づいていた。今まで本でしか体験することの無かった幻想が現実に起こりうる、
それを考えただけでもAは高揚し胸が高鳴るのだった。
「では各自、着替えて運動場に集合してください」
ホームルームで担任の教師がそういうと、クラス中の男子・女子生徒はいっせいに立ち上
がりそれぞれ更衣室へ黄色い声を上げながら向かう。Aは教室を見渡すが魔理沙が居ないの
が分かると少し落胆した様子で、自身もまた更衣室へ向かった。
 開会式が始まっても魔理沙は姿を見せなかった。Aの所属するクラスは6クラスある中で
も強い方であり、決勝戦まで駒を進めていた。既に負けたクラスは好き勝手な位置に陣取
り決勝戦の開始を待っている。早弁をする者、睡眠不足なのか堂々と仰向けで寝ている者、
各人様々である。
「では、これから決勝戦を始めます。B組とE組は中央のコートに集合してください」
運動場に設置されたスピーカーからアナウンスが流れる。委員Aもしぶしぶ向かう。もと
もとあまり運動は得意な方ではないのだ。既にコートには両クラスほぼ全員が集まってお
り、審判役の生徒が人数の確認をしている。
「B組の欠員は霧雨魔理沙さん1名、E組の欠員は博麗霊夢さん1名」
両クラス長が審判に申請した欠員数と一致した数字であることが確認された。そして両者
コート内野と外野に散らばって最初にボールを取る役の生徒がセンターラインに着く。そ
して笛がならされ、ボールが高く上に投げられ、センターライン前の二人がお互いに手を
上に伸ばしてジャンプした。今まさに試合は始まった、かのように見えた。しかし投げられた
ボールはどちらかに叩きも掴まれることもなく、素直に重力に従い落ちて地を跳ねた。
二人の手は肩より上に上がって止まったまま、顔は口を開けたまま遥か上空に向けられて
いる。ボールを上げた審判の生徒も口から笛を落として、同様に空を見上げている。つら
れてコート内の委員Aも青い空を見上げる。ある種の確信と期待を胸に秘めながら。

「悪いな。遅くなったぜ。文句は霊夢に言ってくれ」
「だってそっくりな巫女服があんなにあるとは思わないでしょ、普通」
「そりゃ見解の違いだな。きっとあそこの爺さんは巫女服蒐集家なんだ」
地上にくっきりと影を落とす二人の姿は、まるで空中を飛んでいるかのようだった。しか
も遅れたにも関わらず悪びれた様子もなければ、着ている服も既に校則違反上等、といっ
た感じだ。
「やっぱり戦闘はこの服じゃないとな」
「いつも着てる服じゃない」
「いつでも戦闘態勢だぜ」
箒にまたがる魔理沙は上空の風に吹かれてとても気持ちよさそうだった。傍らで飛んでい
る霊夢も同様に晴れ晴れとした顔をしてコートの方を見ている。そして二人は合わせたよ
うに高度を下げ始めた。そして地面に着くなり魔理沙は両手を腰にあててこう言った。
「えー、これから私が冥土の土産に本当のドッチボールってものを伝授してやるぜ」
「置き土産でしょ。冥土だと死ぬこと前提じゃない」
すかさず霊夢が突っ込む。
「避けれなきゃ死ぬぜ。きびきび避けろよ、お前ら。久々に撃つ魔砲だからな、手加減が
出来ないかもだぜ」
魔法使いの象徴たるとんがり帽子の縁を人差し指で上げながら魔理沙はずけずけと言って
のける。やれやれ、と苦笑いの霊夢、でも楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「じゃあ私は外野に行くわ」
霊夢はそそくさと魔理沙から逃げるように離れる。魔理沙は地面に落ちてるボールを既に
拾って、不敵な笑みを浮かべている。そして突如魔理沙の右手にあるボールが微かに振動し始め、
周りの空間を歪めていくかのように光りだす。彼女お得意の魔砲が発動する前兆だ。
「いいか、これが本当の」
魔理沙は右手と左手でボールを固定するようにして、胸の前に突き出して構える。その間
も右手のボールはまばゆい光を発散し続けている。そのあからさまに危ない雰囲気の出ている光を見
て、今まで放心していた生徒たちは我にかえり始める者も出てきた。自分たちが今までにない脅威の前
に立たされているのを直感で気づいたのかすごい勢いで走って逃げていく者、既に恐慌状態に陥って
何語ともつかない言葉は発しておろおろする者。勿論未だに目の前の光景を脳が理解不能の判定を出している者
も居る。そんな生徒を尻目に魔理沙はお構いなしに魔砲を撃つつもりなのか、構えを解く様子が見ら
れない。そして地面を揺るがす振動と耳をつんざく轟音とともに彼女は叫んだ。
「ドッチボール(弾幕ごっこ)だ!」
瞬間、目がくらむような白色の閃光を発したボールは魔理沙の手を弾かれたように離れ、
ボールの直径の何倍もの光の束をまとい、轟音と衝撃とともにありえない勢いで飛んでいく。
信じがたい光景と生徒たちの響く悲鳴の中、委員Aは確かに見た。
心底楽しそうな、今まで見ることのなかった魔理沙の笑う表情を。
これが本当の彼女の姿で、これが彼女たちの普通の日常なのか、とAは感じた反面、
少しだけ羨ましいとも思うのだった。


 その後、めでたく幻想郷に戻ってきた二人は何はともあれ慧音のもとに向かった。そし
て慧音にお願いしてもらい、先日まで過ごしていた世界の二人の歴史を食べてもらったの
だった。のちのち分かったことだが、紫が様子を見に来た理由というのは、妖怪を退治する人間が減ってバランスが
崩れて、妖怪同士の抗争が頻発して困るから戻って来い、というものだった。結局は二人とも幻想郷
以外では生活できないようである。勿論本人たちが一番分かったことではあった。やはり
人間は妖怪を狩るのが仕事で、妖怪は人を食べるのが生業でなければならない。
二人ともそう思うのであった。
 また霊夢がなんで最後にあんなことをしたのかと魔理沙に聞いても、むしゃくしゃしてやっ
た、魔砲を撃つきっかけがあればなんでもよかった、と言ってまともに答えようとしない。
そう言われると霊夢も溜まっていたストレスを解消できたのは確かだし、幸い死人も怪我人も出ていない
ということもあって、あまり深く考えないようにした。でもなんとなくは分かる。魔理沙は魔理沙なりの
やり方で彼らの退屈な日常に刺激を与えてやろうと思ったに違いない。
やはり霊夢からしてもあの生活は退屈だったのだ。

 そして今、魔理沙は紅魔館のパチュリーの書斎に来ていた。やっぱり学校の図書室よりは
深い好奇心をそそる香りのする本ばかりだ。
「何よ。何か用なの」
あからさまに迷惑そうに尋ねるパチュリー。魔理沙は得意そうに持ってきた本を開く。
「全部読めたぜ」
「嘘。467Pの封印は私でも解けなかったのよ。弾幕馬鹿のあなたに解けるわけがないじゃ
ない」
そう言って魔理沙の開いたページを見ると、確かに封印が解除されているようであり、中
身を参照することが出来た。少しばかり驚いて魔理沙の方を見て質問する。
「解いたのは貴方じゃないでしょ」
「正解。だが人間だぜ」
さらにその単語に驚かされる。魔理沙も高い魔力を持つ人間であり、既に人間かどうかも
怪しいくらいの力を持っている。その人間を遥かに上回る人間が居るなどあまり想像したく
なかった。パチュリーは軽い眩暈を覚えながら話を続ける。
「そういえば、外界はどうだったのよ。お土産とかないの」
言われて魔理沙は何やらごそごそと人の頭くらいのボールを取り出す。それを受け取って
パチュリーはわけの分からない顔をしている。
「それが外の世界の弾らしいぜ」
「ふーん、外の世界も弾幕で遊ぶのかしら。読んだ本にはそういうことは載ってなかった
けど」
「向こうじゃかすりは禁物らしいぜ」
「いう事が本当なら結構厳しいのね」
いぶかしげな顔をしてパチュリーはその球を転がしてみる。くない弾や追跡弾が出るわけ
でもなく、そのままころころ机の上を転がってゆく。本当にこんなもので人間と妖怪が殺しあうのかしら。
パチュリーは騙されてる気がしてならなかったが、笑ってこっちの挙動を見ている魔理沙を見ていると、
それもどうでもいい気がしてくるのだった。
前半同様、おかしい部分やなんのために描写されたのか分からない人も出てきますが、その辺りは目をつぶってお読みください。
またこの続きにA君の後日談があるのですが、
東方作品か?といわれると自信がないので載せませんでした。
州乃
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コメント



0.5200簡易評価
3.60shinsokku削除
素直に良い、と感じました。
卑近でない幻想との邂逅を、何と幻想の住人側を主視点に据えて語る話。
現代日本の濁った空にふわりとただ浮かび、
眼下の学校及び街並みを見下ろす余りに楽しげな二人の姿を思い描いたところで、
何だか自分の中の線がぴくぴくと震えました。お見事、です。
7.70Barragejunky削除
舞台は幻想郷じゃないのにすごく幻想郷を感じました。
影を見て逆にくっきりとその姿形輪郭を知るような感覚。騙し絵みたいなものかな?
大抵においてifが前提の二次創作の世界ですが、この作品のifは特に原作から大きくかけ離れた設定。
にも関わらず、魔理沙がとても魔理沙らしく、霊夢がとても霊夢らしく描かれていました。
彼女達からすれば極めて非日常である生活を、ここまで彼女達らしく書くためには並々ならぬキャラへの理解が必要と思います。
ありえない世界をさもありえるように、魅力的に描く。二次創作の可能性を垣間見させてくださった作者様に賞賛と感謝を。
9.60MUI削除
ラストシーンが実に印象的。題材を考えるとまとめるのが難しそうな気がしていたのですが、ものの見事に決まっています。素晴らしい構成です。
なんだか幻想郷が意外と身近に感じられるような、そんな作品でした。
魔理沙の弾幕感覚とはそういうものなのか、「それが外の世界の弾らしいぜ」というセリフは名ゼリフ間違いなし(笑)。

ところで、この投稿フォームは自動整形なので段落以外の改行は不要のようです。私も投稿してから気付いたのですが(ダメじゃん!)。
12.無評価とっきー削除
境界が人と妖怪の世界を隔てて幾星霜。でも、本当は両者は限りなく近しい存在なのかもしれません。
精神文明の住人である二人には、別れの言葉など要らず、ただ自分達の在るべき姿といつもの姿、思い出だけがあればそれでいい。にも関わらず、魔理沙は何故ボールを持ち帰ったのでしょう。
それは、「思い出の品物」のような唯物的な考え方しかできない、我々物質文明の住人へのはなむけと、少しの間でもその物質文明の住人であった彼女流の洒落なのでは、と思います。
空想世界に胸躍らせた子供の頃を思い出し、しばらくノスタルジーに浸りました。非常に感慨深い作品です。
最近の創想話のレベルの高さには驚きます。

ところで、偽りでしかない家族にはあえて名前がないのはそれで良かったと思いますが、Aくんには名前だけでいいから欲しかった!後日談まであるならなおさら!!
13.70とっきー削除
ごめん、素でやっちまったフリーレス。マジですみません…
16.無評価州乃削除
初めまして~、州乃と申します。
実は初投稿ということもあり、コメントも見るのが怖いとびびっていたのですが、皆様からこんなに素敵なコメントがもらえるとは思ってもみませんでした。
皆様のコメントを読んでいくと、ああそういう見方もあったんだな~や、自分もまだまだだなーと本当に勉強になります。
暖かいコメント、どうもありがとうございます。

>とっきーさん
>ところで、偽りでしかない家族にはあえて名前がないのはそれで良かったと思いますが、Aくんには名前だけでいいから欲しかった!後日談まであるならなおさら!!

実はA君のAは、某漫画の主人公の苗字から取っております。
多重人格やバーコードで有名なあの漫画です。
20.無評価州乃削除
いやはや連続投稿で申し訳ないのですが、
とっきーさんへのレスがちゃんとした返答になっていないので・・・
もう一度ちゃんと返答したいと思います。

>とっきーさん
実はA君の後日談で名前が分かるようにしていたのですが、その内容を
考えるととても東方作品とは言いがたいので投稿する際に消しちゃったんですね。
そうすると結果的にA君の名前は分からないまま・・・。
・・・もし読みたいという奇特な方が多くいらっしゃればなんらかの形で対処したいと思います。名前が知りたいだけ、というのでもOKです。
と言っても、下の投稿で軽く?ネタバレしてる気も・・・。
22.60ナナシ削除
ああ、なんて言いますか。
日常に幻想郷の住人を溶け込ますとは、
かなりの冒険だった気がしますが、
これは上手い。

どこにあっても霊夢は霊夢らしく、魔理沙は魔理沙らしい。
一瞬、本来の姿を失いかけましたが、それがまたいい感じのスリルでした。

ただ、誤字や誤用の類が少し目立ったような気がします。
例として
「ひざが抜けた」は「腰が抜けた」かと思いますし、
紫の台詞「知ったままでいられるといろいろ面倒くさいでし」辺り。
本来この手の指摘は粗探しのような感じで好きではないのですが、
これだけの良作、この辺りに気を付ければ更に良くなると思いまして僭越ながら指摘させて頂きます。

何はともあれ、GJです。
28.70裏鍵削除
>州乃さん
>・・・もし読みたいという奇特な方が多くいらっしゃればなんらかの形で対処したいと思います。

見たいです、はい。どこかにうpしてくださいーw
しかしタイトルだけを見るとギャグ系だと思ったけどシリアスだったんですね。そしてテーマと構成も素晴らしいです。
ではよろしくですー(ぇ
29.70MSC削除
前編・後編ともに非常に面白かったです。
こういった霊夢や魔理沙といのは新鮮でした。
話の題材といい、その中の会話といい最高でした。
34.60RIM削除
さりげない日常の中に非日常が織り込まれていて、とても味のある作品と思いました。幻想郷と違う世界を舞台にした話、少し変わった東方の世界を見せてもらいました。

かなり余談なんですが慧音さんが歴史を食べているのにビックリw
あの二人の歴史を食べて腹を壊さないのだろかと・・・
42.無評価州乃削除
ここのHPさんの何でもUPろだをお借りさせてもらい後日談をUPしておきました。
番号は857、元のファイル名は後日談.lzhです。
ただ蛇足になってしまう感も否めないので、
読まないという選択肢もありかと思います。

>ナナシさん
自分ではじっくりと変な所や誤字を探してから投稿したつもりでいたのですが、
投稿してみてこんなに間違いがあるとは気づきませんでした・・・。
自分の注意力の無さになんだか泣きそうです。
親身になっての指摘、どうもありがとうございます。
45.60いち読者削除
 タイトルにある通り、もしも二人が学生になったなら――その発想がまず面白いです。
 活躍の場が幻想郷から外の世界に移ったとしても、彼女達はこんな感じで日常を楽しもうとするんでしょうね。
 そんな二人に加えて、図書委員のA君という外界の観点の存在。彼が、この作品をなおさら表情豊かなものとしていますね。やはり彼のような、言わば「日常に埋没した存在」があってこそ、二人の在り様が際立つのだと思います。
 もちろん(私達の)現実には、このSSのようなことは起こりえないでしょうから、後日談の最後の行こそが、まさに日常と非日常を分かつものになるのだと、私も思います。

※この60点という評価は、後日談も加味してのものです。実はこの後編まででは50点でした。点数に関してアレコレ言うのは好きではないのですが、点をつけている以上、その根拠というか、どこまでを採点基準としたかは明らかにしておくべきかな、と思ったので。
51.100a削除
こんな話を待っていました。最高です。最高です。最高です!!!
欲を言えば、魔理沙だけでなく霊夢も弾幕を展開してほしいですね。
「持てるスペルを駆使した熾烈な攻防!!二人の弾幕ごっこに最初は逃げ惑うだけの生徒達だったが、いつしか各々が一方について応援を始め、最高の盛り上がりを見せる!!」みたいな展開希望!!
…ごめんなさい暴走しました
67.80名前が無い程度の能力削除
後日談消えてますね~…残念です;
68.80名前が無い程度の能力削除
本当だ・・・消えてる・・・
 ・・・読んでみたかったな
90.90名前が無い程度の能力削除
いろいろと妄想のひろがる読後感をありがとう

>向こうじゃかすりは禁物らしいぜ
わろすwwww
101.無評価名前が無い程度の能力削除
467Pの封印を解いたのは誰なのか気になる
104.80名前が無い程度の能力削除
作品に独特の空気を持たせることに成功しているよなぁ。
前編もコメントついてないのにすごい点数になってたし。
105.100daiLv4削除
月並みですが、とても面白かったです。
特に魔理沙の「不明だ。気が向いたら帰ってくるさ」
には不覚にも涙してしまいました。

後日談とやらがとても気になるので、ぜひ読ませてくださいお願いします。