Coolier - 新生・東方創想話

「Scarlet Sacrifice~神に呪われた幻想郷」

2008/09/09 10:00:47
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話をしよう。二つの〈幻想〉についての話だ。

幻想郷〈Elysion〉。
幻想曲〈Elysion〉。

その旋律に縛られた旋律は本来共鳴しえないがゆえに響きあった。
そこに二人の少女が現れて、この小さな物語が始まる。

それは忘れられた、
忘れられるべき物語。



――「Scarlet+Sacrifice」










0.

あなたは吸血鬼というものの存在を信じるか?
柩に眠り、陽の光と十字架を怖れる吸血の魔人。
彼らはその吸血性ゆえに罪人なのではないのだ。
神の気まぐれか、または運命か。
負わされたその原罪ゆえに、彼らは血を啜りそして涙を啜る。
神に呪われた彼らの幻想郷〈Elysion〉は何処か?
再びあなたに問おう。
あなたは吸血鬼の存在を赦すのか?



1.

笑顔の愛らしい娘だった。
私の可愛い妹。
私はあの娘が嫌いだった。


奥深い森の、そのさらに奥に拓かれた小さな村で私は生まれた。
今でもはっきりと覚えている。
闇。閉め切られた部屋の片隅、漂う石壁の湿った匂い。
陽のあたる世界から隔絶されたそのベッドが、思えば私の全てを決定していた。
そう――私は吸血鬼。神に嫌われた羊。


降り注ぐ陽光の下で妹は今日も陽気な歌を謳う。
神に愛されて生まれてきたあの娘は人間だった。
無邪気な笑顔。笑い声。誰からも愛される娘だった。
唄い、笑い、踊り、自然を味わい、流れる水に喉を潤し、たくさんの子供達と美しい紅の服をはためかせ舞う。



何故?



私の世界は暗い湿った石蔵。
私の服は漏れ入る光すら触れさせないための黒衣。
私の喉を伝うのは生臭い鉄錆の赤。
私はいつも一人。


嗚呼、何故私の背に垂れ掛るのは鮮やかな朱のリボンではなく醜い紅紫の羽なのか?


何故神は妹を愛したのか?
何故、私を愛さなかったのか?


たとえ其処に答えが無かったとしても、その現実だけは彼女の胸をその閉ざされた世界と同じ闇色に染める。
すなわち嫉妬。憎悪。
それは劣等感ゆえの自己嫌悪から産まれる、幼い防衛本能としての呪詛。



――死んじゃえばいいのに。


――私を惨めにさせる、あの娘なんか死んじゃえばいいのに。



今日も暗い密室から、彼女は陽と神に昏い祈りを届ける。



2.

彼女の夢は叶った。
それは神の許しなのか、それともさらなる憎悪なのか。

彼女の妹は熱病に倒れ、病の床に伏した。

つややかな金の髪は光を失い、桃色だった頬は嘘のように土気色をしていた。
その時少女はほくそ笑んだかもしれない。

そう――あの不公平な神にも、地の罪人を裁くだけの甲斐性があったのだと。


しかし彼女は見た。
献身的に妹を看病する母の姿を。
陽に脳を焼かれながらも遠方に住む薬剤師に薬を求め、
その額を冷やすためだけに肌を腐らせる流水の中で手拭いを洗う。
少女の母は日に日に弱っていった。

彼女は見た。
彼女と同じ黒衣の奥に覗く瞳が、日に日にその光を弱めていくのを。



彼女は本能的に自らの罪を悟った。
そう――神は不公平なまでに公平だ。神は少女の罪を見逃さなかったのだ。
他人を呪う者の罪を。

少女は祈った。
――神様。
――あの願いは嘘だったのです。
――懺悔します。
――どうか。
――妹を救って下さい

少女は初めて妹のために――そして初めて他人のために、神に祈った。


またも彼女の願いは叶った。
だが――神は不公平なまでに公平なのだ。罪には罰が待つ。


その日。
少女の妹の熱は嘘のように下がり、彼女は苦しみの淵から目を覚ました。

その日。
少女の母はついに倒れ、嘘のようにあっさりと――死んでしまった。



3.


犠牲〈Sacrifice〉。
人々は犠牲の果てに生かされている。
人々は犠牲の上にのみ生きていける。
それが原罪。
神の呪いだ。



4.

母が亡くなり、私の生活は一変した。
私は暗い闇の中から放たれた。
生きる為に。
働かざる者は生きること能わず。
人の掟は固く、逃れ得る術は無い。
今日も私は妹を残し、身を抉る日光の下へ働きに出る。



目深に被った黒衣を突き抜けて、陽光の聖性が身を冒す。
さらに深く襟を引いた。
日光に当たれぬ病なのだという私の説明を、村人たちは思ったより簡単に信じてくれた。
しかし年端もいかぬ少女にとって、自分と一人の養いを得る事は容易ではない。
私は朝な夕な働いた。
身が軋むように痛む時、私はいつも母の言葉を思い出した。


妹は私達とは違うのだから。
守ってあげて。
お姉ちゃんが助けてあげてね――。


母の真意は解らない。
だが、これこそが私の贖罪だった。
自分の為に呪われた、母にできるたった一つの償い方だったのだ。


私は妹のために生きていく。
肩を寄せ合って暮らしていく。
所詮妹は神に愛された子羊。人間。限りある命しか持たぬ生物。
なれば、不死たる吸血者の私が守らずしてどうするのか。


愛らしい妹は今日も私を無邪気な笑顔で迎える。
それは身を削ってでも守るに足る笑顔だった。
私達は肩を寄せ合い暮らし、肩を寄せ合い眠り、肩を寄せ合い笑いあう。
それは温もり。
たとえそれが犠牲の上に成り立つものだとしても。


そうそれは――それなりの幸せ。



4.

それなのにどうして?
神様。
なぜあなたはこんなに残酷な仕打ちをするのでしょう。
なぜあなたはこんなにも私を苦しめるのでしょう。
なぜあなたは愛していたはずの妹までも呪うのでしょう。
私はあなたの遣わし給うた子ではないのですか?
妹はあなたの遣わし給うた子だったのではないのですか?
神様――。



ある日少女が家に帰ると、血塗れの部屋の奥で、妹が事切れた男の血を啜っていた。




5.

――村人の一人がこの家で消えたことが発覚した夜
扉を打ち壊して乗り込んだ彼等と彼女等は恐怖に目を見開いた。

――重い静寂を引き裂いたのは耳を疑うような派手な打音
仕立屋の若女将――傍らに転がる死体の妻だった女が妹の頬を張り飛ばした音。



化物。
恩知らず。
情けをかけてやっていたのに。
だから追い出せと言ったのに。


それは断片的な記憶。それらは断罪的な罵声。
その不鮮明な言葉の中で――たった一つの言葉だけが少女の耳に刺さった。






「所詮悪魔の娘は悪魔。」







……この女は何を喚いているんだろう?


――気持ち悪い。



ぐらりと世界が揺れた。時は夜。窓に射す月光が紅く染まる。
その紅より朱い赤の瞳が彼等を見据え、見すくめて、瞬間完全な静寂を造り上げた。
少女は弾け飛ぶように若女将に掴み掛っていた。


――首筋から吹きあがる血流は世界を更なる朱に染めていく。
少女たちの小さな家は、温もりは、紅に染まった。
赤い光の中に少女の影が長く伸びる。
夜の王として君臨する彼女に日頃の弱々しい足取りは欠片も見られない。
拡げられた紅紫の一対の翼が禍々しいその影はまさしく紅の悪夢の王。
〈ScarletDevil〉。
彼女は呪われた仔として、愛された仔等に反逆の剣を振り上げる。



しかし彼女もまた吸血鬼。
古今東西彼らの武勇はすべからく敗北によってその幕を閉じる。
絶対なるかな運命。神の地上代行者。
つまり彼女もまた吸血鬼として地に伏し運命に伏す運命。
無数の銀の矢が悲劇の姉妹の胸を貫き、その躯を人と悪魔の血で造られた紅海へと縫い付けた。


少女は血のように赤くざらついた、声にならざる悲鳴を上げる。
その痩躯を苛む苦しみは筆舌にしがたく、また想像にすら堪えない。

――嗚呼、しかし悪魔とは彼らのことだ。

彼等は笑う。
悶え苦しむ少女たちの惨めな姿を見下ろしながら。
そして彼らが昨日までの隣人を火炙りにする算段をつけた頃、少女と妹は這いずりながらようやく互いの下に辿り着いた。




そして。




妹は最期に「ありがとう」と言った。



6.

――ありがとう。
私の心ない言葉が。
心ない仕打ちが。
心ない振舞いが。
どれほどあなたを傷つけてきたのでしょう。

――ごめんなさい。
それでも全てを。
それでも私を。
優しいあなたは。
全てを赦すのでしょう。



赦すのでしょうね。



咽喉にこみ上げる血塊が少女の言葉を遮った。その言葉は二度と放たれることはなかった。
何故ならその言葉は放たれる対象を失ったから。



妹はそっと唇を寄せる。
それは場にそぐわない甘い仕草。

妹はそっと唇を寄せた。
それは別れの合図。
神に愛されて生まれてきた少女は自らの意思で神の愛から顔を背ける。

それは禁断の儀式。

妹は少女に流れる紅色の血を飲み干した。







そして妹だった生物は、最初にこう言った。


――でも、わたしは絶対に許さないから。




7.

今一度あなたに問いたい。
あなたは吸血鬼の存在を赦すのか?
彼らの罪を。彼らの原罪を。

運命の存在証明は在り得ない。
血を啜るのが罪なのか?
罪ゆえに血を啜るのか?

彼女等の存在証明は何処に在るのか。
あの姉妹は本当に吸血鬼だったのだろうか?
あの姉妹を産んだのは本当に吸血鬼だったのだろうか?

人々の心は真実を贋造し得る。
姉妹は死んだのか?
吸血鬼は死んだのか?


真実の存在証明が失われた今、それを知る手段はない。
それはもはや失われた物語なのだから。

なればこそ私は彼女等を赦したい。


私達にとってただ一つ確かな事は、神に背かれた二人の少女に、ある一人の男が手を差し伸べたという事実だけだ。

その男は楽園〈Elysion〉における神の代行者。〈聖三文字〉――




F.

その薄暗い森に伝わる話をしよう。


かつてそこには村があった。しかしその村は一晩にして焼き払われたという。
話によればそれは悪魔の仕業であったそうだ。


実際の記録にはこう残されている。

1692年2月29日、この村に暮らしていた二人の少女に魔女であるとして逮捕状が出された。
少女の名前はサラ・レミリアとサラ・フランドール。

しかし逮捕当日に村で大火災が発生し、実際には二人は逮捕されなかったという。
残された資料による記述はこれだけで、これ以上詳しいことは判らない。


ただ、サラ姉妹の死体は最後まで見つからなかったそうだ。
初SS・初投稿です。
はじめまして、イルダと申します。


サンホラアルバム「Elysion」に聴き入っていたいたところ、そのうちの一曲「Sacrifice」に登場する姉妹がスカーレット姉妹に一瞬被ってしまったのでそのまま作ってしまいました。


そういった経緯のため文章を歌詞から多数引用したほか、その他の部分も出来る限り原曲に近づけるように心掛けてあります。
のでサンホラに興味の無い方はごめんなさい。


でも最初は姉妹がほのぼのと殴りあうストーリーだったのに書いてみたら「これ」ってどうして神様?
レミリア「♪ステージが下の私を 哀れまないでよー♪(泣)」
というのはあなたが遣わし給うたネタではなかったのでしょうか。


ともあれ、
お読みいただきありがとうございました。
イルダ
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コメント



0.270簡易評価
1.70煉獄削除
こういうスカーレット姉妹の過去話もいいものですね。
スラスラと読めて良かったです。
2.10名前が無い程度の能力削除
なんですかコレ?東方?
7.10名前が無い程度の能力削除
ご、ごちそうさま……げふ。
9.無評価名前が無い程度の能力削除
次回は是非、あなたが考えてあなたが構築したストーリーでの東方をみせてください。
どこからかのパクリではなく。今回は評価できませんでした。
14.無評価名前が無い程度の能力削除
>その男は楽園〈Elysion〉における神の代行者。〈聖三文字〉――
Z○N!○UNじゃないか!
15.10名前が無い程度の能力削除
う~ん???
16.無評価名前が無い程度の能力削除
サンホラ信者な私ですよ。
ぶっちゃけ、姉妹って事しか合ってないので微妙。
あれは人が人を憎むからこそのものだと思ってますので。

サンホラネタで書くのは厳しいです、クロスオーバーと言っても過言ではないですから。
17.無評価名前が無い程度の能力削除
姉妹なのに姓が違うんですね……でも名前は同じ!!
18.無評価名前が無い程度の能力削除
スカーレット姉妹ならSacrifaceよりBaroqueかStarDustが合いそうな気がするねぇ。
尤も、Baroqueは幻想郷なら誰にでも合うだろうが。
この作品は東方の設定が活かされてないよね、かと言ってSacrifaceの解釈ともずれてるような気がする。
歌詞の引用も多く、どっちかと言うと「東方の二次創作」ではなく「Sacrifaceの二次創作」になっているイメージ。
次に書く時はもう少し東方にも馴染ませるべきじゃないかな、と思います。

あとファミリーネームじゃなくてファーストネームが一致してるのはわざと?
サラ・レミリアとサラ・フランドールだと「レミリア家のサラ」と「フランドール家のサラ」が姉妹だった事になるけど。
19.10名前が無い程度の能力削除
東方の話を書く気がないのがよくわかります。
これは単なるイメージの押し付け。同意できませんし第一読み物になってません。単なる日記レベルです。
次にこちらに投稿される時は東方世界の物語を書いてください。
24.無評価イルダ削除
評価ありがとうございます。
冷静なレスは非常に参考になります、確かにこれは東方SSというにはだいぶ雰囲気が偏りすぎてますね。
ぜひ次回投稿の際の参考にさせていただきます。

それといくつか指摘があった「サラ」姉妹の件についてですが、これは1692年2月29日に実際に魔女容疑で逮捕されたサラ・グッドとサラ・オズボーンという女性の名前から拝借させていただきました。ただ、いたずらに混乱を招きかねない表現だったと思いますので、これも今後注意していこうと思います。

最後に読んでくださった方、レスを下さった方、点数を入れてくださった方、本当にありがとうございました。