Coolier - 新生・東方創想話

偶数の館

2008/09/08 23:29:49
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 つい先日のことです。

私が本棚と天井の隙間で読書にふけっていると、何やら下の方が騒がしくなって参りました。

 首から上だけ出して様子を窺うとそこにはレミリア様とフランドール様がいました。私のいるところからでは、やや斜め下へ向かうアングルでしか確認できませんでしたが、間違うはずもありません。
二人は机の同じ辺に椅子を並べて、本を読みながら談笑していました。

 ああ、読書にいい季節になったんだなあ、と気付きました。
私は年がら年中、本の虫であるので秋だからどうということはありません。
 しかし、秋の空気というものは軽快で気持ちの良いもので、二人に挨拶しようかどうか迷っていた私はいつの間にか眠ってしまいました。
 




 音がして目を覚ますと、顔の前に、長方形のチョコレートが山盛り入ったグラス状の器が置かれているのが見えました。チョコレートは私の大好物です。
下を見ますと、先ほどレミリア様とフランドール様がいた席はもぬけの殻で、大きな机の上に、私の目の前にあるのと同じような器が2つ並べて用意されてありました。

 咲夜さんは、ここが私のお気に入りの場所であることを良くご存じなのです。
カビ臭い、埃っぽいと馬鹿にしてはいけませんよ。
 あなたの本棚の上が汚いからそんなことを言うのです。ちゃんと掃除しないといけません。
ここは私やメイドがこまめに掃除をしているため、埃など見当たりません。清潔な本棚と天井の間に入り込むと、木の香りが読書意欲を掻き立ててくれます。ただ、薄明かりで目が悪くなるのに関しては責任を持ちません。
加えて、夏場は暑い空気が上の方に溜まるので、おすすめしませんが。

 少しして、がやがやと声が近づいて来ました。
本棚の奥から声のする方の通路を窺いますと、体に不釣り合いな程大きな本を抱えたレミリア様とフランドール様が、こちらへ向かって歩いて来るところでした。
 お嬢様も妹様もなんだかんだ言って、読書家です。



 

 ところが、二人は山盛りのチョコレートを見るなり目を輝かせ、読書もそこそこにそれを食べ始めました。
パチュリー様が普段から口を酸っぱくしてマナーを提唱しているためか、決して二人は食べながらの読書などしようとはせず、本を脇に置いてからフォークを一心不乱に動かしておりました。

 私もチョコレートをいただいていたことを思い出して、食べ始めます。
生チョコでした。一つの大きさが親指大で、大変食べやすく美味しいチョコレートでした。
 思わず私も本にしおりをはさんでしまいました。

 お嬢様達は静かに談笑しながら、チョコレートを頬張っていました。
口の周りとドレスのお腹の辺りがチョコレート色に染まってしまったようでしたが、ここでマナー云々などは無粋だと思いまして、ただ眺めていました。
 第一、寝ころびながら、チョコレートを食べている私にそんなことを言う資格などありません。
この日は、あのうるさい巫女も魔法使いも来る気配が無くとても静かな一日になると思われたのでした。

 

 

 しかし、しばらくすると前にもまして下の方が騒がしくなって参りました。
どうしたものかと、チョコレートを全部食べ終え、空の器片手に読書を楽しんでいた私が目から上だけ出して観察しますと、レミリア様とフランドール様が激しく言い争っていました。
 細かい事情までは分かりませんでしたが、どうやらレミリア様の器の底に残った一つのチョコレートが原因のようでした。
フランドール様が、「同じペースで食べていたのに、一つ余るのはおかしい」とレミリア様に食って掛かっていました。
 すると、レミリア様は「意地汚いこと言わないで、ペースなんて少し狂うかも知れないじゃない。ちゃんと自分の分だけ食べなさい」と言いました。
 フランドール様が言うのには「最初から数が違った」ということなのです。
確かに言われてみれば、フランドール様とレミリア様は全く同じペースで食べていたような気もしました。

 仲裁をしたいところでしたが、私は一部始終を見ていた訳ではありませんし、何より怖いので尻尾を丸めて声がかからないことを祈っていました。
近くを通りかかるメイド達も足早に通り過ぎて行きます。
 レミリア様は「やれやれ」と首を振って、チョコレートに手を伸ばそうとしましたが、その前にフランドール様はグラスを引っ掴み自分の方に引き寄せてしまいました。

チョコくらい我慢しろ、とか、姉は妹に譲れとか思った方、一般家庭の物差しでこの館を計ってはいけません。ここは紅魔館です。
このチョコレート一つで姉妹の権威やプライドが、それぞれ上に行ったり下に行ったり右に行ったり左に行ったりするのです。それにこのチョコレートの美味しさときたら筆舌に尽くし難い。
 あと、奇数は不吉です。

 こうなると、もうどちらも退けなくなってしまうのです。
「それはレミリアのチョコだよ、横取りは駄目なの。パチェが言ってたもん」、とレミリア様が言えば、「違うよ、一杯独り占めするのが駄目なんだよ。パチュリーが言ってたもん」、とフランドール様も一歩も譲りません。

 二人の顔がみるみる間に赤くなりました。
「フラン、ちゃんと数えてたよ。お姉様に合わせて食べていたから。私は24個でお姉様も24個食べたの、メイドが間違ったんだよ」と、フランドール様が腕を振り回し始めました。
「フランが数え間違ったの、私はまだ一個食べ足りないの」と、レミリア様も腕を振り回し始めました。
 そして、いよいよ喧嘩が始まってしまいました。
レミリア様とフランドール様は互いに握り拳を胸の位置にまで上げまして、肘から上だけを動かして相手の肩や胸を叩くのです。
 この時には、「止めてよう」「えいっ、やあっ」などのかけ声が響きます。
 私はいいかげん止めに入りたいのですが、そうも出来ません。見かけはともかくあんな拳を私がもらえば、胸に穴が空いてしまいます。そうしている間にも終わる気配の無い口論と殴り合いは続き、「レミリアの」「フランの」「痛い」「嘘つき」、はたまた紙の音、椅子の音が聞こえて来るのです。

 次第にフランドール様が優勢となり、レミリア様は泣き出してしまいました。
「フランの勝ちだよ、降参? 謝る?」と、フランドール様も幾分泣きべそをかきながら、レミリア様の青い髪の毛を引っ張ります。
 私はいたたまれなくなって、今すぐにでも飛び出して行こうと思ったのですが、やはり怖いので止めました。
時折、レミリア様の「やだあ、レミリア間違ってないもん。フランが悪いんだもん」などという声が聞こえてきます。
 
 このまま見ているのも辛いので、それならば見て見ぬふりを決め込んで再び読書を始めようとした時のことです。
パチュリー様がやって来ました。
 二人は取っ組み合ったままでパチュリー様に助けを求めます。
 私は恐る恐る三人の動向を見守っていましたが、パチュリー様は意外にも静かな声で「半分こ出来ないなら、私がもらうわ」と、グラスの底に残ったチョコレートを自分の口に放り込んでしまいました。
 
 フランドール様もレミリア様も呆然とその光景を見つめるばかりです。
パチュリー様は二人を叱る訳でもなく、平坦な調子で「着替えさせてあげるから、先に咲夜の部屋に行ってなさい」と言ったのでした。
 二人はしゃくりあげながらお互いに距離を保ちつつ図書館を出て行ってしまいました。

 

 

 私がほっと、一息吐くと宙に立ったパチュリー様が本棚と天井の間にいた私をのぞき込んでいました。
「小悪魔」と言われ、姿勢を正そうにも狭くてかなわないので私は隙間から這い出してパチュリー様と同じ高さのところに立ちます。
 すっかり怒られるのだとばかり思った私が謝罪の言葉を述べようとすると、パチュリー様はそれを制しました。
 パチュリー様は「小悪魔、あなたがチョコレートを一つ取ったの?」、と聞いてきたので、私は必死に首を横に振りました。
すると、パチュリー様は「そうでしょうね」、と言って私の口に長方形のチョコレートを一つ押し込んだのでした。





 次の日になって、私が同じ場所で本を読んでいるとまたしてもレミリア様とフランドール様がやって来ました。
二人とも昨日より落ち着いた様子で、多少しょげているようにも見えました。
 その時、私はさっきまで下にたくさんあった椅子が無くなっていることに気付いてしまったのです。
そこには、大きな椅子がただ一脚だけ隅っこに残されていました。
 レミリア様達は本を持ったまま立ち尽くしていましたが、しばらくすると大きな椅子を机のそばに引き寄せ、前日のように二人並んで読書を始めたようでした。
 その日は例の魔法使いどころかパチュリー様も姿を見せず、とても静かでした。

 パチュリー様に比べたら、私などはほんの小悪魔です。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
 
キャラ壊れの注意書きが必要かどうか迷って結局書きませんでした。

夕方、思いついてから一気に書いてしまったので投稿させていただきました。
私のイメージだと紅魔館はこんな場所です。
yuz
http://bachiatari777.blog64.fc2.com/
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コメント



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4.70煉獄削除
ほのぼのとした雰囲気の紅魔館ですねぇ。
ああ、この空気は和みますねぇ・・・。
6.90名前が無い程度の能力削除
てっきり小悪魔が仕組んだんだとばかり…。
11.80名前が無い程度の能力削除
これはいいな
12.90名前が無い程度の能力削除
あぁ、これはいいな
14.90名前が無い程度の能力削除
おお・・・これはいいな
パチュリー様マジお姉さん
20.100名前が無い程度の能力削除
本棚の天板と天井の間にいる小悪魔がかわいくてたまらない
28.100天福削除
何この可愛いれみりゃとふらんちゃん。
お持ち帰りして良いですか?
うふふふふ……
ほのぼのは大好物でございます。
37.90名前が無い程度の能力削除
なんというれみりゃ
38.80名前が無い程度の能力削除
そういえば俺、兄と奇数の物を分けるとき毎回偶数個だったな。
50.80名前が無い程度の能力削除
幼いな~
54.70名前が無い程度の能力削除
いいパチェいい紅魔館
55.100名前が無い程度の能力削除
楽しませていただきました
いい500歳児と495歳児ですねw
57.80名前が無い程度の能力削除
なんというカリスマあふれるパッチェさん。
こんなパッチェさんになら叱られたいです。
しかし反比例するようにお嬢様がカリスマブレイクww
61.100名前が無い程度の能力削除
悪いなあ、パチュリーさん