Coolier - 新生・東方創想話

紅髪狂~Lunatic Gatekeeper 前編

2008/08/22 01:29:52
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※ 続き物です。
  紅魔館の面々、特に美鈴がお好きな方は戻った方が良いかもしれません。
  私は戻ります。







――紅美鈴は悩んでいた。




先日、腹痛を起こした際、館内に戻るのも面倒だからと、近くの森で用を足していた姿を、その……見られたのだ。
よりにもよって博麗の巫女に。

これが黒白の魔法使いだったならば、いっそ良かった事だろう。
あの様な立ち振る舞いをしていても、年相応の繊細な部分を持ち合わせている少女である。
この様な女性としての品位を貶めるような出来事は、きっと伏せていてくれる筈だ。

しかし、あの巫女は違う。
何者からも縛られる事もない彼女は、きっとその様な些細な配慮はしないだろう。
見たままの全てを、有りの侭の姿を伝える筈だ。 お茶でも啜りながら、さもなんでも無い事の様に。


もしその様な失態がお嬢様の、いや、館に住む者の誰かの耳にでも入れば、「紅魔館の威厳を失墜させた」として、クビでは済まない。
いや、実際にクビが飛ぶだろう。妖怪はその程度では死なないけれど。
あれ? じゃあ大した事ないな……いやいや考え直せ私。飛んだ後に潰される。これは大した事だ。

さて、人間臭く思い悩むのもこれくらいにして本題に入ろう。



「どうすれば、紅魔館内にこの痴態が漏れないか」



これは簡単だ。巫女の口を封じればいい。
だが、封じると言っても息の根を止める訳ではない。 
彼女は幻想郷の均衡を司る博麗の巫女。その彼女が殺されたとあっては、八雲の大妖が黙ってはいないだろう。
スキマに落とされ、永遠に生と死の境界を彷徨う事になる。
というより、そもそも博麗の巫女には勝てない。
アイツは既に人間ではない。 化け物だ。 巫女だ。 妖怪だ。 日光に当たったパチュリー様の顔だ。


ならば――
この館に巫女が来た時に、上手く追い返してやれば良い。
問題は、どうやって追い返すか、だが……

と、私の私による私の為の保身プランを練っていた時、遠方より弾幕勝負時の独特の射撃音が聞こえてきた。
間違いない、あれは……

 


――巫女だ。





どうやら湖上の氷精が無謀にも喧嘩を売りに行ったらしい。
ご苦労な事だ。 おい巫女よ、氷精が、かの有名なスペルカードを発動した時、彼女の眼前に潜り込んでしたり顔で突っ立ってやれ。
それが普通のチルノなら黄中弾に当たって1ミスだ。
その様な事を考えながら、遠方にて繰り広げられる『命を賭けたごっこ遊び』を観戦する。

巫女との撃ち合いを繰り広げる氷精は、やはり戦い慣れしている。
頭が悪いと言われる妖精達は、本来あまり弾幕勝負が得手ではない。
複雑な弾幕を組上げる事が出来ない為、戦う方法と言えば弾を適当にバラまくくらいだ。

だが、あの氷精は違う。
色々な者達と触れ合い、弾幕ごっこに興じる内に、本能で戦い方を覚えていったのだろう。
今では下手な妖怪など歯牙にもかけない程の実力を身に付けている。
恐らく、本気を出されたら私でも手こずる筈だ。

しかし、そこは弾幕慣れした巫女だった。
ものの5分もしない内に氷精は泣きながら逃げ出して行く。その姿は私の庇護欲を酷く刺激する物であった。
ふむ、飴でも渡したら私の部屋まで付いてくるかもしれない。そうと決まれば明日にでも飴ちゃんを用意しなければ……

っと、そんな素敵な事を考えている場合ではない。
彼女の進路を見てみると、どうやらこの館が目的地の様だ。
こんな時に限ってこれか。少しは空気を読んで欲しい物である。あの調子だと、恐らく4発は被弾させねば帰ってはくれない事だろう。
くそっ、背水の陣だ!
おっと、これはまだもう少し先の台詞だ。とりあえずは彼女の到着までに、これからどう行動するかを決めておかねばならない。


その時は直ぐにやってきた。
相変わらず道中の妖精達が放つクナイをカリカリカリカリと擦り続けてきたお陰で、現在の巫女の格好は若干そそる物に仕上がっている。
いつも思うのだが、何故あの巫女はわざわざ被弾するかもしれない距離まで近づき、あまつさえ体に擦らせていくのだろうか。
もしかしてそういう趣味なのだろうか? 今度食事にでも誘ってみよう。海老で鯛が釣れるかも知れない。 
だがまぁ、その事はとりあえず置いておこう。例え露出が多くなった所で、彼女の実力と私に対する態度が変わる訳ではない。
口内に溜まった涎を嚥下し、気合いを入れ直す為に両手で頬を一発叩く。

先ず、ここで1発!





――『くそっ、背水の陣だ!』




コノヤロウ、「アンタ一人で陣なのか?」だと?
調子に乗るなこの○○○、まだ道中だから手加減してやってんだ。

涙目になりながら後退し、急いで服を修繕する。
そりゃああれだけ弾が当たれば服も破れる。
再会した時に服が破れていないのは、急いで繕っているからに決まっているだろう。ゲームと現実を一緒にして欲しくはないものだ。


愛用の中華服の9割方が縫い終わった所で、巫女が門前へと到達する。
とりあえず前面は完璧に仕上がった。後は尻の辺りだけである。 
彩虹の風鈴を発動した時に、少しでも後ろに回り込んでくる気配を感じたら即、破山砲だ。
スペルカードルールなど知った事か。乙女の貞操の方が何倍も大切だ。

私は紅美鈴。 穢れを知らない19歳だ。


目の前に浮かぶ、相も変わらず表情の読めない巫女に対し、「なんでついてくるのよ~」とブリっ子を演じる事も忘れない。
ついでに食べても良いのかどうかも聞いておく。
紅霧異変の時ならいざ知らず、もはや勝手知ったる紅魔館の一員にこの様な事を言われて、流石の巫女もミスティアがレーヴァテイン食らった様な顔をしている。
ええい煩い。今の私は切羽詰まっているんだ、テンプレ回答で我慢しろ!
半ば焼け糞とも言える心境のまま、幻想郷の秩序の具現者との本格的な弾幕ごっこが始まった。




……結果から言えば、ただの1発も被弾する事なく、巫女は門を通過して行った。
うぅっ、すいませんお嬢様……じゃないっ!

やはり門前で食い止める作戦は失敗してしまった。 
嗚呼、どうしよう!? いっそスペルカードルールなんか無視して殺るべきだったか……!?
だが時既に遅し、もう館内に侵入されてしまった後である。そのような後悔など後の例大祭だ。

しかし、切羽詰まった私に天啓が訪れる。




そうだ、私が紅魔館の面子に成り済ませばいいんだ!!




かくして私の史上最大の作戦が実行される。
ならば時は金なり、先ずは図書館だ!



~ Next Stage ~



私は今、図書館の門前に立っている。
勝手知ったる紅魔館。抜け道などは幾らでもある。後は巫女がこの図書館の中枢まで進攻する前に事を終わらせねばなるまい。
幸い、まだ巫女は到達していないようだ。安堵の溜息を吐きながら、図書館の扉を開く。

部屋に入って直ぐ、何とも言えない臭気に顔を顰める。相変わらずカビ臭い図書館だ。
彼女の様なブックジャンキー……もとい、読書家ならいざ知らず、私の様な健康と研鑽をモットーとする妖怪には理解し難い物がある。
さて、私には一刻の猶予も無い。先ずは小悪魔を探さねば……

居た。 

相変わらず紅の……訂正、本の辺りを忙しなく飛び交っている。
「おーい!」と持ち前の、何も考えていないような無垢な笑顔で手を振ってやると、尻尾を振ってこちらへと向かってきた。
チョロいモンだ。
目前まで迫ってきた彼女に当て身を食らわせ気絶させる。その後に身ぐるみを剥ぎ、優しくベッドの上に寝かせてやった。
こう見えて私は紳士なのだ。コウモリみたいな耳は貰っておいた。また生えてくるでしょ、きっと。


さて、そうこうしている間にも巫女はこちらに向かってきている筈だ。
小悪魔の服と耳を着けてみるが、若干窮屈な感は否めない。

だがまぁ、鏡を見る限り、ちょっとやそっとでは私が門番、紅美鈴であるとは気付かれないだろう。
似たような髪の色だし、それに図書館は薄暗い。
特に疑問も抱かず、「小悪魔もお年頃、遂に第二次性徴を迎えたんだなぁ……」と温かい目で見守ってくれる筈だ。今夜はお紅飯である。
あわよくばそのまま1ミス位は誘いたいものだ。
さて、もう少し時間がありそうだ。私は彼女が飲んでいたと思しき紅茶の残りを口に含み、束の間の休息を取る。うむ、小悪魔の味がする。まだ、だな。


私が小悪魔の味と香りを心行くまで堪能していると、彼方より脇が飛来する。
丁度最後の一滴まで飲み干したタイミングで来てくれた彼女には感謝の念を感じざるを得ない。
だが、それとコレとは話が別である。気を引き締めなければならない。
勢いをつけ、巫女の眼前へと飛び出す。


「あれ? あんたさっきの門番……?」


なんて事だ。 この完璧な変装を一目で看破するとは。
流石人並み外れて鋭い勘の持ち主だと言われるだけはある。迂闊だった。
だが、よく思い返してみると語尾は力の篭らぬ疑問系だ。

いける!このまま押し通す!!


とりあえず適当に「こぁー」だかなんだかボソボソ呟いてやれば気付かれないだろう。
巫女の疑問には弾幕を持って答える事にする。


「あー、確かに小悪魔だわね。弾が七色じゃあなければ」


どうやら完璧に気付かれてしまったようだ。彩虹の風鈴の弾数を少なくする事で誤摩化そうとしたのが間違いだったか。あれ大弾出ないし。
だがバレてしまっては仕方がない。小悪魔が持っていた『ボム』とやらを一個落としてお茶を濁し、その場を立ち去る事にした。

「……なんだったのかしら? ま、いいや♪ ボムボム~♪」


ハッ! 単純な奴だ。
その場を妖精メイドとよく分からない原理で動く本に任せ、次の獲物……じゃない、パチュリー様を探す事にする。
ところで、あの『ボム』ってなんなんだろうか? 咲夜さんが良く大事そうに持っているが、私には良く分からない。

そんな事を考えつつ、小悪魔のポケットに入っていた『ボム』とやらを興味津々と眺めながらパチュリー様を捜す。
あまり所定の位置より動かない彼女の事。
いつも通りのテーブルでいつも通りの読書を楽しんでいる筈だ。
よし、目標を視認。 これより仕掛ける。


「あら、小悪魔…? いえ、めいrバヂュル」


如何に喘息持ちとは言え、相手は魔女。少しでも猶予を与えたら勝ち目は無い。
先ず懐に潜り込む。現状を把握される前に後ろへと回り込み、ヘッドロックを極める。

…1…2…3……よし、動かなくなった。念の為に2、3発入れた後、身ぐるみを剥ぐ。
その後、小悪魔と同じベッドに寝かせる為に体を抱き抱えた。


……軽いなぁ、それに良い匂い……


思わず食指が動きそうになったが、そこは我慢。
目先の情欲よりも、後の保身を取る。
それが策士、紅美鈴。


小悪魔の隣に空いた空間へと、そっとパチュリー様を寝かせた後、起こさない様に足下からベッドを抜け出す。

……っ!

どうやら先の戦闘で傷を負った様だ。白いシーツに幾らかの血が広がった。
だがそんな事に構っている暇はない。
幾ら図書館が広大だとは言え、あの巫女の進攻スピードを舐めてはいけない。

私は布切れ同然になった小悪魔の服を脱ぎ捨て、パチュリー様のパジャマの様な服に着替える。
ふむ、これは寝間着も兼ねているのだろうか、着心地も中々……でも、やっぱりキツい。背丈の関係上、下が見えてしまいそうだ。
鏡で己の姿を確認し、後はこのイカれたデザインの帽子も被って、よし完璧! 私パチュ鈴!!


さてさて、ゴタゴタしている内に又あの巫女がやってきた。
服が綺麗になっている所を見ると、どうやら1度被弾したらしい。 ザマァミロ。


『待ちなさい、そこの露出狂!』


笑いながら声高々に叫んでやった。おやおや顔が真っ赤になった。おぉ怖い怖い。
さてと、一頻り笑ってやった後、冷静になった頭で考える。問題はこの後だ。
パチュリー様は相手とその武器によって戦い方を変えるという、クレバーな戦術を取っている。
見た所、巫女の両手には針の用な物が幾つか握られているようだ。 俗に言う「夢符」と呼ばれているスペルセットだろう。

えーっと、えーっと、パチュリー様は確か……

水符「プリンセスウンディネ」!

勿論、そんなスペルカードを使える筈が無い。彩雨だ。
どちらも水みたいな名前だし、あの巫女には分かりはしないだろう。
大体私は普段は至ってノーマルなスペルしか使わないのだ。
あの黒白の魔法使いはともかく、巫女は賓客である。一種の通過儀礼である為、ムキになる必要もない。
だが、今は話が別だ。私の命がかかっている。こうなったらノーマルでは生温い、いっそもっとルナティックなスペルでも……


「ねぇ、美鈴? パターン作りごっこもそろそろ飽きてきたんだけど?」


その一言に戦慄を覚える。私の完璧な変装が、ものの数秒で看破されてしまったのだ。驚くのも無理は無い。
それに私の放つスペルも、まるで一度見た事があるかの如く躱されていく。
あの巫女は化け物か。


結局、残り3枚のスペルの内、2枚も破れてしまい、何事も無かったかの様に巫女は先へと進んでいった。 むきゅー。
因みに彼女が取れなかった唯一のスペル、それは「飛花落葉」だ。あんまり避けられて腹が立ったので1枚だけ混ぜてみた。 
幾らあの巫女でも対烏天狗用に作られたあのスペルまでは避けられない様だ。今度パチュリー様のスペカセットにさり気なく混ぜてみよう。
この四字熟語とは一切無縁であろう魔女は、このスペルを間違えて行使した時、どの様な声で啼くのだろう。考えるだけで達してしまいそうだ。


そう悦に入っているのもいい加減にして、私の思考は次のシフトへと移行する。
このまま順当に行くと、次はメイド長と当たる筈だ。急がねばなるまい。
っと、その前に、この惨状を見たら皆は何と言うだろう。



書架から零れ落ちた本の数々。


舞い上がる埃。


仲睦まじく眠る生まれたままの姿の二人。




うむ、背水の陣だ。

考えに考え抜いた末に、私は一つの打開策を思い付く。
図書館から退出した後、扉の上に一つのプレートを掲げる事にした。




『ヴワル魔法図書館』




これでよし。我が紅魔館にはこのような名前を持つ図書館など一つも存在しない。存在し得ないのだ。
もしも黒白の魔法使いがここに訪れてももう安心。
「あ、ここは違うぜ」と、通り過ぎていく事だろう。
私は紅美鈴。「気を使う程度の能力」の持ち主だ。

勿論、散って逝った図書館の住人達へのささやかな気配りも忘れない。
ベッドの上にもティッシュをちゃんと置いておいた。なにせ少女蜜室だ。
手に付いた血もしっかり拭った。抜かりは無い。
……ただ、そのティッシュを捨てずに放置してしまったのが唯一の失敗だろうか。
まぁいい。図書館は私の管轄外である。自分の股は自分で拭ってくれる事だろう。



私は連戦に次ぐ連戦でボロボロになった体に活を入れ、「完全で瀟洒」の二つ名を冠するメイド長の元へと歩を進めた。いや、飛んだ。


~Next Stage~
はじめましてごめんなさい。

私の中の美鈴が空回りを始めました。
最初はこんな話じゃなかったのに、こんな子じゃない筈なのに、何故だろう……?
ともあれ、始まってしまった美鈴の大暴走。
この全力投球で一生懸命な美鈴に、もう暫しお付き合い頂けたら幸いです。
美鈴に幸あれ。
毛玉おにぎり
[email protected]
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コメント



0.560簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
所々に情欲駄々漏れな美鈴に悶えます。
もう取り敢えず紅魔郷メンバー全員食べちゃえよ。
若しくは一歩手前で止めて焦らすとか。
3.無評価からなくらな削除
「飛花落葉」とか、きたねぇ(笑)
次回作までは、フリーレスで
6.無評価名前が無い程度の能力削除
なんて低俗で下劣な作品……これじゃあ美鈴がビッチじゃないですか!!
くやしい……でも続きが気になっちゃう!!(ビクビク)
8.80名前が無い程度の能力削除
パチュリーと小悪魔が起きた時か誰かが見つけた時の反応が楽しみだwww
続きでそこんとこ宜しく!
11.90名前が無い程度の能力削除
ああ、戻らなくて良かった。
12.80774削除
生まれてこのかたここまで駄目な美鈴見たことないけどいいぞもっとやれwwwwww
14.90名前が無い程度の能力削除
こwwれwwはwwひどいwwwww
どこまで美鈴の暴走が続くのか見物ですね。
続きを楽しみに待っています!!
15.90名前が無い程度の能力削除
これは…何やってんすかwww美鈴さんwww


続きが楽しみだwww
16.70名前が無い程度の能力削除
ホントは紅魔館最強じゃねえのか美鈴w

てか、今見たら「前編」なのか。続くのかよこれがw 咲夜さんとかお嬢様とか一体どうなるんだよこの後www