Coolier - 新生・東方創想話

レミリアと諏訪子の仁義なきお泊り

2008/08/02 01:25:09
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※レミリアと諏訪子に幻想を抱いている方は戻ることをお勧めします。





事の始まりは数ヶ月前にさかのぼる、
毎日が日曜日な蓬莱人、藤原妹紅は今日も今日とて暇に過ごしていた、
やがて正午を過ぎる頃、何やら知った声が自宅を訪れる。

「妹紅、急な話ですまないが夕方頃まで子供たちを預かってもらえないだろうか?」
「んあ?」

戸を叩く音に誘われて、戸を開けるとそこは子供たちの楽園でした。

「……いつの間にそんなに産んだの?」
「違う、寺子屋の子供達だ」

慧音とその周りに群がる十数人の子供達、年齢は六歳から十二歳までと幅広い。

「ちょっと寺子屋に蟲が沸いてしまってな、子供達を放っておくわけにもいかんし、
 遠足も兼ねて竹林までつれてきたというわけなんだが」
「先生ー、誰この人ー?」
「もんぺ! 今時もんぺ! だっせぇ!」
「こら!! ……というわけで駆除が終わるまでどうにか預かってもらえないだろうか?」
「うーん……他にも預けるところなかったの?」
「無かった!」
「臨時のお休みとか」
「そんな無責任なことは出来ない!」
「ううーん……」

何か納得のいかない妹紅と、何故か退く気を見せない慧音、
連れてきた理由は分かるがどうにも強引過ぎる。

「この通りだ! お礼は必ずするから!」
「うー……分かったよ、夕方まででいいんでしょ?」
「ああ! ありがとう妹紅! それじゃ後は任せたぞ私はこの辺で!!」
「え? け、慧音!?」

承諾の返事をすると同時に、慧音は生徒達を置いて人里へ逃げるように去っていった、
呼び止める間も無いまま、十数人の子供と共に置いてけぼりにされる妹紅。

「えー、先生帰っちゃったよー?」
「どうすればいいのー?」

子供達はワケが分からないという状態で皆して妹紅を見上げている。

「あー、とりあえず中に入ろうか、外はちょっと危険だからね」
『はーい!』

任された以上放っておくわけにはいかず、
子供たちを家に招き入れる、しかしそれは惨劇の始まりだった。

「すっげ! 竹細工すっげ!」
「わぁーーん! おがぁざぁーん!!」
「ねー、これ食べていいー?」
「もこーのおっぱいもでけー!」

一般的な家屋と比べれば狭いといわざるをえない妹紅の家の中で
縦横無尽に暴れまわる子供達、その様子はさながら颱風その物。

「あー……」

これが思いいれのある家屋なら一目で発狂しそうな惨状、
しかしそこは千年一人身の妹紅、誰にも予想できぬ反応を見せる。

「かわいいなぁ~」

熱心に作った竹細工は破壊され、座布団が空を舞っているというのに、
妹紅はそれを微笑ましく見つめていたのだった。



「さて、妹紅は上手くやってくれているか……」

日が沈み始め、空を橙色に染め始めた頃、
慧音は約束どおり子供達を迎えに竹林を歩く。

「目論見通りにいっているといいんだが」

何やらぶつぶつと呟きながら、やがてたどり着く妹紅宅、
すると慧音は戸を叩く前に聞き耳を立てて中の様子を探る。

「(静かだな……外出しているのか?)」

あまりの静けさに頭を捻るが、意を決めて姿勢を正し、コンコンと戸を叩く。

「慧音かー? 開いてるよー」
「ああ、いるのか……妹紅、子供たちを迎えに……なにぃっ!?」

戸を開けて真っ先に飛び込んできたのは、
一心不乱に竹細工の作成に取り組む生徒達の姿、
誰も騒がす、暴れもせずに、ただ一生懸命に頑張っていた。

「ば、馬鹿な! ザ・カタストロフィと呼ばれた寺子屋でも最悪の
 問題児グループをいとも簡単に手懐けてしまっただと?!」
「ザ・カタス……何?」
「さすがは妹紅だ! やっぱり私の目に狂いは無かった!!」
「わっ!? だから何!?」

慧音は妹紅に駆け寄り、その両手を握り締めて喜びに浸る。

「あの時から私には分かっていたそうかつて竹林に一人の女の子が迷い込んだ時
 お前はその子を見事にあやして笑顔で里まで連れ帰ってくれたのだから間違い
 なく子供に好かれやすい性格なんだそして見事にお前は私の期待に答えてくれ
 た計画通りだありがとうありがとうありがとうありがとう――」
「だから何が何だか分からないって! それに計画って何のこと!?」
「そうと決まれば早く里の皆に知らせなければっ!!」
「ちょっ!? 慧音! 慧音ーーー!! 子供達を置いていくなーーー!!」

妹紅の叫びもむなしく、慧音は遠ざかっていくばかり。

「もー、結局何だったのよ」
「もこ姉ー、ここわかんないー」
「うん? ああ、そこはねー」

その後、半刻が過ぎても慧音が戻ってこなかったため、
結局子供たちは自分で里に返すことになったそうな。

そして翌朝、またも妹紅宅の戸を叩く音が響く。

「ふぁいふぁーい、どちらさまー?」
「あの、あなたが慧音様の言っておられた藤原さんですね?」
「ん? 慧音の知り合いの方?」
「では子供をお願いします、夕方には迎えに参りますので」
「……ほへ?」

突如訪問してきたその女性は妹紅の前に少女を差し出し、
スタスタと人里に帰り行く、その早業実に十五秒。

「え? お願いって……えええ?」
「お姉ちゃん誰ー?」

突然の出来事にただ呆然とする妹紅と、
もんぺをくいくいと引っ張り、その顔を見上げる少女。

「……とりあえず、中に入ろうか」
「うんっ!!」

いつの間にか任されてしまった以上、里に帰しにいくわけにもいかず、
妹紅は半日の間のんびりと少女と過ごす。

「ご飯おいしい?」
「おいしいよー」
「たけのこはねー」
「取れたー!」
「見よ! 本場平安仕込みの蹴鞠を!」
「すごーい!」

やがて日は暮れ始め、少女の親が子を引き取りに来る、
そこで妹紅はようやく溜め続けた疑問を問いかけた。

「あの、何で私に子供を?」
「慧音様が藤原さんに子供を預ければ安心だと」
「慧音が!?」
「今日は本当にありがとうございました、これはささやかな物ですが、どうぞ」
「もこお姉ちゃん、またねー!」

人里へ帰っていく二人を見送る妹紅、
その両手で抱えているのはお礼にもらった等身大ゆっくり饅頭。

「……慧音ぇー」
「呼んだか?」
「わっ!?」

振り返れば家の影に銀閣寺。

「け、慧音! これは一体どういう事よ!?」
「ああこれは藤原妹紅人里浸透計画第一計画にして最終計画でありお前に子供を
 預けさせることによって人里の大人たちから信頼を得させやがて里にとって無
 くてはならない存在とする名づけて妹紅託児所始めました計画だっ!!」
「勝手に始めないでよ!」
「ああ見える私には見えるぞ妹紅お前が人里の皆から諸手を挙げて出迎えられる
 姿をもうお前は一人じゃないんだ一人でなくていいんだおめでとうおめでとう!」
「(駄目だこいつ……早く何とかしないと!)」
 
こうなるともう何も聞こえない慧音を前に、
妹紅が出来ることはたった一つ、帰って寝ることだった。

「……まぁ、そうそう預けられることなんて無いよね」

こんな竹林に住む変人に子供を預けようと考える親などまず居ない、
そう考えて妹紅は瞼を閉じる、その考えが間違いだったとは思いもせずに。

「親族が集っての大事な話がありまして……」
「ああ、はい」
「夫が病気にかかってしまったので」
「ほい」
「夫婦の秘め事で……」
「……はいはい」
「たまには私も休みたいんだ」
「うい……って、こら! 慧音!」

妹紅の想いとは裏腹に連日訪れる親と子、日に日に増えるゆっくり饅頭
慧音が一体どんな宣伝をしたのかまでは分からないが、
子を預けようとする親が妹紅を怪しむ気配は何一つ無い。

「託児所じゃないんだってば……」

その声は誰にも届くことは無く、妹紅は全てを諦めて子供たちを受け入れる事を決めた、
やがて一ヶ月も過ぎた頃、とある噂が人里を駆け巡るようになる。

曰く、藤原さんに預けると九九の段を一日で言えるようになった、
曰く、藤原さんに預けると子供が書道と茶道と華道の達人になっていた、
曰く、藤原さんに預けると無職の息子に仕事が見つかった、
曰く、藤原さんに預けると子供の耳が聞こえるようになった、
曰く、藤原さんに預けると富くじが当たった、などなど。

「うちの息子を預かってください!!」
「いいえうちの娘を!」
「何を言ってる! 私の橙が先だ!」
「ゆっくりしていってね!!」

藤原託児所にカリスマ属性が追加された瞬間であった。


 ―――――


「結構大変だったみたいね」
「まー、今は落ち着いたからいいけどさ」

茶をすすりながら妹紅に相槌を打つのは、
意外にも紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。

「ゆっくり饅頭なんか野生化しちゃって今じゃ竹林の警備してるんだよ?」
「ここに来る途中に群れを見かけたわ」
「これも全部慧音のせいだー……はぁ」
「そろそろ本題に入っていいかしら?」
「いいよー」

妹紅の愚痴を聞き終えて、咲夜は真剣な目で妹紅を見つめ、口を開く。

「レミリアお嬢様を預かって欲しいの、期間は明日の早朝から明後日の夕暮れまで」
「お嬢様って、あの肝試しのときのお嬢ちゃん?」
「一応五百年生きてるけど、性格は子供そのものだから、もちろん謝礼は弾むわ」
「明後日の夕暮れまでだね、ご飯は私の血?」
「食事と着替えはこちらできちんと準備するから」
「暴れないように、とだけはあらかじめ伝えてね」

そして互いにお茶を一口。

「……随分あっさりと引き受けてくれるのね」
「長い人生、たまには暇潰しもいいものよ」
「潰せればいいけど、潰されても知らないわよ?」
「蓬莱人は潰れぬ、何度でも蘇るさ」

大丈夫だといわんばかりに笑う妹紅を見て咲夜は溜め息をつく、
しばらくして湯飲みに残ったお茶を飲み干して、ゆっくりと立ち上がる。

「それじゃ、明日からお願いね」
「ん、任せといて」

咲夜は最後にもう一度だけ確認するように問いかけて忽然と消える、
家主だけが残った家屋で、妹紅はごろりと寝転がった。

「吸血鬼かー、初めてだなー」

妹紅の中には竹林で弾幕ごっこをした事しか記憶に無い相手、
酒宴で何度か見たことはあるものの、特に関わりは無かった。

「ま、いいか、何とかなるでしょ……ん?」

気を取り直して起き上がった時、戸を叩く音がタイミングよく鳴り響く。

「はいはーい、どちら様ー」
「あのー、こちらで子供を預かってもらえると聞きまして……」

戸の向こうに立っていたのは、凄く礼儀正しい方でした。


―――――


「いーやー!!」
「お嬢様、今日ばかりは我侭を言わないでください」
「嫌よ! どうして私がこんなしょぼいところに住まなきゃいけないの!」
「悪かったねぇ、しょぼくて」

翌日、妹紅宅につれてこられたレミリアがとった行動は、
誰しもが予想できるような物であった。

「館の修繕が終わるまで、ここで我慢してください」
「ふざけないで! 豪華な椅子もふかふかなベッドも無いところに住めというの!?」
「私の百%中の百%を見せてやるといって館が全損するほどの不夜城レッドを
 放ったのは一体どこのスカーレット家のご令嬢でしたか?」
「うぐっ……!」
「また瓦礫の下で野宿しますか?」
「うぐぐっ……!」
「成る程、そういう理由か」

咲夜の言葉の前にレミリアは完全に意気消沈した、
自分の手で館を破壊してしまったのだから反論の余地が無いのだろう。

「それでは、ここで我慢していただけますね?」
「しょ……しょうがないわね! 折角咲夜が手配してくれたんだから、我慢してあげるわ」
「妹紅、これが着替え一式と二日分の食事、お嬢様をお願いね」
「あいよー」
「明日の夕方には館の修繕が終わると思いますので、頑張ってくださいね、お・嬢・様?」
「うう~……」

最後にきつい口調で閉められて、妹紅と二人ぽつんと残される。

「ふん、世話になってあげるわ」
「うーん、これは思った以上に……」
「……何よ?」
「かわいいな」
「っ!? 無礼者!」

妹紅に警戒心はまったく無いのか、レミリアの頭に手をぽんと乗せた、
突然の出来事に焦ったか、レミリアはその手を勢いよく払いのける。

「あいたぁ!」
「私を誰だと思っている! 夜の王、レミリア・スカーレットだぞ!」
「乱暴だなー……でも可愛いー!」
「がーっ!!」

しかし妹紅はめげない、レミリアが如何に凄もうとも
どこ吹く風といった表情で絡みに絡んでいく。

「そーれ撫で撫で撫で撫でー!!」
「やーめーんーかー!!」

それを必死に嫌がるレミリアだったが、
それからおよそ一時間後、そこには誰もが驚くほどの光景があった。

「いないいないー?」
「うー!!」

心の底から妹紅に懐くレミリア、その姿はまさしく純粋たる少女、
妹紅の前では如何に凶暴な子供といえども良い子にならざるをえない、
それこそがこの託児所をカリスマたらしめる究極の要因なのだ。

「もこー、抱っこしてー!」
「あいよっ」

紅魔館では決して見せない姿が、ここにはある。

「もこー大好きー!」
「そうかそうか、私も大好きだよ」
「(ああやばいわ本当に大好きこの胸とかこの顔とかこの匂いとかー!)」

ただし心の中は500歳を越えています。

「(持ち帰りたい、持ち帰ってメイドにして毎晩頭を撫で撫でされたい!)」
「おーよしよし」
「ねぇねぇもこー」
「んー? 何だい?」
「私のメイ――」
「すみませーん、昨日お約束しました東風谷と申しますがー」
「はいはーい、レミリア、ちょっと待っててね~」
「……チッ」

玄関に向かう妹紅の背を見つめながら軽く舌打ちをするレミリア、
待っていると何やら細々と会話が聞こえてくる。

「という――訪子様を――」
「――なんで神様が――」
「オンバ――全壊――」
「――ぼろい――嫌――」
「どこも事情は――」

やがて話が済み、妹紅が一人の少女を連れて室内に戻ってきた。

「私が土着神の洩矢諏訪子であるっ!!」
「……もこー、こいつ誰?」
「誰とは何だ誰とはー!」
「ふん、この私がレミリア・スカーレットと知っての言葉か!」
「知らない、誰?」
「何だとー!」
「何よー!」
「もう紹介する必要はないみたいだね」

額をぶつけ合いながら言い合うレミリアと諏訪子、
幻想郷的には危険な光景だが妹紅からすれば微笑ましいようだ。

「そもそも何でこんな人間なんかに面倒を見られなきゃいけないのよー!」
「じゃあ出てけば?」
「やかましいわよ吸血鬼、全力で我慢して居座ってやるから崇めなさい!」
「もこー、あんなこといってるよー?」
「んー、かわいいなぁー」
「(うわすごいにやけてるぅ)」

神様は神様らしく、その荘厳なオーラを一切とどめる気無く居座る諏訪子、
すっかり子供らしくなったレミリアと微妙な空間を形成しながら過ぎること一時間。

「もこ姉もこ姉! 一緒に万葉集読もう!」
「ほいほい」

なんとそこには妹紅にすっかり懐いた諏訪子の姿が!

「ちょっとー、万葉集なんかよりUMAごっこしようよー」
「UM……何それ?」
「もこ姉は今私の物なんだから邪魔しないでよー!」
「もこーは私の物だってば!」
「違うー! 私のー!」
「あーこらこら、二人とも落ち着いて」

妹紅が制止しようとするも、意にも介さず取っ組み合いを始める二人、
傍目から見ればただの子供の喧嘩ではあるのだが。

「うー!」
「わわっ!!」
「あー!!」
「おおうっ!!」

実際のところはレミリアが腕を振り回すたびに衝撃波が放たれ、
諏訪子が空振りした脚が畳を抉り破片を撒き散らすという
そばにいる妹紅には非常によろしくない状況であった。

「あーもう……こらっ!!」
『ぴょっ!?』

妹紅は深く息を溜め込んで、二人に向かって怒声を一発、
重なった状態で見事に被弾した二人は目をぱちくりさせながら妹紅を見上げる。

「レミリア! めっ!」
「あうっ!」
「諏訪子! めっ!」
「いたっ!」

そして二人の額にでこぴんを一発ずつ、
たったそれだけでおとなしくなり、涙目で見上げる両者。

「駄目でしょ! 喧嘩なんかしちゃ!」
「だって諏訪子ちゃんが!」
「だってレミリアちゃんが!」
「だってじゃないの!!」
『うー……』
「ほら、ごめんなさいは?」
『……ごめんなさい』
「よく出来ました、よしよし」

仲直りのご褒美に二人の頭を撫でる、ただし諏訪子は帽子の頂点。

「じゃ、ちょっと畳を直してくるから、二人とも仲良くしててね」

二枚ほど破壊された畳をひっぺがして纏めて持ち上げる、
持っていく先は、色々と無かったことに出来る例の便利な歴史食い。

「えー、私もついてくー!」
「ずるーい、私もー!」
「だーめ、おとなしく待ってなさい」
「えー」
「やだー」
「じゃないとお昼ご飯抜きにするよ?」
『ぶー!』

ぷっぷくぷーと頬を膨らませるレミリアと諏訪子、
妹紅はその可愛い幼女達を抱きしめたいと湧き上がってくる感情を抑え、
逃げるように自宅を後にする、残されたのは幼女が二人。

「……おんどれ、レミリアとか言ったのぉ」
「ふん、妹紅がいなくなったと見るや、いきなり言葉使いが荒くなったな」

ただし本性はむき出しの状態で。

「あらかじめゆーとくで、妹紅はわいのもんや」
「ふざけるな、私の物に決まっているだろう」

二人の間でぱちりと何かが小さく弾けた。

「ガキが……おどれが大人の女に手ぇ出すのは千年早いんじゃい」
「黙れ老いぼれ、妹紅は私のように美しき可憐な少女と共にいるべき存在なのだよ」
「言うやないか没落貴族、自称ツェペシュの末裔だけはあるなぁ」
「貴様もだエセ関西人、そもそも何故関西弁かが理解できん」

いよいよ互いの体から危険なオーラが発せられ始めました。

「……ケツからストロー突っ込んで腹膨らませたろか!」
「……ケツから杭貫通させて野ざらしにしてやろうか!」

互いにメンチの切りあい、胸元を鷲づかみあい。

『表ぇ出ろ』

その一言で二人は玄関に向かい、微妙な雰囲気を醸しながら一緒に靴を履き、
妹紅宅の裏手の直射日光が殆どないやや広めの場所を探して向かい合う。

「泣いて詫びてももう許さへんで!」
「それはこっちの台詞だ!」

諏訪子は懐からスペルカードを取り出す。

「開宴『二拝二拍――」
「ラリアァァァット!!」
「いっぱぶぅぅぅ!!」

対するレミリアはスペルカードを取り出すどころか、
一瞬で諏訪子の目前まで移動し、逞しくない二の腕を思い切り振りぬいた。

「イチバァァァン!!」
「ぐふっ……だ、弾幕勝負とちゃうんかい!!」
「何を寝ぼけている、これは藤原妹紅を賭けた私と貴様との戦争だぞ?」
「つまり、なんでもありというわけやな……」
「そういうことだ!」
「おらっしゃぁぁ! 蟹バサミィィィ!!」
「むぺっ!」
「逆海老固めぇぇぇ!」
「あだだだだだ!!」

レミリアを転ばし、流れるような動作で逆海老の体勢に捻じ曲げる、
しかし吸血鬼には関節技が通用しないことを諏訪子は知らなかった。

「蝙蝠化!」
「おわっ! ……ったー、小癪な真似をするやないか……はっ!」」

支えの消失に今度は諏訪子が仰向けに倒れる、
そしてすぐに起き上がろうと片膝を立てた瞬間、
何かがその膝の上に乗っかってきたのを感じた。

「スカーレットウィザード!!」
「おうふっ!!」
「まだまだぁ!!」

諏訪子の後頭部に膝裏がめり込み、勢いよくすっ飛んでいく、
続けざまにレミリアは左腕を軽く曲げ、諏訪子の後を追った。

「ふぬぅぅ……! この程度の攻撃で洩矢諏訪子は倒されないっ!」
「これでトドメだ! スカーレットボンバー!!」

諏訪子が起き上がるのにあわせて、レミリアの左腕が豪快に振りぬかれる、
合わせて何かを弾く鈍い音が竹林に鳴り響いた。

「(む? 手ごたえがおかしい……)」
「よくもわての帽子をふっ飛ばしてくれたなぁ」
「なっ、後ろだと!?」

ラリアットによってひしゃげた帽子が地に落ちると同時に、
レミリアの視界が高速で上がり、そして落ちる。

「バックドロップゥゥ!!」
「ぐふぁっ!!」

炸裂する衝突音、マグニチュードは3以上、
揺れた笹から葉が幾百枚も紙吹雪のように降り注ぐ。

「……わいの勝利や!」
「まだだぁ!!」
「げこっ!!」

逆転の逆立ち打ち上げ式ドロップキックなり。

「まだだ! まだ終わらんぞ!」
「しぶといやつや……次で締めたる!」
「スカァァレットナックルゥゥ!!」
「洩矢クロスチョップゥゥ!!」

打撃音が幾度も幾度も竹林に鳴り響き、一時間が過ぎて静けさが戻った時、
そこには満足げな顔を浮かべた二人の幼女が大の字に並んで倒れていた。

「やるやないか……認めたるで、あんたのこと」
「ふん、お前こそな……」

二人は顔を見合わせ、ふふりと笑う。

「……一つ質問がある」
「何や?」
「何で関西弁なんだ? それもエセの」
「……ヨ○モトがごっつ好きでなぁ」


 ―――――


「二人とも、この怪我は一体どうしたのかな?」
「えーと……うー……プ、プロレスごっこで遊んでたの!」
「そうなの! 一緒に仲良く遊んでただけだよ!」
「ふーん、手足が変な方向に折れ曲がるぐらい仲良く遊んでたんだね」
『うん!』
「二人ともお昼ご飯抜き!」
『えー!!』

それは悲痛な決定であった、体のいろんなところが捻じ曲がっている二人を前に、
妹紅は怒りを抑えようともせず、冷徹に言い放つ。

「あー……」
「うー……」

さしもの二人も空腹には勝てず、昼が過ぎても三時を過ぎても
じーっと動かずに耐え忍び続ける時間が続いた。

「ううー……おなかすいたよぉ……」
「あーうー……もう我慢できないよぉ……」

やがて限界を迎えたのか、二人はよろよろと立ち上がり、
隣の部屋である、妹紅の竹細工製作場へと必死に歩を進める。

「もこー……お腹すいたよぉ……」
「駄目、おとなしくしてなかったのがいけないのよ」
「だけどもう我慢できないよぉ……」
「晩御飯まで頑張りなさい」
「もこー!」
「もこ姉ー!」
「だから駄目だって……あ」

途端、妹紅のお腹が盛大に唸る、
その音にレミリアも諏訪子も目を丸くした。

「……私だって、辛いんだから」

その一言に、二人の涙腺が崩壊した。

「ああ……ごめん、ごめんねもこー、私……自分のことしか考えてなかった……!」
「もこ姉! 私、頑張るから、私ももこ姉と一緒に我慢するから!!」
「そうか……よし! あとたったの三時間だ! 一緒に頑張って耐えるよ!」
『うん!』

そして三人は体力の消耗を抑えるために身を寄せ合い、
静かに静かに三時間弱の時間を過ごしたそうな。

「ご飯が出来たよー!!」
『わーい!!』

お膳に食事を乗せて運んでくる妹紅、
しかし妹紅も待ちに待った二人もすでに顔はげっそりとやつれていた、
三人はこの晩御飯をどれほどに待ち望んでいたかが一目で分かるほどに。

「諏訪子は早苗さんが持ってきてくれたイナゴの佃煮その他ねー」
「待ってましたー!」
「レミリアはメイド長お手製ケーキと紅茶ー」
「うー……」
「ん? どうしたの?」

だがご飯を目の前にして、なぜかレミリアが渋るような表情を浮かべる。

「ねー、もこー」
「ん? 嫌いな物でもあった?」
「違うわ……私、もこーの血が飲みたい」
「えっ!?」
「なんやてっ!?」

突然の言葉に妹紅も、そして諏訪子も素の性格で驚いた。

「んー? ……しょうがないなぁ」
「あっ、首元じゃなくていいの、指先でいいからっ」
「指先でいいの?」
「うんっ!」

妹紅から差し出された人差し指を、レミリアは爪で少しだけ傷つけた、
じわりと血が滲んだその指先を、ぱくりと咥えてちるちるとしゃぶる。

「ん……ちゅぱ……はぁ……んんっ」
「(わぁ……可愛い……)」

指をしゃぶり続けるレミリアの可愛さに、つい妹紅も顔が緩む、
しかしその様子を良しとしない者が当然いた。

「(おのれレミリア……そないな距離の縮め方があるとは……!)」
「(……ふっ)」
「(わ、笑いおった! あいつ今確実にわいを見て笑いおった! どうにかせんと……!)」

一人置いてけぼりの諏訪子は起死回生の案を必死に考える。

「(そうや、ならばこっちは王道で返せばいいだけのこと……!)」
「ん……ご馳走様」
「もういい?」
「うん、折角咲夜が用意してくれたご飯もあるし」
「ねーねー、もこ姉もこ姉ー」
「どうしたの?」

途端、諏訪子が被っていた帽子の目がきらりと光る。

「ご飯食べさせてー」
「(な、何だとっ!?)」
「いいよー、ほら、あーんして」
「あーん……おいしー!」

妹紅の箸にぱくりと食らい付き、にこやかな微笑を浮かべる諏訪子、
わしわしごくりと飲み込んだ後、ちらりと横目でレミリアを見る。

「(どないや! これが王道というものやで!)」
「(くぅぅ……これで互いに妹紅との距離はイーブンかっ)」

その後は何事も起きずに無事に食事が終わる、
R-18的な意味で三人のキャッキャウフフなお風呂タイムはカットされ、
やがて眠りを迎える時が来た。

「この時がついに来たな」
「ああ、来たで……私とお前の決着をつけるときがな!」

一つの部屋に敷かれた布団はたった一つ、そして人数は三人、これが現すのは唯一つ、
そう、一緒の布団で寝るということ、それ即ち決戦の時ということ。

「さあ拝むがいい、これこそが真のチャーミングスタイル……ピンクネグリジェだ!!」
「な、何やとぉぉぉ!!」

レミリアがいつものドレスを脱ぎ捨てれば、その下には桃色に染められた絹の寝具。

「それもただのネグリジェやない……最低限のフリルとレースが肌との見事な
 コントラストを奏で、着用した本人の美を最大限に生かしている……」
「ふふ、私の勝負寝具だからな……これで妹紅は私にメロメロだ!」
「だが、だが甘いで! お前は大きなミスをしている!」
「ミスだと?」
「これこそが真のチャーミングスタイルや!」

続いて諏訪子が衣服を脱ぎ捨てる、と同時に明らかになるのは
いたって普通の幼女用シャツとかぼちゃパンツに身を包んだだけの姿。

「ふざけているのか?」
「レミリアよ、わいらは何や?」
「……何が言いたい」
「わいらはなぁ……幼女や! そして幼女には幼女に似合った服装というものがあるんや!
 お前のネグリジェは確かに美しい、しかしな、幼女がそれを来たとなれば効果は半分や!」
「な、何だと!?」
「それに比べればわいの服装はどうや? まさに幼女が幼女らしい幼女であるための
 幼女スタイルを見事に体現しているやないか……ふふ、妹紅はわてがもろたで!」
「くっ……だが、西洋人幼女独特の美しさはそれすらも凌駕してみせる!」
「いいやろ! 日本の土着神として真っ向から打ち破ってやるわ!」

盛大にかっこつけた後、微妙な雰囲気のまま妹紅を待つことおよそ数分、
やがて寝室の戸の向こうから足音がぱたぱたと近づいてくる。

『来るっ!』
「よし、二人とも、寝るよー!」
『ぐばぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「な、何!? 一体どうしたの!? 何で吹っ飛ぶの!?」

入ってきた妹紅の姿を一瞥するや否や、とんでもない勢いで後方に吹き飛ぶ二人、
その鼻の奥では、煮えたぎったマグマが今にも噴出さんとうごめいていた。

「(やられた……)」
「(ああ、やられたで……)」
『(まさかトランクス一丁だけとは!!)』

藤原妹紅は野性的。

「(しかも胸元を隠している枕が見事なチラリズムを作り出していた……)」
「(これが、これこそが大人の魅力なんやな……完敗や)」
「おーい、二人とも大丈夫ー?」
『はぶぅっ!!』
「わっ! 鼻血!? 長風呂しすぎちゃった?!」


 ―――――


夜が明けて、初めてのお泊り二日目、
本日は朝から三人仲良く竹細工を作る。

「もこー、ここはどうするのー?」
「そこはねー、こうやってこうして織り込むの」
「もこ姉ー、出来た出来たー」
「お、見事な竹篭だね」

妹紅と共にいるときはいたって幼女なこの二人、
特に事件が起きることもなく、時間は進んでお昼時。

「ほい、あーん」
「あーん」
「レミリアも、あーん」
「あーん」
「もこ姉もあーんして」
「あー、私のをあーんしてー!」
「ほらほら、両方食べてあげるから……あーん」

やがて楽しい昼食も終わり、三人並んで横になり、天井を見上げてお昼寝タイム。

「ねぇもこー」
「ねぇもこ姉ー」
「んー?」

何もしない、何もしなくていいぐーたらな時間、
そして何もしなくていいということは、何でも出来るということ、
レミリアと諏訪子はついに意を決し、あれを問いかけることにした。

「あのね、私のメイドに――」
「お願い! 私だけの巫女――」
「妹紅ぉぉぉぉぉぉ!!!」

しかしその声は乱入者によって遮られる。

「か、輝夜!?」
「どういうことよ! この数ヶ月間ずっと私を放っておくなんて!」
「仕方ないだろ! こっちにだって用事があるんだ!」
「私には無いのよ! 暇で暇でしょうがないのよ!!」
「知るかーーー!!」

レミリアと諏訪子のテンションは大幅に下がり、
逆に妹紅と輝夜のテンションはうなぎのぼり。

「今日こそ殺し合いしてくれなきゃ竹林に出入り禁止にしてやるわ!」
「そもそもお前のものじゃないだろ!」
「戦ってくれなきゃいやよいやよいやよいやよー!」
「お前はどこの駄々っ子だ!!」

畳の上で地団太を踏む輝夜に、妹紅も堪忍袋の緒が切れる。

「レミリア、諏訪子、仲良くお昼寝しててね……ちょっとヤってくるから」
「妹紅! 早く!」
「へいへい」

妹紅が騒がしい輝夜に連れられて、またも二人残される、
ぼーっとした目で天井を見つめたまま、ぽつりぽつりと呟いて。

「……寝る?」
「……寝よっか」

テンションが上がらないまま、二人は瞼を閉じた、
遠くからわずかな振動と、輝夜と妹紅の力が大気を通じて伝わってくる。

「妹紅が押されているね」
「うん、押されてる」

段々と妹紅の力が弱まるのが二人には分かる、
対して輝夜の力はさほど変わってはいなかった。

「……このままじゃ負けちゃうね」
「……うん、負けちゃう」

やがて二人はその目を開く。

「いくか」
「そやな」

たとえ妹紅と輝夜の戦いと分かっていても、二人には我慢ならなかった、
大好きな人間が傷ついていると分かって、寝ていられるほど悠長ではないのだ。

「出てくると思っていたわ……残念だけど、あなた達を通すわけには」

外に出ると輝夜の従者らしき者が待ち構えていたので、二人で初の共同作業。

『トライアングルドリーマー!!』
「がふぅっ!!」


 ―――――


「ふふ……随分と腑抜けたわね、妹紅」
「くそっ……」

妹紅と輝夜の戦いは、二人が感じとっていた通り、
妹紅が負ける寸前まで追い詰められていた。

「まだだ! 凱風快晴! フジヤマヴォルケ――」
「遅いわ! ブリリアントレミントンバレッタ!!」
「(しまった! 避けられな――)」

攻撃に転じた瞬間を狙われ、妹紅はもろに輝夜の攻撃を浴びた、
すでに限界の近かった体は意識を手放し、地面へと落とされる。

「レミントンM870……これに蓬莱の玉の枝を組み合わせれば妹紅ですらこの通り!」

どこから手に入れたのか、特徴的な長い筒を抱きしめて
一人でふぅと悦に浸る、いろんな意味で危ない光景だ。

「私はこの武器で……カリスマの頂点を取る!」
「ほう、それは私にも挑むということか」
「誰っ!?」

声がしたのは輝夜自らの上空、
それに釣られて見上げれば、視界に飛び込んでくる靴の裏。

「紅魔の!!」
「うぐっ!!」

左足の裏で相手の首元を押さえつけるように蹴り落とし。

「断頭台ぃぃぃ!!」
「ごはぁっ!!」

着地と同時に右脚脛で首を両断するように叩き潰す!

「我に絶てぬ首……無し!」
「――リザレクション!!」
「……そうか、お前も死なないんだったな」
「けほっごほっ……はぁはぁ……まさか悪魔将軍の技を決められるとは思わなかったわ」

一度死んだくらいではへこたれない、それが蓬莱人である。

「永琳はどうしたの? 邪魔されないように言っておいたのに」
「首と腰と膝を破壊して放り捨てた」
「ほえっ!?」
「お前の後ろにいる奴とツープラトンでな」
「後ろ……?」

言葉に誘われて振り向けば、えろん、という音と共に何かが体に巻きついた。

「え、何これ、気持ち悪……」

そのぐにょりとしたピンク色の細長い物体の元を辿れば、
諏訪子の頭の上に乗っかっている帽子から出てきているように見える。

「その帽子生きてるの!? 生物な――」
「モリヤロックジャイロォォォォ!!」
「ひゃぁぁぁぁぁ!!」

輝夜は超高速で振り回され、やがて地面に叩きつけられた、
目は回り、全身に痛みが走り、立ち上がるのがやっととなる。

「ま……待って……二対一は卑怯だと思わない?」
「全然」
「さっぱり」
「私が何をしたって言うのよぉー!!」

その叫びに二人がぴくりと反応する、
互いに右腕を掲げて袖をまくると、ぐりぐりと体をほぐし始めた。

「私の妹紅を傷つけた」
「わてのもこ姉を苛めよった」
『それだけで十分!!』
「ひぃぃぃっ!」

一声と共に二人の右腕から膨大な妖力が発せられる、
それのあまりの威圧感に、輝夜は逃げることすら叶わない。

「スカーレットパワー! プラァァァス!!」
「ちょっ、待って!」
「ミシャグジパワー! マイナァァァス!」
「この技は……た、助けてえいりぃぃん!!」
『クロォスボンバァァ!!』
「でゅくしっ!!」
『そぉらぁぁぁ!!』
「あべばぁっ!!」

その日、竹林の奥深くでひっそりとゴングの音が鳴り響いた。

『ナンバァー! ワァァン!!』


 ―――――


「うぅーん……」
「起きた? 大丈夫?」
「う……レミリア?」

重い瞼を開ければ、そこは見慣れた我が家の天井、
続いて、ひょこりとレミリアの心配そうな顔が飛び込んできた。

「輝夜は……?」
「帰ったみたい」
「そう……レミリアがここまで運んでくれたの?」
「うん!」
「ごめんね、負けちゃって……」
「妹紅が無事ならそれでいいよ!」
「……ありがとう、レミリア」
「(ニヤリ)」

悪魔は人間を騙すのが生き甲斐です。

「あー、体ががたがたするぅー」
「駄目っ! もっと寝てて!」
「わわっ」

レミリアは起き上がろうとする妹紅を無理矢理に押さえ込んで寝かせつける。

「無茶は駄目よ」
「大丈夫だって、死なないんだし」
「めっ! めったら、めっ!」
「んぅ!? ……あははは、ごめんなさい」
「わかればいーのよ」

看病というのはされる側とする側の距離を大幅に縮める魔法、
外の世界では看病疲れという言葉があるのがいただけない。

「(諏訪子は何をしてるか知らないが、今が妹紅の心をゲットするチャンス!)」
「レミリアの手がひやひやして気持ちいー」
「えへへー」

人間より温度の低い吸血鬼の手で妹紅の頭や首筋を撫でに撫でる、
たまに胸元に手を差し込んだりしているところはご愛嬌。

「(うふ、うふふふ、妹紅の柔肌、妹紅の胸元……)」

しかし幸せタイムはそう長くは続かないのでした。

「もこ姉! これ食べて元気になって!」
「おっ?」
「薬膳鍋だよー!」

ぱたぱたと諏訪子が駆け足で持ってきた薬膳料理、
そして料理ほど相手の心をゲットするのに便利な物はない。

「(姿が見えないと思ったらそんな姑息な手を……!)」
「(ふっ、肉を切らせて骨を絶つ、戦いの基本やで?)」

このまま諏訪子の料理に魅力されてしまっては、
レミリアの看病の苦労も全て台無しとなりかねない。

「(こうなれば……わが身を呈してでも!)」
「(これで妹紅の心をゲットや!)」
「(くらえ! マイクログングニル!)」
「あだっ!?」

レミリアは指先に極小の槍を作り出し、諏訪子目掛けて放つ、
もちろん妹紅に見えぬように、そして狙う先はその片足。

「あーっ!!」
「わーっ!!」

当然バランスを崩してつんのめった諏訪子の手から、
鍋の中身が妹紅に向かってぶちまけられる。

「危ない!!」
「レミリアッ!?」

しかし妹紅にかかる寸前でレミリアが妹紅に重なり、
その身とその羽で守り通した。

「大丈夫かレミリア!」
「だ、大丈夫……私、吸血鬼だからなんともないの、妹紅こそ大丈夫?」
「ああ……本当に大丈夫なの?」
「うんっ!」

妹紅の問いに満面の笑みで答えるレミリア、
必死に背中の熱さを表情に出さないように堪えてるのは言うまでもない。

「(ふふ……妹紅はいただいたわ!)」
「(何て奴や……だが、だがまだ戦いは終わっとらんで!)」
「(まだ何かする気か!?)」

その時、諏訪子の帽子がぱかりと開いた。

「レミリアちゃん火傷しちゃうーー!!」
「口からハイドロポンプァァァー!!」

災害救助を名目に災害地点より強制排除。

「大丈夫!? レミリアちゃん!!」
「み、水を止ぷぁ――流水は――あばばば――」
「(馬鹿め、昨日のお風呂でお前の弱点は調査済みや!)」
「(く――強制リタイアさせる気か――い、意識が――)」

やがて、諏訪子の陰でレミリアがぴくりとも動かなくなるが、
ぽかんとした顔で見つめてる妹紅はそれに気付くこともなかった。

「レミリアちゃん、これでもう大丈夫だよ!」
「……ぐふっ」
「(よし、逝ったな)」

動かなくなったのを再確認し、丁寧に横たわらせる、
これでこの部屋は実質的に妹紅と諏訪子の二人きり。

「レミリアちゃんは寝てれば治るみたいだよ!」
「そ、そうなの?」
「でね! でね! 妹紅に大事な話があるんだけど!」
「うん?」

レミリアが動けないこの好機を逃さぬよう、
諏訪子は妹紅にぐぐいと近寄る。

「あのね! 私だけの巫――」
「諏訪子ー、迎えに来てやったわよー」
「サノバビィィッチ!!」

世界一空気の読めない神様のご登場です。

「やだー! もっともこ姉と一緒に居たいのー! 帰りたくないー!!」
「あーもう! 仮にも神が駄々こねるんじゃないよ!」
「いーやー!!」
「諏訪子様がいないと神社が成り立たないんですから帰りましょうよー」
「助けてもこ姉ー!!」
「あららららら」

奥襟を引っ張る神奈子と、玄関の戸にしがみ付いて離れない諏訪子、
早苗が必死になだめても聞く耳持たず、妹紅は頭をかいていた。

「諏訪子、わがまま言っちゃ駄目だよ?」
「もこ姉ー……もっと一緒にいたいよ……」
「いつでも遊びにきていいから、ねっ?」

妹紅が傍まで歩み寄り、頭をぽんぽんと撫でて言い聞かせる、
諏訪子はしゅんと静かになり、そっと戸から手を離した。

「本当に、また来てもいい?」
「うん、いつでも待ってるから」
「……わかった、またね、もこ姉」
「またね、諏訪子」

やがて竹林の向こうへと諏訪子たちの姿が遠ざかる、
諏訪子は何度も振り返り、妹紅に向かってさよなら手を振った、
妹紅も手を振り替えして、互いに見えなくなるまで何度でも何度でも。

「さーて、後はレミリアのお迎え待ちかな?」
「もこーーー!!」
「わっ!!」

自宅に入ろうと振り返った矢先、
レミリアダイビングによって地面に押し倒される。

「ど、どうしたの!?」
「あのねっ! 凄く大事な大事な話があるのっ!」
「わかった、わかったから落ち着いて!」

レミリアは妹紅に馬乗りになった状態で深呼吸を一回、二回、
再度呼吸を落ち着けて、妹紅の顔をじっと見つめる。

「妹紅、紅魔館の、ううん……私だけのメイ――」
「お嬢様、お迎えに上がりました」
「プルシネンコォォォ!!」

妹紅は何か既視感を感じたようです。

「どうしてよ! 何でこんなジャストタイミングザ・ワールドなのよ!」
「ほらお嬢様、我侭言わないで帰りますよ」
「やだー! もっともこーと一緒に居たいのー! 帰りたくないー!!」
「(あれー、この光景さっきも見たような気がするなぁ)」

必死に戸にしがみ付いて離れないレミリア、
結局は妹紅が傍に歩み寄って話しかけることになる。

「ほら、我侭言わないで、ね?」
「うう~……もこー……」
「またいつでも遊びに来ていいから」
「うん……じゃあ、もこー、あのね……」

しかしここでレミリアは諏訪子と違う反応を見せた。

「ん? なーに?」
「もこーも、紅魔館に遊びに来てくれる……?」
「……うん、わかった、私からも会いに行くよ」
「本当? 本当に本当!?」
「もちろん本当よ!」
「約束だからね! 絶対だからね!!」

そしてレミリアも諏訪子と同じように竹林の外へと去っていく、
何度も何度も諏訪子と同じように、見えなくなるまで手を振って……。

「咲夜」
「何でしょう?」
「蓬莱人を一人捕獲できるだけの罠を明日までに整えておきなさい」
「かしこまりました」

逃げて、妹紅逃げてー。


 ―――――


「はー、終わったー」

また一人に戻った妹紅は、畳にごろりと転がって、この二日間を思い返す。

「……結構充実したなぁ……」

竹林の中にある小さな小さな一軒屋。

「こうして子供を預かるのも、やっぱり悪くないかな」

そこにいるのは誰よりも子供が大好きな優しいお姉さん。

「ん……また誰か来たのかな?」

もしあなたに子供がいて、子供と離れなければならない用事がある時は、
是非ともここに預けてみては、いかがでしょうか――?





「連続で申し訳ないんだけど、あなたならフランドール様の矯正が出来ると思って」
「うちの神社に勝手に住み着いた鬼なんだけど、こいつの酒癖を治せるって聞いて」
「口を開ければ嘘しかでないこの詐欺ウサギをまともな性格に戻せると慧音さんが」
「これなんてファンタズム?」

.
久々にあれやります、あれです、せーのっ

ごめんなさい。

追記:お風呂でキャッキャウフフシーンは
創想話倫理委員会によってカットされました、
読者の皆様の期待を裏切り、真に申し訳ございません。
幻想と空想の混ぜ人
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コメント



0.9890簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
ファンタズムふいたwwww
3.80名前が無い程度の能力削除
壊れすぎだw
4.無評価名前が無い程度の能力削除
サスガだぜ妹紅さんwカリスマが半端じゃねェw
幻想郷最強保母さんですなw
てか何気に蘭様ってば橙に手を焼いてるのか?w
5.100名前が無い程度の能力削除
↑フリーレスごめんなさいorz
6.100名前が無い程度の能力削除
スカーレットウィザード吹いたwwwww
さりげにまざってる藍がまたwwwww
13.90名前が無い程度の能力削除
何でネタがほとんどキン肉マンなんだw
15.100名前が無い程度の能力削除
ここからが本当の戦いだ!
ファンタズムはオチでしょうけど、別個で作るなら非常に期待www
23.100名前ガの兎削除
なんとハルクホーガン!正統派プロレスネタか!
と思ったらこれなんてキン肉マンwwwwwwwww
こんだけパワーのあるギャグをかけるってのは凄いことだよ。
24.100欠片の屑削除
アレやね、これはホンマ面白過ぎるわw
よぉ出けたぁりますなぁwww 特にアホ二人www
25.90名前が無い程度の能力削除
>もこーのおっぱいもでけー!
なんだと・・・・・・

しかしいろいろとカオス過ぎ…… 
26.80名前が無い程度の能力削除
なんというカオスwwww
前半のレミリアが出てくるまでの妹紅が自分のイメージにぴったりでした。
もこけねは俺のジャスティス
28.90名前が無い程度の能力削除
とりあえずトランクスになりてぇに一票
29.100名前が無い程度の能力削除
アホ過ぎるwwwwwwwww
32.100名前が無い程度の能力削除
カオスwwwファンタズム期待してるぜwwwww
33.100名前が無い程度の能力削除
なんてファンタズムじゃねえよwwwwwwwwwwwww
というか、いくらこの妹紅さんでもクリアできない気しかしねえwww
36.80名前が無い程度の能力削除
ム○カーw

>オンバ――全壊――
守矢神社は神奈子が壊したか?
37.100名前が無い程度の能力削除
いいなぁ幼女レミリア
39.100名前が無い程度の能力削除
なんというカオスwwwww
41.100煉獄削除
いや、なんかもう・・・色々とカオスですね。(苦笑)
このレミリアとか諏訪子とかも良い味だしてて良いです。
そして妹紅の受難は続く…と。
43.無評価名前が無い程度の能力削除
ちょっ!1人子供じゃないの預かってる!!最後の子供たちはいくら妹紅でも直せないだろ
44.90名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れました
46.90名前が無い程度の能力削除
もこもこの面倒見のよさが異常。ただもこもこの胸は小さいと思ってた。
50.100名前が無い程度の能力削除
勢いがすばらしい。自分の幼女具合を分かってる諏訪子様かあいいよ諏訪子様。
ただし妹紅は貧乳。
52.100名前が無い程度の能力削除
もこ姉さんはたゆん『も』ジャスティス!
この幻想郷の幼女共は皆もこ姉さんにメロメロなのかー。
56.100名前が無い程度の能力削除
乳臭いってれべるじゃねーぞww
凄まじい勢いでブレイクされていくカリスマに100点を。
58.100名前が無い程度の能力削除
ラピュタで吹いたww
これは満点を付けざるを得ない。
63.100名前が無い程度の能力削除
イナゴだと
早苗さんが生きたままイナゴをフライパンにいれて
台所がカオスになるさまを幻視した

実にカリスマあふれるおぜうさまと諏訪子様でした、ご馳走様です。
68.100名前が無い程度の能力削除
面倒見がよく子供に好かれるという私のイメージにぴったりの妹紅でした
あなたが神か

ただ乳は貧しくあってほしかった
69.100名前が無い程度の能力削除
いいもん見た
71.100名前が無い程度の能力削除
野生化してるやつでいいんでゆっくりまんじゅう一匹ください(笑
73.100名前が無い程度の能力削除
関西弁の諏訪子様、いいわーw
76.80名前が無い程度の能力削除
トライアングルドリーマーで爆笑したわ
まさかこの技を東方で見るとは思わんかったわ
77.80名前が無い程度の能力削除
クロスボンバーをまともに食らったということは、
輝夜の顔は・・・(ゴクリ)。
78.100水の音削除
落し物ですよ~つカリスマ
81.100てるる削除
カwオwwスwww
まさかのトライアングルww

・・・ところで、ゆっくり饅頭警備隊は何をやっていたんだ?

さて、俺、この書き込みが終わったら創想話倫理委員会に入ってくるんだ・・・
82.100無刃削除
…結局のところ、妖怪とか神霊とかは基本的に成長しないから、幻想郷は「精神的幼女」が
多いと言う事だろうか?だとすれば妹紅は貴重な「精神的年長者」になるんだろうか・・・
84.100名前が無い程度の能力削除
マスクしてないのにクロスボンバーされた輝夜に冥福を…w

やべぇ何これ面白すぎるw
87.100名前が無い程度の能力削除
もう言う事は残ってないなww
90.100名前が無い程度の能力削除
くそぅ、やべぇ何だこれはw
どこまでも素敵過ぎます先生!!
92.100時空や空間を翔る程度の能力削除
面白いの一言と言わざるを得ないwwwwwwwww
98.100名前が無い程度の能力削除
おもしろすぎるwwwww
とりあえず吹き出したQooとってもオレンジとベッタベタになったディスプレイと
崩壊した腹筋の賠償と次回作を要求する
113.100名前が無い程度の能力削除
何がスゲェって、やっぱり諏訪子の帽子…(゜∀゜)
114.100名前が無い程度の能力削除
百%中の百%wwwww
124.100名前が無い程度の能力削除
パーフェクト超人は敗北を認めるくらいなら死を選ぶと言う。
125.70名前が無い程度の能力削除
>もこーのおっぱいもでけー!
あなたは少し妹紅に幻想を抱きすぎてる
いや、俺にとっては悪夢だが
126.100名前が無い程度の能力削除
とりあえず誰かトランクス一丁に突っ込もうぜwww

えーき様を入れた上で次回作を書いて下さい。
133.100名前が無い程度の能力削除
すばらしいw
なんというか諏訪子が銀魂に出てくる神楽みたいだぁw
あと、どんなにがんばってもウ詐欺は治らないんジャマイカ。
135.100名前が無い程度の能力削除
勢いよく笑わせていただきました

ではゆっくり狩って帰ります
139.100名前が無い程度の能力削除
肉ネタが上手く溶け込んでると思います。
パロを違和感無く使える人は尊敬するなあ
143.100名前が無い程度の能力削除
なにこの最強なもこたん、これは勝てる気がしない

あと諏訪子の関西弁はないわ・・・・
149.100名前が無い程度の能力削除
なんという初代キン肉マンwwwwwww
トライアングリドリーマーとか活字で初めて見たよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
151.80deso削除
妹紅、人気者よのうw
キン肉マン見てなかったのでネタがわからない! でも面白かったです。
153.100名前が無い程度の能力削除
ひどいカオスだったwww
ファンタズムはいくら不死身な妹紅でもクリア出来ないだろうと
160.100名前が無い程度の能力削除
ファンタズム鬼畜過ぎるw
166.100名前が無い程度の能力削除
サノバビィイイイッチ!!
167.100名前が無い程度の能力削除
カ オ ス
173.100名前が無い程度の能力削除
さりげなくゆっくりがwww
179.100名前が無い程度の能力削除
藍さまさりげなくまざってるよwwwwwwww
180.100名前が無い程度の能力削除
これはひどいwいい意味でひどいwww
183.80マイマイ削除
ぶふぅwwww
198.100名前が無い程度の能力削除
東方託児所
202.100名前が無い程度の能力削除
これはいいもこたん
205.100名前が無い程度の能力削除
あぁ・・・とろけそうだ
207.100名前が無い程度の能力削除
もんぺださくないぜんぜんださくない
215.100名前が無い程度の能力削除
なんてカオスwwww

鬼をだますウサギ、そして暴れる鬼とその混乱に生じてはしゃぎまわる妹様…………、なんてこったファンタズムが鬼畜すぎるwwwww
218.100名前が無い程度の能力削除
サノバビッチにくそ吹いたwwww
221.90名前が無い程度の能力削除
もこの胸でかいんだ・・・
234.100みなも削除
こどもの世話する話ってすきですね.
238.100名前が無い程度の能力削除
もこたん素敵
239.100リバースイム削除
いけない、もこ姉が愛しすぎて愛しすぎて愛し愛し愛し愛愛愛愛愛愛愛愛……。
もこ姉ええええええええええええええええええええええええええええ!!
好きだあああああああああああああああああああああああああああ!!
面倒見てくれええええええええええええええええええええええええええ!!
245.100名前が無い程度の能力削除
妹紅はこういう役回りが多いなww
247.100\(゚ヮ゜)/削除
すごく自然にお風呂タイムがスルーされたwwww。
248.100名前が無い程度の能力削除
諏訪っことレミリアの可愛さが異常。
そして諏訪子、関西弁というよりヤクザだww
261.100名前が無い程度の能力削除
いないいないうー☆
の時点で笑いをこらえきれんかった
262.100名前が無い程度の能力削除
無理w
最後の三人は絶対に無理w
273.100名前が無い程度の能力削除
もこたんかわええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
279.100田んぼ3210削除
つづきみたい