Coolier - 新生・東方創想話

宴会騒動with犬 序章

2008/08/02 00:05:08
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 その日はとても暑かった。異様に張り切る太陽の日差しの中、私、十六夜咲夜は歩いていた。お嬢様から頼まれた特選紅茶の葉を香霖堂まで取りに行っていたのだが、どうも今日は暑い。メイド服のままで出てきたのが不味かっただろうか。服のフリフリが鬱陶しくて仕様がない。
「今日は暑いわねぇ。帰ったら憂さ晴らしに中国でも虐めてやろうかしら」
 
 館に着いたのは昼過ぎだった。朝早く出てきたのだからだいぶ時間がかかったようだ。強い日差しのせいで動きが緩慢になっているのだろうか。館に着いたとき案の定、中国が居眠りをして門番作業をサボっていたので、時を止めてから周りにありったけのナイフを設置しておいてやった。館の中に入った後、門の外から断末魔の叫びがあがった。……? 何だろう? そうだった。中国にナイフだった。そうだ、そうだ。
「お嬢様ぁ。只今戻りました。……。お嬢様~?」
「……咲夜? レミィなら出かけたわよ」
「パチュリー様、 どうしたのです、図書館から出てこられるなんて。って、そんなことよりもお嬢様が出かけた!? こんな日差しの強い中で!? どこに行ったのですか!!」
「落ち着きなさい、咲夜。出かけたのは本当なんだけれど、どこに行ったかは解らないわ。ただ……やけに嬉しそうな顔をしてお酒片手に出かけて行ったわ」
「全くもうっ、お嬢様、どこに行かれたんですか~~」

 一方そのころ、博霊神社では……。
「……暑いわ。」
 やる気が出ないのはいつものことだが、今日はより一層だ。
「こんな時には、なにもせずにだらだら過ごすのが一番ね。外に出るのは気が進まないし、湖の辺りは涼しそうだけど」
 今日はいつもの熱いお茶を冷えた麦茶に替えてみようか。体の中から涼しくなれるかもしれないしね。
 ん、鳥居の下に何かある。何だろう? 黒いコート? この暑い中に黒いコートって、見てるだけで暑苦しいわね。……でも見た感じ高級そうなコートよね。もしかしたら売れるかしら? ――暑いけど、お金のためだものね。仕方ないわ。
「――それにしても厚いコートね。うん? 何か入ってるのかしら? …………!? レミリア!!? 何してんのアンタ、こんなところに倒れて平気なの!?」
「あら霊夢、ごきげんよう。でも…もう……限……界か…も」
 そのままレミリアは気を失った。そのまま放置するのも人道的にどうかと思ったので神社に運ぶことにした。誰だってそーする、私だってそーする。私だってそこまで冷血な女じゃないのだ。

「う…ん。ここは」
 どうやら気を失っていたようだ。神社に着いて、鳥居のとこで力尽きて、霊夢がきて、その後……?
「あら、気がついたのね、レミリア。麦茶でも飲む? 冷たいわよ」
「頂くわ。お気遣いありがとう、霊夢」
「はい、どうぞ」
 ごくごく、冷たい液体が喉を滑って行く。鼻を抜ける仄かな麦の風味が爽快感を感じさせた。いつもは紅茶ばかりだけどたまには麦茶もいいかもしれない。体の中から涼しくなってくる感覚があった。心地よかった。不思議に微かな笑みがこぼれそうになる。霊夢がいるので必死に笑みを押し殺した。なぜかって? だって私はカリスマだもの。
「それで、なにしに来たのレミリア。面倒事ならお断り。こんな暑い中、私絶対動かないわよ」
 顔は笑っていたが、その内側に確固たる意志があるのは明白だった。きっと本当に嫌なんだろう。
「そんな無粋なものじゃないわ。今日はこれをしようと思って来ただけよ」
 無造作に私のそばに置かれていた黒いコートの中を探す。えっと……ここら辺に入れといたはずなんだけど。――あった。
「人間の暦で1975年産、紅魔館特製赤ワイン。結構美味しいわよ」
「……え」
 霊夢の顔が、いかにも理解できないといった感じに固まった。
「それだけの為にここまで来たの?」
「ええ」
「こんな暑い中を?」
「ええ」
「吸血鬼で日差しにすっごく弱いのに?」
「……ええ」
 まさかただ霊夢に会いたいからなどと言えるわけがない。なぜなら私はカリスマだから。何かしら理由をつけないと会いに来れないなんて不自由なものだ。
「まぁ、いいわ。でもよくここまで来れたわね。今日はいつもより日差しが強いでしょうに」
「正直辛かったんだけど。このコートのお陰ね」
 コートを手にとってばさばさと振る。
「コート?」
「妖怪の山の河童に造らせたのよ。完全に日光を遮断するコートをね。だけど冷房機能が付いてなかったのが痛かったわね。暑さで意識朦朧だったわ」
「ああ、だからあんなに衰弱してたのね」
「今度はもっと性能が良いのを造らせるわ」
「――ねぇ、ならあのコート私にくれない? お願い」
 霊夢の目が輝いている。うー、たまらない。時折覗かせるこの表情がたまらないのだ。危うくカリスマが剥がれ落ちそうになってしまう。ああ、こんな時にカリスマなんて無ければ、といつも思う。だが紅魔館の主でいる為にはカリスマは必要不可欠だ。500年以上生きている私でもこの気持ちの整理は出来ないでいる。難しいことはあるものね。
「いいわよ。じきに日も暮れてくるし、欠陥も見つかったしね。色々話もあるし、そろそろ飲みましょうか」
「わかったわ。それじゃこのコートは有り難く頂くわね。これ置いてくるついでにおつまみでも持ってくるわ」
 霊夢は小脇にコートを抱えると襖を開けて奥の部屋へと消えていった。
 それとほぼ同時に強い妖気が近づくのを感じた。この妖気の質は――アイツね。
「霊夢、喜んでたわ。あの笑顔があるからこそね」
「そうね。あの笑顔がいいのよね」
 部屋の片隅の空間が刃物で切り裂かれたかのようにパックリ割れた。開かれた空間から現れたのは大妖怪‘八雲 紫’だ。
「何の用かしら。スキマ妖怪? 私は貴女に用はないわよ」
「私も貴女に用は無いわよ。厳密に言うならばちょっと関係あるけど。ただ私は霊夢とお酒でも飲もうかと思っただけだもの」
「残念ね。私は先に霊夢と約束をしてしまったわ。貴女は邪魔だから、帰って狐にディナーでも作ってもらったらどうかしら」
「順番なんか関係ないわ。決めるのは霊夢でしょう。それにね、さっき言ったようにあながち貴女に関係無いわけでもないのよ」
「どういうことかしら?」
 紫は薄く笑うと、暗く陰ってきた空を見上げた。
「貴女の館のメイドが飛び回っていたわ。多分、貴女のことを探しているんでしょう。あの娘は勘が鋭そうだからじきに見つかってしまうでしょうね。そうなったら、貴女が困るんじゃない」
 しまった。咲夜のことを忘れてた。黙って出てきたから見つかったら絶対に連れ戻されてしまう。あの過保護な咲夜のことだ。見つかるまで徹底的に探すことだろう。
「霊夢を独り占めするつもりはないわ。貴女も一緒に私の屋敷に来ない? 三人で宴会でもしましょうか」
「……うー。そうするしかなさそうね。二人っきりじゃないのは悔やまれるけど、仕方ないわ」

「お待たせ、おつまみ持って来たわよ……って何でアンタがここにいるのよ、紫」
「お誘いに来たのよ、宴会のね。本当は貴女だけ誘うつもりだったけど、先客がいるんじゃねぇ。今回は特別にレミリアも招待することにしたわ」
「レミリア、アンタはいいの? 他人の指図を受けるなんてアンタらしくないじゃない」
「場合によるのよ」
 霊夢は一瞬、怪訝そうな顔をしたが、深く考えない様にしたのだろう、すぐにいつもの顔に戻った。
 紫がサッと右手で空を裂く様な動きをすると、瞬く間に空間が割れ、紫の境界が現れた。
「さっ、早く中に入りなさいな。5秒と掛からずに私の屋敷に着くわ」
初めまして、A帯と申します。
この話は長くなりそうなのでいくつかに分けようと思います。稚拙な文章ですが感想など頂けると幸いです。
後に続きもUPするつもり。少しでも期待してくれる方がいたらとても嬉しいです。
ご指摘ありがとうございます。微修正しました。
A帯
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コメント



0.240簡易評価
4.70名前が無い程度の能力削除
期待してますぜ。
6.100名前が無い程度の能力削除
続きを書くならやはり付け足していくのではなく、分けて書くべきかと。
7.60煉獄削除
続きが気になりますね。
期待しています。

脱字の報告です。
>冷房機能が付いてなかったが痛かったわね。
 ここの分で「付いてなかったが」とありますが、「の」が抜けていますよね。
 正確には「付いていなかったのが」になります。
以上、報告でした。(礼