Coolier - 新生・東方創想話

She was living!

2008/07/21 10:30:06
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※何時もの様に、オリキャラ出ます。そういうのが嫌いな人は要注意。






1.
ではみなさんは、そういうふうに人形だと云われたり、人間だと云われたりしていたこの人形がほんとうは何かご承知ですか。

このぼんやりと霧の掛かった人形を見ますと、もうたくさんの物語があるのです。

これらのわたくしのおはなしは、みんな無名の丘やら太陽の畑やらで、その人形からもらってきたのです。



では、わたくしはいくつかの小さなみだしをつけながらしずかにこの人形の事を書きつけましょう。


2.
昔々或る所に、動く人形が居りました。人形は、とある腹話術師に使われていました。

けれど、人形は棄てられて仕舞いました。古くなったから要らない、と言うのです。
人形は、泣きました。声を上げず、涙も流さず・・・。

暫くの間雨風に晒された人形は、自分を棄てた人間に恨みを抱く様になりました。

その恨みが通じたのか、人形は動ける様になりました。



ある時、1人の女の子がやって参りました。当然、人形は追っ払いました。

しかし、どれだけ追っ払ってもついてくるので、諦めて少し付き合ってやる事にしました。



「ねぇ、明日も遊んでくれる?」

「・・・何故?」

「駄目かしら・・・?」

「・・・明日、此処で待ってて。」

「――! ・・・えぇ、待ってるわ。」



それは、嘘でした。人形は彼女を鬱陶しいと思っていたので、二度と来なくさせる為にそう言ったのです。



そんな具合で散々一日を過ごした人形が、何の気無しに其処を通り掛かると・・・。



何と、彼女が待って居ました。・・・人形は慌てました。本当に待っているとは思わなかったからです。



そうこうしている内、彼女に気付かれたので、人形は文句を聞く覚悟で臨みました。



しかし、駆け寄ってきた彼女は、意外な科白を口にしました。



「――大丈夫!?」



「・・・え?」

「ずっと来なかったから、何か有ったんじゃないかと思ったの。」



人形には、彼女が何を言ったか、解りませんでした。・・・心配? 昨日会ったばかりの相手を?



「信じられない・・・嘘だとは、思わなかったの?」

「それなら、其れで良いわ。貴女には、もっと大事な事が有るという訳だから。」



人形は、衝撃を受けました。何故、其処まで馬鹿正直に信じられるのか・・・。



訳が分からなくて、呆れて物が言えなくて、感動さえ覚えて、約束を忘れた自分を恥じて・・・。



気が付くと、人形は泣いていました。涙は流せませんでしたが、確かに泣いていたのでした。



この日から、人形は彼女の友達になりました。


3.
この日は、雨がざあざあ降っていました。人形は、今日は来ないだろう、と苦笑いしました。



雨は、益々勢いを増していきます。人形は、いよいよ水に浸されていきます。



其処に、傘を差した誰かがやって来ました。何と、あの女の子でした。



「――何で来たの?」

「雨に濡れたら錆びると思って・・・。」

「馬鹿ね、その程度でどうにかなる訳無いじゃない。」



「・・・ねぇ、私の家に来ない? 貴女を、招きたいの。」

「――え?」

人形は、彼女の意図が解りませんでした。自分が行ったら、家族に何と言うのだろう・・・。

「あぁ其れは心配ないわ、私1人だもの。」



結局、人形は彼女の家に招かれました。



其処は大層見窄らしくて、暗い小さな家でした。

只の濁り水が『お茶』でした。鍋を洗ったお湯と、その洗い滓が『粥』でした。



――私はね、親に棄てられたの。



そう言うと、彼女は静かに語り出しました。



「私、こんな白い髪でしょう? 生まれ付き、こうだったのよ。・・・其れが嫌われたのね。

 生まれて直ぐの頃から、棄てろ棄てろって言われたらしいの。でも、お母様はそうしなかった。

 私に家事を教えてくれたのよ。私を許さなくて良いから幸せにって、この指輪もくれたの。

 棄てられる事にはなったけど、お母様は優しかった――其れが、嬉しかったわ・・・。」



そう言って、彼女は指輪を幸せそうに見つめました。きっと、昔を思い出したのでしょう。



「貴女『も』? ・・・私も、棄てられたのよ。よりによって、私を作った奴に。」

「そうなの? 何故?」

「解らない・・・古くなったからとか何とか、言ってたけど。」

「そう。――勿体無いわ、可愛いのに。」

「・・・そんな事言われたの、久し振りね。」



少々照れ臭そうではありましたが、中々どうして、満更でも無い様子でした。



それから、人形は屡々足を運ぶ様になりました。何でも無い事を話すだけでしたが、それでも幸せでした。



けれど、彼女は弱っていました。そして、その時がやってきました。



――彼女が、意識を失ったのです。其れは、人形が遊びに訪れた時の事でした。


4.
理由は、原因不明の熱病。・・・摂る物も摂れない生活環境に於いては、極当然の成り行きでした。



幸いにも、人形は薬の知識が有りました。けれど、必要な草が生えているのは「風見 幽香」の畑なのです。

考えただけで寒気がします。世間知らずな人形さえ、その恐ろしさは知っているのですから・・・。



悩みました。一度踏み込めば、無事で帰れるかどうか判らない。けれど、彼女の苦しむ顔は見たく無い。

――彼女の為だ、仕方が無い。そう考えた人形は、出掛ける事にしました。



「そう、此処の草が欲しいの・・・。事情は理解したわ。けれど、タダでは渡せないわね。」

今は、大して暑くない季節の筈です。なのに、じりじりと暑さを感じます。
人形の筈なのに、脂汗をかいている様に感じます。それ程、目の前の相手は威圧的でした。

「・・・どうすれば、良いの?」

「そうねぇ、こうしようかしら。」



「――全力で、戦って下さる?」

「へ?」

「偶には本気で戦わないと、体が鈍るのよね・・・。」

「・・・。」

「まぁ、それじゃあんまりに不利だから、或る程度持ちこたえたら解放してあげるわ。」



この妖怪と、全力で戦う。・・・人形には、其れが死刑宣告の様にさえ、感じられました。

片や動き出して間も無い自分、片や高い能力を持つ古参の妖怪。一方的に嬲られる様にしか思えません。

けれど、草を得る為には戦うしか無いのです。人形は、己がどうなるかを考えない事にしました。



果たして、その通りになりました。其れは勝負とは言えず、最早私刑でした。

人形は力が無いだけで無く、その力の使い方や戦術さえ良く解らないのです。勝負になる訳が有りません。

いっそ壊れて仕舞えば、どんなに楽か。でも、其れは許されません。彼女の為に、耐えるしか無いのです。

それで人形は、戦いの何たるかを必死に学び取りつつ、ひたすら生き延びました。

そして、人形は苦しみに耐えました。耐え抜きました。見事、草を勝ち取りました。



「あら、意外に頑丈ね。解ったわ、約束は約束。此を持って行きなさい。」

人形は嬉しさの余り、思わずお礼を言って畑を飛び出しました。

「やったよ・・・私、草を手に入れたよ・・・!」



「性悪ねぇ。其処までしなくとも、十分だったでしょうに。」

「手加減はしたわよ。というか、或る程度本気でないと、伝わらないでしょう?」

「う~ん・・・。」

「別に虐めたい訳じゃ無く、多少は強くなって欲しいの。あんな無防備な姿、見るに耐えないわ。」

(・・・彼処までやったら、その優しさが台無しだと思うんだけど。)

「? 何か言った?」

「いぃぇ何にも~。」


5.
彼女は、草から作った薬のおかげで助かりました。けれど、副作用か目が見えなくなりました。

人形は、泣きました。自分の未熟さだと。彼女はそれを見つめつつ、笑って許してくれました。



――其処から、人形の努力は始まりました。

「えっと、この蕗を少し千切って・・・。」
「うん、それでお湯に入れて茹でるの。」
「・・・大変だね。ずっと、1人でこんな事をやってたの?」
「そうだけど、今は貴女が居る。其れで良いわ。」

「はい右、はい左、はい其処で一寸曲がって。」
「厠一つ行くのがこんなに面倒だなんて、思わなかったわ・・・。」

「はい、ご苦労様。少し休んだら? 今の時間なら、夕焼けが綺麗だと思うわ。」
「そうする。夕飯の時間になったら起こして・・・。」

其れはもう、途轍もなく手間が掛かりました。人間を、殊に彼女を生かすのは難儀な事でした。
彼女は目がおぼつかないので、手を通して語り掛けなくてはなりませんでしたから。

けれど、彼女は其れさえ喜びました。話している頃と同じ位、良く解ると言うのです。



「手を通して、貴女の温もりが伝わって来るでしょう? それが、堪らなく嬉しいの。

 私が生きてると解るのは、風と、床と、柱と、――貴女の、お陰なのよ。」



人形は、笑いました。私に言う台詞じゃ無い、と。それでも、嬉しかった、と言って泣きました。


6.
そんな生活が続いた、ある日の事。二人は、静かに夜空を見上げていました。



「ねぇ、私達はずっと一緒かしら?」

「――そうね、ずっと一緒だと良いわね。」

「えぇそうね、ずっと一緒に居ましょう。」

「・・・。」



その次の朝、人形が起きてみると。



――彼女が、居ませんでした。只、何やら紙切れが有るだけでした。



最初、その事実が何を言わんとするのか、人形には解りませんでした。
けれど、注意深く見ていくに、其れは字である様でした。彼女は、何かを書き残していたのです。
人形は嫌な予感を感じつつ、ゆっくりとその手紙を読みました。



こんなわかれで、ごめんなさい。けれどわたしは、いかなければいけないわ。
しきがちかづいているから。あなたにそれを、みられたくないから。
あなたは、わたしにかまっていてはいけない。もっと、そとをしってほしい。
そういうねがいもあって、わたしはいきます。あなたのもとから、さっていきます。
ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい。けれど、わたしはあなたをあいしてた。
いままで、ほんとうにありがとう。ずっと、わすれないわ。しあわせに、いきてください。

あなたのそばにいたものより。



・・・彼女は、思っていました。人形は、何時までも自分と居てはいけない。

何故なら、自分は彼女の足手まといにしかなれないから。其れは、人形にとってマイナスになってしまう。

――なら、お荷物は消えるべきだろう。



そうして、彼女は居なくなったのです。人形の下から、去ったのです。



人形は、絶望しました。二度と人間なんか、信じる物か。・・・そう、心に誓いました。


7.
その頃・・・人形の下を離れた彼女は、力尽きて倒れていました。

別に、倒れる事自体は良かったのです。只、人形に見つかるのだけは、避けなければなりませんでした。



と其処に、1人の妖怪が通りかかりました。彼女は、名を「八雲 紫」と言いました。

妖怪は――彼女の事を人形絡みで知っていたのか――目に布切れを巻いた姿を見て、ピンと来た様です。

早速彼女を連れて、何を思ったのか何処かの家に赴きました・・・。



「はぁい、御機嫌よう~。」
「げ・・・何しに来たのよ。」
「実はね――人形を1つ、見繕ってくれないかしら?」
「・・・はい?」

「――という訳でね、この子を一寸人形にして、生き長らえさせようと思うのよ。」
「私、人形は作れるけど、魂なんて扱えないわよ?」
「あぁ、それは此方で何とか致しますわ。」

「この子は気の毒ね、あんたの気紛れに付き合わされるなんて。このまま死ぬ方がマシなんじゃない?」
「酷いわ。・・・まぁ普段なら、この程度放って置くわね。けれど今回は、一寸事情が違うのよ。」
「?」
「その辺は良いわ。――で、宛って下さるの?」
「はいはい、解りました。1つ適当なのをあげるから、とっとと出てって頂戴な。」



こうして、彼女は人形として生まれ変わりました。人形となった彼女に、妖怪は色々尋ねました。

どう暮らしていたのか、何故目に布切れを巻いていたのか、薬は効いたか、その後どうなったか・・・。

何故、そんな事を聞くの? 何故、私を助けてくれたの? 彼女が訊ねると、何処か寂しげにこう答えました。



「興味が有ったのよ。人間に捨てられ、人間を疎んじる人形が、何故か懐いた人間というのにね。

 貴女を助けたのは、貴女がまだ必要だから。でも、人間の体ではもう持たなかった。

 だから、人形の体を宛ったの。式神を取り付ける為にね。まぁ、式にするつもりは無いけれど。

 あの人形は、妖怪としては未だ未熟。其れを支える者が要る。・・・其れが、貴女なのよ。

 あの子は貴女を必要としている。其れが、離れ離れなんて寂しいわ。――お行きなさい。」


8.
あら貴女、人形なの? ・・・なら、こっちに来て遊ばない?



ねぇ貴女、どうして此処に来たの? え、捨てられたの? ・・・私も、捨てられたの。おんなじだね。



人間って酷いわね、どうにか見返せないかしら。



・・・そうだ、貴女私と『人形解放戦線』を打ち立てない?





こうして、人形と彼女は再び出会いました。結局人形は、最後まで正体に気付かない様でしたが。





その後の人形は、二度と人間を信じませんでした。それから先は、記録が無いので判りません・・・。


9.
それから暫くたったのです。彼女たちの暮らしははじめはなかなかうまく行かなかったのですが、
それでもどうにか面白く続けることができたのでした。努力して、毒を操る事が出来る様になったのです。
人形は空腹を感じませんから、物を食べなくともどうにかやっていける様でした。苦痛も又然りでした。

花が咲き乱れる異変やら、天狗の取材やら――実に、色々な事が有りました。

相も変わらず、人形は人間を憎む部分が有る様です。けれど、少しながら変わった様にも見受けられます。
閻魔様の説教が効いたのでしょうか。それとも、一遍に何やら押し寄せた物だから、整理に戸惑っているだけでしょうか。



何時か此の人形は、パートナーの正体を知るのでしょうか。知ったとして、どう決断するのでしょうか。

どうか其れが、双方に幸せな物である事を、願って止みません。このお話は、これだけです・・・。



恐らくは、私に見えない未来へ向けて――稗田 阿求、記す。


END
大分、間が空きました。第6作目です。
この物語は、傍らの人形はブレインで、元々人間だったのでは・・・という妄想の下に綴られています。
時間掛かった割に、完成度が比例していない気もします。結局紫頼みかよ、と言われるのかも。

最初は、アリスとロリスの物語みたいな物を書く予定だったのですが、どうも発展しきれず断念。
そっちはそっちで、又次の機会にでも書く事にします。諦めてはいません。

『幻想六歌撰』にて『君影草』を執筆された、うがつまつきさんと水中花火さんに感謝。
この物語が無ければ、恐らくこの発想は思い付かなかったと思います。

其れでは、こんな所まで読んで下さって、どうも有り難う御座いました。
seirei
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