Coolier - 新生・東方創想話

モリヤサマ

2008/07/21 03:44:01
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守矢神社の祭の日
灯りに満ちた境内に
人と太鼓と笛の声

神社にまします神様は
鳥居の上に腰掛けて
酒を片手に祭を眺める




 * * * *




カラン……カラン……カラン……
石畳の上を小さな下駄がさまよっている。
下駄の主は小学校に上がるかどうかといった歳の男の子である。
今夜はお祭りだ。いつもは少し怖くもある神社が、面白そうな屋台でいっぱいになって、
笛や太鼓の音が賑やかに囃し立てる。
しかし、男の子の胸は不安でいっぱいだった。

「おかあさん」
周りは知らない人ばかりで、男の子の声に答える者はいない。
親と一緒にいた時はあれほど楽しかったお祭りなのに、一人になったら心細くてたまらない。
屋台の光も雑踏も祭囃子も変わりはないが、まるで別世界である。
「おかあさん」
もう一度声を上げるが、結果は同じだった。
(どうしよう……)
歩き疲れた男の子は、膝を抱えて座り込んだ。



(下駄が汚れてる)
男の子は、下駄に土が付いている事に気が付いた。
今日、生まれて初めて下駄を履いた。
少し歩きにくいが、カラカラと音が鳴るのが楽しいので、男の子はさっそく下駄を気に入っていたのだ。
土を払おうと手を伸ばした時である。
「キミ、迷子?」
声の主の顔を見上げると、男の子はそのまま固まってしまった。
女の子が可愛かったからではない。
金髪が珍しかったからでもない。
「帽子に目が付いてる」
帽子の上部に目のような物が付いていたのだ。
「ああ、これ? 格好いいでしょ」
と、女の子が自慢げに帽子に手をやると、帽子の目玉がにゅるりと動いた。
「……お化け?」
「一応、神様なんだけどなあ」
女の子は一転して肩を落とした。

どん、どん、どん。
祭囃子が聞こえている。
「お姉ちゃん、誰?」
「私は洩矢諏訪子。『洩矢さま』って言ってわかるのかな?」
「モリヤサマ?」
「わからないか。まあ良いや。今日はお父さんとお母さんと来たの?」
男の子は頷いた。
「じゃあ、一緒に捜そうか」
諏訪子は男の子の手を取って歩き出した。



カラン、カラン、カラン。
男の子が歩く度に下駄が鳴る。
歩き方がおぼつかない事に諏訪子は気が付いた。
「もしかして、下駄を履いたの初めて?」
「うん」
「ま、慣れると普通に歩けるようになるよ。歩くとカラカラ鳴って楽しいでしょ」
「うん」
「あはは、あんまり楽しそうじゃないね。大丈夫、案内所に行けばお父さんお母さんに会えるよ―――」

諏訪子と男の子はしばらく歩きながら話をした。
その間、ずっと男の子は不安そうな顔で下を向いていた。

「……駄目だなあ、そんな顔してたら」
諏訪子は足を止めて男の子の方に振り返った。
「お祭りはね、楽しいものなんだよ。だから楽しまないと」
と、男の子の肩に手を乗せて続けた。
「特別に凄い物を見せてあげるわ。空を見て」
男の子は諏訪子に促されて上を見た。雲一つ無い星空に、白い光の帯がぼんやりと輝いている。
「この神社は、天の川がわりと綺麗に見えるのよ。でも、もっと綺麗になるよ。見てて」
諏訪子は得意げになって言った。


しばらくすると天の川に変化が現れた。
白い輝きが徐々に強くなってきた。それだけではない。天の川が波打つように動き始めた。
少しずつ、天の川の白い帯の動きが大きくなっていく。
男の子は口を開けて星空の異変を見つめている。
「さあ、これからよ」
諏訪子の声に合わせて、星という星が流れ始めた。
「うわっ! 流れ星!」
男の子は叫んだ。
大小様々な星が、次から次へと地に向かって流れ落ちる。
空の星はいずれ全て落ちて無くなってしまうのだろうか。いや、無くならない。
動きが激しくなるにつれ、天の川は『しぶき』を上げるようになっていたからだ。
天の川の『しぶき』が、新しい星々として輝き、流れ落ちる。今や間断なく上がり続ける『しぶき』が、
新たな星を次々と生み出しているので、星は決して無くなることなく流れ続けるのである。
「すごい! 星!」
幻想的でダイナミックな奇跡が起こっている間、男の子は興奮して言葉にならない言葉を出し続けた―――



 * * * *



境内は大混乱に陥っていた。
天に向かって叫ぶ人、立ちつくす人、逃げ出す人、写真を撮る人、何が起こったのか聞き回る人、
願い事を唱え続ける人―――
わずか数分の出来事とはいえ、星空が、何の前触れもなく、想像もできないような激動を見せたのだから当たり前である。
守矢神社の巫女でさえ、真っ青な顔で泣きそうになりながら頭を抱えている。
案内所に息子を捜しに来ていた父親と母親も、今は元通りになっている星空を、呆然と見つめていた。

「おかあさん」
どんっ、と勢いよく足に抱きついてきたのは、捜していた我が子だった。
「ああっ! あんた、どこに行ってたの!」
母親は、しゃがんで「大丈夫?」「怪我とかしてない?」などと声をかけた。
「星がドバーってね! 流れてね!」
息子は両手を振りながら、見てきた事を必死で伝えている。どうやら怪我の心配はなさそうである。

父親が近づいてきて、頭にポン、と手を乗せた。
「お前、よく一人でここまで来れたな」
「一人じゃないよ。モリヤサマが一緒に―――」
「ああああっ! やっぱり!」
巫女の少女が悲鳴を上げた。もはやへたり込んでしまっている。顔色も悪化しているようである。
巫女は息子に向かって聞いた。
「キミ、洩矢さまに会ったの?」
「うん」
息子の返事を聞くと、巫女は深いため息をついて黙り込んでしまった。
巫女には聞けそうにないので、父親は息子に聞いた。
「モリヤサマって誰?」
「帽子に目が付いててね、目が動くんだよ」
「な、なんだそりゃ。お化けか? ―――痛てっ!」
後頭部に石が飛んできた。振り返ったが、犯人らしき人は見あたらなかった。

「洩矢さまは当神社の神様です」
頭を抱えたままの巫女が絞り出すような声で答えた。
「さっきの星空の異変も、洩矢さまの仕業です」
この発言は爆弾だった。周りの人々の間にざわめきが走った。
巫女はすぐに失言に気づいて口をふさいだが、手遅れだった。大勢の人に問いつめられて揉みくちゃにされてしまった。
「か、神様?」
両親は、信じられないといった表情で息子を見つめた。
(この子は、本当に神様に会ったのかしら……)
「でね、モリヤサマは女の子で―――」
息子は無邪気にモリヤサマの事を説明していた。




 * * * *




夏の夜のお祭りで
天の川が降り注ぐ

守矢神社のモリヤサマ
少女の姿で迷子を守る




―――かくしてモリヤサマの伝承がひとつ生まれましたとさ。






(了)
はじめまして。morと申します。

神社のお祭りを楽しむ諏訪子です。
いや、神社のお祭りを楽しむ人々を楽しむ諏訪子です。
某替え歌の一節を聞いて頭に浮かんだ話です。


早苗「人が集まっている時に力を使うなんて! もの凄い騒ぎになってますよ!」
諏訪子「子供を楽しませるためなんだから仕方ないじゃない」
神奈子「あんな手で信仰を得るなんて卑怯よ!」
諏訪子「だから、私は信仰を得たくてやったんじゃないってば」
mor
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コメント



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4.80名前が無い程度の能力削除
あっはっはっ
神奈子様は俗だなあ
5.90名前が無い程度の能力削除
夏祭りの雰囲気が出ていて、すごく良かったです。流星群の描写も綺麗に感じ、幻想的でした。しかし男の子はすごい経験をしましたな。神様に手を繋いでもらえるなんて……羨ましい。私と位置を変わ(ry
7.80名前が無い程度の能力削除
よもやケロちゃんがお姉ちゃんと呼ばれる日が来るなんて思いもしなかった
どう見ても近所のがk…もとい可愛い妹って感じだからなぁ。
12.100名前が無い程度の能力削除
こういう雰囲気の話は大好きです
15.80名前が無い程度の能力削除
諏訪子かわいいよ諏訪子!
16.100名前が無い程度の能力削除
モリヤサマは良い神様だ。
なんてしっとりとくるお話。大好き。
17.90名前が無い程度の能力削除
ちょっと暑い夏の夜にぴったりでした。
26.100名前が無い程度の能力削除
でぃもーると良かった。
30.100名前が無い程度の能力削除
モリヤサマ!
36.100名前が無い程度の能力削除
ほんわかする