Coolier - 新生・東方創想話

縮まる距離

2008/07/17 02:39:14
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この作品を読む場合作品集56にある「2人のお茶会、そして。」をお読み頂いてからこちらをお読みください。
そうしないときっと意味が分かりません。
大体のストーリーが把握できている方はどうぞ


↓この先1年先↓














ある雨の日の昼間、雨の外を窓から見つつはぁ・・・とため息をつく。こんな雨だと人形を作る気にもなれないし、だからと言っても出かける気にもなれない。
 しとしとと雨が降り、周りの湿度を上げていく。いつしか気が付けば、自分はテーブルに伏して窓の外を見るだけだ。しかし出かけようと思っていないわけでもない。こんな雨の日に出かければきっと何が面白いことがある、そんな気がするのだ。それに出かけようと思えば神社に行けばいいし、里に行って子供たちに人形劇を見せるのもいい。だけど出かけられない理由があったのだ。
 そして突如聞こえてくるピー、と言う笛のような音。アリスはソレに気が付きそっと頭を上げ、席を立ちキッチンへと向かった。
 そして沸騰しているお湯の火を止めて、カップを2つ取り出す。カップは決して派手で無い、花の模様が刻まれており、さらにカップの持ち手の所には植物の蔦のような飾り。このような複雑な形に焼くには相当な技術が必要であろうことが予測できる。アリスは埃が入らないように伏せてあったカップを元に戻し、コンロの横へとそっと置く。そしてティーポットへと紅茶の葉を入れ、そこへそっとお湯を入れる。勿論だがティーポットは前もって暖めておいた。そしてヤカンからそっとお湯を注ぐと、すぐさまお湯から湯気が上がりアリスの周りに湿度をさらに上げる。
 紅茶を入れるときにコツは「どれだけ温度差を無くすか」が基本となる。冷たい容器にダイレクトに紅茶を注いでしまうとそれだけで温度が下がり味を損ねてしまうのだ。それを防ぐために紅茶を入れる前、ティーポットやカップに熱湯を注ぎ温度を上げておくのだ。そうすれば殆ど温度差が無くなりそのままの風味で紅茶を楽しむことが可能になる。そして紅茶の葉に湯を注いだ時、葉をお湯につけておく時間もまた、重要である。一般的に時間は3分程度、といわれているがそれはかなり曖昧で、難しい。長すぎると紅茶の主成分であるタンニンが出すぎてしまうし、逆に短すぎても今度は薄味になってしまいこれまた美味しくない。本来、葉の種類で長さが微妙に変わってくるのでしっかりと研究しないといけないのだが、それはまた今度と言うことにする。
 アリスはそれはもう手馴れているようでしっかり時間を把握しきっている。ちょうどいい所で葉を取り出しカップへと注いだ。
 紅茶は一度、温度が下がってしまうだけで味が落ちてしまう。だからといってずっと同じ温度で保っても味が落ちてしまうのだ。そこらへんの一般人ならばそんなこと区別できないだろうが、アリスは別だ。もう何十年も飲んできたしそれなりに紅茶には愛着を持っているからだ。
 ティーポットからそっとお湯で温めたカップへと注ぐと瞬時に回りに紅茶のいい香りが当たり一面を包んだ。アリスはその香りをまずは楽しむことにする。そしてもう一つのカップは伏せたままで紅茶を注ごうとはしなかった。
 自分だけのカップを持ちそっとリビングへと戻る。そして椅子を引き、腰を下ろして紅茶を口へと含んだ。
 紅茶とはずいぶんわがままでじゃじゃ馬な飲み物だと思う。だってそうであろう?しっかり、ちゃんとした手順で入れなければ本来の味を出すことは出来ないし、葉になるまでに大変な手順を踏まなければならない。さらにその本来の味を楽しむには入れた直後でならなければならない、と来たもんだ。でもその扱いにくい紅茶だからこその美味しさがあり、それがなかなか紅茶を止められない魔力なのだな、とアリスは思う。
 そしてその紅茶の魔力に捕らえられてしまった自分。勿論それは自分だけではない。赤い館の悪魔にその従者に図書館にこもっている魔女もその魔力に魅入られた1人だと言っていいだろう。
 

コンコン

 ほら、ここにも紅茶の魔力に魅入られた人がまた1人。
 アリスは立ち上がると、玄関のほうへと足を進める。そして鍵を開けるとその扉をゆっくりと開いた。
 
「いらっしゃい」
「お邪魔します」

 玄関の木の扉を開けた先に見えた姿は、"美しき緋の衣"こと永江 衣玖であった。
 アリスは衣玖の頭から足を見て、
 
「なんにしてんのよ・・・」
 
 と、一言漏らした。外は雨だというのに傘を差しておらずびしょびしょで、衣服が肌に張り付いてしまっていた。なんとも気持ち悪そうである。
 まず家の中へと招きいれると、衣玖に服を脱ぐように指示し、アリスはその間バスローブを貸しておく。バスローブのまま、衣玖は椅子へと座り、アリスはその後ろへと回り込み水でびしょびしょになった衣玖の青い髪の毛をそっとタオルで拭く。青い髪の毛、なんてそう見ないが、銀髪や赤髪もいるのだからそんなのはどうでもいい。衣玖は抵抗せずアリスに髪の毛を拭いてもらう。目はぎゅっと瞑ったままで何処かの子供がお母さんに髪の毛を拭いてもらうような光景だ。服はハンガーにかけて、熱を発生する魔法をかけて壁にかけた。こうすればより早く乾くことであろう。

「くしゅん」

 衣玖がとてもかわいらしいくしゃみをする。

「風邪引いたのかしら?」
「いぇ、きっと誰かが噂をしたのでしょう」

 衣玖が何故、アリスの家を訪れたか、というとそれは2週間前にさかのぼる。衣玖は異変時に理由も知らず、天界へ行こうとした人を攻撃してしまった。その理由は天子が暇潰しに起こした異変であり、それを解決しようと乗り出した人物が居るのだ。アリスはその一人であり、天界の前にて衣玖と対峙した。そしてアリスは衣玖を打ち倒し、天子へと挑戦を挑んでいった。
 そしてその理由も知らずに衣玖は攻撃をしてしまった。その謝罪をするためにあちこち飛び回っていたのだが、最後のアリスの家にてお茶会をしたのだ。その時、アリスは衣玖が今までずっと一人であることを理解した。それ以来、2人の仲は急接近し、こうやって週に2~3回遊びに来ているのだ。
 アリスは遊びに来るたびに紅茶を出してくれて、自分の話を聞いてくれるし、新しいことを教えてくれる。そんなアリスに衣玖は明らかな好意を抱いているのだが、それをまだ衣玖は好意と理解できていない。これは鈍感、とあらわすべきなのかが微妙なところである。
 アリスは立ち上がって、キッチンへと向かった。
 
「まぁ風邪を引くのも嫌だし、ちょっと待っててね。今あったかい紅茶を出すわ」
「お手数をおかけします」

 しばらくしてキッチンからは紅茶の香りが漂い、非常にいい香りだ。そこにアリスが手に紅茶とクッキーを持って戻ってきた。どうぞ、と声を出しティーカップを衣玖の前へとそっと置く。部屋にはまったく音が無く、あるものといえばコトコトと沸いているお湯の音と、そとでしとしとと降る雨の音のみである。衣玖はそっと紅茶のカップに手を回し、そっと口をカップにつけた。そして広がる滑らかな紅茶の味。それを一滴一滴、一口ごとに味わうかのように、ゆっくりと時間をかけて、口へと運んだ。
 雨がシトシトと降り注ぐ中2人は紅茶を飲みながら窓の外を見た。シトシトと雨が降り今アリスの家の外は湿気が最高だ。もしアリスの換気の魔法と水分調節の魔法が無ければあちらこちらで結露、カビが生えることであろう。それをアリスは魔法で調節し、人形の保存状態を最高に保とうとしているのだ。
 しかし・・・今はやる事が無い。衣玖というお客様が来ている時点で人形作りと自立人形の研究は出来ない。と、言うことはやる事が無いそれはつまり。

「暇・・・ねぇ」
「そうですね」

 適当に会話してもすぐに途切れてしまうこの時間。だけどこの時間は衣玖は大好きであった。いやこの場合、自分を理解してくれた人と一緒に居る時間が好きであった、と言うべきなのだろうか。1時間ぐらいずっとぼーっとしていたが衣玖の服が乾いたようなので衣玖はそっと服に手を通す。その服は何時もどおりの着心地で微塵も湿っていなかった。一歩外へと出ればジメジメだというのに魔法とは相変わらず不思議である。そして不意にアリスが口を開いた。

「ねぇ」
「何でしょう?」
「散歩・・・行きましょうか」
「・・・はい!」

 衣玖はこの申し入れを快く受け入れた。別に外へ出てぬれるのが嫌ではない。むしろいいくらいだ。今まで雨なんて殆ど体験してないし、なによりその冷たさが新鮮だったりする。
 アリスは衣玖に白い傘を貸し出した。さすがに傘も無しで雨の中を歩かせるのは気が引けるであろう。アリスは家の火の回りを確認し、魔法でドアにロックを掛けて、灰色の傘を差した。もうすでに衣玖は外に出ており傘を広げていた。

「さ、行きましょう」
「目的地は?」
「そんなもの無いわ」
「は・・・?」

 散歩とはあちらこちらを散策しながら歩く、と言う意味である。もしも目的地があるのならばそれは散歩ではなくなってしまうのかもしれない。それをアリスは理解していた。
 アリスはゆっくりと行きましょう、と言い歩き出す。その姿を見て衣玖もアリスの後を追った。
 ぬかるんだ地面の森を2つ傘はゆっくりと歩み始め足跡を残す。そしてその足跡はあっという間に雨により消えていく。衣玖はその新しい感覚に少し不思議さを覚えた。それと同時に楽しんでいたりするのだ。
 衣玖は借りた白い傘をくるくると回して楽しんでいた。それは傘を差した子供がやるようなしぐさであり、誰もが一度必ずやったことがある行動だ。アリスはその衣玖を見て、決して衣玖に見られないように口元を緩めた。しかし残念なことに衣玖はその顔が見えていたりするのだ。傘で鼻から上は見ることは出来ないが口元が笑っていたのはしっかりと認識できていた。
 本来なら恥ずかしがる事なのかもしれないが、衣玖にとってはそんなのはどうでもよかった。2人とも空はどんよりしていて曇っているが心の中は快晴という感じであろうか。

「あ、アリスさんあのお花・・・なんですか?」
「ああ、これは紫陽花よ」
「アジ・・・サイ?」

 アジサイとは6月、梅雨の風物詩であり雨がよく似合う花であり幻想郷の至る所に見ることが出来るごくごく普通の花。色は紫や青、ピンクなど多種多様である。

「花言葉は、強い愛情、一家団欒。ま、家族が居ない私には無縁の花ね。愛情を・・・注ぐ人なんて誰も居ないのよ」
「そんなこと無いです!」

 衣玖はすぐに反論した。しかし・・・。

「ふふ、事実よ。それとも貴女が家族にでもなってくれるのかしら?」
「うっ・・・」

 衣玖は詰まってしまう。家族になると言うことはコレ以上ないくらい親密な関係になると言うこと。まだ出会ってから2週間も経っていない今の状況ではとてもじゃないけれど無理。衣玖はアリスに目を合わせることが出来なかった。

「なーんてね、冗談よ。ほら行きましょう」
「ひ、酷いです・・・」
「あはは、ごめんごめん」

 アリスは微笑みながらアジサイの前から立ち去る。それに続くように衣玖も続く。
 さっき冗談、と言った事でも少し事実だったりする。家族は魔界神の母親一人。父親は知らない。そして神様となれば私なんかにかまっている暇なんてないし、唯一私に接してくれた魔理沙も最近顔を見せていない。きっと紅魔館の魔女のほうへ行っているのだろう。
 衣玖からはその背中が透けて見えるような気がした。いつかは居なくなってしまうような存在。悲しみに押しつぶされて消えてしまう存在。そんな気がしてならなかった。

「ほら、置いていくわよ」
「あ、はい!」

 ふと気が付けば自分が脚を止めていることに気が付く。すぐにアリスへと追いつき横へと並ぶ。雨がしとしとと降中2人は目的地も無く歩き続ける。通る所では白い花に雫が落ちて綺麗に輝いていたり、初めて見るカタツムリ、その容姿に少し気持ち悪い、何て思ったりしたので触ることは出来なかった。
 そして1時間ぐらい歩いたとき、ふとアリスは大きな木下へと向かう。その木下はさっきから雨が降っているというのに全く濡れておらず、むしろ乾いていた。アリスはその木の幹に手を降れそっとその木の鼓動を手で感じる。

「・・・ココに来たのは久しぶりだわ」
「来た事あるんですか?」
「・・・ええ。ここは私に初めて友達が出来た場所だもの」

 その木下にアリスはそっと座り込み衣玖に手招きをする。傘をたたみ衣玖もアリスの隣へと腰を下ろして少し気が付くことがある。木に寄りかかっていたのだが、背中に少し熱を感じたのだ。後ろにあるのは木のみ。つまりは木が温かいのだ。

「この木・・・?」
「気が付いた?これね、私とある人と初めて一緒に使った魔法なのよ」
「不思議ですね。そしてまたなんでこんな魔法を?」
「・・・フフ、秘密よ」
「教えてくださいよ・・・」
「大丈夫、きっと貴女にも理解できる日がくるわ」
「むぅ・・・」

 衣玖はほっぺたを膨らませてアリスを見る。そのかわいさと言ったら悩殺ものだ。こんな顔を見れるならやはり、いじめたくなってしまうのが人の性。しかしアリスはそんな事を決してしようとはしないのだ。たまに見るから価値があるわけで、そんなに無理やり出しても何の意味も無い事を知っていたから。
 気が付けばもう30分ぐらいこの木下に2人は座っていた。肩を並べてずっと雨の降るさまを見続ける。そしてアリスがふと肩に重みを感じる。そのほうを見てみれば衣玖がアリスの肩に寄り添って眠りに落ちていた。アリスは別に嫌ではなかったし、なにより起こすのも気が引けたのでそっと肩を衣玖に貸した。スースーと寝息を立てて寝る様は本当にただの子供であった。外は雨だと言うのに自分の周りはあったかい。なんとも不思議だし肩で寝ている衣玖も温かかった。アリスは思う。こんな時間がいつまでも、ずっと続けばいいのになぁ、と。
 アリスは衣玖のほっぺたを突っついて少し悪戯してみる。そうしたら

「ん・・・や、止めてください・・・」

 少なからず夢に影響が出ているようである。このまま影響を出し続けるのも悪いと思ったので突っついていた手をそっと離す。しかしアリスが手を離した瞬間衣玖は何故か目から涙をこぼした。

「待って・・・私を置いていかないで・・・」

 アリスは何の夢を見ているのか気になったが、他人の事情は深く追求するものではない。でも肩で泣かれているといい気持ちもしないのでそっと衣玖の手を握り、耳のすぐ近くで、こうつぶやいた。

「大丈夫、私はココに居るわ」

 その言葉を聞いた瞬間衣玖は一瞬だが衣玖は笑った気がしたのだ。アリスは見間違いではない、と確信していた。そしてアリスは少し肩が疲れてきたのでそっと体を抑え、膝に衣玖の頭をそっと置き、帽子を取ってあげ、そっと横へと置く。それでも衣玖の左手はアリスの右手をはなそうとせず、ぎゅっとアリスの手を強く握っていた。
 そしてその愛らしい寝顔を見ていたらアリスも睡魔が襲ってくる。アリスも衣玖同様眠りに入るのはすでに時間の問題であった。
 そしてやはり気が付けばアリスもすでに寝ていた。その2人の寝顔といったらもうなんと表していいのか分からないほど美しく、とても幸せそうな寝顔だった。











「・リスさん!アリスさん!!」
「ん・・・?」

 段々と明確になってくる意識。そして目の前で必死に起こしてくれている衣玖。アリスは自分も寝てしまったった事に気が付く。

「気が付いたら寝ちゃってたみたいね・・・」
「はい・・・あのすみません。いつの間にかご迷惑を・・・」
「いいって、別に」

 きっと起きたらアリスに膝枕されていた事だろう。そして勝手に手を握って居た事。それらに対して謝罪をしているのだろう。雨はまだしとしとと降り続いており、地面をぬらす。
 衣玖はその雨の様子を見てそっとアリスに話しかけた。

「不思議・・・な夢を見ました」

 衣玖はそっと目をつぶりその夢の内容を話し始めた。
 
 
 自分が何も居ないところで、ただ一人立ち尽くしている。周りには何も無く、ただ本当に一人。そしてその一人寂しさゆえ、夢の中で一人で泣いていた。何時もだったらこんな夢、ぜんぜん平気なのに、今回は何故か涙をこらえることが出来ずにいた。
 そしてしばらくたったころ、突然、後ろから手を捕まれた。驚いて振り向こうとしたのだけれど何故か体が言うことを聞かず振り向くことができなかった。でもその手の温かさはどこか、懐かしいような、そして知っているような温かさだった。そして不意にその手が離れていきそうになったとき、自分はいつの間にか「行かないで・・・」と呟いた。
 その言葉を受け入れたのか再び手をぎゅっと握ってくれてふと、頭の中にこんな言葉が浮かんだ。

「大丈夫よ、私はここにいるから・・・」

「・・・って言う不思議な夢だったんです」

 衣玖はうーんと頭をかしげていたが、アリスはその話を聞いてそっと笑みを浮かべた。

「そう」
「なんだったんでしょうか?」
「さぁ・・・」
「むー・・・。無愛想ですね」
「あなたの夢はあなたの物よ。私が言うべき事は何も無いのよ」

 アリスはその夢の意味を知っていたし、理解もしていた。だけれどあえて言わないのだ。ここで言ってしまえば自分で気が付く事が出来ずに終わってしまうし、それになにより他人に夢の事を言われれば不愉快であろう。また、アリスはなぜその夢の内容の意味を知っていたのか、と言う疑問が浮かんでくるがそれを察するのは大して難しいことではないと思うのでここで省略させていただくことにする。

「さ、そろそろ帰りましょうか」
「はい」

 2人は来た道とは別の道を歩いた。いまだにしとしとと降る雨の中、雨の香りと緑の香りを楽しみながら森を歩いた。そして10分ぐらい歩いたところ、不意に視界が開ける。2人は傘を差したままであったが、すでに雨が上がっていることに気が付くのが少し遅れる事になる。そしてその開けた場所にはさらさらと湧き出る水に小さな小川、そして大量に咲く紫陽花があった。何度も言うがすでに長い雨は上がっており太陽が笑顔を覗かせていた。それも雲の切れ間から光が差し込む、いわゆる天使の階段というものなのだろうか?が幻想郷のいたるところに降り注いでいた。勿論今アリスたちが居る場所にも降り注いでおり、紫陽花の花にある雨のしずくが美しく輝いていた。
 アリスは綺麗だ、と感想も漏らさず紫陽花の花の中を歩く。衣玖はその姿を見て思ったが、まるで絵だ。そして、衣玖をアリスが手招きして、衣玖もその絵の中に加わった。2人で歩く紫陽花園。それはまるで動く魔法の写真のような、幻想で素晴らしい場所であった。
 衣玖は小川の中を覗き込み、魚が居ることに気が付く。これは所謂メダカなのだが、ソレを見るの初めてのようだ。なのでアリスは名前だけ、教えてあげた。名前しか教えなかった意味を理解できるだろうか?




 2人はその後、ゆっくりと家へと帰宅し、疲れたのか、ソファーに深く腰を下ろした。そして紅茶を人形たちが差し出し再びお茶会がスタートした。
 今日散歩で知ったことや、どうでもいい話で盛り上がったが、気が付けばこんな時間。

「アリスさん、今日はありがとうございました」
「いいってば。いつでも来てね」

 衣玖はソファーから立ち上がり玄関へと向かった。気が付けばもう夕方。大分話し込んでいたようでそろそろお邪魔する時間帯だ。
 アリスにさようなら、と元気よく行って、衣玖はその場を去った。





少女飛行中...




 時に妖怪の山の一歩手前。衣玖は少し地上に降りて夕焼けを眺めていた。そこは少し小高い丘になっているため巨大な夕日を見ることが出来る。その夕日は蒸発する水分のせいか少し揺らいで見えた。

「こんばんわ」
「うわぁ!?」

 突然地面から生首が生えるものだから困る。そしてそれは唯一謝罪に行くことが出来なかった人物。

「こんな所で何しているのかしら?」
「いえ、それよりあの異変の時はすみませんでした。謝罪が遅れてしまって申し訳ありません」
「それはもういいから。それより最近人形遣いと仲良くやっているみたいね?」

 本当に何処までも八雲 紫は不思議な妖怪である。一体何処で見られていたのだろうか、と衣玖は思う。ソレと同時に衣玖は紫が苦手であった。あの思考の読めない笑みにふざけた力量、妖力の持ち主に飛びっきりの美貌の持ち主と来た。そして住む家はマヨヒガ。そして迷い家とも言われる家に住んでおり、実の所、霊夢すら場所が上手く理解できていない。今のところ1人でいけるのは冥界の姫、西行寺 幽々子と、その従者魂魄 妖夢のみだと思われる。一応霊夢もいけるのがたどり着くのは持ち栄えの素晴らしい勘を使ってたどり着くことが出来る。後は殆どの人妖はたどり着くことは出来ない。行くならば向こうから招待してもらい、紫本人にスキマを開いてもらうか、その従者八雲藍、または橙に迎えに来させないとアウトであろう。

「はい。アリスさんは私のことを理解してくれて・・・」
「やっぱりあの人形遣いはそういうことに関しては、凄い理解の持ち主ね。いい?理解してもらうことはいい事。でもね、それは一方的ではだめなのよ。相手が理解してくれたならこっちも相手を理解しなくてはならない。分かる?私的にはあの人形遣い、嫌いじゃないわ。だからあなたにアドバイスをあげる。そうね、他人がしてくれたなら、あなたも同じ事を、またはそれ以上のことをしてあげなさい。そうすればきっと喜ぶ」

 この事を聞いて、衣玖は今までの自分の姿が頭の中へと浮かぶ。今までアリスは自分のことをよく理解してくれたし、やさしく接してくれた。それに比べて自分はどうであろうか?アリスのことをただ、一つの目標としか見ておらず、まったく理解しようとしなかったのではないか?
 一番最初、アリスとお茶会をした時もそうだ。一方的に怒鳴りつけてしまったし、自分を理解してくれる人なんて居ない、なんて自分勝手に決めつけてしまった。でも事実上、アリスは自分のことをちゃんと理解してくれた。でも、自分はどうだ?今見直してみればアリスのことを理解しようとはしなかった。いや、出来なかった。怖くて。もし自分より、厳しい状況に置かれていたらどうする?それはつまり何もいえなくなってしまい、「それがどうしたの?」と言われてしまえば、それで終わり、と言う恐怖であった。

「思い当たる節があるのでしょう?」
「はい」

 紫は衣玖の足元にある花を見て、衣玖に質問をした。
 
「ねぇ・・・この花、なんていうか知ってる?」
「・・・知りません」
「この花は雪ノ下。そっと冷たい雪ノ下でも力強く生きて、春になると花を咲かせる。花言葉は――――




 紫と分かれてから30分後。
 衣玖は全速力で妖怪の山を飛びまわっていた。泥だらけになり、あちらこちらをまるで何かを探すかのように飛び回る。いくら探しても出てこない、見つけられない物を探して。
 そしてあたりが真っ暗になり、殆ど何も見えなくなった時、ふと岩陰に目をやる。そこには白い2つの花びらを持った、お目当ての花。
 衣玖は花にそっと「ごめんなさい」、と謝罪をし、その花を一輪だけそっと摘み取った。そしてその花を持ち、アリスの家へと飛ぶ。その時途中でスキマが開いていることに衣玖は気が付くよしも無かった。



コンコン。

「どなたー?」
「衣玖です」

 アリスは扉をがちゃり、と開けるがその先に居た衣玖の姿に我が目を疑った。服のあちらこちらに泥がついていたり擦り切れていたり。それはもう酷いとしか言いようが無い状態だ。

「まったく、何してたの?」
「あの、すみませんでした!」

 アリスは即座に頭に?を浮かべた。別に衣玖は悪いことをしていないし謝られるような事もされていない。アリスはますます混乱した。そして衣玖は右手に大切に持っていたものをアリスに差し出す。

「あの、これ・・・受け取ってもらえますか?」

 そういうと、さっき山で見つけた花を取り出した。しかし花は急いで飛んできたためか、ずっと手に握っていたためかしおれてしまっていた。なんとも元気が無く、弱弱しい花だ。

「あ・・・。す、すみません・・・急いで持ってきたつもりだったのですが・・・」
「衣玖、あなたまさかコレを私に届けるためにそんな格好に・・・・?」
「は、はい・・・。とある方に少し教えていただいたので」

 とりあえずアリスは家へと衣玖を上げ風呂に入るように命じる。その間アリスは衣玖の服を魔法で修復していた。衣玖にはバスローブを貸して、服の代用とした。そして衣玖が風呂から出てきてアリスに語りかける。

「あの、すみません・・・またご迷惑を・・・」
「いいのよ、それよりあのお花どうしたのかしら?」
「あの、その・・・」

 あまりにもあたふたしているので今話すのは無理、と判断したかとりあえずお茶を入れる。湯上りなので冷たい麦茶だ。
 そしてキョロキョロとあたりを見回す衣玖。どうやら何かを探しているようであるが。
 
「あの、お花どうなりましたか?まさか・・・捨てちゃった、とか?」
「馬鹿ね、貴女がそんな格好になりながら取ってきたものをそう簡単に捨てないわよ。ほら、あそこ。簡単な魔法をかけておいたわ。明日の朝にはきっと変化が見られるはずよ」

 指差した先には花瓶に水が入れられ、衣玖が持ってきた花が活けられていた。花はまだ頭を下げており元気がなさそうだ。そして時計を見るとアリスは立ち上がり、キッチンへと向かう。もう夕食の時間だし、お客様もいるのだ。そして窓の外を見るとすでに完全に沈んだ太陽。今から帰るのは危険と判断するか、アリスが台所から衣玖へと語りかけた。

「もう夜遅いわ、今日は泊まって行きなさい」

 キッチンで料理を始めようとした時、不意に後ろに気配を感じた。この家の中でいる者といえば、アリスと衣玖のみ、となる。そして自分以外なら衣玖しかいないだろう。アリスは振り向こうとしたがそれより早く首に手を回され後ろから抱きつかれた。衣玖とアリスの身長差は殆ど無い。アリスは更に混乱した。

「衣玖・・・?どうしたの?怖いことでもあった?」
「いえ、少し、この状態で居させてください」

 アリスもその衣玖の手をそっと握る。アリスも料理する手を止め、衣玖の鼓動をしっかりと感じていた。心臓がドクドク動いているのがアリスには強く伝わっている。
 
「私、やっと分かった気がします。ただ、一方的に分かってもらうだけじゃ、駄目なんだって」
「・・・」
「アリスさん、あの時言いましたよね?愛を注ぐ相手は誰も居ない・・・って」
「・・・ええ」
「・・・その相手は私じゃ、駄目ですか?」

 アリスは衣玖の殆ど告白、とも思える発言に驚愕した。
 
「アリスさん、今日いったん帰りましたよね?私。その帰り道、紫さんに会ったんです。その時紫さんは私にアドバイスをくださいました。色々教えていただきました。そして、もっとも私に伝えたかった事は、同じ、または似たような過去を持っているならその辛さをよく理解できるはず、ってことだと思うんです。でも私はどうでしょうか。ただアリスさんを凄い、としか見ていなくて・・・。アリスさんだって寂しいという苦痛を味わったことがあるのに、自分はただ甘えるだけで・・・。私は気が付きました。このままじゃ駄目なんだ、って。」

 アリスは衣玖の話をただ聞くだけだ。衣玖の視線からではアリスの表情を伺うことが出来ない。

「だから、私、もっとアリスさんのことよく知りたいです」

 二人は何分間こうやって抱き合っているのだろうか。
 昼間の雲はどこへ行ったことやら、もう雲は無く、ただただ月明かりが地面を照らす。そして明るかった室内が不意に暗くなった。アリスは確認しようも後ろから抱き疲れているので確認することは出来ない。そして暗くなり、窓から降り注ぐ月明かりに照らされて2人はただ、ひたすらお互いの熱を感じあった。

「・・・今、答えを聞かなくてもいいです。その代わり、私をアリスさんの隣に、置かせてください」

 アリスは何も言わなかった。衣玖からはその顔が確認することが出来ず、怒っているのか、嫌な顔をしているのか、泣き出しそうな顔をしているのか分からなかったが、次の瞬間、ありがとう、と口ずさんだ。衣玖にはきっと聞こえていたのだろうが衣玖も何も言わずアリスの熱を感じ取った。

「衣玖、少し夜の散歩にまた行かない?」
「・・・」

 コク、と声で返事をせず頷いた。そして衣玖は抱きついていたが、アリスを開放しリビングへと戻る。服は泥だらけだったのでアリスが前に使ってくれた魔法で綺麗にし、再び袖を通す。
 そしてアリスはバスケットを持ち、外へと出る。そして扉に鍵をかけ2人は飛び上がった。アリスと衣玖、2人で空を飛ぶの初めてだ。2人はどんどんスピードを上げる。今度はどうやら目的地があるようだ。そしてしばらく飛んでいると小さな丘が見えた。そこには何も無く、ただ小さな草と大きめの岩があるだけだ。2人はそこに降り立つ。

「あの、ここに何かあるんですか?」
「いいから。そろそろよ」

 アリスに手招きをされて岩の上へと腰を下ろす。そして次の瞬間、夜空に赤くて、巨大な花が映し出された。その花は1つではなく次から次へと打ち上げられ巨大な花びらを見せ、そして散る。

「綺麗・・・」

 衣玖は勝手にその言葉を呟いていた。
 2人は岩の上でその散る火の花を見ながらそっと肩を寄せ合った。

「衣玖、ありがとう」
「・・・こちらこそ」

 2人はその季節はずれの花火大会が終わるまでずっと肩を寄せ合っていた。お互いの体の熱を感じながら。






後日、衣玖が持ってきた花はまるで命を吹き込んだかのように優雅に咲き誇り、その隣にアリスの一番よく使う人形、上海人形が置かれていた。そしてその上海人形の隣には衣玖によく似た人形が置かれていたそうな。
「なぁなぁ霊夢。最近衣玖とアリスがやたら仲がいいんだ」
「へぇ?」
「まったく、私が・・・」ブツブツ
「くすっ」


どうも大天使です。また妄想に駆られてやってしまったorz
今回は特にいうことは無し、と言うことにしておきます。
誤字、多そうだなぁ(´д`;)
確認は、したんですけどねorz
ちなみに雪ノ下と言う花の花言葉は「切実な愛情」らしいです
大天使
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コメント



0.580簡易評価
10.30名前が無い程度の能力削除
> カップは決して派手ではい花の模様が

誤字? 脱字?

雰囲気等、決して悪くはないのですけど・・・。
これでもかとばかりに強調された衣玖の「世間知らず」「もの知らず」の描写に対して、
終始激しい違和感がありました。
緋想天をプレイした限りでは、彼女がここまで幼く無知であるとは思えないのですが。
それと、ラストの「季節はずれの花火大会」は誰が何の目的で開催していたので
しょうか?
11.無評価大天使削除
おっと、誤字失礼
うーん私の中の衣玖さんは幻想郷のことなどを殆ど知らない、そして地上に降りてくることが少ないから結構知らないこと多いと思うんですよね。でもさすがにコレは行きすぎかな?^^;
ラストの花火大会は殆どノリみたいなもんなんで、雰囲気を出すため、と見てください。
ちなみに設定では里の人たちがなんらかのお祭りと言うことで上げた、ということにしたつもりです、
一応七夕過ぎてますしねー(遅
14.100名前が無い程度の能力削除
綺麗な話で感動しました。伊玖さんが可愛すぎるw
人を理解するには相当の覚悟と、場合によっては多くの損失を被ってしまうことがあります。
その恐怖を乗り越え、互いに理解し合えるようになったこの二人はまさに理想の関係でしょう。
世間知らずという描写に関しては私はこういう解釈もアリだと思いますし、違和感なく読めました。
次回作も期待してます。
15.100名前が無い程度の能力削除
前回に引き続き( ;∀;)イイハナシダナ-
ゆかりんGJと言わざるを得ない!
二人には切実ながらも幸福な愛でお互い支え合っていってほしいですね。
どちらも何となく薄幸な雰囲気が漂っているので特にそう思います。
17.10名前が無い程度の能力削除
原作主義というわけじゃないけど違和感があって楽しめませんでした。