Coolier - 新生・東方創想話

星空と少女

2008/07/08 23:19:18
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現在時刻は十一時四十七分。
なお、この時刻はマエリベリー・ハーンの時計によるものである。


新京都は夏の入りでありながら、連日三十度を越す猛暑が続く。
道往く人は皆虚ろな表情で、汗の珠を額から流している。
そんな新京都を走る碁盤目の通りの一つ。
茶道具、甘味処などを扱う店が集まった通り。

「こんな暑い中に学校まで行って、休講だなんてついてないわ」
「早めの昼食がとれてよかったじゃない。この店のランチセットすぐ品切れになっちゃうんだから」

和の店が立ち並ぶ通りの端にある、昔懐かしいレンガ造りの喫茶店。
カウンターではマスターが珈琲の豆を挽き、二十世紀のジャズが流れている
宇佐美蓮子とマエリベリー・ハーンは、その喫茶店の中で外の暑さから逃避していた。
雰囲気・メニュー・客層のどれを取っても、この通りの中では異質。
そんな店が、なぜこの通りにあるのだろうか。

「メニュー縦読みで隠しメニューなんて誰が気づくのよ」
「蓮子はよく気づいたわね。あんみつ、ぜんざい……あと何かあったかしら」

マスターの遊び心なのか、メニューの中に甘味が紛れている。
俗に言う裏メニューというやつで、文字の並びがあるだけで値段は書いていない。
ちなみに、どちらも五百円という良心的な値段である。
そして、通りにあるどの甘味処よりも美味しいと食した蓮子は語る。
もちろん、それを広めることはしない。
マスターが元はそちら方面の職人だったのか、他の店に対抗するためなのかは誰も知らない。
蓮子とメリーはゆっくり会話を楽しみたいために奥の席に座っているため、他の客に何を食べているか見られることはない。
当然ながら、他の客でも知っている人は知っている。
もう二人は全メニューを網羅済みなので、表メニューの人気商品であるパニーニを食していた。
二人は二杯目の珈琲を注文し、これからの予定について話すことにした。

「これから何をする? 試験前だから図書館は混んでるし、炎天下で仏閣巡りも今更だし」
「私は好きよ? 仏閣巡り」
「外に出て寺三つ目で即身仏よ」
「もしくはぶらぶらと歩いて、新たな境界スポットでも探す?」
「幽霊の社交場に行き着かないことを祈ってるわ」

蓮子はそこまで言って、何の気なしに周りを見回した。
壁に掛けられた時計は正午を越え、長針は三を指している。
二人が入ったときは疎らだった客も、今はほとんどの席が埋まっている。
落ち着いた雰囲気はどこへやら、今は賑やかを通り越して騒がしい。

「まだ正午なのに、すごい人ねえ」
「え? とっくに過ぎてるわよ?」
「……また時計壊れたのかしら」
「いい加減、修理に出せばいいのに」
「……出ましょうか」
「そうね、歩きながら考えましょう」

もはや顔馴染みとなったマスターへ挨拶し、会計を済ませて蓮子とメリーは通りに出た。






マエリベリー・ハーン。
大学の同期であり、親友。
探求サークル秘封倶楽部のメンバーであり、もはや腐れ縁といっても過言ではない。
彼女にはある能力がある。
世界の裂け目、所謂境界を見る能力である。
言わば、誰にもわからない宝探し。
不思議の国に迷い込んだ兎のようなものかもしれない。
あれ、迷い込んだのは女の子だったかしら?
そして彼女曰く、その向こう側には信じられないような世界が広がっているらしい。
普通なら世迷い事と切って捨てるところだけど、今では希少も希少である天然の筍を持ってきた。
言動、性格、能力とどれをとっても浮世離れした雰囲気を持っている。
時々、違う世界の住人ではないかと思う時がある。

「試験終わったら暇よね、夏」
「私たち取ってる科目少ないから、別に苦労もしないけど」
「東京には行ったし、いっそ南下して沖縄でも行っちゃうか」
「……旅費はどうするの」
「奨学金がある」
「無計画」
「ほめ言葉ありがとう」

今、私たちはメリーの下宿にいる。
喫茶店を出た後、少し歩き回ってみたものの、暑すぎてやる気が完全に失せてしまった。
メリーはケロっとしたものだったけど、私が限界。
現代っ子はか弱いのです。
そんなわけで、冷房完備のメリーの部屋で超統一物理学のレポートを書いている。
やる気も起きなかったけど、やらなきゃ単位はもらえない。
マジメなメリーは「学生の本分は勉強!」と言いながら、私を引きずり起こして作業をはじめたのだった。
同名研究ということで、私も自分の担当を進めなくちゃいけない。
授業内容は一通り頭に入っているから、それに基づいて書き進めていく。
いつもながら思うのは、メリーの部屋は本当にアパートなのかということだ。
白が基調となった部屋は、八畳のリビングの他に風呂にトイレとキッチン。
家賃は知らないけど、バイトもしてない(たぶん)学生が生活していける程度なのだろう。
私の下宿と比べると、正直うらやましい。

「……これくらい書けば今日は十分じゃない?」

いつの間にか、レポートの枚数は十を超えている。
確か最低限の枚数は五枚。
無駄口をたたきながらも、あとは結論を書けば十分といったところ。

「そうね、結論部分はあとで考えましょうか」
「なんだかんだでもう五時過ぎちゃってるし、どこかご飯でもいく?」
「もうちょっと時間潰して、飲みでもいいんじゃない?」
「お、いいねぇ」
「……問題は何で暇を潰すかよ」
「じゃあ最近、何か境界見た?」

しばらく、メリーからそんな話題を聞いていない。
学生としての時間が終わったなら、秘封倶楽部の時間ではどうかと考えた。
私の能力は時間と場所がわかるだけ。
それも星が出ている夜限定。

「……」
「どうしたの?」
「……ううん、最近全く見てないから」
「ふぅん」

そんなこともあるのだろうと、私は疑問に思わなかった。
真新しい都市伝説の類も特になく、秘封倶楽部の活動はここで終了のお知らせ。
で、私たちは適当な雑談に興ずるを得なくなったわけだ。
どこの店でご飯と飲みをするかがメインテーマ。
結局、大学と私の下宿の中間くらいにあるいつもの居酒屋に決定した。
メリーの家からは多少距離があるから、着くとすればもう開いてる時間のはず。

「しゅっぱーつ」
「熱帯夜探検?」

夜になって湿気が増えてきて、余計に不快指数が上がったことは言うまでもない。






宇佐美蓮子。
非常に活動的な女性だと、私マエリベリー・ハーンは思う。
多分私と対極に近い性格なのだと思う。
博学多才でボーイッシュ、友人もそれなりに多いと聞く。
そして彼女はある能力を持っている。
夜空の星を見ただけで現在時刻が、月を見て自分の位置がわかるという能力。
言わば、世界との同期。
GPSや時計いらずの便利な能力かもしれないけど、夜に限定される。
日中にも星は存在するし、太陽ももちろん星に分類される。
でも蓮子は「目が痛くなるから嫌」と、昼は時計を身につけている。
時々突飛で、よくわからない子。


目の前がマーブル色。
向かいの席に座っているはずの蓮子は、旅の扉に飛び込んだかのような顔をしている。
あはは、へんなかお。

「ちょっとメリー、大丈夫?」
「んぁー、だいじょび」

呂律が回らない。
確か、金銭的な理由で飲み放題を選んでバカみたいに飲んでいたはずだ。
えーと日本酒とカクテルと焼酎と……なんだっけ。
わかんない。
他には合成の何かを食べた気がする。
いつか食べた「天然」の筍はおいしかったなぁ。
食べたいなぁ。
蕩けるような思考が頭に充満する。
気持ちいい反面、目の前が歪んでとても不快。
酩酊ってこんなものだったのかしら。

「お客様、そろそろお時間となりますが如何なさいますか?」
「あ、じゃあ会計でお願いします」
「えーかえるのぉー」
「貴女、もう飲める状態じゃないでしょうが」

蓮子が店員と壁に立って話をしているのを、じっと眺める。
自分が頬を押し付けているのは地面なのか。
蓮子はいつの間にか、竹林で見た赤い目の兎になってしまったらしい。

「ほらメリー、肩貸してあげるから」
「だいじょぶよぉ、自分で歩けるわぁ」
「どう見ても無理」
「うぅー」
「……電車に乗せて帰るのは不安だし、ひとまず家に連れて行くか」

蓮子も私と同様にアパートで生活している。
何度か訪れたことはあるけど、全くの純和風な部屋。
この趣味も私とは対極。
生まれが違う国だから当然なのかもしれないし、文化の違いを対極と言っていいものかわからないけど。
ともあれ、私は蓮子のアパートへと文字通り牽引されることとなった。
もっと運び方に愛があってもいいと思うの。



「ほら、お水」
「ありがとー……」

畳に寝転がっていた私は、蓮子から差し出された水を受け取った。
引きずり回された間に少しは酔いが覚めたのか、視界がはっきりしていた。
水が美味しいと思ったのは、久しぶりかもしれない。

「汗もかいてるだろうから、もうちょっとしたらシャワーでも浴びたら?」
「そうするー」

応えながら、私はケタケタと笑う。
まだ残っている酔いからか、感情がいささかハイになっているようだった。
そして、蓮子の家は郊外にあるため笑い声もよく響く。
蓮子の心配も、なぜか面白おかしく感じてしまう。
可笑しくなっていると冷静に自覚できる自分もいる。
ちょうど、酩酊と覚醒の間にいるのかもしれない。
自らの中に境界を見たり。
ただし、開かれることもない。

「大体ねえ、蓮子はアレなのよー」
「絡み酒?」
「天然の竹林にいきたいってねー、知らないから言えるのよー」
「え?」
「今だから笑い話になるけど、すっごく怖いのよー」

いつもよりも饒舌になっている。
そして良くないことに、内容が愚痴になりつつある。
止めないといけないということはわかっていても、舌は回る止まらない。

「あなたの能力は、世界に認められたようなものだもの」
「メリー、話が見えないんだけど」
「私の能力なんか、世界のあら捜しのようなものだもの。否定しにかかってるようなものじゃない」

言ってはダメと考えているのに、言葉が止まらない。
蓮子が呆気に取られている。
当たり前だ。
突然、意味がわからない心中を吐露されて、尚且つ自分をけなしているのだから。

「なんなのよもぉー……」
「それはこっちの台詞なんだけど」

自分でも何を言っているのか、もうわからない。
急に恥ずかしくなって、私は座布団をかぶった。
最後を有耶無耶にしたのは、無駄だとわかりつつも誤魔化そうとしたからだ。
もう終電の時間も過ぎて、帰る手段もない。
言い終わってから酔いが一気に冷めるなんて、なんて空気が読めないアルコールだろう。
もう、境界があれば向こう側に行ってしまいたくなる。


そのまま、どのくらい時間が経っただろうか。
アナログな掛け時計の秒針の音が、一つごとに私を苛んだ。
蓮子は何も言わず、多分部屋のどこかに腰を下ろしているのだ。
そして複雑な眼で私を見つめている。
座布団をかぶったままでも、容易に想像ができる。
どうしたらいいのかわからなくなって、泪が溜まってきた。
考えがグルグル回る。
落ち込んで、考えて、落ち込んで、悩んで。

座布団を引っぺがされた。

「?!」
「ほら、酔い覚ましに散歩でも行くよ」
「で、でも、だって」
「でももだってもない」

私は蓮子に半ば強引に立たされて、そのまま夜の街に連れ出された。






蓮子とメリー?
ああ、変わり者コンビね。
二人とも普通に喋る分には面白い子たちだけど、時々……なんていうか会話してないような感じになるのよ。
こっちの言葉が届いてないような?
突然話題と関係ない考えごとをしてるっていうか、変に集中しやすいっていうか。
秘封倶楽部とかいう非公認のサークルもやってるみたいだし。
当の二人は楽しそうだけど、私はいいかな。
天然の筍とか、冥界だとかなんだとか。
そんなもの、もうあるはずないのにね。


夜の街と言っても、閑静な住宅街の中はもう街灯くらいしか灯りが無い。
さらに、蓮子が目指す目的地はその住宅街を抜けた何も無い小高い丘だった。
蒸し暑い空気を、一つの風が取り払う。
昼間であれば、住宅街が見渡せるであろうその丘の天辺で蓮子は腰を下ろした。
メリーもそれに倣う。
互いに何も言わず、蓮子は空を見上げて、メリーは俯く。

「午前一時二十分くらい」
「え?」
「現在地、月が見えないために不明。京都の東方面のどこか」

メリーは蓮子と同じように空を見上げる。
空には満天の星は無く、代わりに闇に溶けた雲が空を覆っていた。
ところどころ、雲の切れ目に覗く星の光から蓮子は時刻を読んだのだろう。
それが正確ではない理由は、星の光が薄く、月が隠されているからか。

「私の能力が世界に認められたってメリーは言ったわ」
「……うん」
「でも、雲一つ……目隠し一つでこの力は使い物にならないわ」

今日はこの時間に月は見えないしね、と蓮子は言う。

「世界に認められたってことは、世界に振り回されるってことじゃない?」
「え?」
「だって、昼は使い物にならない能力なんてどうしろっていうのよ。夜は寝る時間よ?」

メリーが口を挟む間を与えずに、蓮子は言葉を紡ぎ続ける。

「羨ましいって言えば、私だってメリーの事が羨ましいわ。だって世界の添削ができるのよ?
 そしてこんな我侭な世界と違う新しい世界を見ることができる」
「だからあっち側は、貴女が思うような」
「そしてそれが怖いっていうなら!」

月灯りも星の光も無い、風の音だけが鳴る丘で――

「私を連れて行きなさい。何処でだって、私が貴女の場所を教えてあげるから!」

彼女は太陽のように笑った。







翌日、エコロジーなんちゃらのために弱めに設定されたクーラーが稼動している。
そんな大学の一室に二人は居た。

「今考えると、昨日の台詞は意味不明の上にすごく恥ずかしいモノよね」
「あの後、何故か吹き出して笑いながら帰ったものね」
「結局、二人とも酔っ払っていたのよね」
「でも記憶はあるという」
「……あー思い出したら、また恥ずかしくなってきた」

二人はとっくにレポートを仕上げて、夏に何処に旅行に行くか相談をしている。
机の上には今朝調達した、旅行パックのパンフレットが広がっている。
ちなみに、授業の無い空き教室であるため許可は取っていない。

「……まぁ、問題は先立つ物だけど」
「バイトでもする?」
「今更募集なんかあるのかしら」
「……無いわよね」
「また私の実家に行く?」
「それでもいいけど」

最早、サークル活動の体裁すら消滅している。
どうせなら北に行くか、それとも常夏の南国へ行くか。

「ま、そんなことは後で考えましょう」
「……で、何するのよ。地味に二日酔いだから、飲みはいやよ」
「昨日の丘に行って、星を見るのよ」
「星を? なんでまた」
「昨日、何の日かわかる?」

蓮子はカレンダーを確認する。
今日は七月八日。

「一年に一度の逢引の日ね」
「……夢が無いわ」

七夕だった。
昨日の天候次第では、見事な天の川が拝めただろう。
今日の天候は、見事な炎天下。
夜も満点の星空が頭上を覆うことだろう。

「で、ピクニックでもする?」
「こんな日だったら、もしかしたら向こう側にも行けるかもしれないわよ?」
「怖いんじゃなかったの?」
「あら、蓮子も一緒に行ってくれるんでしょ?」
「本当に開くの?」
「運次第ね」

二人は悪どい笑みを浮かべる。
子供のような顔で見つめあい、自分たちが何の活動をしていたのかを思い出す。

「じゃあ、久しぶりにアレかしら?」
「そうね」


「「秘封倶楽部の時間を始めましょう」」


現在時刻は午後二時二十七分。
この時刻は、蓮子により修正されたメリーの時計によるものである。


酒に酔った感覚が苦手です。

思いついたことをただ書くとこうなるという例。
途中から何書いているかわからなくなりました。
小宵
http://koyoi1986.blog113.fc2.com/
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コメント



0.1020簡易評価
3.80名乗ることができない程度の能力削除
よい東方Projectのかほりがする。
7.80名前が無い程度の能力削除
>>「私を連れて行きなさい。何処でだって、私が貴女の場所を教えてあげるから!」

こういうの大好きです。
あー、自分も蓮メリ書きてぇ
8.80名前が無い程度の能力削除
蓮子とメリー、君らはもう結婚してしまいなさいw
9.80名前が無い程度の能力削除
連子の能力についてのお互いの解釈・思いが新鮮で面白かった
もちろんメリーの能力についてもですが
10.90名前が無い程度の能力削除
<「世界に認められたってことは、世界に振り回されるってことじゃない?」

なるほど、と思わされました。
おもしろかったです。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
レポート最低5枚ってうらやましいなぁ。
15.80名前が無い程度の能力削除
>言わば、世界との同期。
いままで蓮子の能力はメリーに比べればたいしたことは無いと思ってましたが、いやはやどうしてどうして
28.100名前が無い程度の能力削除
思いついた~とおっしゃるものの、読んでいる側からするととても綺麗にまとまったんじゃないかと。
最後の台詞とシメ方が実に素敵です。あぁ、心に残るわ…
31.90名無しな程度の能力削除
「私を連れて行きなさい。何処でだって、私が貴女の場所を教えてあげるから!」

この台詞がとても好き