Coolier - 新生・東方創想話

紅魔永夜運命譚.4 永夜の救い

2008/06/27 23:11:16
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様々な二次創作ネタの影響を受けて創作されています
原作のイメージを壊したくない人はご注意ください

この小説は続き物となっております
できれば第1章からご覧ください





4章 永夜の救い

「あの門番たちって、こんなに強かったっけ・・・?」
 霊夢はモニタの向こうで繰り広げられる戦いに目を見開く。状況は圧倒的。門番たちが次々と敵兵を駆逐していく様が映し出されていた。霊夢の記憶では、紅魔館を守る門番たちはここまでの強さではなかったはずだが・・・
「彼女たちは、もうこれ以上後ろに下がることが出来ない。普段ならあの屋敷の中にはメイド長や紅い悪魔が控えているが、今はそれすら存在しない。彼女たちは、必死になって戦っているのさ。それこそ、必ず死ぬような覚悟でな」
 慧音の発言に、霊夢は思わず紅魔館を見る。いつもと変わらぬその佇まいは、しかしどこか難攻不落の牙城のように見えた
 追い詰められれば、人間は予想以上の力を発揮する。ならば、それは妖怪にも同じことが言えるだろう。守りたいと思えば思うほどに、彼女たちは力を発揮する
「まるで背水の陣だな。自らを追い詰めることで、その力を最大限まで引き上げるとは」
「でも、それにしたって・・・」
 あまりにも、強い。流石に私も、今の門番たちに囲まれたら危ういかもしれない。そう思わせるほどに、彼女たちは圧倒的な強さを見せていた
「当然、それだけでこれほど圧倒的な状況にはならないさ。いやはや、流石は動かない大図書館と言ったところか。まさか、重力を制御する魔法を扱うとは」
 そう、それは永遠亭の兎兵たちが紅魔館に近づいた時だった。それまで飛行しながら前進していた兎兵たちが、突如として墜落したのである。その結果、永遠亭軍は地上で戦わざるを余儀なくされていた
「地上戦では、あの門番長の部隊に勝る妖怪たちもそうそういないだろうさ」
 そう言われて、霊夢は気付いた。弾幕を展開しようとする永遠亭の兎兵たちに対し、紅魔館の門番たちは肉弾戦で襲いかかっている。これが空中であれば、とてもではないが肉弾戦などが通じるはずもあるまい
「地上戦、ね。なるほど、それは盲点だわ」
 紫が面白そうに口元を歪ませる。またぞろ良くない思いつきでも起こしてなければいいけど、霊夢は不安に思った
「それにしても、重力を操るなんてことが出来るのね~」
「恐らく、戦いの前から準備していたんだろう。そして紅魔館の周囲だけ、飛行不可能な領域を作り出す。用意周到だったのは永遠亭側だけではないということか」
 思えば、地上戦など久しく行っていないことに気づく。いままで勝利をおさめていた相手と地上で戦うと、いったいそれはどんな結末になっただろうか
 魔理沙やアリスが相手ではさほど変わらないだろう。それ以外の者とは、正直予測もつかない。そう言う意味では、あの門番長の相手など絶対にしたくなかった。なるほど、地上戦と空中戦では実力差が異なるらしい。どこぞの庭師の相手をしたときなんか、年貢の納め時かしらね、と霊夢はため息をつく
 そして、その存在を思い出した(つまり、それまではすっかり忘れていたわけだが)
「幽々子、あんたいつもの庭師はどうしたのよ? 付き人もなくこっちに来るなんて、珍しいじゃない」
「私だってしょっちゅう妖夢と一緒にいるわけじゃないわよ? たまにはひとりで出歩くわよ~」
 それに妖夢は今出かけてるのよ、と幽々子はつまらなそうな顔をした。あんたは歩かないで浮いとるがな、と心の中で突っ込んでおく
 そう言われてみれば、慧音に魔理沙の所在に聞かれた時は何でと思ったか。いつも居るから、今もいなければならない道理などあるまい。しかし、それにしたって
「出かけてるって・・・。今は完璧に真夜中じゃない。いったいこんな時間に何してるのよ?」
「知らないわよ~。行き先も言わずに、恩義がどうのこうのと言って出かけてしまったんですもの」
「恩義ねぇ・・・いったいどの時代の子よ」
 古臭い言葉を聞いて、だんだんと興味が薄れていった。そもそも、ここに居ない者のことなど、考えてもわかるわけがないのだ
 モニタの向こうでは、相変わらず一方的な戦闘が続いていた。このままじゃ、兎さんは全滅しちゃいそうね。霊夢はぼんやりとそんな事を思う
 と、そこで再び気づいた
 またしても、あの腹黒兎の姿がなくなっていることに


「存外に粘るわね、宇宙人のくせに」
「生憎、しつこいのには慣れてるのよ。あの子のせいでね」
 紅魔館から離れることいくばくか。二人の異形は、互いをけん制しつつ軽口を飛ばし合う。しかし、永琳はその軽い口調とは裏腹に焦っていた
 こいつ、本物の月の下だとこんなにも強いのか・・・
 こちらの放つ矢は、まるで当たりそうな気配がしない。対して向こうが放つ紅い弾丸は、常にこちらのすれすれを通っていく
「まさかこのまま夜が明けるまで粘ろうってんじゃないだろうな?」
「嫌ならさっさとお屋敷に戻ったら? きっと魔法使いさんも心配しているでしょうよ」
 軽口を飛ばし合いながらも、お互いに攻撃の手を緩めたりはしない。さて、この状況をどうやって打破しようかしらね。永琳がそう思考を巡らせようとした時だった
「毒符・ポイズンブレス」
 悪魔の周囲に、目にはっきりと見えるほどの毒がまき散らされた
「まさか・・・メディスン!?」
「うわー・・・全然効いてないや」
 泣きそうな顔をしながら、メディスン・メランコリーが永琳の側へと近づいてくる
「メディ、貴女なんでここに?」
 決まっている。この子は、私の役に立とうとしたのだ。そうでなければ、こんな場所に来たりなどするものか。まだ生まれて間もない妖怪にとって、この場所は恐怖そのものでしかないはずだ
「餓鬼が・・・貴様、死にたいのか?」
 不意打ちを受けて、悪魔がその瞳をメディスンへと向ける。メディスンはそれに己の身を震わせながら、それでもしっかりとした口調で答えた
「死にたくはない・・・」
「だったら、失せろ。今宵は既に貴様のような存在の出る幕じゃない」
 レミリアはその手先をメディスンへと向け、弾丸を放とうとする。しかし、それよりも早くメディスンが続けた
「死にたくはない。でも、大切な人の役には立ちたい」
 メディスンは恐怖に負けることなく、精一杯の声を上げる
「私は捨てられた存在・・・。捨てられた身に、毒を受けて生まれた存在。望まれなかった、存在」
 いつの間にか、彼女の体から震えが消えていた。レミリアはその事実に驚き、目を細める
「だけど今、私を必要としてくれる人がいる。望まれなかった私を、必要としてくれる人が」
 メディスンは永琳の方を向き、笑顔を見せてこういった
「私は、その人の為に戦いたい」
「メディ、貴女・・・」
 レミリアは複雑な表情で、複雑な心境でメディスンの様子を見ていた
 全く、誰かさんと重なるようなことばかり言ってくれるじゃない
 しかし、そこは紅い悪魔と恐れられるレミリアである。余計な感傷はすぐに捨て去る
 悪いけれど、敵の味方は敵なのよ
「危うく涙を頂戴しそうなところ悪いけれど、私にも負けられない理由があるもんでね。ここで引き下がってちゃ、頼りないメイド達や、引き籠ってばっかの本の虫に顔向けが出来ん」
 レミリアは冷たい笑みを浮かべると、その手を握りしめる
「来いよ、月の侵略者が。そろそろ終わらせてやろうじゃないか」
「そうね、私もいつまでもこうしていては兎兵たちに申し訳ないわ。メディスン、貴女は下がっていなさい」
 メディスンを置いて、二人は再び戦わんと対峙する
「永琳様・・・」
 メディスンは、自らが無力である事実を嘆いた。悲しいかな、毒にも薬にもなるその能力は、的にも味方にも通じないのだ。今のメディスンに出来ることは、ただ一つ
「私、前線へ向かいます。少しでも多くの味方を守るために。少しでも多くの敵を倒すために」
 はっきりとした口調でそう告げると、返事も待たずにできる限りの速さで紅魔館へと飛び去っていく。その様子に、レミリアは思わず笑い出す
 なかなかどうして、立派に妖怪をしているじゃないか?
「まさか、またそう簡単に通すとでも、なんて言い出すのかしら?」
「ほざけ。私の部下はあんな小娘にやられるほどにやわじゃないさ」
 二人は冷たい夜空の下で、視線を交錯させる。そこに飛び散る火花が弾幕と変わるのには、さほど時間を費やさなかった


 メディスンが目指そうとしているその場所は、正しく死地であった。それは両軍にとってであったが、特に永遠亭にとっては、地獄のような展開だった。普段の敵とは違い、肉弾戦で挑みかかってくる敵。封じられてしまった、上下の移動。横へと展開するしかない、薄い弾幕。加えて、鬼気迫る敵の猛攻である
 その中で気をはくのは、赤を基調とした装備の兎兵たちである
「駄目だ怯むな! 怯んだら負ける! 絶対に弾幕を絶やすんじゃない!」
「目標は目の前にあるぞ! 敵も必至だ! 弾幕を展開しろ!」

 当然、門番たちも無傷とはいかない
 圧倒的多数の敵から、容赦なく浴びせられる弾幕。その弾幕を受けながら、それでも敵軍の進軍を阻み、すさまじい戦果をあげていた。もしもパチュリーの防御魔法が無ければ、より多くの被害があっただろう。永遠亭側を地獄とするなら、こちらは煉獄と言ったところだろうか
 しかし、やはりこちらにも一人気をはく存在があった
「倒れるな! 膝を折るんじゃない! 私たちが守るべきものはすぐ後ろだ!」
 それは、紅美鈴その人である
 彼女には、普通の兵よりもさらに鬼のような弾幕が浴びせられていた。彼女はそれをかわすことなく浴び続ける。流れ出る血が、服を紅く染めつつあった。それほどの傷を受けてなお、彼女は叫びつづける
「紅魔館の門はやぶらせないぞ!!」

 正に、死地であった
 しかし、確実に永遠亭軍は摩耗していく
 どちらに勢いがあるかは、歴然だった
 そこに、拍車がかけられる

「パチュリー様がメイド兵を率いて出陣なさいました!」
 門番たちにたちに伝えられたのは、そんな信じられない一報だった。それは奮戦を続けていた美鈴の動きさえも止める
「パチュリー様が?」
 なぜ今彼女が前へ出てきたのか? 美鈴は門まで後退し、その真意を確かめに行く。そこには確かに、メイド兵に指示を出すパチュリー・ノーレッジの姿があった
「なぜパチュリー様がここに?!」
 彼女が門の外へ出るなんて。彼女が、自ら行動を起こすだなんて。あの、密室に閉じこもった少女(ラクト・ガール)が
 パチュリーは、美鈴が近づいてくるのに気づくと、その到着を待って告げた
「今まで散々あの薬師の策に翻弄されてきたわ。恐らく、レミィが紅魔館に居ないのも、彼女の思惑通りなのでしょうね。けど、今は私たちが敵軍を策に弄している。勝機は今しかないわ」
「しかし、パチュリー様自らが外に出てまで・・・」
 それこそ、敵の策にまんまと嵌っているのではないかと、美鈴は疑ってしまう。しかし、美鈴は疑問を口に出しきる前に気づいた
 目の前に居る彼女の瞳が、滅多に見る事の出来ない闘志を宿していることに
「レミィがね・・・帰ってこないのよ」
「・・・・・・・・・」
 静かに、しかしはっきりと告げる魔女に、美鈴は言葉を失う。こんな彼女を見るのは、初めてだった
「彼女に私は言ったわ。『敵軍を蹴散らしてらっしゃい』と」
 ゆっくりと、パチュリー・ノーレッジは語る。自らに告げるかのように。自らの意思を解き放つかのように
「私は彼女に言ったわ『館は私と美鈴に任せて』と」
 自ら意識を高めながら、彼女は魔力を解放する
「だから死んでもこの館を守って、敵を蹴散らせなかったレミィを、笑ってやるのよ」
 そこにあるのは、親友を気遣う心と、敵軍への怒り。しかし、魔女は実に楽しそうに笑ってみせる。その様子に、門番も笑わずにはいられなかった
「そうですね、たまには私たちが格好良く決めるのもありですね」
「わかったら、行きなさい。貴女の使命はまだ終わってないわ」
 パチュリーは美鈴に己の両手をかざすと、呪文を唱える。流れ出た血はそのままだが、それにより傷は塞がっていた
「分かりました。何としても敵軍を殲滅し、紅魔館の門を守り抜きます」
「後ろは任せなさい。と、言っても貴女が敗れれば、私たちが敗れるのは変わらない。それだけは忘れないことね」
 魔女と門番は背中を向け合うと、自らの仕事を果たしにかかる。門番は前に出て敵を撃ち砕くために。魔女は前に出た味方を援護するために
「往きます!」
「往きなさい」
 ここに紅魔館は、難攻不落の牙城となったのだ


 紅魔の門番の戦いを奮戦と言うのならば、永遠亭の兎兵たちもまた、奮戦であった。紅魔の魔女が操るのが魔法ならば、この状況で彼女たちが戦闘を続けられることもまた、魔法であった。なぜこれほどまでに絶望的な状況で、彼女たちは戦いをやめないのか?
 そこには、2つの思いがあった
「魔女が出てきたなら、紅魔館はいよいよがら空きか・・・!」
「奴らにはもう切るべき札がない! 数で押すんだ!」
 1つは、紅魔館が最後の主力を投入したこと
「今倒れれば鈴仙様に笑われるぞ! 救われた命の限りを尽くすんだ!」
「こんなところで倒れて、鈴仙様に恥ずかしいとは思わないのか! 最後まで全員生き残るんだ!」
 そして1つは、中途で倒れた鈴仙と、生き残った月の兎隊の存在であった
 この2つの事実が彼女たちを支え、彼女たちを助け、彼女たちを奮わせた
 見よ、この状況下において、逃げだす者は一人もいない
 まるで彼女たちそのものが、難攻不落の牙城であるかの如く。攻勢を続ける紅魔軍を必死で抑えていた

 そこに突如、一陣の風が吹いた
 否、それは風などでは決してない。しかし、戦場に居た誰もが、それを風だと感じただろう
 そう感じたのも無理はない。彼女は縮地の術を身につけていたのだから
 だから、実際は地を走って現れた彼女を、目の前に突然現れたと勘違いしても、仕方がなかった
 そう、突然である。突然、彼女は現れたのだ
 まるで、至極当然のように。ここに居るべくして居るかのように
 銀色の頭髪は、漆黒の闇でもなお輝き、落ち着きのある緑の服がその輝きを引き立てる。頭と首元には黒いリボンを結び、それが酷く幼さを印象付ける。しかしこの戦場において、恐らくその幼さを笑える者はいない
 当然であろう。この戦場では、彼女は恐るべき存在だ。地上で戦えば、それは年貢の納め時だろう。博霊の巫女ですらそう思ったのだ。背負う二刀に、誰もが恐怖を隠せまい
「な・・・!」
 両軍は突如として戦場の真ん中に現れた影に、しばし呆然とした
 そして、再びその戦いを再開するよりも早く、彼女は名乗りを上げる
「両軍とも良く聞け! 我が名は魂魄妖夢! 西行寺家専属二代目庭師にして、二代目剣術指南役なり!
 故あって只今より、私は永遠亭軍の援護に付く! 誇り高き紅魔の門番たちよ、死にたくなければ直ちに退け!
 もし、退かぬというのであれば・・・」
 少女は背負う長刀を鞘から抜くと、紅魔軍へとその切っ先を向けた
 漂う半霊もそれに合わせるように、鬼気を放つ
「この楼観剣の錆にしてくれよう!」
 突如として現れ、突如として名乗りをあげて、突如として宣戦を布告する
 それが白玉楼の庭師――魂魄妖夢の登場であった
 最悪の敵。門番たちはそう判断したのだろう。妖夢から一定の距離を置いて、近づこうとはしない。しかし、彼女たちには守るべきものがある。たとえ刀の錆にされようとも、そこから退くような真似だけはしなかった
「あなたは・・・しかし、どうしてここに?」
 兎兵たちが妖夢に近づくと、その真意を訪ねる。彼女が味方として現れるなどと、兎兵たちは一切聞いていなかったためだ。妖夢は紅魔軍を睨みつけたまま、兎兵たちの疑問に答えた
「私は八意永琳殿に借りがあるのです。今日はその借りを返しに参りました」
 妖夢はちらり、と永遠亭軍の状況を見渡す。とてもではないが、まともな戦闘などできなかっただろうに、彼女たちは諦めずに戦い抜いた。ならば、それに応えずに何が剣士だろうか
「よくぞいままで戦い抜きましたね。もう大丈夫です、ここから先は私にお任せください」
 自信に満ちたその言葉に、兎兵たちは活路を見出した。妖夢が援軍として現れた事実は、すぐに離れた味方たちにも伝わっていく。状況の変わりゆく戦場の中、妖夢は自らの宣言を実行にうつす
「退かぬか、紅魔の門番たちよ。ならば覚悟せよ! ・・・妖怪が鍛えたこの楼観剣に、切れないものなど、さほど無い!」
 その言葉に門番たちは怯むようにほんの少し下がったが、それでも退くことだけはしなかった。妖夢は一瞬だけ瞳を閉じると、カッとその瞳を見開いて、構えた
「人符!現世斬!」
 戦場の勢いは、未だ圧倒的だった

「てっ! 敵陣からっ魂魄妖夢が出陣!」
 信じられない報告が飛び込んできたと同時に、美鈴はその姿を確認する。見えたのではない、飛び込んできたのだ。大量の味方を切り裂きながら、自軍の中央まで
「魂魄・・・妖夢!」
 考えうる、最悪の敵だった。まさか永遠亭がこんな隠し玉を用意しているとは、露にも思わなかった
「全員妖夢から離れなさい! 私が相手をする!」
 周囲の門番たちを妖夢から遠ざけさせると、自分はその正面へと立つ。妖夢を封じ込めていれば、その間に部下たちが兎兵を壊滅させるはず・・・。もしくは、パチュリー様が何らかの対策を練るまでで良い。とにかく、今は私が相手をしておかなければ
「止まりなさい、白玉楼の庭師よ。私は紅魔館の門番長、紅美鈴だ。今すぐにその刀を納めなければ、私があなたの相手をする」
 妖夢は美鈴の姿を確認すると、一旦その刀を鞘に戻した。そして、その姿に目を疑う。満身創痍などと言う段階はすでに超越している。まさか、これほどの傷を受けてまだ戦っているとは・・・
 おそらく、彼女は一筋縄ではいかない。妖夢は再び名乗ることで、彼女に応えた
「ご存じの通り私は白玉楼の庭師、魂魄妖夢です。誇り高き紅魔館の門番長よ、貴女はもう十分に戦った。降参なされよ」
 これ以上は戦えまい。妖夢は半ば本気で美鈴に降参を進言する。その身でこれ以上の戦いを行うべきではないと
 美鈴は一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべると小さく呟く
「ほんと、いつの間に私が紅魔館を守る羽目になったんでしょうね・・・。いつもなら咲夜さんにお嬢様もいるんだけどなぁ・・・」
 少し、ほんの少しだけ美鈴は息を吸い込んだ。そして気を練るように力を込めながら、裂帛の意思と共に言葉を吐き出す
「だけど、今は私が紅魔館を背負っている。みんなが倒れながら、守りぬくと誓った紅魔館を。みんなの意思を、背負っている」
 拳を握り、前へと突き出す。一瞬空を見上げると、大気を震わすような声で、目の前に立つ剣士へと言った
「だから私は退くわけにも、倒れるわけにもいかない! 貴女が紅魔館の門を脅かす存在であるならば、私は貴女をも倒しきる!」
 それはまさしく、勇士であった。そしてその雄姿に、門番たちが鬨の声を上げる。妖夢はもはや彼女は言葉では止まらぬことを知り、再び刀を抜いた
「ならば私は、その意思さえも切り裂いて見せよう。恨みはないが、貴女を相手に手加減をするつもりはない。全身全霊で参る」
「手加減は無用、来るならば来い! 世の中には、決して切り裂けぬものがあることを知れ!」
 それ以上の言葉は必要なかった。二人はゆっくりと間合いを詰めていく
 片や、絶対の意思をその拳に込め
 片や、絶対の意気をその剣に込め
 ぴりぴりと音が聞こえるのは、決して幻聴ではあるまい。それほどまでに、二人の強者は緊張感を高め合っていた
 妖夢の傍らに控える半霊が、ぶるぶるとその身を震わせる。二人から放たれる殺気を、敏感に感じ取っているのかもしれない
 先に動いたのは、どちらだったであろうか。もしかしたら、同時に動いたのかもしれない。それでも、その宣言を開始したのは妖夢の方が早かった
「断命剣!瞑想斬!」
 遅れること、数拍。うねる様な妖気とともに振り上げられた刀に恐れることなく、美鈴もスペルを解放する
「三華!崩山彩極砲!」
 視線は一直線にぶつかり合う。そこから先に、言葉は必要なかった
 周囲の兵たちが弾幕を展開する中で、二人は互いをぶつけ合った
 地上最強。そう呼ぶに相応しい二人が、その雌雄を決さんとしていた


「友軍はまさしく孤軍奮闘。このままじゃぁ崩壊は免れないな」
「だからわざわざアンタを呼んだんじゃない! 間に合わなかったら報酬は渡さないからね」
 紅魔館の上空。重力魔法の圏外から、二つの視線が戦況を見つめていた。一つは因幡てゐから発せられる視線。一度戦場を離れた彼女は、自らの役目を果たし、この戦場へと戻ってきたのであった
「わかってるよ。依頼として頼まれたんなら、私情は抜きだぜ!」
 言うが早いか、もう一つの視線の主は、戦場を目指し飛び去って行った。箒にまたがり、まるで流星の如く、一陣の光となって空を駆け抜ける
「ったく、私に内緒で楽しそうな真似をしやがって・・・! 最初からアクセル全開で行くぜ!」
 少女は笑む。これから始まる戦いが、楽しみで仕方ないといったように。箒に魔力を込めると、少女はさらに加速を開始した
「彗星!ブレイジングスター!」
 加速していく中で、敵軍の驚くような視線を幾つも捉える。そうさ、こんな度派手なイベントに、私を忘れてもらっちゃ困るぜ。呼吸することすらままならない超加速の中、彼女はにやりと口元をゆがませる
 流星を超え、彗星の如く、敵軍の中央を目指して突き刺さる
 それが彼女――霧雨魔理沙の登場だった


「霧雨魔理沙出現! 敵軍の援護を開始しました!」
 門のすぐ近くに立ち、味方に治癒魔法を施していたパチュリーは、その報告に眉根を寄せた。星の魔法使いが、何故この戦場に?
「地上戦なのが救いか・・・」
 これが空中線であったなら、流石の彼女も絶望していたに違いない。しかし、今は地上戦である。まして魔理沙の魔法は、空中戦でこそ真価を発揮する
「地上での小蠅など、恐るるに足りないわ。なるべく多くの兵で魔理沙を取り囲みなさい」
 言うが早いか、報告に来た兵に正確な位置を訪ねる
「私も行くわ。これ以上彼女らの好きにさせるわけにはいかない」
 地上戦であれば、あれしきの魔法使いに私が手こずる筈もない。魔理沙を退けたら、いったん美鈴を下がらせましょう。彼女を破るような者などいるはずもないが、傷を癒さなくてはさすがに危ない。美鈴の治癒を完了したら、メイド兵も投入して、一気に敵軍を壊滅させる
「あなたとあなた、私の援護に付きなさい。こそ泥の分際で、紅魔館に楯ついたことを後悔させてあげましょう」
 パチュリーは近くに居た適当な兵に援護を命じると、出陣を開始する
 成る程、流石は動かない大図書館。流石は知識と日陰の少女である。その戦略には、一切の穴がない。しかし、ただ一つだけ、彼女には誤算があった。それは、霧雨魔理沙が出現したのとほぼ時を同じくして、魂魄妖夢が出陣したことである
 もしも、ほんの少しだけ妖夢の出陣が早かったなら。或いは、ほんの少しだけ魔理沙の出現が遅かったなら。しかしそれはもしもの話でしかない。こうして彼女は、その存在を知らないままに出陣を開始したのである

 ここに、舞台は整い、役者は揃った
 月の頭脳を、紅い悪魔が抑え
 冥界の剣士を、紅魔の門番が迎え
 普通の魔法使いを、生粋の魔法使いが撃つ
 後々に語り継がれる紅魔館と永遠亭の争いが。そして紅魔の門を巡る死闘が。今まさに、終局に向かっていくのであった


「ここで妖夢と魔理沙が用意されてるとは・・・」
 思いもしなかった展開に、慧音が唸る。それは霊夢も同じだった
「魔理沙には依頼、妖夢には恩義。全く、嫌んなるくらい良いところついてるわ」
 魔理沙は霧雨魔法店と言う、いわゆる何でも屋を開いている。あの気まぐれな様でいて、規律を重んじる性格、依頼という形は最も彼女を活かしやすいだろう
 妖夢に至っては言わずもがなである。彼女は半ば現代に生きる剣士であり、その生き方は一本の刀そのもの。私欲の為よりも、恩義の為にこそ尽くす少女である
「でも、永琳への恩義ってなんのことよ?」
「ひょっとして、あの件かしら? 永夜の異変の時、妖夢は彼女に両目を治療してもらったのよ」
 なるほど、借りがあるとはそのことか。しかし、それだけのことで危険な戦場に駆けつけるとは・・・。やはり彼女は生粋の剣士なのだろうか
「でも妖夢ってば、私にこんな面白い事を隠しているだなんて・・・」
 よよよ、と口で言いながら幽々子は泣き崩れる。白々しい演技だな。霊夢と慧音の思いは同じだった
「ようやく、役者がそろったわね」
 笑みを浮かべながら、紫は手にしていた盃に酒を注ぐ
「何よ、あんた。まさかこの状況が最初っから読めてたっていうの?」
「冷静に戦況を判断していけば、わかりきったことよ。それとも、博霊の巫女さんにはこの展開が予測できなかったのかしら?」
「博霊の巫女は預言者でも何でもないわよ。全く、あんたひょっとして結末も見えてるんじゃないの?」
 呆れたようにため息をつく霊夢に、楽しそうな様子で紫が答える
「まさか、結末がわかってるのに楽しめるもんですか。むしろここから先が楽しみなのよ。一体どれほど私の予想を超えたことが起こるのかしら」
 相変わらず悪趣味な奴。霊夢はいつも通りの紫にまたため息をつく
「それに、これくらいだったら月人や、そこに居る慧音先生にも予想できてたはずよ」
 紫の発言に、霊夢は慧音を見る。確かに、どのような展開になるかと言った事なら、この知識ある半獣は言い当ててきたが。当の本人は困ったように肩を広げた
「まさか、私は戦況から展開を読んだだけだ。流石に霧雨の娘や冥界の庭師が出てくることなんか、わかりもしなかったさ。もっとも、それこそ永琳の奴になら、今の展開なんてわかりきっているだろうけどな」
 妖夢や魔理沙は、永琳が用意した駒である。それゆえに、彼女には今の展開がわかっているはずであろう。つまり、ここまでは彼女の思い通りと言ってもいいと言うことか
「でも重力を操るなんて、流石に驚いたわ~」
 幽々子が楽しそうに笑う。そう言われてみれば、永遠亭の兎兵が墜落した時、紫も感心した様子で見ていた気がする
「って、幽々子。あんたにも今の状況が読めてたってわけ?」
「あら、配役から状況が読めないだなんて。私はそこまでお馬鹿さんじゃないわよ?」
 つまりここには常識的な人間は私しかいないらしい。霊夢はため息をついた後で、最初から人間は自分だけだったと、またため息をついた
「そうだな・・・。永琳の奴も、自軍が手こずっていることぐらいはわかるかもしれないが、流石に地上戦を強いられていることまではわからないだろう」
 或いは、魔法使いが月の頭脳を上回ったということか。慧音は永琳の様子をじっと見つめる
「そうね、地上戦であることを知っていたら、魔理沙に依頼なんかしなかったでしょうね」
 魔理沙が空中戦を得意としていることは、誰でもが知っている事実である。それゆえに、永琳が地上戦を強いられると予測できなかったことはわかった
 しかし、霊夢はハッとする
「・・・でも、妖夢が用意されていた。地上戦であることを知らなかったのに、どうして?」
「ああ、気づいたか。それこそ奴が天才である証だよ。魔理沙と妖夢、全く異なる二つの戦力を用意することで、どの様な状況でもどちらかが戦えるようにしておくのさ。丁と半にかけるならば、丁と半に半分ずつ。それが彼女の戦い方なんだろう」
 用意周到も、ここまで来れば完璧だな。慧音は腕を組んで頷いた
「だからこそ、私にはこの配役が予測できたってわけ。わかったかしら、博霊の巫女さん?」
 紫が細い眼で霊夢を見る。全ては理にかなった事なのだと、その眼は語っていた
「あんたたち、もう少しは馬鹿になってもいいと思うわよ・・・。チルノを見習いなさいよ、チルノを」
 げんなりとする霊夢の様子に、紫は楽しそうな笑顔(不気味な笑顔とも言う)を浮かべたが、モニタを一目するなり、眼の色を変えた
 それは恐らく、今宵に初めて見る驚愕の色をしていた
「そうね、私がチルノだったなら、こんな状況もあまり驚かなかったでしょうね」
 紫の発言に、霊夢は理解できないと言った顔をする。果たしてモニタに何が映っているというのか、霊夢は目を凝らすが、特に変わった様子は見えない
「・・・何よ、どうしたって言うの?」
「もっと良く全体を見なさい。戦いとは、争いが起こってる場所だけを指すわけじゃないわ」
 そう言って、紫はどこからか取り出した扇子をモニタへと伸ばす。扇子が指し示したのは、墜ちた兵が寝かされている湖の岸だった
 そして、そこに小さく映されている影こそが、紫を驚かせたのだった
「・・・役者がそろったって言ったけど、彼女も含まれていたのかしら?」
 霊夢はそれを確認すると、紫に向かって言葉を投げる。やがて慧音と幽々子も気づいたのか、それぞれに難しい顔を浮かべた
「まさか。私はリキャストなんかした覚えはないわ」
 実に楽しそうに、紫は霊夢に答える。思惑を外されたのが、楽しくて仕方なさそうだった
 彼女たちが視線を送る、湖の岸。そこで今まさに立ち上がり、空に舞いあがろうとする姿があった
 リキャスト。その表現は言い得て絶妙だろう。配役はいつの間にか、書き換えられていたのだから
 紫の思惑を外れ、配役を変えてみせたのは、鈴仙・優曇華院・イナバの姿だった――

To be continued?
永夜の救い
 タイトルが神がかりな発想
 救いは当然妖夢と魔理沙のことです 居なかったら、危なかった
 ちょっと永遠亭軍を彩りすぎた感があり、そこは反省点です

メディスンの再登場
 あやややや・・・ まさか貴女が再登場するとは
 全く持って予定にありませんでした 勝手にキャラが動いた
 しかし、この後彼女は様々な活躍をするのでした
 ちょっと格好良いセリフを言わせてみたりした 自己満足

難攻不落の牙城
 想いがあれば、いくらだって戦えるんだ
 パチュリーはレミリアを心配するあまり前に出てきてしまいました
 パチュリーが前に出てきたことを、もっと上手にかきたかったけどなぁ
 こっからが長引きすぎてしまい、そこが反省点

妖夢登場
 地上戦ならだれが強い? 当然、彼女が思いつかなきゃダメでしょう
 と言うか、美鈴を倒せるような存在が思いつかなかったんです
 あんまり圧倒的なキャラを出しちゃ駄目だし、美鈴を引き立てるキャラでなければならない
 そして永遠亭を援護する理由もあるキャラは、妖夢しかいませんでした
 妖夢と美鈴が格好良すぎる 普段はお互いに護るものだしね

魔理沙登場
 飛べない魔法使い 無様と言われてしまいました
 実際、魔理沙をあんまり暴れさせてはいけないと思ってました
 好き勝手にマスタースパークなんか打たれちゃぁ、ねぇ・・・?
 だからって、彼女が目立たないわけがないし
 要は、次章以降での活躍が約束されたキャラ

たった一つの誤算
 良い感じで妖夢のことに気づかないままパチュリーを動かせました
 正直、それだけで魔理沙を登場させる甲斐があった
 この次の『役者は揃った』ってくだりはお気に入り

鈴仙の復活
 当初から予定にありました 思惑を外すと言う、思惑通り
 しかし、まさか鈴仙を永遠亭軍に復帰させるわけにはいかない
 そうなれば、永遠亭軍の優勢が加速してしまいますからね
 と言うわけで、彼女の出番はしばらく先になるのだった
DawN
http://plaza.rakuten.co.jp/DawnofeasterN/
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コメント



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1.無評価名前ガの兎削除
とりあえず誤字。
的にも味方にも通じないのだ は 敵にも じゃないか?